シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Ehrenfeld bei Sonnenuntergang
オープニング
●
伝承の南にあるエーレンフェルトは、近年になって著しく発展した交易都市である。
変わり者の令嬢が兄から領地を分地されて領主となってから、彼女に全幅の信頼を寄せられた青年に主導されて瞬く間に発展を果たした。
そんなエーレンフェルトの様子が変わりつつあった。
時は『終焉(ラスト・ラスト)』より姿を見せた怪物――終焉獣らによって砂嵐が蹂躙され、次なる目標となるであろう伝承が防衛戦の構築を果たした頃である。
『砂嵐が崩壊し、この後ビルレストが攻略されれば、直にここまで敵は侵攻するでしょう。
そうなればどちらにせよ、私達の負けです。であれば、私達もそうなる前に敵と相対する方が良いはずです』
――領主テレーゼ・フォン・ブラウベルクの決断によって、現在もビルレストへの出征の準備が行なわれていた。
そんな物々しい雰囲気を纏うエーレンフェルトの領主邸を見上げる影があった。
「この世界のもう一人の僕がいるのはここだね」
白で統一された軍服を纏い、その腰には太刀が一振り。
口元に笑みを刻む影は、邸宅の中にいるマルクと瓜二つだった。
「やあ、物々しいね、どうしたんだい?」
朗らかに声を上げた影――『金星天』マークは、門衛へと声をかける。
警戒を露わにして構えた門衛2人は彼の顔を見て少しばかり驚いた表情を浮かべると、構えを解いて――その首が地に落ちた。
門衛の身体が崩れ落ちて、門にもたれるように倒れていく。
「あぁ、ごめん。隙だらけだからつい、やってしまったよ」
黒いエフェクトを纏う太刀を鞘に納めたかと思うと、再び振り抜いて門が真っ二つに斬り放たれた。
敷地内に足を踏み入れれば、物々しい雰囲気を纏う兵士達が金星天に気づいて武器を構える。
「――さぁ、遊んであげて」
刹那、金星天の影が踊り、そこから『それ』は姿を見せた。
それはボロボロの外套に身を覆っている。
袖からは指先が鋭利に尖ったガントレットが覗き、ガントレットは刃先が四叉に別れた鎌を握っている。
顔がある部分にはただぼんやりと光が灯り、それは個体によって色が異なっている。
禍々しい雰囲気を纏うそれらは、空を飛び兵士達へと突っ込んで行けば、鎌が血に濡れていく。
「……そろそろお邪魔しようか」
攻めかかってきた兵士を斬り伏せて、踏み越えた時だった。
自身に残る力を振り絞って、兵士が立ち上がる。
「まだ起き上がるんだね。ちょうどいいや、悪いんだけど、試し切りさせてもらうよ」
刹那、金星天の太刀が蒼く輝き、一閃。
ごろりとその兵が倒れ――確実に命を奪われた。
●
「テレーゼ様、出兵する兵の選別と準備が整いました。いつでも出兵可能です」
そう畏まった声で言ったのは、青髪の青年だ。
長剣を佩き、騎士を思わせる甲冑に身を包むこの青年の名前をメイナードという。
ROOではテレーゼが私兵の正規の隊長として雇用した人物だ。
「この度は文字通りの総力戦になるようです」
そう言ったのは、学士風の青年――マルク・シリング。
ROOに再現されたマルクは、テレーゼの腹心として全幅の信頼を寄せられる人物である。
「まあ、そうなってくると、私達の戦力など雀の涙ですね」
くすりとテレーゼが笑う。
「とはいえ、出なければ後々厄介です。オランジュベネ卿はどうなさっていますか?」
そのままマルクへと視線をやれば、マルクは手元の資料に目を通して。
「カルラさんからの報告と報告が来た日を踏まえると、僕達が出発するのとそう変わらずに出発する予定です」
「そうですか、ではさっさと行きましょうか」
ぐぐっとテレーゼが背を伸ばして立ち上がる――その時だった。
部屋の扉がするりと開かれた。
「――やあ、こんにちは、僕」
柔らかい笑みを浮かべたそれは、マルクに瓜二つなれど、白で統一された衣装の男。
彼が姿を見せた刹那――跳びこむようにメイナードが動く。
「ぐぅ!?」
いつの間にか抜かれていたメイナードの剣が、じりじりと揺れる。
「……なんだ、邪魔しないでほしいな。僕はそっちの僕に用があるんだ」
