シナリオ詳細
再現性東京202X:過渡
オープニング
●『再現性東京202X』
そこはまるで――《東京》であった。
再現性東京――それは練達に存在する『適応できなかった者』の過ごす場所だ。
考えても見て欲しい。何の因果か、神の悪戯か。特異運命座標として突然、ファンタジー世界に召喚された者達が居たのだ。スマートフォンに表示された時刻を確認し、タップで目覚ましを止める。テレビから流れるコメンテーターの声を聞きながらぼんやりと食パンを齧って毎日のルーティンを熟すのだ。自動車の走る音を聞きながら、定期券を改札に翳してスマートフォンを操作しながらエスカレーターを昇る。電子音で到着のベルを鳴らした電車に乗り込んで流れる車窓を眺めるだけの毎日。味気ない毎日。それでも、尊かった日常。
突如として、英雄の如くその名を呼ばれ戦うために武器を取らされた者達。彼らは元の世界に戻りたいと懇願した。
それ故に、地球と呼ばれる、それも日本と呼ばれる場所より訪れた者達は練達の中に一つの区画を作った。
再現性東京<アデプト・トーキョー>はその中に様々な街を内包する。世紀末の予言が聞こえる1999街を始めとした時代考証もおざなりな、日本人――それに興味を持った者―――が作った自分たちの故郷。
彼らにとっての日常は容易くも崩壊した。
練達全土を覆う恐怖は未曾有の災害として語り継がれただろう。彼らは其れ等を都合の良い事実に脚色して納得した。否、納得しなくては精神を保っては居られなかった。
此処は再現性東京2010街――であった場所。科学の発展、世界の進歩。そして『人類の停滞』を許しては居られなかった仮初めの揺り籠。
再現性東京『202X』と題されたその場所は人類が呼吸を繰り返し心の臓を揺り動かすと同じく発展を続けていくのだろう。
――再現性東京202X:希望ヶ浜。
この地は、嘗て無いほどの衝撃を感じながらも日常と呼ぶべき安寧の揺り籠にまだ揺れている。
●希望ヶ浜の夜妖事情
「お疲れ様です」
手を振って声を掛けたのは澄原 水夜子 (p3n000214)であった。可愛らしいケースのaPhoneを慣れた仕草でポケットへと滑り入れた彼女は希望ヶ浜市街に存在する大病院『澄原病院』のエントランスにイレギュラーズを招いていた。
「街は見てこられましたか?
……ひよのさんは『日常』の為の初詣等の準備で忙しないですし、なじみさんも少し疲れたようですから今日は私が案内役です。
おや? みゃーちゃんでは不服ですか? こんなにも可愛い澄原分家の女の子ですよ? 玉の輿ですよ、ほれほれ」
ジョークを繰り返す水夜子はくすくすと笑う。
彼女の言うとおり音呂木神社の娘である音呂木・ひよの (p3n000167)は初詣の為の準備に奔走しているらしい。
『あれだけ』の事があったのに、と呟く者も居るかも知れないが待って欲しい。『再現性東京』にとっては『有り得てはならぬ』事件だったのだ。例えば、空に映し出されたエラーの表示、スプリンクラー誤作動による急な雨、災害時のドローンの侵攻。
それが『当たり前の現代日本』では許されないことである。彼らは其れ等を全て都合の良い情報としてワイドショーで垂れ流す。
架空の人間を犯人に仕立て上げ、佐伯製作所に大規模テロを起こしたとして『練達での事件』を昇華するメディアも存在するほどだ。
「驚く程に日常が広がっていたでしょう。
立ち直りが早いんじゃないですよ。そうしなくては心を保っては居られなかったのです。
……さ、こっちです。病棟には用事はありませんから向かうのは応接室です」
最後の診療を受けておこうと待合に並んだ人々。街の年末商戦や行き交う人々の気配。そうした『変化』が如実に表れる。
再現性東京は『2010年での停滞』を止めて新たな都市に向けて動き出すのだろう。これは過渡期。
彼らは、新たな年を迎えれば『希望ヶ浜県』の周辺を202Xと称するのだから――
「こんにちは。先の出来事ではお疲れ様でした。お体の具合はいかがですか?」
応接室には一足先に到着していたのであろう澄原 晴陽 (p3n000216)の姿があった。
テーブルには幾つかの資料が置かれておりイレギュラーズの到着まで何らかの確認を行っていた形跡が見て取れる。
「……ああ、心療内科のものです。先の戦いでの余波で不安を抱いた住民も多く居たようですから。
兎も角、皆さんに来ていただいたのは水夜子からもご紹介が合ったと思いますが希望ヶ浜の変化についてです」
晴陽曰く、再現性東京は発展を行い、進歩する過程にある。だがそれを受け入れきれぬ人々の間では都市伝説が生まれ落ちているらしい。
先の戦いへの陰謀論、テロ、『妖怪の仕業』! etc……。
「真性怪異に関しての調査もまだまだあるのですけれどね! そちらに行く前に希望ヶ浜の治安を安定させておかねば。
此の儘では未曾有の神降ろし事件なんかが起きる……ああ、いえ、口にしない方が良いですよね。チャック」
