PandoraPartyProject

シナリオ詳細

思うに彼は空を嫌う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大空へ吼える
 大地が揺れた。
 震源に生み出された真新しき足跡は三つ指を刻み、形こそ象か何かを思わせる。
 次の一歩を前へ出して足跡の上へと振り下ろされたのは、しなりをあげた尻尾である。
 大地へ線状の痕を残して尾が跳ねた。
『ォォオン』
 そうして、そいつは小さく空へ吼えた。
 雄大なる空を見上げ――己が矮小なる身体を怒れるように。
 亜竜は吼えた。
 そこへ近寄るは、大型の獅子のような魔物。
 群れ為すそれらへと、グッと体を伸ばし大きく見せる。
 その口元から光が零れ――放たれた熱線が獅子のような魔物を焼き払う。
 また別角度から飛び掛かってきた別の個体を尻尾で叩き落として踏みつければ、そのまま体重を乗せてへし折ってみせる。
『ギャァァオン』
 そうして、また空へ吼えた。
 それはまるで、地上を闊歩する己を見下ろす『空』へと嫌悪するかのように。
 飛び交うワイバーンや、飛翔する魔物を、全て食らいつくさんと願うように。
 けれど――それは叶わない。
 翼を持たぬ亜竜は――大空へ吼えるしかないのだから。


「すっげぇぇ! あんたたちすげえよ! マジで!? マジモンの竜と戦ったことあるの!?」
 身を乗り出しながら眼を輝かせているのは1人の少年。
 その両の手足が竜のそれであることと頭部に生えた角を見れば、この少年が亜竜種であることは一目瞭然であった。
 覇竜領域デザストル――かの地に潜るための竜骨の道より一番近くに存在する亜竜種たちの集落――フリアノン。
 覇竜領域における亜竜種との友好関係を結ぶために行われている『覇竜トライアル』――その案件の1つを受けるべく、今日も今日とてここに来ていた。
 そんな君達に対して、先程から目を輝かせているこの少年は、好奇心に満ちた目でしきりに「すげえ!」だの「格好いいなぁ!」だの「こ、こわくねえの?」だのと聞いてくる。
 練達での防衛戦が起きたのはたった数日前。どこでその話を聞いたのか、この少年は英雄を見る目で君達を見てくるのだ。
「俺、俺もアンタ達みたいにいつか本物の竜と向き合ってみたいなぁ」
 恍惚といった表情で宙に視線を向けた少年は「あっ」と声を上げて。
「ご、ごめんなさい! 俺の名前はベオ! もうわかってると思うけど、亜竜種のベオってんだ!」
 そう言って自己紹介をし始めた少年の話を要約しよう。

 フリアノンの外に存在する山岳地帯。
 もうすでに行き慣れつつあるという者もいるのかもしれないが――その地の一角の岩山の上には、亜竜が住んでいるという。
「なんでも、その亜竜は空を飛べず、地を這う事もしないんだって。
 見たことがある奴はその亜竜の事を『殴暴なる亜竜』グレンデルって名付けたらしいんだ」
 そう言うとベオは深呼吸をし始めた。
 そのままきゅっと拳を握り締めて、グッと顔を上げる。
 その両眼は決意に満ちていた。
「グレンデルに、父ちゃんが殺された。
 その敵討ち兄ちゃんと戦士団も、殺されちゃった。
 許せない。許せないけど、俺一人じゃ、グレンデルに勝てないんだ。
 だって、父ちゃんにも、兄ちゃんにも勝ったことないから。
 だから……お願いします! 父ちゃんと兄ちゃんの敵討ちに。
 グレンデルを倒すのに、手を貸してください!」
 そう言って頭を下げた少年の身体が、震えていた。
 それが恐怖なのか――はたまた、緊張なのかは、分からなかったが。

