PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ウィッチ・エンジン。或いは、砂塵の進行…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●目を覚ました彼女
 砂、砂、砂。
 見渡す限り、一面の砂色。
 空に浮かぶ白い太陽に、熱を孕んだ乾いた風。
 生物の気配など微塵も見当たらない景色だけが、彼女にとっての全てであった。

 暗くて狭い箱の中。
 さっきまで、彼女はそこに居た。
 目を覚まして、箱から外に這い出した。
 だだっ広い砂漠の真ん中で、彼女はしばらくぼーっとしたまま立っていた。
 自分の名前も、ここがどこかも分からない。
 ただ1人……否、1人ではない。
 私は1人きりではないと、彼女は知っていた。
 それから、彼女は記憶には無い、知識に導かれるままに辺りの地面を掘り返す。
 砂を掘り返す過程で、彼女は自身の機能を知った。
 彼女は自身の体の仕組みを理解した。
 【不運】の効果を備えた魔弾を。
 対象の動きを【停滞】させる魔力の砲を。
 彼女は自在に撃ち出すことができていた。
 なぜ、そういった魔術を行使できるのか。
 残念ながら、その理由までは記憶にない。
 いや……記録に残っていない、と言った方が正しいだろうか。
「あ……」
 目覚めて以来、初めて彼女が零した声は蚊の鳴くような呟きであった。
 ざらり……彼女の腕が砂と化して崩れ去る。
 失われた自身の右腕を見て、彼女はやっと、自分が“ゴーレム”であることを思い出したのであった。

●ウィッチ・エンジン
 観測された砂塵の規模は、はじめは極々小さなものであったという。
 しかし、それは時間の経過と共に規模を拡大し、気づけば災害と呼べる規模へと成長していた。
「砂塵の中に10人ほどの人影を見た……はじめに砂塵を発見した旅の商人は、そんなことを言ったそうよ」
 何かの拍子に砂塵に飲み込まれたのか。
 それとも、10人の人影こそが砂塵を発生させた元凶なのか。
 どちらにせよ、旅商人は長くその場に留まることなく、近くの街へ向けて避難を開始した。
「その結果、旅商人の後を追うように砂塵は移動を開始したわ」
 力尽くで砂塵を散らすか、元凶らしき10の人影を止めるかすれば、砂塵はきっと収まるだろう。
 そう判断し、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はイレギュラーズに召集をかけたのである。
「砂塵に近づく場合は注意が必要よ。調べたところ【飛】【ブレイク】の効果が付与されているみたいだから」
 それから、と。
 任務の内容を説明した後、プルーは1冊の日記帳を取り出した。
 見るからに古いその日記帳は、旅商人が逃げ込んだという街に保管されていたものだ。
「以前……といっても、10年近く昔のことらしいけれどね。その頃、街に立ち寄った白衣の魔女が忘れていったものなのですって」
 パラパラと、渇いたページを捲りながらプルーは内容を読み上げた。
 もっとも、日記を記した白衣の魔女とやらは非常に達筆で、内容のほとんどは読み取れないらしい。
「10体のウィッチ・エンジンが完成した。ウィッチ・エンジンには私の魔術を刻んだ回路を積んだ。記憶まで移植するには容量が足りない。万が一の備えとして、ウィッチ・エンジンは砂中に隠匿することにする……読み取れた内容は以上だけれど、私はこのウィッチ・エンジンが砂塵と関係していると考えているわ」
 ほら、と。
 プルーが取り出したのは、日記に挟まっていた付近の地図だ。
 今回、砂塵が生じた位置と、地図に×印が書かれた位置は重なっている。
「もっとも、違ったとしても何も問題はないけれど。だってそうでしょう? 砂塵を止めて、街を救う……アナタ達のやるべきことは微塵も変わらないのだから」

