シナリオ詳細
ゴリョウ・クートン領への旅
オープニング
●民を魅了した領主
――五穀豊穣、縁定の夜に。
「ぶはははッ、寿司食いねえ!」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)の寿司屋台は、大賑わいであった。領地の海沿いから仕入れた新鮮な海産物と自慢の米で仕上げた逸品を活かした美味い寿司。そしてなにより、本人の人柄が素晴らしい、と。
――依頼にて訪れた特別な夜の出来事である。
「なんと領主が直々に」
農家の爺さんは驚嘆し、ねじり鉢巻き巻いたゴリョウがニカッと闊達な笑顔を浮かべる。
感激しながら海の恵みに手を合わせて一貫頂くと……。
「お、おお……おお……!?」
程よい握り加減のシャリはややもちっとした触感で、醤油を合わせると絶妙な酢加減。綺麗な赤色のマグロは新鮮で。
「んまいッ!!」
周囲の全員が顔を見合わせ、頷き合う。これが、めちゃめちゃ美味いのだ……!
「うまいぞー----!!」
ぷりぷりのイクラが口の中で弾けてわさびの辛みと丁度良い。イカの歯ごたえと甘味が心地よい。この特徴的な歯ざわりと美味な魚肉――エンガワ!
妖の狐と狸も目を爛々とさせて寄ってきて――この香りは魚? 新鮮な魚なのか!?
「おぅ、食ってみるか悪戯っ子ども?」
強面のゴリョウがおおらかに笑えば、頼りがいありそうな兄貴然として安心感がある。勝負事をして、負けてしまった妖を大きな手が撫でる仕草も優しく、思いやりに満ちていた。
「これで遺恨なしってやつよ!」
美味いもん食って腹が膨れれば万事解決。そう言って鉢巻を直す漢(おとこ)ゴリョウ。その貫禄を見てかの領地に住みたくなった、と民は語るのだった。
そして、実際にかの『ゴリョウ・クートン領』に向かう民が数人現れたのである。
「おいら、寿司職人になるんだ」
希望に目を輝かせるちびっこ。
「俺は鉱山で働きてえ」
やる気まんまんな若者。
「わしは、釣りがしたいのう。あの美味かった魚を釣るのじゃ」
爺さんはニコニコしていた。
「子どもの名づけ親になってほしいわ」
「まだ気が早いよ」
祭りで結ばれた夫婦が仲睦まじく。
ゴリョウ・クートン領は、高天京郊外の平原に所在する領地。本日は平原にぱんつが降り、神威神楽は海辺が快晴、内陸部は強風の天気模様。
まだ見ぬ領地に想いを馳せて、彼らは道を往く。頭上をぱたぱたと鳥が羽ばたき、街道脇の林の中、南側には狼がうろうろ。
「ふうー、足が疲れてきたのう」
「あっ、うさぎがいるよ~」
「動物を狩って夕食にしようか」
空は青く澄み渡り、自由の風が南へと駆け抜けていく。
●民がゴリョウ・クートン領に向かっているのです!
「びっくりなのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が背中の白い羽をふわふわさせながら依頼の説明をしている。
「先日、豊穣でお祭りがあったではないですか? あの時にゴリョウさんを好ましく思った現地の民が、ゴリョウ・クートン領の領民になりたがってるみたいなのです」
民は、もともといた村の長とはすでに話を済ませ、あとは領主ゴリョウさんに移住希望の意志を伝えて受け入れてもらえれば領民になり、もし受け入れ不可なら、村に戻るようなのです」
ひとまず領主に会いたい、新天地に向かおう、と気が逸る民は、すでに村を出発してゴリョウ・クートン領に徒歩で向かっているという。
「なんと、護衛もつけずにです……!」
領地までの道のりで、何が起きるかわからない。
「最近、肉腫に関した噂がされていたりもするのです。子鬼(ゴブリン)や小妖怪も出るかもしれませんし、狼とか熊とかも出てくるかもしれませんし」
道に迷ってしまうかもしれない。
途中で体調を崩す者も出るかもしれない。
旅とは、何が起きるかわからないものだ。
ユリーカは懸命な瞳であなたを見て、お願いするのだった。
「とりあえず、彼らに合流して護衛してあげてほしいのです!」
- ゴリョウ・クートン領への旅完了
- GM名透明空気
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年12月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●祝祭を控えたその日
よく晴れた青空のような目が大地と空の間を進む一行を見ていた。
「ゴリョウさんの領地を、おえらびになるなんて……」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が嬉しそうに愛しい彼に身を寄せる。
「お目が、おたかいですの。わたしも、恋人として、鼻高々ですから……皆様が、もっと、ゴリョウさんを好きになってくださるように、わたしも、お手伝い、いたしますの」
「ぶはははッ、嬉しい話じゃねぇか! こいつぁ是が非でも無事に送り届けてみせねぇとな!」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は大切なノリアの健気な体温を感じながら巨体を揺らして意気込んだ。
「ゴリョウ様は「おいしい」をたくさんたくさんつくれる人。きっとその領地も「おいしい」がたくさんあるに違いないのです」
『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)は希望を胸にはにかみ。
「オイラも遊びにいこうとしてたとこだから、お安い御用だぜ! 旅は道連れってやつだな! ゴリョウのおっちゃんのとこは飯がすげーうめーって話だから今から楽しみだぜー!」
『わもきち』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)の声に『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が頷いた。
「私も料理人及び食通として、食材の生産地として名高いゴリョウ・クートン領には一度訪れてみたかった」
「豊穣でも噂に名高きゴリョウさんの領地、私も一度お尋ねしたく思っていました。護衛の付き添いとはいえお尋ねできて嬉しい限りです。こほん、それはさておき、先ずは民に合流しなければなりませんね」
『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は凩のなか天香の縁で得た地図を有難く腕に抱き、親愛なる琥珀を想う。
「住み慣れた土地を離れてでも移り住みたい領地か……。生活に困ってるとかじゃなくて、ただそこで暮らしてみたいだけなんだろ? 凄ぇ話だよな! 飯は美味いって事だし領主のゴリョウさんは少し話しただけで器のデカさが分かるお人だが、それでもこんな話はなかなか無いぜ」
『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)が口笛を鳴らした。
