シナリオ詳細
死肉を喰らうもの
オープニング
●雪深い村にて
「おいおい、また食い荒らされてるぞ」
雪深い土地に位置する鉄帝国の村の近辺。その村の周囲では、何者かの手によって拘束された凍死体が頻繁に見つかるようになった。しかし、決まってその死体には食い荒らされた跡が目立った。
村の周囲を見回る村民の男2人は、食い千切られた体の一部を見つけてぼやいた。
「まったく……ここの土地を何だと思ってんだ。やたら人間種ばかり捨てていきやが――」
そう言いかけたところで、もう1人の男が相手の背後に向かって鋭い声をあげた。その背後には、鋭い牙をむき出した巨大な影が迫っていた。
●村の依頼人
鉄帝国の村から、ローレットに依頼が舞い込んだ。トナカイによく似た獣種の彼はその村を代表して、召集されたイレギュラーズに向けて依頼の詳細を伝える。
「どこの誰のせいかは知らんが、村の周囲で凍死体が見つかるようになったんだ」
見つかる凍死体は、おおよそ極寒の地に耐性などない人間種ばかりだった。
村は幻想との国境付近にあり、依頼人は幻想の者の関与を疑っていた。
村の周辺で見つかる死体の多くには、入れ墨があるという特徴が見られる。そのことから、遺棄している犯人は裏社会の人間ということも推測される。
「凍死させるために、相手を拘束して置き去りにしているようだが……理由がどうだろうと関係ねえ。俺たちは迷惑してるんだ! お陰で死体を食い荒らす魔物が凶暴化してきてる」
依頼人は苛立った様子で村の窮状について語る。
人と狼をかけ合わせたようなモンスター――人狼から村を守るのに手を焼いているという話だ。人狼は死肉を食らうだけでなく、村人をエサとして認識し始めている。
軍にも救援を願い出たが、討伐のために充分な人数を用意するには時間がかかると、頼りない返事だった。
依頼人は嘆息混じりに言った。
「あいつらはあのでかい図体で、炎だけは怖がるんだ。今はそれでなんとか凌いでいるが、あんたらプロに頼むのが手っ取り早いだろう? 村のためにもどうか頼む」
●遭遇
夜の村の周辺――樹木がぽつりぽつりと生えているだけの雪原を捜索していたイレギュラーズ一行は、その気配を感じ取った。
離れた場所から響いた悲鳴の方角を追うと、雪原を駆ける複数の巨大な白い影が真っ先に視界に入る。それはまさしく人狼の姿であり、獲物である人間種の男たちを追いかけている最中であった。
同時に、雪の上に投げ出された状態で拘束されている男の姿も捉えられたが、人狼たちは一瞬の内に群がる。群がる人狼の影の向こうからは悲痛な叫び声が上がり、救出は絶望的な状態であった。
残る4人の男たち――拘束された男を遺棄したであろう犯人は、すでに幻想との国境を目指して駆け出していた。しかし、人狼の群れは今にもその背後に迫ろうとしていた――。
- 死肉を喰らうもの完了
- GM名夏雨
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月24日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
被害者を遺棄する目的で雪原まで出向いた男たちは、人狼の餌食になろうとしていた。しかし、その人狼の注意を引きつける存在が現れる。
『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、自らの手甲を中心にして全身を発光させ、人狼の姿を正確に捉えることを可能にした。また、簡易式召喚陣を使いこなす『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)も、火の精霊を4体召喚し、かがり火としての役割を担わせる。
火の精霊とイレギュラーズの存在を認識すると、獲物に夢中になっていた人狼たちは、わずかに後ずさる。
人狼の注意がそれている隙に、真っ先に逃げ出そうとする男たちだったが、
「さあ、狩りの時間だよ! ボクが相手だ!」
『激情の踊り子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は自らの闘志、オーラを発散させることで、瞬時に相手を引きつける。
毛並を逆立てる複数の人狼は、一斉にヒィロに向かって行く。
飛行能力を有するヒィロは、地面すれすれに体を浮遊させることで、雪によって体勢を崩す恐れを回避していた。ヒィロの体は自在に宙を滑り、次々と人狼の爪牙を避ける様は、ワルツを踊るように鮮やかな動きであった。
