PandoraPartyProject

シナリオ詳細

聖なる夜に届かない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ささささささ寒いぃぃ……」 
 と、もさもさの髪の修道女が言う。これでもかと着込んだ防寒着の上からもわかる、些か油断しきった身体。もさもさの黒髪はロクに手入れもされておらず、クマの浮かぶ眼はまん丸に見開いていて、目の前の雪原を映す。
 ずるり、と肩にかけたロープを引っ張る。そのロープは背後のそりにつながっていて、そこには大量の――小さなおもちゃが乗っている。
「むむむむむ無理よ無理よ無理よこれぇ……な、なんでわたしが、ここ、こんな事……」
 ぼそ、と声をあげる修道女。その名を、サイア・ネーという。天義のセテマイという名の教会に属する修道女である彼女は、上司にあたる修道院長の命令の下、こうして雪原で一人、『おもちゃ』を運んでいた。
 何でこんなことをしているのかと言えば――端的に言えば、日頃の生活態度が悪かったが故の罰である。

「シスター、サイア!」
 セテマイ教会併設の修道院。修道院長の女性が声を張り上げる。同時、ドン、と扉を開くと、そこは修道女たちの私室である。本来は4人部屋であったけれど、実質的にサイアが一人で占拠していた。別にサイアが同室の修道女を意図的に追い出したわけではない。サイアの生活環境についていけなくて、別の部屋に逃げていったのが正しい。
 そういう訳もあったから、部屋の中は大変、恐ろしい事になっていた。サイアは元々死霊魔術を嗜む魔女であって、霊魂の扱いとか、そう言うのに興味とやすらぎを抱くタイプの人だった。そんなのが、趣味の道具を、部屋のあちこちに散乱させているものだから、室内はもう、魔女の工房めいている。
「ひいっ!? ハーネイル院長!?」
 サイアが枕を被って布団にもぐりこんだ。布団の上に転がっていた悪魔っぽいヤギのぬいぐるみが落ちる。
「あなたはいつもいつもいつも! もうここに来てから半年近くになるというのに! やめなさい! そういう趣味を!」
 ぐい、と枕を引っ張る院長! サイアは抵抗した!
「ひ、ひいっ! むむ、むりよ、無理! ままま、周りに霊魂がいないと死んじゃう!」
「死にませんよ! いないのが普通です! セテマイの墓地で悪さをしたあなたを引き取って半年! 反省しますというので許してみれば、あなたって人は全くもう! 部屋で魔術は使うし、朝礼には寝坊するし! どこが! 反省して! いるのですかっ!」
 ばふ、と音を立てて、院長は枕を引っ張り上げた。サイアが涙目であわあわと両手を振る。
「そんなあなたにお務めです」
「えっ」
 院長がこほん、と咳払い。
「あなたの生活態度があまりにもひどいので、これは罰も兼ねています」
「えっ」
 サイアが泣きそうな顔をした。院長は無視する。
「シャイネンナハトが近づいているのは知っていますね? そして、セテマイ教会では、子供達のためにプレゼントを配る会があるのも」
「は、はい。わ、わたしも魔女だったころには、良く参加してました」
「あら、そうなのですか?」
「は、はい、ふひひ、し、幸せそうな家族の子供が貰って来たプレゼントを、魔術でカエルに変えたり……楽しかった……」
「あの事件もあなたでしたか」
 はぁ、と頭を抱える院長。
「ならばなおさら、このお務めはあなたがやらなければなりません。
 北の街でプレゼントのおもちゃを生産しているのですが、これを取りに行かねばなりません。
 普段はみんなでとりに行くのですが……今年はあなた一人に行ってもらいましょう」
「えっ」
「えっ、じゃありません! 本当に反省する気持ちがあるのでしたら、一人で行って一人で帰って来ること!
 道具のそりなどは用意しますから、あとはよろしくお願いしますね!」

