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シナリオ詳細

<オンネリネン>あのときどんな顔をしていた?

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●あの日、僕はどんな顔をしていた?
 僕たちは戦うことしか許されなかった。
 死にたくなかったから。消えてくなかったから。
 それが誰かの不幸になると分かっていても、それしか選択できなかった。

 一年前。妹のモデスタが断罪の崖から突き落とされるのを見た。
 アドラステイア下層街で暮らす僕らの生活は貧しく、開拓した畑からとれる食料も少ない。妹は街をこっそりと抜けだし、近隣の村と食料の取引をしていたのだった。
 穢れた外界の人間と取引をすること罪としてか、それとも取引の内容を罪としてか、妹は『魔女』であると異端審問官から疑いをかけられ、魔女裁判の鐘が鳴ってごく僅かの間に彼女は女神の像にくくりつけられたまま崖へと突き落とされた。
 僕には……その時からもう、選択肢は無かった。

●いま、僕はどんな顔をしていた?
「ボリバル、本当にやるのか?」
 古いアサルトライフルのコピー品を肩から提げて、ブラウリオが不安げに言う。
 ボリバルと呼ばれた少年は閉じていた瞳をひらいて、息をついた。左目を眼帯で覆った彼のまぶたの裏には、今も尚妹モデスタが崖に落ちていく風景が焼き付いているのだろう。
 彼も同じようにライフルをかつぎなおし、馬から下りた。
 天義国海沿いにある小さな村へと続く、ここは道である。
 馬から下りたボリバルを見た仲間の少年少女ブラウリオ、カミロ、セシリオ、シプリアーノたちも馬車をとめ、武器をかついだまま馬車から降りてくる。
 その様子を肯定ととったのか、同じく馬に乗っていたブラウリオもまた馬から下りた。
 独立都市アドラステイアは、天義のおかした失敗を批判する形で誕生した海沿いの街である。壁に覆われ三つの階層に分かれたそこには、身寄りを無くした多くの子供達が暮らしている。特に下層域は子供だけのスラム街と化しており、ボリバルやブラウリオは同じバラック家屋の中で暮らすいわば『家族』であった。血のつながりがあったのは、せいぜいボリバルとモデスタくらいだが。
 だがモデスタが魔女として断罪された今、同じ家族である彼らにも疑いの目はかかっている。特に疑いの強かった兄ボリバルは左目を焼かれたことでひとまずの疑惑を晴らしたが、周囲の子供達は彼らをまだ認めている様子はなかった。
 そして認めさせるには、選択肢は一つだけしかない。
 アドラステイアが外貨を稼ぐ方法として用いられている傭兵部隊『オンネリネン』に志願し、極めて非合法な傭兵業務を請け負うということである。
 汚れ仕事で罪を償う。それしか、彼らに道はなかったのだ。

「作戦を説明するぞ」
 ボリバルは丸めていた羊皮紙を広げ、マーキングされた簡単な地図を仲間達へと見せる。
「俺たちの仕事は略奪の補助だ。海側から海賊達が攻め込むから、合図の狼煙が上がったら陸側から俺たちが攻め込む。村の人達が財産を持ち出さないように牽制するんだ」
「もし……抵抗されたら?」
 気弱なカミロが武器をちらりと見た。
「殺すように命令されてる。どのみち、海賊が殺すか奴隷にして売るかのどちらかなんだ。情けをかけたって」
 無意識に眼帯に触れたボリバルを見て、カミロは泣きそうな顔で頷いた。
「わかった。わかったよ、殺すよ。だからそんな顔……」
 ボリバルはそう言われても、自分がどんな顔をしているのか分からなかった。
 だから『それでいい』とだけ言って、羊皮紙を丸め直す。

 ――海側から、狼煙が上がった。

●君は今、どんな顔をしている?
 ローレット・イレギュラーズへ、天義の情報屋ラヴィネイル・アルビーアルビーより依頼が舞い込んだ。
 説明を受けるべく天義国のカフェ『グイード』へとやってきた。
 優しいコーヒーの香りと、落ち着いたジャズミュージックが蓄音機から流れる店で。ラヴィネイルは奥窓際の席でコーヒーに口をつけるでもなくじっとカップを見つめていた。
 彼女はあなたに気付くと、小さく手を振る。

