シナリオ詳細
THEONEATER
オープニング
●絶え間ない飢餓
それは前触れや気配というものを感じさせず、突如虚空から生まれ出でた。
一匹の芋虫のような生物だ。
木々の生い茂る森のなかで、落ち葉にまみれている。
本来は暗い闇の底にでも住むのだろうか。目がない、鼻がない。耳たぶに類するものは見受けられないが、聴覚はあるようだ。音のする方に向けてしきりに身体を蠢かせている。
毛というものが見られない。血と肉が混ざったような赤い色の体躯。
それは、人差し指ほどの小さな自分を持ち上げ、空を仰ぎ、二重三重に生えた臼歯だらけの口を開いて小さなうなりを上げた。
「――――――」
それは飢餓の声。現状の感想を示す程度のものではなく、たった今この世に生まれ落ちた時から感じていた魂の叫びだった。
まずは手近な落ち葉に食らいついた。小枝に食らいついた。石ころに食らいついた。
貪り、貪り。
明らかに自分の体積を超える容量をその身に収めながら、食らいつき、食らいつき、そして急激に成長していく。
膨らみ、大きくなり、子鬼程度の大きさになったところで、幹に齧りついた。
木の一本を喰らい尽くす頃には成人男性程度の大きさになっていた。
次の木を、その次の木を食らうが、その頃には成長は緩やかになっていた。
足りない。まだ足りない。飢えに苛まれ、足りない知性で自身を思う。
これは量が足りないのだと。そうでなければ自分がまだ飢えている証明にならない。
次の木を、次の木を、次の木を。食らっている途中で、異音を捉えた。
すぐさまそちらに移動する。飢えている。飢えている。
「ひっ……!!」
それは今までと明らかに別の音を取った。
姿は見えない。大きくなっても、視力は存在していない。
「く、来るな……!」
それは何かを発してきた。
自分の身に異変が起きたことを感じる。
動きづらい。
それが痺れという概念だと意識するには知能が足らず、しかしそう思う頃には痺れはもう取れていた。
だが、代わりに飢餓感が増した。
「効いてない……いや、すぐに回復、した?」
苛立たしい。
腹が減っている。腹が減っているのだ。
どうして食っているのに腹が減らなければならない。
苛立たしい。嗚呼、食わねば。食らわねば。喰らい尽くしてしまわねば。
異音の元に食らいつく。
何かまた別の異音を発していたが、噛み砕いてやればすぐに大人しく腹に収まった。
ほう、と思わず一息をつく。
美味い。
わからない。何故かはわからないが、これはとても美味かった。
満たされていく。少しだけ。
自分の身体が、木々を食らっていた時とは比でない成長を得たのを感じる。
今や芋虫は、森の木々それぞれと同じ程度の大きさには成長していた。
大きくなった。だから、腹が減った。
また木々の捕食を開始する。
食べて、食べて、食べて、食べて。
森を更地にするまで、誰も寄り付かぬ死の大地に変えてしまうまで、そうそう時間はかかるまい。
●大喰らいのワーム
「既に、依頼の概要は理解してくれているものと思う」
集まった君達に向けて、ギルド所属の男が言う。
時間がないからと説明前に手渡された資料。
緊急の案件だと聞いてはいた為、彼が現れるまでに何度も読み返してあった。
「非常に、危険なクエストだ。自分の命を最優先に……と、言いたいところだが、事は急を要する。すまないが、多少の無茶はしてもらうことになりそうだ」
男の顔に疲労が見て取れる。
本当に、何の前触れもなかったのだ。クエストとして成立させるまで、働き詰めであったのだろう。
「この人数を揃えるのがやっとだった。普通にやりあって勝てる相手とは思えない。頼む。勝つためになんでもやるんだ。寝首をかく工夫がいる。絶対に、真正面からやりあっちゃダメだ」
- THEONEATERLv:3以上完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年03月09日 21時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●途方もない乾きを抱えたままで
空っぽの胃袋が満たされる幸福を、生物はいつだって求めている。何者も、食わなければ死ぬからだ。死にたくない。死にたくはない。だからその欲求を満たすのだ。飢えとは警告なのだから。
朝の寒さに惑わされ、コートを着用してきたことを後悔するような、そんな気温の昼日中。
久しぶりに穏やかな気候に恵まれている。
これがピクニックであれば、絶好の日和とも言えるのだろうが、しかし。
その光景には思わず言葉を失ったものだ。
広大な森林地帯。
その一部がごっそりと抜け落ちている。
