シナリオ詳細
亜竜の尾は剣を帯びて
オープニング
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亜竜集落フリアノン――竜骨の道を辿って辿り着く、亜竜種の住まう集落である。
その中にある小さな家屋の中で、リザードマン系の姿をした2人の亜竜種が向かい合っていた。
「拙いことになった……まさか、竜尾の剣が折れておるとは!」
片方、椅子に座る1人の男性亜竜種が呆然と呟いた。
男はフリアノンの中でも郊外に集まるごく小さな部族の長老であった。
「昨年までは大丈夫でしたが、今年確認したところ……誠に申し訳ございません」
長老と机越しに向き合うのは1人の青年。
年頃は30代のように見え、ある程度のキャリアを積みつつある役人的立ち位置に思える。
責任を取りますとばかりに跪く青年の発言から考えるに、何やらミスを犯したらしい。
「いや、いや、よい。良い。竜尾の剣は何代も前から使用してきた祈念祭の祭具。
経年劣化もあろう。それは問題ではないし、竜尾の剣の製作方法は保存されておる。
それより問題は、材料の方だ」
今にも責任を取りますと言わんばかりの青年に対して男はそう声をかけ、頭を抱えるようにつるりとした蜥蜴の頭部を撫でた。
「『剣の亜竜』クラウを狩り、その上で尾剣と鱗を良質な形で回収できるかどうか。
あれらは竜尾の剣に必要不可欠。加工の手間と時間も考えれば、そろそろ材料は手に入れておかなくては」
そのまま深くため息を吐いた。
「しかし、今から戦士団を組織してクラウを狩るとなると、それはそれで難しい。
あ奴らは凶暴で攻めに長け、生半可な防具では防具ごと斬り捨てられてしまおう。
熟練の兵士を出すとなると、今度は祭具を錆び付かせ折るとは何事かといらぬことを言われもしよう……」
うんうんと唸る長は、不意に強く机を叩き、驚いた様子の青年が身体をびくつかせて顔を上げた。
「そうだ! 近頃は外から来たものがいたな!? 彼らに頼むとしよう!
説明をすれば手伝ってもくれようし、何より彼らが我らに悪く言う理由がない! うむ! それがよい!」
そう言うやいなや、男は依頼状を書き始めた。
「お前はわしがこれを書き終えたらこれを以って依頼を出しに行け!」
「はっ、はい!」
驚いた様子から一変、深々と頭を下げた青年に視線を半分、男は続けて書類を書いていく。
――そんな様子を聞き耳立てていた男がいたことを、2人は知る由も無かった。
●
さて、数日を開けたある日の事。
空に雲はなく、晴れ晴れとした空は陽光が煌いている。
「たしか、この辺のはず……」
草木に隠れながら岩肌を見上げるのは、数人の青年たち。
皆がリザードマンタイプの亜竜種で構成された彼らは、ざっと16人ほど。
うち2人を除けば、全員が歴戦を思わせる。
「お、おい、エディ……大丈夫なのかよ」
「うるせぇ! 親父殿が困ってるんだ。それに、祭具をぶっ壊したのはてめえだろ!」
震える声で言うリザードマンにエディなるリザードマンが吼えた。
吼えた――とはいうが、その実はかなりの小声である。
「そ、そうだけどさぁ」
「いいか、ハンネス。お前が祭具がどうしても見たいっつって、落としちまったから折れたんだ」
「そうだけど! エディだって倉庫の壁に当てちゃってただろ!?」
「ハンネス、お前もう黙れ」
言い返したハンネスにエディとは異なるリザードマンが言えば、ピクリと動きを止めて顔を上げた。
「……ハンネスだけじゃない。お前ら全員、静かにしろ……聞こえないか?」
耳をすませば、ビョウ、ビョウと音が立つ。