 ――という事である。そんなわけだから、サイアは一人でそりを引き、泣きべそをかきながら雪上を移動しているわけなのだが……それを見つめる、いくつかの瞳があった。『あなた達』だ。
 サイアが出発する当日。あなた達ローレットのイレギュラーズは、ハーネイル院長に依頼という事で呼び出されていた。
「……サイアの監視と、護衛をお願いします」
 と、あなた達に、院長は言うのである。
「あの子、根は悪くない子だと思うので、途中でお務めを投げ出すようなことはしないとは思います」
 たぶん……きっと……と、徐々に自信なさげに小声になっていたがさておいて。
「それよりも、念のため、彼女を護ってやってほしいのです。ここは比較的安全なルートですが、昨今は様々な異変が起きているのでしょう? でしたら、彼女一人というのも、些か不安です」
 つまるところ、サイアに見つからない様に護衛してやれ、という事らしい。あくまでこれは罰。目に見えて護衛などをつけたら、サイアはあっさりこっちに頼ってくるだろう。ダメな子なので。それは避けたい。
「という事で、ご迷惑をおかけしますが……なにとぞ、よろしくお願いします」
 と、院長はあなた達に頭を下げるのであった。
 そして、北の街にてプレゼンをと受け取り、大量のそれをそりにのせてずり刷り引っ張って帰る帰り道。サイアは泣きながら文句と泣き言を言っていたが、それでも逃げ出さなかったのは、院長の言う通り、芯のところではまじめだったという事なのだろう。
 あと半日も歩けば、街につく――が。そこで、予期せぬ事態が起きた。
 雪が、ぶわり、と、待った。小さな風に思われたそれは、一瞬のうちに強烈な吹雪のように吹き荒れ、その中から三つの、巨大な人影のようなものが姿話負わしたのである。
「ひ、せ、精霊かしらっ!?」
 サイアが声をあげる。確かに、精霊だろう……だが、腐っても魔女の端くれ、それが『ただの精霊ではない』ことを、サイアは一瞬で察知した。
「ま、まさか、アロンゲノムってやつ!?」
 アロンゲノム――動物や自然現象版の反転現象とでもいうべき存在だ。その世界の敵とでもいうべき怪物が、今突如、サイアの目の前に現れたのだ!
 そして、それはもちろん、あなた達ローレット・イレギュラーズたちの目の前に現れた、という事でもある。
 アロンゲノムは世界の敵――すなわち、ローレット・イレギュラーズたちの敵だ! それに、今回の依頼はサイアの護衛。彼女を助け出さなければならない!
 あなた達は意を決すると、隠れていた場所から飛び出した。さぁ、アロンゲノム・スピリッツを倒すのだ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 アロンゲノム・スピリッツを倒しましょう!

●成功条件
 修道女サイアが生存している状態で、すべてのアロンゲノム・スピリッツを撃破する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●状況
 日頃の生活態度を罰せられ、一人で務めを果たすことになった修道女サイア・ネー。
 彼女は一人、雪原で子供たちに贈るシャイネン・ナハトのプレゼントを運ぶ途中、運悪くアロンゲノムと化した精霊たちに襲われてしまいます。
 あなた達イレギュラーズは、サイアを監視・護衛するために、サイアに見つからないように後をつけていたため、ちょうど現場に居合わせています。
 元々、サイアの護衛は、皆さんのお仕事。それに、世界の敵であるアロンゲノムの討伐は、ローレットの使命でもあります。
 皆さんは今すぐ飛び出し、このアロンゲノム・スピリッツたちを討伐してください!
 作戦決行時刻は昼。ですが、雪が降っているため辺りは薄暗く、また視界もあまりよくありません。
 足元は雪が積もっており、少し動きづらいかもしれません。

●エネミーデータ
 アロンゲノム・スピリッツ ×3
 巨大な雪の精霊がアロンゲノム化しました。
 三体はぞれぞれHP、神秘攻撃力が高く、雪や吹雪などを利用した攻撃を行ってきます。
 氷の刃は『出血系列』を、凍てつく吹雪は『凍結系列』を、それぞれ付与してくるでしょう。
 精霊は頭はあまりよくなく、連携などはしてこないようです。個別に引き離して倒してやればいいと思います。