何か大きな生物が通ったかのように、木々の一部が消え失せ、草ひとつなく土色の大地を露出させていた。
思えば、鳥の声すら聞こえない。
逃げ出したのだろう。残っているとすれば、逃げられるだけの体力がない老いた獣ぐらいなものではなかろうか。
だが、何処にいるか、という点についてはこの上なくわかりやすい。
間違いなく、この道を辿った先にいる。
食らい尽くす虫。ギルドはゼオニーターと名付けたのだったか。
「害虫駆除か」
『時計塔の住人』ノイン ウォーカー(p3p000011)が率直な感想を漏らした。
ゼオニーターは巨大な芋虫だと聞いている。目も鼻もない、血にまみれた肉のような色をした芋虫だと。
であれば、彼の認識は正しい。何もかも食らい尽くし、やがては人里に至り暴威を振るうのだろうと想像に難くない件のそれは、まさしく害をなす虫であろうから。
その規模は、一般に想像されるそれよりも遥かに巨大であろうが。
『滅びを滅ぼす者』R.R.(p3p000021)は、己にしかわからない感覚を持ってして、自己の中でそれに向けた憎悪と狂気が今までに感じたことがないほどに膨れ上がっているのを覚えていた。
その思いを声には出さない。まだ例の芋虫の姿は見えないが、聴力に極めて長けているのだと聞いている。用心に越したことはないだろう。
呼吸にリンクして、身体の罅から輝きが漏れているのが分かる。
「破滅の芽は疾く摘まねばならない‥‥破滅よ、滅びを知れ」
「ククッ、満足に声の出せぬ依頼とは面白い……!」
『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)が任務遂行に必要ゆえの窮屈さに笑みを作る。
ゼオニーター。耳が非情に優秀な生物だと聞いている。それが特性だと言うのなら、警戒し、対処するように図るのは当然のことだ。
ただ正面からぶつかるだけならば、そもそも頭数を揃えもせず個人で立ち向かうだろう。
これは勝負ではない。狩りなのだ。
双方が、互いにとってそうかもしれないが。
「なんなの……あれ?」
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が眼前に広がる荒唐無稽差に呆然としている。
ごそりとくり抜かれた森。それの行先に指向性は感じられず、かといって余さずといった几帳面さも感じられない。
通常、生物とは偏食家だ。
彼らは己の身体にとって必要なものだけを自然と選び、口にする。
だが、これは別だ。本当に、手当たり次第、何であろうと食っている。
「心は? あなたには心はあるの?」
「まさか異世界に来てまで巨大生物とやり合うことになるとはな、あの頃とは勝手も違う。ベリーデンジャラスだ」
『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)にすれば、巨大生物を対象とした狩りはこれが初めてというわけでない。
だが、それは元いた世界の話だ。
一度拳を開き、また握りしめる。
あれらを打倒したような力は、強さは、今の自分にはない。
その頃との差は、どれほどだろう。
かぶりを振り、憂いを振り払った。
それをこれから、確かめるのだから。
「こんな所で右腕を使う羽目になるとは思ってなかったぞ。痛いんだからな!」
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)が誰にというわけでもなく胸中で叫ぶ。
声に出すには、危険な距離かもしれないからだ。まだ視認もしていないこの地点でゼオニーターに察知される可能性というのは、避けねばならない。
腕の具合を確かめる。使用することを忌避して目的を果たせぬくらいであればとは思うが、それでも後から来る苦しみを思えば辟易するものだ。
「見境なく食べるとか、不逞ぇ奴……なの」
『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)は憤る。
生物とは、弱肉強食の世界であれ、ひとつのコロニーとして生態系を守るものだ。
だが、件の芋虫はこれを逸している。
外界から取り寄せた新種がバランスを崩してしまうように、このままでは周辺の秩序が崩壊するだろう。
「命がけの、囮とか……ミアらしくない、けど……ミアの夢の障害になりそうなのは……排除、なの……!」
「生きるために必要なだけ食べるにしても度が過ぎてるよね」
『輝煌枝』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)からしても、ゼオニーターの大食らいは規格外なのだろう。
「いつかは食べるものがなくなって自滅するだろうけど待ってられないよ」