不思議そうに首を傾げた2人と、武器を構えた亜竜種の戦士たち、合計16人を影が覆う。
今日は日差しの強い晴空、とても新しい影を差す要素などない――はずだ。
「はっ?」
思わずそう声を漏らして、空を見上げたのは誰だったか。
――刹那。16人の内、2人がその身体を真っ二つに分けて血を噴いた。
微かな血飛沫が辺りに花を咲かせば、続けて地響きと共に咆哮。
ビョウと音が立てば少しして木が落ちて別の音を立てる。
刹那をして周囲の景色は様変わりした。
裾野に広がる木々が丸々撫で斬りにされて作り出された広場、その中央には1匹の亜竜。
ビョウと鳴る音は、それの尻尾に光る鈍い刃が空気を切り裂く音だった。
「『剣の亜竜』――クラウ!」
歴戦らしきリザードマンが声を上げた。
『先程から、我が家を覗く者がいると見れば命知らずの小僧共か』
重低音の亜竜の声が、14人の脳髄を揺らす。
「エディ! ハンネス! 速く逃げろ! お前ら若いもんが命を捨てるのはまだ早い!」
歴戦を思わせるリザードマンが叫べば、2人が悲鳴を上げて亜竜へ背を向け逃げ出して――
『逃がすと思うか、小童!』
――斬撃が2人の逃げようとした先の大地を切り裂いた。
「亜竜よ! 臆病者の子供を帰すぐらいはいいだろう!?」
『我に挑むというのなら、臆病者もなにもありはせん!』
その身を起こして、亜竜が雄叫びを上げた。
●
「――お兄ちゃんを助けて!」
そう言ったのは、人間種でいえば6歳ほどと思われる少女の亜竜種であった。
ある亜竜討伐の依頼の書類を見ていた君達へ、少女はぎゅっと握りしめた手紙を渡してくる。
「『剣の亜竜』クラウを狩ってくる。大丈夫! 友達の戦士団が付いてきてくれるってさ!
それでも心配なら、この手紙をイレギュラーズって人らへ渡してくれ」
それだけ記された手紙の最後には、エディと名前が記されていた。
「お兄さん、お姉さん、クラウを倒すんでしょ? お願いします! どうか、どうか!」
そう言って、少女は何度も頭を下げる。
動機ことが1つ増えたようなものだが、なに、やることは同じだ。
――『剣の亜竜』クラウを倒せば、この少女の願いも報われるのだから。
- 亜竜の尾は剣を帯びて完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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旋風が戦場を撫でる。
どん、と重い音を立てて木々が切り倒され、景色が一変する。
「こんな斬撃をもたらす尻尾を剣身にした祭器か……実に興味深いな」
ちりりと毛先を旋風に切り裂かれた『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は目を見張りながらも、たった今良好になった視界に目標をみた。
「整備不良はいただけないが良い機会だ。救出のついでに切れ味比べと行くか!」
飛び出しざま、式を亜竜めがけて投げつける。
姿を見せた樹槍をクラウへ叩きつけながら、視線を後ろへ。
「武具の手入れを怠った罰はこのぐらいで十分だろう! あとは俺たちに任せて下がっていてくれ!」
「お、お前達は……里の者ではないな……そうか、お前達が……!」
錬の姿が『亜竜種』だとはまず思われないことが幸いした。
どうやらこちらがイレギュラーズであることを悟ってくれたらしい。
『新手か! 良かろう、諸共に斬り降ろしてくれる』
亜竜が猛り、咆哮を一つ。
「――確かに貴方に挑もうとしておいて臆病者も何もありはしないのかもしれない。
けど、私達を相手に余所見をしている暇はあるのかな?
