シナリオ詳細
再現性東京202X:解放されてなお離さぬ枷
オープニング
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練達の一区画に存在する再現性東京。その一角に希望ヶ浜と呼ばれる地域がある。
そこは、別世界「地球」より召喚された旅人が変化を許容できず、現代日本を再現した街。
ただ、先のR.O.Oでの事件によって、練達の首都セフィロトにあるマザーが暴走を引き起こしたことで、希望ヶ浜に大きな爪痕を残した。
都市機能の大部分はなんとか復旧に至ったものの、度重なる事件は自身が混沌にいるのだと強く実感する旅人も増えたと見られる。
そして、夜妖と呼ばれる怪異は、彼らを新たな事件へと誘うのである……。
ある日の夕暮れ。
混沌においても冬の日没は早いらしく、部活なども切り上げる時間が早まっており、希望ヶ浜学園の高等部校舎、敷地内にはほとんど生徒が残ってはいない。
ただ、例のR.O.Oのテストプレイヤーだった者達は別だ。
「う、うう……」
彼女、有馬・茜は数年前にこの混沌へと召喚され、平穏な生活を望んだ故に希望ヶ浜での生活を望んだ。
慣れぬ地での生活で、茜は少しずつ病んでいく。
「もう、これ以上は勘弁して……」
その為、公募されていたR.O.Oのテストプレイヤー……仮想空間に希望を見出すことは仕方なかったことだろう。
だが、結果として仮想空間に半年ほど捕らわれる羽目になってしまった茜はしばらくのリハビリを経て高校へと復帰したのだが……。
こうして遅くまで補習を受けねばならぬ状況となっている。当事者としては飛んだ罰ゲームだろう。
まして、R.O.Oでの出来事すらも、当事者を苛み続ける。
ガサッ、ガサガサッ……。
「ひっ……!」
R.O.O内では、深緑の迷宮森林にて、幻想種らしき者に捕らわれていた茜。吹き付ける風、木の葉が揺れる音には非常に敏感になってしまう。
殺されぬ程度に責め苦を続けられることがどれだけ精神的に辛いか。解放された今になっても、R.O.Oでの出来事は彼女を捕えて離さない。
体を震わせながら、茜は学生寮への道を歩いていく。
だが、その場へと現れる不穏な影。
茜を覆うように周囲へと4本の大樹が現れ、その中央には怪しげな老人の姿が……。
「フォッフォッフォッ……」
「ひっ……」
それはかつてR.O.Oで捕らえられた幻想種を思わせる姿をしており、茜はかつてのトラウマを蘇らせる。
捕らえられていた時のことを思い出し、地面に座り込んだ彼女は身を竦めて動けなくなってしまうのだった。
●
R.O.Oでの事件は一応の解決を見た。
ただ、それらが練達へと残した爪痕は小さくない。
「関係者は様々な対応に追われていて、気が休まる暇もないようです」
幻想、ローレットに集まるイレギュラーズへ、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が依頼の話を持ち掛ける。
練達、再現性東京に現れる夜妖。なんでも、ROOに登場する存在が現実へと具現化する形で現れるという。
噂話ではあるが、R.O.Oに捕らわれた経験のある研究者やテストプレイヤーがで元となっているそうで、信憑性は高い。
「夜妖は主に、R.O.Oにダイブした経験のある者に襲い掛かってくるそうです」
そうでない者も被害は確認されているが、それを信じる者にプレイヤー経験者が多いからという話だ。
さて、今回、アクアベルの予知も加えて確認されたのは、高校生の少女が夜妖に襲われるというもの。
これまでの話で推測できると思うが、やはりR.O.Oのプレイヤー経験者であるという。
「名前は有馬・茜さん……希望ヶ浜学園の高等部に通っています」
彼女は遅れた授業の分、放課後に補習を受けているようだが、遅くなった帰りに夜妖に出くわしてしまうようだ。
学園から寮までの道は緩やかな下り坂の一本道で、そこに虚空から樹木に囲まれた幻想種の老人の姿で現れるという。
「いずれもR.O.Oの翡翠……混沌でいうところの深緑で確認された大樹の嘆きを思わせる敵です」
数は人型1体と樹木型が4体の計5体。