それまでに、どれだけが、何が、誰が、食われてしまうだろう。そんなものを悠長に構えてなどいられない。
ふと、視線を感じた気がする。思い当たる節と言えば、
「食べすぎは僕も反省しますので僕を見ないでください」
「殺虫剤巻いてはい終わり! なら楽なんだけど」
七鳥・天十里(p3p001668)の言うとおりであればどれほど良かったか。
どれほど食べる存在であっても、大きくなければ気にもとめられなかったろうに。いや、それはそれで極めて危険であるやもしれないが。
だが、今回は見つかっている。見つかってしまっている。脅威であるのだと自らが喧伝してしまっている。
「でもまー、お話聞いちゃった以上放っておけないしね。鉛玉でご退場してもらおう!」
何かに気づいたのか、『海洋の魔道騎士』美面・水城(p3p002313)が無言で手を挙げる。
それに習い注視してみれば、はるか前方、いまだそれと認識できるほどの大きさではないが、確かに何かが動いている。
全員が顔を見合わせ、無言で頷いた。
此処から先、不用意な声は全員を死を招く。
●のたうち回り渇望する最中に
咀嚼する度に、口の中で肉汁が跳ね、穀物が混ざり、調和されていく。溶け込まれていく。嚥下のその瞬間まで、その過程に取り込まれていく。
近い。いや、大きいのか。
既に視認できる距離には近づいている。
耳聡いという話だったが、流石に指ほどのサイズにしか見えぬ距離では、足音も呼吸も、あるいは心音も、聞き取れはしないらしい。
誰も声は出さない。
無言のハンドサイン。
それでは、状況を開始する。
●咆哮なのか悲鳴であったのか
常に喪失感だけが存在している。満たされたことなどないのに、それが喪失感なのだと認識している。食さなければ満たされないのだと理解している。ただ、それがどれほどを指しているのか見据えてはいない。
ムスティスラーフがゆっくりと空を飛び、ゼオニーターに近づいていく。
目と鼻のない芋虫。その奇形による不快さは、事前に聞いていなければ自らの隙になっていたやもと思う。
頃合いの距離で声を上げた。
「こっちだよ!」
同時に、ゼオニーターに向けて術式を放つ。それは違わず芋虫の身体を撃ち抜いた。
直ぐさま横飛びに移動する。呼吸を止め、空を飛ぶことで足音を消した。
その刹那、今まで自分が居た場所に巨体が現れる。
間髪入れず移動した自分の判断は正しかった。悠長にしていれば、今頃自分は圧し潰されていただろう。
仲間がその後ろから攻撃を開始するはずだ。自分はそれに合わせて―――だが。
目前に芋虫が出現する。
ゼオニーターはムスティスラーフの位置を見誤っては居ない。
(しまった、衣擦れに……風切り音!?)
大口が開かれる。
不揃いな臼歯が並び、不快な臭いを発するそれが。
ゼオニーターが牙を向くや否や、別の仲間が反対側から声を張り上げた。
この悪食の芋虫は既に人の味と声を知っている。
ならば、そこに強く惹きつけられるのではというのが、ミアの読みだった。
しかし、目を見張る。
ゼオニーターはその声に反応を見せることなく、眼前の獲物へと食らいついたからだ。
どうしてと、思うと同時に、理解する。
半分は、正しかったのだ。
肉への執着はある。だからこそ、目の前のそれに迷わず食らいついた。食うために、音を捕えているのだから。
前提が崩壊する。脳内で鳴り響くアラート。不測の事態だ。しかし嗚呼どうすればなどと嘆いている時間は微塵もない。
少しでもこちらに注意を引きつけねば、仲間の命はない。
「にゃあ゛あ゛あ゛あ゛! 化け物ぉぉぉ……っ!」
叫びながら、弩弓を放つ。
汚らしい咀嚼の音を、掻き消すように。
攻撃される味方からゼオニーターを引き剥がすべく銃弾を浴びせていたノインは、ひとつの違和感に気づいた。
さっきよりも、大きくなっている。
害虫がこちらを向いたことで、疑問は確信に変わる。
巨大な、芋虫。
肉を、口にすることで、飛躍的に。
頭に登りかけた血流を、固有能力が無理矢理に押しとどめてくれる。
冷静になった頭は、仲間の姿を視界の隅に捕えている。
安否を確認するわけにはいかない。どうやら、次の標的は自分に決まったようだ。
巨体が頭上から降ってくる。
大口を開けた一撃を、飛び退ることで回避する。
さっきの行動から察して、餌の目移りはそれほど期待できそうにない。
地の下から、横薙ぎに、また上から。
立て続けの攻撃をノインは避け続ける。
いつかは食らいつかれるだろう。だが今ではない。時間を稼げ。惹き付けろ。元より、傷を負うなど覚悟の上だ。
「だが倒れるのは無しだ」
「大きな獲物がこっちにおるんやで!」
囮のローテーション。それが既に崩壊していることなど、水城もとうに理解している。