GMコメント

こんばんは春野紅葉です。
そんなわけで本日のお届けは肉弾戦する系亜竜とのステゴロでございます。
力こそパワーというか力でパワーというか。

●オーダー
【1】『殴暴なる亜竜』グレンデルの討伐
【2】『亜竜退治への憧憬』ベオの生存

●フィールド
 フリアノンの外にある山岳の一角。
 見晴らしのいい岩山の上にあります。
 ごくごく近くにグレンデルの住処があります。
 視界は大変良好です。

●エネミーデータ
・『殴暴なる亜竜』グレンデル
 翼を持たない二足歩行の亜竜です。体長は5~6m。
 その風貌から種別名的に名前を付けられています。
 再現性東京に住まう人や地球人なら、
 某特撮2足歩行怪獣をミニマムにしたような印象を受けるかもしれません。

 基本的な戦闘スタイルはステゴロ。
 殴る、蹴る、尻尾で薙ぐなどの物理攻撃が主体です。
 とはいえ、口から放たれるブレスも油断ならない火力です。

 反応、回避こそ鈍いですが、豊富なHPに加え、防技、各攻撃力、命中、EXAが高めです。
 また、非常に執着が強く、100とまでは行きませんがEXFも豊富であり、
 追い詰められたら逃げることをまるで厭いません。

 なお、自分を見下ろすほどの飛行状態にある者を優先的に狙う傾向にある一方、
 非常に残忍かつ卑怯な性格のため、弱った者から狙う傾向にあるようです。

●NPCデータ
・『亜竜退治への憧憬』ベオ
 10代後半程度の亜竜種の少年。
 父と兄を殺したグレンデルへの敵討ちを望んでいる一方、
 現時点で自分だけでは絶対に勝てないという自覚もあります。

