PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>Survivor's guilt

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――Error.

 ――Error.

 ――Error. ......

「――ああ、もうっ!」
 珍しく感情を曝け出し自身のデスクへと拳を叩きつけた澄原 晴陽 (p3n000216)は緊急時用の端末を睨め付けた。
 再現性東京<アデプト・トーキョー>2010街に存在する基幹・澄原病院の地下にはシェルターが設置されていた。仮設したオペレータールームで青庭 乃蛙は「先生」と困惑を滲ませる。
「……失礼しました。練達の機能は壊滅的と言っても良いですね。
 斯うした時に、自身等が如何にしてマザーの恩恵に甘えていたのかを思い知らされるようで――何も出来ないことに腹が立ちます」
 澄原 晴陽と言う女は練達の『澄原財閥』のエリートだ。若くして彼女が院長を務める澄原病院は一族経営であるが為の地位とも言えよう。
 だが、彼女自身は両親や一族の期待に応えようと努力を続けた。所詮は女、跡目を継ぐのは難しいと囁かれようとも努力し、努力し、努力し、努力し――悪性怪異:夜妖<ヨル>への治療方法を編み出すが為に希望ヶ浜で勉学を続けてきた。
 そんな彼女の一度目の挫折は友人の死だった。高校時代の親友だ。そう言うべきだろう。
「はるちゃん」と呼んでくれる彼女は誰からも好かれるような女だと晴陽は認識していた。
 彼女は不幸な恋に身を添わせながらも気丈に笑う女だった。スポーツが好きで勉強が苦手。天真爛漫で花のように笑う晴陽と正反対の彼女。
 高校生という短い青春に、感情表現を得意としない晴陽の側で楽しげに過ごしてくれた彼女は晴陽にとっては大切な存在と言っても過言では無かった。
 それでも、彼女と過ごした日々は短く終わる。
 彼女の身を巣喰った夜妖を若かりし日の晴陽は治療できず――

「晴陽ちゃん、ごめんね」

 ――『彼』が。
 思い出す度に吐き気がする。悍ましいシチュエーション。憎むなら憎めば良いと言葉を濁す彼に『そうするだけの度胸』がない晴陽は泣くことしか出来なかった。
 何も出来なかった自分が、手を下した相手を恨む事が出来るわけがない。
 臆病者は、唯、泣くしか出来ないことを彼とて知っていた癖に。
 二度目の挫折にも『彼』は常に側に居た。不運なことに、命を救うことを生業とする晴陽に『挫折』を与えるのが命を狩り取る『彼』なのだ。
 目の前で起ったわけではないが、情報だけでも晴陽は酷く絶望した。自分の知らない所で、夜妖を理由に『知り合い』が『知り合い』を殺しているのだ。
 それは澄原 晴陽という存在を認識しながらの行いだというならば、澄原 晴陽という女はなんと力不足なのか。何と頼りがいのない、綺麗事ばかりを口にする、何も成せぬ女なのか、と。
 何の因果か。始めは夜妖に対抗する彼の在り方に憧れた。自身も夜妖を祓う力を手に入れ万人を救うなど淡い夢を見たこともあった。……今は、そんな事『ローレット』が為す事なのだと分かってしまっているけれど。

「――い。は―――せい。晴陽先生!」

 乃蛙の呼ぶ声に晴陽ははっと肩を跳ねさせた。考え事をしてしまっていたか。
 澄原 晴陽は友人と呼べる人間が少ない。それは、努力を続けて来た彼女がそうした存在を必要としなかったからだ。
 澄原 晴陽に家族と言い切れる存在は少ない。血は繋がっていても、品定めするようなあの視線を家族と言い切れるか。
「晴陽姉さんは、臆病者ですから」と笑う水夜子との連絡も途切れてしまった。屹度、水夜子ならイレギュラーズと共に居て無事なのだろうが……。

「――ッ、ああ……!!」
 考えている場合か。迷っている場合か。
 此れは自分勝手に彼を嫌っているだけだ。彼は、ただ『当たり前のように掃除屋』だった。そんなこと分って居る。
 晴陽は嘆息し頭を掻き毟った後、苛立ったようにスマートフォンをタップした。 
『彼女』に、詩織さんに続いて、龍成まで――……

