PandoraPartyProject

シナリオ詳細

瑠璃色のFairytail

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 バルツァーレク領南部。豊かな海と山に挟まれた半島の根本。
 この辺りには王都を取り巻く権謀術数を他所に、豊かとは言えないまでも牧歌的な風が吹く地域がある。
 その中の一つを森と湖畔の村レリア、そしてルーシェンの森と呼ぶ。

 シャイネン・ナハトの夜に降り注いだ星達のざわめきも落ち着いた頃。本来の静けさを取り戻したラピスラズリの星空は森の妖精達に優しい光を灯していた。
 あまり人が立ち入らないルーシェンの森の中。星の光を浴びてほんのり光る小さなルーシェンの妖精達。
 妖精達の性格は温厚で好奇心が強く、時折人里に降りて来てちょっとした悪戯をして行くらしい。
 それで村人が困るような事も無いのでルーシェンの妖精達は彼らから親しまれていた。
 妖精達も村から少し頂いた食べ物で十分に満足するらしく、不思議な共生関係を築いている。

「くすくす」
「……ふふ」
 エバー・グリーンの木々が茂る森の中、ルーシェンの妖精達は楽しげに囁き合っていた。
 レリアの村人たちがくれたハンカチで作った小さなベッドの中、ほんのり輝く生まれたての妖精を皆で覗き込んでいる。
 赤や黄色、水色等のパッチワークで出来たハンカチを思い思いの形へ、赤ちゃん妖精がすやすや眠っれるように整えるのだ。
「……ぁ、えーん、えーん!」
 赤ちゃん妖精が泣き出した直後、妖精達の耳に聞きなれない音が入って来た。

 地震だろうか。低いうなり声にも似た音が辺りに響いてくる。
 かなり遠い。だが聞きなれぬ音に妖精達は一斉に羽を広げた。
「あれ、なに?」
「なに?」
「わからない」
 異質で、奇妙で、恐ろしい音。
「こわい」
「こわい」
 木々が響動めき鳥たちが羽ばたく音が次第に近づいて来る。

 きっと『良くないモノ』が来る。
 そう感じ取った妖精達は――


「それで、ラピスラズリを纏った妖精達は人里に助けを求め。そんな話がココ(ローレット)まで運ばれて来た訳なのよ」
「なるほどね」
 ギルドの情報屋『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)の声にローレットに集まったイレギュラーズの一人が相槌を打つ。
「で、結局のところ、どうなんだ?」
 背景は大雑把に理解した。後は何をすればいいのか。
 そんな質問にプルーは依頼の詳細な内容を語りだす。

 ルーシェンは比較的平和な森であるが、近隣に住む魔物がその場で暴れ始めているらしい。
 そうしたことは滅多にある訳ではなく、それ以上の背景は分かっていないそうだ。
 妖精達は村に避難しているが、住人達には少しずつ不安が広がっている。
「とりあえず、今なにか大きな被害が出ているっていう訳ではないらしいわ」
 森に何か魔物が居る。それだけの話だ。
 そうは言っても、か弱い妖精達の住処が荒らされていないという保証はどこにもない。
「規模そのものは小さく、軍がどうこうというよりは、冒険者の職分が適しているという判断だそうよ。村人(しろうと)に対処させるというのも、それはそれで難しいでしょうしね」
 なるほど。それでローレット(冒険者ギルド)か。
「このまま放っておいて、食料の問題。生活の急変による集団的なストレス。色々なことが悪い方向に転がりだすのは避けたいというのは、これはバルツァーレク伯の弁だけれど」
 小さな村一つに住む人々の生活まで考えるというのは、まあ領主様というのはお忙しい仕事である。