「面妖な……何者だ? マルク殿の顔をしているが、貴様はマルク殿ではないな」
「どうせ言っても分からないだろうけど――まぁ、いいや。僕は金星天、マーク。
君の首を獲りに来たよ、マルク」
メイナードの言葉に答えながら、最後はマルクへと宣告し――金星天はその口元に笑みを刻む。
「……よくわかりませんが、貴方が私達の敵という事は理解しました」
厳しい目を向けるテレーゼの前で、金星天は笑みを崩さず、緩やかにたたずんでいた。
●
破局の象徴ともいえる『終焉の獣』が、砂嵐を蹂躙して伝承へと侵攻を開始する。
それに対して、ROOに存在する各国は自国の全力を以って『破滅』へと対抗するべく動き出した。
――文字通りの最終決戦にして『全世界の総力戦』である。
それこそがROOに再現された原罪『イノリ』とクリストによるペアが、いよいよとばかりに開始した最終局面――R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』であった。
「僕の思っていた通りの動きを見せたか、金星天マーク……!」
クエスト一覧に表示された優先情報を見て、マーク(p3x001309)は思わず声を漏らす。
そこにはダブルフォルト・エンバーミング――その主戦場へと赴かんとしていたROO世界のテレーゼ・フォン・ブラウベルクが、自身のパラディーゾによって襲撃されるという情報が存在していた。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Ehrenfeld bei Sonnenuntergang完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「どこまで耐えられるかな……」
踏み込んだ金星天の斬撃は、蒼い閃光を引いて走る。
「ぐっ……重い……!」
刃鳴響き、メイナードが唸る。
その後ろ、窓辺に下がったテレーゼはそのまま後ろ向きに飛び降りた。
同時、そんなテレーゼの横を走り抜けたのは――。
「お前の相手は僕だ。そうだろう、”マーク”!」
騎士の装いのまま、空を走るようにして飛んだ『データの旅人』マーク(p3x001309)だ。
「マルク殿が3人……!?」
驚くメイナードに対して、ROOのマルクは比較的冷静だ。
「君は……」
「話はあとで。僕が抑えてる間に、2人は速く書斎へ!」
「あぁ、なんだ。僕か……」
太刀を納めた金星天、一見して無防備なようでいて、それが居合の構えであることを感じ取りながら、マークは構えた。
「必ず、テレーゼ様をお守りしてくれ! ……コレの相手は僕の仕事だ」
「……マークさん、頼んだ! 僕達でテレーゼ様はお守りする!」
ROOのマルクが頷く声がして、2人が窓から飛び降りるのを感じながら、マークは油断なく金星天を見た。
(僕の姿でテレーゼ様を殺せば、僕が苦しむ。……きっと理由はその程度なんだろう)
獲物を逃がしたというのに、全く動揺した様子もなく、金星天は不愉快な笑みを隠さない。
マークが直接、敵の本命がいる場所へと跳びこんだのと同時――『クマさん隊長』ハルツフィーネ(p3x001701)はマークと共に飛翔させたテディベアと視界を共有しつつテレーゼの姿をみとめた。
着地の寸前に風を起こして勢いを殺したらしい彼女は、そのまま書斎へと入っていった。
「こんにちは、イレギュラーズです」
続いて入ってきたハルツフィーネに動揺をした様子のテレーゼがその言葉に安堵の息を漏らすのを見れば。
「テレーゼ様!」
続けて、青髪の青年、その後にマルクが姿を見せる。
「良かったです。お三方ともに御無事ですね。
外には金星天というあの男以外にも、終焉獣という化け物が入り込んでいます。ご注意ください」
ひとまずはそれだけ連れた後、ハルツフィーネは書斎を少しばかり開けて外を見た。
そんなハルツフィーネの視線の先――『蒼を穿つ』アレクシア(p3x004630)は屋敷の入り口、乱雑に切り開かれた扉を開いて突入していた。
(厄介な敵に、守るべき人もたくさん……大変だけど、絶対に守りきってみせるよ……!)