GMコメント

●ミッション
砂塵の停止


●ターゲット
・奇妙な砂塵
街へ向かって進行している奇妙な砂塵。
攻撃を受けると、規模が少しずつ小さくなっていく。
砂塵の中には10人ほどの人影が見かけられたらしいが…。
また、砂塵に近づき過ぎると幾らかのダメージと【飛】【ブレイク】を受ける。


・ウィッチ・エンジン(?)×10
砂漠の真ん中に秘匿されていたらしいゴーレム。
魔術回路を積載されている。
冒頭に登場した少女がおそらくウィッチ・エンジンで間違いないだろう。
また、砂塵を起こしたのも彼女たちと思われる。
現在は砂塵の中にいる。

魔弾・急:神遠単に中ダメージ、不運
 黒い魔弾。砂塵の影響を受けず、速くまっすぐに飛来する。

魔弾・停:神中範に中ダメージ、停滞
 魔力の砲。着弾地点を中心に拡散する性質を持つ。

●フィールド
ラサ。
空は快晴。雲一つない。
砂漠の真ん中で発生した砂塵は、現在、近くの街へ向けて進行中。
砂塵の移動はゆっくりだが、現場に到着してから1時間以内に街に被害が出るだろう。
視界を遮るものなどは無いが、砂塵の近くでは多少移動速度が低下するようだ。
また、砂塵に近づき過ぎると【飛】【ブレイク】を受ける。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ウィッチ・エンジン。或いは、砂塵の進行…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ

●砂、砂、砂
 見渡す限り、一面の砂色。
 空は快晴。
 気温は高く、空気はからりと乾いている。
 ラサの砂漠は過酷であった。不慣れな者は当然として、砂漠歩きに慣れた者でも油断をすればふとした拍子に命を落とす。
 砂漠に蔓延る魔物や盗賊。
 降り注ぐ灼熱の太陽光。
 どこに発生するとも知れぬ砂嵐。
「あおーーーん!」
 街へと迫る砂塵を見つめ『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は空へと向けて遠吠えた。
 どこまでも高く、響く咆哮。
 びりり、と空気を震わせてリコリスは片手を前へと突き出す。赤いコートの裾がはためき、飛び出したの数機の機械の蜂だった。ドローンと呼ばれるリコリスの主兵装である。
「ラサって魔女やゴーレムの名産地なのかな? ともかく街が砂塗れになっちゃうのはよくないと思うんだ!」
 リコリスの合図と共に、ドローンは一斉に唸り声をあげ、次々と弾丸をが射出される。
 砂を巻き込み、加速した弾丸は、狙い違わず全く同じ個所へ同時に着弾した。しかし砂塵に阻まれてその内部まで届きはしない。
 砂塵が一瞬、揺らいだ拍子にその奥にいる幾人かの人影が見える。
「やっぱ、あのゴーレムを倒さねえと話は始まらねえか?」
「だったら、ゴーレムを狙いやすくなるように砂塵を散らす必要があるな。それに、この砂塵をどうにかしないと街に被害が出る」
 『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は短剣を、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は細剣を抜いて、攻撃態勢へ移行する。
 イレギュラーズ8名の並んだ背後には砂漠の街。
 正面から迫る砂塵と、砂塵の中に隠れた10のゴーレムはまっすぐに街を目指している。
 砂塵を消し、ゴーレムを止めることが今回の目的だ。
 言葉にすればひどく単純。
 けれど、成し遂げるにはそれなりに骨が折れそうだとイズマは内心で嘆息した。
人や魔物との戦いは、数えきれないほどに経験を積んできた。しかし、相手が自然現象となれば話は別だ。
 どう攻めるべきか、とシオンは短剣を手に思案した。
 一方で『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)はというと、砂塵など見慣れたものなのか、どことなく気楽な調子で氷の鎌を肩へと担ぎ上げている。
「あら、砂塵なんてラサにおいて日常茶飯事だわ。街に向かってるなら話は別だけれど」
 戦意は上々。
 ラサの平穏を乱すものは、魔物も人も気象でさえも“どうにかする”心算なのだ。
 そこにたとえ、勝機の欠片も見当たらなかったとしても、彼女はきっと諦めない。
 とくに今回などは、攻撃を当てれば砂塵は弱まると事前に調査されているのだ。ならば何も恐れる必要などないではないか。
 ましてや、頼れる仲間たちも付いている。
 とくに遠距離からの攻撃を得手とする『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)などは、まさに今回の依頼にうってつけの人材と言えるだろう。
「……砂塵ごとブチ抜いても構わないのですよね?」
 そう呟いた綾姫は、1振りの大太刀を大上段に持ち上げた。色は漆黒。まるで鉄板か鉈のような幅広の刀身。低く機械の駆動する音を響かせるそれに、ゆっくりと彼女は魔力を注いでいった。