 いっしょに戦いますが、正直かなり成長途上であり、あまり戦力にはなりにくいでしょう。
 戦闘スタイルは大剣を用いた近接物理戦闘とのこと。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 思うに彼は空を嫌う完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●震える少年と
 呼吸の度、白い息が漏れる。
 冬空に岩山の上、澄んだ空気は冷たく肌を包む。
 視線の先で亜竜の咆哮が晴天を突いた。
 あの様子ならば、まだこちらには気づいて無さそうだ。
 嫉ましそうに空を見上げて吼え、尻尾が振り下ろしては大地に痕を刻んでいる。
「あの巨体で二足歩行するのか……高さがある分、厄介な相手だね」
 岩陰にてワールドリンカーを起動し、静かにマルク・シリング(p3p001309)は呟いた。
 同じように岩陰から見ていた『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は、改めて視線を連れてきた少年に向けた。
「この地に住む人たちって大変だよね。
 正直、私達でも手に余る生き物が普通に住んでるし。
 ベオさんも……結構大変だよ? 敵討ち」
「う、うん……」
 頷く少年の手は震えている。
「……本当は何もさせないで後ろで見てるだけにしてもらうのが一番安全なんだよね。
 今からでも、そうする?」
 Я・E・Dが問えば、ベオが顔を上げた。
「いやだ。ここまで来て、あいつと戦わずにあんた達に全部任せちゃったら、俺、あいつに一生勝てない気がするから」
 そう言う少年の手は、まだかすかに震えているけれど、表情は先程よりもマシになってきていた。
「ふぅん……良いよ、敵討ちだからね。ベオさんもできる限り参加できるようにしてあげる」
 その様子を見て、Я・E・Dが改めて言えば、少年の手の震えは徐々に止まっていく。
「敵討ちの是非とか、それをどうこう言えるほど偉い人間ではないが、個人的には応援するよ。
 これもまた、一つの区切り。この戦いを乗り越えることで、君も新しい人生を踏み出せると思うからね。
 出来る限りの手伝いはするさ」
 義手に魔力を通して青白いラインが淡く輝かせ、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は視線を少年に向けた。
「ありがとう、姉ちゃん……」
 ベオというらしい亜竜種の少年はゼフィラの言葉にそう言って頷くと、亜竜の方を見て、ゴクリと固唾をのんだ。
 伝聞調だったことも鑑みれば、この少年があの亜竜を実際に見たのは初めてであろうことは容易に感じられる。
「いい心構えだ小僧。その復讐心は己が力の糧とせよ」
 そう言って『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)は狂骨を握る。
 自らは赤ずきん狩りの復讐者。復讐を胸に秘める者として、その心には一定の理解がある。
(自身でも力不足は感じているようだな。勇敢と蛮勇は違うという事、それをこの戦いの中で見せれると良いが……)
 少年と青年の狭間、それもかなり少年よりのベオにとって、あれは恐らくは初めての『敵』だ。
「この戦いが終われば今の心が、そして経験がきっと貴様を強くするだろう。」
 少年が胸を抑える。ロックは少年の心臓辺りを小突き、そう告げた。
 「狼のあんちゃん……うん」
 驚いた様子のベオが、触れられた場所に手を置いて、ギュッと握りしめた。
「でも無理はしないでね? 仇を取るためにベオお兄さんが大怪我したら、ベオお兄さんのお母さん凄く悲しむと思うから。
 無事に帰って、お母さんに『ただいま』って言ってね!」
 背中をぽん、と軽く押すようにしてベオに触れた『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)に、ベオの表情が硬くなる。
「……そうだよな、俺が怪我したら、母ちゃんが悲しんじまう。うん、俺も、そう言いたいよ! ありがとう」
 そう言って、少年がはにかむ。
「敵討ちだかなんだか知らんが、ガキの子守なんて面倒は御免だぜ。
 戦闘に参加するならちゃんと死ぬ覚悟くらいはしておいて欲しいものだ」
 そう鋭く言い捨てたのは『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)である。
「死ぬ、覚悟……そうだよな。父ちゃんも兄ちゃんも、あいつに殺されてるんだ。
 俺も、死んじまうかもしれないんだ」
 ぎゅっと、ベオが再び剣を握り締める。
「まぁ、それさえあれば後は何も言わないさ……やりたいようにやってくれればいい。
 俺も護衛対象としてではなくメンバーとして生かす努力をしてやろう」
「あ、あぁ!」
 ぶっきら棒に世界が続ければ、少年は驚いた様子を見せつつ、頷いた。
 その様子では世界の言葉を理解しているのかまでは分からなかったが。
「ほんとは君に稽古をつけて、もっともっと強くなってから戦おうって言いたい。
 ……けどきっと、ベオくんにとってはあのグレンデルを倒すのが一歩目なんだよね」
 後半を自分へと言い聞かせるように『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は呟いた。
 目の前に立つ少年は初めての亜竜へと恐怖を感じているようにも見える。
『だって、父ちゃんにも、兄ちゃんにも勝ったことないから』
 そうベオは依頼するときに言っていた。
 自分が勝てなかった人達を、恐らくは正面から殺した相手。
 それを実際に目の前にすれば、大なり小なり恐怖を覚えるのは、きっと当然だ。
「あたしが絶対、ベオくんを守る……だから、お願い」
 真っすぐに、フランはベオと視線を合わせた。
「無暗に突っ込んじゃだめ。今、あたしと目を合わせてるみたいに、あいつのことを見て。
 それで、しっかり観察してね。あたしが……あたしたちがサポートするから、君が思うように動いてね」
「うん、君のことは私達が必ず、何があっても守るから。
 思うようにやってみてね」
 同じようにベオへ声をかけたのは『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)だ。
「終わってしまったことは取り戻せないけれど、せめて君のためになるように、手を尽くすよ!」
 元気づけるように、敢えて笑って見せる。
「……うん。ありがとう。あんた達が俺をここまで一緒に連れてきてくれたから、此処にいれるんだもんな。
 分かった。頑張るよ」
「……勿論危なくなったら抱えてでも離脱するからね!」
 そのベオの返答に、真剣な表情を浮かべたフランは忘れずに、と続け。
「そのためにも、私はあいつを止めないと」
 アレクシアが言えば。
「そうだね、みんなで勝とう」
 マルクが続ける。