手にした弓に魔力を束ね放つ星の輝きが同時に矢と化して放たれる。
同時に放たれた矢は同列にいた2体の終焉獣に炸裂する。
魔力の矢への耐性はないのか、ふわふわと浮かぶ2体の終焉獣は分かりやすくアレクシアの方へ向いてくる。
ブゥンと、顔のありそうな辺りのぼんやりとした光が輝きを増した。
そんなアレクシアの隣を、終焉獣を無視して突っ切る姿があった。
(ついに最終局面か、それもあってパラディーゾの動きも活発だね)
終焉獣の様子を見据えて、その間を縫うように突っ切った『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)は、背後の影から視線を外しつつ、書斎めがけて駆ける。
『コォォォォ』
遅れて、終焉獣たちが呻く声を背に、向かう先は分かりやすい。
剣戟の音が、屋敷の中から聞こえてくる。
音の鳴るということは、そちらでマークと金星天の戦いが起きていることが想像つく。
ちょうどその下、何らかの部屋の扉の前を、終焉獣が1体うろついているのが見えた。
そいつはスイッチの姿を視認するや構えを取る。
「――そこか」
エネミースキャンで見出した弱点は――明滅するぼんやりとした光。
ホログラムできたスコープ越しに狙いを定め、スラスターを起こして速度を跳ね上げる。
勢いを殺さず、真っすぐに刃を入れる。
そのまま光源へと刃が突き立てば、身体はローブをすり抜けた。
(――実体が無い?)
自分が敵の身体をすり抜けたことにゾッとしつつ振り返れば、そいつはのたうつように暴れている。
「弱点は光ってるところだ!」
スイッチが声を上げれば、続けるように動いたのはリースリット(p3x001984)である。
「なるほど。実体が無いため、核となる光源以外なら物理的にダメージを入れられても痛くはないという事ですか」
スイッチ同様、屋敷の中に一気に走り抜けたリースリットは、そのまま視線を前へ見やり、聖剣に風を纏う。
狙うは明滅するライト部分。振り抜かれた風は幾重にも重なり、刃と化して走り抜けた。
鎌鼬がスイッチの攻撃のダメージから持ち直しかけたグリムリーパーへと炸裂すれば、ライトが文字通り幾つにも切り裂かれ、バラバラに霧消する。
それと同時、ローブがじりじりと不快な音を立てて消失、後には何も残らなかった。
『コォォォォ』
出入口となる扉の前、揺蕩う4体のグリムリーパーのうち、アレクシアの攻撃を受けた2体がまず動いた。
一気に肉薄してきた2体が両手の鎌を振われるが、それをアレクシアは巧みな身のこなしでするりと躱す。
『コォォォォ』
続けざまに動いた2体による攻撃が室内に入ったリースリットへと刻み付けられる。
ダメージこそ受けるものの、精神力で持って鎌が宿していた炎と冷気を打ち破る。
「NPCを助ける、敵は倒す。どちらもやらねばならぬのは少々大変ですが……やらねばならないのならやりましょう。
この戦い、誰の命も失わせません」
――この身は既にログアウト不可である。
多少の無茶とて問題ないと、『人形遣い』イデア(p3x008017)は静かに糸を手繰る。
屋敷の中へと跳びこんで、リースリットに近づけば、そのまま治癒術式を発動させ、受けたばかりの傷を癒していく。
(パラディーゾ……金星天、マーク。
もう何度か経験した事だけど……見知った人がコピーされて、
悪事に加担しているのを見るのは心苦しいよ、やっぱり)
妖刀『無限廻廊』を静かに抜いて、『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は揺蕩う4体のグリムリーパーを見る。
アレクシアへと意識を向けている2体はひとまず置いて。
走り抜ける先は仲間を追いかけていく2体。
仲間とグリムリーパーの間に立ち入れば、そのまま剣を構えた。
激しい光が2体へと瞬き、そいつらの注意を引いた。
「此処は任せて!」
改めて告げてから、剣を2体へ突きつけた。
「ここからは私の番。どんなに耐性を持ってたって耐性事ぶち抜いちゃえば関係ないもんね」
『コォォォ』
聞こえてくる鳴き声なのかも定かではない何かを耳に入れつつ相対する。
(マークには何時も力を貸して貰ってばかりだからな。今日は俺が力を貸そう)
走り抜ける『災禍の竜血』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)の視線に、割り込むようにして姿を見せた1体の終焉獣。
揺蕩うそいつ目掛け構わず走りぬけた。
「終わりなど俺達が止める、その様な結末──必ず覆して見せる」
抜き放ち様、微かに跳躍。
「物理が効きづらいとはいえ、全く通用しない訳じゃないのだろう?