『剣の亜竜』クラウ、貴方の相手は私達だっ!」
弾丸のように跳び込んだ『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)がクラウへと肉薄すれば、そのまま踏み込んでアッパーカット気味に打ち上げる。
『ぐふっ!?』
逆鱗に相当する箇所へ撃ち込まれた拳に思わず亜竜が喉を鳴らせば。
「私達はイレギュラーズ。貴方の妹さんに依頼されてやって来たんだ。
大丈夫、ここからは私達に任せて!」
誰がエディであるのかはひとまず置いて、告げた次の言葉に亜竜種達が我に返った様子を見せる。
「……無謀な物だな、エディとやら。命を投げ捨てるような真似だ。
だが、罪を償おうとする姿勢は嫌いじゃない。
撤退の指揮を行う。私の指示に従え。……私が、お前たちを生きて帰そう」
それだけエディに告げた『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)は、空へ舞い上がる。
「空からの眼があるのは助かる! 頼む! エディ、ハンネス、お前らもだ! サッサと退くぞ!」
『逃すと思うか、小僧ども!』
戦士団のリーダーが叫べば、猛るようにクラウが咆哮を上げた。
尾剣が風を切り始めれば、その尻尾の付け根へ弾丸がひとつ。
凄絶とさえ言える精密な狙撃センスより放たれた弾丸を受けたクラウが視線をそちらへ向けた。
「お前はこっちに向いてろ、剣の亜竜!」
硝煙がゆらゆら。銃弾を放った『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)にクラウが咆哮を上げた。
「今だ。一箇所に留まるな。全力で逃げろ」
そのわずかな隙を見て、ルクトは戦士団へと声を上げる。
「さぁ、速く。お二人も此処から離脱してください。
それから……エディさん。間に合ったのは貴女の妹さんのおかげです。
戻ったら会いに行ってあげてください」
雷光を奔らせながら『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が言えば、エディというであろう亜竜種が目を見開いてしきりに頷いた。
「あいつが……」
「ここは私たちが片付ける。償うのなら、生きて償え」
「あぁ! それが終わったらプレゼントの一つでも買ってやらないとな!」
そう言って笑って、彼が立ち去っていく。
ルクトがエディへ告げれば、彼は少しばかり逡巡した様子を見せた後、ハンネスと呼んだ亜竜種を連れて走り出す。
「私の元居た世界にも似たような竜種は居たけど、こっちで見るのは初めてね。
人命救助には然程興味はないけれど、あれを使った祭具の方には興味があるわ。
だから、巻き込まれて死にたくないなら早くして頂戴?」
スピネルサーヴァントを連れる『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)は亜竜の尻尾をさらりと見る。
右腕に様れた術式が励起して、炎の刻印が浮かび上がる。
けしかけた魔力の糸が、クラウの身体を締め上げんと疾走する。
「剣の亜竜……亜竜の身体能力のそれは人のそれを軽く上回る。
……竜狩りなどと驕るつもりはないが、真なる竜に連なるその力、喰らわせてもらおう……!」
黒翼の天使を思わせる姿に変じた『黒竜翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は空より亜竜を見下ろす。
「起動せよ、起動せよ――八ツ頭の大蛇」
執行人の杖へと注ぎ込んだ魔力が魔方陣を描き、その向こう側より多頭の海蛇が姿を見せ、一斉に水弾を放つ。
圧縮された魔力弾が、落下速度を加えた高速でクラウを上から撃つ。
「このような場に来るとは、中々に無茶をするお兄ちゃんの様ですね。
それほどあの祭具が重要なのでしょうか」
肉薄するのと同時、勢い任せに『斬城剣』橋場・ステラ(p3p008617)は大剣を振り抜いた。
斬撃は変幻に惑い、その長大なる剣からは想像のできぬ変幻自在なる様で斬り結ぶ。
『小癪な――先に貴様らを潰してあ奴らを追うとしよう!』
尾剣がビュンビュンと音を立て、斬撃がイレギュラーズへ振り抜かれた。
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雷光が爆ぜた。
雷鳴と雷光を伴う美しき風霊の斬撃がクラウの装甲へ振り下ろされる。
「逃げるだけの獲物ばかり狙う……狡辛く怯懦な振る舞いですね。強者の行いではありません」
リースリットは既に次の準備を終えている。
それは冷たき絶凍の一閃。
ひとたび魔晶が輝けば、亜竜の身体を包み込むように広がる結晶のきらめきが陽光に反射して美しく彩りを放つ。
『おのれっ! 貴様、俺を愚弄する気か!?』
激昂する亜竜の身体が複数の箇所を凍てつかせる。
「この俺が小さな女の子に『お兄ちゃんを助けて』と言われたんだ。
エディにも、他の連中も。誰一人欠けることなく連れて帰る。
――そのためにも、お前をぶっ倒す」
摂理の視座より見据えるジェイクは、剣の亜竜へ視線を合わせれば、静かに引き金を引いた。
空を切って放たれる弾丸が真っすぐに駆け抜け、クラウの眼の下を撫でるように掠めた。
『貴様は先程から小賢しいことを! ええい、諸共に真っ二つにしてくれる!』
ビュンビュンと音を立てる尾剣が振り払われ、ジェイクを切り裂く――その刹那、クラウの視線を切るように姿を見せた拳。
「私達は約束したんだ、あの子に!」
ぎょっと見開かれたクラウの眼球を撃ち抜くように放たれた栄光の拳打の後、花丸が告げれば。
『――くぅっ! 目障りな小娘が、えぇい!』
顔を振りながら、ぎょろりとした目が花丸を見る。
「――私と貴方、どちらが先に倒れるか我慢比べと行こうかっ!」
花丸の見上げる視線の先で、クラウとばっちりと目が合った。
『おぉぉぉ!! 我を小賢しくも見上げるとは!! 良かろう!