 大地を、空気を、直線状にある何もかもを切り裂いた。
 綾姫の放った不可視の斬撃。直撃を受けた砂塵が散って、その内に潜む少女たち……ゴーレム“ウィッチ・エンジン”の姿が陽の下に晒される。
 粗末な衣服に、白い髪。白い陶器の肌といった出で立ち。まったく同じ顔をした少女が10体。虚ろな視線を綾姫へ向ける。
 少女の1人が手を掲げれば、ごう、と周囲で魔力が波打つ。
 砂漠の砂を巻上げながら、魔力は渦巻く風へと変じ、消えかかっていた砂塵をあっという間に再構築した。
「数は10体で間違いないな。ってことは、プルーの推察は当たってる。あれがウィッチ・エンジンだろう」
 そういって『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は風に煽られ乱れた髪を掻きむしる。髪の間に付着していた砂粒が零れ、世界は僅かに眉間に皺を寄せていた。砂を吸い込むことがないよう、口元はマスクで覆っているが、それでも体に纏わりついてくる砂が不快で仕方ないのである。
 ターゲットは確認した。
 攻略法についてもおよその検討が付いた。
 砂まみれになる前に、仕事を済ませて帰りたいのだ。
「ゴーレムか。私は魔術は詳しくないが、エンジンと言うくらいだ、有する魔力は並の物ではなさそうだ」
ミサイルポットを展開しながら『蒼空』ルクト・ナード(p3p007354)は傍らに立つ『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)へと問う。
「魔術回路が仕込まれたタイプは少し珍しいかもね。撃破後で構わないから是非ともゴーレムを調べさせて頂戴」
 赤い髪をかき上げながらジュリエットは応えを返すと、右腕を砂塵へと差し向けた。

●ウィッチ・エンジン
 少しずつ、けれど確実に、砂塵は街へと向かって進む。
 移動のたびに周囲の砂を巻き込むことで、その規模を拡大させながら。

 砂塵の内から、数発の魔弾が飛来する。
 狙って撃たれたものではないのか、魔弾の半分ほどは地面に着弾し、盛大に砂を飛び散らせた。
 残る数発は偶然にも世界の立っている位置へ。
「っ!? ツイてない!」
 舌打ちを零しながら、世界は素早く回避に移った。
 世界へ迫る魔弾は4発。
うち2発は回避に成功し、1発はイズマが細剣で弾く。
そうして最後の1発は、ジュリエットの放った魔弾と激突し、魔力の奔流となって弾けた。
 瞬間、魔弾同士の衝突により爆風が吹き荒れる。
 そうして巻き上げられた砂を、世界は頭からかぶることとなった。
衣服が汚れないよう十全に気を配っていてなおこの有様だ。
不快感の上昇と共に、世界の瞳は据わっていった。
「あれは害悪だ。面倒だが全部破壊するのがベストだろう……リコリス、どこだ!」
「あ! 世界さん! こっちこっち!」
「いたな。あと何度撃てる?」
「あと7回! APぜんぜん足りてないよ!」
「治療の合間に回復させる。撃ちまくってかまわねぇよ」
 そう言い残し世界は急ぎ後方へ。
 これ以上、砂を被ってなるものかという意思の現れである。

