PandoraPartyProject

シナリオ詳細

人鳥企鵝。或いは、探索するピングィーン…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雪原を行く少女
 鉄帝。
 とある雪深い草原が此度の舞台だ。
 見渡す限りの白い世界と、吹き荒れる強風。
 数メートル前も見えないほどの真白い世界で、星も見えないとなれば自分が今立っている位置を知る術さえも無いだろう。
 雪原のところどころには、積もった雪で出来た小山が窺える。
 例えば岩や樹木、或いは逃げ遅れた魔物や人が雪山の下に埋もれているのだ。
 そんな真白い世界に1人、背の低い少女が立っていた。
 身に纏うはだぼっとした防寒服。
 足下から頭までしっかりと着込んでいるせいか、少女の外見はどこか“ずんぐり”としたものだ。
 防寒服の全面は白く、両腕から背にかけては黒い。
 それだけしっかりと服を着込んでいるにも関わらず、少女は素足で雪の上を歩いているのだ。
 水かきの付いた黄色い鳥類の足を観るに、彼女はおそらく翼種……それも、雪上での活動を得意とする種だ……なのだろう。
 吹雪の中、体を丸めるようにして雪原の最中に直立している。
 彼女は寒さに強いのだろう。
 そうして、吹雪が収まるのを待っているのだ。

 吹雪が止むと、少女は急いで雪原の上に腹ばいとなる。
 背には荷物が満載された胚嚢を背負い、まっすぐに足を伸ばして姿勢を整えた。
 それから、彼女はヒレのついた両足で雪原を強く蹴りつける。
 瞬間、少女の小さな体はロケットみたいに雪原の上を滑走し始めたではないか。
「うぅん? いない? いない? こっちも違うし、あれも違うっぽい?」
 なんて、どこか呆とした口調で、うわごとのように同じ言葉を繰り返す。
 キョロキョロと左右を見回しては、雪原の各所にある雪の小山を調べているのだ。
「あーしは平気だけど、これだけ寒いと皆は凍えちゃうもんね。急いで見つけてあげないと」
 大切な同胞たちだもんね。
 そんなことを呟いて、少女は雪原を滑走していく。

●探索するピングィーン
「少女の名はピングィーン。雪原に入る前に、近くの街に立ち寄って保存食や油を大量に購入していったそうだ」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、手元の資料へ視線を落とす。
 ふむ、と資料に視線を走らせたショウは、続いて幾つかの情報を舌に乗せた。
「まず、ピングィーンは“雪原で遭難したらしい同胞を捜索しに行く”と言っていたそうだ」
 ピングィーンの同胞は全部で4人。
 中には怪我をしている者や、目を悪くしてしまった者も含まれているとのことだった。
「ピングィーンは、同胞たちを迎えに街へ来たらしい。だが、街に同胞たちが付いていないことを知り、雪原の探索に出かけていった」
 同胞たちとやらが街に辿り着いていない理由が、雪原での遭難だと判断したのだ。
 ピングィーン自身は寒さに強く、雪原での行動にも慣れている。
 しかし、どうやら仲間たちはそうでないらしい。
「ちなみにピングィーンは、街から遠く離れた辺境の地に住んでいるという。何でも一族がバラバラになってしまったらしく、今回のように各地に散った仲間を探して回っていると言っていたそうだ」
 この時期の雪原ほどではないが、辺境は寒く過酷な土地だ。
 そのような土地に隠れて暮らす辺り、ピングィーンの一族は相当な変わり者の集まりか、排他的な文化を持っているかのどちらかだろう。
「よほどに他人が嫌いなようでな。ローレットへ依頼を出す際も、嫌々ながらといった様子だったんだとか……とはいえ、同胞の命には替えられないと、結局は依頼したわけだが」
 その際、ローレットの職員と一悶着あったのだ、と呆れたようにショウは呟く。
 ショウの様子から察するに、喧嘩か何かなのだろう。
「まぁ、良かったよ。この時期、雪原には魔物が出るからな。お前達も【痺れ】や【絶凍】【苦鳴】の対策ぐらいはしていった方がいいかもしれない」
 魔物の名は“フユショウグン”。
 寒い時期、雪原にのみ姿を現す寒波と吹雪の化身のような魔物である。
 外見は、ずんぐりとした人のよう。
 体は雪で出来ており、氷の鎧と武器を身に付けている。
 目がある位置には虚ろな穴が空いていて、フユショウグンを知る者たちはこぞって「あの暗い目に見つめられると体が【麻痺】して動かなくなる」と言ったそうだ。
「フユショウグンは静寂を好む。氷漬けにされたくないなら、声を潜めて進むべきだろう。もっとも、偶然に遭遇してしまう可能性だって十分にあるわけだが」
 そうなっては、交戦を避けることは出来ないだろう。
 雪原の規模から察するに、存在しているフユショウグンは5体ほど。
 つまり今回の依頼は、5体のフユショウグンを回避しながら、雪原で遭難しているらしいピングィーンの同胞たちを救助する、というものになる。
「寒い季節だ。風邪には気を付けた方がいい」
 なんて。
 うんざりとした顔をして、ショウはそう呟いた。
 猫らしく、彼も寒い季節は苦手なのかもしれない。

