PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>楽園まで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 R.O.O-patch 4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』。
 バージョンアップは邪悪の解放と共に始まった。
 砂嵐に突如現れた終焉を呼ぶ大軍勢。其の中にはこれまでに見た敵(かたち)や、幾度となく見た顔(なかま)も含まれていた。
 そして其の毒牙は砂嵐と伝承だけでなく、電脳世界に広がる諸国へと及ぼうとしていた。そう、あの森林巡る大樹の国へも――



「ルドラス!」
 森林兵士の一人が駆け込んでくる。まるで足が剣のようになった蜘蛛――“大樹の嘆き”を一体斬り伏せて顎に伝う汗をぬぐった人間の男は名を呼ばれて顔を上げた。長いはしばみ色の髪は乱れ、穏やかな顔は緊張に強張っている。
「どうした?」
「兵の数が足りない! このままじゃこの防衛線はもうすぐ突破される……!」
「落ち着くんだ。大丈夫、俺でもいま一匹倒せた。翡翠の民の君たちに倒せない相手じゃないだろう」
 周囲の敵を一掃した事を確かめてから、ルドラスは剣を軽く振って戦意を落とし、話をする体勢になる。男の耳は丸いけれども、翡翠の民からの信頼を得ているようだった。
「ああ、……すまない。君が落ち着いているというのに、俺達はこんなに……相手がバグだとかいう存在であっても、其れでも、……」
「……君たちが森林と近しく生きてきたことを俺は知っている。戸惑うのも無理はないさ。俺のように躊躇なく斬れる相手じゃない、そうだろう?」
「すまない。君が俺達を、翡翠を信頼してくれているというのに、俺達は君を傭兵のように使う事でしか恩返しが、」
「落ち着け、其れは今する話じゃない。俺こそこういう形でしか日頃の恩を返せずすまなく思っているし、其れはお互い様だ。まだ敵が翡翠の中に入った訳じゃない、そうだろう?」
「ああ。罠も問題なく作動している。獣狩りの罠でも役に立つんだな」
「相手は“八つ足”だからな。トラバサミは効くと思ったんだ」
 だが、それほど時間を稼げる訳ではない。事実、ルドラスが斬り伏せた敵の中にはトラバサミを引きずってきたものもいた。膂力で言えば相手の方が上。やらなければやられる。ルドラスは空を仰ぐ。こんなに空は青いのに、世界は終わりを告げようとしている。

「……誰か足の速い奴はいるか?」
 ルドラスは一旦少数に前線を任せ、妖精種の勇士――仲間たちを近場の小屋に集めて問うた。
「……一番足が速いのは、サミエだな」
「ああ、俺だ。まあ、ぎりぎり俺が一番ってところだろうけど」
 短髪の妖精種の男が肩を竦める。じゃあ、とルドラスは視線をサミエと呼ばれた男へ向けた。
「君に伝令役を頼みたい。相手は誰でも良い、特異運命座標と呼ばれる彼らだ」
「特異運命座標? しかし彼らは今――」
「ああ、判ってる。砂嵐から伝承に掛けて大きな戦線が広がっている事は判ってる。だが今彼らを頼らないでいつ頼るんだ? つい最近頼ったからって尻込みしてたら、翡翠の内部まで敵は浸透してくるぞ」
「……確かに」
「サミエ。……いけるか?」
「ああ。寧ろ、俺がいなくなってお前らが全滅の方が笑えないからやめてくれよ?」
 サミエは笑ってみせる。道中、一人で大樹の嘆きをかわしていかなければいけない恐怖に負けずに。
「……じゃあ、頼んだ」
 ルドラスはいうと、剣を再び抜いて一団から離れようとする。
「おい、ルドラス! お前、また前線に戻るのか!?」
「ああ。こういう形でしか、瀕死だった俺を救ってくれた皆の助けになれないからな」
「だからって……! せめて水か何かで補給を、」
「大丈夫だ。特異運命座標が来たら――少しだけ休ませて貰うよ」

 だから、君たちは十全に休んでから来てくれ。俺が死なないうちに。

 ルドラスは振り返り、笑みを浮かべると、再び戦線へと戻っていく。
 仲間の勇士が休んだ後、援護に来てくれると信じて。いつ来るかも判らない、来れるかどうかも判らない特異運命座標を信じて。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 R.O.O.の闇は一気に全土を呑み込もうとしています。
 しかし其れに抗う者も少なくはありません。

