PandoraPartyProject

シナリオ詳細

The WHALE

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「おやっさん、無茶だ! そんな体で奴の相手は――!」
「うるせぇ! 俺以外に誰が出れるってんだよ! ぐっ、げふ、ごほ……」
 海洋王国――その西側に『ホル・ハフト』と呼ばれる海域が存在する。
 普段は平穏な海だ。時折此処へと近くの島から漁師が訪れる事がある程度の海域。
 ――だがここ最近、海域の様子が『おかしい』と一人の漁師が気付いた。
 魚達がいない。海があまりにも静かすぎると。

 その原因は外界――つまりは外の海域よりやってきた『新種』の襲来が故。

 外来種が荒らし尽くしているのだ。尤も外来『種』と言っても。
 やってきたのは一体だけなのだが――その一体が厄介。
『――――!!』
 ソレが吠える。大海の水底から。
 海面へと急速に上昇し――跳ね挙がる。
 その姿は鯨。巨大な身体を宿し、全身が黒き禍々しさを秘めた魔物が一角。
 着水。すればまるで津波が如き衝撃が周囲に発生。
 下手な小船などがあらば飲み込まれ転覆してしまうだろう勢い――その中で。
「はぁ、はぁ……! さぁ来やがれ鯨野郎。この海を荒らさせやしねぇぞッ――!」
 果敢に立ち向かう船が一隻。
 それは地元の漁師が乗った船だ。大型の銛を抱えており――鯨の身へと向かっていく。
 これ以上海を。魚達を脅かせはしないと決意を抱きながら。
 強大な存在へと――立ち向かっていった。


「おやっさんは昔から魔物みてぇな連中が出たら、自慢の銛で突き破ってたお人なんです……ですが、うぅ……年に加えて、あの日は体調が悪くて……」
 数日後。ローレットのイレギュラーズへと話が持ちかけられた。
 それは件の『鯨』を倒してくれとの依頼。
 周辺の海域の生態系を荒らし尽くしている奴を放っておけば、やがて魚達が完全にいなくなってしまう――いやそればかりか『奴』は船団すら恐れずに襲ってくるのだそうだ。そして実際に先日、襲撃を受けてしまった。
 その際、同乗していた地元で一番の腕を持つ人物が討伐に向かったそうなのだが……
「――帰ってこなかったと」
「はい……恐らく、おやっさんはもう……ですが、おやっさんがアイツに立ち向かってくれたおかげで、船団の被害は他になかったんです。ただ……」
 奴の気配は消えていない、と。
 戦闘のあった場所へと後で向かってみれば、そこには砕けた船の残骸だけがあったそうで……つまりそれは『おやっさん』と呼ばれた人物が敗れた事を意味しているのだろう。至極残念な事ではあるが……しかしだからと言ってこのまま悲しみに暮れているままでもいられない。
 故にローレットへと。鯨への討伐を改めて頼むのだ。
 奴が出そうな海域に関しては分かっている。その辺りで船を動かしていれば、やがて向こうから出てくる事だろう。船に関しては地元の漁師たちから提供してもらえるらしく、小型船の類を持っていなくても大丈夫そうだ――
 問題は奴との直接戦闘か。
「どんな奴なんだ? 巨大である、というのは分かったが……」
「はい。俺たちの間で分かっている事では……奴はどうやら自分の周囲の海流を操る術があるみたいなんです。それで魚を逃さずに喰らっているみたいで……海の中だとソレに巻き込まれてしまうかもしれませんね」
 とは言え、泳ぎに優れていれば逆に利用して急接近も出来るかもしれないが。
 後は巨躯を利用して小規模な津波を起こしたり、体当たりなどを仕掛けてくる事もあるらしい。それで転覆した船もあるのだとか……船を操る際も奴の襲来には警戒しておくべきだろうか。操舵に優れていれば回避も不可能ではないだろうが。
「どうか、お願いします。おやっさんの仇を……この海に平穏を……!」
 そして。漁師は改めてイレギュラーズ達へと懇願する。
 奴を倒し元通りにしてほしいと……
 それがこの海で長年勤めていた――おやっさんの願いでもあったと。