『もしもし、珍しいね』

 今、自分にとって一番頼りになると分って居ながら、今、一番聞きたくない声がスピーカーから聞こえだした。


 ナース達、そして合流してくれるであろう音呂木・ひよの (p3n000167)と綾敷・なじみ (p3n000168)に病院は任せることにした。
 晴陽が向かうのは練達の一区画に存在するとある施設だ。R.O.Oへのログインが出来る内でも希望ヶ浜に最も近いその施設には『ログアウトが不能になったイレギュラーズ』の保護観察を行えるようにしていた。
 定期的に晴陽も巡回には行くが、澄原病院のナース達を設置したその場所に何らかの異変が訪れたのだという。
 先程のエラーコードは彼方との接続が遮断されたというメッセージだ。
 龍成を始めとした『一部イレギュラーズ』に関しては晴陽は厭々――と言いながら、実際は彼が頼みの綱だった。腹立たしい!――燈堂 暁月へと連絡し、護衛に向かって貰った。ならば、次は自分自身の番だ。
 デスカウントが上位であるイレギュラーズの中で、今だ『ログアウト・ロック』の掛かっている『R.O.Oプレイヤー』は何らかの異変に見舞われるかもしれないと練達上層部と決定し、晴陽が管理を行っていたのだ。ロックパスワードも、緊急時通路も把握している。
 こんな時でも再現性東京<アデプト・トーキョー>から直ぐに施設へ向かう道も準備しておいた。
 ヒールなど脱ぎ捨てて、晴陽は白衣を揺らがせ施設の中へと飛び込んだ。
「ッ――……ああ……」
 項垂れた女の視線の先には澄原病院に長年勤めていた看護師が倒れている。胸から血を流し、ぴくりとさえ動くことのない女だ。
「澄原先生」
 異世界での同行経験がある事で真っ先に声の掛けられた『Can'dy✗ho'use』ハンス・キングスレー(p3p008418)はやっとの事で晴陽に追いつき、目の前の惨状に息を呑んだ。
「こ、これは……」
「どうやら、何処かからか賊が侵入したか――はたまた暴走したAIの仕業か。どちらかでしょう。
 彼女はもう助かりません。……先を急ぎましょう」
 能面を思わせるかんばせにハンスは息を呑んだ。澄原 晴陽という女は冷静で冷徹であれと育てられた。故に、動じている場合ではないと判断したのだろう。
 今、動じて動けなくなれば失う者が多い。晴陽は慣れた様子でコントロールルームへと飛び込んだ。けたたましいエラー音。
『患者』の管理モニターが異変を関知し続けている。館内施設を映している監視カメラは幾つか破損しているのだろうか。
「……此の施設には私が管理している患者――いえ、『ログアウト・ロック』の掛かって居る中でも特にデスカウント数値が高いイレギュラーズの肉体を管理しています」
 晴陽は僅かな焦燥を滲ませる。ログイン中のイレギュラーズの肉体を護る施設は点在しているが、その中でも此処は『自身のテリトリー』であった場所だ。
 最も安全だと考えていた此の場所が危険に晒されている。彼ら、彼女らの肉体が脅かされれば『ログイン中の意識』は何処に戻るのか。
「守り切りたいのです。此処で管理している皆さんを。
 他の『施設』に対しても、動いて頂けるように働きかけています。弟――テアドールに妨害を受けているイレギュラーズの皆さんには……暁月先輩に救援をお願いしました」
 言い辛そうな、苦々しげな、それでいて、全般の信頼を置いているような。
 晴陽は取り繕う暇も無く「暁月先生と廻さんに任せましょう」と早口で言った後に、管理モニターに向き直る。
「ドローンやロボットによる妨害です。それだけではない。コンピュータ・ウイルスも観測されています。
 ……どうやら『お誂え向き』に戦いやすくして下ったようですね。コンピュータ・ウイルスが『アンドロイド個体』を乗っ取って此方へと進軍してきています」
 モニターを切り替えながら晴陽は淡々と告げた。
「迎撃をしましょう」
 晴陽は静かな声音でそう言った。
 彼女は嘆息してから鞭を握りしめる。
「……これは夜妖『窮奇』と申します。厄災を食べて滅ぼすと信じられたあやかしを封じた鞭。
 これがあれば私も皆さんを頼らなくとも戦うことは出来ましょう。普段は音呂木に保管して貰っていましたが、此の緊急事態に封をしておく程に私も臆病ではありません」
 ばちん、と音を立てて床を叩いた鞭は風の加護を纏っている。
「宜しくお願いします。私が嫌いなことは『人が死ぬ事』なのですから」
 そう言った晴陽は、何かを思い返すように目を伏せた。

 ――もう、二度と。
『はるちゃん』
 そう笑った彼女のような、
『晴陽ちゃん、ごめんね』
 困ったように肩を竦めた彼のような、
『怒らないであげてね?』
 何処か申し訳なさそうに笑った彼女のような、
 結末(きずあと)はいらないのだから。

GMコメント

 夏あかねです。with澄原晴陽。

●目的
 『ログアウトロック』をされた一部イレギュラーズの肉体を守り抜け!

●澄原財閥所有『研究所』
 再現性東京に最も近い位置に存在する研究所です。澄原病院の管理下にありログアウトロックのかかっているイレギュラーズの管理を行っていました。
 澄原晴陽が監督していた施設ですが、この動乱により暴走したロボットやドローン、『コンピュータ・ウイルス』がイレギュラーズの肉体を狙っているようです。
 施設最奥に体が安置され、施設内の至る所にロボットやドローン、『ウイルス・アンドロイド』が蔓延っています。
 其れ等を退け、体を守り切って下さい。
 コントロールルームは地下に存在し、緊急時用の出入り口から直に入ることが出来ます。地図は晴陽が詳しく把握しているでしょう。

●敵エネミー
 ・ウイルス・アンドロイド 15体
 R.O.Oからの侵略。コンピュータ・ウイルスがアンドロイドの肉体に宿ったモノです。
 可愛らしい少女のようにくすくすと笑います。アンドロイドの肉体も『白髪の可愛い女の子』に変化しているようです。
「私は私」「お母様の為なのよ」などと口々に言いながら進軍してきます。

