PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あたしだけにぎゅっとして

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●瞼の裏にI
 一年は短く――そして長い。
 目が覚めた時、リア・クォーツ (p3p004937)の長い睫に朝露が遊んだ事は一度や二度では無かった。
 泥のように疲れて眠り、薄いシーツ一枚だけで世界と隔絶されて目を覚ます。
 クォーツ院での日常は一見して何も変わらないように見えて、一時も同じ事は無く。
(大きいけど)小さな胸を締め付ける不安と、こめかみの奥でちらつく無視出来なくなった『痛み』は常に彼女を苛んでいた。
「……逢いたい」
 それは過分な望みではない筈だ。
 少なくとも彼女は『こう』なって以来も『彼』が何度も院に足を運んでくれた事を知っている。
 非常な多忙の間を縫って――こんな身分の釣り合わない女の為に。
 思慮深い彼は詮索をせず、子供達にお土産を渡し、首を振るシスターに寂し気な笑みを浮かべ「また来ます」と頭を下げるだけだった。
「逢いたい……」
 気丈なリアの鼻がぐすっと音を立てた。
 漏れた言葉には普段の彼女にはない弱気な湿度がある。
 仮に弟(ドーレ)が見たならば見違えただろう程には彼女の美貌は弱々しく見えた。
 あの日、あの時。
 口付けを交わした事は夢か何かだったのだろうか。
 酷く喪失した現実感に揺蕩い、リアは無意識の内に己の唇に触れていた。
「どうして、こんな事に――」
 普段と同じように過ごすように心がけている。
 気の置けない仲間と『無理』に過ごしている。
 家族の面倒を焼き、時には馬鹿もやって――でも『彼』は駄目だ。駄目なのだ。
 頭が割れるように痛くて、取り繕う事も出来ないのだ。
「……っ……」
 小さく嗚咽を漏らしても、応えてくれる者は居ない。
 私は――理由も分からない呪いを受ける程に『わるいこと』をしてしまったのだろうか?

●瞼の裏にII
 焼き付く光景はきっとあるものなのだろう。
 どれ程愚かであろうとも。どれ程不合理であろうとも。
 長きを生きる幻想種の自分ですら、もう二度と振り切れないであろう光景があると知ったのだ。
 呪いのように自分の心を捉えて離さない、甘く苦い痛みが、そんな鎖があると知ったのだ。
(人間なら、尚更なのでしょう?
 それが貴方を開放する事は、きっともう無いのでしょう?)
 ドラマ・ゲツク (p3p000172)は或る意味で――『それ』と戦う意味がない事を知っている。
 己に勝ち筋が無い事を――奇しくも『彼』に倣った『卓越した戦略眼』で理解している。
 ただ、ただそれでも。諦めきれないから呪いは呪いなのだ。
『はしか』に掛かるならば若い頃の方が良い。ドラマは若年の幻想種だが、それを知ったのが少し遅すぎただけだ。
 近付けば近付く程に遠ざかる、捕まえたと思ったらするりと逃げてしまう。
 逃げ水のような恋を続ける事は簡単ではない。
『多くの子がそうして破れただろう気持ちをドラマは痛い程知っていた』。
(……ねぇ)
 戦い方を教わって、人並み以上に強くなった心算だけど。
 人の悪い師匠は自分の勝てない相手への対処法は教えてくれないのだ。
 肝心要、ドラマの苦慮するこれにだけは答えをくれたりしないのだ。
(ねぇ、レオン君――どうしたら『それ』に勝てますか?)
 永遠に褪せない美し過ぎる原風景に。
 あんなに疲れも貴方を繋ぎ止めたままの、『貴方のはしか(ざんげさん)』に――