 出鱈目に撃ち出される魔弾。
 時折混じる、魔力の砲撃。
 リコリスや綾姫の攻撃を受けたことにより、ウィッチ・エンジンたちはイレギュラーズを敵と認識したようだ。
 ウィッチ・エンジンの目的については不明のままだが、少なくとも自衛を行う程度の知能は備わっているとみていいだろう。
 或いは、自衛を行うようにプログラミングされているというべきか。
「ゴーレムに回路を刻んで魔術を行使させているのね。こっちの世界の連中は面白いことを考えるものだわ」
 ウィッチ・エンジンの撃ち出す魔弾を相殺しながら、ジュリエットは頬を緩ませる。ゴーレムの創造と使役を得意とする彼女にとって、ウィッチ・エンジンは十分に愉快な存在といえた。
「っ……厄介なのは、攻撃レンジが被っていることね」
 近くに着弾した魔弾が、盛大に砂を撒き散らす。頭から砂を被ったジュリエットは顔をしかめて、チラと背後へ視線を向ける。
 背後で感じた、背筋の凍えるような魔力の奔流を無視することは出来なかったのだ。
 果たして、ジュリエットの見つめた先には機械の剣を構えた綾姫と、周囲に無数のドローンを展開したリコリスの姿があった。

 砂煙が舞い上がる。
 リコリスの弾丸と綾姫の飛ぶ斬撃が、数度にわたり砂塵を削った。ゴーレムたちはその度に砂塵を回復させるが間に合わない。
「ゴーレムに届かずとも、砂塵を散らせるのであればそれでよし」
 元より、リコリスと綾姫の目的は砂塵の損耗にあった。砂塵が展開されたままでは、それを発生させているウィッチ・エンジンを叩けない。
「効いてんのかどうかイマイチわかんねえが……まあ、効いてるだろ、たぶん」
 短刀を手に身を低くしたシオンが呟く。
 舞いあがる粉塵のせいで視認しづらいが、リコリスと綾姫の攻撃を受けた砂塵はたしかに先ほどまでより勢いが衰えているようだ。
 これで最後、とばかりに綾姫は大上段に剣を構えた。
 一閃、チャージした魔力を斬撃に乗せ解き放つ。夜闇のような黒き魔力の奔流が、地面を抉り、砂塵へ向けて撃ち出された。
 それと同時に、シオンの耳がピクリと揺れる。
「っ! でかいのが来る!」
 仲間たちへ注意を喚起したシオンは、綾姫の放った魔力の砲の後に続いて駆け出した。
 地面が揺れる。
 砂煙を突き破り、2条の魔力砲が砂塵より放たれた。さらに数発、魔力の砲を先導するかのように魔弾がばら撒かれる。
 前進するシオンの視界が真白に染まった。
 舌打ちを零し、シオンは地面を強く蹴る。砂に塗れるのも構わずに、地面を転がり砂塵へと疾駆。
 直後、シオンの背後で轟音が響く。

 魔力の砲を受け止めたのは、綾姫の斬撃とエルスの氷の鎌だった。
 着弾の寸前、前に駆け出した2人は魔力の砲に己が得物を叩きつけ、その威力を減衰させた。しかし、代償は軽くない。弾き飛ばされ、半ばほど砂に埋もれた2人の身体はすっかり傷だらけになっている。
「っ……焦りは禁物。だけど、ゴーレムの数が多いわね」
 体勢を立て直す暇もないまま、エルスは地面を這うようにしてその場を移動し始めた。割
「やっぱ今回は盾役がいないのが気になるな。近づくだけでも一苦労だ」
「射程が長いわ。ゴーレム達には距離の近い攻撃が良さそうね」
 そう言って世界は、エルスの回復へと移る。
 リィン、と空気の震える音。
 エルスの身体を淡い燐光が包み込む。
 ダメージを最小限に抑えながら、エルスは前進することに決めた。現状、手数でウィッチ・エンジンに対抗できているのは無数のドローンを操るリコリスと、魔弾を主力とするジュリエットの2人だけだ。