 依頼内容は、村へ計画されている海賊の襲撃を防ぎ、撃退して欲しいというものである。
 これが『アドラステイア専門』の情報屋であるラヴィネイルを通して入ったのは、襲撃にはあの『オンネリネンの子供達』が関与していることが分かったためであった。
「オンネリネンの子供達とは、アドラステイアが外貨獲得のために組織している傭兵部隊です。その形式は様々ですが、今回のチームは『魔女への疑い』を晴らすために、なかば強制的にこの傭兵業をさせられているようでした」
 ボリバル、ブラウリオ、カミロ、セシリオ、シプリアーノ――とメンバーの名前と人相を記した資料をテーブルへと並べていく。
 海賊側の情報は僅かだが、どうやらこの辺りで略奪を続けている鉄帝北部出身の海賊であるらしい。
 リーダーの名は『クスタヴィ』。複数の船で村へとつけ、襲撃を行う算段だろう。この手の略奪に慣れた手練れの海賊たちで、当然というべきか傭兵として雇ったボリバルたちの安否など気にしていない。
「準備をする時間はあまりありませんが……介入の仕方によっては、被害を少なくすることもできる筈です。そしてきっと、子供達のことも……」
 『どうしてほしい』とは口にせぬまま、ラヴィネイルはやっとコーヒーに口をつけた。
 苦い、とだけ呟いて。

GMコメント

●オーダー
・海賊の襲撃から村を守る
 皆さんは、襲撃がおこなわる真っ最中の村へと駆けつけ、戦闘を行うことになります。
 事前準備の時間などはないので、事前避難や罠の設置といった先回り的アクションは難しいでしょう。そのかわり、村人たちも海賊の襲撃を事前に察知できているのである程度の避難は済んでいます。
 といっても、足腰の悪い老人やよそで生きられない(あるいは土地を離れたくない特別な事情のある)住民は家から離れず村に残っている可能性があります。
 説得する暇こそありませんが、彼らを身を挺して守ることは充分に可能なはずです。

 今回は皆さんの出撃ポイントを三つから選ぶことができます。
A:海上
 海賊たちと同じく海側から出撃します。ある程度は海上での戦いができるかもしれません。(海に落ちても別に問題無いので、自然と戦闘は村へと移動するでしょう)
B:商用道路
 オンネリネンの子供達が襲撃をかける側の陸地ですが、ちょっとだけ子供達からは遠い位置になります。襲撃を事前に止めることは難しいですが、襲撃を始めたばかりの彼らに接触することは充分にできます。
C:空
 もしあなたが飛行を可能とするなら、空からピンポイントで襲撃することができます。
 ただし、子供達の襲撃を事前に差し止めたり海賊を海上で全滅させるといったアクションは難しいでしょう。

●エネミー
・海賊
 クスタヴィ率いる海賊たちです
 三つの小舟を使って村へのりつけ、襲撃を行います。
 彼らは泳ぎが得意で、中には水中行動持ちもいるため船ごと壊してもあまり意味がありません。

・オンネリネンの子供達
 ボリバルをはじめとする子供達です。
 武装はあまり豊かではありませんが、多少の戦闘力はあるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
 活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。