 さておき。
「どんな魔物が出ているのか、というのは分かるのか?」
 情報がなければ対策も何も、あったものではない。
「ええ、これを見てちょうだい」」
 当然の質問に、情報屋も当然の回答を返す。
 敵は犬のような怪物だが、大型で狂暴。口から毒の霧を吐く。
「――ダーダネラ・パープルの狂犬って所かしら」
「それから?」
「妖精達の話によると、頭が二つある個体が群れのボスみたいね。それと、鳥の魔物も何匹か」
「群の数は?」
「二十よりは少なそうって話よ」
 まあ、なんとかするしかないだろう。

 早速準備を整えよう。
「それと……武器や防具は、ちゃんと装備しないと意味がないわよ」
 そんなこと分かっていると、イレギュラーズは笑った。


 依頼を受けたイレギュラーズ達は、さっそくレリアの村へと足を運んだ。
 湖畔をなぞるように村へと続く道は、暖かな季節ならばさぞや風光明媚であろう。

「イレギュラーズが到着されたぞ!」
「ギルドローレットだ!」
「これで勝つる!」

 ごたごたと降り注ぐ歓迎の言葉を受けながら村の中を進み、森の入口に立った訳であるが。
「おねがい」「おねがい」「たすけて」
 今度はまとわりつくように集まってきた妖精達が、次々と窮状を訴えてきている。
 まあ、そんなに焦ってもらわずとも、どうにかすると述べてはみたが。
「……え、何だって?」
 その中に一つだけ、聞き返さなければならない訴えも混じっていた。
「そうなの、まだ、あの子がいないの」

 どうやら、森に取り残された仲間が居るらしい。

 妖精達は魔物が迫ってくる恐怖から、頼れる人間の居る場所へ避難するのが精一杯だったのだろう。
「うまれたての子、じぶんでとべない」
「おいてきちゃった、どうしよう」
「どうしよう」

 厄介な仕事が、一つ増えてしまった。

GMコメント

 もみじです。妖精の森と狂犬のお話です。

●目的
 成功の条件は魔物の壊滅と、うまれたての妖精の救出です

●ロケーション
 ルーシェンの森の中。
 魔物達が根城にしている場所のすぐ近くに開けた場所があります。
 広さは戦うのに十分です。昼間なので明るさは問題ありません。

●情報確度
 Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●うまれたての妖精
 魔物達が飛び出してきた所で、うつぶせに突っ伏しており、すぐに見つけられます。
 人の気配がすると寂しく悲しい声でぴーぴー泣きます。

 数日間も、よく生きていたものです。衰弱はしていますが、命に別条はありません。
 今まで食べられていない以上は、ひとまずはそのまま放置しても安全とは思われますが、適当なタイミングで助けてあげてください。

●敵
 森で妖精達の住処を追いやった魔物達。
 開けた場所に到着すると、全員ぞろぞろと出てきます。

○双頭のヘルハウンド
 群れのボスです。他の個体より強いです。俊敏性と攻撃力が高いです。
・ボイズンブレス(物近範/BS【毒】):毒の霧を口から吐きます。
・噛みつき(物至単)、切り裂き攻撃(物至単)を仕掛けてきます。

○ポイズンドッグ×10体
・ボイズンブレス(物至単/BS【毒】):毒の霧を口から吐きます。
・噛みつき(物至単)、切り裂き攻撃(物至単)を仕掛けてきます。

○レイジングバード×5体
 くちばしと爪で(物近単)攻撃を仕掛けてきます。

●コメント
 小さな森で困っている妖精を助けて下さい。
 よろしくお願いします。

  • 瑠璃色のFairytail完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月25日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
マリア(p3p001199)
悪辣なる癒し手
黒杣・牛王(p3p001351)
月下黒牛
ナイン(p3p002239)
特異運命座標
タルト・ティラミー(p3p002298)
あま~いおもてなし
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜

リプレイ


 アジュール・ブルーの空に高く登っていく鳥を見つめて『蒼焔のVirtuose』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)は目を細めた。
 あの空を登っていく鳥の様に大空を舞えば、美しく輝く星になることが出来るだろうか。
 楽器を手にしたヨタカはその場で演奏を始める。
(俺が特異運命座標になって初の戦闘任務……)
 戦闘などした事がない元貴族風情――自分に今出来る事は奏でる音色で仲間を鼓舞する事なのだろう。
 正直に言えば胸は苦しく、手には汗が滲んでいる。
 それでも。仮面で己の顔を隠していなければ、人前になど出ること能わぬ醜悪な自分であっても、この場で誰かの役に立つことが出来るはずだ。
「邪悪なる者は……退ける……! ……さぁ……奏でよう……俺達に贈る……凱旋の音を……!」
 強く響く勝利の旋律は仲間を勇気付け、己の心を奮い立たせる。
 ヨタカの演奏と共に戦場の幕が上がった。

 ヘルハウンドの眼光は前に走り出した『月下黒牛』黒杣・牛王(p3p001351)を捉える。
 牛王の腕は狂犬の頭を捕まえるが、もう片方の頭部が肩に噛み付きアガッドの赤を散らせた。それでも、纏わりついて離さない牛王の組手に頭を振り回し、戦場を動き回る狂犬。
 妖精の居場所を奪っただけでなく、赤子の命も危ういならば、この身を削ってでも救わなくてはならないと牛王は必死の覚悟で狂犬の前に立ちはだかる。
 ナイン(p3p002239)は戦場の端で手足を広げうつ伏せになっている赤子の妖精を一瞥した。
(私と同じ……いや呼び方が同じだけの違う存在か。電池じゃないし。サイズは親近感が沸いていいね)
 とてもいいと呟いて、自分へと向かってくる鳥に外装武具を構える。
 外見的には金属外殻に青いネオンの鎧であるが、その実、中に妖精程の小さな獣耳娘が乗っているのだ。
 妖精の赤子を見て親近感が湧くのも頷ける。頷いた所で、鳥が一体地に墜とされた。

「魔物退治だけと思ったら、生まれたての妖精の救出とわね……」
 眉根を寄せて肩をすくめてみせたのは、如月 ユウ(p3p000205)だ。
 しかし、セルリアンブルーの瞳は赤子の妖精を心配そうに見つめている。無事に助けることが出来るのか。無辜なる混沌に来る前ならいざ知らず。今の自分には絶対的な魔力も無く何処まで動けるかもわからない。
「……ぴー、ぴー」
 人の気配を感じたのか、赤子が鳴き声を上げ始めた。もどかしさが胸に込み上げる。
(大丈夫助けてあげるわ。だから、泣かないで頂戴。その鳴き声は自分の身を危険に晒すだけなのよ)
 ユウの想いが通じたのか眠気に襲われたのかは分からないが、再び静かに身を大地に投げ出す妖精。
 その様子を見て、少し安堵したユウは杖を掲げ辺りの魔素を自身の力へと変換していく。
「我、導きの加護を受けし者。この声が届くのならば、空へと誘え。導べとならん――」
 セルリアンブルーの瞳が煌きユウの魔力が放たれた。軌道線上に居たポイズンドックが小さい声を上げて絶命する。
「生まれてすぐに離れ離れなんてあまりにも可哀想ですのー……!」
 一番、庇護が必要な時に置いていかれる恐怖。まだ、自分が何であるかも分からない無垢なる魂。
 それが目の前で命の終わりを迎えるなんて断じて許せない。
『悪辣なる癒し手』マリア(p3p001199)はオパール・グリーンの瞳を上げて歌声を戦場に響かせた。
 赤子をすぐにでも戻してあげたい気持ちはある。しかし、戦場に犇めく狂犬共をなんとかしなければそれも叶わないだろう。
 この戦場を支える癒し手として。まだ微力な力なれど、役に立てるのならばと静寂とバラードをマリアは歌う。

