シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>星々は瞬き、そして消えるか
オープニング
●星を見る人
「サンディ、ベーク! とにかく観測情報を片っ端から聖騎士たちにとどけるぞ!」
アストリアの管轄する大聖教会、その一室、星読みのプラネタリウムへと改造されたその場所で、アストリア、そしてR.O.Oのサンディ・カルタ、ベーク・シー・ドリームはあわただし気に多くの書類を抱えて走り回っていた。
R.O.Oにおける決戦ははじまり、今や世界は激動のただ中だ。正義国は決戦のため、聖騎士団の殆どを派遣し、首都の防衛は手薄となっている。
「その絶好の状況を、ワールドイーターどもが利用しないはずがない!
よいか、『視える者達』によってワールドイーターの攻撃が感知できるようになったとはいえ、先に動くのに必要なのはやはり予知……『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』の力じゃ!
とにかくかたっぱしから、奴らの動きをよむ! それを騎士たちに共有する!」
「分かってる! 守るための……これが俺たちの戦いだからな!」
サンディは笑って頷いた。
「もう迷わない、間違わない……! ベーク、頑張るぞ!」
「は、はい! もう、張り切っちゃって……!」
苦笑しつつ、ベークが書類を持ち上げる――同時。その書類が、突如『虚空へと消えた』。
喰われた、と本能的に、ベークは察した。同時、かつて覚えたような頭痛が、甲高い音と共に訪れた。
「サンディ君……これって!」
ベークがとっさに叫ぶ。同時、聞き覚えのある耳障りな声が、辺りに響いた。
「ほっほほほ! ここが彼の予知の場。
我々ワールドイーターに対抗する矛にして盾。
カレイドスコープのプラネタリウム、ですか」
ぱち、ぱち、ぱち、と、声の主はゆっくりと拍手をする。紳士然とした風貌。ステッキ。そして、醜い老人のような姿は。
「……ワールドイーター! あの時の!」
頭を抑えながら、サンディは叫んだ。かつて、ザクセルの街を食ったワールドイーター……討伐出来なかった敵だ!
「『紳士』とお呼びください。まぁ、あなた方の名付けたコードネーム『奇怪なる老人』でも。
ああ、今日は一人ではありません! 友人たちもつれてきております!」
恭しく一礼をする、老人。同時、蔵影から現れたのは、バレリーナ然とした女、そしてのっぺりとした白の仮面をつけた怪人である!
「くるくる、くるくる!」
バレリーナが狂ったようにそう言って、くるり、と回った。白仮面は無言で佇んでいる。
「ああ、『プリマ』、そして『マスク』です。そのままでしょう? その方が親しみが持てるというもの。
それで、ええ、此度の目的は……」
「星読星域じゃな?」
頭に響く頭痛をこらえながら、アストリアは言った。
「たわけた連中め。汝らの目的は今しがた読めたわ。
10の聖遺物の破壊。そして、レーダーたる『エンピレオの薔薇』を埋め込んだ星読星域の破壊が目的じゃ」
「それと、アストリア様。貴女を味わいたい」
紳士は嘲るように一礼。
「正義の改革のために戦う聖女。多くの民に慕われる貴女。
ああ、そんなあなたが突然存在しないことになったら――どのような怒りが、悲しみが、困惑が、生まれるのでしょう!
私はそれを! 喰らいたい!」
両手をあげて叫ぶ老人。アストリアは「べぇ」と舌を出した。
「だーれがお前なんぞに食われてやるもんかえ。
……サンディ、ベーク。妾も、多少は聖術を使える。目くらましをして、逃げるぞ」
「……けど、それじゃ星読星域が……」
サンディが言うのへ、ベークが答えた。
「ワールドイーターに『食われた』なら、後でも取り返せる……!