だが、それでも術式を放ちながら大声を上げる。
少しでも、気を紛らわせなければならない。その理由が、これだ。
ゼオニーターの巨体がこちらに向かう。その突進を大盾で受け止めたが、堪えきれずに地を転がった。
急いで起き上がり、また盾を構える。
その手に痺れ。この膂力が、長時間の正面戦闘が難しいことを物語っている。
「なーに、後はお姉さんに任せとき! 丈夫さには自信あるんやから!」
盾を握るも、いまだ痺れを残す指を感覚がないままに強く締めこんだ。
緊急の状況とは言え、そんな役回りを引き受けてしまったものだと思う。
だがそれでも、盾だ。パーティの盾とはこうであらねばならぬのだ。
「わりぃけどな……騎士ってのは、こんな生き方しかできんのや!」
ゼオニーターの側面から、その赤い肉を貴道が殴りつける。
一撃では止まらない。
流れるようなワンツー。そのままわずかな溜めを込めてのストレート。
骨のない、肉だけを殴っている奇妙な感触。
不快感に文句を言うわけにもいかず、次の攻撃をと振りかぶった矢先、ゼオニーターの顔がこちらを向いた。
急ぎ、前方を避けるべく動くが、相手はこちらに首を向けるばかりだ。狙いを外すことが出来ない。
大口が迫る。次の瞬間、両腕が消え失せた。
場馴れしたものに取って、理解と行動のタイムラグなどない。
痛みが脳に届く前に、この現実が実際となる前に、自らの未来を消費する。この事実を否定する。
戦闘による発汗とは別の背中全体を覆う冷たい汗。
それと同時に、自分の何かが失われていったのを感じる。
だが、ある。
両の腕は、まだここにある。
握りしめろ。
拳の形を作れ。
それだけが武器だと、自分に課したのだから。
「下がれ、郷田! 奴の破滅が拡大している!」
リソースを消費した貴道に声をかけ、代わりR.R.が前に出る。
狙うは貴道が殴打した側面部位。叩き、消耗させたそこに、今度は力を込めた貫手を繰り出した。
穿き、魔力を込める。
再生の真逆。腐敗せしめんとした奔流が害虫の内部で荒れ狂う。
しかし、R.R.の胸中に宿った感情は、手応えによる達成感ではない。
その巨大さへの懸念だった。
ゼオニーターは発見時よりも明らかに巨大化している。
はじめは森の木々ひとつと同程度であったのが、今ではひとまわり以上にサイズが違う。
耳に異音。
この不快な雑音を、知っている。R.R.はそれが何を意味するのかを理解している。
まだ足りぬのだ。足りぬというのだ。
肉をはみ、これだけの巨体を築いて、なお。
まだ飢えていると訴えているのだ。
攻撃に回りたいランドウェラだったが、思惑通りにいっていないのが現状だ。
正面衝突を余儀なくされた結果、ゼオニーターの攻撃の苛烈さに治療術士としての手が空かないのである。
うまくいかないフラストレーションを感じている矢先、悪虫の顔がこちらを向いた。
ゼオニーターに眼球のたぐいはない。顔は食事を行うための部位でしか無い。
「来いよ芋虫……ゼオニーター!」
だが、音は通じている。意味など理解はしていまい。それでも、言わずにはおれなかった。
「苛立ってるか? 奇遇だな。僕と『私もだよ!!』」
その時、芋虫が低い唸り声をあげた。
苛立ち、焦燥、不快感。
空腹は、激情のスパイス。
誰もが分かる。目の前のこれが、醜穢な化物が、我慢の限界を超えたのだと。
ここからが激化地点。この瞬間からが分水嶺。
飢えた虫の劈くような咆哮が、空気と肌を震わせた。
凶暴化したゼオニーターに向けて、ディエが手頃なサイズのガラクタを投げつけた。
この害虫はなんだって食らう。口の近くに投げられたのなら、当然それも捕食対象だった。
多少回復されるのはこの際仕方がない。
これ以上肉を食われるよりは遥かにマシだと言えよう。
鈴を取り付けた矢で射て自分から別の音を出すようにしてやったが、効果の程はないようだ。食う食われる、死ぬだ生きるだのやりとりの最中に、鈴の音に気を取られて醜態を晒すというのもなるほど、考えにくい話ではある。
一通り、やることはやった。
これは戦闘行為だ。なら、あとやるべきはこれだけだろう。
弓を構え、引き絞る。
いまだゼオニーターは暴れるがまま。
極めて危険な状態だが、それでも戦わぬという選択肢など持ち得ない。
恨みと、怨みと、憾みを束ねて、走る一矢が化物に突き刺さる。
それは、治療行為を行えるココロだからこそ気づけたのかもしれない。
暴れだしたゼオニーターに対し、こちらの頭数は失われてきている。
立っている者も、戦闘行為は続けているが、それでも満身創痍だ。
だが、それはこちらばかりではなかった。
飢えに苛立ち、暴れまわるゼオニーター。
だが時折、動きがぎこちなくなることをココロは見抜いていた。