●目標
 大樹の嘆きを撃破せよ

●立地
 翡翠近郊、迷宮森林の一角です。
 隠れ場所が多く、小柄な敵に苦戦していますが、この地形を利用する事も出来ます。
(実際翡翠の民はトラバサミを仕掛けて相手を足止めしているようです)

●エネミー
 大樹の嘆きx15体

 蜘蛛の体に、剣のような足がついた怪物です。
 傷付けられた樹の嘆きなのか、自然発生したバグなのは定かではありません。
 手足による至近の大威力攻撃の他、糸を吐いて移動を阻害するなどの技を持ちます。

●援軍
 人間の剣士「ルドラス」
 翡翠レンジャーx6名(サミエ含)

 皆さんはサミエと共に前線へ到着する事になります。
 其れまでルドラスが最前線で敵を斬り、翡翠の戦士は弓と治癒で彼をフォローしつつ大樹の嘆きが近付かないように牽制し続けていますが、少数なのでジリ貧になりつつあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

●重要な備考2
 <ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
 但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
 又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
 又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>楽園まで完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

樹里(p3x000692)
ようじょ整備士
グレイガーデン(p3x005196)
灰色模様
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
シャル(p3x006902)
青藍の騎士
シュネー(p3x007199)
雪の花
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
マチルダ(p3x009315)
その罪は譲らない
天川(p3x010201)
國定 天川のアバター

リプレイ


「こっちだ!」
 サミエが『國定 天川のアバター』天川(p3x010201)たちイレギュラーズを先導する。彼も僅かだが傷を負っている。切り傷のようだ、と、『うさぎははねる』アマト(p3x009185)は観察した。
 此処からは森。罠の類があるとサミエから事前に説明を受けている。『シュレティンガーのようじょ』樹里(p3x000692)は周囲を見回しながら、サミエの足跡を踏むように追いかける。
「木の上に登れる奴は登って追ってきた方が早いと思う! 兎に角――こっちは前線を一人が護ってるんだ、彼が斃れないうちに…!」
「ルドさ……いえ……妖精種でない方が一人で?」
 たまらず『雪の花』シュネー(p3x007199)が問う。此方の彼は、反転していない。どんな顔をして会えば良いのだろうとも思う。けれども、まずは生きて会わなければどうしようもない。間に合わなかった、なんて結末にはしたくない。だからシュネーは走る。
「ああ。彼は死にかけで行き倒れていたのをシュリエ……同僚のレンジャーが連れて帰ってきたんだ。皆で手当てをして、そうしていつしか俺達と同じ釜の飯を食うようになってた。彼は此処を目指していたらしくて、……いや、其れは今する話じゃないな。兎に角、彼は丸い耳をしているけど俺達の仲間なんだ」
「……」
 『青藍の騎士』シャル(p3x006902)は其れを黙って聞いていた。シュネーの、……“ネーヴェの”大切な人。彼女の過去を占める人。胸にもやもやとわだかまるものを押し殺して、彼は植物の導きを得ながら進む。もやもやとしたものが何なのか、自身にも判らない。判らないという事は、戦闘には必要ないという事だ。ならば今は、其れに囚われている場合ではないだろう。
「向こうには僕の傍観者――使い魔が先行している。伝言を持たせる暇はなかったけど、向こうも何らかの援軍を期待してくれてたら良いな」
 罠がきらりときらめいたところをふわりと飛び越えて『灰色模様』グレイガーデン(p3x005196)が言う。『銃の重さ』マチルダ(p3x009315)はどうだろうね、と肩を竦めた。
「ま、何にせよ風穴を空けてやるだけさ。結果的に其れが人助けになるんだろうけど」
「……大樹の嘆きは、とっても痛くて、悲しい」
 『決死の優花』ルフラン・アントルメ(p3x006816)もまた、植物たちに“こちらだよ”と導かれながら駆ける。
「だからこそ止めないと。――翡翠に似合うのは、嘆きじゃなくてお喋りと歌声なの!」