茜がトラウマを発症してしまわぬよう、彼女を気掛けながら速やかに夜妖を討伐したい。
アクアベルは説明しながら、イレギュラーズへと資料を提供する。
現地への到着は敵の出現前後になるはずなので、到着した直後すぐに茜の保護と現れた夜妖の対処を始めたい。
「どうか、災難続きの彼女を、助けてあげてください」
気が休まる暇もない旅人少女。同じイレギュラーズであれば、その心を癒してあげられるかもしれない。アクアベルはそう説明を締めくくったのだった。
- 再現性東京202X:解放されてなお離さぬ枷完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月15日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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練達希望ヶ浜。
イレギュラーズは区画内にある学園を目指して移動していく。
「今回の仕事は人を襲う夜妖を倒す事だ」
古き任侠に身を置いていたことがある『“侠”の一念』亘理 義弘(p3p000398)が端的に今回の事件の目的を纏めるが、事態はそう簡単では無い。
「以前から、再現性東京は想像が具現化する街だなと思ってたが、まさかR.O.Oの存在が現れるとは」
音楽一家の生まれ、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は今回の事態に少なからず驚きを隠せずにいたようだ。
「茜お姉さん、すっごく怖くてその不安が夜妖になっちゃったのね」
「この嬢ちゃんも中々に不幸な目に遭っているようだ」
深緑にて代々神事に携わる名家の娘である『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が言う被害者、有馬・茜は混沌への召喚、ROOに囚われた過去を持つ。イレギュラーズならともかく、戦えない身でそうなるのは恐ろしいだろうと義弘もその心境を慮っていた。
仮想世界での恐怖が現実世界で実害と化して襲い掛かる――。
「なるほど。当人からすれば、正にトラウマ発症ものだ」
仙狸の女性、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は得心がいったとばかりに頷く。
「久しぶりに見るな。これ程に嫌悪感を抱く夜妖は」
普段冷静な汰磨羈が不快な感情を露わにする。それだけ、気分を害する相手なのだろう。
「トラウマかぁ」
練達の教会にて宗教の会長をしている『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)がぽつりと呟く。
R.O.Oでは茄子子も吹っ切れて死にまくってもなんとかなったそうだが、無理な人には無理だと感じるのだろう。
「心に残った傷が、いつまでも囚えて離さねえ気持ちはわかる。だが、振り切らねえといけねえんだ」
一定の理解を示した鉄帝南部の寒村出身の『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)だったが、すぐに「自身に言えたことではないが」とやや自虐気味に独り言ちていた。
「人のトラウマを見せるようなことをするとは、許せないのですよ!!」
「怖いのも不安もすぐには消えないと思うけど、今の危険からは守れるのよ!」
そこで、とある山脈の元羊飼い『シティーガール仮面』メイ=ルゥ(p3p007582)やキルシェが声を荒げると、一時置いて他メンバーも続く。
「まぁ、会長達が居れば夜妖でも大樹の嘆きでもどっちもでも問題ないよ!」
「せめてこの場を助けてやるのが、俺にできる事だろうよ」
茄子子の主張通り、脅威は排するのみ。そして、義弘の言うよう、被害者は助けるのみだ。
仲間達の言葉を耳にしつつ、メイは考える。
現実……混沌では守ってくれるヒーローがいることを知ってもらい、ピンチに駆け付ける人がいると安心してもらいたい……。
「つまり……シティガール仮面の出番ですか!?」