適当な石を投げつける。
それを食らう芋虫だが、その動きはやや乱れている。
確かに、敵は巨大だ。巨大になってしまった。
だが、こちらの攻撃は確実に届いているのだ。
凶化した怪物に一気呵成の攻撃を仕掛けるわけにもいかず、また石を投げる。
決するとすれば、ゼオニーターが落ち着いた頃だろう。
それまで、何としても戦線を維持し続ける必要がある。
回復術を放ち、大きく息を吸う。
やれることは全部やろう。
最後にこちらが立っているために。
「きゃあああ!! こっちだゼオニーター!」
苛立ちをぶちまけるゼオニーターに対し、天十里もまた距離を取っていた。
凶暴化した怪物は見境がない。これまでにように的を絞った攻撃ではなく、辺り構わず暴れ散らすので、近づいていては危険なのだ。
石や、木の破片。それらはゼオニーターのいわゆる、食いさしだ。
生まれたばかりの赤子の食べ残しを、その口に運んでやっているというわけだ。
隙を見て、銃弾を浴びせてやることも忘れない。
何人も既に倒れている。空腹に限界を覚えた芋虫の注意が彼らに向かえば、間違いなく捕食されてしまうだろう。少しでも、痛みを与えてそれどころではなくさせてやらねばならなかったのだ。
既に自分の傷も浅くはない。大きく息を吸い込み、勢い良く吐き出した。
痛みに脳を支配されないためだ。
ずきずきと、ずきずきと自分を甘やかすそれ。
もう眠ってしまえと誘う彼に抗わねば、ここで死ぬのだから。
●満たされぬのだ
何もかもが足らないのだ。
ゼオニーターの動きが、沈静化する。
あたりの木々を、石を食い散らかして、ようやっと収まったのだろう。
さあ、どっちだ。
自分たちと、この忌々しい芋虫と。
どちらの傷が深い。
その時また、ゼオニーターが雄叫びをあげた。
禍々しく不吉であり、全身を丸呑みにされるような錯覚が襲う。
「退こう」
そこからの動きは早かった。
武器を納め、倒れている仲間を抱え。
あとは走るだけだ。
走れ、走れ、走れ、走れ。
とうに筋肉は限界の悲鳴をあげている。
とうに傷口は生命の安全性を放棄している。
それでも走れ、走れ、けして振り向かずに。
立ち止まるな。
立ち止まるな。
食われたくなければ立ち止まるな。
どれほど走ったろう。
足の感覚などとうになくなった頃。
とっくのとうに森を抜けていたことに、気づいたのだ。
了。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
あとがき
飢えている。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
とある森林地帯に危険な生物の発生が確認されました。
それは現在も森の木々を食らい、成長を続けています。
放置すれば辺り一帯を更地にし、次の土地を標的にするやもしれません。
あらゆる種族にとって敵となる可能性が高く、迅速に処理せねばなりません。
一刻も早く、この生物を討伐して下さい。
【エネミー】
●ゼオニーター
・飢餓感に苛まれる産まれたばかりの芋虫。
・身体が大きく、体力と攻撃力に非常に優れています。
・目と鼻がなく、代わりに聴力が極めて優れています。どんな音にでも敏感に反応し、気づかれないためにはそれに伴う技術が求められます。
・食事を行うことで成長し、特に肉を口にすることで飛躍的にサイズアップします。
・前触れなく現れ、どういう経緯で何から生まれたのかも定かではありません。
・ターン経過や特定の行動で《飢餓感》を覚え、それが一定値に達すると凶暴化し、攻撃性が上昇。どの攻撃行動も広域化します。また、追加行動として《捕食》を行うようになります。この状態は《捕食》を何度か行うことで解除されます。
《捕食》
周辺の木々、石、肉、その他口に入れば何でも食べようとします。
この行動により永続的にHP最大値、物理攻撃力、防御技術、命中が上昇します。上昇値は食べたものによって変わります。
また、この行動によりHPが回復します。回復値は食べたものによって変わります。
《復帰》
何らかのBSを受けている場合、自分の手番開始時に他の行動を消費せず、オート発動します。
ランダムにひとつのBSから回復し、《飢餓感》を覚えます。
この行動は全てのBSから回復するまでその手番内に繰り返されます。
【シチュエーションデータ】
●森林地帯
・昼間の森林。
・ゼオニーターの周囲および移動経路は食い荒らされ、更地と化しています。
・ほかの動物はゼオニーターを感知して逃げていますが、全てではありません。
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