「はあ……ッ、はあ……」
 汗が顎を伝い落ちる。其れを拭う暇すら、ルドラスは惜しい。
 かそかそ、と黒い嘆きが刃の足で近付いてくる。こちらから追いかけても埒が明かず、仲間の弓と罠は体力を削りはすれども、決定打にはならない。ルドラスの剣とて、二撃三撃と与えなければ相手は倒れてくれない。
 体力の限界が近付いてきていた。限界が来たらどうなる? 俺が斃れたら、仲間たちをすり抜けて嘆きが奥へ行ってしまう。其れはさせない。例え倒れて群がられても、其れはいっそ狙い通りだ。
 ――俺の命は、翡翠に救われた。なら、翡翠の為に捨てるのも――

「――イレギュラーズ、馳せ参じました!!」

 は、とルドラスが顔を上げると……いつも伝承で冒険譚を話してあげている少女の背が見えた気がした。……そんな筈はない、と頭を振る。あの子は小さく、体が弱い。だから、此処に居る訳がないのだ。
 そしてルドラスが改めて見たものは……あの少女よりは歳を重ねた、けれども華奢な背中。
「君は……」
「……」
 シュネーは、噛み殺す。言いたい全てを噛み殺し、名乗りに変える。
「シュネーと申します! サミエ様の案内で参りました!」
「お待たせ、もう大丈夫だよ! ルドラスさんたちは後方へ下がって、前方はあたし達が!」」
 ルフランがつとめて元気な声を出し、杖を振るって甘い香りと共に治癒をふりまいた。ぽんぽん、ふうわり、キャンディにプチケーキ、バウムクーヘンが降り注ぎ、傷付いたルドラスや疲弊したレンジャーたちを癒す。
「ここからはアタシ達が引き継ごう。ただ、ちょっとだけ手伝って貰うけどね。形勢を引っ繰り返していこうじゃないさ」
 マチルダがこっちだよ、と妖精種とルドラスを誘導する。
「……感謝する!」
 ルドラスはイレギュラーズに頭を下げ、翡翠の民と共に後方へ下がる。
「まずはバリケードを作るんだ。丸太はあるかい?」
「切って積んだものがある筈だ。そうだな?」
「ああ。幾らでも使ってくれ」
「いいね。じゃあ次は縄だ。縄で木を縛って――」



「外典より」

 ――すなわち、剣を取るものは剣で滅びる。

 樹里が紡いだ聖句が見えざる刃となって、蜘蛛を大地に縫いつけるように突き刺さる。
「まあ、剣がはっぽんですからね。負けフラグばりばりなのです」
 うんうん、と満足げに樹里は頷く。
 8人はルフラン、シャル、マチルダが敵を引き付けるしるべとなっていた。それぞれが分担して敵を引き付け、殲滅する。
 樹里は殲滅役であり、そしていわば“はぐれもの”の処理役だ。出来ればそんなものは少ない方が良いですね、と、斃せそうな蜘蛛を見付けてまた聖句を紡いだ。
「蜘蛛型なら、火が効いたりするのかな……」
 たっ、とん、たん。
 渾身の社員舞踏、何処からともなくあらわれたミラーボールに照らされながらグレイガーデンは敵にダメージを重ねていく。
 火が効くのか、氷が効くのか。どちらかといえばグレイガーデンは氷派ではあるが、だが、彼は心得ている真理が一つだけある。
 其れは、筋力(攻撃力)こそが全てを凌駕するという事だ……自身にはまだ足りないものだ。けれど、でも。やれることはある筈だと、迫り来る嘆きたちに凍てつく紫雷を放ち、痺れさせる。
「元気になあれっ、なのです」
 アマトはぴょんぴょん、今日も跳ねる。レンジャーたちやルドラス、そして仲間たちの上に降り注ぐ、アマトの願い。
 そうしてよくよく敵を観察する。正確には敵と呼ぶのは違うかもしれない。其れは大樹が嘆き、生み出した断末魔。或いは其れを模したバグなのかも知れないが――兎に角アマトは、悲しいのは嫌だった。
 蜘蛛が前脚を持ち上げて、糸をふうっと吐き出す。其れはルフランを狙って、其の足に絡み付いたが――きかないよ、と、ルフランは足を振るってみせた。甘いアップルパイの杖から放たれる魔法は、絡み付く糸を砂糖菓子のように溶かして見せる。