●味方・護衛対象NPC
 サイア・ネー
 元死霊術士の魔女。今は修道女となっています。
 ですが、未だに死霊魔術は扱えるようで、霊魂を利用して炎を撃ちだしたりする神秘攻撃を得意とします。
 とはいえ、流石にアロンゲノム相手には少々力不足。
 援護攻撃を行わせる程度に任せ、基本的には守るようにしましょう。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 聖なる夜に届かない完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
鳥籠の画家
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ゼファー(p3p007625)
雪風
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
plastic
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
霊魂使い
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
ヤドリギの矢
エア(p3p010085)
特異運命座標
志岐ヶ島 吉ノ(p3p010152)
風雅なる冒険者

リプレイ

●雪下の戦い
 ぐわり、とあたりの景色を覆うように、雪が吹き荒れる。その中に三つの、何か不規則な影がゆらゆらと揺れる。それは人型をとっていたが、大元は、雪の精霊か何かだったのだろうが、アロンゲノムと化してしまったものだ。
「ひっ」
 と、サイアがか細い悲鳴をあげた。
「ど、どどどど、どうしたら……!」
 ここにきて荷物を捨てて逃げ出さなかったあたり、修道院長の言った「根は真面目だ」という評価は間違ってはいなかったのだろう。サイアは覚悟を決めた。
「こ、ここ、この荷物は渡さないわ! これ捨てて逃げたら、間違いなく、ほんとに追い出されちゃうのよぉ!」
 ……真面目だったのか、自分に退路がない事を察していたのかはさておいて。とはいえ、そんなことはアロンゲノムたちの知った事ではないだろう。
「その覚悟は見届けた」
 声が響いた。同時、鞭のような剣が振るわれ、その節の一つ一つが、嘆きのような声をあげる。それは、志半ばに散った、英霊の嘆きの声だと、サイアは気づいた。その声と共に振るわれた蛇腹剣が、アロンゲノムを切り裂く! ばぁっ、とその身体を構成する雪が解けるように切り裂かれ、ダメージを受けたアロンゲノムがたたらを踏むようにその身体の動きを止めた。
「あ、え? え?」
 サイアが困惑の声をあげる。気づけば、サイアをの目の前には、八つの人影が立っていた。先ほどの蛇腹剣の主――『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はゆっくりと頷くと、
「下がっていてくれ。俺にはよくわからない、が。その荷物が大切なものなら、後ろで守っていてほしい」
「俺たちは……ローレットのイレギュラーズだ」
 『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)が言った。
「依頼の帰りでね。たまたま、傍を通っていたら……アロンゲノムの気配を感じた」
 という事にしておこう、と、ミヅハは胸中で呟いた。もともと、隠れて動向を見守る仕事だ。ここでそれをばらすのもよくないだろう。
「これの排除は俺達の仕事だ。アーマデルの言う通り、アンタは後ろに下がってな。ゼファー! 前に出て抑えるぞ!」
「ええ、了解ですとも!」