 パイライトの瞳で『翼の無い暴食の竜』ヨルムンガンド(p3p002370)は盾とレイピアを構える。毒犬が集まっている戦場の真ん中へと走り声を上げた。
「魔物共……どっちが先に倒れるか勝負しよう!」
 妖精達の住処。この戦場に着くまでに見たルーシェンの森は美しく素敵な場所であった。何のためにこの魔物たちは此処へやってきたのか。ここを根城にするためか。食料を求めてか。けれど今は。
(原因探しよりも生まれたての妖精さん……早く助けてあげないとだ……!)
 ヨルムンガンドの名乗りに殺気立つ毒犬と鳥達。
『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はヨルムンガンドと戦場を分け、犬達の前に立ちはだかる。
(今のオイラの力でどこまでいけるか実践あるのみだ!)
 人助けセンサーで妖精の位置を確認したチャロロは戦場の端にいる赤子を見つける。
 あの位置ならば、踏まれる心配も無いだろう。妖精に近づかない様に距離を取り高らかに名乗りを上げたチャロロ。
「人呼んで炎の勇者、邪悪な魔獣をぶった斬る!」
 数匹の犬と鳥がチャロロの前に集まった。
 けれど、まだ自由な敵も多い。怒りに駆られていない魔鳥はチャロロとヨルムンガンドの間を抜け妖精の方向へ羽ばたく。
「ほ~ら☆ おバカな鳥さん、こっちよ♪」
 自分の身体を発光させ鳥の注意を惹きつけたのは『あま~いお菓子をプレゼント♡』タルト・ティラミー(p3p002298)だった。キラキラと光るタルトに鳥の意識は持って行かれる。
「あ、痛タタタ! ちょっと! 痛いわよ!」
 鳥に突かれながらタルトは妖精とは反対の方向へと敵を吹き飛ばした。



 戦闘は苛烈さを増して行く。

「命の奪い合いは久しぶりだけど。頑張っていこうか!」
 ナインの口調は意気込みが感じられるものであった。
 武装鎧に入っている時はテンションがまるで違う少女の顔はそれでも、虚ろな瞳に変わりはない。
 ナインの身体から溢れた魔力が敵の命を刈り取って行く。
 俊敏性の高い狂犬に食らいつき上手く抑えている牛王。彼の全力攻撃が狂犬の胴に食い込んだ。
 既に同じように牛王も狂犬から攻撃を受けていたが、マリアの歌の効果だろう、毒はまだ彼の身体を蝕んではいない。しかして、何時までその幸運が続くのか誰も分からないでいた。

 ヨタカはサルファー・イエローの瞳を伏せて思考を巡らせる。
(自然と共生しながら我々の人生に悪戯のスパイスを分けてくれる妖精達の産まれは様々と聞く)
 木々の音、鳥の囀ずり、赤ん坊の笑い声。そしてヨタカが羨望する星々の煌めき。お伽噺のような懐かしきしらべ。その安らな森に近寄る魔獣達の足音。
 産まれたばかりの妖精だけじゃなく、ここで自分達が負けてしまえば森全体に危害が及ぶ。
 否。森だけではない、妖精達が逃げてきた事によってレリアの村人達が不安がり、集団的ストレスが発生してしまうだろう。負荷をかけられた弦が切れてしまえば、楽器の音が失われてしまうのと同じ様に。
 ストレスからの破綻は調和を乱す先触れとなるかもしれない。この狂犬を倒さなければ森の平穏は訪れないのだから。
「そんなのは……許されない……!」
 ヨタカのリュートから奏でられる音色は魔力を帯び、増幅された振動が敵の鼓膜を揺さぶった。
 傷ついた牛王の傷がタルトの緑の抱擁に癒やされて行く。