――ならば、威力のある攻撃を幾度でも重ねて強引に押し通すまでだ!」
竜撃の一太刀は未だ真価を秘めたままに、苛烈なる斬撃を振り下ろす。
代償(ログアウト不可)をもって得たモノが重なれば、弱点を突いた斬撃はただの一太刀を以って死神モドキを伏せるに十分だった。
光源を裂き、ローブを断ち割れば、ずるりとズレてそいつが霧散する。
●
「その呪いを、これ以上振り撒かせはしない!
それに苦しんだ人も、それを治すために奔走した人も、私は見てきたのだから!」
グリムリーパーの連続攻撃を躱しながら、アレクシアは真っすぐに敵の弱点へと矢を構える。
開戦以来、既にグリムリーパーは2体にまで減っている。
それはアレクシアが最初に引きつけた2体だ。
(私は基本的に神秘攻撃だから、弱点を突かなくともそのままで十分みたいだけど……)
自らに加護を降ろして、矢を真っすぐに敵の光源めがけて撃ち抜く。
瞬くように放たれた矢が2体へと炸裂し――片方が呻きながら霧散する。
「お前で最後だ!」
刹那、ネイコの握る妖刀にエフェクトが走る。
暗雲を抱き、深淵を描く妖刀のエフェクトは、禍々しく集束を繰り返す。
「――行くよ! カラミティストライク!」
踏み込みと同時、肉薄して振り払った軌跡は滑らかに横一文字に光源を切り裂いた。
ピシリと音を立てた光源は、切り裂かれた傷口から変色して黒く、昏く変貌を遂げ、やがて全身を覆いつくして消滅する。
「……近くにはもういないみたいだね。行こう!」
辺りを見渡せども、既にグリムリーパーの影はない。
イレギュラーズにとって幸運ともいえる状況が2つあった。
1つ目は、高い反応速度を以って敵が動くよりも前に動き出せる者が半数に及んでいたこと。
そしてもう1つが、その半数のうちの1人が弱点を見抜く力を持っていたことである。
2つの幸運は、イレギュラーズに『最も効率よくダメージを稼ぐ場所を最短で見抜く機会』を与えた。
この時点で、有利に立つ方法が明確になったことは大きい。
「役者不足かもしれませんがご容赦を。お時間、稼がせていただきます」
階下より跳び込んだイデアは薄く笑う白軍服の男へ黒騎士をけしかけた。
文字通り体当たりするようにして振り抜かれた黒騎士と、それが持つ黒剣が金星天へと突撃する。
「何かと思ったら、これ人形だね……」
黒剣を太刀で防いだらしい金星天はそのまま人形を蹴り飛ばすや、イデアへと肉薄し、太刀を薙いだ。
防御技術を以っても殺しきれぬ苛烈な一太刀がイデアの身体に刻まれる。
その刹那に動かした糸が、黒騎士を動かし、横薙ぎに黒剣が金星天へと反撃の太刀を浴びせかけた。
「成程、貴様が金星天か。姿形は似ているが──どうやら全く別の存在の様だな」
冷たく笑う金星天を見据え、ベネディクトは鋭く睨む。
「……なるほど、君達は彼の知り合いか」
嘲笑を隠さぬ金星天へ、ベネディクトは一気に走りこんでいく。
「俺の知っている彼はその様な冷たい笑みを浮かべる男じゃない。
おかげで遠慮なくこの刃を向ける事が出来るというものだ」
振り払われる逆鱗一刀。
振り抜かれた斬撃は竜のものか、果たしてベネディクトのものか。
激情に満ちた静かでありながら芯を捉える斬撃と化す。
強靭なる斬撃は高く構成された金星天の守りを削り落として2度にわたり斬り降ろす。
その一太刀に、金星天の眼が見開かれた。
「なるほど……貴方が金星天、ですか。
――知り合いの顔をするなら……せめてもう少しまともに演技をしてくれない、でしょうか」
旋風の如く駆け抜けたのはハルツフィーネだった。
その表情には苛立ちを覗かせている。
「思ったより腹が立ちます、ので」
そんな言葉と共に、近づいていったハルツフィーネの握るクマさんの手が強靭なる爪となって真っすぐに金星天へと襲い掛かる。
強靭な防御技術を無視して、叩きつけられた爪は2度に渡って大いなる傷を刻む。
芯を捉えた爪の軌跡が、金星天の肉体に傷となって残された。
「あなたの望みはマルクさんに成り代わることなの?