  • <オンネリネン>あのときどんな顔をしていた?完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者

リプレイ

●救いは空から降っては来ない
 海沿いの風景は、想像したよりも綺麗じゃなかった。
 風よけのマントは強くて冷たい海風に靡いて、マルク・シリング(p3p001309)のかぶっていたフードをはらう。
 視線を落とすと魚の死体が転がり、他にもどう形容したものか分からないようなゴミが転がっている。
 どうやら、ビーチを裸足で追いかけっこしたいカップルはこの村にいないらしい。海水浴という言葉とも無縁そうだ。
 しかしそれは同時に、ここが漁村としてそれなりに発達していることを示していた。
 海賊はそこに目を付け、今回の略奪を計画しているらしい。
「今回の海賊たちはアドラステイアと同じだよ。選択肢の無い子供達に付け込んで、道具として使い捨てる」
 吐き捨てるように言ったマルクに、『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)がフードを外しながら視線だけをよこしてきた。
 少なくとも自分達は社会の是非を定める立場にない。自由に出来る財力や土地も限られ、たとえば10人くらいの子供を養うことができるかもしれないが、10万人を養えるかと言えば否だ。それは今だアストリア権力時代の傷が癒えきらない天義国にとっても同じだろう。アドラステイアという都市をたとえば跡形も無く消し去ったとして、住民たち全てを養う力はおそらく、ない。ないからこそ彼らはあの町に集まり、あの町のルールに縛られることになったのだろうが。
「だからと、無視する道理もない……か」
 Tricky Starsのつぶやきを聞いて、『疲れ果てた復讐者』國定 天川(p3p010201)はロングコートのポケットに両手を突っ込んだまま舌打ちをした。
 剣と魔法のファンタジー世界にやってきたかと思えば、どこにだって『故郷』と同じ問題が転がっている。そしてどうやら故郷ほど社会福祉とやらは充実していないらしいときた。
「マトモに考えたこたぁねえが。どうやったら解決するハナシなのかね……」
 経済の低迷。失業者の爆発的増加。将来への不安が蔓延し終末思想や破滅主義が広まるという構図は、実際どこの世界にだってある。そういうときは決まって、人を食い物にするカルト宗教が現れるものだ。身ぐるみ剥いで自殺するように仕向ける連中が。
 そしてそういうものは大抵にして、大金持ちや政治のトップの顔面を殴ったりしても解決しないのだ。できるならとっくに皆がやっている、という。
 そして、他者に救いを求めなくなったひとりぼっちの復讐鬼が生まれるのだ。
「胸糞悪い」
 懐から小太刀を取り出す天川。
 その一方で、双眼鏡を使って海側を観察していた『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)がそれを下ろした。
「来たよ、スティアちゃん」
 双眼鏡を革の鞄にしまいこんで邪魔にならない場所に放り投げると、腰の鞘から刀を抜く。