人狼の攻撃が集中するヒィロを援護しようと、『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)も即座に動く。エステットは人狼の注意を自身にも向けさせ、薬液が詰まった瓶を手榴弾のように投げつけた。
瓶から飛び散った薬液は、人狼の内の1体――人狼Aに降りかかった。皮膚を溶かすほどの劇薬によって、人狼Aは苦しみ悶える。その間にも、長剣を構える『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、人狼へと迫った。
――後悔させてやりましょう。こちらの間合いに入ったことを。
鋭く振り上げたオリーブの一太刀が、雪のように白い毛皮を鮮血に染めた直後、透かさず『謎と闇』レーツェル=フィンスターニス(p3p010268)も人狼らのかく乱に臨む。妖艶な容姿からは想像もつかない――ながらも、2メートル級の巨躯から放たれたレーツェルの拳は、人狼Aを吹き飛すほどの強烈な一撃だった。
勢いづく前に人狼をけん制しようと、『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)も攻撃の波に乗ろうと行動する。シズリーは人狼らを一網打尽にしようと力を集中させ、爆発的に広がる炎を発現させた。一部の人狼はその炎によって勢いをくじかれ、弱々しい声を上げながら、しっぽを巻いて距離を取る。
更に『焔金』イオルデア・ザ・ワールド(p3p010269)も炎の力を発揮し、
「我の炎で、灰燼となるがいい!」
人狼Bを焼き払おうと、炎の奔流を放ってみせた。
――裏社会の始末に、人の味を覚えた獣か……。
シオンは人狼の出方を窺いつつ、こうなるまでに至った背景に考えを巡らせる。
――炎を怖がるのはいかにも獣らしいが……こういうのはだいたいその内に慣れた個体が出てくるもんだ。だからそうなる前に……。
「ここで殺してやるよ! 同じ狼のよしみだ!」
シオンらが人狼に攻めかかる一方で、美咲は男たち4人を極力逃さないように努める。聖光の力を引き出し、激しく瞬く閃光を男たちに向けて照射する。閃光に包まれながらも、男たちはその場から遠ざかろうと動きを止めなかった。しかし、その意思に反して動きは鈍る。閃光の影響によってふらつきながらも、男たちは人狼からわずかでも遠ざかろうと懸命に雪原を進んでいく。
オリーブらは敵意をむき出す人狼らと、接戦を展開する。鉄帝出身の鉄騎種でもあるオリーブは、極寒の環境にも左右されることなく、人狼に引けを取らない体さばきを見せつける。長剣を軽々と振り抜くオリーブのキレのある動きに人狼は圧倒され、オリーブへの接近を警戒する。
自らの魔力、支援術を行き渡らせるために、世界は戦場全体を把握することに努めていた。美咲に追い詰められながらも、最後まで悪あがきを続ける犯人らを一瞥し、世界は心中でつぶやいた。
――そこに殺したい人間を捨てるだけで勝手に魔物が処理してくれるんだから、そりゃ捨てるよな。まあその結果、当の魔物に追われる破目になってるのが笑えるが。
捕縛の意思を尊重し、一応犯人が死なない程度に世界は気にかける。更に世界は機敏に動く人狼の動きを鈍らせようと、魔法陣から召喚した白蛇を向かわせる。白蛇は音も感触もなく人狼Cに牙を突き立て、その牙に込められた呪力を静かに流し込んでいった。
人狼C、D、Eがエステットを取り囲もうとしたが、 エステットは自らの翼を広げ、力強くはばたかせることで人狼を怯ませる。人狼Cを弱らせる世界のサポートも手伝って、エステットは危な気ない動作で人狼の包囲を破った。
絶え間なく攻撃をつなごうとするレーツェルは、俊敏な動きで人狼Cを狙う。人狼Dはレーツェルの動きを見切ったように飛びかかったが、レーツェルの反応速度も人狼に引けを取らない。突き出しかけたレーツェルの拳は、即座に振り上げられた人狼Dの腕を弾いた。互いに距離を取れば、イオルデアはレーツェルと入れ替わるように人狼Dに向けて炎を放った。
人狼Dとの交戦によって、レーツェルの腕からは一筋の血が伝うが、
「ふむ、暇つぶしの相手には丁度いいようだな」
レーツェルは顔色ひとつ変えずに人狼と対峙し続ける。
――さあ、力を取り戻す為の糧になってもらうぞ、人狼。
レーツェルはある人物、『魔女』の姿を思い浮かべながら、血管が浮き出るほどの力を込めて拳を構えた。
