シナリオ詳細
夜廻組。或いは、辻斬り捕物帳…。
オープニング
●夜廻組
豊穣。
とある市街にて、夜ごとに誰かが遺体となった。
犯行は決まって夜のうち。
被害者は若い女性ばかり。
見るも無惨な刀傷だらけの遺体となって、哀れ路傍にうち捨てられているのが常だ。
市井では、やれ妖の仕業だ、辻斬りが出たのだ、と誰もが件の辻斬りについてを噂している。
同一犯とみられる犯行が10に迫ろうとした段階で、いよいよもって街役人も重たい腰を上げるに至った。
しかし、衛士による警備の網は掻い潜られる。
夜警を強化した上で、被害者は一向に減っていないのだから。
ならば、と役人は外部の者の力を借りることにした。
街に滞在していた腕利きの剣士3名による“夜廻組”を組織したのだ。
「夜の市井を、刀を腰に練り歩くんだ。おっかねぇってらないよ」
お猪口を片手にそう言ったのは、赤ら顔をした大工の男だ。
夜のはじめ、場末の酒場で男は件の“夜廻組”についてを語る。
「辻斬りの下手人はよほどに腕のたつ剣士って話でな。それに対抗する夜廻組の人員も相応に実力者揃いだそうだ」
彼らは正規の役人ではなく、ただ“腕が立つ”という理由だけで呼集された者たちだ。
時には3人1組となって、時には各々が手分けして、彼らは市街の警備に当たっているが、役人の予想では彼ら1人ひとりと、件の下手人の実力はほぼ同じであるという。
つまり、たとえ彼らのうち1人だけが下手人と遭遇した場合でも、十分に勝機はあるのだ。
むろん、勝機と同じぐらいに斬り負ける可能性もあるが……。
「はじめのうちは、たしかに一時、辻斬りは止んだ。あぁ、初めのうちはな。止んでたのはたったの10日ほどだ」
人は慣れるし、学ぶ生き物である。
はじめのうちこそ、警戒していた下手人もすっかり慣れて元通り……夜廻組の監視を潜っては新たに人を斬ったのがつい一昨日の話だ。
「このままじゃ誰もが安心して夜を眠れないってんで、とうとうお役人は大規模な辻斬り狩りを行うことにしたそうだ」
増やす人員は腕利きばかりを数名ほど。
それに伴い、現在の夜廻組である3名を筆頭とし、部隊を3つに分けることとした。
今回、募集する隊士は既存の3剣士の下に配置されるらしい。
「一番隊は、妖斬りで名の通った武士、セキエン。二番隊は、勇猛果敢たる流れの侍、エンリョウ。そんでもって三番隊は、女と見まがう美貌の剣客、キョウゴクドウ。おれぁ遠目に見ただけだが、それだけでもわかったね。あいつら、天性の剣士だぜ」
酒が入れば口も軽くなるものだ。
大工の男は、噂に聞いた各剣士たちの特技についてを軽々と舌に乗せて囀る。
例えばセキエンは【足止】【封印】【暗闇】を付与する怪しい剣技を。
例えばエンリョウは【飛】【致命】の剛剣を。
そしてキョウゴクドウは【無常】【失血】【連】の流れるような剣技を。
それぞれ流派は異なるものの、その実力は拮抗している。
市井の中には、誰が一番強いのかで盛り上がっているそうだ。
さて、そこまで語ったところで男はピタリと口を噤んで声を潜めた。
「そんでなぁ、実のところお役人は犯人に目星をつけているって話だ。そいつぁ、幾らか前に流れて来た身なりのいい武士で、名を悪五郎ってんだが……防御できない【必殺】の太刀の使い手だって噂でな。3剣士に匹敵するのは、もうそいつぐらいしかいねぇのよ」
ならばどうして捕縛しないのか。
簡単な話だ。
悪五郎と名乗る武士は、ここ暫くの間に行方を眩ませて、所在がつかめないのである。
此度の増員は、悪五郎の捕縛を目的としたものであると大工の男は予想していた。
「まぁ、隊士募集の話が天香家の耳に入ったそうでな。追加される人員も、どこぞの組織の腕っこきばかりだそうだぜ? こりゃ、辻斬り事件もそろそろ終いかねぇ」
なんて。
呵々と笑って、男は猪口をぐいっと煽った。
●辻斬り捕物帳
「というわけで、夜廻組に加入し辻斬り犯を捕縛してきてもらいたい」
場合によっては斬り捨てて帰って来るのも良しだ。
そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)はつまらなそうに吐息を零した。