●ぴょい
「――つー訳でパンパカパーン!
 新年あけましておめでとうございます!
 KUSODEITE――じゃなかった、皆のクリスト=Hades-EXですYO!
 旧年中はお世話になりました! 本年も宜しくお願いいたしますDEATHヨ!」
「……すぞ……」
「What?」
「――殺すぞ、てめぇ!!!」
 目を開けた時、目の前にあったその顔に思わず涙ぐみかけたリアは十秒後には魂の底からの叫びを発する事になっていた。
 その空間はリアには経験のある場所だった。忌まわしき記憶、忘れ去った筈の出来事。蘇る悪夢。
 ソイツと絡む時、必ず訪れるのは『災厄』だ。最近はちょっとだけ見直してやった所だったのに。
「い、一年振りなのよ……」
 思わず漏らしたリアの目の端に大粒の涙が浮きかかっていた。
 彼女は普段、涙を流すようなタイプでは無いが揺れに揺れる情緒は彼女の涙腺をやや破壊している。
 気丈でも傷付かない訳ではない。むしろそう思わせないだけで、リアはもうずっとボロボロだったのに。
「……流石に引くのですけど?」
 そう零したドラマがその場にあるもう一人の顔を見た。
「……………いや、ごめん。正直ちょっちやっちゃったYO。
 リアchangを泣かしたかった。でも泣かせたくは無かった。今は反省している。
 ドラマchang虐待に切り替えてゆく」
「そ、の、か、お、で! 謂わないで欲しいのですけれども!?」
 ……本物も平気で言いそうだから、とはドラマは言わなかった。
 閑話休題。
『そいつ』が関わっている以上は理由を問う事は愚かしいのだろうが――
 気付けばリアとドラマの二人は良く分からない空間に居た。
 前後左右上下さえ定かではない。光は差していないのに暗くない。
 お互いの顔や状況を認識するのに困らない――如何なる魔法か恐らく閉じ込められた異空間は伝え聞く『彼』のゲイムを思わせるものだった。
「いや、俺様changさ。最近割とローレット見てるもんだから。
 何だっけ、闘技大会? アレ二人が優勝してたからお祝いしようかと思ってさあ!
 特別なゲイムに招待してあげようかと思って!」
「思ってじゃねえ! 頼んでねえよ!」
「頼んだでしょ?」
「……………」←記憶喪失中
「私は本当に頼んでませんが???」
「手が勝手に同意したんでしょ?」
「……………」←明後日を見た
「まぁ、そういう訳だからNE。二人共、闘技(スポーツ)に汗を流すのもいいけどさ。
 恋の抑圧は恋で解決しないといけないなって思ってNE」
「もうその導入から嫌な予感しかしねぇんだが?」
 クリスト(見た目はガブリエル)は罵り難い。渋面のリアにドラマがコクコクと頷いた。
「まあまあそう言わず。そこで二人にはステージをやって貰う事になりました!
 俺様changゲイム2022、一発目! タイトルはその名も『ぴょい』!
 二人にはズキュン☆ドキュンと青春真ん中に走り出して貰います!
 歌って踊って切ない恋を健康的に昇華しようNE!」
「絶対にお断りしますが!?」
 クリスト(見た目はレオン)の宣言にドラマが悲鳴を上げた。
 何だかんだで二人共異様な状況に順応の速さを見せているのはいとおかし。
「二人にはトップアイドルとして闘技優勝のウィニングライブをしてもらいますYO!
 会場のオーディエンスはいい感じならアガるし、ダメダメならサガりますYO!
 クリア基準は簡単で会場がマックスになれば大勝利。無事に元の世界に帰れるZE!
 ……うーん。温い感じだったら、五十年位は居残りして貰おうかな???」
 無言でキレたリアがクリストに掴みかかり――引き攣った顔でその手を止めた。
 それを説明するのは何度も夢に見たガブリエルの顔であり、聞きたくて仕方なかった穏やかなその声だったから。
 しかも全く――頭は痛くない。
「……一応確認しますが。絶対に、やらされるのですよね?」
「オフコース」
「では、フェアなゲイムにしましょう」
 死にそうな顔のドラマはそれでも蒼剣の弟子だった。
 ともすれば小賢しいとまで言える程の思考能力。最悪にも次善を掴み取らんとするのは彼女が叡智の捕食者であるが故。
「勝手に巻き込まれたゲイムで勝利褒章が唯の解放というのはレオン君……じゃない、貴方に都合が良すぎます。
 せめても適切な報酬を出すべきでは??? 例えば二度と私達は巻き込まれなくなるとか。
 タイムさんやら正純さんやらコルネリアさんやらすずなさんやらを優先するとか!」
「それは出来ない相談だNE!
 でも……まぁ、確かにそうだ。何もないとやる気は出ないかも知れないし。
 こういう困難に立ち向かうには仲間の勇気や知恵も必要だよね。
 ……んじゃ、ま。こうしよう! 君達が勝ったら……うーん、これは発起人のリアchangへのご褒美になっちゃうけど。
 リアchangの頭痛の種についてちょっとだけ情報をあげちゃう。解決するかは兎も角、これって結構なアドじゃない?」
「――――!?」
 予想外の言葉にリアとドラマは顔を見合わせた。
「あとはまぁ、もう一つシークレットのオマケもつけとくわ!
 じゃあ、そういう訳で……おっと、忘れてた!
 これを見てる画面の前の君。そう、君だよ。なーに他人事みたいな顔してんのSA!
 トモダチでしょ、仲間でしょ! 早く二人を助けに来ないと――!」

 クリストの手が『あなた』の手をぐっと掴み、胡乱な世界に引きずり込む! そして『あなた』は――!