「……まあ、そういう事です。この地の平穏を護るためにも夜妖退治と夜妖憑きの確保を行って欲しいのです。どうにも、大規模なようですから」
晴陽がテーブルに置いた資料には病名や症例などが掲載されていた。
case:オーレ・ルゲイエ症候群
『患者・鳴滝 加純によりこの夜妖による影響を把握するに至った。鳴滝 加純は難病指定XXXXにより通院歴のある患者である。
練達での大規模事件発生後通院が途絶え、職員による電話確認の結果、家族から『部屋に閉じこもってしまった』という情報を得る。
調査員の訪問の結果、オーレ・ルゲイエと呼ばれる夜妖による影響である事が認められた』
「オーレ・ルゲイエという呼び名は我々が付けた通称です。伝承に基づいた名としていますが……
その呼び名が付いたとおり、こうした患者は夜妖憑きとの接触の結果、長い眠りについている者だと推測されます。
呼吸状態は良好、健康状態も悪くはありませんが、長き眠りから覚めなければ――」
口を噤んだ晴陽は一先ずは願い出たい内容をまとめ上げた資料だけをイレギュラーズに差し出した。
「オーダーは夜妖憑きの確保。そして次にこの夜妖を祓う事です」
そうしなくては影響が広がっていく。夜妖憑きは愉快犯などではない。晴陽も水夜子も分って居るのだ。
――幸せな夢だけ見て、永遠に過ごしていたい。
この世界が、仮初めであったことに気付きたくなかったのだから。
「……それでは、対処を宜しくお願いします。夜妖憑きの処遇については皆様に一任します」
●オール・ルゲイエ
年の離れた妹は生まれた頃から長くは生きられないと言われていた。
それでも、愛らしい彼女を慈しんで過ごしてきたのだ。彼女が少しでも幸福な思い出に包まれるようにと願いながら。
「お兄ちゃん、怖いよ」
布団に包まって涙を流す妹の背を撫でて、窓の外を見詰めて枝折は嘆息した。
――Error.
『空』であった場所にはその様な表示がある。空、ではない、大型モニターによるエラー表示が妹の心を掻き乱した。
窓の外を練り歩いたロボット達の暴走に、火事場泥棒だと叫ぶ声。まるで世界の終焉を思わせたのは――これまでの平穏が壊れたからだろうか。
「お兄ちゃん……」
加純の背を撫でて、大丈夫だと呟いた。
――良い子だねぇ。良い夢を見ないかい?
どこからか聞こえた声に、枝折は手を伸ばしてしまった。
憔悴して自死さえも考えた妹が少しでも長らえられるように。閉じこもった部屋の扉をどん、どんと叩く音がする。
「枝折、加純、もう大丈夫だから。
窓の外を見て、ほら、何時も通りでしょう?」
……母さんと、誰かの声がする。調査員と名乗った誰かだ。
枝折は加純をベッドに横たえてから街へと逃げ出した。捕まってしまえば、妹の見る幸福な夢が消えてしまう予感がしたからだ。
- 再現性東京202X:過渡完了
- GM名夏あかね
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月17日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
喧噪を滲ませた街は2021年の終わりをその肌で感じ取る。『2010街』と呼ばれた停滞から脱却し、新たな一歩へと踏み出すことを決めたらしい。
あれだけのことがあったというのにメディアではサイバーテロが囁かれ、未曾有の大災害のように扱った。其れ等に都合の良い理由を付けて納得する小汚い大人の在り方は『揺り籠』に住まう者達にとっての安寧に他ならない。
「院長先生、また会ったな。慰安パーティでは急に悪かった。今回は精々先生の役に立って、借りでも作っておくことにしよう」
揶揄うような声音で『疲れ果てた復讐者』國定 天川(p3p010201)が肩を竦めれば院長室で資料を手渡す澄原 晴陽の眸が丸い色を帯びた。
「……ええ。貸し借りは此の世界では重要でしょう」
ツテを求めるという天川と協力者という立場になる事は悪くは無いか。晴陽が薄く浮かべた笑みは利害の一致を表しているかのようである。
澄原病院を出れば、仕事が開始する。院長室を後にする前に丁寧な一礼をした『凡人』越智内 定(p3p009033)は僅かに緊張を滲ませた。
――停滞からの脱出。
それは、この街に住まう定だからこそ、疑問に思うことだ。それは聞こえこそは良いが、今のこの街に停滞を越えた先へと着いてくことが出来る者が何れだけ居るのだろうか。慣れ親しんだ街並みと何時も通りの風景を日常と呼ぶ人々は、何も変わらないという『停滞』に溺れている。永劫に定められたありきたりな日常を求める気持ちを定はよくよく理解する。
(そうだ、僕だって変わる事なんて望んじゃいなかった。
……ただ『そうしないといけない理由』が出来たから、少しだけ今の場所から進もうと思えただけだ)
資料を眺めてから『希望ヶ浜学園高等部理科教師』伏見 行人(p3p000858)は嘆息する。希望ヶ浜で教師として働く以上、この街を俯瞰することが多い。彼らは混沌世界に住まいながらも日常と呼ぶべき仮初めに身を沈めた街行く人たちは夢を見ている。望んだ、幸福な世界という存在し得ぬ夢を。