「俺からしてみれば悪五郎とやらと同じぐらいに、3人の剣士も怪しいと思うのだがね。まるで英雄か何かのように謳っているが、剣客なんて突き詰めて言えば誰も彼もが人斬りだ」
無論、イレギュラーズに所属している剣士たちも、その多くが人を斬った経験を持つ。
剣術を修めるにあたって、想定している相手は多くの場合、同じ人である。
剣術とは、人をいかに効率良く斬るか、といった技術の名であろう。
「お前たちには3剣士の下についてもらうことになる。下手人候補の悪五郎を効率よく探すために……そして、3剣士の監視のために、な」
3人の剣士が怪しいとなれば、交戦の必要に迫られることもあるだろう。
また、市街に散っての夜廻となれば仲間たちが合流するのにも幾らか時間がかかることも考えられる。
「どう分けるかは集まった面子次第か。君たちならば上手くやれると信じているよ」
そういってショウは、手元に置いた地図を広げる。
目的の説明はこれで終わり。
となれば次は、戦場についての解説だ。
「街の設計者はひどく几帳面だったようだな。上から見ればまるでチェス盤のように道が敷かれている」
縦に9本、横に9本の通りが並ぶ街並みだ。
通りの幅は、どれも揃って8メートルほど。
直線距離にして、500~600メートルといったところか。
「道が多いのが厄介だな。迷う心配は無いだろうが、隣接する通りの様子が伺えない」
建物を挟んだ反対側で、辻斬りが犯行に及んでいることも十分にあり得るということだ。
被害を出さずに事件を収束させようと思えば、それなりに用意が必要だろうか。
「場合によっては、こちらから囮を出すのも有りか? いや、それも面子次第だが」
上手くやってくれ。
そういってショウは、イレギュラーズを送り出す。
- 夜廻組。或いは、辻斬り捕物帳…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●辻斬り夜想
しんと鎮まる夜の道。
空に浮かぶ月には叢雲。
肩を並べて夜道を急ぐ女が2人。
「辻斬りね……若い女ばかりを狙ってるらしいが、何か目的があるのか? 単純に腕試しってんなら狙う相手としちゃ不適切だ」
外套から零れた灰の髪を直しつつ『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は問うた。シオンの隣を進む『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)は、布で包んだ剣を後生大事に抱え、声を潜めて言葉を返した。
「若い女性のみを狙うというと、ただ“斬りたいだけ”という線が濃厚でしょうか。どちらにせよ罪なき人の平穏の為に、解決させていただきましょう」
そう言って、2人は夜道を進む。
先ほど街に付いたばかりの旅人を装い、営業している宿を探している風に。
豊穣のとある街。
辻斬り事件に怯える人々に安寧な日々を与えるため、役人によって親切された組織の名こそが“夜廻組”だ。
初めに呼集された3人の剣士を筆頭に、イレギュラーズ6名がその隊士として組み込まれた。
一番隊~三番隊と、部隊を3つに分けた人海戦術により、辻斬りを早々に捕えようという算段だ。
まず街の東端を進む一番隊。
隊長はセキエンという寡黙な剣士だ。
妖斬りで名を馳せた流浪の武芸者であるセキエン。
部下として配属されたのはの八尺を超える巨躯の鬼『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)と、メタリックな装備に身を包んだ『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)の2名である。
「……行くぞ」
囁くような声で一言そう言って、セキエンは夜の町へと繰り出す。
「おう。今回の夜廻りで見つかってくれると良いんだけどな」
「はい。人に危害を加え脅かす存在だというのであれば、宇宙保安官として必ず止めてみせるであます!」
そんな風に2人は士気を高くする。
それを僅かに一瞥し、セキエンは小さな溜め息を零した。
町の中央。
三番隊の隊長は、女性と見紛うばかりに美しい剣士である。