 ・ドローン各種 30体
 ・ロボット各種 30体
 ウイルス・アンドロイドの指示を受けながら施設内を移動する機械生命体です。
 これらの目的は一貫しているのか肉体の破壊を目指しているようですが……。

 どちらも痛みに怯む事が無く壊れるまで動き続けるために脅威となり得るでしょう。
 腕が吹っ飛ぼうと部品が失われようとも、其れ等は完全に停止されるまで襲いかかってきます。

●管理されているPCの皆さん
 11/26時点での『デスカウント』上位 且つ 『ログアウト不可能』のPCの皆さんです。
 また不明を解除して此のシナリオに参加した場合は『肉体に損傷がある』為に澄原晴陽による治療を受けた後でしか行動できません。

 ・ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
 ・ ウェール=ナイトボート(p3p000561)
 ・ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
 ・イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
 ・エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
 ・フラン・ヴィラネル(p3p006816)

 +澄原 水夜子 (p3n000214) ※R.O.Oで活動するために体をここに置いてった澄原家のフィールドワーカー

●味方NPC 澄原晴陽
 澄原病院院長。弟・龍成を心配する澄原家本家のエリート。感情表現がとにかく苦手な才女です。
 弟・龍成とは不運なすれ違いで未だに関係性が良好とは言えず、分家で従兄弟の水夜子を介して連絡を取り合うような関係性です。
 ですが、家族と、自身等の貯めに努力するイレギュラーズを護りたい気持ちは本物です。
 基本の戦闘能力は低いですが、幾つかの夜妖を封じた武器を駆使して皆さんと共に戦います。それによる反動や代償は秘密のようです。

 ・夜妖『窮奇』
 鞭の形をした厄災を滅ぼすと信じられたあやかし。鎌鼬を作り出し風の加護を纏います。

 ・夜妖『マヨヒガ』
 その名の通り富貴を授けると言われた伝承の一部を封じたブレスレットです。攻撃の一部を反射する力を有します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>Survivor's guilt完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年12月17日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
越智内 定(p3p009033)
約束
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

リプレイ


「コントロールルームから施設最奥へ直行、そこに防衛線を構築して近寄る敵を迎撃。よろしいですね?」
 端的に情報を整理した『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)に澄原 晴陽は「簡単に言ってのけますね」と僅かな焦燥を滲ませて言った。
 エマージェンシーを告げるモニターを眺めた晴陽のかんばせは常の冷徹さを忘れたかのようである。
 時間が無い。そうは思いながらも、この場で最も必要なのは90%の冷静さと10%の激情。戦場であるからこそ冷静に。それで居て身を焦がす激情と共に駆けるのだ。
 息を吐く。晴陽が示した保護されたイレギュラーズのネームプレートを確認して、『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)が唇を噛みしめる。
「待ってろよ、べーやん、フランちゃん、石油王、皆……この俺が絶対護り抜いてやるからな。
 だから無事に帰ってきたら回らねえ寿司食いに行こうや。もちろん石油王の奢りでな!!!」
「奢り、……そうですね。奢りで。晴陽先生もどうですか? 功労者になりえるでしょうから」
 この状況下であるからこそ軽口だって必要だ。『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)の言葉に晴陽が驚いたようにアメジストの瞳を瞬かせ、唇を震わせる。言葉に迷ったか。それとも、応え倦ねたかは定かではない。
「澄原先生」
 その名を呼んだのは、何度目だっただろうか。
 希望ヶ浜にある澄原病院の院長先生。其れだけの存在だと認識していたのに、こうして仕事を斡旋してくれる程になるのだから。
『天駆ける蒼』ハンス・キングスレー(p3p008418)は人間の縁とは、馬鹿にならないと感じながら彼女に向き直る。
「……ありがとう、呼んでくれて。恩に着るよ、澄原先生」
 唇が、大丈夫だと揺らめいた。それは自分を安心させる意味でも、彼女を安心させる意味でもある。
 第一印象はぶっきらぼうで、少し怖い。冷ややかな瞳を持って落ち着き払った冷徹な女性。
 希望ヶ浜に住む『凡人』越智内 定(p3p009033)にとって澄原病院は馴染みのある場所だった。
 何らかの怪我があれば搬入される、丘からよく見える大病院。そんな場所の院長である彼女に抱いた印象が大きく違っていた気さえする。
 彼女は、優しい。優しいながらも本心をひた隠す。其れが大人であるからかは分からない。
「澄原先生。人が死ぬ事が嫌いじゃない人なんていないよ。……だから先生も無理しないでくれよ。
 それにイレギュラーズを守りたいって言うならさ、戻ってきて居ない人たちが帰って来た時に診て貰わないと困るよ」
「そう――ですね」
 医者ですから、と呟いたその言葉に大きく頷いたのは『善性のタンドレス』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)。
「晴陽さん。わたしの望みはみんなを救い助けること。誰かを死なせるなんてさせたくない。安置されている人も、ここにいる仲間も。
 ……わたしだって医者を目指してます。技術はたりなくても、覚悟なら十分あります」
 自身が目指した『道』の先に立っている彼女。医者として生きている若い女医の背を追いかけるように。医術士を目指す自分自身。
 ココロは『心』を示す。覚悟だけは屹度、晴陽にも負けないのだと示した彼女に『エルフレームTypeSin』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)はこくこくと頷いた。
「練達の危機、やるですよ!
 ブランシュも出来る事があるですよ。みんなを護って、笑顔で明日を迎えるですよ! 新人かもしれないけど、新人にも意地があるですよ!」
 ブランシュにとって、並んだ名前に対して、縁が紡がれた『記録(データ)』はない。時折ローレット等で顔をつきあわせることはあるかもしれない。
 赤の他人とは言い切れず、同業者とは称すれど、友人と呼ぶには浅すぎた。
 それでも、護ってみせるという気概はそこにある。ブランシュの意地に「ああ」と頷いたのは『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)。
「R.O.Oにログインしてる最中の奴らを狙うとは、随分とクソッタレな連中なこった。
 オレに関わりのあるとかないとかじゃねぇっス。
 ――イレギュラーズが危険な目に遭ってんだ、これを助けなくて何が仲間っスか。メシ奢ってもらうのは賛成っスね、張り切って恩を売っちまうか」
 皆で寿司を楽しもうと笑った葵に頷いて、一行はコントロールルームを飛び出した。寛治が晴陽に「案内を」と静かに告げた声音だけが暗い廊下に響いていた。