――弱くなったまま足掻くのもそれはそれで愉しいのだろうが……ワタシには不安要素が付き纏っているからな。
犯人4人を捕らえることに傾注していた美咲に対し、軽快な動きで蹴り技を放つシオンも加わり、男らは続々と雪の上になぎ倒された。その場に伸びるばかりとなった男らは、人狼とある程度距離を置いた場所に放置された。
シオンと美咲が人狼らの方へと向き直った瞬間、人狼の咆哮が響き渡る。咆哮する人狼を中心にして、無数の雪の粒が一挙に舞い上がり、混戦をきわめる予感を感じさせた。
周辺は地響きに包まれ、どこからともなく大量の雪が滝のように降り注ぐ。実際になだれ込む雪があるかのような強力な幻覚によって、人狼はイレギュラーズを苛む。しかし、大量の雪が降り注ぐ中、押し潰されかける人狼の姿も確認できた。
無差別に対象を巻き込む幻覚を利用しようと、美咲は人狼を引きつけるヒィロと共に息を合わせる。
「さあ、ヒィロ! 一気にいくよ」
美咲の一言に応じて立ち回るヒィロの動きに合わせて、美咲は激しい攻撃を展開する。その手に扇状に炎を噴出させ、人狼を焼き払わんばかりの勢いを見せつける。
舞い踊る火の粉の向こうの美咲に頼もしさを覚えるヒィロは、心中でつぶやいた。
――とーっても頼もしい美咲さんが付いてくれてるから、これっぽっちの恐れもなくボクは踊れる、戦い続けられるよ!!
「さあ、かかっておいでよ!」
ヒィロは興奮状態の人狼を前にしても、注意を引き続けると共に果敢に攻撃を扇動する。
ヒィロに集中する人狼の隙を突こうと、シオンは動く。全身から発散される漆黒のオーラを収束させ、シオンは人狼へと食らいつく禍々しい一撃を放った。
衝撃を受けて激しく散らされる雪が幕を作る。それを突き破るようにして、瞬く間に攻撃が展開される。魔力を射出する拳銃を構えたエステットは、人狼Eをハチの巣にする勢いで銃撃を繰り返した。
エステットの銃撃の直後に合わせて、オリーブは人狼へと即座に斬りかかる。人狼は俊敏な攻撃でオリーブを翻弄しようとするが、オリーブは隙のない剣さばきで相手を凌ぐ。入れ替わり立ち替わり人狼に向けて攻撃を展開し、炎の力を存分にぶつけていくイオルデアも、激しい攻勢で臨む者に続いた。
徐々に追い詰められていく人狼はその数を半数以下に減らす。残る4体が威嚇を繰り返しながら、イレギュラーズへの攻撃のタイミングを窺っていた。
充分に互いとの距離を取り始め、隊形を広く保つ人狼らは反撃の動きを見せる。唐突に咆哮を響かせる人狼は、再度その能力でイレギュラーズを翻弄することを試みる。
咆哮によって引き起こされる幻覚が、五感の多くを苛む。滝のように頭上から降り注ぐ雪を必死に掻い潜ろうとするが、視界は大量の雪によって真っ白にかすむ。
エステットは視界を阻まれながらも、接近する人狼Gの気配を感じ取る。機敏に反応するエステットは雪の激流に耐えながらも人狼の動きを見極め、引き金を引く手を止めなかった。
人狼はより多くの対象を幻覚の影響下に引きずり込むことを狙ったが、世界は自らの能力でその影響を打ち消していく。自身の魔力を行き渡らせ、世界は同時に傷を癒す力を促進させる。
一気に相手を押し返そうとするシオンは炎の力を利用し、人狼らの分断を図る。同様に炎を操るイオルデアも加勢し、その勢いに乗じてオリーブは果敢に攻撃を仕掛ける。
炎の勢いにしっぽを巻いていた人狼は、オリーブの一太刀を避け切れずに斬りつけられる。刃を翻すオリーブは容赦のない構えを見せ、更に人狼の懐へと踏み込んだ瞬間に深手を負わせた。
雪上を一層赤く染め上げる人狼の絶命を認めた直後、オリーブの背後にもう1体の人狼Hが迫ろうとしていた。その動きを察知したレーツェルは、真っ先に人狼Hに殴りかかる。人狼Hは瞬時に受け身の態勢を取り、レーツェルと拳撃を交える。
伯仲する攻防を繰り広げる間にも、再度咆哮が響き渡る。雪によって白くかすむ視界をものともせず、何度でも切り抜けようと挑むイレギュラーズの姿勢は変わらなかった。人狼を追い詰めるための後押しをするように、美咲も全力を出し切る。
「さぁヒィロ! 最後もしっかり決めていこ!」
銀世界を暗黒色に染めんばかりにあふれ出す美咲の魔力。暗黒の力によって破滅の舞台へ引きずり込まれるように、人狼Hは無防備な状態で美咲の前に引きずられた。
確実に人狼Hに留めを刺した美咲を確認しつつ、美咲の信頼に応えようとするヒィロは張り切る。
――大好きな美咲さんにカッコいいとこ見せるために、超頑張っちゃうよ!