メイは早速、ヒーローとなるべく仮面を装着するのである。
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学園では事件も頻発しており、通うイレギュラーズもいる為か迷うメンバーはいない。
「気を付けねぇとな」
日が暮れてきており、事件現場は薄暗い。アクセサリーで視界に対応する義弘は、同じ理由で携行品を使う汰磨羈が頷く。
「夜妖を討伐して、茜さんを助けるぞ」
メンバーはすぐにそれらに気付き、イズマを始めとして皆走り始める。
虚空より現れた木々。そして、中央に幻想種らしき老齢男性。それらは大樹の嘆きと呼ばれる存在に酷似していた。
「フォッフォッフォッ……」
「ひっ……」
悲鳴を上げる女子高生、彼女……有馬・茜の手前へと猫フードに仮面を被った狐の獣種少女が割り込む。
「希望ヶ浜の平和は、謎のヒーローシティガール仮面がお守りするのですよ!!」
堂々と名乗りを上げたメイに周囲に、メンバー達も続々と駆け付けて。
キルシェはハーモニアを怖がっていると思われる被害者、茜を気遣って大きな帽子を被る。
「出来るだけ、周りにも被害は出さないのよ!」
茜に被害を出さないのはもちろんだが、新たな異常に怯えかねない近隣の練達民を思いやって周囲へと保護結界を展開する。
すぐ、茜救出に動くキルシェを援護すべく、メンバー達は動き出す。汰磨羈はすでに己を強化し始めていたようだ。
「ようてめえら、好き勝手してるじゃねえか! 人様の弱みにつけ込むのはそんなに楽しいか!」
「何じゃ、貴様らは……?」
強気な態度で敵を挑発するシオンを、夜妖の長が睨みつける。
だが、そいつは茜に対する関心が強いのか、すぐに彼女へと視線を戻してじっと見つめていたようだ。
「まるでストーカーのような奴だな。気色が悪い、此処で討伐する」
だが、とある独裁国家の元軍人『紅い怨念』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)の言葉に、長耳をピクリと動かした夜妖は此方へと向き直る。その体は半身が樹と化していた。
「耳長いからって調子乗ってんじゃないよ!ㅤふんぞり返ってないでこっちこい!」
勢いで啖呵を切った茄子子が「あ、やべ」と声を漏らす。
どうやら、ROOの後遺症で煽りが出たそうだが、夜妖は関係なく根を広げて攻撃を仕掛けてくる。
メンバー達もまた、それらへと即座に応戦し始めるのだった。
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希望ヶ浜の坂道に現れた木々の姿をした夜妖。
大樹の嘆きとも呼ばれるそれらは根を広げたり、枝を薙ぎ払えるよう大きく伸ばしたりと構えをとる。
茄子子を狙っていたようであったが、それより早くメイが動いて。
「茜先輩には近づけさせないのですよ」
保護対象である茜の前に立ったメイは、向かい来る夜妖らに向かって刃を手に切りかかり、速度で相手を圧倒して硬直させる。
それだけでなく、メイは相手をマークして移動妨害し、前に進ませない。
さらに、自己強化を終えた汰磨羈も一気に距離を詰めており、有無を言わさず妖刀で切り込む。
続けざまに、汰磨羈は片手に水行のマナを凝縮・縮退させる。水銀を思わせるその手で、彼女は夜妖である樹を直接つかみ、その内部を破壊する。
仲間達が抑えてなお、樹1体が茄子子へと向かっていた。
「やっぱ、こっちこないでね!」
勢いで煽ってしまった茄子子は苦笑いしつつ、言霊をぶつけることで一時的に相手を上空へと羽ばたかせて。
「飛んでけー!」
全長6~7mもある樹を、茄子子は大きく後方へと吹き飛ばす。
敵陣がやや崩れたところにシオンもまた突っ込み、茜の手前へと出てから短剣と裏刃を操って乱撃を叩き込んでいく。
夜妖達に自らの脅威を示しながらも、シオンはちらりと茜に視線を投げかけて。
「あんたは少し離れてな! こんなクソ野郎どもはすぐに片付けてやるからよ!」
「あ……」
アニキカゼを吹かせるシオンに茜も少し安心したのか、ようやく動けるようになって身を起こす。
「猪口才な……」