●殴暴なる亜竜
(――アナイアレイト・アンセム)
 岩陰から飛び出したゼフィラは義手を翳すようにして亜竜に向けるや、空を見上げるグレンデルめがけて弾幕を叩きつけた。
『ギャォォ』
 反応するように気づいた亜竜が吼える。
「――遅いね」
 事も無げに告げたゼフィラの第二掃射がグレンデルの身体に撃ち込まれていく。
 吼えるグレンデルが動き出さんとする中、Я・E・Dは追撃とばかりに動いていた。
「悪いけど、今回はわたし達が狩る側だよ」
 それは神狼を縛る拘束具。神話を具現するかのように、光の糸がグレンデルの身体を縛り上げた。
『ギャォォ!!』
 拘束具に震え、猛る亜竜に向けて黒いオーラで構築されたマスケット銃を向ける。
 放つ砲撃は守りを選ぼうとしたグレンデルの心臓辺り目掛けて撃ち込まれていく。
 続けるように、空から放射状に広がって集束する不思議な軌道を描いた魔力の花弁がグレンデルに降り注ぐ。
 地上にて先手を取った2人のことなど目もくれず、グレンデルは受けた空からの魔術へ吼える。
「さあ、私はここだよ! かかってきなさい!」
 咆哮が再び。アレクシアはそれを聞きながら、自身にグレンデルの注意が引きつけられていることを肌に感じていた。
「よし、今なら良さそうだな」
 グレンデルの様子を確かめれば、注意は完全にこちらから外れている。
 世界は魔力を練り上げると、レンズ越しに魔眼が輝き、仲間達への加護をもたらす。
 それは涙なき慟哭。仲間達の身体を覆うように魔力が包み込んだ。
「ォォォオオオ!!!!」
 猛る復讐者。ロックは闘争心を咆哮に変え、突撃をしかけていく。
 ようやっと動き出したグレンデルが殴りかかってくる。
 その腕を狂骨で叩き、踏み込んで刺突。
 軋む骨槍が突き立てば、内側へと闘気を押し込んだ。
『ギャオォォ』
 咆哮と同時、グレンデルがアレクシアへ顔を向け、光線を吐いた。
「――ッ!!」
 アレクシアはそれを魔力障壁が罅割れながらも、耐え忍ぶ。
「お姉さん!」
「――まだ大丈夫!」
 キルシェが声を掛ければ、そちらからは頼もしい声が返ってくる。
「ねえ、グレンデル! 貴女の気持ちは分からなくもないよ!
 自由に空を飛ぶこと……手の届かない世界へ憧れたことは私にもあったもの。
 でも、その憧憬を誰かへの憎悪にしてしまってはいけないんだよ!」
 その言葉に激昂したように、光線の火力が増した。
「お姉さんが大丈夫だっていうなら、ルシェは……!」
 キルシェはそのままグレンデルの方へ近づいて、彼に告げるように歌う。
 それに対して応えたのは、亡霊たちの慟哭。
 聞こえてきた気のする亡霊たちの声は、或いはグレンデルへと立ち向かった者達の執念であったか。
 激昂したようにグレンデルが叫ぶ。
「ベオ君、こっち!」
 フランはベオの手を取ると、グレンデルを迂回するようにして後ろに回り込んだ。
「ベオ、よく聞いて。強さは個人の技量と、戦術の総和だよ」
 それに続くようにして走ったマルクは、手に浮かぶキューブ状の魔力体から一斉に魔弾を放つ。
 魔弾は空間を捻じ曲げ、幾重もの屈折を起こしながらグレンデルの身体に叩きつけられていった。
「例えば、人数が多い時は、挟撃や包囲で多角的に相手を攻撃するのが有効なんだ。
 今、僕達がやってるように」
 それはきっと、この少年の父が――あるいは兄がいれば、教えてくれたかもしれないこと。
 発展途上のこの少年にそう言ったことを学ぶ場を与えられたであろう者達は、あの亜竜によって既に殺されている。
 だから――
「君に、僕の知る集団戦のやり方を教えるよ」
 真剣にグレンデルから視線を外さずに言えば、少年からそんな答えが返ってくる。
「あぁやって引き付ける人がいて、攻撃に徹する人がいたり、あたしみたいにサポートに徹する人がいたり……」
 亜竜のブレスを捌ききったアレクシアが、後退するように見せかけてグレンデルを誘導しているのを指し示し、そのまま視線を地上で戦うロックやЯ・E・Dに向ける。
「自分が出来ないことを手伝ってくれる誰かがいて、自分も誰かの事を手伝って……それが、仲間なんだよ」
「仲間……それが、仲間……父ちゃんや兄ちゃんも、そうだったのかな」
「……うん、きっとそうだよ」
 ベオが少しだけ寂しそうな顔をしたことにフランは気づいた。
「そっか……」
 少年がそれだけ呟いて、深呼吸をして、ぺちぺちと自分の頬を叩いた。
「俺は、俺のできることは……なぁ、フランの姉ちゃん、俺をあいつの前まで連れてってくれ!」
 しばしの沈黙の後、決意に満ちた瞳で、少年がフランを見た。
「――うん! 任せて!」
 フランは真剣な顔に戻ると同時に走った。
「いっけー、ベオくん!」
「――ッ!!」
 ベオはフランに支えられるようにして、彼が振るうには明らかにサイズの合っていない大剣を振り抜いた。
 斬撃が強かにグレンデルに傷を入れる。
 グレンデルの尻尾が持ち上がり、叩きつけるように落ちてきた。