 ロウライト家伝来の、美しい刃文を描いた刀だ。
「私達の役目は、海賊達を止めること」
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はサクラに伴うようにして魔導器を起動。セラフィムの表紙をぱたんと閉じると同時に白い羽根のような幻が散り、ふわふわと舞い上がっていく。
「いくよ、サクラちゃん!」
「行こうスティアちゃん!」
 戦闘可能距離まで、あとわずか。
 顔が見えるほど近づいてきた小舟から、海賊船の船長らしき男クスタヴィが歯を見せて笑ったようにみえた。

 形だけを見れば、海賊による村への略奪である。
 たとえば戦争のついでや政治的な攻撃として、自国の海賊に許可を出して他国の船を自由に襲撃させる取り決めがおきたり、他国の領地に放って村への略奪を繰り返させ国家の生産能力にダメージを与えたりということは往々にしてあるものだ。
 が、今回『律の風』ゼファー(p3p007625)たちが率先してこの依頼に首を突っ込むことにしたのはもう一つ別の理由がある。
「『オンネリネンの子供達』、ねえ。あの子達の相手も、もう何度目かしら。
 数えるのも億劫なぐらいになって来たわね」
 馬から下り、結んでいた髪が肩にかからないように手ではらうゼファー。
 アドラステイアから派遣された少年少女による傭兵部隊、『オンネリネンの子供達』。
 情報屋ラヴィネイルの調べによって判明したボリバルという少年とそのルームメイト(かぞく)たちを、実質的には『救出』するために、ゼファーたちはこのエリアへと割り振られた。
「海賊から見れば彼らは仲間でもなんでもないもの。放っておいたら、一緒に始末されたっておかしくない」
 『死地の凛花』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もまた馬から下り、ここにいてねと言って馬の首の辺りを撫でてやった。
 このまま『オンネリネンの子供達』めがけて突っ込むことも不可能ではないだろうが、借り馬にそこまではさせられない。第一、こういう馬は危険に対して怯えて立ち止まったりしがちだ。……まあ、はなからそんなつもりはない。それよりも、子供達のことだ。
「わたしたちで、居場所を作ってあげられないかな」
「むう」
 『守護の導き手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は髭に手をあて、そして歩き出した。
「村が引き取って守ってもらうとも考えたが……」
「それができるなら、ね」
 ココロの控えめな言い方に、オウェードは低く唸るだけに留めた。
 他者に施す余裕のない者や、施さないことを選択した者に対して言うべきことはない。いえる立場でも、きっとないだろう。
 魔女の疑いをかけられ、外貨獲得のためとはいえこうして待ちの外に武装して出て行ったというのにこのまま逃亡してしまわないのは、相応の理由があるものだ。
 そしてココロもまた、『相応の理由』というものに不用意に触るつもりはないようだった。
 ただ、少なくとも。
 今動かなければ、ボリバルという子供達に明日はないだろうことだけは分かった。