「最初にお会いした時、あまりの美しさに女性かと思いました」
見回り途中の雑談として、或いは内心に探りを入れる目的で『忠義の剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)は隊長……キョウゴクドウへと話しかけた。
「ん? そうか……女顔は生まれつきでね、美しいといわれて悪い気はしないが、剣士としては複雑だね」
「随分と落ち着いたご様子で」
飄々とした態度を崩さぬキョウゴクドウへ、『風雅なる冒険者』志岐ヶ島 吉ノ(p3p010152)はそう問うた。
凛とした声に耳を傾け、キョウゴクドウは足を止める。
「そういう君は、随分と怒っているみたいだけど」
「若い女性ばかり狙う辻斬りとは……不届きにも程がある!」
「……そうかい。でもまぁ、起こったって失われた命は戻ってこないし、悪五郎も出てこない。いざという時に備えて油断はしちゃいけないが、だからといって……焦り過ぎてもいいことは無いさ」
なんて。
鈴の鳴るような声音でそう言って、キョウゴクドウは再び歩き始めるのだった。
そして、町の西端に配置された二番隊。
「よぉし! 揃ったか! では早速、夜の町へと繰り出そう!」
吠えるような大音声に『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は耳を押さえて顔を顰める。声の主の名はエンリョウ。筋骨隆々とした体躯に無数の傷を負った豪放磊落なる剣豪である。
「…………」
エンリョウと『特異運命座標』嘉六(p3p010174)を交互に見やる鹿ノ子。その顔には疑問の感情が浮いていた。鹿ノ子の疑問を体現するかのように、肩に座ったイタチも小首を傾げている。
それというのも、事前にショウより与えられた「3剣士も辻斬りの容疑者である」という情報のせいだ。豪快な様のエンリョウが、辻斬りなどとこそこそした凶行に及ぶようには到底思えない。
「うん? どうした? 2人とも相応の腕利きと聞いているが、やはり慣れぬ町での辻斬り退治は恐ろしいか? ならば心配はいらん。儂が守ってやるからな」
なんて。
いかにも人の良さそうな調子でエンリョウは笑う。
「いや、なに。女ばかり狙うなんて……趣味が悪いと思ってただけさね。あぁ、可哀相に」
帽子の鍔を引き下げて嘉六は応える。
その肩には一羽の雀。
嘉六の呼び出した使い魔だ。
ピピピ、と雀が何かを知らせるように鳴く。
「……通りの奥に誰かが。僕が引き付け役をしますっス」
腰の刀を引き抜いて、鹿ノ子は姿勢を低くした。
果たして、夜の闇に紛れたその者は鹿ノ子の殺気に気づいただろうか。
チャリ、と。
暗闇の中、鯉口を切る音がした。
●大捕物
夜闇を劈く雄叫びは、エンリョウの放ったものだった。
「あくごろぉぉおう!!」
鹿ノ子を追い越し、まっすぐに夜闇の中に佇む武士へと斬りかかる。
大上段に構えた大太刀。
駆ける勢いを乗せた斬撃。
鉄兜さえ斬り裂くだろうその一撃を、武士……悪五郎は刀の腹で受け流す。
姿勢の崩れたエンリョウが、無防備な首を悪五郎へ晒した。
「嘉六さんは、仲間への伝達をお願いしますッス」
エンリョウの突撃に虚を突かれ、停止していた鹿ノ子は正気を取り戻して前へ。
地面を強く踏み締めて、健脚を活かした跳ねるような急加速。
一瞬の間に悪五郎との距離を詰め刀を一閃。
悪五郎は、刀の腹で鹿ノ子の斬撃を受け止める。
地面を踏み締め、腰を捻った鹿ノ子は2撃目、3撃目と続けざまに斬撃を見舞った。それを器用に刀で受け、悪五郎は訝し気な顔で鹿ノ子の様子を観察している。
「お前様方、いったい何の真似だ?」
エンリョウと鹿ノ子の攻撃をいなしながらも、悪五郎は2人を斬ろうとはしない。銃を手にした嘉六へと注意を向けつつも、現状の把握に努めようとしているようにさえ見える。
「お主は見ておるだけか? その銃は飾りか、脅しのための道具か?」
エンリョウの膝を蹴り飛ばし、鹿ノ子の身体を背後へ流す。
悪五郎の問いに対し、嘉六は牽制目的で1発の銃弾を撃ち込んだ。
一閃。
刀の一振りで鉛の弾を両断すると、悪五郎は正眼の構えを取る。