 ――――
 ――


 ポイズンドックに囲まれるヨルムンガンドとチャロロ。二人の防御力を持ってしても長時間攻撃を受けつつければ体力は徐々に削られていくのだ。
 チャロロは毒霧に掛かり、体力をいち早く削っている。魔犬の牙が腕に食い込み痛みに汗が滲んだ。
 こんな所で負けるわけには行かないと思うのに、身体が上手く動かない。
 別方向から来る爪を避けるも、鳥の嘴が頭部を突く。敵の猛攻に膝をついたチャロロ。

「く……そぉ! オイラは負けない!」

 フレイム・オレンジの闘志を燃やし立ち上がる。立ち上がった勢いで鳥の頭をグレートソードが切り落とした。

 マリアは至極冷静な瞳で戦場を見つめる。敵の数はまだこちらの人数より多い。
 厳しい状況に表情が歪む。しかし、どのような困難であれ仲間が居れば乗り越える事ができるはずだ。
 マリアは逃げ出したい気持ちを抑え戦場に立ちづづける。
 誰かが傷ついているのならば、癒やすのは自分の役目だと思うから。
「この手に宿るは聖なる癒し。全ての傷を和らげる光となれ」
 聖女の手によって仲間の傷が癒やされて行く。
 ユウの魔力が高まる。辺りの精霊が呼応し、ユウのプラチナミストの髪が揺らめいた。高出力で放出された魔力は敵の命を散らせた後、青い残滓を空に霧散させた。

「私が盾になれば皆も妖精も大丈夫なはずだ……!」
 ヨルムンガンドが敵に囲まれながら声を張り上げる。彼女のラピスラズリを思わせる髪と瞳から闘志が噴き上がるようだった。
 ひとりぼっちの寂しさを知っている。
 仲間が自分を置いて何処かへ行ってしまうのをこの目で見上げた。
 耐え難い空腹を知っている。
 この腹は底なし沼の様に満たされることが無い。
 だからこそ、この盾を振るうのだ。戦場の隅で寂しさと空腹に耐えているであろう妖精のため。
 ヨルムンガンドの攻撃が犬の頭部を打ちつけた。

 戦場は完全な乱戦に近く、コントロールは至難を極めた。
 各個撃破はならず、正に命と命の削り合いをイレギュラーズ達は強いられている。
 敵の数を減らすごとに仲間の体力、魔力は擦り減っていった。

 そして――

 時に運命は残酷な采配を告げる。


「――牛王さん!」
 土の上を滑る牛王。瞼の裏に残るのは”彼女”の姿。
 これが走馬灯という奴なのだろうか。薄れ行く意識の中で彼女が手を差し伸べてくれた気がした。

 ――ああ、どうか。

 それは強い想い。牛王を人間足らしめる恋慕の情。
 泥の中に沈む身体を掬い上げられる気がした。彼女の手の温もりを感じた気がした。

 ならば。

 ならば――!

 立ち上がらければならない。

 ――杣、どうか私に力を貸してください。

 漆黒の夜空、月夜の下。薄紅色の風呂敷がふわりと舞って。
 牛王の優しさを抱く瞳は黒曜石の如く輝いていた。
 そして、目の前に見えるのは、ヘルハウンドと対峙するヨルムンガンドの後姿。
 牛王の窮地に狂犬の前へと走り込んだヨルムンガンドは双頭の頭を盾で押さえつけていた。
(ああ、何て。仲間というものはこんなにも頼もしいのか)
 自分一人では成し得なかった事を、仲間の助けによって成就させる事ができる。
 それはこの戦場にいるイレギュラーズ全員が感じている事でもあった。
 牛王がここまで一人で支えきったからこそ、ヨルムンガンドとチャロロはポイズンドッグを引きつける事ができたのだから。

 しかして、体力を限界まですり減らしたヨルムンガンドは肩で息をしていた。
 あと一息。あと一歩なのだ。
 ヨルムンガンドの盾が一瞬弾かれ、空きを付いて狂犬の顎が迫る。
 防御の硬い彼女のを持ってしても、完全に防ぎ切る事叶わず。狂犬の牙はヨルムンガンドの喉元に突き刺さった。
「が、ふっ……!」
 口からアガットの赤を零しながらヨルムンガンドは倒れ込む。けれど、その手は双頭を掴んだまま。
 まだ、彼女から闘志は消え去っていない。まだ、諦めては居ないのだ。