「この街の人たちは夢を見ていることを望んだ人たちだ、と俺は感じた事がある。
夢は醒めないからこそ夢であるけれども、いつかは醒めてしまうのもまた、夢だ。
そう思うのならば非常に優しい存在なのかもしれないが――」
それでも、影響を及ぼすというならばそれを野放しにはしては居られない。
「夢だもんね」
『正義の味方(自称)』皿倉 咲良(p3p009816)はぽそりと呟いた。嫌なこと、見たくないものは沢山ある。挫折や無力感を味わう度に、そうやって目を逸らしたくなるのが人間の性。惑いがないわけではない、だが向き合わねば前には進めぬのだと彼女は強く知っていた。
向き合うからこそ、停滞を止めた街。『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は希望ヶ浜で一連の話を聞いてから「あの事件の犠牲者は『そんな形』でも出てるんだね」と呟いた。この希望ヶ浜という街が如何に歪な世界であったかを実感させるかのようである。
「目を覚ませ、というのは酷なのかも知れないね。この街はそれそのものが醒めない夢を見ているみたいなものだから。
目が覚めたら――『現実を目の当たりにした』故にこうなった……とも言えるから、きっと沢山の人が眠っているのは――」
其れを望んだからだ、とサクラの唇は動いてから引き結ばれた。『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)とて『元通り』になるとは思っては居ない。様々な影響が如実に滲んだ希望ヶ浜。練達での騒動によって引き起こされた其れ等の結末がこれでは余りに痛ましい。
「私はこの街が好きだからね。出来る限りもとの日常を取り戻せるようにしたいと思っている。
そのためにも、まずは目の前の夜妖を倒すとしようか。さて――街に出れば私達は宛ら夢の世界を歩く旅人かな」
揶揄うような声音で告げるゼフィラに『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)は夢と呟いた。
彼女は、澄原病院を出る前に声を掛けてきた澄原水夜子を思い出す。
「僕は水夜子君の案内ならば、望む処ではあるが。さて、それにしても厄介な案件ではあるようだ」と返した言葉には彼女は目を細めて笑ったが、彼女の従姉――血の繋がりを思えば彼女と晴陽は『ほぼ』他人なのだろうが、立場が姉妹のように見せている――との会話が水夜子に愛無を呼び止めるきっかけを作ったのだろう。
――晴陽先生に聞いておきたいことがあるのだが。
資料に目を通す者、確認事項をリストアップする者。窓から見下ろす街並みに嘆息する者。それは様々ではあったが愛無は晴陽に向き直ってそう口を開いた。それは彼女を『信頼できる医者』と認識して意見を求めた愛無にとっての提案だ。
「例えばだが、加純君へしゅうの力を使って、僕の生命力を譲渡するなどすれば、何某かの治療になったりはするだろうか。
僕に医療の心得は無いが。できる事があるならば試しておきたい。
心などと言う得体のしれないモノは生きて本人が何とかすればいいとは思うが。死んでしまえば、それも叶わぬ。
……彼らから世界を奪うなら代償なくばフェアではない。どうだろうか?」
しゅう、と呼んだのは獏馬だ。夜夢を駆ける記憶と魂を喰らう悪性怪異。晴陽は愛無がそう呼んだ存在を思い浮かべてから「あれですか」と呟いた。彼女にとってもそれは実弟が関連した夜妖だ。その適合者になったとは聞いていたが、提案には驚いたのだろう。
「私は、燈堂とは違って医療で救うことを目的としています。
ですから、貴女がそうした力を振るいたいと願うならばあちらで――彼らの元でそうしてください。私には、口が裂けても『試しましょう』などとは言えません」
晴陽の苦しげな言葉を受け止めてから「そうか」と頷いた愛無は水夜子に手を振って病院を後にしたのだった。
●
「この辺りで路上で寝てる連中を見なかったか? 何故か? って? あぁ……俺はこういう者でな」
適当に声を掛けた天川は華やぐ街の名かを行き交う人々に「こんなシーズンだろう」とわざとらしく肩を竦める。國定探偵事務所の名刺を見せ、それらしく「ある酔っ払いの捜索依頼を受けてる。見かけたら教えてくれ」と口にする。
飲食店街の方に誰かが転がっていたという情報を耳にして、行人は「酔っ払いか」と小さく笑った。確かに夢に酔っている状況だ。
「まあ、人は誰しも夢を見るもんだ」
喧噪の中を歩みながら『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はそう呟いた。それは心を整理する為、それは、逃避のため。様々な理由があるのが当たり前であるとニコラスは独り言ちる。夢を見ることは決して悪くは無い。それは保身でもあり、自らの為であるからだ。