GMコメント

 やみです。あけましておめでとうございます。
 珍しく少数クエストをやってみます。
 でもこれ実はテキスト自体はちょー真面目に書いているのです。特に前半。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・ライブを大成功させる

※本気か知りませんが盛り上がらなかったら曰く五十年監禁される可能性があります。

●ライブ会場
 ドーム球場のような四万人収容のスーパーな会場が部隊です。
 全周から注目を浴びるセンターに特設の舞台が設えられています。
 裏方や演出は全てクリストがやってくれるので望めば大体そうなります。
 彼の判断で勝手にアシストしてくれる事もあります。

●PCは何するの?
 ドーム球場で四万人を目の前にスーパーアイドルとしてライブをしましょう!
 リクエストをしたガソリンガールと、口では嫌がりながら同意してしまったソルトガールは確定です。
 残りの当選者の方も含めて一つのユニットとしてライブを大成功に導きましょう。
 皆さんはアイドルなのでアイドルらしくきちんと振る舞って下さい。
 オーディエンスは四万人。クリストの再現した混沌の住人達で、R.O.O並の精度を誇る事はお忘れなく!

・衣装や演出の設定
・パフォーマンス
・MC
・ファンサービス

 プレイングでは様々ななアイデアを駆使して『必要な事』をしましょう。
 大切なのは思い切り良く腹を切る事です。早く燃えて。役目でしょ!
 終わったらピンも作るんだぞ。宜しくな!

●男が参加したらどうすんの?
 本ライブのテーマは『世界で一番、とびっきりの恋』。
 乙女にぴょいさせる物語でして、男だろうと(32)だろうとミニスカート(仮)でやって頂きます。
 止めやしないですが、キャラによっては大惨事になりますのでご注意下さい。

●クリスト=Hades-ex
 練達のマザーの兄にして混沌最悪のAI。
 マジカルパワーで皆をライブに誘いましたYO!
 俺様chang知ってるんだ。この後リアchangに死ぬほど罵られるんだけど。
 リアchangはツンデレだから俺様changが結構好きだからNE!
 もう照れちゃうYO! 愛してるZE!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない懲役判定が有り得ます。
 又、シナリオ結果によって××××が起きる可能性があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 オープニングにある通り、恋する乙女におススメです。
 何、自発的参加ではなくクリストに拉致られた事にすれば言い訳は立つのだ。
 プレイングを掛ける難易度が多分高いシナリオですが、宜しければご参加下さい。