早々に斬り降ろしてくれる!』
舞い上がったクラウが、花丸めがけて尾剣を振り下ろす。
(回収物だからあまり傷つけないようにしないとだね)
咄嗟に判断した花丸はそれを出来る限り根元へ踏み込んで殴りつけた。
「……何にせよ、どれだけ手早く倒せるかが鍵ね。
さっさと終わらせましょ。炎の檻よ、捕えなさい」
刻印の魔力を励起し、ジュリエットは術式を描く。
それは立方体を形成し、亜竜を呑み込んでいった。
苦悶のうめき声が漏れ――ぴしり、罅が割れた。
あらゆる呪の込められた箱庭に囚われた亜竜が血走った眼で雄叫びを上げた。
「――卑怯とは言うまいな、亜竜。取ったぞ……!」
自身から完全に意識を逸らしたクラウを眼下に、レイヴンは静かに宣告した。
その手に握る魔杖に魔力を注ぎ込み、大鎌の刃を構築すれば。
その身に投影されるは無銘の執行者――断つは首に非ず。
空を裂くは竜の爪が如く。
大鎌の刃は斬撃となって守りを許さず亜竜の翼、その片翼を切り裂いた。
「負けるつもりも、負けるわけにもいきません。
説はあの竜達を討ちたいのです。
――貴方に負けてなどいられないのです」
脳裏には練達へと迫った竜たちを思い描き、ステラは剣を研ぐ。
闘志を力に変えて、振り抜いた黒顎魔王、全てを呑むような斬撃が体勢を崩したクラウの身体に鮮やかながら激しい傷を刻み付ける。
苛烈極まるステラの猛攻は亜竜へ無視できない傷痕となって残される。
しかし、クラウはステラを攻撃することはできない。
堂々と立つ少女に意識を向けるばかり。
「切れ味比べだ、剣の亜竜! 尻尾を切っても逃がしてやるわけにはいかないがな!」
式符より鍛造された真銀の刃を握り、錬は前に出る。
己が全霊の能力。あるいは己に有り得た別の可能性をその身に宿し、跳躍。
分厚い肉を裂いて亜竜の名を表す尾剣を尻尾ごと斬り降ろさんと斬撃を見舞う。
煌く刃は頑強な鱗を削り落とせども骨には至らず、効果時間を終えていく。
「悪いが、魔力効率には自信がある。まだまだ打ち止めじゃないぞ」
次の一本を鍛造しながら、亜竜を見やる。
『我は、剣の亜竜……死なぬ、死んでたまるかぁ! 認めぬ、認めぬ、そうだ、我は、我は!』
猛り、亜竜が羽ばたいた。
逃亡を阻止せんとイレギュラーズが各々動き出すその一瞬を掻い潜るように、亜竜が飛翔して飛んでいく。
その方角は――イレギュラーズの後ろ。
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「来い、クラウ。私が――この偽りの翼が相手になろう」
飛翔した亜竜が向かおうとした場所へ先回りしていたのはルクトだった。
『目障りな――死にたいか、娘』
ぎろりとルクトを見るクラウへ照準を合わせ、ルクトは義肢を開けた。
「炎と毒。いくら亜竜であるとしても、生物である以上はこういった物はやはり効くだろう?」
目標をロックすれば、一斉に弾頭が放たれる。
炸裂した弾頭は致死性の猛毒と紅蓮の炎を纏って亜竜の身体を包み込んだ。
「逃げるならばともかく、彼らを狙うとは――全力の一撃を以て、貴方を討ちます。剣の竜よ、覚悟!」
追いついてきたリースリットは、魔晶剣に全霊の魔力を籠めていた。
『逃げる? 逃げる? 我が逃げる? まさか、我が逃げた!?』
自らの動きを信じられぬとばかりに叫んだ亜竜が咆哮を上げる。
「えぇ、目の前の私達との戦いから尻尾を巻いて逃げたのですよ貴方は」
激昂する亜竜に合わせるように、リースリットは剣を走らせた。
紡がれる剣閃、鮮やかに放たれたのは風神の洗礼。
極限の斬撃が亜竜の鱗を削り落とす。
『おぉぉぉ!! 我に逃げるなどという選択を取らせるとは!!