この街は変わらぬ顔をしながら、少しずつ発展をする。例えば、古くさい流行を忘れ去ったように『有り得るであろう新しい文化』にばかり適応する。過去にしがみつく者達が付いていけぬスピードで世界が表情を変えるのだ。
「……苦しんでる時は尚更な。
だけだよ、夢ってのはどう足掻いたってそいつの望むモノしか見せないもんだ。それで心を癒して現実を生きるための糧にするものだ」
「ああ」
分かるとも、と『救う者』浅蔵 竜真(p3p008541)は頷いた。誰だって幸福な夢を見ていたい。兄として、妹を守りたいと願った鳴滝 枝折が己のやれる限りで夜妖を利用して妹を眠らせたことは『理解出来なかった』
「眠らせ続けることは良しではない。それは、違う筈なんだ」
「そうだろうとも。現実は何が起こるか分からない。それは今より苦しいかもしれない。
今より幸せかもしれない。だがよ、今を越えれるのは現実で抗ってこそだ。だから……それに気づかせてやらねぇとな」
aPhoneで連携すると声を掛けたニコラスは路地裏で転た寝をする街の人々を眺めて「こいつらがそうか」と呟いた。冬の寒さなど忘れたように転た寝をする者達は忘年会で全てを忘れ去ったとでも言わんばかりの穏やかな表情をしていた。
病院に連絡をしておく仲間達の様子を眺めながら『粋な縁結び人』一・和弥(p3p009308)は嘆息した。変化が、彼らを眠りに誘った。
そう。変化とは何かしらを伴うのだ。痛み、苦しみ、喜び。悪い事ばかりではないが、それが全て良いとは限らない。
「"ソレ"を受け入れて糧と出来るか、否か。…それだけで大きく変わるモンだと思うんだが、ねェ」
探る、五感に意識を向けて、出来うる限り影響を受けた者達を辿りいち早くオーレ・ルゲイエへと辿り着かんと考える。
今は彼らを起こすことは避けた方が良いだろうか。往来の邪魔にならぬ位置へと移動させてからaPhoneのメッセージをチェックした。
――俺の狗が仕事というのだから、協力はしてやろう。……まあ、使えるか分からないが。
それは和弥を『俺の狗』と呼ぶ知多・馨からのメッセージであった。症候群が落ちた最初の地点の割り出しは澄原病院で患者名簿を手に入れたことでスムーズだった。馨に言わせれば狗が動くのだから飼い主はリードを引くべき。それが分かり易いルールなのだということなのだろうが。
「何か分かった?」
問うた咲良に「オーレ・ルゲイエ症候群の『枝折』は移動して居るみたいだな」と和弥は返した。罹患した患者、夜妖憑きとされた鳴滝 枝折の自宅周辺には彼の気配はない。斯うして眠る人々を辿れば辿り着くのかも知れないが――
「道を辿らされているみたいで気味が悪いよね」
広域を俯瞰し確認する咲良はそう呟いた。枝折や加純の事を考えれば、この夜妖は彼らにとっては救いだったのだろうか。
だからこそ厄介なのだろうと、心に留めてから路地周辺の人払いをaPhoneで晴陽に願い出た天川はその周辺に工事中の立て看板を立てた。
「この先、通行止めってか?」
「ああ。その方が良いだろう。無用に巻込まない方が良い。――さて、捜査開始だ。ブランクが気になるが、まぁこればかりは仕方ねぇ」
ネクタイを緩めた天川に頷いた行人は枝折の足取りを探すようにある程度の高低差を無視して先行して行く。周辺地図を確認するのはアシリカ。それはaPhoneに住まう端末上の精霊だ。ツインテールを揺らし「周辺地図!」と告げる声を聞きながら行人は「有り難う」と小さな声音で返した。
「この先は別の大通りに通じてるみたいだがな」
「大通りでオール・ルゲイエが効果を発揮したとは思えないな。一般人も、雑居ビルのスタッフがゴミ捨てに顔を出した以外は見当たらない。
……さて、此の儘『裏通り』の探索を続けるかい?」
ゼフィラにその方が良いねと咲良は頷いた。先程、裏路地に面した通用口から顔を出した一般人がぎょっとした顔でゼフィラ達一行を見たが、彼女は表情を何ら崩すことなく「なに、明日にはすべて元通りになっているさ。そこらで眠っている人のことは忘れて、キミも家に帰るといい」と声を掛けた。魔的な光を帯びた眸が彼女の言葉に従うように一般人を働きかけたのだ。
「枝折くんはどこだろうね。きっと、枝折くんはオール・ルゲイエの効果をちゃんと把握してないから……」
不安を滲ませるサクラにそうだろうとニコラスは頷いた。妹を大切にする兄の行う事ではない。此の儘道を進めば彼と会えるかも知れないが、その時に掛ける言葉は選ばねばならないだろうか。
「……枝折は逃げた。それはルゲイエの、夜妖の力に頼ることが本来ではまずいことだと理解しているからだろう。
それに気づいていないわけがない。眠っているだけでは緩やかに枯れていく。
それが、妹がいつか死んでしまうことに繋がると、そこまで考えは至らないだけで、分って居るんだ。……そしてそれはきっと、彼を止めるきっかけになる」
だからこそ、今がチャンすんのだろうと竜真は仲間達の声に従い路地を進む。