 『律の風』ゼファー(p3p007625)は頷き、駆けだす。ざざ、と走るたびに、足元の雪が舞う。
「そらっ! こっちよバカ精霊ども!」
 手にした槍を振るい、アロンゲノムへと上段から斬りつける。鮮血のように、アロンゲノムを構成する雪が散り、それを補うようにあたりの雪を取り込んで傷を修復するのが、ゼファーには見えた。とはいえ、手ごたえはある。
「直してるように見えるけれど、見た目だけよ!」
「了解だぜ! なら、脚を止めてやる! 停滞(ステイシス)のうちに沈め!」
 ミヅハがイチイバルの弦を指ではじいた。その音が衝撃波のようにあたりに伝播し、アロンゲノムたちの身体を芯から振るわせる。ステイシスの呪術。
 自らの身体を蝕む呪式に苦悶の声をあげるように、アロンゲノムのうち一体が、その拳を振り上げた。巨大な鉄拳となって、それが振り下ろされる――が、そんな攻撃は、『風雅なる冒険者』志岐ヶ島 吉ノ(p3p010152)にとっては、児戯に過ぎない。
 手にした刃を構え、最小限の動きで、その巨岩が降り落ちるような一撃をそらして見せる。吉ノはそれが地に落着し、雪の粉末を巻き上げるのを見届けもせず、そのまま武器を振り上げた。反撃の型。
「その程度の攻撃が、私の身体を捉えられると思うな!」
 振り上げた刃が、人であれば頸動脈の位置を容赦なく削り飛ばした。しかし相手は人ならざる者。致命打とはならない。
「成程。やはり物の怪の類、一筋縄ではいかない様だが……それでも!」
 横なぎに振るわれた拳を、吉ノは身軽に跳躍して、飛び越えて見せた。そのまま体勢を崩したアロンゲノムへ、上段から武器を叩きつける。
「私達を、獲れるとは思うなよ?」
 獰猛に笑う吉ノ。一方、目の前で繰り広げられた戦いを観ながら、サイアはあわあわと慌てた様子を見せた。以前、彼らとは別のイレギュラーズ達と戦ったサイアだが……やはり、イレギュラーズは強い。以前の時は、膨大な負のエネルギーと大量の配下を持ち込んでようやく戦いをできたわけで。
「な、なんでわたし、イレギュラーズに勝てると思ってたのかしら……」
 冷静に考えると、調子に乗っていたのにもほどがある。
「やれやれ、今更反省タイムか?」
 『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が頭に手をやりながら、そう言った。
「ひっ! あ、あれ? あなた、確かセテマイの墓地の時の……?」
「また会ったな、サイア。詳しい話は後だ。危ねぇからこっちに隠れてろ」
 サイアの手を引いたベルナルドが、最前線から離れた位置に、サイアを連れて行く。
「あ、ありがと……」
 こくこくと頷くサイアを確認してから、ベルナルドは声をあげる。
「エア! 頼めるか!?」
 『特異運命座標』エア(p3p010085)が頷いた。
「はい! サイアさんはわたしにまかせてください!」
 エアが祈る様に手を組むと、その身体に風竜の結界が巻き起こる。守るための暴風が巻き起こり、辺りの雪を散らして舞い上がった。
「す、すご……」
 サイアが思わず声をあげるのへ、エアがにっこりと笑った。
「ありがとうございます。でも、わたしも、一人じゃ何もできません。ですから、サイアさんも協力してくださいね。一緒に、この危機を乗り越えましょう!」
 エアの純情可憐なオーラに、思わず陰の者であるサイアは圧された。
「え、ええ、よろしくねぇ……!」
 こくこくと頷くことしかできない陰キャ。さておき、エアはサイアを護るように立ちながら、回復術式を編み出す。すぐにでも仲間を援護できるようにする形だ。そうしながら、エアはサイアに語り掛けた。