『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)にとって、正直な話をすればR.O.Oについて――ProjectIDEAについては詳しくはない。何が起こっているのか、どうしたらいいのか。其れさえも『老い耄れ』と自身を称するバクルドにはさっぱりだった。
 それでも、この事態を打開するために此処に安置されている仲間の体を護る。彼らは『別の場所』で戦っているのだ。其れを見過ごして知らぬ存ぜずで終われるわけもない。
「俺達の戦いもまた分水嶺ってことだなぁ! 死ぬ気なんざ毛頭ないからここにいる奴ら全員生きて守り切るぞ!」
 堂々と笑ったバクルドに無機質にも、こくりと頷いたのは『龍成の親友』ボディ・ダクレ(p3p008384)。
 突出せぬように。気を配って移動を開始する一行と共に、ボディは進む。傍らに立つ晴陽――その手に握るのは夜妖の力が封じられた呪具だという。
「誰一人、欠けさせてなるものか。この場所で誰かが死ぬなんて、あの時だけでこりごりだ。来るなら来い、機械たち。迫りくる全部を、破壊する」
 淡々と告げたボディはそれに『澄原晴陽』も含んでいるのだと敢えてその場では口にしなかった。
 彼女に告げたい言葉は沢山ある。それは、彼女の弟の言葉を借り受けた一字一句。リンディスが晴陽から聞いた施設内の詳細地図。そして、それを生かした広域へ至る確認。自身等が分断されぬように時を配るリンディスの言葉を逃さずハンスは仲間達へと伝令し続ける。
「晴陽さん、一気に移動するよ。それから、防衛ラインを作るのを手伝って。……あと、それは……?」
「ああ。これは夜妖の力を封じた呪具です。夜妖『マヨヒガ』――その力の一端を封じた結界式。それから、こちらは夜妖『窮奇』を封じた鞭です。
 夜妖を『狩った』際に殺さず封じたことで、その力を借り受けることが……まあ、擬似的な夜妖憑きとなりえる力です」
 ココロは眉を寄せる。淡々と告げる晴陽の説明を聞けば聞くほど、それはその身に負担が掛かるのではないだろうか。
 それでも、ココロは彼女を無理に押しとどめたくはなかった。『わたしはわたし』『あの人はあの人』。個人的に主義主張があるのは当たり前だ。
 負担が多く掛からぬように、ココロは彼女の前に出ると決意する。最短距離を走るエースストライカー葵も同じであった。
 あまり大きく関わりはしない。自身達には自身達の、晴陽にだって考えることがある。感情に引き摺られて必要以上の無茶をしないのであれば、それはそれでいい。
「おいアンタ、向こうに取り残された弟がいるんスよね? 加勢はありがたいがあんま無茶すんなよ。
 防衛はオレ達に任せるっス、なーに心配すんな……ここにいる連中はそう簡単に折れたりしねぇっスよ!」
「……はい」
 頷いた晴陽が「次の角を曲がります」とリンディスに告げる。千尋は自身の方向感覚を活かして晴陽のサポートに従い続ける。そうして、『道』を選び最短での行動を行う事が先決――だが。
「やーっぱ居るよなー?」
 千尋が肩を竦めれば、リンディスは「押し退けましょうか」と囁いた。一瞥すれば晴陽も鞭を構えたか。
 千尋は「晴陽センセイ」とその肩をぽん、と叩いた。リンディスの視線も『今の彼女』を覚えるためのものなのだろう。
「センセイあんまり無理すんなよ! いや俺アンタとは初めましてだけどさ!
 なんかこう、代償的なアレがアレなんだろ? だーいじょうぶ任せとけって!」
「ですが……」
 この場でお荷物にはなりたくないのだと告げる晴陽にボディは『機々怪々』と名付けた禁忌の妖刀を握り込む。
「澄原晴陽には夜妖を使うにしても無理のない範囲にするようお願いしたいです。
 貴女に何かあったら私は嫌だが、それ以上に龍成が悲しむ。そこだけは覚えていてくださいよ。龍成は貴女のこと、慕っていますから」
「龍成、が」
 晴陽はボディを見上げた。生憎、弟からは何も聞けては居ないが――忌々しいとは今はいっていられない高校時代の先輩兼現状ではある種の同業者である燈堂暁月曰く――彼とは親友同士として仲良くしているらしい。ボディのその言葉が龍成の気持ちであるならば、受け止めなくてはならない。
 弟か。そう呟いたバクルドは固定砲台の如くその場に堂々と立ち塞がった。
「俺達は後悔しないために後悔させねえためにここで戦ってる!
 だからお前さんもお前さんが後悔しないために誰かを後悔させねえために勝って笑うためにやれることをやれ!」
 自身の信念――唯一、家族と呼ぶべきだと認識していた弟を護るための自分を否定しない彼ら。
 僅かに緩みかけた表情に小さく笑みを零してからハンスは「蹴散らすよ」と囁いた。カルペ・ディエムに伝わる大いなる意思。錬金術は鉛の様な想像さえも昇華する。
 青年は止まらぬと言わんばかりに腕を伸ばした。それは救いであり、命の収奪。
「澄原先生、ここは貴女の城でしょう? 貴女は思うままに踊れば良い。
 ……最も後悔するのは、何もできないこと――文字通り荷物になりたくなければ、無理はしない様に」
 止めるわけではない。引き際を心得ろと告げるハンスに頷いて晴陽は前方、進行方向を遮るドローンを指さした。
「彼方に」
「了解、っと」
 夜空を裂いた鮮紅の雷霆に暗黒を照らす真白の眩耀。其れ等をモチーフにしたガントレットに包まれた拳は、希望を開くように雷撃を落とす。
「邪魔しないで欲しいですよ! 君たちも命令に従ってるだけだろうけど、壊すしかないですよ!」
 唇を尖らせたブランシュの妖刀式超大型メイスが血を啜ることを求めるように機動の慣性を活かしてドローンとを断ち切った。
 葵に続いたバクルドは鋼の驟雨を降らせながら「まだまだ出るか!」と呟いた。
「その様ですね。さて、此の儘押し通らせていただきましょうか」
 眼鏡の位置をただし、紳士用ステッキ傘を構えた寛治は『仕込み傘』から鉛の雨を降らす。
 鈍い音を立て、落ちるドローンがぎゅるんと目を回したように沈黙した。共に存在するロボット達の救援信号など届ける前に遮れば良い。
「進みましょう」
「はい。後はどの位ですか?」
「……次の角を曲がれば到着です。其方に到着次第直ぐに保護観察を行います。皆さんは迎撃を」
 迷いが晴れたか、晴陽の言葉にリンディスは「了解しました」と頷いた。千尋が「晴陽センセイ、転ぶなよ~?」と揶揄い笑い手を差し伸べる。
「転びそうでしたか?」
 ぱちくりと目を丸くした晴陽に戯けて見せた千尋は「さて?」とはぐらかし、定は「揶揄ってあげないで」と肩を竦めた。
「ハンスのおかげで全体の進みが早いしな、通り道を作った方が早いっスね」
 さて進もう。走り出す葵の脚は淀みなく。急ぎ足のブランシュの背を眺めながら定はきゅ、と唇を噛んだ。