「あのよう、俺ァちと怒ってんだよな。男が何人どうなろうが構いやしないが、女はなあ。駄目だろ。……分かるか?」
「ふむ……辻斬りのことか」
「……あん?」
話が今一、噛み合わない。
否、そもそもこの斬り合い自体がエンリョウの突進からなし崩し的に始まったものだ。
膝を押さえるエンリョウへ、嘉六はちらと視線を向けると一つ小さな吐息を零す。
剣戟の音が鳴り響く。
町の中央、セキエン率いる一番隊の進む通りだ。
次いで、夜空に火薬の弾ける音が轟く。
「出たかな? では、急ぎ向かうとしよう」
腰の刀に手を伸ばし、キョウゴクドウは視線を東へ。
そちらへ向かい、駆け出そうとしたキョウゴクドウと吉ノの2人をルーキスは慌てて引き留める。
「どうしたと言うのだ? 速くいかねば、辻斬りを逃がしかねない」
「まぁ、落ち着いてください。事態は思ったよりも複雑化しているみたいです」
ほら、と肩に乗せた鼠を指さしてルーキスは言う。
ムサシに預けた鼠を経由し得た情報では、現在、彼は孤立しているようだった。おそらく一番隊は、3本の通りを分担して散策しているのだろう。
「爆音が聞こえたのは一番隊の担う方面。しかし、悪五郎が出たのは二番隊の担当している区画だったのでしょう?」
迂闊に戦場へ跳び込めば、戦場を混乱させることは必至であろう。そうなれば、最悪の場合、辻斬りを逃がすことも考えられる。
「我々は慎重にならねばいけない。万全を期して挑み、今夜で事件を終わらせるために」
「……つまり、迂闊に現場に跳び込むなということかな?」
それでいいか、とキョウゴクドウは吉ノに問うた。
「あぁ、その正体必ず突き止め、成敗してくれる!」
時間は少し巻き戻る。
町の東端、十字路へと差し掛かったセキエンはふと足を止め左右の道を指し示す。
「散開だ。直進した先に何かいる。俺が追い立てる故、2人は左右に分かれて敵の背後へ回れ」
逃がすなよ。
短い指示を残したセキエンは、ゆっくりと気配を殺して直進を開始した。
一瞬、顔を見合わせて獅門とムサシは言われた通りに左右の道へと歩を向ける。
音も無く。
夜闇に紛れて迫る人影。
背後より迫る凶刃を、シオンは短剣で受け止める。
火花が散って、襲撃者の顔が夜闇に浮いた。
痩せた顔に、陰鬱とした目つき。
襲撃者はセキエンだ。
「個人的にはキョウゴクドウあたりが怪しいと踏んでいたんだがな」
短剣の腹に刃を滑らせて受け流す。
振り抜いた刀の切っ先が、シオンの頬から外套にかけてを斬り裂いた。顕わになる獣の耳を視界に捉え、セキエンは小さな舌打ちを零す。
「……獣の勘か。抜かったわ」
「狙いやすい獲物と思っただろ? どちらも若い女性だからな」
セキエンの腹を蹴り飛ばし、シオンは背後へと跳び退る。
外套の背に手を伸ばし、取り出したのはパンツァーファウスト型のクラッカーだ。
数歩、後退するセキエン。
その隙をついて、シオンは空へと榴弾を打ち上げた。
火薬の爆ぜる音が鳴る。
次いで、空気を裂く音がした。
綾姫の振り抜く機械の剣より撃ち出された飛ぶ斬撃が、地面を抉り、闇に紛れたセキエンを襲う。
「下郎め……か弱い女を斬って悦に浸るとは」
闇の中で、金属の擦れる音が響く。
綾姫の斬撃は、セキエンに弾かれたようだ。
闇に紛れて背後に近寄り、命を奪う一撃を見舞う。これまで被害に逢った女性たちも、動揺の手口で斬り捨てられたのだろう。
「一応、聞くがあんたが辻斬りで間違いないか?」
短剣を手にシオンは闇の中へと跳び込む。
微かな臭いと気配を頼りに、シオンはセキエンを斬り付ける。
「……だったらどうした?」
音も無く、振り抜かれた刀がシオンの胸部を深く斬り裂く。
血を吐くシオンの背を刀の柄で殴りつけ、弾丸みたいな速度でセキエンは闇の内より疾駆する。月光に照らされながら、あっという間に綾姫の懐へと潜り込む。
下段より放った一撃が、綾姫の肩を抉った。
「委細承知いたしました。では……地獄へ叩き込んで差し上げましょう!」
片腕を犠牲にしながらも、綾姫は剣を振り下ろす。
ごう、と魔力が渦巻いて不可視の斬撃がセキエンの胸に裂傷を刻む。
胸を裂かれたセキエンが逃走に移る。