最悪なのは、喰われたことが発覚するのが遅れてしまう事です……!」
「そうじゃ! 妾たちは追い詰められとるが、まだ詰んではおらん! とにかく、妾たちだけでも撤退せねば……!」
「なラ、手伝わせテもらウ」
ふと、風が舞った。
三人が視線を送ると、目の前には、一人の怪人の姿がある。
「……汝! あのバケモノみたいなあばたぁ? の奴か!」
アストリアが叫ぶ。アバター……Gone(p3x000438)が肩をすくめる。
「えーと。一応、僕もいます」
にゃー、と手をあげるムー(p3x000209)。
「ムーさん……! 助けに来てくれたのですか!?」
ベークが言うのへ、ムーは頷いた。
見れば、その周りにいくつもの光の柱が立って、次々と人影が……特異運命座標たちが転送されてくる。サクラメントによる転送の結果だ。
「ええ、緊急クエスト、との事で……敵は、前にも遭遇したワールドイーターですね……」
ムーが言うのへ、老人は笑った。
「ほっほほほほ! あの時の! まさかまたまみえるとは、良き日ですなぁ」
「黙レ」
Goneが言う。
「お前は気に入らん。あの時は撤退を優先しタが、今日ハ違う。
殺す。必ず、殺す。
その腐った性根、この世界から塵一片も残さず消滅させてやル」
「ほほほほ! 良いでしょう。ですが、あの時よりも私は力を増しております。
加えて、友人たちもおります故……再び敗北を味あわせてしまうやもしれませんが……?」
「くるくる! くるくる!」
「……」
「うわぁ、変なのがいますね。変なのには、変なのが友達になるものですね……」
ムーがゆっくりと構える。仲間達も、合わせるように構えた。
「よろしい、では世界の命運をかけた舞台を始めましょう!」
老人の声と共に、戦いの火ぶたはきって落とされる。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>星々は瞬き、そして消えるか完了
- GM名洗井落雲
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年12月08日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●星読みの危機
「ほっほほほ! 随分と血気盛んですなぁ」
老人が笑う。それは、ただの老紳士ではない。悍ましきワールドイーター、その一体だ。
老人の周りには、まさにその名の通りバレリーナ風の『プリマ』と、これまた名前通りに白い仮面をつけた『マスク』なるワールドイーターがいる。
一方で、この星読みの間、言ってしまえばプラネタリウム施設のような形状をしたこの部屋には、主であるアストリア、そしてアストリアを護る聖銃士であるサンディとベークの姿がある。さらに、『薔薇を追う』♱✧REⅠNA✧♱(p3x000665)を始めとする、特異運命座標たちの姿もあった。
特異運命座標たちは、『偽・星読星域』を、そしてアストリアとサンディ・ベークを護る様に、ワールドイーターへと相対する。
「おれが来たぜ! って思ったら、この間のワールドイーターかよ!
それに、後ろの二人はこの前のにーちゃん達だなー。
仲直りはできたんか? 今度はあんまり無茶しちゃダメだぜ。
今日は前線をおれ達が張るから、守るべきものは頼んだぜ!!」
『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)が、むむ、と唸った。そのまま、じっ、と老人を睨む。
「あの時倒せなかったのは、おれ達の不手際だからなー。今度は逃げない、逃がさないぜ!
ぜったいに、やっつけてやる!」
明確な敵意をぶつけられて、尚老人は余裕の表情を見せた。一度は特異運命座標たちを撤退に追い込んだが故に、調子に乗っているのだろうか。
「ほっほほ! いやいや、あの時のお嬢さん。あなたの味も、味わってみたくなりましたなぁ!」
「べー、だぜ! お前はもう、なにも食えない!」
「そうっスね。ああ、でも、アストリア氏を喰らいたいとは、変質者ミミック的には気が合いまスねー。
アストリア氏はちっちゃくて、可愛くて、ちょっと強気で、箱ん中に引き込んだら楽しいと思うんスよ」
冗談めかして言う『うわキツ』ミミサキ(p3x009818)。当のアストリアはげっ、と悲鳴をあげた。
「おい、Goneとか言ったか!? これも汝の仲間か! 祓ってもよいのか!?」
「……冗談ダ。軽く流してやれ」
『遍在する風』Gone(p3x000438)が肩をすくめる。
「ふっふっふー、その通り、ちょっとしたジョークっスよ。
それに、怒り・悲しみを起点にするあのじーさんと、趣味・煩悩を起点にする私とじゃあ、気が合うわけがないでスよ。
所で、アストリア氏。お仕事が終わったら箱の中に」
「入らんからな!?」
アストリアが杖をぶんぶん振って拒否した。かわいい、とミミサキは思ったり。
「さておき」
こほん、と咳払いするのは、『AzureHarmony』アズハ(p3x009471)だ。
「皆さんは『偽・星読星域』と皆さん自身の身を守ることを優先してほしい。
攻撃への参加は余裕があればで構わない。
『偽・星読星域』や皆さんが狙われたら、俺達が援護する」
「……やはり、敵の狙いは『偽・星読星域』。そしてアストリア様、なのですね?」
サンディがそう言う。アズハは頷いた。
「『偽・星読星域』は、正義国がワールドイーターに対抗する要。それに、今の決戦にも有効打になりえるはずだ。
それをほうってはおかなかった、って事だな」
「だからサンディくん、ベーク、アストリアは自分の身を守ることを最優先にしてね?