  • あたしだけにぎゅっとして完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月22日 20時50分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費300RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
※参加確定済み※
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
※参加確定済み※
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●STAGE I
「わーっ! ここどこでしてーー!?」
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)の言葉はシンプルながら完璧に彼女――否、彼女達の状況を示していた。
「アイドル番組を見てたら、どうして……」
「ルシアもぼんやり人混みを眺めていたらこんな事になったでありまして……!」
『お転婆竜姫』レイリー=シュタイン(p3p007270)の呟きにルシアが愛らしくコクコクと頷いた。
 薄ぼんやりとしか周りが確認出来ない暗闇の中、無数の色とりどり(ペンライト)が揺れている。
 辛うじて分かるのは自分が今、何処に立っているのかという事だけだ。
 必要最低限しか説明しないHadesPは「アイドルだよ、アイドル! 空気読んでね。分かるでしょ!」。
 ……彼女達二人を含めたイレギュラーズ六人は『ステージ』の上に居た。
 それは、四万人収容の全天候型ドームの中心地である。
 即ち混沌(ファンタジィ)におけるオーパーツに他ならない。
 かのセフィロトが総力を挙げるなら施設だけは用意できよう。
 されど、そこに存在する観客をかき集める事は叶うまい。
 ともあれ、詳細な説明もなく鉄火場に放り込まれた六人は否が応無く『アイドルのステージ』を求められていた。
 実に幸運な事に何れも見目麗しい年頃の女子が揃ったこの組み合わせは(104)は兎も角、既に俺にとっての大惨事ばかりは逃れている。
「あたしにとっては大惨事続行中なんだが???」
「アイドル……と、申しますと、要はパルスさんの様な事を行えば良い訳ですね。
 歌って踊ってとは、何方も心得が無いのですが……」
 割とドスの利いた低い声で漏らした『靴を忘れないシンデレラwww』リア・クォーツ(p3p004937)の一方で、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が小首を傾げている。
「まあ、泥縄で集めた資料によりますとアイ活というのはそもそも絶対技術を競うものでは無く……
 音程が来なくてもトップアイドルになった方もいるようですし、要はこのステージを盛り上げれば正義なのですよ」
「リアぴょいだけで良かったのに、巻き込まれた人には申し訳無く……って、ヘイゼルさん私達よりノリノリですね!?」
「ステージを完璧にやらないと元の世界に戻れないなら、それが合理的な判断というものなのです」
「……はい。諦めましょう、リアさん。もう『やるしかない』です」
『ぎゅってして』ドラマ・ゲツク(p3p000172)もヘイゼルを見れば納得するしか無いというものだった。
 プレイングに輝くは燦然たる文字。

※絡み、アドリブ歓迎。全てを受け入れます(どんなはずかしめをうけてもけっしてもんくはいいません)
 何ならレオン君とかてこにして全力で擦られても問題ないので然るようにお願いします。
 でも、一人で死ぬのは恥ずかしいので最低リアさんは爆発炎上させて下さいね。

「言ってませんが!?
 ……っ、ですがクリストが気になる事も言っていましたし……」
「……う。く、それは確かに……!」
 芋砂と名高いドラマがその衣装(ギリースーツ)をミニスカートに着替えたらリアも腹を括るしかなかった。
(まったく益体もないのです)
 肩を竦めた――如何にも冷静な優等生然としたヘイゼルなのだが、本件においてリアが驚く程に前向きかつ建設的な提案、行動企画力を見せたのは余談であった。イメージとは確かに異なるが、ヘイゼルは鵺のような女である。基本的に余程親しくとも彼女の行動論理は理解出来ないし、もっと言ってしまえばそう滅多な事ではヘイゼルは他人を『めくらせる』ような位置には置かないのだからさもありなん、であろう。
 何れにせよ観客は暗闇の中、目を凝らすようにまだハッキリとは見えない六人に熱い視線を注いでいる。

 ――レディース&ジェントルメン!
   今日は俺様プレゼンツ、『Colorful June』のライヴに来てくれてサンキューね!
   さあ、いよいよ時間だ。お出ましだ。皆の待ってた天使chang達にご対面だZE!

 クリストの声と共にスポットライトがステージに降り注ぐ。
 六つのライトに照らし出された戦闘服の乙女達が暗闇を切り裂いて極上の存在感を見せつけた!
「『Colorful June』……
『女性と結婚の守護者』と言われるジュノーや6人になぞらえ、結婚を夢見る恋する乙女達……!
 つまり、そういう設定よ!」
 解説のレイリーの言う通り。
 メンバー達は何れも『魔改造ウェディングドレス』といった感のあるキュートな衣装に身を包んでいる!

 ――おおおおおおおおおおおお――!