 勢いを弱めた砂塵の壁を突き破り、まずはシオンがウィッチ・エンジンへと接敵。
 先頭の1体を体当たりで押し倒すと、馬乗りになるようにしてその体を抑え込む。仲間を助けるためか、それとも敵に反応してか、3体のウィッチ・エンジンが魔弾の狙いをシオンへ変えた。
 白磁の掌に魔力が集まり、球体を形成。どこか不気味な気配を纏った小さな魔弾だが、直撃すればそれ相応のダメージを負うことは間違いない。
 それほどの威力を秘めた魔弾だ。
 けれど、そもそも射てなければ意味がない。
「……おはよう、でいいのかな?」
 まずは2体。
 音波の波に打ち据えられて、ウィッチ・エンジンが姿勢を崩す。
 砂塵のすぐ外側へ迫ったイズマの攻撃だ。
 彼が細剣を振るう度、まるで弦楽器のような音色が鳴り響く。その音色は美しく、そしてひどく不快なものだ。心を揺さぶり、思考を乱すその音色は、ゴーレム相手にも十全に効果を発揮した。
 攻撃を受けた2体は、ふらふらとした足取りで砂塵を抜けて外へと出ていく。

 砂塵を抜けて、2体のゴーレムが姿を現す。
 その様子をルクトは上空より視認した。
 背に展開した機械の翼。金属質な音が響いて、射出された幾つかの榴弾。弧を描くように飛んだそれは、まっすぐにイズマのもとへと向かうゴーレム2体の眼前に落ちた。
「これ以上被害が出る前に。しっかりと、止めるべきだろうな」
 初めて肉眼で捉えたゴーレムの造りは非常に精巧だった。遠目に見れば、普通の人間と大差ないようにも見える。
 けれど、どこか機械的な動きや、微塵も変化しない表情を見れば、それが人でないことはすぐに判別できるだろう。
 地面に落ちた榴弾が、辺りに炎と爆風とを撒き散らす。
 
 爆炎と爆風、砂の混じった乾いた風が吹き荒れる中、氷の鎌を構えたエルスは疾駆する。
 まっすぐに。
 ラサを脅かす存在を見過ごすことは出来ないと、その瞳には強い意思が宿っている。
「さぁ、存分に暴れてあげるわよ!」
 砂塵の中へと跳び込みながら、エルスはそう叫ぶのだった。

 ルクトの放った榴弾に焼かれ、ゴーレムの身体は半分ほどが溶解していた。
 しかし、ゴーレムが動きを止めることはない。
 ぎこちの無い動作で立ち上がると、1歩、前へと踏み出した。
「こっちに向かってるってことは……街に行きたいのか?」
 イズマの問いにゴーレムが応えを返すことは無い。
 ただ、邪魔者を排除すべく掌をイズマへと向けただけ。
 一閃。
 バチ、と空気の弾ける音と、眩い紫電が辺りに散った。
 伸ばされた腕から胸にかけてを、イズマの剣が斬り裂いたのだ。
 
 上体を斬られ、倒れるゴーレム。
 その体を、ジュリエットが抱き止めた。
「……随分と綺麗に造られているのね。いったいどういう仕組みなのかしら」
 なんて。
 機能を止めたゴーレムの顔を覗き込み、ジュリエットは独り言ちるのだった。

●記憶の器
「よし、撃ち込んでやれ!」
 世界が叫び、リコリスの背を平手で叩いた。
 魔力を伴う号令は、失われていたリコリスの気力を回復させる。
 応、とひとつ咆哮をあげリコリスは素早くドローン数機へ命令を下した。編隊を組んで硬度を上げたドローンは、一切の狂いもなく同時に弾丸を撃ち出した。
「ボクね、死神さんとは結構仲良しこよしなんだよ? 仲良しすぎてたま〜にボクが死にかける程度には……ね!」
 砂塵を巻き上げ、弾丸が飛ぶ。
 まっすぎ、疾く……衝撃を伴い砂塵の壁を射貫いたそれは、ウィッチ・エンジンの眉間へと命中した。
 