君らが傷付いたら悲しくなってしまうよ」
『青の罪火』Siki(p3x000229)がそう告げる。サンディは、一瞬、なぜかドキッとしながら、頷いた。
「は、はい。分かりました……!」
「お言葉に甘えて……申し訳ありませんが、僕たちは下がらせてもらいます」
ベークが言った。Sikiは優しく頷いた。
「無茶するでないぞ! 汝らはむやみに頑丈で、死ぬことは無いらしいが……それでも、それでもじゃ!
そっちのムーとかいう、汝もじゃぞ! なんぞぼーっとしおって! ほうっておけないタイプじゃな、汝!」
アストリアがそう言う。『ねこ』ムー(p3x000209)がしぱしぱと目をしばたいた。
「あ、は、はい。頑張ります、にゃー」
ぱたぱたと手をふるムー。ぴ、と頭の耳を張り詰めて、次はワールドイーターへと向き直る。
「作戦会議は済みましたかな?」
老人が言うのへ、ムーは睨みつけた。
「別に僕は、強い人と戦いたいみたいなタイプではないのですが。
負けっぱなしって腹立ちますし。ぶん殴って蹴散らしてやりましょう。
……それにまぁ、僕らの知らない話であれ、本来のものでない話であれ。
幸福をなかったことにしようというのは、許してはいけないことですからね。例え感傷と呼ばれるものだとしても、です」
「よろしい!」
ぱん、と老人が手を叩く。芝居がかった仕草。
「こちらの準備も整っております。幕を開けましょう!」
「くるくる! くるくる!」
「……!」
マスクが、プリマが、僅かに動いた。それだけで分かる、闘気のようなもの。明確に向けられた敵意、その発露!
「……! ワールドイーター、噂には聞いていましたが、やはりただものではないですね……!」
身構えながら、『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)は言う。ぐ、とその手に力を籠め、圧倒されるような敵の気配に立ち向かう。
「冒険者として……越えられない壁はありません!
世界を喰らう怪物……趣味の悪そうな方々は、ここで成敗させてもらいます!」
「いずれ現実で、なんかやばいことになった天義を救う予定だからね!ㅤその予行演習だよ!!
ワールドイーターだかなんだか知らないけど、きうりすら食べれないようじゃイーター失格だよ!!」
『グリーンガール』きうりん(p3x008356)がにやりと笑ってみせた。
「おじいさんとそっちのバレリーナくんは、まずはきうりと遊んでもらうよ! きうりたべろ!」
「百合の間に挟まれないのは残念ですが、しかしこれも未来の百合を護るための戦いです!」
『佐藤・非正規雇用のアバター』アンゲシュテルター(p3x009377)が、シールドを構えながら叫ぶ!
「男であろうと女であろうと、どちらでもなかろうと!
不肖アンゲシュテルター、全力でお護りいたします!!」
鉄壁の楯が構えた! 一方、仲間達もすでに臨戦態勢。すでに一触即発の空気だったが、今はまさに導火線に火が付いた状態! すぐにでも爆発する――!
「行くぞ。全て破壊スル」
Goneの言葉を合図に、果たして戦いの火ぶたは切って落とされた。世界を護るための戦い、その一端が、今、ここに開かれた。
●星読みの間の戦い
「マスク! 敵を引き付けなさい!」
老人が叫ぶのへ、マスクはゆっくりと頷いた。ずし、と巨体が大理石の床を踏みしめる。同時、轟! 強烈な雄叫びが、辺りを震わせる! それは、この敵に意識がひきつけられてしまうような、魔力のこもった雄叫びであった!
「くっ……後ろの三人がひきつけられたらまずいな!」
アズハが叫ぶ。いわゆる、『怒り』のBSをもたらす攻撃だろう。特異運命座標たちであれば大した損害ではないが、しかし守るべき三人、アストリア、サンディ、ベーク達が引き寄せられてはマズい。
「アンゲシュテルターさん、偽・星読星域と三人に張り付いてほしい。とにかく、全力で守るんだ!」
「了解です!」
アンゲシュテルターが、その盾を構えながら、偽・星読星域の設備と、三人を護るように立ちはだかる。
「御三方は、私の後ろに。
偽・星読星域はこの国の重要な砦……その輝きは奪わせません!!」
「お願いします!」
ベークが頷く。銃を構え、いつでも身を護れるようにはしているが、アンゲシュテルターのように、しっかりと警護する者が必要だ。
「きうりんさん! ミミサキさん! 老人とプリマの抑えを!」
アンゲシュテルターが叫ぶのへ、
「了解っス!」
「まかせてよ! きうり食わせてくるよ!」
二人が飛び出す。
「どっちが好みでスか? 私はどっちもノーサンキューっスけど、相手にするならプリマっスかね」
「じゃあ、私がおじいさんねらいだね! ちなみに私の好みには1ミリもかすってないよ!」
瞬時にターゲットを決めると、二人はそれぞれの方へと向けて駆けだす。ミミサキはプリマへ。きうりんは老人へ。
「くるくる! くるくる!」
回転するプリマ。その空気の奔流が、回転刃のように鋭いナイフと化した。ミミサキは箱を盾にしてそれを受け止めると、同じく箱の口で思いっきり噛みついてやる!