「お荷物、大切なものなんですか? 見た限りだと、おもちゃのように見えますが……?」
「へ? あ、え、ええ! その、お仕事で。シャイネンナハトに、子供たちに配るおもちゃを、その」
「まぁ、素敵ですね! きっとみんな、喜んでくれると思います」
「うっ、まぶしい」
 きらきらと輝く純情可憐なエアの笑顔に、陰キャは圧された。とはいえ、そうやって肯定してもらえるのは、陰キャにとっても嬉しい。
「頑張りましょうね。子供たちのためにも、無事に帰りましょう!」
「は、はいぃぃ!」
(相変わらずみたいだな。ありゃ婚活もうまくいってないな……?)
 そんな様子を見ながら、ベルナルドが嘆息する。まぁ、婚活がうまくいっていたら、修道院に引きこもってなど居ないだろうが。
(とはいえ……ま、真面目にやってるなら、手伝ってやらないとな)
 胸中でそう呟きつつ、ベルナルドが意志の力を具現化させ、神秘の弾丸を生み出した。
「いけっ!」
 言葉と共に放たれた意志の弾丸が、アロンゲノムの頭を撃ち抜く。その衝撃にアロンゲノムが体勢を崩し――刹那、無数の銀の刃が、その頭部を細切れに切り裂いた! 『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)銀月の刃が、まさにその名のごとく、銀色の月のように雪夜の城の世界に輝いた。天使が降臨するように、無数の城の雪を纏って、アッシュが刃と共にアロンゲノムの眼前へと降り立つ。
 アロンゲノムは頭部を潰されてなおその拳を振り上げた。アッシュが手をかざすと、銀月の刃がその手を滑る様に現出し、アロンゲノムの拳を無数に斬りつける。ざざざっ、と雪を刃が切り裂くような音が響いて、アロンゲノムの手が細切れへと変貌する! 週の雪を用いた回復も間に合わぬほどの、怒涛の斬撃!
「ハンナさん」
 アッシュが静かに告げるのへ、『武の幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)は地を滑る様に飛びながら、その手にしたガンエッジのトリガを引いた。ガゥン、と吠えるように魔力が吐き出され、その刀身に赤く燃え盛る焔が巻き起こる!
「はいっ! 雪の精霊なら、炎に溶けて消えなさい!」
 ハンナの刃が、頭部と片腕をフッ飛ばされた切り裂いた! 舞うように、刃を引き抜いて艶転、花のように裂く刃、炎、それがアロンゲノムの雪の身体を、水へ、そして蒸気へと焼き裂いていく! 果たして、シャン、とハンナがその剣舞を終えたころには、炎の熱気があたりの雪も溶かし、ほのかな蒸気があたりを包むのみとなっていた。
 しゅっ、とハンナが刃を振るう。同時にトリガを引くと、纏っていた焔はさらに燃え上がる。
「まずは一体です!」
 ハンナの言葉に、アッシュが頷く。
「ええ。ゼファーさん達に加勢しましょう」
 アッシュの言葉に応じて、二人は走り出した。眼前には、残る二体のアロンゲノムと激しい戦いを繰り広げる仲間達の姿がある。うち一体、ゼファーがひきつけていたそれが、ゼファーに対して、轟、吠え声をあげた。あたりの雪が瞬時に凍り付き、ダイヤモンドダストのナイフと化し、ゼファーへと迫る!
「痛たっ! 女性の肌を傷つけるのはいただけないわね!」
 回避困難な無数の刃も、しかしゼファーの回避能力と防御技術を駆使すれば、致命打には程遠い。くるり、と槍を振りかざせば、無数の刃はゼファーの肌をわずかに傷つける程度のものしか残らない。
「ゼファーさん、いったん下がって治療を」
 アッシュが声をあげ、その手を掲げる。掌に凝縮された魔力が巻き起こり、強烈な閃光熱波となって解き放たれる! 轟! 巻き起こる熱が、アロンゲノムを飲み込む! 衝撃に、アロンゲノムは踏みとどまる――そこへ飛び込んだのが、ハンナだ。焔纏いし刃、その斬撃が、閃光に足を止めたアロンゲノムを切り裂く! じゅう、と雪が蒸気へと変わる!