「よく治められた土地には人が集まる。わしの故郷も、見習わねばなりませんの」
『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は使役する蛇を放ちつつ、ゴリョウ殿の施政の秘訣を探ろうと――印象的な瞳で世界を観ている。
「ゴリョウのおっちゃん! あっちに集団がいるぜー!」
ワモンが街道の南を示し、自身は東に走り出した。
「はぐれた子がおるようです」
支佐手は蛇の視界を伝え、自身がワモンの後を追い、残りは集団に合流を急ぐ案を挙げた。
●旅の仲間
風孕む羽ばたきの視野は高い――蒼穹にニルの小鳥が飛ぶ。
「領主様!」
「おぅ! また会ったな爺さん!」
地上では、仲間と民が合流している。
「楽しく安全に進めるよう張り切って護衛させて貰うぜ!」
獅門が豪放磊落に名乗り上げ。
「俺はここに居る全員を領民として受け入れる!」
ゴリョウが鷹揚に宣言すれば、民は大歓声をあげて喜んだ。
「領主様、早速ですが子がはぐれてしまって」
民が告げるのと子どもを背に乗せたワモンと支佐手が現れたのは同時だった。
「迷子を連れて来たぜー!」
「やれやれ。まあ、子供ははしゃぐものですからの」
「佐知!」
「小太郎!」
親が安堵した様子で駆け寄り、我が子を抱きしめて感謝を告げた。
正純が巫女装束姿で人々に礼をすれば、彼女を知る民は畏まって頭を下げた。あの方は星の社の巫女様や――囁く声は、微風の中。
「皆さん、ここからは私達も道中ご一緒させていただきます。護衛を兼ねていますので、魔物等出ましたらあまり無理をなさらずに隠れていてくださいね」
「夜盗も狼もわしらがパパっと片付けちゃるけえ」
「楽しみな移住、なのですもの。不安にさせる情報は、ないしょにしましょう」
正純が地図を手に道を示し、小鳥を使役するニルと蛇を使役する支佐手が情報を仲間だけに報せ、一行は彼らが選んだ未来に続く道を堅実に穏やかに進み始めた。
ノリアはゴリョウの背に隠れるようになりながら民を慎重に観ていた。
(ゴリョウさんのよさに、お気づきになるかたが、悪人なわけが、ありませんけれど)
――万一に備えるのは、傍に寄りそう体温が大切だから。
「楽しい旅になりそうだ」
ゴリョウが用意したHMKLB-PMが物資を運び、モカと獅門が自身の馬車に民を乗せる。
獅門は荷台に子どもたちや年配者を乗せながら心に誓った。
(希望に満ちたこの道行きが最後まで良いものになるよう頑張らないとな)
●陽だまりの道
獅門は向かう領地の話に花を咲かせていた。
「まあ領主様がそこにいるんだけど、ほら、あれだよ」
獄相獄色鬼血の同胞は荷台で理解の色を浮かべ頷いている。
「外から見たクートン領の魅力ってえの?」
「撃劍殿、実は我らも伝聞でしか知らぬのですが祭りで食った魚は実に美味でしたぞ」
「俺を撃劍と呼ぶのか」
「呪具を巡る武勇伝は民にも知られておりますゆえ」
ニルの小鳥が空をのびのびと飛んでいる。
「無理はなさらないでくださいね」
「疲れてはいらっしゃいませんか」
正純とモカが優しく民に語り掛けていた。
「みなでゆるりと参りましょう」
「あの花の花言葉をご存じですか?」
温かな声に応える声が幾つもあがって会話が弾む。自然と足取りも軽やかになり、和やかな雰囲気が創られた。
温かな眼差しと誠実な言の葉は、飾らぬ真心をありありと伝える。偽ることなく自己を主張しすぎることもなく、思いやりを持って相手を見て寄り添う心に触れ、数人の若者がモカと正純に初々しい恋心を抱いた様子で頬を染めていた。
支佐手は楽し気な会話を聞きながら、燥ぎ過ぎて熱を出した小太郎を荷台に乗せ、額に手を当てた。
「これに懲りたら、しばらく大人しゅうしときんさいよ」
小さな手が支佐手の指をつまみ、その目が猫のように細くなる。
「手、ひんやりしてる」
気持ちいい、と呟いて小太郎は嬉しそうに笑った。
(ゴリョウさん領で、皆様が、大切にされることをおつたえしたいですの)
ノリアはひとりひとりを見つめて名前を呼ぶ。
(皆さまは、かけがえのないひとりですの)
大切に名を呼ばれ、喜びを頂いた民はみなノリアの名を宝のように口にして笑顔で厚意を返した。