「くるくるくるくる!!!」
激昂したように叫ぶプリマ。ミミサキは苦笑した。
「いや、マジで変な人スね……ああ、でも、私たちイロモノ組がいるとブーメランになるっスね、これも。
ま、言い方を変えるとイレギュラーズは個性派揃いというやつです。
イロモノ同士、仲良く……はしたくないんで、さくっとやられてくださいな」
ミミサキは不敵に笑う。ぺろり、とその口の端を舌で舐めながら。
一方、老人に相対するきうりん。
「ほらおじいさん、きうりの時間ですよ! 歯は丈夫ですか? それとももう総入れ歯かな!?」
一発殴りかかるきうりん。老人はステッキを振り回して、その拳を受け止めて見せた。
「ごらんになりますかな? 見ての通り、歯の健康には自信があります!」
「おじいちゃんの歯とか見ても喜ぶタイプのきうりじゃないんだ!
さ、お腹いっぱいになったら次は運動しないとですよおじいさん。私が殴るから避けてくださいね!」
鋭く振るわれる、きうりのぱんち。かんかん、と老人はステッキを振り回して、幾度となく受け止めて見せる。
「ほっほ、これはこれは歯ごたえのあるお嬢さんだ。健康のために野菜を喰らうのも良いかな?」
「それは結構! でもおじいちゃん、柔らかく煮込んだりした方がお腹とあごによさそうだね!」
三人の盾役が行動を開始するなか、一方でマスクを集中した攻撃も続いている。
「マスクの攻撃は俺がひきつける!」
アズハが叫ぶ。ずん、と巨体を引きづるように迫るマスク。その剛腕を、アズハは受け止めて見せた。
「くっ……重い……っ!」
アズハが流石に舌を巻く。巨体は防御面だけでなく、攻撃面でも活かされるようだ。だが、その一撃でHP(いのち)を0にされるほど、アズハは軟弱ではない!
「……忘れるな。
正義のために、世界のために、全てを護るために戦うんだ!」
自分を奮い立たせるように、仲間を奮い立たせるように、アズハ叫んだ。
「とにもかくにも、厄介なのはこちらのターゲットを引き寄せるマスクです!」
カノンが叫ぶ。手にした魔導書を開くと同時、魔力があふれ出してページをバタバタと揺らす。
「速やかに成敗しましょう……行きますよ!」
術書で練り上げまた魔力が、驟雨の如き魔力弾と化してマスクに迫る! だだだん、と次々と着弾、小規模な爆発を起こし、さながらプラネタリウムの星のごとく、暗い室内に光をもたらす。
「一撃て倒れないなら、二撃でも、三撃でも!」
カノンが再び放つ、魔力弾の弾幕! 着弾するそれが、マスクの足を止める――同時、飛び込んできたのは、ルージュだ!
「その仮面、ぶっこわす!」
手にしたハンマーを高々と掲げ、その手に込めるは愛の力。同時、顔面に向けて振り下ろすと、さく裂する愛の力の衝撃が、マスクを激しくのけぞらせた。
「……硬ったい!」
痺れる手をふるルージュ。
「じゃあ、柔らかそうなところをつこうか?」
敵の死角から迫るは、Sikiだ。手にした蒼剣、その刃の冴えをさらに閃かせるは、Sikiの剣技。敵の急所を切り裂く斬撃が、筋肉の隙間、繊維の隙間すらを縫うように振り払われた。ざぁ、と血液が吹き出す。
「ぐ、お」
マスクが、この時初めて声をあげた。苦痛の声。悲鳴。
「ルージュ、もう一回」
Sikiが言うのへ、
「おう、Sikiねーちゃん!」
ルージュは再びハンマーを振り上げた。そのまま愛の力全開で叩きつける! ばぐん、と激しい爆発音が鳴り響き、その仮面が砕け散った。そのまま、マスクはどさっ、と膝をつくと、モザイクの塊に化けて、爆発。消滅する。
「へへん、一丁上がり、だ」
ルージュがハンマーを担いで笑ってみせた。
「所で、顔は見えたのかな? どんな顔だった?」
Sikiが小首をかしげて尋ねるのへ、
「知らねー方がいいぜ、きっとな」
ルージュは肩をすくめて笑ってみせた。
●世界を喰らう敵
「……マスクがやられましたか……!」
その時、初めて老人の顔に焦りが浮かんだ。
「おっとおじいちゃん、びっくりしてきうり飲み込んじゃだめだよ!」
肉薄するきうりんに、老人は忌々し気な顔を向けた。
「先ほどからこちらを馬鹿にするようなことを……!」
「気づいた? まぁ、そうだよね! でもお互い様!