「竜を簡単に倒せると思うなよ……!!!」


 星空を讃えたラピスラズリの光がヨルムンガンドを包み込む。
 マリアはオパール・グリーンの瞳で戦場を見据えた。
 彼女には傷ついた仲間の損傷具合が手に取るように分かる。一番体力が奪われているのは僅差で牛王であろう。しかし、次の狂犬の攻撃を受けてしまえばヨルムンガンドに命の危険が及ぶ。
「必ず……必ず助けてみせますのー……!」
 マリアの脳裏に焼き付いて離れない、か弱きものの死。救えなかった命の灯火。
「目の前で亡くすのはもうたくさんですものー……!」
 この戦場においての最良を選び取る。マリアはヨルムンガンドに癒しの光を与えた。
 ヨタカの演奏は膨れ上がる魔力となり狂犬の体力を削っていく。

 魔力の枯渇に瞑想をしていたナインは黒銀の瞳を薄っすらと開けた。そこに広がる大地と森の緑、仲間の姿に少しだけ安堵する。目を開ければ『あの場所』に戻っているのではないか、この世界は夢で、本当は機械に繋がれたままなのではないのか、と心がざらつくのだ。
 それを証明する事はできないけれど。それはそれで今を楽しめばいいのだとナインは思う。こんなにも自由で色鮮やかなのだから。
 ちらりと戦場の端に居る妖精を見遣った。自分には迎えにきてくれる仲間は居なかったから、この赤子には幸せになってもらいたい。それで……。
 幸せな妄想は後にしよう。思考を切って戦場に意識を向けるナイン。
 息を吐いて、武装を構える。
「吹っ飛べ!!!」
 シアンの魔力がナインの武装から溢れ、双頭の狂犬の首一つを爆散させる。
 ユウもナインと同じく人間に利用され搾取された精霊であった。
 本来少女は優しい気質で人を助け慈しんでいたのだ。しかし、その優しい性格が仇となり捕まった。繰り返される実験で記憶は欠落し、身体の機能は低下したのだ。この世界に来て救いがあるとすれば、友人と共に降り立つ頃が出来たことだろう。気心の知れた相手というのは心強い。そして、コテージに集った人々はユウの新しい友人となるやもしれない。この戦場を共にする人々と仲間になるやもしれない。
 この世界には可能性が溢れているのだから。だからこそ。
「……敵には容赦はしないわ」
 高位の精霊たるその挟持。ユウの身体から魔力の奔流が解き放たれた。

 タルトはいつになく真剣な表情で戦況を見つめていた。
 いつもの彼女であればふわふわと取り留めのない、そしてどこか悪戯好きな顔を見せるというのにだ。
 命の危険が迫る戦場ではいつもの様にはいかないという事が、緊張感がヒシヒシと伝わってくる。
「ボクが本気を出すって? そんなの期待しないでほしいわよ」
 魔力も残り少なくなっていた。最善の策はどれだと思惟する。牛王への回復か、狂犬への攻撃か。
 狂犬に攻撃の照準を合わせようとするタルトの頬に汗が滲む。
「あー! もう! パイ投げたくなるわ!」
 攻撃の手を翻し、剣を構えていたチャロロへに柔らかな緑光を降らせた。
「あとは、任せたわ☆」
 それは信頼の証だった。自分の攻撃を回復に回してでも次の一手を仲間に託す。
 この時、運命の采配は仲間を信じたイレギュラーズに傾いたのだ。