●死中執着
 イレギュラーズとグレンデルの戦いは佳境に入りつつあった。
 両腕が消し飛び、尻尾は中ほどから折れ、身体には風穴が幾つも空いている。
 いつ死んでもおかしくはない――否、いつ死んでいてもおかしくはないという方が正しくさえある。
 アレクシアと交代して空へと舞い上がったキルシェは、グレンデルを見下ろした。
「ルシェは大きい竜さんより小さいし弱いけど、誰も倒れさせないって決めたから負けないのよ!
 大きい竜さん、ルシェから目を逸らすなら大きいけど弱いのね!」
 精一杯の挑発。グレンデルにその意味が分かってるのかまでは分からなかったが、飛翔するキルシェに連れられるように亜竜が動き出す辺り、注意を引けているとみて間違いあるまい。
 マルクはその様子を見ながら手に浮かぶ魔力のキューブの性質を変質させる。
「――人の力と叡智は、暴虐な怪獣を上回るってことを見せてあげるよ」
 再構築されたキューブから1発の魔弾がグレンデルめがけて飛翔する。
 たった1発のその弾丸は、グレンデルと衝突した刹那、強烈な爆発を引き起こして無数の微小なる魔弾へ姿を変えて炸裂する。
 苛烈なる魔力砲撃にグレンデルが身動きを止めた。
 その隙を縫うようにしてゼフィラは傷を負った仲間達の耳に届く位置へ移動すると、両腕の義手に魔力を籠めた。
「流石に傷が増えてきたね……小休止と行こうか」
 充足した魔力を留めた両の義手を、思いっきり叩きつけるようにして打ち付ける。
 生じた衝撃波は独特の波長を伴いヒーリング効果を前線へと齎す頌歌となって仲間達の傷を癒していく。
「しつこいなお前も……」
 世界は未だ斃れぬグレンデルへ思わず独り言ちた。
「とりあえずそれ以上動くなよ、逃げられちまったらここまでの苦労が水の泡だ」
 魔眼をもってグレンデルを視界に収める。
 不可視を以って縛り上げた高速の魔術に、グレンデルがのたうち回っている。
 拘束されたその姿を見据え、ロックは狂骨を握る手に渾身の力を込めた。
「我も死なない肉体ではあるが貴様も大概だな――褒めてやる」
 渾身を以って槍を叩きつける。
 応じるように、亜竜が折れた尻尾を無理やり振るって殴りつける。
「ォォォォ!!」
『ガァァアアアア!!』
 槍と尻尾、足と足、頭と頭、逃げるためとばかりに亜竜の攻撃は苛烈極まっていた。