「貴方がたがバグなのか、大樹の悲しみから生まれたモノなのかはわかりません。其れでも――森を造るモノである貴方がたに、誰かを、何かを傷付けて欲しくないのです」
 シュネーは苦し気に言う。其れは今、自分が妖精種を模しているからではない。本当は誰にも傷付いて欲しくなんかない。そんな、シュネーの心からの願いだった。
 振り上げられた刃の脚をかわし、敵をまとめて貫く一撃を放つ。
「前脚なのです!」
 其れはアマトの声だった。
「前脚をぶんと上げたら、糸を吐く合図なのです! お気を付けて!」
「……! 承知いたしました!」
 シュネーは今まさに、嘆きの其の動作を見たところであった。ぱっと横に跳躍すると、さっきまで己がいたところに蜘蛛糸の塊のようなものがべとりと落ちる。成る程、これが脚に絡まれば動きづらくなりそうだ。
「さあて、ぱっぱと片付けるよ! アタシ達が引き付けるからはっ倒しちまいな!」
 マチルダが怒りに駆られた蜘蛛たちを狙い撃つ。どろりと緑色の血液のようなものを吹き散らしながら、蜘蛛が何体か引っ繰り返ってもがき、動かなくなった。
「個々はそんなにタフじゃないみたいだね。数が武器なら減らしていくだけさ」
 再びマチルダは銃を構える。そうして此方に向かって来る蜘蛛が前脚を振り上げた瞬間を狙って、頭部目掛けて銃爪を引いた。

「はっ!」
 シャルが引き付けた蜘蛛達に一撃を入れる。めらめらと燃えながらも蠢く蜘蛛達は、まるで大樹の「生きたかった」という願いにも似ていた。
 或いは、きっと世界のいのち(データ)がそう言っている。まだ生きたい。まだ生きていたい。仮初の世界だとしても、私たちは生きているのだと。
 ちら、とシャルは背後を少しだけ振り返った。バリケードを作り終わり、マチルダの傍で彼女を護るように構えるルドラスと、翡翠の民がいる。
 彼らにはコンティニューという概念はない。死んだら終わり。データが消えて、なかった事になって、其れで終わりだ。
 そんなのはいけない。シャルはそう思う。彼らを危険に晒す訳にはいかない。此処で蜘蛛達を食い止めなければ。
 剣の腹で其の鋭い爪を受け止め、刃を向けて斬り上げる。そうして守りと攻めを繰り返しながら、シャルは決意を胸に戦う。其処にもやもやとしたものは今はない。ただ、護るのだという純然とした決意があった。



「大分かずがへってきたのです」
 アマトとマチルダ、二人の目が戦場を俯瞰する。二人の指示でルフランとシャルは蜘蛛達の猛攻に耐え続け、シュネーとグレイガーデン、樹里が蜘蛛達の数を確実に減らしていく。
 蜘蛛達の鋭い前脚はずばりと深い斬り傷を盾役をこなす者たちに作ったが、ルフランとシュネーの癒しによって、盾役たちは何とか斃れずに此処まで来た。
「あとちょっとだよ! みんな、頑張ろう!」
 ルフランが栗鼠のまあるい尻尾を揺らし、アップルパイの杖を振るう。己を癒し、皆を鼓舞する。其れこそが癒し手としての役割だと。
「死ぬんじゃないよ! 此処が正念場だ、気張りな!」
「俺達も参戦する! 此処で見てばかりはいられない!」
 マチルダの声と共に、ルドラスが躍り出る。俺たちも、と続くレンジャーたちが、三人が引き付けている蜘蛛達に向けて弓引いた。
「ルド様、」
 前線へ飛び出し、並んだルドラスに――思わずシュネーは、声を上げてしまう。
「え?」
 ルドラスが、不思議そうにシュネーを見た。……優しかった貴方。わたくしには、何処までも優しかった貴方。戦場では、こんなに勇敢に剣を振るうのですね。
「……いえ、何でもありません。行きましょう!」
 シュネーとルドラスが剣を振り上げる。そうして――