GMコメント

●ミッション
ピングィーンの同胞4名の発見


●ターゲット
・フユショウグン×5
雪で出来たずんぐりとした体。
氷で出来た鎧と武器。
目の部分には、どこまでも暗い穴が空いている。
そんな外見をした、寒い季節にだけ現れる魔物である。
※雪原の吹雪はフユショウグンが喚んでいるらしい。
※フユショウグンは静寂を好むらしい。
※フユショウグンの外見は、雪だるまに似ているらしい。

眠りの季節:近範に中ダメージ、痺れ、苦鳴
 自身の周辺に猛吹雪を発生させる。

凍える眼差し:神中単に小ダメージ、麻痺
 背筋の凍えるような虚ろな眼差し。

怒れる猛将:物近単に大ダメージ、絶凍
 氷の武器による猛攻撃。


・ピングィーン
小柄な少女。
もこもことした防寒着を着込んでいる。
背中には非常食や油の満載された背嚢。
寒さに強く、雪原での活動に慣れているようだ。
雪原で腹ばいになり、滑るようにして移動する。
一見すると分かりづらいが翼種である。


・ピングィーンの同胞たち×4
雪原で遭難したピングィーンの同胞たち。
合流地点であった街に辿り着く前に、雪原で遭難した模様。
おそらく、現在は雪で出来た小山の中で凍り漬けの状態となっている。


●フィールド
鉄帝。
ある広大な雪原。
この時期は雪が積もっており、定期的に吹雪が発生するため非常に危険。
樹や岩、人、動物に雪が積もることで出来た小山が各所に散見される。
吹雪はフユショウグンによって引き起こされているため、それを討伐すれば発生頻度は下がる。
※吹雪いている間、視界が非常に悪くなり、各種ステータスが低下します。
※仲間から孤立している場合、はぐれてしまう可能性もあります。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 人鳥企鵝。或いは、探索するピングィーン…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月19日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼

リプレイ

●極寒エスケープ
「さっむいわ!!!」
 視界は真白。
 吹き付ける風はまさに極寒。
 ところは鉄帝、とある辺境の雪原。
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の悲鳴が響き渡った。
「みなさーん! 逸れないように付いてきてー! 逸れたら、あっという間に凍死だよー!」
 すぃー、と雪原を腹ばいで滑る小柄な女。
 ペングィーンは飛べない翼種だ。しかし、彼女はその代わりに寒さに強く、氷の浮いた水中でさえ自由自在に飛ぶように泳ぐ。
「なんじゃあこの寒さはぁ……こんなところにおったら直ぐ凍死コースじゃ……寒さに強いと言っても限界はあるじゃろうし、早いとこ見つけてやらんと危ないのう」
 羽織りの前をぴったり閉じて『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)は身を震わせる。その手には縄を握っているが、寒さのせいかそれを掴む手の感覚はすっかりと麻痺してしまっていた。
「ミイラ取りがミイラに、と云うのは割かし珍しい話ではありません……ゆえに、我々も細心の注意を払って臨むべき、かと」
 そう言いながら『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は、清舟の手首に縄を巻き付ける。
 その縄は文字通りの命綱。この極寒の世界において、仲間と逸れてしまうことは、命を失うことと同義だ。
「この寒さはやはり厳しいですか? 自分は、寒さは平気なので捜索に集中出来ますが……むしろ自分にとっては適した環境かもしれませんね」
 ペングィーンや『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)のように、極寒での活動が平気な者も中にはいるが、大半の者にとってはそうではない。
 突風が吹いた拍子に『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)と『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は姿勢を崩して、雪原に倒れた。
 雪の降り積もった足元の不安定さゆえか。
「おぉ、寒い。唇とかすっかり紫色になってねぇか、俺?」
 マスクに着いた雪を払って英司は言った。
 雪に倒れた英司とマリアを助け起こしつつ『死相を砕く』松元 聖霊(p3p008208)は首を傾げる。
「チアノーゼか? 血管が収縮してるんだろうが……マスク被ってちゃ分かんねぇよ」
「そりゃそうだ。っと、無駄口は慎まないとな。ハハ、これが一番苦手だぜ」
 軽口を叩ける辺り、まだ英司には余裕があるらしい。
「ァォーン」
 一方『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)はと言うと、蚊の鳴くようにか細く吠えて、聖霊の背に張り付いた。
「おいっ、ローブを捲るな! 風が入り込んで凍えそうだ!」
「だってボクものすごく迷子フラグが立ってる様な気がする。気のせい?」
 遭難しているペングィーンの仲間は4人。
 これからそれを捜索するというのに、初っ端から不安が増えた。

●寒波を呼ぶフユショウグン
 雪原のところどころにある雪塊。
 木々や何かの生物に、雪が積もって出来たものだ。
「早く見つけてあげましょう! というか早く見つけないと私も凍傷になりそうだわ!!!」
 義足の付け根を摩りながらヴィリスは震えた声で叫んだ。
 ある程度、近くで“助けを求める声”がすれば彼女にはその居場所が分かるのだが、凍り付いて意識が無ければそれも意味を成さない。
「この吹雪で寒さじゃ、分かれたりしたら二次災害になりかねん。纏まって動かにゃならんわな」
 雪塊へと視線を向けた清舟は、ゆっくりと首を横に振る。
 雪塊の中に探しているペングィーンの同胞はいなかったらしい。
「フユショウグンってのもいるんだろ? 見つからないよう、静穏を心がけて動かなきゃならねぇってのも手間だ」
 寒波の原因であるフユショウグンは、雪と氷で出来た魔物だ。
 例えば、視界に映る雪塊のどれかが、それで無いとも限らない。加えて、フユショウグンは静寂を好むとも聞いていた。
 捜索や発掘作業の中で立てる物音が、フユショウグンの機嫌を損ねることもあるだろう。