それに分が悪くなったらキレだすなんて、なってないよ!」
きうりんがぱんち! そのまま老人が後方へと跳躍。ざざ、と大理石の床を踏みしめ、ちぃ、舌打ち。
「化けの皮が剥がレたな!」
Gone、そしてムーが肉薄する!
「さて。再戦ですよ、おじいさん。いい加減くたばってください、不快です」
Goneが、鎌を振るう。サイドから振るわれたそれを、老人は飛び跳ねて回避。が、同時、上から迫るムーのねこぱんちが叩きつけられた!
「むぅ!」
唸りつつ、老人はくるりと着地。ステッキを苛立たしげにくるくると回すと、
「マスク一人を倒したくらいで調子に乗らないでいただきたい。私とて、以前相対した時よりさらに多くを喰らい、力を増しているのですよ」
「つまりそれだけ、多くの人を犠牲にしたのですね?」
ムーが唸った。
「先ほども言いましたが。幸福をなかったことにしようというのは、許してはいけないことです。
ましてやそれを餌に悲劇を生み出すあなた。率直に言って醜悪ですよ」
「グルメと言ってほしいですな……」
「紳士ぶるナ、下衆が。
きうりん、プリマの抑えを手伝っテやってくれ。コイツは、俺ガ殺す。
この世界二「サンディ」成らヌ「俺」ガ「この姿」デ出た事に意味ガ在るト、スレバ。
その意味コソ、『奪う』ことヨリ他に無シ」
「ん、おっけーだよ! 気を付けてね!」
きうりがんぴょん、と飛び跳ねて距離を取る。一方、Goneとムーは、ゆっくりと構えを取った。
「今度コソ殺す。絶対に殺ス。後れヲ取るナヨ、ムー」
「はいはい……僕も、こいつに因縁づけられるの、不愉快ですからね……!」
「ほっほほほ……図に乗るなよ! ゴミめら!」
老人は激高した! ステッキを振るうと、疾風は斬撃となって二人を襲う! 二人は避けない! 突撃する! 斬撃の合間を縫って、それが擦過して己が身に傷をつけようとも!
仕留める! ここで! この外道を! でなければきっと、それは自分の否定になるから!
「ウオオオ!」
Goneが鎌を振るう。老人が、ステッキを使ってその気道を反らした。間髪入れず、ムーが接敵! 鋭い爪の一撃で、老人を切り裂く!
ざぁ、と音を立てて、老人のスーツが切り裂かれた。隙間から覗く、モザイク風のポリゴンボディ。人ではない証左。
「Gone君!」
「任セロ!」
老人が見せた隙。それを逃す二人ではない! Goneの斬撃――振り下ろされた鎌が、老人を真っ二つに切り裂く――。
「ほっほほほ!」
が、まだだ! 老人は無理矢理身体を繋げるようなしぐさを見せると、再びステッキを振るって鋭い斬撃を繰り出した!
「『僕』を舐めるなよ……!」
ムーが振り下ろした『宝剣』が、飛ぶ斬撃を切り落とす。
「ちぃ!」
老人が舌打ち一つ、跳躍――同時、強烈な蒼き炎のブレスが、老人の身を包み込んだ。
「申し訳ないけど、私も性格悪いんだ。
二人にまかせっきり、なんてするわけないでしょ?
それからこれは、お返し……ね?」
Sikiのブレスだ! 吐き出された蒼の炎が、老人の身体を焼く! 同時、巻き起こる無数の『BS』が、老人の身を強かに打ちつける!