「よっ、立役者!」
「うわっ!?」
 最後の蜘蛛を殲滅し、周囲に敵性反応がないとルフランが確認して、ようやく戦闘は終わった。ふう、と息を吐く一同だったが、そんな中、ルドラスの背中を容赦なく叩いたのはマチルダだった。
「アンタ、最前線張って無茶してたんだって? あれは弓にはキツい相手だ、アンタがいなかったら全滅だったかもしれない。よくやったもんだ」
「いや、俺は別に……昔、命を助けて貰ったお礼をしただけで」
「其れでもです」
 はい、とアマトが差し出したのは、白いお皿に乗ったアップルパイ。アクセスファンタズムで作り出したものだ。
「よくやったです。これはそのご褒美なのです」
「あ、ありがとう」
「皆さんにもあるので、今から配るのです」
 アマトはぴょんぴょん、マイペースに跳ねるように、レンジャーたち一人一人にもお菓子を配っていく。
「有難う、お嬢ちゃん。戦闘中から甘い香りがしていたし、何だか安心したらお腹が空いてきたな」
 アマトの頭を撫でて謝意をあらわしたレンジャーがいう。あ、それ、あたしかも、とルフランが肩を竦めた。
「アマトちゃん、あたしには頑張ったご褒美ないの?」
「ルフラン様ですか? んー、ご自分でというのは簡単ですが、其れでは素っ気ないですね。はい、バウムクーヘンです」
「うひゃー! 美味しそう!」
「よだれが出てます」
「アマトさん、私もてつだいます。私はフットワークのかるいようじょなので」
「おお、頼りになりますね。では配るのを手伝って貰いましょう」
 二人は連れだって、後方にいるレンジャーにお菓子を配りに行く。
 其れを微笑ましく見ていたグレイガーデンは、ふと、シャルの表情が晴れない事に気付いた。
「……あの」
「……」
「あの、シャルさん」
「え!? あ、うわっ!?」
「ええ!? す、すいません!?」
「あ、いえ、すみません! 考え事を……」
「……考え事、ですか? 何だか心配そうな顔でしたけど……」
 何か悩みでもあるのだろうか。いや、こんな情勢の中だ、悩みがない方がおかしいのではないか。
 相変わらず灰色に思考するまま、グレイガーデンはシャルに問う。
「いえ、……ルドラスさんは、優しくて、しっかりしていて……良い人、なんだろうなって」
「……」
 ルドラスにシュネーがそっと近付いていくのが見える。其れを見て、グレイガーデンは再び晴れぬ顔のシャルに視線を戻した。

 ――……。事情は良く判らないけど、これ、多分嫉妬か何かじゃないかな……

 其れを言うべきか言わざるべきか。やっぱりグレイガーデンは、どっちつかずに「そうですね」と言うしかなかったのだった。

「……ルドラス様、」
「ああ、ええと……シュネーさん。改めて、ありがとう」
「いえ。お怪我はありませんか?」
「あるにはあったけど、ルフランさんが全て癒してくれたよ。特異運命座標というのは本当に凄いな」
 いま、わたくし、ルド様と対等に話している。
 シュネーは泣きたくなった。本当は、現実の世界でこうしたかった。特異運命座標として、元気になったネーヴェとして、対等にルドラスと爪先を同じ方に向けていたかった。
 でも、其れは叶わぬ夢。
 ルドラスとネーヴェたちは、向かい合わせなのだ。運命が、そういう風にしてしまったのだ。
「……いえ、凄いのは貴方様ですよ。たった一人で、援軍を信じて戦って」
 彼の強さを確認できた。其れは間違いなく“ルドラスと戦う上での”収穫だ。
 心を決めなければ。
 彼と、向き合わなければ。
 このR.O.O.は優しい夢。現実に還ったら、わたくしは――悲しい現実と向き合わなければならない。

 向き合ってみせます。貴方が今日、戦い続けたように。
 わたくしも、戦い続ける。

 ――矢張りすべての言葉を噛み殺して、「シュネー」は“今は”、笑ってみせたのだった。

成否

成功

MVP

ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花

状態異常

樹里(p3x000692)[死亡×2]
ようじょ整備士
グレイガーデン(p3x005196)[死亡]
灰色模様
シュネー(p3x007199)[死亡]
雪の花
アマト(p3x009185)[死亡]
うさぎははねる
天川(p3x010201)[死亡×2]
國定 天川のアバター

あとがき

お疲れ様でした。
優しい夢は時に深い傷を付ける。そんなお話でした。
ミッション成功です。ご参加ありがとうございました。
MVPは己も他をも癒し続けた貴方へ。

PAGETOPPAGEBOTTOM