「人が増えてきた」
愛無が呟けば定は「こんなに沢山の人が……」と息を呑んだ。気持ちは分かるのだ。自身だって、そちら側だった。彼らに変われと言うのは容易だが、そんな言葉を告げられるほどに定は強くはない。だからこそ、自分が変わらなくてはならないと強く考える。
(今はまだ何をしたら良いのか分からないけれど。
今眠る事を選択してしまう彼らも、練達を支えてくれているマザーも、皆が笑える様に……枝折さんを救うところからなんだ)
定が「行こう」と告げれば和弥が頷いた。天川が周囲の確認を隈無く行い、再度通行止めの準備を行う。戦闘域の確保を行う為の準備だ。
●
大通りに出れば、その向こうには希望ヶ浜駅があるとアシリカから行人は聞いていた。枝折は最初は其方を目指したのだろう。だが、途中で怖じけ着いた――否、その力が恐ろしくなったのかも知れない。
「希望ヶ浜駅、か」
呟いてから頬を掻く。希望ヶ浜駅はその形こそ通常の電車の定着駅ではあるが、其の儘、電車に乗っていけば再現性東京から出る事が出来る。多重構造のエレベーターでそうして都市を構築していたセフィロトは『再現性』の住民には違和感のない往来が出来るように気を配ったのだろう。
「そりゃ、変化するなら外からの影響――つまり、駅が狙いだったワケか」
「けれど、それを止めたのは眠る人たちを見て言う内に自身が何をしているかが分からなくなった、というのが打倒だろうね」
行人の言葉を繋いだゼフィラは神妙に呟いた。この先に存在するオール・ルゲイエ。その特異的な能力は言葉がトリガーであると聞きながらそれが声を耳で認識することなのかテレパシーであるかは分からない。声を聞いて抗いたいと考えながらも、それも心の強さではないかと行人は息を吐く。
「さあ、夢は醒めるものだが、叶えるためのものでもあるんだぜ――そいつを夢で終わらせるな!」
青年が一人。彼の元へと飛び込んだ行人の声が響く。手にした慧眼。片刃の蔦纏う刀の切っ先が鋭い光を帯びる。
「君が、鳴滝 枝折くんだね」
光あれと刀を掲げたサクラの眸が強き決意を帯びる。聖刀はロウライトの血統。反発をも乗せながら聖光は目映くも意識を奪う。
「だから、何だ」
「ああ、いきなり訪ねて済まないが君には夢から醒める時間がきたんだ」
影をも這うような。愛無は一気に距離を詰めた。闇を纏い、そして一気に幻惑の世界へと誘う。驚愕したように地を叩いた枝折の背後からするりと抜け出したオーレ・ルゲイエが傘を手にふわりと浮かぶ。
(チャンスか――!)
ニコラスは「お前に用事があるんだ、オール・ルゲイエ!」と叫んだ。戦いの鼓動を限界まで高め、漆黒に染まる大剣に紅を灯す。
ニコラスと共に前線へと躍り出た天川は煙草を乱雑にぐしゃりと消した。「やろうか」と淡々と告げてから、オーレ・ルゲイエの動きに気付き、その身を滑り込ませる。
「――さあ、お眠り」
喉を狙うが、届かないか。それは声のようであり脳内に響くものでもある。唇を噛みしめて天川の脳裏に過った夢から逃れるように目を伏せる。
笑う亡き妻が前に立っている。幼い子供の笑い声――それから、父と呼んだあの声は。
「ッ、悪くねぇ夢だったよ。だが夢は夢なんだ……感謝はしておく」
脳のリミッターを話すのはこれからだ。仇は全て殺した後に、何かを守りたいと願った男は未練をかなぐり捨てるように神速の剣を振るう。
がちり、と音を立てて弾かれる。それがオーレ・ルゲイエの傘がひしゃげた音だと気付いてか咲良は「うわああああ」と大声で叫んだ。
「聞かないよ! 聞かないったらー! テレパシーだった!?」
「ああ」
「もう! 大声で騒いでキャンセルできるならそうするのにッ!」
頬を膨らませた咲良は肉弾戦を仕掛けるように至近に飛び込んだ。その能力は一度の自身の動きを遮る。故に、長期戦にもなれば枝折に害が及ぶ可能性を考えたのだ。厄介だと地団駄を踏む咲良の動きに合わせ、和弥は「厄介だな」と呟いた。
「これこそが、夜妖ってことかねェ……」
それはバッドステータスとも言えず、銃声でもかき消せぬ響く声。戦い慣れたイレギュラーズであるからこそ眠りに深くは落ちないが、そうでないものが夢に落ちるのは仕方が無い。
「……夢が見れたらそりゃ幸せだろうさ。自分の全てと引き換えだがね」
狙う。オーレ・ルゲイエの手から傘が飛んで行く。「おやあ」とのんきな声を漏した夜妖は随分と余裕綽々だ。
「余裕そうだね」
肩を竦めたゼフィラの声と共に、行人が距離を詰める。続き、サクラが振り下ろした剣がオーレ・ルゲイエの身を引き裂いた。
「じいさん!」
振り返った枝折が咄嗟にオーレ・ルゲイエを庇うように立つ。ぴたりと動きを止めた天川は「随分と仲が良さそうだな」と問いかけた。
「このじいさんは命の恩人だ」
「……それは妹に夢を見せているからか?」
天川の言葉に枝折が唇を噛みしめる。其れが分って居るならば何故、邪魔立てするのだと言いたげに。
「なぁ鳴滝よ、お前は何のために誰のために夢を見る?