「ビビってるのかい、越智内 定」
 呟けば、それはその通りだと告げるようだった。
 一緒に遊んで、話して、笑って。お泊まり会だと学校で過ごしたり、R.O.Oでだって集合して遊んでみたり。
 そんな、何気ない日常が当たり前に続くと思っていた『臆病者』の越智内 定がそこに立っている。
 ハンスは彼らを喪いたくないと我武者羅に走った。寛治も仲間の窮地を救うべきだと冷静に言って居た。
 ココロは、一つ年上の彼女は未来に対して希望を持った。その責務を果たすべく戦うらしい。
 ブランシェは、随分と年下なのに臆することはない。ただ、助けるという目的を果たすために走っている。
 老い耄れだと、状況は知らぬと言いながらバクルドはそれでも何処かで努力をする仲間の為だと戦いを挑み、葵だって我武者羅に走って行く。
 寿司を奢らせようと笑った千尋に、冷静に場を見極めたリンディスも『普段の仲間』の体がそこにあると知っていた。
『誰かに死んで欲しくはない』と告げた晴陽も、ボディも。
「どうしましたか?」
 問うたリンディスに定は「ううん」と首を振った。別に『護るべき彼ら』に認められたいだとか、そんな大それた事は思っちゃいない。
 ただ――生きるなら。下を向いて歩きたくなんて無かった。

