PandoraPartyProject

シナリオ詳細

バステトたちの暇つぶし

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●猫の街
 ラサの南西部には『ウルル』と名付けられた街がある。中規模の川ほとりに作られたこの街は、砂漠でありながら比較的涼しげな気候を持ち、行商人や観光客の行き交う都市になっている。
 この街の特徴としては、とにかく『猫が多い』事だろうか。街のあちこちを観れば、猫がいる。屋根の上にも、店の軒先にも、路地裏を行った先にも……とにかく、猫を観ない所は無い、というほどに。
 どうしてこれだけ猫が多いのかと言えば、それはこの街が興るきっかけとなったのが、とある世界からやってきた旅人(ウォーカー)であり、その人が大層の猫好きであったということに起因するらしい。初代町長とでもいうべきその旅人が連れていた猫を、当時の町民たちも大層かわいがり、やがてその子達を自分の家の家族として迎えた。そうして代々受け継がれるように猫は増えて行き、また猫同士のネットワークでもあるのか、はるばる砂漠を越えたり、行商人の荷物に紛れ込んだりしてやってくる野良ネコもいて、それらが街に住み着くことになる。
 自分の飼い猫以外の猫にも、街の住人達は愛情をもって接した。野良猫が餌をねだれば干し肉の欠片をくれてやったし、猫たちが心地よく暮らせるように、と街の清掃も行き届いていた。また、住民たちは、街を興した旅人(ウォーカー)の世界の神、「バステト」の名を借り、地域の野良猫たちを「バステトさん」と呼んでかわいがっていたりもする。
 野良猫も、街のそばを流れる川や、そこから分岐した小さな池などで、魚を取ったり、人間にとっての害獣や害虫を捕食して暮らしていたから、中々これで、共生関係は上手くいっていたのである。
「ウルルの街で猫を邪険にしてはいけない」というジョークがある。これは、この街では「猫嫌いは生きづらい、または猫に危害をくわえたら住民からとんでもない目に遭わせられるぞ」という意味合いのジョークである。事実かはさておいて、この街の住民が猫を大切にしていることは、前述したとおり事実である。

 ここに一匹の猫がいる。名を『プレゥ』といった。ここらの野良子猫たちのリーダーで、つややかな黒い毛の子猫である。
「今日はどうしようか」
 プレゥが言った――と言っても、猫はしゃべらないし、崩れないバベルの影響の範疇にない。これは、特別翻訳だと思ってほしい。
「南の池で魚を獲るのは?」
「クレッシは魚を食べる事しか考えていないのかしら」
 茶トラの『クレッシ』の言葉に、白黒の『ノモモ』が呆れたように言った。
「でも、南の池の魚おいしいよ」
「それは分かるけど、毎日そればっかりってのも飽きるわよ」
「かといって、ネズミを捕るのも嫌ですね。今日は遊びたい気分です」
 と、キジトラの『サテン』が言う。くぁ、とあくびを一つ。
 四匹の子猫たちは、今日も気ままに暮らしている。たまにネズミとかを取って、住民たちに役立つところをアピールしているが、今日は遊びたい気分なのだ。
「そう言えば、昨日は地面が揺れたね」
 プレゥが言った。つまり地震があったという事だ。
「そうね。なんだか人間たちも騒いでいたわ」
「東の砂場の方に、みんな集まってたみたいだよ」
 クレッシの言葉に、サテンはにゃあ、と鳴いた。
「なんでしょうね。人間の事ですから、何か見つけたのかもしれません」
「お魚かな?」
「魚しかないのかい?」
 プレゥが言った。
「でも、人間が見に行ったのも気になるね。行ってみようか」
「賛成です。何か面白いものがあるかもしれないし、おやつももらえるかもしれません」
 サテンの言葉に、みなはにゃぁ、と頷く。果たしてとことこ意気揚々と行ってみれば、砂のお山は半ばから崩れ落ちていて、何か洞窟のようなものがぽっかり口を開けていた。
「こんなの、昨日までなかったわ」
「昨日地面が揺れたのは、これが出てきたからかなぁ?」
 クレッシが言う。彼らの推察は半分当たっていた。厳密には、昨日の地震が原因で、砂の山に埋もれていた洞窟……旧時代の遺跡の入り口が顔を出したわけである。入り口にはロープが張ってあって、『立ち入り禁止』となっているが、猫に人間後は読めないし、ロープごときが猫の動きを邪魔できるわけがない。
「空気がひんやりしてるよ。それに暗い」
「つまり、お昼寝するのにちょうどいいって事だ」
 プレゥが言う。にゃぁ、にゃぁ、と猫たちは頷いた。
「じゃあ、入ってみよう!」
 プレゥがにゃあと鳴いて、遺跡の中に入り込む。残る子猫たちも、にゃあ、と声をあげて、その後に続いていった。