俺はお前の行動が全部間違ってるとは思っちゃいねぇ。妹さんを助けるために夢を見せた。心を癒すために夢を見せた。その行動は悪かねぇと思う」
ニコラスの言葉に枝折はオーレ・ルゲイエが憑いたことで手に入れた身体能力を活かすように距離を詰める。
隠し持っていたカッターナイフが夜妖の力を帯びて、その殺傷力を高めていたか。
言葉はなく、一瞥。彼は妹を思っている。其れは否定も出来ぬ事だ。
「今枝折さんの傍にいる加純さんは、本当の加純さんなのかい」
「どう、いう……」
オーレ・ルゲイエに憑かれた男は定を睨め付ける。竜真はルゲイエの眠りを自身を傷つけることで早期に抜け出す策をとっていた。
傷だらけの青年は枝折へとその視線を返す。定は唇を噛みしめた。彼は、妹を守りたいお兄ちゃんだ。それをその目から感じて、どうしようもなくいたたまれないのだ。
「何かに縋りたいのは分かる。妹を死なせたくないとも当然だ。けどお前のしていることは、死を遠ざけることにはならない。
妹の不安をお前が解かなければ、誰が恐怖に囚われた彼女を救うんだ?」
「じゃあ、どうやって解くんだよ。世界が変わりました、本当はこんな場所ないんだって、それが目の当たりにされて、納得できるのかよ!」
竜真がぐ、と息を呑む。納得いかないだろうと和弥は枝折の様子を眺めていた。仕方あるまい。其れに簡単に納得できるなら夜妖の力など借りては居ない。
「……だがよ、夢を見せ続けるのは違うだろうが! まやかしの平穏に満足するんじゃねぇよ。お前は妹を不幸にさせたいのか?
お前の夢はお前の望みだろうが! それを現実にしようと抗えよ! だからよ。いい加減目を覚ましやがれ、この寝坊助!」
「俺が抗って、生きて行けても加純はどうなんだ! 加純が……加純は……死のうとしたんだぞ」
零された枝折の言葉にニコラスは息を呑んだ。ひゅう、と喉が鳴ったのは咲良だったか。彼女を支えたサクラはそれでも、と唇を震わせる。
「それでも……このまま眠り続けてたら加純ちゃんは死んじゃうんだよ!」
「な――」
自死を求めた妹を救うために、彼女を眠らせた枝折。その兄の思いは痛いほどに理解が出来る。そうだ、彼は何れ訪れる破滅から目を逸らし今しか見ていないのだ。
「確かに夢から覚めても良いことばかりじゃないよ。だからって死んだ方が良いなんて事は絶対にない!
あの事件ももう終わったんだから! 加純ちゃんが起きた時に、もう大丈夫だよって抱きしめて上げる事がお兄ちゃんの役目でしょ!」
――お兄ちゃん、空が赤いの。
ベッドの上からのろのろと這いずった加純が泣いている。
工作用の鋏の元まで歩くことも侭ならなかった妹は、地面を這いつくばって引き出しを開けて小さな鋏を首に当てていた。
――ねえ、私達、どうなっちゃうのかなあ。怖い。もう、普通の生活じゃいられないのかなあ。
涙を流した彼女の願いは、普通の女の子になることだった。学生になって、学校に通って――治療を重ねれば何れはと声を掛けてくれる医者の言葉さえ紛い物のように感じたのだろう。
慌て、加純のもとへと走り寄ろうとしたときに声が聞こえたのだ。幸福な夢への誘い。それが、彼女の手から鋏を滑り落とした。
命を救えたと実感したと同時に目の前に有り得ざる存在が立っていたのだ。
「夢を見ようか、枝折」
そこまで、思い出してから枝折は「加純」と呟いた。
「キミのやっていることも、この街の人を守るのにつながるかも知れないが……悪いね。おとなしくここで消えてもらうよ」
ゼフィラは目を伏せる。夜妖憑きの男は此処で終わらせたい。行人はオーレ・ルゲイエを破壊して、嘆息する。
「オール・ルゲイエが複数居るかもしれない。『オーレ・ルゲイエ症候群』なんて名前がつくくらいだ。複数いてもおかしくはない。
……なあ、枝折。お前は何を喪ったんだ?」
行人の言葉に枝折は息を呑む。あれだけ大切にしていた妹のかんばせが、もう、分からないのだ。
「加純……」
その表情だけで、何が代償になったかを行人は察知した。それはサクラも同じだっただろうか。「なんてこと」とぼやいた声に悲嘆が籠もる。
「何度だって、言わせて貰うさ。
……妹が死ぬまでそうやって逃げ続けて、一人目が覚めた時に貴方は『ああ幸せな夢だった』って、そう納得出来るのか!?