 エルスの鎌が、少女の首に突き刺さる。
 胴と頭を切り離されたゴーレムは、力を失いその場に倒れた。
 残る敵は後僅か。額に滲んだ汗を拭うエルスの背後で、断続的な爆発音が鳴り響き、その度に地面が激しく揺れた。
 ルクトの撒いた炸裂弾だ。
 粉塵に紛れ、異臭を放つガスが辺りに漂った。口元を手で覆いながら、エルスは急いで砂塵の中から外へと逃げる。
「なぁ、結局こいつら、何のために砂塵なんて発生させたんだ?」
 同じく撤退に移ったシオンが、エルスの隣に並んで問うた。
「分からないわよ。でも、このまま街が襲われていたと思うとなかなか肝が冷える話だわ」
 砂塵……およびウィッチ・エンジンたちはまっすぐに街を目指していた。仲間が破壊された後も、その行動に変化はない。
 なるほどそれは、いかにもゴーレムらしい……或いは、ある種機械的な行動である。

 ウィッチ・エンジンは残り1体。
 消えかかっている砂塵の中で、その1体は佇んでいた。
 否、砂塵を連れてゆっくりと、前へ進もうとしているのか。
「砂塵であった砂も回収できればいいのですが……無理そうですね」
 ザン、と。
 砂を断ち割る音が鳴る。
 綾姫の飛ぶ斬撃が、砂塵ごとウィッチ・エンジンの顔面を裂いた。バチ、とまるで感電したかのように肩を跳ねさせて、それっきりウィッチ・エンジンは動きを止める。
 膝を突き、頭を垂らし……最後まで前へ進もうとしていたのだろう。
 顔面から砂地へ倒れ伏した残骸の、背にはひとつの傷も残っていなかった。
 
 瞬きもせぬガラス細工の瞳には、精密な魔力回路が刻まれている。
 じぃ、とそれを観察しジュリエットは「おや?」と小首を傾げてみせた。
「やっぱり……似ているわね」
 そう言ってジュリエットが取り出したのは、以前、とある依頼で入手した機械部品だ。ゴーレムの頭部に仕込まれていたそれの模様と、ウィッチ・エンジンの瞳に刻まれた回路は酷似している。
「製作者は同じのようね」
 ウィッチ・エンジンの制作者は、ゴーレムに自身の記憶を移すつもりでいたらしい。仮初の肉体、もしくは新しい身体として使うためだろう、ウィッチ・エンジンは人に似せて造られているのだ。
 反面、強度は一般的なゴーレムよりも脆弱であった。
「まぁ、とにかくこれで依頼は達成ね」
 先ほどまで猛威を振るっていた砂塵は既に消滅している。残るはウィッチ・エンジンの残骸ばかりだが、それは回収するなり、砂に埋めるなりすればいい。
「だったら、俺はゴーレムが埋まってた場所を調べに行こうと思う。すまないが報告はお願いして構わないか?」
 細剣を鞘へと仕舞いながら、イズマは言った。
 
 こうして、ラサの片隅で起きた異変は人知れず終焉を迎える。
 砂塵は消え去り、ゴーレムたちは破壊された。
 彼女たちが、何を考え街へ向かっていたのかは、今となっては分からない。
 否、言葉や意思を持たぬ彼女たちの想いなど、はじめから知る術などは無かったのだ。
 ただ、彼女たちは機械的に街を目指して進んだだけだ。
 彼女たちを掘り起こした、商人の後を追いかけて……。

成否

成功

MVP

蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
ウィッチ・エンジンおよび砂塵は無事に止められました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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