 長き長き戦いの果て、最早、その姿は亜竜というよりも蛇かツチノコにしか見えなくなっている。
 何故死んでいないのかという方が気にかかる致命傷の状態でさえ、グレンデルは逃げようと身を動かしていた。
「わたしが敵討ちって言うのも変だけど、弱肉強食があなたの身にも訪れただけ。だから、逃がすわけもないよね」
 Я・E・Dは亜竜へ静かに告げる。それはまさに死の宣告であったことであろう。
 周囲に浮かぶは黒き幻影のマスケット銃。
 唸るグレンデルの口の中へ、一斉に無数の銃口が向いて――
「狙って――バーン!」
 その言葉と同時、不死すら殺す弾丸が息の根を止めた。

●大空を夢見て
 戦後、イレギュラーズはフリアノンに戻っていた。
 キルシェの提案でフリアノンの中でもグレンデルの事を知っているという人達にそれを倒したことを伝えるつもりだった。
 それも終えた頃、その足で少年に道案内をされて訪れたのは、少年の父と兄が眠っているという墓地だった。
 墓碑には複数の人物名が載っている。恐らくは共同墓地なのだろう。
「……お疲れ様」
 墓標を見つめる少年にゼフィラが声を掛ければ、少年は我に返ったように振り返る。
「ありがとう。ご迷惑をおかけしました」
 ぺこりと少年が頭を下げた。
「大丈夫だった?」
 アレクシアの問いは肉体的なだけでなく、精神的な物を含めた問いだ。
 対する少年が少しばかり曖昧に笑う。
「うん、なんだかすっきりしたような気がするんだ。
 でも、もっと強くなりたい。今回は、あんた達に迷惑をかけっぱなしだったから」
「そっか……でもね、ベオ君。もっと強くなりたいって思うのなら、その力は誰かを守る為に使ってほしいな」
「――もちろん。父ちゃんや兄ちゃんに恥ずかしくない生き方をする――約束するよ」
「あぁ、同じ悲しみを負う者を一人でも減らす、苦しんでいる者を一人でも多く救う……お前はそういう戦士になれ」
 己と同じように復讐だけに身を沈めるなと、ロックはそう告げる。
「強くなってね、今度はちゃんと一緒に戦えるくらい」
 その返答を聞いたЯ・E・Dが言えば、ベオが頷いて顔を上げる。
「――うん、俺が出来るか分からないけど、出来るように強くなって、たくさんの人を助けたい!」
 その眼は決意に満ちていた。
「まぁ、今回はよくやったよ」
 世界が言えば、少年が顔を上げ目を見開いて。
「――俺、よくやれたかな」
 静かにそうぽつり。
「死ななかっただけでもよくやれたんじゃないか」
「そうかな……」
「ねぇねぇベオくん、君は空って嫌い?
 あたしは深い森の中で生まれ育ったから、隙間から見える空が好きだったんだ」
「考えたこともなかった……ここの空は、すごく危険だから」
 フランの問いかけに、ベオが空を見上げる。
 フリアノンの空――いや、デザストルの空は竜種でなくともワイバーンを筆頭に凶悪な魔物達が飛び交う場所だ。
「そっか。でも君は空を飛べるようになるかもしれないんだよ!
 その時は、あたしも頑張って飛べる魔法を覚えるから、一緒に空のお散歩しよ!」
「うん、俺もそうなれるように頑張ってみるよ」
 頬をぽりぽりと掻いて、照れたようにベオが言うのを見て、大丈夫だと、フランは笑った。
「もしも、外に行くのであれば、私から幾つかアドバイスしておこう」
「ありがとう。……うん、いつか来た時の為に、教えてほしい」
 ゼフィラは頷けば、冒険について語ってみせる。
「ベオ!!」
 そんな声を聞いてゼフィラがそちらを向けば、壮年女性の亜竜種が1人、駆け寄ってくる。
「……ただいま、母ちゃん」
 ぎゅっとベオを抱き寄せたその女性へ、少年が小さく呟いていた。

成否

成功

MVP

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)[重傷]
復讐の炎

あとがき

MVPはこのままでは何もできなかっただろう少年の背中を一番大きく押しただろう貴女へ。

イレギュラーズの背中を見て、ベオがどうなっていくかは現時点では不明ですが、過去に蹴りを付け、未来を見る目標を作ったのは皆さんです。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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