鮮血の飛沫をあげて、前方向へと転がったセキエン。その頭上を、綾姫の飛ぶ斬撃が通過した。
背後より迫る気迫……或いは、魔力の奔流は凄まじい。
頬に浮かんだ冷や汗を手の甲で拭い、セキエンは小さな舌打ちを零した。
ここに来て、彼ははじめて感情らしい感情を表に出したのだ。
しかし、不意打ちでシオンと綾姫を仕留め損なった以上、この場に留まることは危険と判断したの辺り、まだ冷静さは残っている。
ともすると、2人を斬って辻斬りの下手人役を押し付ける算段だったのかもしれない。
しかし、セキエンの逃走は失敗に終わる。
「やっぱり強ぇ奴と戦った方が楽しいよなぁ!」
十字路に差し掛かった瞬間、獅門が斬りかかったのだ。長身から繰り出される兜割りを、寸でのところで回避してセキエンは「待て」と短く告げた。
「下手人は俺ではない。あの女たちだ」
「んなわけあるかよ! あの2人は俺の仲間だ!」
「っ!?」
「っつーわけで、やることは一切変わらねえ!」
獅門が袈裟に大太刀を振るう。
その一撃を回避しながら、セキエンは獅門の脇へと刀を突き刺した。
深く、骨の間を縫って、刀は獅門の内臓さえも傷つけただろう。
しかし、その代償は支払わされる。
伸びきったセキエンの手首に青白い光が走った。
「自分の剣はまだまだ拙いでありますけれど」
獅門の身体を壁にして、不意打ち気味の一撃を見舞ったムサシが吠える。
驚愕に目を見開いたセキエンは、斬れた手首を蹴り飛ばし握っていた刀を無事な右手で取り上げた。
手首を切られてなお悲鳴をあげない辺り、彼は一端以上の腕と覚悟を持った剣士なのだろう。
そんな彼が何故、辻斬りなどという凶行に及ぶことになったのか。
「そこを退け」
右手だけで振るうにしてはセキエンの太刀筋は恐ろしく速く、正確だった。
獅門の両膝を撫で切り、次いでムサシの手首を刺し貫く。
「っ……やはり近寄るのはかなり危険であります」
血を撒きながらムサシは後退。
得物をレーザーソードから、ビームキャノンへと持ち替えた。
「決まりだね」
そう呟いたキョウゴクドウは、背後に控えるルーキスと吉ノを振り返る。
ここまでのやりとりから、新規の隊士や囮役の女性2人がグルであると理解したのだ。
「極力無力化して捕縛したいが、さてどう出るか」
「投降を勧めてみますか?」
「……聞いちゃくれないと思うけどね」
なんて、キョウゴクドウの零した言葉をきっかけに、3人はそれぞれの得物に手を伸ばす。
奇しくも3人の選んだ選択は同じ。
斬り捨ててでも、セキエンの凶行を止めるというものだった。
●辻斬りセキエン
暗闇の中、僅かな明かりと剣戟の音を頼りとし、4人はまっすぐな通りを駆け抜ける。
先頭を駆ける鹿ノ子、その後にエンリョウと悪五郎が続く。
全力疾走の末、まずは鹿ノ子が現場へ跳び込むべく地面を蹴った。
刹那、最後尾を駆ける嘉六が慌てて足を止める。
「伏せろ!」
嘉六の声が耳朶に届くなり、鹿ノ子は這うようにして地面に伏せた。その頭上を、受け流された綾姫の斬撃が通過する。靡くツインテールの先端が切れて、はらりと雨のように降った。
「件の辻斬りか? よもやこれほどの腕前とは」
「いや、悪ぃ。今のはうちの仲間だな」
そう呟いた嘉六が視線を向けた先で、暗闇を引き裂く青白い光線が宙を走った。
今度はムサシの援護射撃か。
となれば、響く剣劇の音は獅門やルーキス、吉ノ辺りの仕業であろう。
「混戦極まれりっス」
ひと言、言葉を零すなり鹿ノ子は再び地面を蹴った。
鹿ノ子と併走するように、シオンが獣のように地面を駆けている。
左右に展開した2人は、僅かにタイミングをずらしながらセキエンへと斬りかかった。
「抉るように、何度だって!」
「コソコソ隠れて一般人殺して、程度が知れるぜ!」
鹿ノ子の刺突と、抉るようなシオンの斬撃。
セキエンは鹿ノ子の刀を自身の太刀で弾き退け、シオンの腹へ前蹴りを叩き込む。
空いた空間に身をねじ込ませ民家の壁へと背を付けた。
民家の中に人はいるのか。
一瞬の迷い。
「……この位置では」
悔しげに唇を噛んで綾姫が唸った。
掲げた剣に渦巻く魔力を解き放てば、セキエンに深手を負わせられることは間違い無い。けれど、背後の民家に住まう者を巻き込む恐れがあれば、迂闊にそれを振ることはできない。