夜妖の長である老齢男性は表情を歪め、木の葉を降らせてイレギュラーズを牽制する。その葉の一つ一つが刃のようになり、一気にメンバー達へと襲い掛かる。
そこで、イズマが身構えて。
「俺が相手だ。ここはお前達がいていい場所ではない!」
名乗りを上げて敵の注意を強く引くイズマもまた、茜へと呼び掛ける。
「俺もR.O.Oに閉じ込められてたことがある」
イズマの一言に、茜がハッとする。
R.O.Oで動くことはできたイズマとは違い、捕らえられていた茜の苦しさ、辛さ、恐怖は想像して余りあることを彼は察して。
「……でも、もう大丈夫だ。茜さんを脅かす存在はここで全て倒すから、どうか安心して」
「は、はい……」
すると、キルシェが茜の手を引く。
「木馬さんたち、お菓子あげるからお手伝いしてね!」
彼女は呼び寄せた妖精の木馬へと茜を乗せ、退避を促す。
その様子を横目で見ていた義弘は改めて眼前の敵に集中して。
「大樹の夜妖達とあれば、殴り倒してへし折るのが一番だろう」
積極的に相手へと近づき、出来るだけ派手に暴れて注意を引こうと義弘は殴り掛かる。
すでに後退に転じてはいるが、必要以上に恐れることはないと義弘は茜に自らの背で示す。
(まあ、ヤクザの俺が言えた事ではねえんだが………)
ただ、老人が降らす木の葉もそうだが、根を伸ばして絡めてくる大樹も厄介な相手。
義弘は五感を高めて仲間の位置を把握し、仲間を巻き込まぬように両腕を広げつつ旋回して大樹複数を殴りつけていく。
イルマも茜が退避するまでの時間を稼ぐべく、ライフルで夜妖の根を撃ち抜いて足止めをする。
老人を守るように樹が前に出てくるのは、イルマの想定通り。
「学生より私の方が骨があるだろう? 来い、まとめて調理してやる」
茜が視界外に離れるまではと、イルマは敵の注意を引くのである。
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「びっくりさせてごめんね。でもルシェたちは茜お姉さん助けに来たの!」
樹の姿をした夜妖から離れ、キルシェはリチェカーレに乗りつつ、木馬に跨る茜に呼びかける。
もう大丈夫だと水を手渡すキルシェは天使の歌声を響かせ、彼女を安心させていた。
現場はなおも夜妖が暴れる。
イズマが再度名乗りを上げて相手の意識を自らへと向け、黒い顎を発する傍らで茄子子は回復に努め、チームに号令をかける。
「はい狙ってー! あ、そこ根がくるよー!」
茄子子の呼びかけでイズマが飛行して根を避ける。そして、その茄子子へと注意を向けようとした敵に、汰磨羈が迫って。
「余所見する暇など与えるものかよ。なぁ?」
後方には退避した茜やキルシェもいるはず。
そちらへと向かわぬように汰磨羈は立ち回りつつ、強引に攻め立てて確実に敵の数を減らそうとする。
樹の枝、根の根元。汰磨羈はそれらを積極的に叩き割ることで攻撃力、移動能力を徹底的に削ぐ。
好機と判断した彼女は水銀を思わせる手で幹をつかみ取る。
「終わりだ」
相手の気力を奪い去りながら、彼女はその一部をもぎ取ることで樹を始末してしまう。
直後、周囲でイルマのライフルが火を引く。
「こちとら殺し合いには慣れているんだ。貴様らの如きケダモノが付け上がるな」
敵の動きを注視するイルマは根元を撃ち抜いて樹のバランスを奪いつつダメージを与え、さらに連射して相手の体力を奪う。
「チェストーーー!!」
そこに、速度をつけ、メイが斜めにチョップを叩き込むと、そいつは真横にぶっ倒れる。
「てりゃー!!」
その反動を使ってキックし、メイは次なる敵へと飛んでいく。
続き、義弘も1体を追い込んでいて。
「夜妖だろうと、やれない敵はねぇ」
仲間が密集してくる状況となれば、義弘も戦法を切り替えて直接拳を叩きつけるのだが、それだけではない。
義弘は人外とも思える力を持つ両腕に、拳に、全身の力を転化させた雷を纏わせて。
「相手は木だからな、電気も通りやすいだろうよ」
渾身の力で義弘が殴りつけた敵の全身に、電撃が走る。地面から根を突き出して反撃していたその樹はその状態のまま力尽きてしまっていた。
シオンもまた別の1体を殴りつけていて。