目を覚ませよ、妹の不安を受け止めてそれでも笑って居てやれよ! それがお兄ちゃんだろう!」
定は泣き出したい思いで叫んだ。年の離れた妹を抱き締めてやれば良い。妹が死んでしまう前に、彼女と生きる道を探せば良い。
其れが出来るのが彼であるはずなのに。あの日、空が赤くなった。世界が壊れようとした。それが、彼らに与えた絶望を。
「そうだな。死ぬならば、幸福の夢の中で。悪いが、それを許すわけにはいかぬゆえに。砕かせていただく。
これは我儘というのだろう。何、人間というものは我儘でなくてはならないと聞いたことがある」
愛無の囁きにニコラスは「違いねぇ!」と唇を吊り上げた。
「俺には、枝折の不安を拭うことは出来ないのに、目覚めてなんて言えばいいんだ……!」
「キミの妹を思う気持ちは良く分かるさ。私はキミを只の現実逃避だとは思わない。
安寧を得るために、これまでこの街を維持してきたのは住民達だ。此の状況下を守るのは、影で斯うして動く私達なのだから。
だから、安心してくれ。キミが見たくないなら、忘れてくれたって構わない。必ずマザーと、我々がこれから解決してみせる」
ゼフィラは真摯に言葉を砕いた。枝折の指先からカッターナイフが滑り落ちる。
行人は唇を吊り上げて柔らかに笑って見せた。
「……夢を夢で終わらせたくないのなら、俺がその助けとなろう。
夢追い人、大いに結構じゃないか。ましてやそれが幸せを望むのならば手を貸さない道理はない」
かしゃん、と音を立てた其れに青年の泣き声が聞こえる。気付けば、彼の傍に居たオーレ・ルゲイエの気配も遠離り。
残ったのは只の恐怖に震えていた一人の男だけだった。
―――――『はい、みゃーちゃんです。どうしました?』
「ああ、みゃーこさん。こっちは終わったよ。……ああ、ああ、……オーレ・ルゲイエ症候群の奴らのことは……分かった」
病院側が彼らの確保を行い、目覚めたが一度は治療を受けるように進めていることを聞いてからニコラスはへたり込んだ枝折を見下ろした。
「もう、終わったってよ」
何もかも。彼が求めた夢さえも、醒めてしまった後なのだ。
●
「お疲れ様でした」
表情は余り変わらないが、安堵が滲んだような気がして定は「漸く終わったよ」と肩を竦めた。枝折のケアを行いたいと念のためだと彼らを病院に連れてきた一行はアフターケアを行うための用意をしてくれていた澄原病院にほっと胸を撫で下ろした。
車椅子に乗せられて夢うつつの儘で顔を出した加純の姿を見て、枝折は「加純!」とその名を叫んだ。
「おにい、ちゃん」
ぼんやりとしたまま呟いた加純の体をぎゅうと強く抱き締めてから、枝折はへたり込む。その体を支え上げた天川が枝折をソファーへと誘ってから、その傍らに加純が寄り添えるようにと看護師達と協力し合っていた。
「枝折さん、大丈夫?」
項垂れる枝折の隣に腰掛けてから咲良は彼がぐっと加純の方を抱いていることに気付く。芽吹いた花が折れるように、青年の心はぽきりと折れてしまったのだろう。妹の病を思い、救うためにと差し伸べた手が返って危険を誘っていたというのだから。
「……あのね、2人の根本的な望みって、兄妹の幸せな生活だと思うんだよ。
だからそれを都合のいい夢にしちゃうのは、もったいないと思う。だから、お節介だと思うけど、寄り添わせてほしい」
何を言いたいのだと枝折がのろのろと顔を上げた。微笑んだ咲良は枝折へと向き直ってからにこりと笑う。
「時間がたてば、色んな状況が変わるしね。澄原病院での治療だってちゃんと受けられる。
それに加純さんは、あたしや水夜子さんとも年が近いし、まずはちょっとした友達として、一緒にお話ししたいな? ……ちょっとでもそれで、前を向けるなら!」
驚いたような顔をした加純はお兄ちゃんと枝折を呼ぶ。友達、という言葉に驚いたのだろう。思えば、加純には友人と呼べる存在は居なかった。
ベッドの上でぼんやりと外を眺め、兄と共に過ごすだけ。そんな、日常が『あの日』終わったのだ。其れがErrorの表示となった。疑わなかった平穏が崩れ去ったとき――彼女は『自身には何も持たなかった』事に気付いたのだろう。
「友達、に、なれるの?」
「勿論。そうだよね、水夜子さん!」
声を掛けられた水夜子は「ええ」と頷いてから「咲良さんが先ずは私と友人度を深めましょう。みゃーちゃん、ですよ」と含んだように笑みを浮かべる。
その様子を眺めてから定は「じゃあ僕も友達に入れて貰おうかな」と――本気で決心するまで2秒、「じゃあ」と言い出すまで1分を有してから――口にした。
彼らの幸せを壊したのは自身達だ。幸福な夢を、それではだめだとこじ開けたのだからこそ何らかのケアをしてやりたかった。それが自己満足だと言われても、定は構わなかった。自分を満足させられないヤツが他人を満足させられるわけがない。
直接的じゃなくてもいい、加純が安心して窓の外を見て笑えるように。それが人を救うことに繋がるのだと深く実感する。
人を救うことに軸を置いた和弥はaPhoneに馨から連絡が入ったことを確認してからくす、と笑う。
「先生」
その様子を眺めていた晴陽の傍らにサクラは立っていた。そっと寄り添ってからにんまりと笑う。
「ありがとう。約束を守ってくれて」
「約束」
晴陽は復唱してから、サクラの顔を見てからそうでしたねと肩を竦めた。
――被害に合い、死んだ人達は勿論…優助くんの苦しみも長引かせた! 二度と、こんな事しないで……。
天使症候群、そう呼んだ夜妖憑き。晴陽は希望ヶ浜学園とイレギュラーズという『変化』の出方を確認した。あの日、サクラは経過観察を行った彼女に犠牲が広がる前に、その代償が判明した時点で自身等を呼んで欲しいと告げて居たのだ。
「約束、と呼ぶべきであるかはわかりませんが貴方達のスタンスが分かった以上、私とて無用に犠牲は出しません」
「ふふ。約束だって思わなくたって、そうしてくれていることが売れ死んだよ。そういうわけで! せっかくなので友達にならない?」
aPhoneを手ににんまりと微笑んだサクラへと晴陽は「え」と驚いたように目を丸くした。本日一番の表情の変化である。
「私と仲良くしてると良いことあるよ~。例えば、龍成くんの様子とか~?