 海賊を率いるクスタヴィにとって、略奪は生活そのものであった。食うために奪い、生きるために奪う。それ自体が何かしら正しいだとか、美しいだとか、格好良いだとか思っていたわけではない。どうしてこうなったのかも、誰かに問うつもりは無かった。
 だからこそ、海岸線に並ぶ五人の男女を双眼鏡越しに目にしたとき、思わず笑みが漏れた。
「なるほどォ、ここが俺の死に場所かもな」
 野郎共! と叫びクロスボウを構えさせる。
 号令通り一斉に放たれた矢は海岸線で構える銀髪の少女へと集中した。
 少女は左右の色の異なる目をうっすらと開き、両開きの扉を勢いよく開くかのように腕を広げた。

 術式展開、サンクチュアリ。スティアの周囲より吹き上がる大量の白い羽根の幻が、飛来する矢を迎撃する。
 抜けてきた数本の矢が腕や脇腹や膝へと刺さるが、集まった羽根の幻が矢を引き抜き傷口を覆っていく。
「引きつけるね。サクラちゃん」
 スティアは指揮棒でも振るように右手の人差しゆびを踊らせると、集まってきた大量の白い羽根を海賊達の船めがけて解き放った。
 着弾を予期してか、海賊のいくつかが海に飛び込むなり空へ飛び上がるなりして散開したが、数人ののろまな海賊へと着弾。魔力によって作られた旋律が『複音』を鳴らし意識をスティアへと集中させた。
 目の色を変えて船から飛び降り、スティアめがけて突っ込んでくる海賊たち。
 浅瀬を走る彼らの間に割り込んだのは、刀から紅のオーラを僅かに沸かせたサクラだった。
「天義の聖騎士、サクラ。参る!」
 かちりと返した刀の刃からは薄まり散ったオーラーが流れ、さながら桜花弁のように空中に舞っては消えていく。
 威嚇するかのようにサーベルを抜いた海賊二人組に対して、両目を大きく開いた。
(まだ犠牲者が出ていない今なら、子供達はまだ引き返せる)
「だから私達は、誰一人殺させる訳にはいかないんだ!」
 目の光が軌跡を描くかのように、サクラは海賊たちの間をすり抜けるように蛇行。否、蛇行したように見せて既に彼らの肉体を三つに切断しきった後だった。
 ばちゃばちゃと音を立て浅瀬へと落ちていく海賊の腕や胴体。
 カーブを描き翼を羽ばたかせた海賊が手にしたサーベルをサクラの顔面めがけて振り込んでくるが、サクラはそれを刀で受け流した。
 直後、ドウンという重低音と共に空気が振動。サクラを中心とした数メートル以上のエリアに紫色の魔術光が広がった。
『はいはいお疲れさ〜ん! お前ら全員ここでぶっ潰してやっから覚悟しな!』
 丁度最前列に出ていたサクラを数人がかりで狙っていた所だったようで、Tricky Starsの展開した魔術の効果範囲へと飛行した海賊たちが引きずり混まれていく。
『子供にはさぁ、殺すとか殺されるとかそんなのとは無縁な世界に居て欲しいじゃん? 少なくとも虚くん(オレ)はそう思ってるわけ』
 Tricky Starsはパチンと指を鳴らすと、引きずりこんだ海賊達を強引に衝突させ、浅い海面へと墜落させた。
 海水を払って起き上がる海賊に、追撃の魔術を連続で打ち込むTricky Stars。
「こいつらは止めておく。海種の連中と頭目は任せたぞ」
 Tricky Starsがそう呼びかけると、天川とマルクが『了解』と短く応えて左右へと散った。
 海中を素早く泳ぎ、上陸を果たす海種タイプの海賊。黒い特殊金属製のクロスボウを放つが、マルクは六角形の魔術障壁を展開してこれを防御した。
 障壁がバキンと砕け、腕に突き刺さる矢。
「誰かを殺して、奪って生きるやり方は……!」
 常人なら悲鳴をあげて転げ回るところだが、マルクは歯を食いしばって手をかざした。
 キューブ状の魔術塊が形成、5×5×5個に均等分解されたそれはふくらんだ乱数機動を描いて海賊へと飛び、そして集中した。大量の魔術塊をたたき込まれた海賊は至近距離からショットガンをうけたかのように身体を破壊され、仰向けに海へと倒れた。海といってももはやスネがひたるかどうかの浅さだ。近接攻撃距離にとらえた海賊がサーベルを抜くも、天川はその横から回り込んで切りかか――ろうとした、矢先。
 真っ青な翼を鋭く構えて割り込んだ海賊頭目クスタヴィがレイピアでもって天川の斬撃を弾いた。
 天川から見て空中に寝転がるような体勢から高速スピンをかけて跳ね上げたことで、天川の手から小太刀が空高く飛んでいく。
「チッ――」
 舌打ちをしながらもう一本の小太刀を相手の手元へと撫でるようにえぐりこむ。剣道の動きにはないが、シチリアンナイフ術のひとつだ。
 クスタヴィは引き下がってそれをかわし、リーチを埋めようと連続で突きを繰り出す天川相手にギリギリのところで弾き続けていた。
 が、突きの勝負でいえばクスタヴィに分があったようだ。
「テメェは俺の死に場所じゃあなかったらしいな!」
 クスタヴィの剣が天川の胸を貫く。抵抗しようとした天川の剣を手首ごとおさえ、レイピアをねじった。
 うめく天川。が、口元は笑っていた。
「いいや、アンタはここで死ぬんだよ」
 回転し落ちてきた小太刀をキャッチし、相手を抱くように背中から刺す。首後ろにある盆の窪という人体の急所である。