 1メートルを超える厚みで積もった雪を、清舟では見通すことが出来ない。
「掘り出すのは自分がやります。皆さんは待機を……後々が大変になっていきそうですから」
 そういった大きな雪塊を見つけた際には、雪を削り落とすのが一番速い。
 オリーブは剣を構えて腰を落とすと、吹雪の弱まる一瞬を待ち、それを雪塊へと叩きつけた。凍った雪が砕けて飛び散る。
 数度。
 剣と雪のぶつかつ音が雪原に響いた。
「ねぇー、あーしは別にいいんだけど、ちょっと音が響き過ぎじゃない?」
 雪原に腹ばいとなった姿勢のまま、ペングィーンはそう言った。それから彼女は、首を持ち上げ、吹雪の中をぐるりと見まわす。
「あ、ほら。来た」
「2体……火力を集中させて素早く殲滅しましょう」
「ァォーン!」
「声がか細いわ!」
 真っ先に動いたのはアッシュ、リコリス、ヴィリスの3名だ。
 前方へ突き出したアッシュの両腕を紫電が入る。
 バチ、と空気の弾ける音。
 ついで閃光。
 幾本もの雷光が雪原を疾駆し、前方から迫るフユショウグンの身体を撃ち抜く。雪の身体が溶解し、水蒸気が拡散された。
 直後、吹き荒れる突風。
 リコリスの展開していたドローンが、風に流され軌道を乱す。
「わわっ! 前が見えない!?」
「寒いだけならあれじゃがこの吹雪で視界防がれんのはめんどいのぅ!」
 足を止めた清舟が、腕で顔を庇いながら舌打ちを零した。
 吹雪の音にかき消され、フユショウグンの足音は聞こえない。
 突風に紛れ、前進していたフユショウグンは氷の剣を高く掲げた。清舟がそれに気づいた時には、既に敵の射程圏内。
 回避も防御も間に合わない、といったギリギリのタイミングで、清舟は敢えて攻撃を選んだ。フユショウグンの眉間に向け、銃口を突き付け引き金を絞る。
「お前が吹雪の原因かぁ……風穴開けて晴らしてやるわぁ!」
 火薬が爆ぜて、鉛の弾丸が放たれた。
 フユショウグンの頭部を鉛の弾が撃ち抜く。姿勢を崩したフユショウグンだが、振り下ろした剣は止まらない。
 肩から胸にかけてを裂かれた清舟は、血を吐き雪原に倒れ込む。
 しかし、フユショウグンに出来た隙をヴィリスが見逃すはずもない。
 雪を蹴散らし、雪原を駆けるその様は、まるで雪の妖精か。軽い足音、流れるように優美な疾走。音も無く疾駆し、ヴィリスはフユショウグンの頭部を剣踵で貫いた。
 疾走の勢いを乗せた蹴り。
 フユショウグンの上体が揺らぎ、仰向けに地面に倒れ伏す。
「っ……!」
 伸ばされたフユショウグンの腕がヴィリスの脚を掴んだ。
 ヴィリスの脚が急速に温度を失う。感覚が麻痺し、膝から下が無くなるような感覚に、思わず頬が引き攣った。
「2度も、脚を失ってたまりますかってのよ!」
「心配するな! 俺がそうはさせねぇよ!」
 まっすぐに伸ばした聖霊の杖から淡い燐光が飛び散った。
 燐光はヴィリスの脚へと降り注ぐと、氷を溶かし、停滞していた血流の流れを加速させる。体温があがり、止まりかけていた脚が再び動き始めた。
 駆け寄った英司が、剣でフユショウグンの腕を砕く。ヴィリスが後退するのと合わせ、英司はフユショウグンの背後へ回ると、その体を両腕で抱えて持ち上げた。
「シーユーレイターアリゲイター! つってな!」
 背後へ投げ飛ばされたフユショウグンは、頭から地面に叩きつけられ砕け散る。

 フユショウグンが倒れたことで、吹雪の勢いが弱まった。
 残るフユショウグンは1体。
 相手をしていたマリアは満身創痍といった有様だ。
 顔色は白く、右半身は霜に覆われている。
「リコリス! 狙撃手なら目ェ良いだろ!!」
 マリアへ治療を施しながら、聖霊は叫ぶ。
 吹雪が弱まったことにより、ドローンの制御は取り戻された。リコリスは素早く腕を動かし、蜂型ドローンへ指示を飛ばした。
 激しく上下しながら移動したドローンは、フユショウグンの四方を囲む。
「三つ数え終わる前に答えろ! 今なら天国送りと収容所送り、好きな方を選ばせてやる!」
 雪原に響くリコリスの警告。
 当然、フユショウグンからの返答は無い。
「3、2……1! アオーン!!」
 発射された弾丸は裕に10を超えていた。
 両肩、喉元、眉間の4か所に叩き込まれた弾丸が、フユショウグンの身体に大きな風穴を空ける。
 氷の斧を握った腕が重たい音を立てて雪原に落ちた。
 ぐらり、と太い首が揺れる。
「あまり長く付き合う暇はありません」
 アッシュの放った閃光が、フユショウグンの身体を焼いた。
 半ばほど溶けた身体はしかし、周囲の雪を取り込んだじわじわと再生し始める。放っておけば、それなりの時間はかかるだろうが、フユショウグンの傷は癒えることだろう。
「オリーブさん、いけますか?」
「当然。氷の鎧ごと断ち切ってやります」
 雪原を駆けたオリーブは、フユショウグンの前で低く腰を落とした。
 背後へ振り被った長剣。
 腰を捻って繰り出す斬撃が、リコリスの空けた首の穴に突き刺さる。
「氷が鉄に敵うはずもありません」
 一閃。
 首を落とされたフユショウグンの身体が崩れ、ピタリと吹雪は止んだのだった。