 万雷の拍手を浴びる――
 言葉にすれば容易いが、実際にそうなる事は人生においてそう多い話ではない。
「ま、まあ? 突然連れてこられて驚いたけど?
 要はこれも貴族の義務、ノブレス・オブリージュなんだろう?
 ……いいとも。成功させてみせようじゃないか」
 正直を言えばくすぐったくて心地よい。
 生粋の貴族である『女神の希望』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)にとって求めに応じる事は当然の義務のようなものだった。
 戦場で部下を激励するのも、政治の場において辣腕を振るうのも社交界で相応に振る舞うのも結局全ては同じ事だ。
 綺羅びやかなステージを全周から取り囲む人の群が遠く地鳴りのように響く歓声をスポットライトの六人に向けていた。
 それは確かな期待であり、同時に些か悪趣味な『主催者』のサービスだったに違いない。
「来てくれてありがとうですよーー!!
 夢見る恋の魔砲少女、ルシア・アイリス・アップルトンでして!
 ルシアの魔砲で、みんなのハートをずぎゅーん!しちゃうのですよ!」
 年齢が(11)ならアイドルにはむしろ憧れが勝るのか、ルシアの愛らしさは如才なく。
「先陣は見事なのです。これも適材適所というやつでせうか」
 ヘイゼルの論評は成る程、頷けるものだ。
 こういうのはトップバッターが照れたら尚更に地獄味が強まるものだ。
 掴みは見事で会場は簡単な口上にもどっかんどっかんあったまっている。
 一方、何人かは半ば死んだような目で、諦めも強く――似たような風情で自分自身を追い込んでいた。
「……あれを、やるのか……」
 暗澹たる声を漏らしたのは(21)こと靴を忘れないシンデレラ。
 まだ限界ではないが、素面でやるにはかなりしんどいお年頃である。
「……あたしはやれるあたしはやれるあたしはやれる…………よし!」
 据わった目で自己暗示を掛けるように口の中で呟き、リアが自分の頬を張った。
 備え付けのマイク台からマイクを取ったリアは大きく息を吸い込んで精一杯の(引き攣った)笑顔を弾けさせた。
「皆ー! 迷宮ぶりの復活! 皆のアイドル、リアちゃんだよー☆」←かなり死にたい
 渾身の笑顔とキャラ作りをするのはレイリーも同じだった。
「恋するお転婆竜姫、レイリー。只今参上! 皆、メロメロにしちゃうから覚悟するんだゾ♪」←めちゃくちゃ死にたい
 まな板ならぬ、まな板の上のドラマもまた会場を見回し、無数の観客に――否、無数の観客の内の『誰か』に訴えるように唇を開いた。
「今だけは――このページから手を離し、『物語』に謳われる偶像(アイドル)と成りましょう!
 蓄えた叡智、磨いた技術……すべてはこの時(ステージ)の為にあったから!」←割とやけくそ

 ――おおおおおおおおおお!!!

 マイクパフォーマンスに会場が揺れる。
 これより始まるは真冬を駆け抜ける一陣の風、乙女咲き乱れる繚乱可憐な花の陣――
「――では『Colorful June』。精々、ゆるりと参りませうか」
 ――不敵に微笑むヘイゼルの、その『ミステリアス』に恋をしそう。

●STAGE II
「この、ユニット『Colorful June』は――
 きっと今夜限りだけど、だからこそ皆に忘れて欲しくないから!
 僕たちの想いで、君たちのギアを上げていくよー!」
 ウェディングドレスをモチーフに、キュートなミニに纏めた衣装。
 イメージカラーの銀色に紫が仕事をする。少し歯車が貴公子然(スタイリッシュ)に仕事をする――
 声を張り上げたリウィルディアのパフォーマンスに観客が口笛を吹いた。
「ソロ曲は『きみのはぐるま』。最後まで聞いてね!」
 イントロの部分で歯車のついたキャスケットを取り出す。
 そっと胸に抱く『はぐるま』はリウィルディアの抱える全力の『恋』そのものだ。

 ――きみがいてくれたから世界が広がった。隣に前に立ってくれたから、あの時立ち上がることができた。
   ならいつか来るだろうきみの暗闇には、僕が――

「――だから明日も、僕がきみのはぐるまであり続けよう」
 想いは迸る程に強く、それが故に他人の心さえも強く揺さぶるものだった。
 完成されたヲタ芸には程遠く、揃っていない不器用な『答え』に違いなかったが、アップテンポな曲にあわせてパフォーマンスを展開するリウィルディアはかえってそれが好ましかった。弾ける汗はステージの疲労感を確かに伝えるものだ。しかし、その時間は決して嫌なものではない。
 何故か乗り気で尚且つ(多分真面目に調べたから)詳しいヘイゼルの采配通りである。
 セットリストはまずポップでアップテンポな全体曲で強く当たって、ソロ曲を展開。
 自己紹介を兼ねた簡単なMCを挟みつつ、メンバーのキャラクターをバッチリ印象づけてから全体曲へ移行。
 後半はフォーメーションで魅せる全体曲を展開し、オーラスに向けて盛り上げていくという作戦だった。
「《コンサートマスター》《マスターダンス》……今日のあたしは歌って踊れるアイドルなの!
 こんなクソ依頼の為に取ったわけじゃないのに、初めて役立つのがこのクソ依頼だとか、吐血しちゃう☆」
「依頼であるなら全力で、が私の信条です!
 この際やってやります、やってやりましょうとも!!!」
「皆さん納得のようで何よりなのです」
 やけになって全力のパフォーマンスを見せるリアに、
(過酷にして持久戦のステージ! あ、これ『蒼剣ゼミ』でやったとこですね……!)
 案外流れるドラマがいとおかし。
 へらりと笑ったヘイゼルもまた、普段の冷静な表情をどっからどう見ても見違える程にパージして。
「恋とか愛は正直よく分かりません。
 興味があるかと言われれば何ともはや。
 従って、パフォーマンステーマを合理的に解決しているとは言い難いです。
 ですが――着地は任せるのです、クリストさん!
 適切に当たれと言われて全力を出せない様なのはチキンなのですよ! 私も、アナタも!」