(厚意を贈れば、返ってくるんですの)
その温かさにノリアは春花めいた微笑みを咲かせてしっぽを揺らした。
その近くで、空から小鳥が舞い降りてニルの肩にとまる。子どもが寄ってきて、長閑な時間が訪れた。
「あざらしの兄ちゃん、すごく速いんだよ」
佐知がワモンの武勇伝を語るから、ニルはワモンを招いて抱っこした。ぬくぬく、ぽかぽか。ワモンはサービス精神旺盛で、佐知は大喜び。
「領主様のおはなしも、ききたい!」
ノリアは領主の話をせがまれてゴリョウの話に花を咲かせる。
「ゴリョウさんのおなかはふっくら、ふくよかですの」
――それから何より、懐のふかさ。
「とってもおやさしい、わたしの大事な方ですの」
愛情たっぷりに大切な言葉に、日差しが温かさを増したようだった。
●夕映え狼、吠える時
天頂が暗さを増し、遠き山際も茜に染まる頃。
日と月が交代する火点し頃。
一行は野営の支度に追われていた。
「ふう、こんなもんじゃろうか。火ィ、焚けましたよ」
薪を集めた支佐手が手際よく火を焚いて回ると、野営地が橙色の朧光に抱かれる。
揺らめく焔は火の粉を纏い、人々を暖色光で照らし上げ、あたためた。
ちらちら降る白い雪。凍える気配もなんのその、焚火を囲む民の表情はみな明るい。
「冷え性だから助かるわ」
「あったかぁい!」
民の笑顔に支佐手は溌剌と頷いた。
「これで暖まって行って下さい」
支佐手がそっと仲間を集め、狼の接近を囁いた。察知距離に至ればワモンもやんちゃな瞳に父譲りの鋭い光を宿して仲間に警告を発した。
「包囲しようとしてるぜ!」
「誘い込みますの」
ぴょこ、ひょこ。ノリアがしっぽを囮にする。
つるんとしたゼラチン質の尾は奇麗で、美味しそうだ。
(おらが守るだ)
正純に懸想する青年が前に出ようとするが、正純はやんわりと押しとどめた。間近で瞬く星詠の瞳は、慈愛に満ちて聖母のよう。
「危険です。下がってください」
――私がお守りしますゆえ、ご安心くださいますよう。
声は揺籃めいて穏やかで、星の息吹よりもあえか。背に守られし青年は真っ赤になって凛然とした覡姿に見惚れた。
「ニルもたたかうの?」
友達になった子らを背に庇い、ニルはえいっとラースゴブレットを氷の魔力で浸した。
「ちかくに来たら、お見舞いするのです」
「ニル、気を付けて」
「ニルは怪我してもすぐに治るので大丈夫!」
「ニルがんばえー!」
「はい!」
ニルが背中に感じるのは、おもいでを共有するあたたかな温度。ニルをともだちと呼ぶみんなのひかり。
氷魔の煌めく夜景にマフラーを抱きしめるようにして、ニルは優しいソプラノを響かせる――癒しのキャロルを。
「大事なうちの領民候補らに手は出させねぇ!」
鋭く刺さる眼光で肉厚の体で民とノリアの盾として立ち塞がるゴリョウの頼もしく力強く響く声は民に威厳を感じさせる。その拳とノリアの水の棘が狼を撃退すれば歓声が沸き、勇姿に感化された血気盛んな若者は武器を取り拳を固め、領主様に続けと声をかけあって狼退治に加わった。
「領主様と奥方に続けぇ!」
「――はは!」
口の端あげ、ざり、と土を擦り。腰だめに大太刀を抜き振るうのは獅門。長大な刀は篝火の光にぎらりと煌めき迫力に満ち、振るえば地上に怜月が遊びて夜気を切り取り死線を戯れに描くよう――豪と風唸る鋼閃奔るたび、黄泉が斬月の狭間に手招きして散華の手応えを返す。
ザンッ!
上段に刀を振り下ろし敵の肉を二つに分かち。苛烈に踏み込み足元を払うように新手を蹴散らし。下から切り上げ肘を引き、乱暴に突く。敵に刀を刺したまま回転を加え後続にぶつけて夜襲劇に朱色の幕を引く――、
それは、竜をも破る闘志の粋。
それは、武を極めんとする向こう見ずな一振り。
刃紋月光に緋を捧ぐ、紫電は荒ぶ獅鬼より猛し――竜驤獅鬼の破竜刀!
「うなるぜー、オイラのガトリングがうなりをあげるぜー! リコシェットフルバースト!」
竜が気炎巻き唸り声をあげるような音を響かせているのはワモンのガトリング。
やる気まんまんに首を振るワモンは、無数の弾丸を乱れ撃つ。耳を劈く発砲音に混ざってダダダダ「ほら見て!」ズガガガガッ「ああやって助けてくれたの」佐知が武勇伝を語っている!