GMコメント

●依頼達成条件
 鯨型の魔物『ケートス・プラシス』の撃破。

●フィールド
 海洋王国の西側に存在する『ホル・ハフト海域』という地です。
 ここは普段は平穏な海域だったのですが……最近魔物が襲来し、生態系が乱されているようです。大きな被害になる前に止めてほしいと依頼が舞い込んできました――

 時刻は昼でも夜でも選べますが、特に指定が無ければ昼で開始されます。
 周囲は穏やかな天候であり、嵐などは無さそうです。

●鯨『ケートス・プラシス』
 ホル・ハフト海域へとやってきた魔物です。
 その身体は鯨型であり、非常に巨大な身体と案外素早い速度を有している個体の様です。

 その巨躯から繰り出される突進などにより、船の転覆などをさせる事が出来る様です。
 小規模な津波を起こすことが出来たり、自身の中距離範囲までの『海の流れ』をある程度操る事が出来る能力を宿している様です。彼の中距離範囲では反応や回避力などにある程度影響が発生する事が予想されます。
(ただしこの効果は海の中のみ。空中では影響しません)

 なお。頭部付近に『巨大な銛』が刺さっており、激しい戦闘があった事を思わせる傷跡が各所に存在しています。その辺りを上手く突く事が出来るとダメージを効率的に叩き込むことが出来るかもしれません。

●備考
 本依頼では依頼人たちから船が一隻提供されています。その為、アイテムとして小型船などの類がなくても大丈夫ですが、それとは別に小型船の類を持ち込んで使用してもOKです。また、依頼人から提供された船は戦闘で壊れてもOKとの事で損壊を気にする必要はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • The WHALE完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月31日 22時07分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「さあて――時間だ! クジラ漁に行きますか!」
 風が吹く。大海原へと往く風が。
 その流れを見る『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)の操舵に迷いはない――むしろこの先に件のクジラがいるのかと、気配を探らんとする程に余裕もあるものだ。その隣には『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の船もあって。
「……周辺を荒らすクジラ、か。一体どこから出てきたっていうんだろうね」
「狂王種……ではないようじゃな。ま、海も広い。
 どこぞに潜む荒らし屋がいても不思議ではないの」
 彼もまた船を巧みに操り皆を海域へと導くものだ。その一角には『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)も同乗している……クジラの姿はまだ見えぬものの、そう遠くはない筈だと。
 これは只の魔物の一種。かの海域に根差す狂いし種族ではない――
 なれど、海の脅威。防人たるコン=モスカの名に於いて、相対しよう。
 周辺を警戒する彼女の耳には――音の反響を司る力が。
 不審な音があらば彼女が気付こう。少なくともいきなり至近に『奴』が現れ、混乱に陥る事だけは避ける事が出来る筈だと――
「……しかし。参ったね、どうにも」
 同時。頭を掻きながら『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は呟くものだ。
 聞けば奴を食い止める為に一人の漁師が命を張ったそうではないか。
 ――ではこれは弔い合戦か? 皆を護ろうとした、海を護らんとした者への……
 柄ではない。
 けれど、そんな話を聞いてしまったからには。
「気合を入れねぇ訳にもいかねぇだろ――
 奴さんを逃せば、意味がなにもかも泡になっちまうなら尚更にな」
「あぁ。この海が人間のものなんて言うつもりはねえが、生きる為に必要なんだ。
 海を取り戻す為にも――暴れクジラとやらには退場してもらおうかね」
 そして生存競争の為にもと。紡ぐのは『“侠”の一念』亘理 義弘(p3p000398)だ。
 彼は優れし感覚を張り巡らせ、鯨の接近がないかと警戒する――
 静かなものだ。とても件の騒動があった場所の近くとも思えぬ。
 ――だが確実に『いる』のであろうと誰もが感じていた。
 故、義弘は海へと飛び込む。
 海の中。全身にて奴を探る為に……

 ……さすれば奥底。深淵の果てより至る何かの気配を感知する。

 クレマァダも気付いた。それは闇に紛れる様に突き進んでくる――件の化け物。
「来やがったか。鯨……あぁ鯨、ねぇ。まぁ――今はやるしかねぇわな」
 さすれば『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は戦闘の態勢を整えるものだ。船の先頭から海を覗き込むようにしつつ――縁が無いわけでもない『鯨』というその単語に重い耽る所もある、が。
 アレは違うのだと思えば闘う手に鈍りはない。
 ――来た。水面へ一直線、空に飛び出すように――巨大な鯨が。
「随分と派手なご登場だ。
 ――海の王者気取りか? 残念だな、おまえの鼻っ柱を折りに来たよ!」
 数多の水飛沫。浴びながらも『若木』秋宮・史之(p3p002233)は奴を見据える。
 腹の中にゼペットじいさんがいそうなサイズのクジラだ――なればこそ手加減はいらないだろうと、彼は飛翔する。鯨の真上を取り、その背中を狙うのだ。コレを自由にさせる訳にはいくまいと、名乗り上げる様に往けば。

「ふーん。海域の生態系を荒らしてるんだ。じゃあ、いわしの事も食べたんだね」

 同時。その鯨へと声を紡ぐのは。
「……ただの鯨ごときがさあ、いわしの事食べて良いと思ってるの? 調子、乗っちゃってるね?」
 『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)だ――
 その瞳には漆黒の様な意志……いや『意わ志』が宿っている。
 たかが鯨が。いわしを害するなど身の程を知れ。
 ――再び海中へと潜らんとする鯨。今飛び出てきたのは挨拶代わりか?
 逃すかよ。
 あえて海中に飛び込むいわしプリンセス――その魂は完全に『狩る』色に染まっていた。


 鯨が海面へと飛び出た事により、波の流れが生じる。
 それは再びの着水と共に、まるで海の奥底へと流れを誘導する様に……
 ――船を引きずり込まんとしているのか。
「させるかよ! こんな程度で漁師が獲物の力に負けるかっつーの!!」
 が。瞬時の操舵を行うカイトは斯様な攻撃に飲み込まれたりなどせぬ。
 船を操りその範囲から即座に離脱しよう――そして逃れた先にてカイトもまた海の中へ進撃。彼は分類として鳥類の姿を宿しているが……水竜の加護を持つ者として、海もまた彼にとっては馴染み深い庭の様なモノでもある。
「しゃらくせぇ――逃がすかッ!!」
 己を高める加護と共に。鳥が泳げないと思うなよ――?
 ……だが勢いよく飛び込みはしたものの、動き自体は慎重に、だ。
 奴は巨大。ならば、喰われそうな気もしないでもないのだ――
 無論、タダで喰われてやるつもりなどないが。気配は殺して奴へと近づかんとし……
「奴はまた必ず上がってくるはずだ……! 船があれば逃す筈がないだろうしね。
 近付いてみせるよ、必ずね……!!」
「そら、こっちだぜ。上がってきな、でっかいの!」
 同時。イズマもまた船を操りその体勢を保ち続ける。多少の波などなんのその――優れた操舵にて船を操り、鯨へとむしろ近づいて往こう。海上まで必ず誘導される筈だからと備え、さすれば縁もまた海の中へと飛び込まん。
 海の流れを操る――? あぁそれは中々に厄介と言えただろう。
 この青き世界に住まう者にとってそれは中々に抗いがたいモノであるから。
 ――しかし。縁には祝福――いや悪天候など知らぬ存ぜぬとする『呪い』があれば。
「見つけたぜ。さぁ、どこに行こうってんだ……!」
 奴へと追いすがれるものだ。
 撃を成してその姿を穿つ。更には、アンジュやクレマァダも到来すれば。
「難しい事はいらないよね――まっすぐいって、ぶっ飛ばす!」
「うむ。だが、油断は出来ぬな……これほど広範に渡る大海の流れを支配出来得るとは。
 ……しかし、物量なら負けぬぞ! 力のみで全てを掌握できるとは思わぬ事よ――!」
 紡ぐ。いわしの生き様と魂をその身に顕現させたアンジュが流れに逆らい鯨に一撃。
 堅牢なるいわしと化したアンジュは喰らわれる様ないわしではない――
 もう一発その腹に五指を固めたいわしパンチ一閃! 身を揺らさんばかりに込められたソレの直後には、クレマァダの操る濁流も襲い掛からんとするものだ。鯨の力に真っ向から対抗する様なソレは、自らに注意を向ける為でもある。
『――――!!』
「むぅ……! 抗うかッ……!」
「だが余裕は削れてるだろうさ――このまま上にまで引っ張り上げるとしようかッ!」
「ああ。知ってっか? クジラ漁はじっくり、確実に追い込んで仕留めるもんだぜ。餌をばらまいて、獲物の気を逸らしながらな……ん? だれが撒き餌の鶏肉だ!? おい、鳥さんは喰われるつもりはねぇからな!!?」
 勿論、魔物として。そして巨大なる身より紡がれる力はクレマァダをもってしてもそう易々と奴の身を縛るには至らぬ――しかし決して一人で戦っている訳でもなければ手はあるものだ。エイヴァンもまた前に出て、奴の反撃から味方を護る盾となろう。同時にカイトもまた奇襲と成すように羽根の一撃にて鯨の身を削れば。
「その銛。痛ぇか――? 忘れられねぇようにしてやるよ」
 直後、エイヴァンが狙うのは刺さりし銛の箇所だ。
 奴の怒りを誘う様に。その部分へと撃を成す――全霊の一撃をもってして、抉るのだ。
 幸い、巨大たる身であれば遠く離れていてもその姿を捉えやすいもの。
 押し込む様に力を籠める――
『■■、■■■――!!』
 さすれば、鯨が呻くように謎の金切り声を発するモノだ。
 直後に至るはイレギュラーズへの突進。許せぬ、死ね、矮小なる小さき者が――
 そのような意思を感じるも、その動きこそこちらの『思う壺』であれば。
「来たね――! 久々の大物だ。気合い入れてかからなきゃな……!」
「アレは勇者との激しい戦闘の証だ、そこを突かせてもらおうか。
 先達が切り開いてる道を、わざわざ避けるのは――逆に失礼ってもんだろうしな」
 海上付近。待ち構えていた史之と義弘が合わせる様に鯨へと攻勢を成すものだ。
 史之が狙うは心臓。胸鰭の付け根のやや後ろあたりを、背中側から狙い定めて掘り進めるように――肉を抉り飛ばす。竜撃の一手が如き鮮烈が、巨大たる鯨の身に弾かれる事もなく紡がれて。続けざまに義弘もまた、傷跡を狙うものである。
 それは勇者。この海を守らんとした者がいたという軌跡の証。
「卑怯と思うか? だがよ、これが生きるか死ぬかの戦いってやつだぜ。
 そこにルールなんざありゃしねぇ……」
 だから俺も躊躇ったりなんざしねぇさ。
 膂力をもってして敵を穿つ。接近した義弘の一撃が――鯨へと一閃された。


 あぁなんだコイツらは。素直に狩られればよいものを、どいつもこいつも……!
 鯨は苛立っていた。いつもの様に獲物を仕留めに来た筈が――なんだこいつらは?
 抗ってくる。小賢しくも自らに、傷を刻まんとしてきている。
『――――!!』
 声にならぬ声を挙げて鯨は海流を操るものだ――
 それは周囲の者達を乱すかのような一撃。
 急速なる波の動きはそれだけでも凶器となりえるものであり……しかし。
「させんよ。焦りと怒り……感情をこうも見せるとは、対等なる戦いを知らんか?」
 それでも崩れない。むしろクレマァダは反撃の一手を紡がんとする程だ。
 ――ああ。そういえばカイトはコレを漁と言うが、言い得て妙じゃな。
 焦っては負ける。
「自然との闘いは、根気の勝負じゃ。お主は周りがあまりにも小さすぎて『闘い』をこなしてはこんかったか――」
「こうも張り付いてくる奴は初めてか? 驕りに慢心……あぁ滲んでるね、その魂に!」
 直後。再度の接近を果たすのは史之だ。
 逃しはしない――どれだけ図体がでかくても、その構造自体は普通の鯨と同様であれば、このまま心臓を掘り当てるまで突き進むのみだと。勿論、油断すればこちらが波に飲み込まれる事もあろう――流石にそんなのは御免であるが故に気は抜かぬが。
 それでも彼は奴の放つ波にも負けず。流血によりへばりつく血にも乱されず。
 成し続ける。奴の命に――届くまで!
「その傷を忘れてくれるなよ。この海を護らんとした者の意志と魂が、ソレだ」
「ああ全く……無茶をする奴もいたもんだぜ」
 更に海上付近へと誘導された鯨へとイズマの一閃が到来。
 鯨の身を食い破らんとする牙が如き一撃。
 痛みが走ったが故か、まるで抗う様に身を捩りその巨躯による暴力を周囲に振るわんとする鯨だが……それでもエイヴァンは崩れぬ。万象を凍てつかせる絶対零度の冰砲撃を放てば、むしろ奴の動きを縛らんとして。
『■■……■、■■■……!!』
「ハッ。流石の鯨野郎も鈍ってきやがったな……! ついでだ、こいつも受け取れッ!」
「だが近づきすぎるなよ――まだ力は残ってそうだぞ!」
「分かってるさ! だが、おやっさんの分を叩き込んでやらないとな――!」
 であれば。鈍った動きをカイトと義弘は見逃さなかった。
 逃れる様に海上へと進み、その巨躯を打ち出すように天を舞う――また着水すれば周囲を巻き込む津波が発生しようか。しかしそこを狙いカイトは飛翔したのだ。奴が海の流れを操ろうとも、こちらはならば空の流れを操り見極める者だと!
 残像を生じるが如き神速と共に。三叉の槍を突き刺し穿ちて銛の傷を更に深めよう。
 そして義弘もまた――その巨体による破壊力に警戒をしながら手数を加える。
 拳の一閃。込められしは力のみならず魂もか。
 上空と海中。それぞれに声を飛ばし、その連携の架け橋となる様に彼は動きながら。
「そろそろ分かってきたかな?
 これが、犠牲になったいわし達も抱いた恐怖と怒りと悲しみだよ」
 瞬間。再び海へと戻らんとした鯨へ――アンジュが一撃ぶちこんでやる。
 それは数多のいわしの無念を乗せた腹パン。
 苛烈なる痛みこそが奴へと思い知らせる報いとなろう――
「自分で受けてみなよ! 逃げずにさ! これが――お前のやった事だ!
 あの世でいわし達に許しを請うてくることだね!」
『――! ――!!』
 深く、深く抉り込ませる様に。腰に捻りを、腕の一撃に回転を。

 痴れ者が――! 大人しく餌となればいいのだ貴様ら等! 死ね、死んでしまえ!!

 直後。その動きはまるで憎悪の様に。大人しく死なぬ者達に対する最後の抵抗――
 波の動きが奔流となりてイレギュラーズを襲わん。
 水中で行動しうる得手を持つ者といえど抗えぬ様な暴流――
 それは海の上にも到来せん。彼らが帰る船をも潰そうと……
「おっと、そうはいかない……! 最後の付け焼刃の一撃なんかでは、ね――!」
 だが。警戒していたイズマは即座に操舵。操船を疎かにはせず、かの波をうねり抜けて。
 さすれば。
「潔くねぇのも……まぁ、それぞれの自由だ。否定はしないがね。
 だが――もうこいつばっかりは覆せねぇ事なのさ」
 縁が往く。もはやどこにも逃げ場はないのだと、ここに留めさせながら。
 紡がれる一閃。雷すら斬り捨てるが如き斬撃は大海にすら傷を残そう――
 その果てにある鯨もまた、両断されるものであり。

「……仇はとったぜ、おやっさんとやら。安心して成仏してくれや」

 故に紡ぐ。
 この海の中に言葉が蕩ける様に。揺蕩う果てに――散った先達へと届く様に。
 ……あぁ。ここまでして踏み込む様な事を成すなど『らしくない』とまたも思うものだが。
 それでもきっと――おやっさんとやらの熱意の酒が移ったのだろうと。
 命消える鯨を見据えながら紡ぐものだ……


 ――ケートスとは、神話に出でし海の魔物。
 漁民がそう思うも無理からぬ偉容だ。
 戦いが収束したその海にて、クレマァダは思い巡らせ。
「むぐるうなふ ふたぐん」
 だが。こうして一つの海の欠片となったのであれば――慎んで、海にその身を還し申す。
 静かに眠るが良い。そのように思考と言葉を紡ぎながら……
「……この鯨、食べられるかな。あれだけの巨体だ、凄い生命力を感じたよね……」
「ああクジラ肉パーティだぜ! 魔物つってもまぁ食えるだろ食える喰える!」
「持って帰るのは構わんじゃろうが、しかしサイズ的にこの小舟で丸ごと曳航は無理じゃろう。ある程度の肉を切り出すぐらいかの……」
 で、あれば。せめてもの戦利品として鯨の肉を切り取るものだ。
 イズマが食べられぬかと思考すれば、カイトが手慣れた手付きで解体せんとし。クレマァダもその動きを手伝わんとする――だが、全て持って帰るのは中々に無理がありそうだ。故にある程度は諦めよう。それになにより。
「くじらって死んだらさあ、深海の生き物の糧になるんだってさ」
 此処に住まう魚達にも齎すべきかと――史之は思うものだ。
 鯨の死骸は文字通り巨大なる食料。そこだけ天国みたいに生き物が溢れるのだとか……
 もしも。こいつが沈んだらどんな風になるんだろうか。
「鯨のむくろはのう。
 海に沈んで、海の底で新たな生命の苗床となるのじゃ。
 母なる海の懐で、命は巡っていくのじゃ。どこまでも、どのようなものでも……」
 遠く。どこか果てを見据える様にしながら。
 クレマァダは呟くものだ。
 海の真理。海の抱擁。どこかにソレを感じながら……
「……おっと。そうだ、銛も回収しておかねぇとな。
 ――海に出る時の守り神代わりってやつだ。依頼人連中にとっての形見にもなるだろうさ」
「勇者への手向けも――な。こいつで一つ、あの世で一杯やってくれや」
 そして縁が鯨より銛を回収し、義弘は海へと酒瓶を投じる――
 おやっさんとやらに届く様に。その生きざまに乾杯を、と。
「……全く。とんだ暴威だったぜ。ったく、よ……」
 直後。沈んでいく酒瓶と鯨を見据えながら――エイヴァンは言を紡ぐ。
 ……似ても似つかないものに影を重ねたって意味はない。
 寧ろ『帰ってこない』という点に絞れば、おやっさんの方がまだ近い。
 だから。
 この心の中の一片に生まれた、ほんの微かな感情は……今暫く仕舞っておくとしよう。
 如何に似た種族と言えど――人に害をなすのであれば見過ごす事は出来なかったのだから。
「わかってるよ、この鯨も、悪意はあるなしは置いといて、ただ生きてただけだってね」
 そう。見過ごす事が出来なかっただけで、鯨自体はただ生存競争の中にあったのだと、アンジュは思考を巡らす。食料がなくばどんな存在も生きられない。だから食べ物を求めること自体に――悪はないのだ。
 それでも、アンジュはいわしを食べるやつを許すことは出来ないから。
「ばいばい、くじら」

 ――おいしいいわしのおやつになってね。

 風が吹く。
 明日へと続く――風が吹く。
 大海の彼方より吹く穏やかな風の心地よさを感じながら、船の進路を帰路へと向けた……

成否

成功

MVP

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 ケートスの名を冠す魔物は打倒され――またこの辺りには平穏が戻ってくる事でしょう。
 平穏を齎した勇者に感謝を込めて。

 ありがとうございました!

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