 雪塊の中にあったのは、葉の落ちた小さな樹木であった。
「外れだね。次いってみよ、次」
 するり、と雪上を滑りはじめたペングィーンの後を追いかけ一行は移動を開始する。
 一戦、フユショウグンとの戦いを終えたイレギュラーズの表情は硬い。フユショウグンの引き起こす寒波によって、受けたダメージはそれなりに多い。
 また、絶え間なく吹きすさぶ冷気も厄介だ。
 2体のフユショウグンを倒したことにより、幾らか吹雪が弱まっているのが唯一の救いか。とはいえ、依然として窮地であることに変わりはない。
 窮地であればあるほど燃える輩もいるが、他者の命がかかっているとなれば話は別である。中でも特に、聖霊の表情は硬かった。
 ヴィリスたちの負った凍傷はひどい。
 長く放置すれば、患部の切除さえ視野に入るほどである。
「なあ、なんか丸々として氷の上を滑るやつ見なかったか?四人居たと思うんだけどよ」
 葉を落とした木々へと聖霊は問うが、求めていた応えは帰ってこない。そのことが焦りを加速させる。
「ん? なぁ、あっちの方、怪しくないか?」
 ほら、と英司が指差した方向には白い雪原が広がっている。
 一見すれば、雪塊さえ見当たらない。
「あん? どこの辺りじゃ?」
 念のために、と清舟は雪原を俯瞰し英司の言う“怪しさ”の原因を探した。
 観察すること暫く、清舟は「おぉ」と目を見開く。
「地面が割れとるのう。吹雪を避けるために、地割れの中に逃げ込んだ可能性もあるんじゃないか?」
 
 地割れの底にも雪は積もっているようだ。
 その中に幾つかの雪塊がある。岩などに雪が積もったものか、それとも中身は人だろうか。
「降りるのに時間がかかりそうだな」
「じゃあ、ボクが先に行ってみてくるよ」
 オリーブの零した呟きに、いち早く答えを返したのはリコリスだった。
 割れた地面に爪を突き立て、するりと降りていくリコリス。その後を追ってヴィリスも地の底へと駆け下りていった。
「カンテラを掲げておくから、目印にしてくれ!」
 リコリスたちが迷わないよう、聖霊は杖の先にカンテラを下げて明かりを灯す。
「うん! ちゃんとカンテラ見てるよ! それはもう目をかっ開いて……あ”あ”あ”あ”吹雪が目に! 目に!!」
 カッ、と目を見開いたリコリスは、吹雪の直撃を瞳に浴びてバランスを崩す。
 真っ逆さまに地面の底へと落下していくリコリスの腕を、慌ててヴィリスは掴んで止めた。壁面に突き刺した剣踵がミシと軋んだ音を立てる。
「吹雪? このタイミングで、ですか……?」
「アレじゃないか? 厳しい寒さの事を例えで冬将軍って呼ぶけどよ、まさか本物が来ちまうとはな」
 アッシュと聖霊が背後を見やる。
 1体。
 ゆっくりと吹雪を纏いこちらへ迫るフユショウグンの虚ろな瞳がイレギュラーズを捉えている。
 ぞくり、と震える身体を抱きしめて、清舟は腰の刀へと手をかけた。
「帰って酒盛りして暖まるぞ!」
 景気づけの怒号を合図に、吹雪の勢いが一段増した。

●氷の中の同胞
 地割れに吹き込む吹雪のせいで、発掘作業は進まない。
 リコリスとヴィリスは1つ、2つと雪塊を壊して回るが、視界が白く染まってはそれだけの作業も一苦労である。
「ちょっと、速く片付けてさっさとこの吹雪を止めてちょうだい!」
「ここ! ここ掘って!」
 剣踵が、爪が雪を削る。
 続いて降りた聖霊、英司、ペングィーンも別の雪塊の発掘作業へ移った。
 