綾姫、嘉六、ムサシの手が止まった隙に、民家の壁に添ってセキエンは逃走を開始する。
それを追うキョウゴクドウ。
迎え撃つは横薙ぎの一閃。
キョウゴクドウは腹を斬られて、血を吐き地面に倒れ込む。
「止めるぞ、悪五郎!」
「応。いい加減、疑われたままというのも辟易していたところでな」
壁伝いに逃げるセキエン。
セキエンを斬るべく、エンリョウと悪五郎が刀を抜いた。
しかし、2人よりも早くに動いた影が4つ。
「どんな剣であろうとも、使い方で人を殺せるし人を助けることもできる……ならば自分はこの剣を、この身を誰かの為に!」
レーザーソードを構えたムサシがセキエンの前に身を躍らせた。
技量の差か。
ムサシの剣が振り下ろされるより速く、セキエンはムサシの胸から腹にかけてを裂いた。
一瞬、セキエンの歩みが止まる。
「足を止めたな!」
獣の咆吼にも似た怒号。
大上段に大太刀を構えた獅門が前へ。血を流す腹へ向け、セキエンは刺突を撃ち込んだ。
けれど、セキエンの突きは割って入ったルーキスが、その身を盾に受け止める。
ルーキスは脇を貫く刀身を握った。
裂けた手の平から血が溢れる。
「今っ!」
「応!」
言葉は短く。
気合いは上々。
獅門の振り下ろした斬撃が、セキエンの剣を二つにへし折る。
金属片の散らばる中、セキエンは素早く後退。脇差しを抜いて、背後へ一閃。
迫る吉ノの顔面に横一文字の裂傷を刻む。
顔を血で濡らす吉ノは、血走った目で、悪鬼か羅刹かといった形相で吠えた。
脇差しを握るセキエンの手から血が零れる。
「多少の傷など恐れず突き進むのみよ!」
「よく吠えた! とりあえずぶち込めるだけ弾ァぶち込むから、嬢ちゃんはただ斬り込んでいけ!」
嘉六の援護射撃が、セキエンの足首を爆ぜさせる。
吉ノは顔の血を拭い、刀をまっすぐ構えて駆けた。
既に血は止まっている。
失われた体力も、幾らか取り戻されている。
満身創痍のセキエンと、傷の癒えた吉ノ。どちらが有利かなど言うまでも無い。
「散々に斬って、路傍に捨てた女たちの恨み、一抹でも私が晴らしてくれよう」
1歩、大きく踏み込んでセキエンの腹を横に薙ぐ。
2歩、体当たりと同時に放った刺突は肺にまで達しただろうか。
吐き出す血を頭から浴び、けれど怯むことは無い。
「……女風情が」
「その女に斬られて貴様は終わるのだ」
斬。
振り上げた刀が、肺を裁って、肋骨を割る。
夥しい血をまき散らし、辻斬りは月明かりの下、その命を失った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
辻斬りは討伐され、市井には平和が取り戻されました。
また、夜廻組はしばらくの間、解体されずに活動を続ける模様です。
このたびはご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
辻斬り犯の捕縛or討伐
●ターゲット
・悪五郎
裃を身に付け、刀と脇差を携えた武士。
40がらみの厳めしい面構えをした男。
腕の立つ剣士らしく辻斬りの犯人と目されているが、現在は行方知れず。
忌流・魔王の太刀:物近単に特大ダメージ、必殺、防無
・セキエン
妖斬りで名の通った剣士。
細身で長身、比較的無口な性質らしい。
悪鬼狩り:物近単に大ダメージ、足止、封印、暗闇
・エンリョウ
傷だらけの身体をした大柄な剣士。
豪放磊落を絵に描いたような性質である。
豪放磊落:物至範に大ダメージ、飛、致命
・キョウゴクドウ
女性と見間違うほどに美しい顔をした剣士。
身のこなしが軽く、飄々とした性格をしている。
:神近単に中ダメージ、無常、失血、連
●フィールド
縦に9本、横に9本の通りが並ぶ街並み。
通りの幅は8メートルほど。
各通りは直線距離にして、500~600メートルといったところ。
通りと通りの間は家屋で仕切られている。
そのため通りから隣接する別の通りの様子を伺うことは出来ない。
時刻は夜。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet