シナリオ詳細
<ディダスカリアの門>暗殺修道女に導かれた子供達
オープニング
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独立都市アドラステイアは、天義の首都フォン・ルーベルグより離れた海沿いに築かれている大都市。
『大いなる災い』によって、それまで信仰されていた神を捨て、新たな神を創造した者達。その大人達が身寄りのない子供達を招き入れて自治を行っているのがこの都市だ。
子供達は生きる場所を得ることができた……と思いきや、彼らはマザー・ファザーと呼ばれる大人達から信任を得る為に互いが互いを監視し、蹴落とす魔女裁判を行う。
裏切りには魔女の刻印を。
そんなディストピアとも思えるこの都市だが、旅人を混沌から排しようとする関係者組織『新世界』が関わっているという話もある。
毎日一度、都市の中心で鐘の音が鳴り響く。
我らの神によ――今日も幸福を与え賜え。
大人達によって作られた神ファルマコンへと、子供達は祈りを捧げる。
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天義にあるアドラステイアという都市は無法地帯とも言われる。
これまで、ローレットからイレギュラーズが何度も何度も潜入を繰り返し、この都市の実態解明に乗り出していた。
しかしながら、『聖獣の正体』、『精神への汚染』。それすらも予測の域を出ない。
一方で、都市からはオンネリネンと呼ばれる子供達が各地で傭兵業を行っている。
勢力を強めるアドラステイア……その実態解明には何としても上層を目指したいところ。
しかしながら、現状は未だに下層への潜入ばかりで、中層ですらもほとんど踏み入れずにいるのがローレットの実態である。
幻想、ローレット。
そこでは、アドラステイア攻略に向け、新たなる作戦が練られていた。
「アドラステイア中層……前回ちょっとだけ踏み入った連中がいたがな。生憎、潜入路はあっさり潰されちまった」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は先の作戦で、アドラステイアに入り込んだ魔種フェルマークを打倒したメンバーを労いつつ、次なる作戦について説明する。
各地で捕らえた聖銃士やオンネリネンの子供達の情報によれば、アドラステイア中層はかつてこの場所に存在した都市、『アスピーダ・タラサ』をそのまま利用しているという。すでに、構造地図もある程度把握済みだ。
それは、天義に数多く残る鉄帝『不凍港ベデクト』へと対抗するべき港湾の警備隊だ。
「もちっと情報が欲しいが、何せ中層への扉は通行証がいる。中層の『プリンシパル』が管理しているって話さ」
中層内部にはプリンシパルに指示ができる組織、新世界のメンバーがいるという。
彼らに接触できれば、通行証を貰うことがでいるかもしれない。
「『ミハエル・スニーア』に、『バスチアン・フォン・ヴァレンシュタイン』。アドラステイアに出入りをしているが、この都市に肩入れしていない連中さ」
彼らの居場所はわかっているものの、中層からの地形はほとんど未知の状況。先導班が下層や外郭付近で暴れている間に、潜入したいところ。
中層に繋がる扉は三つ。実験区画フォルトーナからが一つ。下層からが二つ。その扉を抜け、中層を新たに攻略するのだ。
「とはいえ、多数のイレギュラーズが突入すれば、向こうも警備を強めるはずさ」
この都市で力持つマザーの1人、マザー・マリアンヌ。
聖銃士を率いるミロイテ。そして、オンネリネン部隊一つを率いるバイロン。
彼女は自らを慕う子供達と共に、扉付近の警備に当たるという。
子供達の力はさほど強くはない……が、本来は救うべき子供達。
ただ、彼らはローレットこそ家族を死に至らしめた元凶とマザー、ファザーから教えを受けており、激しい敵意を持って襲い掛かってくる。
できるなら、この都市の闇を晴らして子供達を現在の境遇から救い出したいが……。
「相手は何度も説得して共闘までした子供達だ。だが、マザーの前で背信行為をするとは思えないね」
彼らとどう対するか。そして、手足に枷を付けたまま今なお本領をみせぬマザー・マリアンヌがどう動くのか、不透明な部分も多い。
いかにしてこの一団を撃退するか、イレギュラーズのこれまでの説得、そして今回の行動は大きく左右することになるだろう。
「中層への扉を開きたいところだけれど、子供達を助けるならばそれなりの対応が必要だよ」
オリヴィアは事態の打破が簡単でないことを再確認し、説明を締めくくったのだった。
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アドラステイア下層。
とある広場には、多数の子供達が並ぶ。彼らは白銀の鎧纏う聖銃士に、同じく軽装鎧を纏うオンネリネンの騎士達である。
その前に、血染めの修道服を纏う女性が現れて。
「よくぞ、集まってくれました。私の可愛い子供達……」
マザー・マリアンヌは表向き、慈愛溢れる優しき女性とされる。
彼女に付き従う子供達は、マザーに絶対の信頼を寄せている。
それは、身寄りのない自分達を救ってくれ、互いに子供達が争う下層から自分達を拾い上げてくれたという恩があるからだろう。
「今から、ディダスカリアの門を守る為、私と共に来てもらいます」
「「はい!!」」
マザーと共に当たる任務に、聖銃士もオンネリネンの騎士達も心を躍らせていたのだった。
- <ディダスカリアの門>暗殺修道女に導かれた子供達完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年01月24日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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アドラステイアへと突入するイレギュラーズは街を駆ける。
「くふふ、いよいよアドラスティアの中枢に向かうんでありんすかね?」
アドラステイア問題の解決を望むものは多いから、迅速に対応したいと『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は主張する。
「でなければ、アドラスティアの警戒態勢はより強固になりかねない。それは避けたいところでごぜーますが」
イレギュラーズ一行の目標は中層への扉を開放すること。中層には『プリンシパル』なる存在がいるというが……。
「そもそも、プリンシパルって名前が不遜じゃあない?」
元世界でダンサーだった『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)としては、例え無関係でもバレエの主役をさすその言葉を関する存在が許せないとのこと。
「ええ、ええ、だからこそ本物ってものを見せてあげようじゃないの」
その為にも、立ち塞がるマザーや子供達を撃退せねばならない。
「出来れば、あんまり子供を殺したくはないって言うのがショウジキなところかな」
そこで、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が本音を漏らす。
「結局、あの時に強引に自分の領地へ連れて帰ればよかったのか」
『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)は以前であった時の対応を悔いるが、こうなったら止めるしかないと腹をくくる。
「神殿にいたあれは恐らくファミリア」
マリアンヌに直属の部下であるミロイテ達の行動は筒抜けだったはずと『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は持論を語る。
であれば、マザーはミロイテを許さないのではないか。
ココロは彼女達に危機が迫っているのではという予感を拭い去ることができない。
「マリアンヌの枷は信仰の強さを表している。だからわたし達と共闘した彼女らを心底では許さないかもしれない」
「マリアパイセン……」
ココロの言葉を受け、『不幸属性アイドル』ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)はかつての先輩の有様に心を痛める。
「度々刃を交わしたけど、あの子らを見捨てられない。」
分が悪くなるのは承知の上。
それを超えていけるのがイレギュラーズだとココロは信じている。
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ディダスカリアの門へと至る複数の道。
その一つをこちらのチームは進んでいたが、前に立ち塞がったのは……。
「そこまでです」
じゃらりと手足を縛る枷を繋ぐ鎖を鳴らす血染めの修道服を纏う女性、マザーマリアンヌと子供達の一団であった。
「マザーの命により……」
「ここは通さない」
アドラステイアの騎士、並びにオンネリネン部隊は布陣を組み、行く手を阻む。
「私はヴァイスドラッヘ! 少年少女を騙す悪を討ちに来た」
最後まで諦めるべきではない。そう考えていた彼女は子供達の目を見て笑顔ではっきりと告げる。
「そして、君達を助けに来たんだ」
「「…………」」
子供達は何も語らず、睨みつけてくるのみ。
「あらバイロンちゃん、怖い顔して、いよいよ私に精気を捧げにきてくれたのかしら?」
そこで、ギフトによって夢魔の姿となった『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が目を付けたのは、幾度か面識のあるオンネリネンの部隊長だ。
「夢魔は一度狙った獲物は逃がさないのよ? いひひ♪」
眉を顰めるバイロンに対し、妖艶な笑いを浮かべる利香もまたバイロンの瞳をじっと見つめて。
「でも、私大真面目にここに来たのよ」
若い精気が集まることに快楽を求める本音も漏らすが、利香は本気でバイロンを現状から解放しようと考えている。……彼女なりの方法で。
「マリアパイセン……度重なる接触でもう相容れられない事はわかってるっスけど……」
どうして、先輩はこんなことをしているのか。
子供達を盾にするような形となっていたマザー・マリアンヌへ、ミリヤムも神妙な表情をしていたが、小さく首を振って。
「だけど、もう悩むのはやめっス。これ以降は……マリアパイセン、いや、魔種マザー・マリアンヌ」
ぴくりと眉を動かすマザーだが、色々と吹っ切れたミリヤムは構わず続けた。
「アンタに操られてる子供達を救う為にも、アンタだけは絶対に止めるっスよ」
「悉くあなたは立ちはだかるのですね、ミリヤム」
マザーの声に合わせ、子供達の武装が音を立てる。
「私の信仰を妨げるのであれば……容赦はしません」
鎖を鳴らすマザーが少し両腕を上げたのを合図とし、子供達はイレギュラーズへと距離を詰めてきたのだった。
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「やああああ!」
「おりゃああああっ!」
一斉にイレギュラーズへと向かってくるマザー麾下の子供達。
「本当に自分の信念に沿った形でコブシを握れているかい? 迷いはないかい? 迷いが残るなら退くんだよ!」
ぶつかる直前になり、イグナートが身構えつつ呼びかけるが、やはり子供達の反応はない。互いを見張っていることに加え、後ろからマザーが注視している。皆反応すらできないのも無理はない。
「この数、正面切って押し潰しても負ける気はしないケド……」
子供達との交戦を趣味じゃないと一蹴する利香。
「マザーの正体を明かせば、子どもたちに何かしらの反応はあるでしょう」
それに、ヴィリスも賛同し、悪い夢から早く醒めてほしいと願う。
嘘を教え、自由を奪うマザーらアドラステイア陣営のやり方を嫌悪し、彼女はそれを利香と共に壊そうと画策する。
「まぁ、狂気に当てられてる子達も居るだろうし、取り敢えず死なないように眠ってくれ」
『無限陣』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はバイロン部隊側へとついていた聖獣ウイングホースに狙いを定める。
仲間達は子供らの説得にと動いているが、説得に傾ける耳など持たないと判断した聖獣を、マニエラは叩くことにしたようだ。
テンションを高めるマニエラは力を高め、魔力を圧縮して接近してきた聖獣を蹴りつける。
「……手加減はナシ。全力で行くよ!」
マニエラに続き、イグナートも手早く聖獣を討伐すべく幻想をも穿つ竜撃の一手を聖獣へ叩き込む。
バイロン部隊も群がってくるが、聖獣の雷を受け止めつつ、イグナートはバイロン部隊へと告げる。
「覚悟を持って戦場に立つ者は戦士でしかない」
これ以上やるなら、容赦はしないといった警告だ。
なお、部隊の多くはミリヤムが盾となって抑えにかかる。
「君達がどれだけマザー・マリアンヌを慕ってるかはわからないっス」
バイロン部隊を引きつけるミリヤムは、突き出される槍を受け止め、薙ぎ払われる長物を捌く。
「でも、これだけは言えるっス……君達はマザー・マリアンヌに騙されてる。そして君達はその事実から目を逸らしてるだけっス」
マザーの声を子供達へと聞かせぬよう配慮しつつ、ミリヤムはバイロン部隊を少しずつ引き離す。
「なんとしても、この場を死守するのよ」
聖銃士らへ、小隊長であるミロイテが指示を出す。
「ローレット、皆の仇……!」
長剣、長槍を携えた子供達はマザーや他にいる都市の大人達らの言葉を信じ、それをメンバー達へとぶつけようとしてくる。
「君達は騙されてる。彼女の正体を知りたくないか!」
ミロイテ隊側の囮となるレイリーは彼らへと聞こえる声量で呼びかけ、恐怖、敵意、好奇心を煽る。
「今からそれを露わにしよう! 聞きたいなら私についてこい、嫌なら私をその前に倒すがいい」
「臨むところ!」
レイリーもまた、マザーの声が聞こえづらいようにと引き離しにかかる。
ミロイテを始め、聖銃士達はレイリーへと数で押し寄せ、切り崩そうとする。
だが、彼女も機動力を持って聖銃士らを翻弄し、盾や鎧でしっかりと刃を防いでダメージを防ぐ。
その間、ココロはバイロン部隊と対する妹弟子のマニエラを気にかけつつも、レイリーやイグナートらに福音をもたらす。
さらに、ココロは祈りの言葉によって仲間に及ぶ害を振り払っていた。
「わたしはあなたたちが誑かされていると思っています。剣を止めて考え直して」
以前もココロは同じように説得を図っており、場合によっては共闘も行ってきた。
「…………」
一方で、マザー・マリアンヌの施しを受ける子供達だ。簡単にココロの言葉に耳を傾けるとはいかない。
(本当、イレギュラーズはお人好しばかりでありんすなあ)
そんな様子を、エマは黙したままで子供達だけを巻き込むように熱砂の嵐を巻き起こし、彼らの足を止める。
洗脳に近しい教育を受けているとはいえ、子供達は武器を手にした以上、死ぬ覚悟は出来ているはずだ。
(……本当、何もかも壊してみたくなる)
本心からエマは思う。
その時この場の皆は、どういう反応をするのだろうか。
交戦が続く中、マザーへと至る道が開けたことで、利香やヴィリスが動き出す。
この場も子供達に託し、この場の状況を見守る構えだったと思われるマザーは、自分に近づくイレギュラーズをじっと見つめていた。
空気がざわつく。イレギュラーズ達に緊張が走る。
「……証拠を今から見せてやるっス」
ミリヤムもそこでマザーの方を見るようバイロン達へと促す。
ごくりと唾を飲み込むバイロンは、成り行きを見守るべく槍を操る手を止めていたのだった。
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戦いの中、道が開けたことで、利香、ヴィリスの2人がマザー・マリアンヌへと接近して。
「枷って邪魔じゃない? 私は邪魔だったからとっちゃったわ」
代わりに脚もなくなってしまったと自虐しつつも、ヴィリスは相手がきっとこれから暴れるだろうからと身構える。
「魔種が怖いからって子どもたちを集めて、あんな怪しげな血を配って――力だけはあっても、演技は五流よね」
「何が言いたいのです」
鋭い視線を向けてくるマザーに対し、手にする鞭に全力で魔力を込めた利香が相手の手枷を断ち切ってしまう。
なお、利香はマザーの体を真っ二つにする気で鞭を振るった。
しかしながら、切り裂いたのはじゃらりと鎖がすれる音を立てて落ちた手枷のみ。身を引いたマザーは血に濡れた修道服ですらも切れてはいなかった。
「あら、やだ……私殺す気でやったのよ? なんで人間がピンピンしてるのかしら」
「マザー・マリアンヌ!」
叫ぶミロイテだが、抑えるレイリーが逃しはしない。
(子供達に真実を知らせる為にも……!)
また、続けてココロが花吹雪を思わせる炎を舞わせてマザーを攻め立てる。その際、足枷もまた焼き切れていたようだ。
「あら、枷がない方が似合っているんじゃない?」
四肢の枷のなくなったマザーへヴィリスも呼びかける。
「おのれ!」
「よくも、マザーに!!」
子供達はマザーに害をもたらすイレギュラーズに並々ならぬ殺気を放つが、利香はお構いなしに続ける。
「かわい子ちゃん達、まだ狂気に呑まれてないのなら精々未熟な脳みそ使って良く見て考えなさい。コレが魔種、あなた達が死ぬほど嫌って恐れていたものよ」
そして、元後輩であるミリヤムもまた、マザーに声をかけて。
「マリアパイセン……いえ、マザー・マリアンヌ。貴女が神に捧げていた信仰は……その枷の様にとうに壊れてるのです」
そして、ミリヤムは普段からは思いもしないような表情で、魔種へと訣別の言葉を贈る。
「元断罪の聖女、ミリヤ・ナイトメアが宣告します。……外道に堕ちた貴女にはもう神は見向きもしないでしょう」
「その神はもはや、私の信じる存在ではありません」
次の瞬間、マザー・マリアンヌの姿が消えた。
「主よ。我に断罪の力を振るうこと、お許しください」
人外とも思える速さで利香やヴィリスに鈍い光を舞わせたマザー。その手には恐ろしいまでに鋭い刃が握られていた。
2人とも、身体を大きく裂かれてはいたが、まだ戦えないほどではない。
一方で、子供達は身の毛がよだつほどの寒気を全身に感じて。
「マザー……?」
「マザーを見ろ、彼女の正体はフェルマークと同じ魔種だ!」
「あれは魔種。あのフェルマークと同じ。人類の敵。そういうことなの」
立ち尽くす子供達へ、レイリーやココロが現実を認識させる。
親同然の相手とはいえ、魔種。
その恐ろしさはすでに、子供達は別の戦場で実際目の当たりにしている。
「魔種は世界を滅ぼす猛毒にして宿敵……あなた達は如何なさるので?」
エマは淡々とした口調で呼びかけるが、ミロイテも配下も、マザーの本性を目の当たりにして唖然としていた。
「引き続き戦うもよし、戦いを放棄するもよし、決めるのはあなた達でごぜーます」
さらに、エマは砂嵐を巻き起こして。
「ただし……わっちは相手が子供だからとて、いつまでも手加減する程優しくはない。死ぬつもりで来るんでごぜーますよ?」
すでにミロイテが指示を出せずにおり、部下達もどうしていいか分からぬ様子だった。
「これがマザーの本性……君達の敵対してきた魔種っスよ」
「あ……」
ドヤ顔をしたミリヤムから事実を突きつけられ、バイロン部隊もまた、リーダーを始め、皆ただただマザーを見つめるのみ。
「嘘だよね?」
「優しいマザーが……」
不信感、悲壮感、絶望感。
子供達が戦意をなくしたことで、抵抗を続ける聖獣へイグナートは渾身の力で殴りつけて追い込み、マニエラが躊躇なく魔力を伴った蹴りで地面へと沈める。
マニエラ達はそのままマザー戦へと合流しに向かう。
(早く逃げて欲しいけれど……)
魔種と戦うとなれば、余裕などない。死なないことを祈りながら、イグナートは全力で攻撃を仕掛ける。
もちろん、ヴィリスや利香も攻撃を続けていて。
「刮目なさい。これが私が魅せる今回の演目」
なんであろうと私は私。自由を望むヴィリスは剣と一体化した義足を使ってプリマのごとく舞い踊って。
「私は神を信じない! 私が信じるのは私自身! パンの一つもくれない神さまなんてごめんだわ!」
高らかに叫ぶヴィリスの言葉は、子供達にも届いたはずだ。
そのマザーは止まることのない斬撃で攻め立て、彼女達を追い込む。
加勢してきたヴィリスの首や手首、脊椎など急所を悉く切り裂くマザー。
一度は敵を蹴り上げていたマニエラが強い意志で仲間を庇おうとするが、さらに振るわれた刃が2人の体力を一気に削ぐ。
「君達は……それでもマザーを信じるんスか!」
仲間がパンドラに縋る間、ミリヤムはマザーから子供達を守る。
「彼女は騙していた。皆を利用していただけ」
同じくレイリーも背中を見せ、時折飛んでくる斬撃を後方へと通さない。
もはや、戦意を喪失した子供達へとレイリーは毅然と告げる。
「君達は生きていいんだ! 私が護る! だから、皆も生きてくれ!」
今の子供達のどれだけ言葉が通じていたか分からない。
ただ、レイリーは彼らの同意さえあれば、助けたい仲間を含めて引き取りたいとも伝えていた。
元々の身体能力に加え、魔種として人外の力を得たマザーはイレギュラーズを大きく上回る力で圧倒する。
「とっとと死になさい……あんたみたいな化け物、神がいるなら一番許さないわよ」
魅了で相手を抑えようとする利香だが、抵抗力の高い敵は止まらず、胸部を切り裂いてくる。
神秘の霊薬でこの場をしのぐ利香だが、パンドラは砕かざるを得なかった。
「強いヤツが上に立つのは戦う力のない人達を守るためだよ。この国は本当にそうかい?」
自己修復しつつ、イグナートも相手を殴り倒そうとするが、残像すら残す程の瞬足で敵は致命打を避け、胸部に刃を埋め込んできた。
イグナートは熱いものをこみ上げながらも、運命の力でそれを強引に抑え込む。
「子供が子供らしく笑っていられない楽園なんかに価値なんかない! そんなものオレがぶっ壊してやるさ!」
「マリアンヌ様……」
さらに、エマも、熱砂の嵐を操りながら主張する。
「魔種がアドラスティアを守るだけに収まるとは思えない」
だが、マザーはエマの喉元を切り裂いて返答とする。
それでも、エマはパンドラで裂かれた箇所を繋ぎ止め、さらに問う。
「何を企んでいるのか、教えていただきたいところでごぜーますが?」
もっとも、相手が何をするにせよ、やることは変わらないとエマはマザーの体を神聖の光で焼かんとする。
光を浴びたマザー・マリアンヌは大きく刃を振り上げ、今度はエマの意識をも奪ってみせた。
その時だ。
「あ、あああアアアァァ!!」
突然、叫び出したミロイテが小刻みに体を震わせながら、後方へと走り去ってしまう。
「…………!」
それを見たマザーがミロイテを追う様に走り去る。
「「…………?」」
何が起こったのか分からぬその場のメンバー達。
「嫌な予感がする」
そんな中、ココロはミロイテの身に起こる何かを感じ取っていたようだった。
●
急な出来事で呆気に取られていたイレギュラーズだったが、我に返ってすぐ残された子供達の保護に当たる。
ヴィリスはマザーの圧倒的な影響力、そして、アドラステイアの闇の深さを実感して。
(子供達のプリンシパルになれるように)
どうしたら、本当の意味で子供達を助けられるのかとヴィリスは考えていた。
「さて、バイロンちゃん? きっとコレが最後よ?」
一方、利香は意識を取り戻したバイロンへと近づく。
「私の下僕になるか、この町の狂気か。好きな夢に浸りなさいな?」
「あ、ああ……」
空返事ではあったが、バイロンは利香に肯定ともとれる返答をしてみせたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPはマザーの枷を最初に切り裂いた貴方へ。
マザー・マリアンヌ一派は子供達のほとんどがイレギュラーズによって保護される形となりましたが、一体ミロイテに何が起こったのでしょうか……? 続報をお待ちくださいませ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
独立都市アドラステイア、<ディダスカリアの門>のシナリオをお届けします。
アドラステイアの本格攻略が始まったことで、あちらも本腰を入れてローレットと対する構えを見せ始めました。
中層本格攻略の為、そこに繋がる扉……ディダスカリアの門を踏破していただきますよう願います。
●目的
マザー・マリアンヌ及び、聖銃士、オンネリネン部隊、聖獣の撃退。
●敵……マザー・マリアンヌ一派
◎マザー・マリアンヌ
20代女性。血に濡れた修道服を纏う魔種となった元人間種女性です。ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)さんにとっては、聖女時代の偉大な先輩でした。
手枷足枷は二度と神を裏切らぬ証。罪人たる自身を戒める拘束具。それを解き放った時、マザーは神を冒涜する者を排するといいます。
◎アドラステイアの騎士
別名『聖銃士』。白銀の鎧を纏う子供達です。
いずれも長剣、長槍など重くない近接武器を所持しています。
・小隊長ミロイテ
15歳赤毛の少女。高い力量を持つ長剣使いとして聖銃士を率いる隊長であり、将来『先生候補』とも言われる模範生です。
・一般聖銃士×15名
マザーに認められてアドラステイアの騎士となった少年、少女。
都市内で戦闘経験を積みはしていますが、その技量はイレギュラーズには及びません。
◎オンネリネン・バイロン部隊
各地へと派遣される傭兵部隊。
ローレット・イレギュラーズは敵だという教えを受けたアドラステイアの子供達です。
度々共闘をしていますが、やはりマザーの教えが優先とあって、今回はイレギュラーズと敵対するようです。
〇リーダー・バイロン
部隊を率い、部隊員からの信頼も厚い14歳槍使いの少年。
竜巻状の衝撃波、旋風を巻き起こす薙ぎ払いなど、卓越した技術で高い戦闘力を持ちます。
〇聖獣・ウイングホース
全長4mほど。翼を持つ白馬で、嘶きと合わせて急降下による踏みつけや突撃、天雷を使ってきます。
〇構成員×12体
10~14歳の男女。
半数がハルバードや鉾といった長物を。半数が長杖、錫杖といった杖を用いて魔法を行使します。
●魔種
純種が反転、変化した存在です。
終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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