(サンディくん。君の為に何が出来るのかって考えたんだ。
私が特別にできることなんてきっと何もなくて……。
いてもいなくても結末は変わらないのかもしれなくて。
それでも君の為に剣を振るわないなんて嘘だから、ここにいるんだ。
君が「奪う」と決めたなら全力で鎌を振るえるように)
胸中で、確かな決意を抱きながら。しかし敵へは冷徹に。
「凍って、痺れて、縛られて? 暗闇の中で狂ってしまえ」
冷たく言うSiki。大切なもののために振るう力が、この時老人に苛烈なダメージを与えていた。
「ご、ごおおおおおっ!?」
たまらず悲鳴をあげてうずくまる老人。だが、その身を青の炎に焼かれながら、いまだ老人は立ち上がる!
「おのれ、おのれおのれおのれぇ!!
こうなっては、星読みだけでも……!」
走り出す老人! 目的は、偽・星読星域の破壊か! だが、その前に立ちはだかる騎士の姿――。
「これは私が守ると宣言したはずです!」
アンゲシュテルターが、カタパルト・シールドから無数の艦載機を打ち放つ! 艦載機は老人の足元を狙い攻撃! 射撃が老人の足に突き刺さり、バランスを崩した老人が転倒!
「ぬ、あああっ!!」
老人が忌々し気に声をあげた。無様に転げる老人。とり落としたステッキは、すでにボロボロで用をなさない。
「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な! このような事が、この様な……!?」
老人が這う這うの体で立ち上がる。すでに身体はボロボロであり、その顔にも先ほどまでの余裕は見受けられない。
「無様だな、紳士気取リめ」
Goneが鎌を突きつけた。
「返してもらいますよ。お前が食らったモノすべてを」
ムーが爪をたてる。
「ひ、ひひ……これは、これは私のモノだ! 全部、全部……」
腹を抑える老人――ずん、と衝撃が走ると、老人の目が見開かれた。
腹に、Goneの鎌の刃が突き刺さっている。
「サテ。『赤ずきん』がいれば儲けだナ」
「……ふと冷静に戻ってみたんですが、結構グロい光景ですね。
まぁ、でも。あなたには似合いの末路でしょう」
Goneが鎌を引き抜いた刹那、ムーがその爪を振るう。途端、かっ裂かれた腹から、無数のモザイクが飛び出していった。鮮血のように。或いは、奴が腹にため込んだものが、全てあるべき場所へ帰っていくように。
「ああ、ああ! 去っていく! 消えていく! 私の! 私のぉぉぉぉ!!!」
老人が叫んだ刹那、ぼん、とその身体がはぜた。モザイク様のポリゴンが砕けて消える。ワールドイーターが消える。
刹那、アストリアが叫んだ。
「……思い出した! ザクセルの街……三人の誓いの場所! 何で忘れておったんじゃ……!」
頭を抱えるアストリア。Goneは肩をすくめた。
「全くダ。もう忘れテやるナヨ、枢機卿殿」
●思い出を救うために
「くるくる! くるくる!」
プリマが舞う。ワールドイーター最後の一人。だが、その表情にも、動きにも、焦りの様なものは観られない。
「うーん、イロモノにもほどがあるっスよ。何って言うか、ヤバい奴、って言うんスかね、こう言うの」
ミミサキが箱を盾にしながら、攻撃を受け止める。まるで狂ったように……何も考えていないかのように、舞い、踊り、攻撃を続けるプリマ。狂気の舞姫の攻撃は、しかしミミサキの体力を確実に削っていく。
「くるくるくる! くるくるくる!」
「あー、もう! それはもういいっスよ! しまった、ちゃんと話の通じる奴を相手にしておけばよかった!」
箱の牙で噛みつきつつ、ミミサキは距離を取った。
「でも、ここまでっスよ。もう耐えるのは終わり……でショウ?
というわけで、年の瀬決戦でクソ忙しいんだからとっとと死んでください。
ROO事件が一段落しないとおちおち仲間たちにセクハラして、げんこつをもらう事もできないんスよ!」
「その通りです! あ、でもセクハラはダメです!」
カノンが、魔術書を掲げる。同時、放たれた無数の魔力弾が、プリマを穿つ! だだだっ、とぶち当たる魔力弾! プリマの回転が思わず止まった。
「くるくる! くるくる!」
「そんなに回ってたら目を回しませんか? 回さないんでしょうか? なるほど、これがイロモノ……!」
カノンが何かに納得したそぶりを見せつつ、魔術弾を打ち放つ。再度放たれた流星群の如き魔術弾が、プリマを地に縫い付けた。
「くるくるくるくる!」
だが、それだけで倒れるような相手ではないらしい。最後に残ったが故の気迫かは不明だが、先ほどよりも激しく回転しみせる。巻き起こる風が刃となって、周囲を切り裂くべくまき散らされた!