そう心中でつぶやくヒィロは笑みすら浮かべていたが、一層気を引き締めて残る3体との戦闘に臨む。*
ヒィロは終始、あえて人狼の前に出ることで攻撃を誘った。人狼の判断力を削ぎ落とすように敵意を集中させ、ヒィロはがむしゃらに突っ込む人狼を華麗にかわし続けた。
ヒィロの陽動によって周りが見えなくなった人狼らは、やすやすと攻撃を許すことになる。
接近戦を展開し、より激しい攻撃に転じるヒィロらを援護しつつ、
「ここの平和を脅かすからには、倒れてもらうノネ!」
銃撃を続けるエステットは強い意志を覗かせた。その思いは皆も同じであり、同時に人狼を凶暴化させた諸悪の根源にも憤りを抱いていた。
オリーブは人狼らの間合いに果敢に踏み込み、その機敏な剣さばきから強烈な斬撃を連続で放った。瞬く間に斬り伏せられた最後の2体は、二度と起き上がる気配を見せなかった。
「とりあえず、人狼は駆除できたね!」
そう言って、ヒィロは雪原に伸びたままの男4人を顧みる。
オリーブは男たちのそばに近づきながら言った。
「次の仕事につながるかもしれません、軍にも報告しておきましょう」
オリーブは淡々と男たちの拘束に協力し、世界は1人黙々と被害者の埋葬の準備を始める。一方で、軍の対応に不満を募らせていた美咲は、
「事後処理と再発防止。こういうのをしっかりやってこその公的機関でしょ?」
そうぼやきつつも、今できることを進める。
ヒィロは男の1人を叩き起こし、被害者を置き去りにしていた経緯を聞き出そうとする。
エステットはその男に対して、「ここの裁きはキツイのデス」とそれらしい脅し文句を並べる。
「わらわの伝え聞いた話では、何度倒れても収まらないと聞いたことがあるのデス。今の内に、正直にすべて吐くのデス――」
男は観念したように犯行の経緯を語り出す。しばらく男の話に耳を傾けた後、シオンは村の方角を一瞥する。シオンは心中でつぶやいた。
(「この国に愛着なんざねーが、こういう村の平穏を脅かすようなことをする連中は、反吐が出るな……」)
――単純な話であった。雪原に連れてこられた被害者は組織にとっての裏切り者であり、いろいろな意味で自分たちの手を汚すのが面倒なのと、人目が及ばない丁度いい場所として利用された。
イレギュラーズから報告を受けた軍は幻想側との協力を図り、犯行に関わった組織を取り締まることを約束した。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。村の人々は皆さんに感謝していることでしょう。
GMコメント
●シナリオ導入
夜の雪原を捜索していたあなたたちは、偶然にも被害者を遺棄しようとする犯行現場に出くわした。被害者はもう手遅れだろう――。
目の前で逃げ惑う犯人の男4人と、それを追う人狼の群れ――どう行動する?
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●成功条件について
人狼10体の討伐。
●戦闘場所について
モンスターが活発化する夜の雪原。
鉄帝と幻想の国境付近で、積雪40センチほどの極寒の地。最高気温は氷点下マイナス。
村の周辺は、一面雪原。樹木がぽつぽつと生えている程度。
●モンスターについて
通称人狼と呼ばれる。
雪原に紛れやすい白い体毛で、平均身長はおよそ3メートル。
類人猿のように二足歩行も可能だが、頭は狼そのもの。鋭い爪と牙(物至単)によって獲物を捕らえる。また、咆哮と共に雪崩の幻覚を引き起こすことで相手を撹乱させる(神中域【凍結】【恍惚】)。
主に人間種や獣種を好んで襲うようだ。
依頼人も話していたように、ある属性攻撃が弱点。
●犯人と被害者について
軍に報告する、埋葬など、何かしらのアクションがあればどうぞ。4人を取り逃がしたとしても、依頼の成否には影響しません。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
Tweet