「……彼方です!」

 晴陽の声音に定ははっと息を呑む。固く閉ざされた扉。だが、それを強行突破する必要は無いか。
「オラオラ道を開けやがれ! 『悠久ーUQー』の伊達千尋のお通りだァ!!」
 勢いよくその身を投じる千尋に道を任せ、寛治が護衛役のように晴陽を誘う。周辺を警戒するリンディスと共に後方を確認する定はごくい、と息を呑んだ。
 肉体を安置し、健康管理を行っているのは晴陽だ。故に、彼女が首から提げていたカードキーこそが扉を開く鍵となる。
「……どうやら認証システムは動いているようですね」
「それは幸いです。まだ開かれていなかったのであれば、此処で防衛陣を張るのでしたね? ココロさん」
 晴陽に頷いたココロは「ここで全てを受けて立ちましょう!」と声を張る。敵を引付けるのは寛治が。ならば、その傍らに立って自身が支えるのだと前線へ向かうココロの魔導書はタンザナイトの輝きを揺らしていた。
「さって、防衛戦ッスね。……1点たりともゴールはさせねぇよ」
 R.O.Oから帰らぬ仲間達。眠っているかのようで、まるで死体にも思えるほどの血の通わない姿。
 其れを見下ろしてから葵は『閉じることの出来なくなった』施設の扉を睨め付けた。相手も用意周到だ。此方が扉を開ければ、二度とは閉められないように攻めてくるか。
「コンピューターってのは頭が良くて困る!」
 揶揄うような、そんな声音でドローンによる偵察を確認した葵が地を蹴った。完全に壊れるまで動き続けるのはその肉体に痛覚が存在しないからだ。
 墜落を確認し、動きを止めなくてはならない。数が集まり、より多くを鎮められるタイミングを虎視眈眈と狙い続ける。
「コンピューターというものは凄いな。老い耄れにゃ、分からねぇが……関係ねぇな!
 前には抑える仲間が居て後ろには継戦能力を支える仲間がいる、憂うことなんざ何もねぇな!」
 からからと笑ったバクルトは大型拳銃を構える。固定砲台としてひたすらに鉛玉の一つでも多くを叩き込む。
 その『的』を担うのが寛治だ。冷静に、そして、何処までも冷徹に。まるでビジネスチャンスを見極めるように目を凝らしていた寛治は晴陽へと「何らかの支援は行えますか?」と問いかける。
「ええ。システムがウイルスによりハックされているならばこちらで取り戻します。ひとまずは己の身は己で守りますが……」
「いいえ、貴女が攻撃の的にされることはないでしょう。何故ならば、前に立つのは我々だからです」
 淡々とそう告げて、棒立ちになって見せる寛治に向けて複数のドローンが襲い来る。「ひゅー!」と囃し立てた千尋が竦む足を無理に立たせる定の肩をぽんと叩く。
「おいジョー、お前の男を上げるチャンスだ。多分どっかでなじみちゃんも見てるぞ!」
「なじみさん!? いや、見てる方が危ないだろう」
 慌てた様子の定の傍らを通り抜けてから千尋は髑髏をモチーフにした指輪に魔術を走らせた。それはこの世に繋ぐ鎖から解き放つ魔性の一手。
『堕天使の寵愛』を受けた千尋の前で、魂を固定させウイルスに侵された『機械人形』は敵ではない。
「ガタガタうるせーよボケが! かわいい顔してたって騙されんぞ!」
 千尋の攻撃を見つめながらも、ブランシュはむうと栗眉宇と尖らせた。複数を狙ったのは蜂の集中攻撃を思わせる痛烈なるメイスでの突き。
「お母さまは、そんな事望んじゃいないですよ。バグに囚われた存在なら、バグを取り除くのがイレギュラーズですよ!」
 そこにいたから、守っている。千尋の様に『べーやん』や『フランちゃん』や『石油王』との面識があるわけではない。
 エルフレームシリーズ――そのtypeSIN。存在しないはずのメモリーが騒いだ。魂の奥底に記録されていた何かが言う。守れ、と。守れ。イレギュラーズを支え、護るのだ。
 心が叫んだからこそ。ブランシュは戦い続ける。ログアウトロックされた肉体を守るためならば攻撃の手を休めてその体を擲つ事も辞さなかった。
 ブランシュは「ブランシュが、みんなが。守り抜くですよ。でも程々にお願いしますですよ」と晴陽へと声を掛ける。
 その肉体(からだ)が通常の人ならずとも。幼い少女の決意を無碍には出来まい。
 ハンスはこの戦いが防衛戦であるならば、目の前の敵を撃破していくだけだと言った。念には念を。人間の命を奪うのとは違う。機会を『壊す』とは最後の最後までを見極めなくてはならないのだ。
「……ジョー、ビビってんのか?」
「はは、そりゃ、そうでしょ。ビビるさ。千尋さん」
 唇が震えた。定はその両足に力を込める。そりゃあ、そうだ。彼のように絶海で敵へと飛び込む勇気も無い。
 悠久の風に乗ることも出来ない――越智内 定は勇者なんかじゃない。
「見てみなよこの光景を。小さい頃に見た映画そのものじゃないか」
『お前』に何が出来るんだ。『お前なんか』居ない方が、やりやすいだろう。そんな、悪魔の囁きが頭の中をぐるぐると回った。
 何時だって傍に居たネガティブな僕。照らしてくれる太陽がなけりゃ、ちっぽけすぎて笑ってしまう『僕』だ。
「行かせはしません」
 リンディスの声がした。
「行かせなど、しません」
 ペンが、魔力を宿す。描かれた其れが、ココロの身を包み込む。
 女の子が戦ってるのを見過ごすような男だったか? 越智内 定。
「わざわざ人型になってくれたのです、大変斬りやすくて結構」
 捨石の中に潜んだ本命を掴み取るだけの力を持ってきたボディは手を伸ばす。
「私は単体戦闘特化、一人を確実に倒すことに力がある。ただ同じ言葉を吐くだけのウイルスに、一対一で負ける訳にはいきません」
 その決意を見ているだけでは我慢ならない。彼と同じ気持ちを持ってきたはずだ。逃げる理由になんか、なりやしないのだから。
「僕はこの人達と、この街を守りたい」
 今はそれだけでいいと定が敵を薙ぎ払った。
 定の傍らから風の如く前線へと飛び出したボディは拳を固める。
「殺させはしない、誰も、絶対に」
 叩き切れば腕に衝撃が走った。固い。だが、それに臆するわけがない。ボディは淡々とアンドロイドを屠る。
 其れ等が腕一本落とされようとも動くのならばコアの位置がそれぞれ別物だとするならば。ボディ・ダクレは『兵士』として完膚無き儘に壊し続ける。
「この先には『可能性』が眠っているのです。
 数多の物語を紡ぐ、そんな人たちが眠っているのです――眠る狼達には決して、手を出させません」
 リンディスは敢えて『黒狼』を遠くから見ようと距離をとった。そうしている間に、気付けば皆が取り残された。
 それは寂寞ではない。離れていたことが好機となったのだ。こうして、彼らを守れる。彼らを守るだけのチャンスがあった。
 それが自身を納得させるためのエゴであれど。本来のリンディス=クァドラータは『記す』者。傍から見る観察者であったはずなのだ。
 今、この胸に宿した気持ちが。この行動が、本来の自分の姿と懸け離れていても間違いなどとは言わせない。
「サポートします!」
「……ありがとう!」
 ココロの微笑みにリンディスは頷いた。軍略よ、未来を教えて呉れ。癒し手達よ。守るだけの力を。書より――現代へ!