「くっ、敵は後一体……けど、いつまでも放っておいていいものじゃないな!」
アズハが叫ぶ。確かに、もはや敵は全滅寸前。だが、此方には護るべきものがあり、いつ敵が暴発し、その守るべきものに手を伸ばすかはわからない。
「結局、速やかに仕留めるのが一番って事だ……!」
「よーし、じゃあおれが足を止めるぜ!」
ルージュが突っ込む! 跳躍、振り下ろされるハンマーが、回転するプリマと擦過し、激しい火花を散らす!
「わちちっ、なんだこいつ! 本当にわけわかんないな!」
「ルージュさん、そのままそいつを止めておいてくれ!
それで、合図したら、跳んで逃げる!」
アズハが叫んだ。
「分かった! なるべく早く頼むぜ!」
「カノンさん、全力で攻撃を叩き込むぞ!」
「了解です!」
アズハの言葉に、カノンが頷く。魔力を極限まで高めて、凝縮した刃を形成する! 一方、アズハは装備した拳闘武器に、自らのエネルギーを述円し始めた。そのエネルギーが拳に宿る。爆発せんばかりのエネルギー。
「今だ!」
アズハの合図に、ルージュは跳躍した。フリーになったプリマがつんのめると同時、アズハのエネルギー弾が叩き込まれる! がおん、と音をたてて叩き込まれたエネルギー弾に、プリマは再び動きを止める――どうじ、振るわれる、カノンの魔力刃!
「これで……終わりですっ!」
カノンの刃が、プリマの身体を切り裂く。途端、鮮血のごとくモザイク様のポリゴンが吹き出し、
「くる、くる……くる……」
断末魔の声をあげるプリマ! やがて出血と共に己の身体もポリゴンへと分解され、やがて爆発するように吹き飛んでいった。
「……終わった、か」
アズハが声をあげる。果たしてその通り。すべてのワールドイーターは、ここに消滅したのだ。
「リベンジ成功、だな? にーちゃんたち!」
ルージュが笑いかける。Goneとムーは、苦笑しつつ頷いて見せた。
「良かった……ちゃんと守れた」
Sikiが安堵したように微笑む。特異運命座標たちは、すべてを守り切ったのだ。正義国の要を。思い出を。大切なものを……。
●そして次なる戦場へ
「流石じゃな……あのバケモノを三体、撃退してしまうとは……」
アストリアも、さすがに驚いた様子で声をあげる。
「まぁね! それより、そっちの三人と、星読なんたらは無事?」
きうりんがそう言うのへ、アストリアは頷いた。
「おお! 其処の、アンゲシュテルターとやらのおかげじゃ。体を張って守ってくれたわ」
ぺちぺちと、アンゲシュテルターの鎧を叩くアストリア。
「ええ、それが私の任務でしたので。
所で、雲の形をしたカップルシートとかあると良さそうですね、このプラネタリウム。これはダブルフォルトジョークですが」
「なんじゃカップルシートって。新しい防衛装置か何かかえ?」
和気あいあいというアストリア。ミミサキは微笑むと、
「いや、アストリア氏が無事で何よりス。所で箱の」
「入らんからな!? と言うか、汝ら、まだ戦いは続くのじゃな?」
「うん。まだ決戦の場には敵が残ってるからね」
Sikiが言った。今回は緊急クエストと言う事で召喚されたが、しかし、戦場では未だ敵との決戦が続いている。
「……お手伝いに行けないことを申し訳なく思います」
サンディがそう言うのへ、Goneが鼻を鳴らした。
「言ったハズだ。お前には、お前の戦う場所がアルと」
その言葉に、サンディは頷く。
「あ、ベーク君」
と、ムーがちょいちょい、とベークを招いた。
「はい? ムー君、どうしました?」
ベークがやってくると、ムーは手にしていた宝剣を手渡す。
「これ、あげます。なんか、すごいもの見たいですし。お守りと言うかなんというか」
「え、ええっ!? いいんですか!? いや、悪いですよ!?」
わたわたと慌てるベークに目を細めながら、
「いいんですよ。使ってください。にゃー」
と、ムーは笑った。
「……それじゃあ、おれ達は、また戦場に戻るよ」
ルージュが言った。
「良かったな、にーちゃん、ねーちゃん。思い出も、戻ったんだろ?