 海岸にいたマルクたちが海賊達との決着をつけつつある頃。
 オウェードは村の道を突っ切り、いままさに襲撃を仕掛ける最中であった『オンネリネンの子供達』へとぶつかっていった。
「遅れてすまなかった! 感謝や文句は後で聞く!」
 オウェードは武器を構え、長槍を持った少年へと飛びかかる。ラヴィネイルによる前情報によれば、彼はブラウリオという名前だった。
「この動き、村のヤツじゃないぞ。こんなの聞いてない!」
 セシリオという色黒な青年が黒いマスケット銃を構える。聖銃士がもつような煌びやかな銃ではない。天義で出回る量産品をコピーした品だろう。
「それでも倒すんだよォ! でなきゃオレらは魔女だ!」
「『魔女の疑い』を果たすのではない!いっその事『魔女』となれッ!
 魔女になったからと言って、ワシらはお前さん達を崖に落とさん! 落とすのは異端審問官だけじゃ!」
 オウェードは銃撃を防御しながらもブラウリオへと猛攻をしかける。
 一方で、ゼファーは手にしていた槍をひょいっと小さく放って持ち方を逆手に変えると、それ以上の射撃をしようとしたセシリオめがけて槍を思い切り投擲した。
 ズガン、という音をたてて突き刺さる槍。とはいえ、刺さったのはセシリオの眼前にある建物の木戸である。
 深々と突き刺さったそれに驚き、振り返った頃には思い切り助走をつけたゼファーの膝蹴りがセシリオへとぶつかり、そのまま壁に激突したセシリオは気を失って転倒した。
「セシリオくん!」
 金色の長い髪をしたシプリアーノという子供が短剣を握りゼファーへと襲いかかる。
 男だか女だか分からない、可愛らしい顔立ちの、青い目をした子供だ。
 ナイフはゼファーの脇腹へと刺さる――はずだったが、すんでの所でスッと後退したゼファーによって空振りし、逆に後頭部を掴み槍の柄へと叩きつけられてしまった。
 気を失って倒れるシプリアーノ。まだ木戸にささったままの槍が弾性をもってぐわんぐわんと動くが、ゼファーはそれを引っこ抜いて振り返った。
 そして親指で自分の首を指さしてみせる。
「私の首は村人なんかより高いと思うわよ? 持ち帰ったらフォルトゥーナの神父あたりから褒めてもらえるかも」
 戦力差は激しい。いくら武装を固め人数を揃えたといっても、百戦錬磨のココロたち相手ではやはり分が悪いのだろう。
 気弱そうな、白い髪の少年カミロが拳銃を向けながら小さな声で『ボリバルぅ』と呟いた。
 ボリバルはコピー品のアサルトライフルを構え、乱射。
 飛び退いたゼファーの代わりにココロが横から思い切り殴りかかった。
 直撃をうけつつも、転がって再び銃を向けるボリバル。銃の連射を、ココロは貝殻型の魔術障壁で受け流した。
「逃げられもできない人達を襲って、何がしたいの」
「僕らがしたいわけじゃない。そういう仕事を受けただけだ。子供が犯罪を犯すのは可愛そうっていうのかよ?」
 眼帯をした目が、ココロをにらみ付ける。
 胸のざわめきに乱されないように、ココロは息を吸い込んだ。
「うちに来ない? 港があって、荷揚げとか会計とか色々できますし……」
「――」
 黙って連射を続けるボリバル。
「そもそもこんな小さな手柄じゃ魔女の疑いを晴らせない。今成功しても失敗しても、家族の誰かが崖から落とされますよ。確実に」
「黙れよ! 恵まれた環境から、のうのうとお説教をたれるなよ!」
 ボリバルはコンバットナイフを抜き、ココロへと斬りかかった。
 ココロは障壁を翳すが、ばきりと障壁に亀裂が走る。
 だが、そこへ。
「もうやめようよ」
 サクラの声と共に、スティアの放つ魔力の銃弾が走った。
 ボリバルのナイフへ、ライフル弾のように白い羽根がぶつかってはじく。
 更に、Tricky Starsが翼を広げ退路をふさぐように降下してくる。
「一緒に来い。俺達の元へ来たとしても妹は帰ってこないし、お前の負った傷が癒えるとは限らないが、それでもだ。お前自身の手で自由と未来を掴み取るんだ」
「戦わなくても、誰も殺さなくても、日々の糧を得て暮らせる場所がある。それを知ってほしいんだ」
 同じくマルクも駆けつけ、両手を翳して見せる。
 彼の視線を受け、駆けつけた天川も小太刀をしまった。
「俺は國定 天川ってもんだ。お前さん達の名前は? 俺達がお前さん達を守ってやる。投降してくれ。決して危害は加えない。約束する。だから頼む」
「うるさいんだよ! だまれよ! ここでやめたら……」
 目に涙をため、ボリバルはトリガーを引いた。
 粗末なコピー品特有のカチンというむなしい音が、弾切れを知らせた。
「モデスタが報われない……」
 膝をつく彼を、責めることは難しかった。
 信じた大人を間違えただけだ。
 だからといって別の大人をすぐに信じろとは、言えない。
 けれど……。
「やりたくないことは、やらなくていい。其れでいいのよ、子供(あなたたち)は」
 後頭部を殴りつけ、ゼファーは気絶した彼を抱き留めた。
「分別がつくまでは私たちが――捕らえて攫って、騙してあげるから」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――海賊団を全滅させ、村の防衛に成功しました
 ――ボリバルをはじめ子供達を捕らえ、希望者がそれぞれが引き取りました。彼らは暫く疑心を向ける筈ですが、いずれは打ち解ける日がくるかもしれません……。

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