 ――残された者になんて、なってやらない。守る、護る、救ってみせる。

 ハンスは唇を噛みしめた。その瞳に乗せられたのは怒りだった。苛立ちだった。
 リンディスのような自己を納得させるエゴイズムではない。其れをも越えたハンスの苛立ちは何処にもぶつけようがないもので。
「ベネディクトさんも、フランちゃんも、ルカ先輩も。阿呆だ、救いようのない大馬鹿どもだ」
 そう呟いた。向こう見ずで、無茶ばかりして、そのくせ真摯に精一杯で。
 そのくせ、そう、その癖だ。人の気持ちなんて知らないで、そうして勝手に居なくなって、今も此処で眠り戦っているのだ。
 そんな彼らに虫がわらわらと集る。その肉体を求めてやってくる。
「気持ち悪い」
 虫唾が走るのだ。気持ち悪い。
 吐き気がする程に惹かれる『あれ』を――「渡してなんて、やるものか。あの人たちは、僕……らのだ!」
 激情を攻撃に乗せた。ハンス・キングスレーにこの場での冷静さは必要なかった。
 冷と激。相反するその気持ちを宿して、アンドロイドらを追撃し続ける。
「ヘイ! 俺そろそろガス欠になりそうだよ! 回復の使い時!」
「ふふ、承知しました」
 リンディスちゃんと呼んだ千尋にリンディスは頷いた。傷だらけになろうとも、ここで彼らを護ってみせると決めていた。
 ペンの先が描いた支援の魔術は魔力の波となり千尋を包み込む。
「数が多いっスね! しかも、怯まないと来た。中々骨が折れるっすけど――」
「それでも、此方の方が堪え性はありそうですよ?」
 ココロの笑みに葵が違いないと頷く。アンドロイドもドローンも。どのみち全てを破壊しなくてはならない。
 巡回中に破壊した物以外。ウイルス・アンドロイドを名乗ったそれがくすくすと笑いながら近付いてくる。
「まるで『Alice』ッスね」
 呟いた葵に「そっくりではありますね」と寛治は頷いた。どうやら、彼女はこの場のイレギュラーズの肉体を狙いに来たのだ。
 ……何らかの技術を用いて体を乗っ取ったならば? それはどれ程に恐ろしいか。
 鳥肌が立つような気持ちの悪さを感じてハンスが「うえ」と小さく呻いた。葵は「趣味の悪い女の子だ」とこの場には居ないバグNPCへと毒を吐く。
 R.O.Oという特殊な技術を用いた練達の叡智。練達のコントロールを離れればこうも騒ぎになるのだとバクルドは驚いたように呟いて。
「まあ、いいさ。こっから先はネジ一本通さねぇぞ!
 行くぞ、若いの! 勝つぞ! 勝って笑って! 後ろで寝てる連中の財布ひっくり返して大宴会だ!」
 そんな軽口にボディは「成程。宴会ならば龍成も呼んでも良いですね」と首を傾ぐような仕草を見せた。
「はい! ブランシェが護りますですよ!
 こちらを攻撃するのはやめてー! ですよ! 今のうちにお願いしますですよ!」
 庇う用に身を滑らせたブランシェに頷いたのは千尋。『力』も万全。寛治を庇うココロと交代を行いながらも出来る限りの継戦を行うリンディスを一瞥する。
 女の子が頑張っているのだ。此処で諦めるわけにも行かない。
 定は自身が何も倒すまで行かなくても良いと考えた。「千尋さん、後は頼むよ……!」と告げれば「OK!」と青年の笑う声がする。
 ハンスは意識しながら自身を支えてくれる仲間達の恩恵に預かり、天井をすれすれに飛びながらドローンを追撃し続ける。
「ドローンはこれ以上なさそうッスね?」
 葵に頷いたココロは「後はアンドロイド……」と息を呑み――
 寛治の傍を通り過ぎた弾丸ひとつ。「あ」と声を発したココロがぐるんと振り返り晴陽が走り出す。
 その腕に揺らいだマヨイガ――だが、肩をぐん、と掴んでから千尋は唇を吊り上げた。
「ナメんなよ……『悠久ーUQー』は仲間を見捨てねえんだ。
 ここで俺が踏ん張んなきゃ帰ってきた連中に合わせる顔がねえだろうがよ!!!」
 身を投じる。弾丸を受け止めて、脚に力を込めて千尋が睨(がん)を付ける。
 その視線に頷いた葵がアンドロイドに風穴を開ける。良くも自身の傍をすり抜けたなと言いたげな、寛治の弾丸が雨の用に降り注ぎ、バクルドが続く。
「これ以上は、させないのですよ!」
 ブランシェが拗ねたように一撃を放った。
 ばちん、と大きな音を立ててアンドロイドの体が地へと叩きつけられる。
 最奥の安置ルームの中の電気が暗転し、ぱちん、ぱちんと音を立てながら薄ら明かりが付けられた。
「敵勢反応は、消滅しました」
 肉体の保護を行っていたシェルターに接続された緊急電源を用いて、館内の様子を確認していた晴陽は静かにそう呟いた。
 呼吸をしていることは分かる。だが、指先一つも動かない。眠っているか、死んでさえいるような仲間達の姿。
 それらに傷の一つも残さぬ結末(さいご)を齎せたことにハンスは「守れた……?」と呟いた。