あの時は、返してやれなかったから。うん、よかった」
ルージュが笑う。アストリア達は、感謝の意を込めて頷いた。
「では、戻りましょう、皆さん!
アストリアさん達も、くれぐれも警戒は怠らないでください」
カノンの言葉に、アストリアが頷く。
「うむ……汝らに、神の加護のあらんことを」
「あなたにも……それでは」
アズハが言う。特異運命座標たちは、サクラメントの機能を使い、それぞれの戦場へと戻っていく。
まだ戦いは続く。その戦場に、皆を投じるのだろう……。
「よし、サンディ、ベーク。汝らは外をみはっとれ。妾は星読みの機能を確認しておく」
「大丈夫なのか、アストリア?」
心配げにサンディが言うのへ、アストリアはべぇ、と舌を出した。
「汝らは自分の心配もせい! まったく。ベーク! サンディは無茶ばかりする。止めるのは、汝の役目じゃぞ!」
「え、ええ? なんで僕がお目付け役みたいになってるんです……?」
肩を落とすベークに、アストリアは笑った。
「ま、さっさと行け! まだまだ仕事はある! 大忙しじゃ!」
「分かったよ。行こうぜ、ベーク!」
「はいはい。では、アストリア君、またあとで」
そう言って、2人が星読みの間から出ていった。アストリアは、そんな二人の背を観ながら、ふと、寂し気な、優しい笑みを浮かべた。
「妾がいなくなっても……二人で支え合っていくんじゃぞ。
……さて、やるか、シェアキム。妾たちの、命をかけた戦いの始まりじゃ」
そう言って、アストリアは『星読星域』の機能を……『エンピレオの薔薇』の機能を開放した――。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の活躍により、偽・星読星域は守られ、アストリア、サンディ、ベークの三人も無事です。
GMコメント
緊急クエストです。
正義国、大聖教会に、ワールドイーターが出現。『偽・星読星域』とアストリア、サンディ、ベークを狙っています。
あなた達にクエスト参加権を付与します。
クエストを受諾するならば、サクラメントを利用し、現場へと向かってください。
これは世界の行く末を担う戦いです。
●成功条件
ワールドイーターの撃破。
●特殊失敗条件
『偽・星読星域』が破壊される。
アストリアの死亡。
サンディ・カルタの死亡。
ベーク・シー・ドリームの死亡。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●注意
このシナリオの結果によって、『<ダブルフォルト・エンバーミング>ワールド・エンド・ゲーム』の戦場に重大な影響が発生する可能性があります。
●状況
正義国大聖教会に、ワールドイーターが出現しました。此処には予知システム『偽・星読星域』があり、敵はこれを狙って襲撃を仕掛けてきたものと思われます。
中には大司教アストリア、聖銃士サンディ、聖銃士ベークがおり、彼らの命もまた、ワールドイーターの目的のようです。
皆さんは、このすべてを守りながら、ワールドイーターを撃破してください。
作戦エリアは、大聖教会内、星読みの間。
周囲は充分な明かりがあり、フィールドの中央に『星読星域』のマシンがあります。また、戦闘開始時点で、アストリア達や特異運命座標たちもその傍にいるものとします。
●エネミーデータ
ワールドイーター・奇怪なる老人×1
その名の通り、奇妙な姿をした老人のような姿をしています。
紳士的な言葉を話しますが、本質的には外道です。
主に神秘属性の攻撃を行うほか、
BSとしては『毒系列』『不吉系列』を付与してきます。
ワールドイーター・プリマ ×1
バレリーナのような格好をしたワールドイーターです。くるくる! としかしゃべりません。
主に近接物理攻撃をメインに行ってきます。
高めのEXAと命中を持っており、素早いです。
ワールドイーター・マスク ×1
白仮面をつけた怪人のようなワールドイーターです。無口です。
巨大な体躯を生かしたタンク役を担当。『怒り』など付与し、攻撃を引き付けます。
HPや防御技術が高いです。威力の高い攻撃でさっさと墜としてしまいましょう。
●味方NPC
アストリア
正義国の大司教です。
ある程度の聖術を使いこなします。遠距離攻撃・支援を得意としますが、防衛対象でもあります。
サンディ・カルタ
正義国の聖銃士です。
その職業の通り、銃を使った攻撃が得意。ただし、ワールドイーター相手には少し力不足かもしれません。
ベーク・シー・ドリーム
正義国の聖銃士です。
その職業の通り、銃を使った攻撃が得意。ただし、ワールドイーター相手には少し力不足かもしれません。
基本的に、サンディとベークは、アストリアの護衛を最優先に動きます。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。
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