許さぬ、許さぬぞ、矮小なる者共め――』
激昂しつつも、亜竜の身体には割れ、裂け、削れた鱗が多数みえる。
そこ目掛け、ジェイクは銃口を向けた。
「悪いな、逃がしはしないぜ」
両手に握るは二丁拳銃。片方には終わりを見せる弾丸を、片方には死神の息吹を。
間髪を入れずに放たれた2つの弾丸は、一発目が砕けつつある亜竜の鱗を粉砕して、続けるように死神がもたらす死が迸る。
致命的なる死神の弾丸に、亜竜が悲鳴にも似た声を漏らした。
「……見苦しいわね」
その様子を見ながらジュリエットは静かにそう残して術式を構築する。
その瞳と髪を思わせる紅蓮に輝く魔力が炎のように揺らめき、やがて渦を巻きながら集束していく。
構築された魔弾は宛ら炎弾を思わせる揺らぎを持ち――放たれた。
戦場を尾を引いて疾走し、真っすぐにクラウの肉体へ叩きつけられた。
「選ぶものが撤退ではなく、先に退いた奴らを追うことだとはな」
レイヴンは静かに亜竜を見下ろしながら、その魔杖へ大鎌の刃を構築する。
「次は逃がさん――その首、叩き落としてやる」
空より穿つは断頭台の魔刃。
思いっきり振り抜いた魔力は斬撃となり、文字通りの断頭台の如く真っすぐに亜竜の首へと落ちていく。
炸裂する斬撃は亜竜の首筋に大きな傷を生み、鱗が砕け散って斬痕を残す。
『おのれェッ、幾度となく我を見下ろすか!』
ぎろりと見上げてきた亜竜が尾を振るう。
斬撃がレイヴンの身体に斬撃を残す。
「これだけ傷を受ければ、もうそろそろそちらを戴いてもよろしいでしょう。頂いちゃいますね――」
そう言ったのは追いついてきたステラである。
狙うは亜竜の尾――否、その両翼。
全霊の力を籠めて振り払われた斬撃は、シンプルともいえる真っすぐな振り下ろし。
変幻の刃は片翼を捉え、遂にはすぱりと斬り落とす。
『ガァァァ!?!?』
悲鳴を上げた亜竜が痛みからか大きく身体を揺らし、隙を見せた。
刹那、尋常なものではない高火力を以って薙ぎ払うステラの斬撃が再び走り抜ける。
健在なるもう片方の翼を呑み込むようにして振り抜かれた斬撃は、そちらの翼をも斬り払う。
体勢を崩して、亜竜が前に向かって落ちる。
「行くぞ――」
再び鍛造した真銀の太刀。
錬はそれを握って亜竜の背後へ。
『ぐぅぅるぅぅ……ガァァ!! まだだ、まだ、まだ終わらぬ!』
びゅん、びゅんと尾剣が震える。
「あぁ、それでこそ亜竜だな!」
合わせるようにして、錬は太刀を振るう。
美しき軌跡を描いた銀閃が遂には根元から尻尾を断ち斬った。
「もう一押しと言ったところか」
亜竜の様子を見下ろすルクトは一言呟けば、再び多目的炸裂弾頭を射出する。
真っすぐに打ち出された砲弾が歪な軌道を描いて皮膚の露出した亜竜の肉体へと炸裂し、毒と炎をまき散らす。
亜竜の口から洩れるのは最早ただただ苦悶の声のみ。
両翼と尻尾を失い、最早脅威になりえぬ状態にありながら、生存に執着するように。
「眠りなさい」
ジュリエットは再び炎の立方体を構築して、亜竜を箱の中へと呑み込んだ。
連続する呪いに亜竜の悲鳴にも似た唸り声が轟き、吐き出された亜竜は最早後ろ足で立つことも出来なさそうだ。
「――さようなら」
低く唸る亜竜へ、花丸は拳を握り締めた。
『死ぬ、死ぬ? 我が、死ぬ? オォォォ!! き、貴様だけでも!』
倒れた状態からなお、花丸へ飛び掛かるクラウに合わせるように、花丸は拳を撃ち抜いた。
●
戦いを終え、尾剣と傷の殆どない鱗を厳選してから集落へと戻ったイレギュラーズは、既に辿り着いていた戦士団と合流していた。
「お兄ちゃんだったら、妹を泣かせるんじゃねえ」