「―――っ、やったー!」

 ぴょんと跳ね上がって大仰に喜んでみせるココロはぎゅうと晴陽に抱きついた。突然の出来事に目を白黒とさせて「え?」と瞬く晴陽にココロは「だめ!」と首を振る。
「嬉しい時は嬉しいって周りがわかるようにして示さないと。あなたも」
「わ、私もですか? ええと……う、うれしいです。や、やったー……?」
 万歳をするような、そろそろと確かめるように仕草を真似てみせる晴陽を見遣ってから葵とバクルドは顔を見合わせる。
「さてさて、此処でのミッションはコンプリートです。
 彼らには、身体を守ったお礼を頂かないとね。再現性銀座で、回らない寿司といきましょうか」
 起きたら、という注釈を付けた寛治に千尋が「ヒュー!」と口笛を吹いてから、座り込んでいた定の肩を抱く。
「ジョー、石油王に何奢って貰うよ。良い奴選べよ?」
「え、ええ……」
 余り経験が無いのだけれどと呟いた定にハンスは無事に守れたことに安堵したように胸を撫で下ろす。
 寿司の話を出来ることこそ、日常が戻ってきた瞬間だとも思える。
「あっ、そういえば事後報告ですが龍成と同じ家に住むことになりました」
「……え?」
 驚いたように晴陽がボディを見遣る。それは同居を否定したわけではない。
 同性同士、仲の良い者同士ならば良くある事なのかも知れない。澄原晴陽には経験は無いが。
 ……異性と同居すると言われればこの身持ちのお堅い姉は「責任はとれるのですか」「何を考えているのですか」「両親との挨拶は」と叫んだことだろうが、晴陽の目の前に居るボディは筋骨隆々とした男性だ。そこを問題にしたわけではない。
「龍成、まだ家に帰らないのですか」
「初めてのことで、端的に言えばとてもワクワクしています……え?」
「澄原的には、彼は家出状態でして……悪いのは暁月先輩ですね? 此処を出たらこの鞭で叩きましょう」
 ――廻との『いざこざ』があった故に、長らく家には戻っていなかった龍成がボディと同居を始め、澄原家に戻らぬ事を察した晴陽の暴動にリンディスはくすりと笑った。
 嗚呼、先程までのひりついた空気は何処へやら。
「お腹が空いたのですよー! お寿司奢ってもらうですよ!」
 そんなことを言って見せたブランシュに定は痛む傷を抑えて「千尋さん、良い店は知っているのかい?」とaPhoneを取り出した。
「……圏外」
「ええ。『一先ず』のミッションはクリアしましたが、残るはセフィロト中枢――マザーですか」
 眼鏡の位置を正してそう告げる寛治に晴陽は小さく頷いた。
「それでは、全てが済んだ後に寿司で大宴会ですね。……お誘いをお待ちしております。これでも財閥の娘ですので、舌は肥えてるのです」
 軽口を交えた晴陽を見詰めてからハンスとリンディスはふ、と吹き出したのだった。

成否

成功

MVP

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人

状態異常

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)[重傷]
華蓮の大好きな人
リンディス=クァドラータ(p3p007979)[重傷]
ただの人のように
越智内 定(p3p009033)[重傷]
約束

あとがき

 ご参加ありがとう御座いました!
 時系列は【不明解除される前】です。

 あ、私は白身魚とエビでお願いします。

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