 チャロロ闘志に呼応してクローム・レッドとメタルブラックの重装甲の隙間から光が漏れる。
 それは誰かを助けたいという願い。誰かを守りたいという意思。
 子供だからと侮るなかれ、この胸に抱く正義の心は誰よりも強く気高くあるのだから。
 そう、仲間と離れ離れになった赤子に自分を重ねた。何としても助けてあげたいと思った。
 だって居なくなってしまう怖さは知っているのだから。
 だから――


「オイラの剣をくらええええええええ――――――!!!」


 タルトが癒した魔力をこの一撃に変えて。チャロロの怒声と共に剣が振り下ろされた。
 ダーダネラ・パープルの狂犬は熱い志の少年の手によって地に伏したのだ。




 顔を上げた赤子の妖精は、覗き込んでいる人間たちに手を伸ばした。
「ぴー、ぴー」
 甘えるように鳴く赤子をイレギュラーズ達は囲んで見遣る。
 ヨタカは安らかに眠れるよう、子守唄を奏でた。それは煌めく星々がさざめく夜の旋律。ヨタカが目指す希望の夜空の調べ。
 ナインは武装を開き、中から妖精と同じ位の少女の姿を見せる。ふわりと地面に降り立ち、中ほどから黒くなった自分の腕で妖精を抱え上げた。どこか暖かく柔らかい。
 折角の縁を大切にしたいとナインは思っていた。
(それで、いつかもっとやる気がある時。幸せな内に……)
 腕の中でぐずる赤子をあやしながら、ナインは少しだけ口の端を上げる。
 こんなに可愛らしい妖精達に、何度も悲しい思いをさせたくはないと、頷いて。
「大丈夫……もう怖くないよ」
 ヨルムンガンドは村人に貰った毛糸のハンカチで赤子をくるみ、そっと頭を撫でた。
 衰弱している様子はあるが、どうしたら良いかとチャロロは赤子を覗き込む。
 チャロロが元居た世界にも妖精や精霊は存在したが意思疎通は難しく形のない存在だった。無辜なる混沌では実体を持つ妖精も居るのだと感心する。
「一応綺麗な水持ってきたけど飲むかな?」
 チャロロは飲みやすい様に葉っぱに少量ずつ移して赤子に水を飲ませた。
「ほら、ビスケットもあるよ! 食べな♪」
 タルトは手にしたお菓子を少しずつ赤子の口に運ぶ。ポロポロと口の端から零しながら勢い良く食べるのを見てタルトは満足気に笑った。

 マリアは狂犬達の死体にこの戦場の元凶が無いか探ろうと調べていた。強制的な力を示すものは見つからず、真相にたどり着くのは難しそうだ。
 しかし、なぜ。
「これは……」
 狂犬の体毛についていた植物の種をつまみ上げる。植物には生息分布があるのだから、持ち帰れば多少なりとも情報となるだろう。
 ヨルムンガンドが森の動物達の声を聞いて回る。動物なりの疎通は出来るのだが要領を得ない点も多かったが、断片的な情報をかき集めた。
 纏まりのない動物たちの声が一様にして答えたのは「向こうから来た」と言うことだけだった。
「……北かぁ」
 ヨルムンガンドは顔を上げて北の山脈を見つめる。

 牛王はお腹がいっぱいになった赤子を毛糸のハンカチごと風呂敷に入れて帰路につく。
「この風呂敷は杣の形見で、私の大事なものですが……特別、です」
 ほんの僅かな間でも怖い思いをしながら一人でいることは、数日の飢えよりも辛いと思うから。
 少しでも安心出来る様にと、村への道を歩き出した。
 その様子を遠巻きに眺めていたユウは、ほっと肩を撫で下ろした。
「無事で良かった」
 ぽつりと呟いたユウの声はラピスラズリを纏った妖精達の森に小さく溶けて征くのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
少しでも皆様の物語に彩りを添えられていたなら幸いです。

称号獲得
ヨルムンガンド(p3p002370):『聡慧のラピスラズリ』

ご参加ありがとうございました。もみじでした。

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