ジェイクは抱き着く妹を宥めるエディを見つけて声をかけた。
同じく、錬は亜竜種達を集めていた。
「この亜竜集落で暮らすなら危険に相対するリスクは減らすに限るからな、次がないようにしっかり覚えていけよ?」
それは言われずともではあるのだろうが、彼らへと職人として武器の手入れを教えるためである。
花丸とステラはイレギュラーズが到着する前に戦死した亜竜種達を弔っている。
黙とうをささげる2人と同様に、亜竜種の戦士団は静かに敬礼を示していた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
MVPは最も危険な役割を担ったあなたへ。
GMコメント
さてそんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
亜竜を討伐して、ついでに亜竜種を助けて尻尾と鱗をお持ち帰りするお話です。
●オーダー
【1】『剣の亜竜』クラウを討伐する
【2】『剣の亜竜』クラウから尾剣と鱗を回収する
【3】エディの救出
【3】のみ努力条件とします。
●フィールド
フリアノン周辺に存在する山岳地帯の一角。
周囲を撫で斬りにされたように開けた場所です。
視界は抜群、戦闘には一切の支障がありませんが、その代わりに遮蔽物ありません。
●戦闘開始時状況
皆さんはクラウによって周囲が撫で斬りにされ、フィールドが開かれた直後に到着します。
直ぐに戦闘を開始すれば亜竜種戦士団とエディ、ハンネスの14人を救出することが可能です。
●エネミーデータ
・『剣の亜竜』クラウ
鋭利に尖った文字通りの『剣』のような尻尾と硬質化した翼が特徴的なワイバーンタイプの亜竜です。
体長7~8mほどで非常に獰猛かつ自信家な性格をしています。
尾剣と呼ばれる尻尾の部分と鱗が今回の回収物です。
攻撃方法として尾剣を用いた近接レンジの斬撃、踏みつけ、噛みつき、突進、咆哮などが考えられる他、
尾剣を振って遠距離へ斬撃を飛ばす攻撃も考えられます。
また、非常に強力な尾剣の斬撃と牙には【邪道】属性を持ち、
踏みつけには【乱れ】系列、咆哮には【足止め】系列のBS効果があります。
●NPCデータ
・エディ
亜竜種の青年。
ハンネスと一緒に蔵的場所にあった祭具の『竜尾の剣』を触っているうちに壊してしまった青年。
その罪悪感から知り合いの戦士数人にお願いして、剣の亜竜に戦いを挑む計画でした。
・ハンネス
亜竜種の青年。
エディと一緒に祭具『竜尾の剣』を弄ろうとして落としてしまい壊してしまった青年。
・亜竜種戦士団×12
リザードマンタイプの亜竜種で構成された戦士団。
本来は『クラウの存在をエディとハンネスに見せることで挑む無謀を諫める』つもりでした。
残念ながら、クラウと正面から衝突する羽目になった彼らは、このままではあっという間に殺されます。
最速で向かえば救援に間に合います。その後はエディとハンネスを連れて撤退します。
●その他
・竜尾の剣
亜竜集落フリアノンにある、ごく小さな集団で開催される祈念祭の祭具。
剣の亜竜と呼ばれる亜竜の尻尾にある剣のような鋭い部位と鱗を用いて作られる剣とのこと。
亜竜の尻尾から取れることもあり、とんでもなくデカい上に重いため、武器として流通することはまずない祭具です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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