あれよという間に戦いの音が止み、あとには食材の山が築かれていた。
「うっし、片付いたな!」
ゴリョウがニカッと笑い、食材を選ぶ。
「折角だし、うちの領の最大の魅力でもある料理を楽しんでもらわねぇとな!」
「手伝うよ」
「ニルもおてつだい、いっぱいいっぱいがんばります!」
ゴリョウとモカが手際よく料理を始めれば、手伝いを申し出る者が何人も立ち上がる。戦いの始末をする者と料理班が忙しく動き出し、夜空では星が存在感を増していく。
●おいしいとたのしい
全員が集う夕飯時。みなが一斉に唱和する。
「「いただきまーす!」」
椀が傾き、啜る音に続いて笑みが咲き。
箸が進めば、幸せが増し増して。
舌鼓に味語り、言の葉と笑顔が食卓に溢れて。
口にしたものを識別情報として捉える身であるニルは、おいしいと笑む。
みんなで囲む楽しい食卓がニルにとっての「おいしい」だから。
「とってもおいしいのです」
ニルはにっこり、おいしい幸せをかみしめた。
モカはマグに注いだお茶を配っていた。
「わあ、好い香り」
「果実が一切れ浮かんではる」
民がマグを両手で持ち、湯気の中笑顔を見せた。
「あったかぁ」
「美味しい!」
モカが笑顔に囲まれ、「ハーブティーだよ」と優しい声で効能を語れば年少の子が宝物を貰ったみたいな顔でマグを見た。
「鎮痛作用、疲労回復、リラックス効果――」
「ねえちゃんのお茶、すごいんだねえ!」
「冷めないうちにどうぞ」
飲み頃の熱さで揺れる茶は、全身をぽかぽかにしてくれる。星を近しく見晴るかす正純は星鎖痕の痛みを表に出すことなく、モカに貰ったマグでグローブに覆われた手を温めるようにして箸を進めて、気丈に笑顔を湛えていた。
「美味い飯を食って幸せな気分だが、油断せずに頑張るぜ!」
獅門が食後の運動とばかりに太刀を振れば、血気盛んな若者が集い木刀や枝を振り始め――いつしか模擬戦大会が始まっていた。
「勝負だ!」
「ぶはははッ!」
賑やかに夜が更けていく。
●秘密の夜
おやすみの挨拶が交わされる時間を迎えると、ゴリョウはHMKLB-PMを労いにいった。体を拭いて毛布をかけてやれば、老婆めいた喜びの声が返される。ノリアは一緒になってその頭を撫でて「また明日ですの」と囁いた。
焚火にあたる夜の守り人達の影法師がゆらめいた。
「私は眠らなくても平気なんだ」
「ニルも寝なくてもへっちゃらです」
モカとニルが不寝番に名乗り出て、獅門は感心しつつ「俺も手伝うぜ」と手を挙げた。
「なら、手分けして見回りをしよう」
「応」
「はい!」
獅門は寝息静かな民と仲間を見て回り、寝相が悪い者には毛布をかけなおしてやった。ニルがそーっとそーっと焚火に木をくべている。
「火傷しないようにな?」
「はい、ニルは気を付けます」
小声に囁きを返して、笑み交わす。
「燥ぎすぎて皆を起こさないようにな」
微笑ましく見守るモカは足音静かに見回りをするうち、闇を見通し遠き茂みに蠢く幾つかの気配に気付く。
(仲間を呼ぶほどではないな)
豊富な実戦経験に裏付けされた的確な判断と共に疾く駆けて間合いを詰めるモカ。その眼に映る敵は夜盗のようだった。迎え撃とうと敵が剣を抜き――その体が前触れなく崩れ落ちる。暗闇から現れ火明の剣で不可視の惑乱を撒くのは。
「支佐手さん。潜んでいたのか」
モカが名を呼び敵に流星めいた一撃を加えて意識を奪えば。
「いやあ、蛇の目に視えたけえ。できらば味方に報せる心積もりじゃったんですが」
報せるより先にモカが来たのだと告げる支佐手。脚撃で敵を倒しながら、モカは(気づかなかったら一人で倒していたのでは)という疑念を胸の内に仕舞った。敵の刃がその腕を狙い――虚空を斬る。
「それは残像だ」
「!」
モカの脚撃を受けて体勢を崩した夜盗に間髪入れず連続の蹴突が見舞われ、実力差を痛感しながら敵は悉く地に沈んだのだった。
●明け渡る道
「おはようさん」
「ふわ~ぁ」
夜にあった出来事を知らぬ皆が、朝になって起き出して眠気混じりの挨拶を交わしている。ゴリョウとモカは手早く朝食を拵え、子どもに抱っこされていたワモンがぺちぺちと「朝飯だ!」「まだねむいぃ」「起きろぉ」頑張っている。
朝食を済ませば、荷物を積んで再び歩き出す時。
「さあ皆さんあと一息です」
正純が暁光の中で民を励ましている。