 鳴り響く銃声。
 飛び散る火花と硝煙の臭い。
「誰か攻撃を当ててくれ! こちとらいい加減手を握るんも辛いんじゃ!」
 弾丸はまっすぐ、吹雪を貫きフユショウグンの足首や膝を撃ち抜いた。動きを止めたフユショウグンの眼差しが、清舟の背筋を震わせる。
 身体が痺れ、思うように動けない。
 焦りを孕んだ叫びを聞いて、オリーブたちは一気呵成に攻め込んでいく。

 氷の盾がオリーブの顔面を殴打する。
 よろけた隙を突いて繰り出された槍が、オリーブの脇腹に風穴を空けた。
 清舟の攻撃を受けたフユショウグンの歩みは鈍い。追撃を受ける前に、オリーブは地面を転がり、フユショウグンの背後へ回る。
 オリーブを追って反転するフユショウグン。
 その側頭部に、清舟の放った弾丸が当たる。
 直後、ごう、と吹き荒れる突風が清舟の身体へ叩きつけられる。踏鞴を踏んで清舟は数歩後ろへ下がった。
 代わりにアッシュが前へと駆けだす。
「貴方がたを討てば此の雪も幾分収まるものでしたね」
 掲げた腕に魔力が滾る。
 銀の髪が魔力の奔流に踊った。
 放たれるは超高温の熱波の閃光。
 積もった雪や吹雪を溶かし、フユショウグンの片足を射貫く。

 足を失い倒れた巨体。
 立ち上がったオリーブは、大上段に剣を構える。
「はぁっ!!」
 裂帛の気合と共に振り下ろされた一撃が、フユショウグンの眉間を割った。
 不安定な姿勢から繰り出された氷の槍が、オリーブの腹部へ突き刺さる。
 白い雪原に散る鮮血。
 数秒の沈黙。
 吹雪は止んで、オリーブとフユショウグンは同時に地面に膝を突く。
「……戦は数が全てですから」
 血を吐き、告げたオリーブの前でフユショウグンは雪となって崩れ落ちた。

 片足を軸に、放った蹴りが雪塊を深く抉った。
 鞭のようにしなやかなヴィリスの蹴撃。
 その反対側では、リコリスが必死に雪に穴を掘っている。
 爪は削れ、指先には血が滲んでいるが……痛みは既に麻痺しているのか。リコリスの頬に伝った汗を片手で拭えば、指先を濡らす血が赤い線をにじませた。

 雪塊の中から掘り出されたのは、背の高い4人の翼種であった。
 赤と青の髪色をした姉妹と、白い髪に黒い房の混じった痩躯の女性。そして、筋肉質で大柄な翼種の女。
「あぁ!? 皆、良かった!!」
「よくねぇよ。なんだこの体温、氷像かと思ったぜ!」
 疲労し、座り込んだヴィリスとリコリスを休ませる代わりに、英司は4人の身体に手を触れ、呼吸の有無を確かめた。
 体温を感じない。
 呼吸も、心臓も止まっている。
 けれど、ともすればまだ間に合うかもしれない。
「聖霊! 俺ぁ、何すりゃいい!!」
「湯を沸かせ。熱湯はいらねぇ!」
「よし来た! 湯をかけて生き返るなんて、まるで即席麺だな!」
「まぁ、そんなもんだ。凍えて固まった体は元に戻してやらねぇとな」
 聖霊と英司は、素早く打ち合わせるとそれぞれの作業に移った。
「絶対治してやるから死ぬなよ!! ただ生きたいと願え!! 生命の光に向かって手を伸ばしてりゃいい!!」
 死の縁に声を届かせろ。
 冥界にさえ手を伸ばせ。
 暗く冷たい氷の中で、生きたいと藻掻く者たちを、掬い上げずに何が医者か。
 生きたいと願うのは、彼女たちの仕事だ。
「そこから先は、俺の仕事だ」
 
 吹雪は止んだ。
 疲弊し、雪原に座り込んだアッシュと清舟の耳に届いたのはペングィーンの泣き声だ。
 けれど、その声に滲む感情は喜び。
 同胞たちは救われたのだ。

成否

成功

MVP

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者

状態異常

オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
ヴィリス(p3p009671)[重傷]
黒靴のバレリーヌ

あとがき

お疲れっさまです。
ペングィーンの仲間たちは無事に救助成功。
ペングィーンと共に、彼女たちは新たな住処へ向け旅立っていきました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございます。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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