「こちらで抑えます!」
「ありがと、少しだけお願い!」
 ゼファーがお礼の言葉を一つ、僅かに後方に飛びずさる。同時、その身に降り注ぐは、治癒の光。エアの放った、治癒符がゼファーの直前で光と変わり、その癒しの光でゼファーの傷を、少しずつ癒していった。
「大丈夫ですか? すぐに治しますね」
 エアの言葉に、ゼファーはウィンク一つ。
「ありがと、百人力よ。サイアと玩具の方は、引き続きお願いね?」
「はい!」
 ゼファーは飛ぶように、雪の上を疾走した。前方では、焔の剣と破壊の閃光が舞い散り、アッシュとハンナが戦いを続けているのが分かる。ゼファーはぐっ、と手にした槍を握ると、跳躍!
「お待たせ! それでこれが、トドメ!」
「わかりました!」
 言葉に頷き、ハンナが焔の剣で斬撃を、アロンゲノムに叩き込んだ。ざぁっ、と雪が融け、わずかに身体を小さくしたアロンゲノム。それを見届けたハンナが飛びずさり、入れ替わる様に飛び込んできたゼファーが、槍を上段から一閃! その衝撃に足元の樹も舞い上がり、その残雪に溶けて、真っ二つになったアロンゲノムの身体は宙へととけて消えていった――。
 一方、もう一体、最後のアロンゲノムとイレギュラーズ達の戦いも、佳境へと向かっている。アロンゲノムは、その手に冷気をまとわりつかせると、巨大な氷の剣を生み出した。横なぎに振るわれるそれが、氷の衝撃波とでもいうべきエネルギーを生み、飛ぶ斬撃がイレギュラーズ達を襲う。
「ふっ――」
 呼気を鋭く吐き出しながら、吉ノはそれを、正面から己の武器で以って受け止める。衝撃が身体を駆け抜け、僅かに手を凍り付かせたかのように鈍らせる。だが、如何に強烈な位置で気が意識を刈り取ろうとも、その攻撃はイレギュラーズ達の命までには届かない!
「これしきの寒さ、我が身、我が仲間に効くと思うな!」
 吉ノが吠える。同時、飛び込んだアーマデルが、鋭く蛇腹剣を振るう。奏でられる節からの声、英霊の嘆きの声が、あたりをかける暴雪の声にも負けぬほどに、雪月下に響く。英霊の声はアロンゲノムにまとわりつき、その魔力で体を構成する雪を溶かした。
「あまり時間をかけたくはない。このまま押しきろう」
 アーマデルが、再度蛇腹剣を振り払う! 節が奏でる声、英霊の声が再びアロンゲノムを包み込んだ! そうして足を止めたところに、神聖なる裁きの光が降り注ぐ! ベルナルドの放つ聖なる光だ!
「Okだ。抑えるぞ! アーマデル!」
 アーマデルの奏でる声、そしてベルナルドの聖光が、アロンゲノムを撃つ! 二つのプレッシャーに、気圧されたアロンゲノムが悲鳴のように身をよじる!
「よし、とどめを決めてくれ、ミヅハ、吉ノ!」
「承知!」
 吉ノが妖刀を抜き放った。アロンゲノムが反応し、震える拳を振り下ろす。一撃を誘う吉ノの動き。吉ノはそれを身をひねって回避すると、振り上げるように妖刀を振りぬいた。斬撃が下方からアロンゲノムの身体を裂いて、
「ミヅハ殿!」
 吉ノの声に応じ、ミヅハはイチイバルを力強く引く。
「俺の矢からは逃げられねーよ、その巨体ならなおさらな!
 穿て! ドッペルグリフ!」
 叫びと共に放たれた矢が、やがて空中で無数の剣へと変貌を遂げた。宙を疾駆する無数の刃は、甲高い歌声をあげながら迫る魔剣の重奏! 魔剣の歌が、アロンゲノムを切り裂いた! 響く、歌。伝う、歌。それがすっかりと歌いあげられた後には、もはや何も残ることなく、まるでそれが当然であるかのように、静かな雪原が残るのみであった――。