私結構仲良くしてるんだよね~。あ、安心して! 異性の関係とかじゃないからね!」
揶揄うような声音でそう言ったサクラへと晴陽は「龍成は良き友人に恵まれたのですね」と微笑んでから名刺を一枚差し出した。
「……私の連絡先です。何かあればお気軽に連絡をして下さいね」
受け取ってから、サクラは裏面に個人の連絡先と、得もいえぬ『ゆるきゃら』のような何かが描かれていることに気付いてからふ、と笑った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加有り難う御座いました。お待たせ致しまして誠に申し訳ありません。
晴陽もイレギュラーズの皆さんに構っていただく機会が多くなり、何処か表情筋が柔らかくなったような気がします。
これから発展を続ける希望ヶ浜とともに歩んでいただけますと幸いです。
GMコメント
夏あかねです。
●成功条件
・『オーレ・ルゲイエ(眠りの精)』の撃破
・夜妖憑きへの対処
●夜妖憑き
悪性怪異<夜妖>が一般的な人間に憑依した症例の事。悪性怪異と呼ばれる者の直接的な外囲がないケースや代償を支払えば大丈夫なケースも多数見受けられます。
(例:なじみは猫耳と尻尾は顕現しているものの『言葉を喰わせる(情報という財産)』を支払っているようです)
●澄原病院
北区域に存在する大病院。希望ヶ浜の住民なら誰もが診療券を持っていると言われます。
そのルーツは練達の富豪である研究者澄原氏ですが分家は希望ヶ浜に坐しているようです。
夜妖についても知っており神秘の秘匿を必要としない夜間診療を所有。澄原晴陽が敵か味方かはさて置いて――彼女が『夜妖』専門医である事は確かです。
彼女に願い出ることで夜妖憑きの診療治療も行う事が可能です。
●『希望ヶ浜』
日常を取り戻し始めた再現性東京2010――いえ、202Xへと変貌する途中の希望ヶ浜です。
路地などで眠りに落ちる人々の姿が散見し、どうやらオーレ・ルゲイエ症候群の罹患者のようです。
其れ等を辿ることで『夜妖憑き』のもとに辿り着けるでしょう。
外での戦闘になるため、出来る限り目撃者を減らすことを心掛けて下さい。
●オーレ・ルゲイエ症候群
夜妖の特異的な能力により『出会った人々が目覚めなくなる』状態を指します。
夜妖憑きは『誰かを眠らせて自身は都合の良い夢を見る』という代償を有するようです。眠っている罹患患者達も現実を直視できずに其れを受け入れた者だと推察されます。
●オール・ルゲイエ(夜妖)
悪性怪異:夜妖<ヨル>。傘を手にした老人です。小人であるようで、夜妖憑きとなった青年の肩にちょこりと乗っています。
「さあ、お眠り」の言葉と共に対象を眠りに落とす能力を有します。イレギュラーズに対しては攻撃として作用し2Tの行動不能状態が課されます。
相手の行動を阻害することを得意とするためにオール・ルゲイエ自体の戦闘能力はそこまでは高くなさそうですが……。
●『夜妖憑き』
鳴滝 枝折。25歳、男性です。澄原 晴陽の提示したカルテの鳴滝 加純の兄であり、練達での大事件で悲嘆に暮れた妹を思ってオール・ルゲイエにその身を委ねたようです。
夜妖を撃破されてしまえば妹の平穏が脅かされるために抵抗を行います。都合の良い夢を見ていたいのは妹だけではなく、彼もです。
オール・ルゲイエの夢を見ている間は『病の治った妹と平和な街で過ごしている』と言う認識を行っています。
夜妖憑きであることから、高い戦闘能力を有していることが推測されますが……。
●鳴滝 加純
16歳。難病を患う少女。練達での大事件で日常が脅かされたことに悲嘆し、恐れて自死を企てた所を兄の『オール・ルゲイエの能力』で幸福な夢を見ることが出来ました。
現在、その身柄は澄原病院にあり、治療を受けています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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