 これが、三日ほど前のことになる――。

「地域猫がいなくなった?」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)がむむむ、と唸った。ウルルの街、その商工会議所の一室で、ローレット・イレギュラーズ達は冷えた水で涼を取りつつ、街の代表の男の言葉を聞いていた。
「はい。この街は、猫を守り神のように扱い、野良猫もしっかり管理していますので、どれがいなくなったかはわかるのです。
 いなくなったのは、四匹の子猫。プレゥ、クレッシ、ノモモ、サテン、と名付けられた子猫たちです」
 男が言うには、その猫がいなくなったのは三日ほど前。目撃情報によれば、先日自身により出土した旧時代の遺跡のあたりで遊んでいたのを最後に、目撃が無いのだという。
「もしかしたら、遺跡の中に入ってしまったかもしれません……近々内部調査が行われる予定なのですが。
 なんでも、古代の豪商の墓らしく……表層を調べただけでも、アンデッド……マミーやゴーストの類が見受けられました」
「なるほど、となると、猫ちゃんの安否も心配ですねぇ」
 ファーリナの言葉に、男は頷く。
「ええ、街のモノからも愛されていた子達ですので……街の子供達も心配していまして。
 どうか、遺跡の中を探索し、見つけてはくれないものでしょうか……?」
 つまり、遺跡の中を探索し、迷子の子猫たちを見つけ出す……というのが、今回のお仕事のようだ。
「という事のようです。では皆さん、迷子の子猫たちを、しっかり見つけ出してきてくださいね!」
 と、ファーリナはそう言って、イレギュラーズ達を送り出すのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ダンジョンアタック、そして子猫たちを助けましょう。

●成功条件
 四匹の子猫の救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 今日も今日とてお散歩日和。四匹の仲良し野良子猫、プレゥ、クレッシ、ノモモ、サテンは、ちょうどよいお昼寝場所が見つかったぞ! と、出土したばかりの遺跡に足を踏み入れてしまいます。
 が、そこは未調査の遺跡。内部にはアンデッドの類が徘徊しており、人間はもちろん、猫にとっても危険です。
 行方不明から三日、このままでは生存は危ういかもしれません……。
 そんな時に、依頼を受けたのはあなた達イレギュラーズです! 遺跡に入り、迷宮を踏破し、野良子猫たちを助けてあげてください。
 作戦エリアは旧世代の遺跡。イメージとしては、エジプト古代遺跡……といった感じの、砂と石の迷宮です。
 内部に明かりは無いので、照明や、ダンジョン探索に便利なスキルやグッズを用意できれば有利になります。
 内部構造は、浅い層は解明されていますが、深い層に行くと不明点が多くなります。

●エネミーデータ
 遺跡のモンスターたち ×???
  この遺跡に登場するのは、アンデッド系のモンスターが多いです。
  ミイラである『マミー』。シンプルな亡霊『ゴースト』。或いは、ゾンビ犬とでもいうべき『オルトロス』。
  マミーは体力が多く、ゴーストは強力な神秘攻撃を扱い、オルトロスは素早く皆さんを翻弄するでしょう。
  共通するのは、『毒系列』を付与してくることです。じわじわと体力を減らしてきます。
  BSの回復手段があれば、有利に立ち回れるでしょう。