(あたしが得意なのは、基本的にはぶん殴ることだけだ)
仲間と攻撃対象を合わせるシオンは槍の如く突き出された枝を躱して。
その腕から形作ったのは、膨張する黒き顎。
鋭い牙が夜妖である樹の幹へと噛みついたその顎は幹を噛み砕き、その夜妖をただの倒木へと変えてしまった。
「ぬう……!」
イレギュラーズの実力に舌を巻く夜妖の長である老人は地面に草を生やしてシオンらを足止めしようとする。
さらに、伸びる樹の腕を叩きつけ、近場にいたメンバーを薙ぎ払って見せた。老人の一撃とは思えぬ威力は大樹の嘆きのそれを感じさせる。
「はい治すよー! ……痛ったい! ちょっと待っててよ! タイムタイム!!」
仲間の危機を察した茄子子は怪我人を庇う様に前に出て、福音をもたらす。
だが、敵の攻勢は止まらず、老人の呼び出した精霊が激しい空気の渦を巻き起こす。
「痛いのもR.O.Oでだいぶ……いやまぁ、慣れたからって痛く無いわけじゃないけどね!!」
「く、ううっ……」
茄子子はなんとか持たせていたが、傍のイルマは当たり所が悪く、渦に巻き込まれて意識を失ってしまった。
それでも、イレギュラーズは空気の渦に耐えきり、さらに夜妖殲滅に力を注ぐ。
前線のイズマは傷つきながらも細剣を操る。
その刃はまさに疾風迅雷。戦場を駆け巡るイズマの剣は見事に最後の樹を切り倒してみせた。
「なんだと……!?」
連れていた従の夜妖を皆倒され、老人は半分が樹となった顔を歪ませ、さらにイレギュラーズ達へと木の葉を降らす。
しかしながら、多少、エッジの効いた葉で傷つこうが、メンバー達の勢いは止まらない。
「これ以上はさせないのですよ!」
メイが勢いをつけて老人へとチョップを叩き込むと、横にいたシオンが黒顎を食らいつかせていく。
さらに、茜を退避させたキルシェも戦いに加わり、術を組み立てると老人の力を一時的に封印して見せた。
「ぐ、うううぅっ!!」
「皆さん、今なのよ!」
力を抑えられて悶える夜妖。キルシェの呼びかけを受けて義弘が拳を叩き込むが、相手が強い力を持つこともあり、効果的なダメージを与えられない。
ならばと、義弘は敵の体へと掌打を叩き込む。
「如何に表面が固かろうが、内ならそうはいくまい」
その瞬間、彼は直接敵の体内へと気を送り込み、内部から相手の体を破壊する。
それによって仰け反る老人へとメンバーの攻撃が集まる中、汰磨羈は並々ならぬ怒りをそいつへと向け、一気に切り込む。
そして、先程と同じく、汞(みずがね)の手で敵をつかみ取って。
「トラウマを煽るだけの下劣な存在なぞ、疾く逝くがよい……!」
その力を奪い取り、さらに残る体力を全て削ぎ落とす。
「く、口惜し、や……」
夜妖は全身を枯れ木と化し、萎むようにしてその場から消えていったのだった。
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夜妖を片付け、イレギュラーズは後処理をしつつ、被害者へと声をかける。
「しっかりしな。あいつらはもう片付けた。少しはスッキリしたか?」
「怖いのはメイ達がもうやっつけたので安心してほしいのですよ! もし、また出てきたとしても、何度だってやっつけるのですよ!」
シオンの呼びかけに茜が頷く。続き、メイが胸を張って。
「シティガール仮面とイレギュラーズは、平和の為にいつも戦っているので、お任せなのですよ!」
「……うん」
ようやく、茜は笑顔を見せる。
救出した少女の姿を横目に、義弘は倒れたまま残る木々を切り、討伐を進めていく。
「あのね、怖いことがあっても、ルシェたち守るから大丈夫なのよ!」
それらに視線が向かわぬようキルシェが口を開く。
「不安かもしれないけど、どうせ悩むならもっと明るく楽しいで悩む方が良くない?」
キルシェの呼びかけに、茜は表情を陰らせる。割り切ることができずにいるのだろう。
「実は会長もR.O.Oに捕らわれてたからね! 気持ちはわかるよ! まだ溜まってる仕事も消化しきれてないしね……!」
「うん……」
茄子子の憤りに、茜も共感する。
「でもね、そのうち忘れるからあんま気にしない方がいいよ!ㅤ会長もうほぼ忘れたし!」
それは嘘。忘れられるはずがない。茜も、茄子子も。