●そして、聖なる夜へ向かって
「荷物は無事か? こっちのほうに被害は出ないように気をつけたけど……大丈夫そうか。あとサイアも無事だな。
 で、えーと、こんなとこで何してんだ? 事情を教えてくれないか?」
 ミヅハの言葉に、サイアは訥々と事情を語り始める。
「なるほど、初めてのお使い、でしたか」
 アッシュがふむ、と頷いて見せた。
 もちろん、イレギュラーズ達は事情などは知っているのだが、あくまで知らない風を通す。それも依頼であるのだ。
「はじめてのお使いというものは、往々にして無茶ぶりを振られるものなのです。
 わたしもこの間、体験いたしましたので。間違いありません。
 ゆえに、サイアさんに同情を……しようかと思ったのですが……」
 むむ、アッシュは困った顔をする。
「生活態度が良くないとの事。これは少し、厳しくいくべきですね」
「その通りだ」
 む、と吉ノが頷いた。
「これは罰なのだろう? 弱音や愚痴は変わらず聞き流す故、最後まで仕事を全うせよ。
 セテマイの修道委員長の事は存じている。あの院長殿のことだ、暖かい飲み物でも用意して待ってくださっているだろう」
「え、ええ……て、手伝ってもらえると思ったのにぃ……」
 情けない声をあげるサイアを、吉ノはじろり、と睨む。ひえ、とサイアが頭を抱えた。
「サイア殿は魔女……元死霊術士と聞く。魂を導く神職とは、以前とは勝手が違うのだろうな」
 アーマデルが頷く。
「死者の魂を往くべき処へ送るのが役目であり、死者の未練に寄り添うのが守神より賜った宿縁。
 寄り添い、縁の糸を繋ぐほどに、離れ難くなる……死者の霊魂から離れがたいのだろう。俺にも、覚えがある」
「え、も、もしかして、あなたも死霊系の人……?」
「死霊系の人というのは分からないが。だが、その縁は、いずれは絶たねばならないもの。
 これを機に、一歩を踏み出すのもいいのではないだろうか」
「ま、貴女がどんな風に過ごして来たのかは知らないけど。
 ……いや、ある程度は想像ついちゃうけど」
 こほん、とゼファーは咳払い。
「誰かが笑ったり喜んだりしてくれるのって、そう悪い気分にはならないわよ
 少なくとも私は、これ貰って喜ぶがきんちょ共の顔見たらおなか一杯になれそうですけどねぇ」
 と、無事に済んだおもちゃの山へと視線を移す。
「それは……そう、かも」
 サイアが頷いた。悪人というわけではないだろう。ちょっと、ダメな子なだけで。
「そう言えば、アンタ、婚活してたんじゃなかったのか?」
 ベルナルドが首をかしげるのへ、サイアは頷いた。
「え、ええ。あの後、イレギュラーズの人達に合コンとか連れてってもらったんだけど、いまいち成果が無くて。
 で、シスターって、ほら、モテそうじゃない? ちょうど前の事件の償いもあったし、ちょうどいいから修道院に入ろうって」
「アンタなぁ……」
 ベルナルドが頭を抱えた。流石にそんな理由で信仰の道に入る奴はそうはいまい。
「……まぁ、理由はあれでも奉仕活動は良い事だ。ほれ、そりを引け。後ろから押すくらいはしてやるよ」
「え、えーと、一緒に引いてくれたりは」
「甘えるな。終わったら、少しくらい労ってやるから、それ位は自力でやれ」
「そうです! サイアさん、お務めが終わったらわたし達と一緒にパーティーでもしませんか? きっと楽しいですよ」
 エアがそう言うのへ、サイアは目を丸くした。
「ぱ、ぱーてぃ? い、いいの?」
「はい! お務めが終わった打ち上げです。きっと、それ位なら修道院長もゆるしてくれますよ」
「う、うう、ありがと……わたし、頑張る……!」
 サイアが、ぐっ、とそりのロープを引っ張った。ゆっくりと、雪の上を進みだす。
「さぁ、街までもう少しです! 頑張りましょうね、サイアさん!」
 ハンナが明るく、そう言った。
「は、はいぃ……!」
 その言葉に、サイアは頷く。
 遠くには街の明かりが見えていて、イレギュラーズ達の依頼も、サイアの初めてのお使いも、もうすぐ終わろうとしていた。

成否

成功

MVP

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
鳥籠の画家

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 サイアの持ち帰った玩具は、無事にシャイネンナハトの日に、子供たちに配られたそうです。
 その笑顔を見て、サイアも少しは変わった……かも……しれない……変わってると良いですね!

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