 ――HEY! ゼルchang、合点承知! バリバリアシストするから宜しくNE!

「いい返事なのです。はなまるあげちゃいます。
 じゃ、そういうワケで。みなさん、いっきますよー!?」
「!?」
「ヘイゼル、いっきまーす! 平子ちゃーん、ってコールしてね!」
「!? !? !?」←ヘイゼルの『ズラシ』が直撃した比較的親しい幻想種(104)さん
 差し掛かった自身の見せ場ソロパートで彼女は普段の彼女からは信じられない程にテンションの高い笑顔を見せつけた。
 ……元々の顔の造作は、そのスタイルは驚くほどに綺麗で整っているのである。滅多な事では動じない鉄壁の冷静ささえ影を潜めれば、これ程までにヘイゼル・ゴルドブーツは『可愛らしいのか』という。今、書いてて俺が一番猛烈に感動する唯の事実だ。
『少女幻走曲』――捉え所がなく追いつけない少女の曲を熱烈に歌い上げるヘイゼルに無数の光弾が瞬いた。
『持ち前の回避』でクリストの『仕掛け』を全弾回避する彼女は成る程、まさに闘技場(アリーナ)の幻影であった!
「私の歌は――勇気を持って踏み出せば、何処へだって行ける……そんな曲です。
 ……ホントですよ? 恋はまるで魔法みたいなんです。嘘みたいに私の世界を変えてしまったのです」
 はにかんだドラマの視線が客席――彼は口癖のように「最前列」と云うから――を『探して』いる。
 ドラマがそんな風に歌うとしたらそれは何時だってたった一人の為なのだ。
 あの意地悪な笑顔はきっと自分をからかう事しかしないけど。
 あの意地悪な大きな手は、やり切った自分の頭をふわふわと撫でてくれるのだ。
 口では可愛くない事を言いながら、嫌いで大好きな、悪くて優しい年下の師匠は――
「ちょ、ちょっと呑まれちゃう位の歌だったわ!」
 赤面したレイリーが咳払いを一つした。
「次は私の恋の曲――
 いずれ来る別れの時まで。私は貴方の隣で笑うから。
 別離(そ)の時まで、貴方と共に笑っていられますように――」
 瞑目して祈るように歌ったレイリーの声が会場に染み入った。
 ……静的か、と思えばさっと切り替わるミュージカル調にメンバー達が参加をする。
 クリストの舞台演出は巧みであり、フリーハンドで欲しいものを欲しい効果として持ってくる彼のアシストで会場は一転して盛り上がりを見せた。

 ――今日も変わらず楽しいね♪
   でもそんな日ばっかじゃダメなのです!
   だからさぁこの手取って 虹のふもとにかけ出そう!

 ファンブル30もなんのその。転んでもステージに一生懸命なルシアの姿に会場の心が一つになった。
 応援、応援、応援である。ステージの巧緻、パフォーマンスの成否なんて度外視である。
 ルシアたんがんばれ! これに勝る一体感等何処にもなかった!

●STAGE III
 そしてパフォーマンスは後半へ。
 素晴らしく得難い時間もやがては終わりが来る。
 元々はクソ与太から始まった地獄のデスロードのような嫌がらせ依頼だったのだが……
 本当に、本当に。正直を言えば参加している誰も、実際にはそう嫌な気等しなくなっていた。
 全力を尽くして歌って踊るのは、最初の恥ずかしささえクリアしてしまえばいい発散になった。
 皆が皆、苦しい恋をしている訳ではない。
 皆が皆、叶わない想いに焦れている訳ではないけれど。
 クリストの用意した『観客』は作り物であったとしても、確かにこの日『Colorful June』の六人を愛してくれていた。
 否。かのR.O.Oを作り出したクリストの精度をもってすればそれは確かに『本物』に違いなかった。
『Colorful June』と繋がった『観客』は確かに本物に違いなかったのだ。
「いよいよ、ラストね。
 ――今回はあたしの相棒のドラマちゃんと一緒に、某社より提供された楽曲を歌うわ!
 えーっと、その前にハデスPにお願いがあるんだけど、聞いてくれるかなっ!?」

 ――おっと、センターのリアchangからサプライズのご指名だ!
   何だい、何だい? 肩凝ってるの? 揉もうか?

「アイドルにセクハラはご法度だぞ。ガソリンかけて焼き殺しちゃうゾ★
 で、『あの歌』のタイトル、まだ決まってないのだけど……
 是非とも君に付けてほしいって、にゃんこPからお達しがあってね!
 だから、貴方に付けてもらえると嬉しいなっ!」

 ――オッケー、リアchang! 曲は『ロマンティック×ドラマティック』!
   feat.Colorful June&HadesPのスペシャルヴァージョンだ、抜かりはないね。カワイコchang達!

「よーし、それじゃあ愛しい人に向けて――
 ――曲は『ロマンティック×ドラマティック』! 心を込めて歌います!
 草生やしたらぶちころすからな、クソハデス☆」
 クリストの軽い調子はDJの真似事をさせたら異様に際立つ。
 同時にリアとの丁々発止のやり取りは『Colorful June』がレギュラーなら、間違いなく人気の『コンテンツ』にさえなるだろう。
「――歌います」
 ドラマの彷徨っていた視線はようやく『一人』を見つけ出した。
 約束通り最前列でひらひらと手を振る『彼』は頑張れ、と笑っている。
(女神の口付けは最前列の貴方の為に。でも、ナイショ、ですよ――)
 そうしたら、もう。乙女の意地にかけてここで退く訳になんていかないのだから。

 ――見つめあいたくて
   会えなくて
   これが恋なの?
   乙女☆夢想が止まない――

(伯爵。大好き。今は会えないけど、届いて欲しい。愛しています――!)

 ――鏡のような水面が映す
   星とあなたと私だけ
   秘密にしたい 鼓動のフォルテと
   聴いてほしい 打ち明けたい 純情のアリア

(覚悟してて下さいね、レオン君。私、絶対『負け』ませんから――!)

 ――次はいつになるの?
   いつも いつも 目を閉じれば
   あなたのことばかり

「これが本物(ガチ)というやつでせう」
「……お、おとななのでして!」
「応援したくなるわよね!」
「……気持ちわかる。でも私幸せだしなあ!」
 ヘイゼルが、ルシアが、レイリーが、リウィルディアが。
 少し意地悪な顔をして、実に楽しそうにのびやかに。
 ステージ全体を駆け回り、客席を煽り。パフォーマンスとコーラスで曲を一気に盛り上げた。

 ――さあ、サビだZE! 皆さんご一緒に!

 ――恋する乙女です☆ 気分はHigh!
   Be my sweetheart!
   笑った顔も真剣な顔も 独り占めしたい
   見つめあいたくて 会えなくて
   夢中なんです
   乙女☆夢想が止まない!

 今度の万雷は最初よりずっと大きなものになった。
「ドラマ!」
「……はい?」
 声を掛けられて振り向いたドラマの頬にリアが思い切りキスをした。
「!? !?」
「併せなさいよ、百合営業は受けがいいって雪夜叉伝説(おさよ)が言ってたのよ!」
「いや、そういう問題ではなく! 今客席のレオン君の横に」
「なによ! ステージ中なのよ!」
「伯爵が」
「ギエエエエエエエエエエエエ――!!!」

 ――リアchangの耳寄り情報は後日当選をもって発表にかえさせて頂きますYO!

『Colorful June』よ永遠なれ。乙女☆無双は終わらない!

成否

大成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

なし

あとがき

 全員最高に可愛いけど俺の推しメンは平子ちゃんかな!
 いや、このシナリオマジで洒落抜きで良くない?

 良いっていうか全然クソリプレイじゃなくない???

 ライブ、お疲れ様でした!

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