「あんたのトラウマはあんた自身がどうにかしないとダメだ」
シオンがゆっくりと近寄り、茜に問いかける。何か目標はないのか、と。
「何か先に目指すものがあれば、後から足を引っ張ってくる傷なんてどーだってよくなる。あたしはそうやって、傷をどうにかしたんだ」
何もないなら探してみなとシオンは忠告する。
幸いにも、茜はまだ学生。大学に進学すれば、何か見つけることだってできるはずだ。
「今度、図書館に行かないか? 静かな場所で一緒に勉強しようよ。嫌な事は忘れて、集中してさ」
イズマがそこで、誘いかける。
「歴史や英語だと足を引っ張っちゃうけど……数学や理科なら一緒に考えるくらいはできるからさ!」
「うん……!」
自分と同じ経験をした人々がここまでやれていることを茜は知る。
「一人で怯える事は無い。御主の周りには、御主を助ける存在がいる事を忘れるな」
汰磨羈もまたその1人。なにせ、彼女は学園の臨時職員なのだ。
「困った事があったら何時でも来い」
「あ、はい」
茜は汰磨羈のカリスマと、目上だと知って小さく返事した。
でも、日も沈んでいる上、茜にも休息が必要だ。
そんな茜の手を、茄子子がとる。まだ新たな夜妖が現れるかもしれず、危ないと彼女は判断したのだろう。
「それでも辛かったら羽衣教会までおいで! 希望ヶ浜にも支部があるからね!ㅤよろしくね!!」
「この辺りに新しいお菓子屋さん出来たって聞いたわ!」
道中、キルシェが笑顔で話す。どんなお店で、どんなお菓子が並んでいるのかわくわくする。
その時、自分を戒めていた枷が解ける様な気がして。
「明日、連れて行ってもらってもいいかな?」
茜はそうキルシェへと問いかけるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは保護対象を助けだした貴方へ。主たる夜妖を討伐した貴方にも称号をお送りさせていただきました。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
ROOの一件も解決をみたものの、その関係者にとってはまだ終わっていない事件のようです。
ある意味で、ネクストに捕らわれたままの元テストプレイヤーの学生を助けてあげてくださいませ。
●概要
全ての夜妖の討伐。
●敵……悪性怪異:夜妖<ヨル>×5体
ROOに取り込まれた経験を持つ者達やその関係者らの噂によって顕現したと思われる怪異です。
自我はなく、ただトラウマを煽るように暴れるモンスターのような存在です。
○大樹の嘆き(主)×1体
老齢の幻想種男性が大樹の嘆きによって捕らわれてしまったようで、半身が樹となっています。
精霊術を使う他、伸びる樹の腕、木の葉乱舞、草絡めといった技を使います。
○大樹の嘆き(従)×4体
樹高6~7m程度の樹の姿をしています。巨体ですが、根を動かして移動も可能です。
地面から多数の根を広範囲に突き出したり根を絡ませて相手の動きを止めたりしてきます。他にも、枝を薙ぎ払って叩きつけたり、槍のように突き出したりと、見た目によらず多彩な技を持つ相手です。
●NPC
○有馬・茜(ありま・あかね)
黒髪ロングの旅人、17歳。学園高等部普通科に在籍。戦闘能力はありません。
ROOのテストプレイヤーとなった為、他の学生より内容が遅れており、学園の大学へと進学すべく勉学に励んでいます。
ただ、ROOから出られぬ日々がトラウマとなっており、彼女を苛んでいるようです。
●状況
舞台は希望ヶ浜学園高等部裏手の路地。緩やかな下り坂で、非常に見通しの良い場所です。
ROOのテストプレイヤーとなっていたことで、しばらく休学扱いとなっていた少女が補習を受けていた帰りに、今回の事件に巻き込まれました。
事後は、彼女のトラウマが和らぐように、何か言葉をかけていただければ幸いです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、よろしくお願いいたします。
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