馬車に老人や子どもが乗りこみ、HMKLB-PMが馬車を曳く。昨日と似た風景。けれどニルは、今日が昨日に続く道の上にあるのだとわかっている。
だから、銀の瞳は陽だまりの中かがやいて今日も小鳥の世界を視る。
その先に続く明日のために。
「おっちゃん、領土ついたらとびっきりうめー料理ごちそうしてくれな! 楽しみにしてるぜー!」
ワモンは元気な子ども達に群がられ、乗っかられたり担がれたりしていた。ゴリョウはノリアを肩に乗せ、おおらかに頷き笑い声を響かせる。
「おぅ!!」
●そして、彼らは辿り着いた。
空からはまるで祝福の花吹雪のように雪交じりの雨雫が降っていた。
「ここが、ゴリョウ・クートン領」
誰かが呟く。
それは、短いようで長いこの旅の終わりを告げる声だった。
「領主様~!」
出迎えの民が手を振り旗を振る。
「ぶはははッ、紹介するぜ、ここが俺の領だ!」
「ニルも観光したいです!」
「おぅ! みんなで観光だ!」
ゴリョウが領を案内し、歓待の宴に招いた。モカは食材を買い付け馬車に積載し。
「次は私の店にもぜひ立ち寄ってくれ。皆の来店を待っている」
この食材でもてなそうと言って微笑んだ。
「今日は祭りだ!」
祝宴の始まり。
民と、依頼を完遂した仲間たちと。
領の生産品をしこたま使った料理と酒を振舞う領主が音頭を取る。
「今回はありがとうな皆の衆! 折角だし観光もして、たっぷり土産も持っていきな!」
「おら、弱いけんどもっと強くなる。そしたら」
正純の前に青年がやってきて懸命な目を向けてくる。正純はその心には気づかず、優しい笑みの花を咲かせて別れを告げる。
「生まれた土地を捨てて新天地へというのは勇気がいる事です。ゆずるさんはもう十分、勇敢だと私は思います」
「……名を」
……ご存じで?
――覚えてくださって?
ゆずるは驚き、目頭を熱くした。
短い旅を終え新天地に辿り着いた民は満面の笑みを浮かべて宴を楽しんでいた。その中には、元気になった小太郎の姿もある。
「無事にたどり着けて何よりです。ここで幸せに暮らせることを祈っちょります」
支佐手は波の立たない深海めいた瞳で光あふるる民と世界を見つめ、祝杯を掲げた。
――シャイネン・ナハトを迎える、この個性豊かで自由なる混沌に。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
メリー・シャイネン・ナハト!
依頼お疲れ様でした。民は無事まもられ、ゴリョウ・クートン領の領民となりました。
PBWの主役はひとりひとりのPCです。プレイをきっかけに、あなたのPCと関わった民が想いを変えたり行動を変えたり。世界があなたの発想や行動により動いていく感覚は他では得難い楽しさだと思います。
MVPは、道標となったあなたに。
GMコメント
こんにちは、透明空気です。
今回のシナリオは、先日成功した依頼『五穀豊穣、縁定の夜に』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6897)から派生した特殊シナリオです。
ゴリョウ・クートン(p3p002081)さんの領地『ゴリョウ・クートン領』(https://rev1.reversion.jp/territory/detail/p3p002081)の領民になりたい! という民の皆さんが領地目指して旅しています。合流して助けてあげてください。
●成功条件
民を『ゴリョウ・クートン領』に送り届けること
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●詳細
民は現在徒歩で旅をしています
街道添いにのんびりペースで歩いているので、すぐに合流できるでしょう
●トラブルを防いだり、解決したりしてあげよう!
旅にトラブルはつきものですね。
道に迷ったり、途中で体調を崩したり、狼に襲われたり、子鬼に襲われたり。大変! ごはんがない! なんてこともあるかもしれません。
「ヘイ爺さん、俺の馬に乗りなよ」みたいなのも素敵ですね。
「こんなことしたらいいんじゃないか」と思いついたら、どうぞプレイングに書いてみてください。
以上です。
よろしくお願いします!
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