●救出対象
 プレゥ、クレッシ、ノモモ、サテン
  黒猫のプレゥ、茶トラのクレッシ、白黒のノモモ、キジトラのサテン、の四匹の子猫たち。
  遺跡に迷い込んでしまって、今はバラバラに逃げているようです。
  今回のシナリオにおいては、『人助けセンサー』のようなスキルで、存在を感知できるものとします。
  彼らの救出が目的ですので、素早く助けてあげてください。触るともふもふでかわいいですよ。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • バステトたちの暇つぶし完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇
滋野 五郎八(p3p010254)
鶏ライダー

リプレイ

●バステト探索大迷宮
(うーん、困ったなぁ)
 にゃぁ、と黒猫が鳴く。遺跡の中、ちょっとしたくぼみに身体を隠して、くあぁ、とあくび。
 少しだけ顔をのぞかせてみれば、マミーが、脚をずりずり引きづりながら、たぶん自分たちを探している。
(そのせいで皆ともはぐれちゃった。クレッシ、ノモモ。サテン。皆どうしてるかなぁ)
 暗闇から、きらきらと目を輝かせる黒猫――プレゥ。彼(?)は迷い込んだ遺跡の中で遭難していた。どれくらいの時間がたったのか、プレゥにはわからない。けど、正直お腹がすごいすいているし、喉もとっても渇いているので、たぶん大変時間がたったのだろう。
(こまったなぁ。ううん、それよりも)
 プレゥはきょろきょろと首を動かした。目の前を歩くマミー。その足元に引きずられるように揺れる、汚い包帯のはじっこ。
(じゃれつきたい……でもあれ危ないよね……でもじゃれつきたい……ううん……)
 目がきらきらと輝く。好奇心とじゃれつきたい欲は、子猫には制御できない。けど、必死に耐えた……。

「いやはや好奇心はなんとやら。
 んーまあ相手は猫だし、何があるかなんて予想もしてないだろうしね」
 ランプの明かりが、前方を照らす。こぼれた砂と、石造りの迷宮が、イレギュラーズ達の前に広がっている。
 声の主――『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は、腰に手を当て、ふむふむ、と唸った。
「目的は猫探しだけれど、やっていることはダンジョン探索だ。キドー、マッピングの方、よろしく頼むよ?」
「へいへい、俺の方向感覚は天下一品でね。寸分たがわずマッピングしてみせるぜ」
 と、にやり、と笑うのは『最期に映した男』キドー(p3p000244)だ。イレギュラーズ達は、今回の作戦に臨む八名は、2チームに分かれての探索を試みることにした。此方のチームは、ルーキスにキドー、そして『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)、『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)の四名だ。
「まー、それは良いんだけどよ。ネコちゃん……? ビビんねぇかな、俺らに?」
「大丈夫だと思うのですよ」
 と、珠緒が微笑んだ。
「街の方でも確認しましたけれど、あのあたりの猫たちは、人間にちゃんと慣れているのです。
 むしろ、こういった場所なら、向こうから近づいてくるのではないかと思います」
「それに、好物らしいお魚とか干し肉も用意できたからな」
 英司が、ぐっ、と親指を立てて見せた。背負った袋の中には、七輪とか干し肉、干物の魚が詰まっていて、すぐにでもあぶって食べごろにできる算段だ。
「炭も起こせる……いざというときは、あっちから来てもらえるようにな。
 それに、お水と、シャンプーも持ってきた。遺跡の中は埃だらけだからな、ちゃんと洗ってやって、ふかふかに乾かしてやるんだ……。
 お日様をいっぱい浴びさせてな……ふわっふわの……猫チャンをさ……吸いたい……」
「洗ってあげるのはいいかもしれないね。でも、猫は水が苦手なんじゃないかな?」
 ルーキスがくすりと笑う。キドーは眉をひそめた。
「いや、それ以前に……大丈夫か?」
「俺は正常だ。ハイペリオンを吸った今の俺なら分かる。猫も吸えばめっちゃバイブスあがる」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
 目を輝かせる……いや、英司は仮面をつけているのでそうなのかはわからないが、多分見えていたら目を輝かせているに違いない。そんな気がする。キドーがは肩をすくめた。
「猫神様のご利益は強いな」
「でも、街の猫たちもとても可愛かったですよ」
 珠緒が微笑んだ。
「観光地的な場所になるのも、なんだか頷けるのです……街の方でも、しっかり猫たちを管理しているようですからね。
 野生……というほど野生ではないかもしれませんけれど、それでも動物の管理は簡単にできる事ではありませんよ」
 街の者にも、猫たちは愛されているのだ。でなければ、危険な遺跡で猫を探してくれ、という依頼も発生しないだろう。
 通常なら、仕方がないと見捨てられる命。
 それを、仕方がないと諦められない、街の人々。
 その優しさや愛着の様なものを、イレギュラーズ達も感じ取っていたかもしれない。
「さて、準備は良し。そろそろ行こうか」
 ルーキスの言葉に、仲間達は頷いた。かくして一行の猫探しは、始まったのである――。

●迷子の子猫
 小鳥が、『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)の肩に止まっている。その小鳥は珠緒の預けたファミリアーで、二つのチームの連絡役を務めている。その眼は今まさにこちらに襲い掛かる、真っ白な怪物――マミーの姿を見つめていた。マミーが、その薄汚れたこぶしを振り上げる――同時、サルヴェナーズの汚穢の檻より生じた泥の槍が、その腕を貫き、斬り飛ばした。内部のミイラじみた乾燥した肉体が、切り口から覗いた。血は出ない。このアンデッドには、血や体液の類は無いのだろう。
 だが、ダメージは確かに蓄積し、そして甚大だ。マミーは、包帯の隙間から見える乾燥した口中をむき出しにして吠えた。その口にねじ込むように、泥の槍が突き刺さって、頭部を破砕する。マミーは後方に倒れ込んで、砂のようになって動かなくなった。
「……確かに、危険な迷宮のようですね」
 サルヴェナーズが、ふぅ、と息を吐いた。そのままゆっくりと後方へと歩み寄ると、頷いて、後方の仲間達に合図を送る。
「ひ、ひえぇぇぇ、って感じでしたね!」
 『ぼんちゃんといっしょ』滋野 五郎八(p3p010254)が、胸元にバスケットを抱えてこくこくと頷いた。バスケットの中には、一匹の鶏――ぼんちゃんと、白黒の子猫が入っていて、仲良さげにくっついている。
 おちつけ、というように、ぼんちゃんが、こけ、と短く鳴き声をあげた。五郎八はふたたび、こくこくこくこくと頷くと、
「へっ!? だ、大丈夫ですし! 怖くともなんともないですしおすし!? たしかにさっき、壁からいきなりゴーストが出てきた時にはバスケットを放り投げちゃいそうになりましたけど、耐えましたしいなりずし!?」
 わたわたという五郎八。白黒の子猫――助けられたばかりのノモモが、にゃあ、とないた。
(あなたのご主人様、元気ね)
 というように、ぼんちゃんにむかって。ぼんちゃんは肯定か否定か、こけ、と小さく鳴いた。ノモモがバスケットから、ぴょん、と飛び降りる。
「わわっ」
 と五郎八が慌てた様子を見せるが、そんなことは意に介さずに、ノモモは五郎八の足元にいた、一匹の黒猫に向ってくりくりとした眼をのぞかせた。
「もう大丈夫やよ? 他の子達がどこ行ったか分かる?」
 黒猫――ギフトによりその姿を変化させた『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)だ。ノモモはその問いには答えず、蜻蛉の顔に、自分の顔を近づけて、興味深げにクンクンとにおいをかいでから、にゃあ、鳴いた。
(ふしぎ。私達と同じ匂いと、違う匂いが混ざってる)
「あら、そんなに珍しいやろか? 少ぉし長い事生きとるだけよ、そんなに変わらしません」
 くすくすと、蜻蛉が笑うのへ、ノモモはにゃあ、と不思議気に鳴いた。
「他の子がどこに行ったかはわからへんのね。ね、ノモモちゃん、危ないから、ぼんちゃんと一緒にいてな?」
 にゃあ、とノモモは鳴いた。頷いたのだろう。そのままぴょん、と跳ねると、五郎八の抱えていたバスケットに飛び乗る。
「わわわっ」
 五郎八が慌ててバスケットを抱きしめ直した。
「うむ! 一人見つかってよかったのう!!」
 『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)が、わはは、と笑った。が、ふと声をひそめ、
「おっと、静かにしておいた方がよかったかの? まみーだのごーすとだのに見つかるといかん!」
「そうでうすね。ですが、今は付近に気配は感じません。見つかっても、私の幻影である程度は対処できますよ。
 さて、向こうのチームも、一人……茶トラの子を見つけたそうです」
「おっ、クレッシちゃんですね!」
 五郎八が、人相書きならぬにゃん相書きをぺらぺらめくりつつ言った。
「ほう、なんじゃ、のんびりした感じの子じゃな!
 これでちょうど一人ずつ、見つかったわけじゃ! 幸先が良いの!」
 チヨが、わはは、と笑う。事実、探索を始めてからしばしの時間がたっているがなかなか良いペースで猫たちを見つけられたといってもいいだろう。
「このままのペースで探してやらんといかんな! あと二人、すぐに見つけて、外に連れ出してやろう!」
「そうやね。ノモモちゃん、少しだけ待っててな?」
 蜻蛉が言うのへ、ノモモがにゃあ、と鳴いた。

●子猫たちはじゃれつく
(むむむ、むむむむ)
 ぴょん、ぴょん、と、プレゥの目の前で、薄汚れた包帯がぴょこぴょこと動く。あちこちを徘徊しているマミーのそれが、暗がりに隠れたプレゥの目の前で揺れているわけだ。
 プレゥは、こうして長い時間を、我慢の時で過ごしていた。動き回る薄汚れた包帯はプレゥを誘うように、楽し気に、楽し気に揺れている。それに合わせてプレゥの顔も、くりくり、くりくり、と動いている。
(むむむむむ~~)
 この誘惑に、プレゥは耐えていた。耐え続けていた。飛び出したい。じゃれつきたい。でもじゃれついたら多分危ない。いや、それはさておきじゃれつきたい。なにがなんでもじゃれつきたい……。
(むむむむむむむ!)
 もう限界であった。プレゥは猫である。我慢とかそう言うのとは無縁に暮らしてきた。それが今、目の前に! 魅力的なひらひらが! ずっとひらひらしているので! もう限界なのだ!
(む~~~~~!!!)
 プレゥは飛び出した。目をまん丸にして、それは狩猟者の顔というより、玩具に飛びついた子供の顔だったのだが、しかし危険なものに飛びつこうと飛び出してしまった事に変わりはない――が。
「確保~~~~~っ!」
 ずざぁっ、と何かが飛び出してきた。それは五郎八で、っぴょん、と飛びついたプレゥを、優しく抱き留めたのだ!
(うにゃ、なんだろうこの人間は。僕の邪魔をしないでほしいにゃ)
 にゃあにゃあと暴れるプレゥ。一方、騒動に気づいたマミーが雄叫びをあげて腕を振り上げるのを、サルヴェナーズが泥の槍を展開して受け止めていた。
「五郎八、その子を連れて下がってください」
「わ、わかってるんですが……こら、暴れないでくださーい! 蜻蛉さん、説得、説得をお願いしまーす!!」
 胸元でわちゃわちゃとするプレゥを無理矢理抱きしめて、たたた、と駆けていく五郎八。一方、サルヴェナーズが泥の槍でマミーを打ち倒した刹那、暗がりからぐぐぐ、と青白いゴーストが顔を出してきた。ゴーストが吐き出した息が、冷気の弾丸のようになってサルヴェナーズへと迫る。サルヴェナーズが泥の槍でその弾丸を切り払うと、細かいダイヤモンドダストのようになって、サルヴェナーズの身体を斬りつけた。直撃ではないが、多少のダメージは受けた格好だ。
「チヨ!」
「まかせえええええい!」
 チヨが叫び、だばだばだば、と全力疾走! 健脚による移動で一気にゴーストの眼前に飛び込むや、チヨ婆ちゃんの拳骨がゴーストに炸裂する!
「子猫をいじめるのはいかああああん!」
 不思議なことに、ごん、と音がして、ゴーストが頭を小突かれた。その衝撃に耐えきれなかったゴーストが、雲散霧消、消滅して消える。
「まったく、あくたれ小僧が!」
 むっ、とした様子でチヨが腰に手をやる。
「素晴らしいげんこつでしたよ、チヨ」
 サルヴェナーズがくすりと笑う。
「うむ、わしの知恵袋によれば、ああいうアンデッドは生前の行動に従って辺りを徘徊しておるそうじゃ。見張りはわしに任せよ!
 皆はねこの説得をするんじゃよ!」
 チヨの言葉に、サルヴェナーズは頷いた。
「蜻蛉、五郎八、プレゥの様子は――」
 サルヴェナーズがそちらへ顔を向けた刹那、五郎八の「んにゃああああ!」悲鳴が聞こえた。胸に抱いたプレゥが、わわわわわ、と猫ぱんちを繰り出す!
「痛……痛くは無いのですが! ストップです! プレゥちゃん! お話を、聴いてくださると!」
「プレゥちゃん、落ち着いて、ね?」
 蜻蛉が柔らかく言うのへ、プレゥは、にゃう? と声をあげて、五郎八の胸から飛び降りた。それから、にゃあ、と一鳴き。
(ねこかな。でも、違う匂いもする)
 バスケットの中から、ノモモがにゃあ、と鳴いた。
(ふしぎな人みたい)
(ノモモ、いたの?)
「えーっと、うちたちは、あなたたちを助けに来たんよ?」
 蜻蛉がそう言うのへ、プレゥは顔を近づけて、ふんふんと鼻を鳴らした。二匹の黒猫が挨拶をするように。
(悪い人たちではなさそう。悪い人間ってあんまり見たことないけど)
(にわとりのベッドも快適よ)
 ノモモが言った。
(早く出ましょ。私飽きちゃった。南の池のお魚が食べたい。クレッシじゃないけど)
(そうだね、ここは飽きちゃった)
 にゃあ、とプレゥが鳴いて、こつん、と蜻蛉の額に自分の額を合わせた。
「じゃあ、2人とも。五郎八さんのバスケットに入っててね。すぐに脱出するからね?」
 蜻蛉の言葉に、プレゥは、にゃあ、となく。それからぴょん、と五郎八のバスケットに飛び乗る。
「わっとと」
 五郎八が籠を抱きしめて、にこりと笑った。
「よろしくお願いしますね、プレゥちゃん!」
 そう言って笑う五郎八へ、プレゥはぺし、と頬に猫ぱんちした。
「なんでですか!?」
 五郎八が苦笑しながら、プレゥの頭を撫でた。

(ねぇねぇ、サテン。僕たちはこれ、どこに向かってるのかなぁ?)
 と、珠緒の腕に抱かれたクレッシが、にゃぁ、と鳴いた。
(おそらく外でしょうね。でなければ、どこか安全な場所)
 同じく、珠緒の腕に抱かれたサテンが、にゃあ、と鳴く。
(しかし、クレッシ、落ち着いていますね――今がどういう状況か分かっていますか?)
 にゃあ、とサテンが鳴く――珠緒は、二匹をきゅっ、と抱きしめながら、迷宮の床をリズムよく駆け出していく。
「あまり、運動は、得意では、ありませんが……!」
 息を切らせながら、珠緒が声をあげる。後方には、複数の、荒い息遣いが聞こえた。それが獣のそれだと気づいた時には、ただれた腐った皮膚を持った猟犬たちが、イレギュラーズを追っているのが分かる。
「ちっ、珠緒! ねこは最優先で守れ! 俺達がケツモチする!」
「たち、という事は私も含まれてるのかな、キドー?
 まぁ、しょうがないね。珠緒、貴方は先に。英司は中間で珠緒を護ってあげておくれ」
「OKだ、猫とお嬢さんは任せろ!」
 英司が叫び、珠緒を護る様に背後へ。そのままキドーは手りゅう弾を取り出すと、放り投げた。強烈な音が鳴り響き、破片がゾンビ犬を穿つ。肉に鉄片を食いこませたまま、しかしゾンビ犬は駆けるのを止めない!
「ったく、死んでるくせに元気じゃねぇか!」
 キドーが吐き捨てる。
「とにかく、今は脚を止めるしかないだろうね。
 さて、敵が多い時はこれに限る、と」
 ルーキスがその手をゆっくりと後方へと差し出す。その指先に闇が光るや、放たれ闇は大地を侵蝕し、深淵をその場に顕現させる。そこから響き渡る声は呪詛の力となって、ゾンビ犬たちの脚へと絡みついた。がう、きゃん、とゾンビ犬たちが悲鳴をあげる。
「あの手のアンデッドは、縄張りからは離れないものだよ。アンデットに思考を期待するだけ無意味なんだけど、その本能には期待できる。
 つまり、逃げきれれば、私たちの勝ちだ」
「成程ね、じゃあ必死に走るしかないな!」
 干し肉を握り込んだ腕を振るいながら(サテンを引き寄せるのに使ったのだ)、英司が奔る。果たして上層へと到達した一行は、ようやく遠く目に日の光を確認できた。
「脱出、成功……なのです……」
 はぁはぁ、と珠緒が息を吐く。そのまま、日の当たる外へと飛び出した。見てみれば、外には先に脱出した別チームが待っていて、疲れに座り込んだ珠代を、チヨは労った。
「おお、珠緒ちゃん、大変じゃったのぉ! しかし、猫たちをちゃんと守ってこれたのはえらいぞよ!」
 おばあちゃんムーブするチヨに、珠緒はくすりと微笑む。
「何とか、みんな無事なのです」
「ああ、怪我や病気もなさそうだ……っと、おい、干し肉は後でな? いや、おなかはすいてるだろうから、今のうちにあげちゃってもいいか?」
 英司がそう言いつつ、干し肉を地面に置いた。すぐに猫たちが飛び出してきて、ぺろぺろと舐め、やがてかみかみしはじめた。
「あれだけ危ない目に遭ったのに自由だなぁ。
 まるで気にしてないみたいだ。
 ま、それ位元気な方が、いいけれどね」
 ルーキスが微笑む。
「とにかく、これで解決ですね!」
 五郎八がそう言うのへ、頷くようにぼんちゃんが、コケッ、と鳴く。
「ほらほら、おやつは街に戻ってからにしよな?」
 蜻蛉が子猫たちへそう言うのへ、サルヴェナーズが微笑んだ。
「そうやって、子猫たちに接する姿、母猫のようですね」
 その言葉に、蜻蛉は目を丸くして、
「あはは……お母さん、って柄じゃないかもしれんけどなぁ」
 微笑んだ。
 イレギュラーズ達の安堵をよそに、猫たちは、危機など忘れたかのように、くあ、とあくびをしている。
 イレギュラーズ達はもう一度、バスケットやバッグに猫たちを入れてあげると、街に向かってゆっくりと歩き始めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍によって、子猫たちは無事保護。
 今もウルルの街で、自由気ままに暮らしているようです。

PAGETOPPAGEBOTTOM