それでどうするというの!?」
声を上げたのは、階段の下にたどり着いたアレクシアだ。
叩きつけるように打ち出した魔力矢は荘重たる雲を思わせるが如く、金星天の身体を撃ち貫き、包み込んで内包する状態異常を与えんと纏わりつく。
「どれほど似ていても、元が同じでも、他の人には成り得ないのに!」
「そうかな? どうしてそう思うんだろう? 僕はあいつから生み出された存在だよ。
だったら、僕が僕になることぐらい、なにもおかしくないはずだ」
纏わりついていた魔力を振り払い、平然と金星天が笑っていた。
続けるように突撃を仕掛けるスイッチが推進力に任せて金星天の懐へと跳びこんでいく。
「テレーゼ殿やマルク殿を襲撃して何をする気だったんだ!」
接敵の瞬間、打ち込む斬撃と同時、スイッチは金星天へと問うた。
「世界が滅びに向かっていたのに、この世界の彼が生き残ったままというのは可哀想じゃないか。
二度も自分が過ごしていた場所が消えてなくなるなんてさ」
金星天は静かにせせら笑う。
「――ここを襲撃すること自体が目的だって?
まさか、それ以降はないなんてはずはないだろう」
激しいつばぜり合いの後、退避行動の直前に斬撃を刻みながら後退する。
「『貴方』にこれ以上させるわけにはいきませんね」
リースリットはその発言を聞きながら、静かに聖剣を掲げた。
高密度に収束を繰り返す聖剣の奔流を、押し出すように叩きつける。
放たれた風の奔流が金星天へと炸裂するより前、その聖剣を質の変わった風が包み込まれる。
温かかな風の奔流は大気に住まう清らかなる精霊の息吹。
立ち続ける仲間達を後押しす祝福の風。
「よっし、追いついた――」
飛び込んできたネイコは妖刀の刃にド派手なエフェクトを走らせ、踏み込みと同時に振り抜いた。
滑らかに撃ちだされた斬撃は、着弾の瞬間、派手な爆発音と輝きを放って炸裂する。
斬撃は防御を許さず、金星天の芯を捉えて浸透するように重く響く。
●
金星天との戦いは続いている。
代償(ログアウト不可)を払っているベネディクトの火力や、イデアの戦線構築能力もあって、戦いは順調に続いていると言えた。
「ふ、ふふ、さ、流石だね。やっぱり君達は強い」
胡乱な双眸で、それでもどこか余裕そうに、金星天が笑っている。
ハルツフィーネはそれを静かに見つめ、自らに加護を降ろす。
全身を神々しい輝きが包み込めば、クマさんを掲げるように持って。
「似ても似つかない在り方で、いつまで友人の顔で話さないでもらえますか」
クマさんの瞳に刻まれた術式が起動する。
鮮やかな輝きを放った術式は、眼光から破邪の光をとなって真っすぐに走り抜けた。
太刀を薙いで打ち消さんとした金星天は、しかし、まばゆい輝きに眩みながら両目から放たれた光線に身体を貫かれた。
「貴方のしたことは、しようとしていることは、許されないんだよ」
弓へと全霊の魔力を注ぎ込みながら、アレクシアは真っすぐに金星天へ視線を向けた。
「壊れた僕達(バグ)に、まともを求めるなんて、間違ってるんじゃないかな……許されなくとも構わない」
胡乱な瞳をした金星天の双眸に、覇気のようなものが滲む。
その瞳と目を合わせながら、アレクシアは深呼吸する。
青色の瞳が魔力を反射して輝き、鮮やかな蒼穹色を引いた一本の矢が駆け抜ける。
足をも連れさせた金星天めがけて炸裂した蒼穹は、その内側へと浸透してダメージを与えた。
(私達が金星天と交戦を始めてからもうじき40秒ほど……マークさんのリスポーンまであと少しでしょうか)
時間を確かめて、リースリットは魔力を束ねていく。
「精霊よ……」
全神経を集中させて放つ旋風の魔術剣が、金星天の守りを斬り捌き、守りを掻い潜って斬撃を刻む。
美しき風の刃は、踊るように振り抜いたリースリットに合わせるように、都合4度に渡って金星天の身体を鮮やかに切り裂いて締め上げる。
続けるように動き出そうとしたスイッチの瞳が、金星天の眼の動きを捉える。
(今更になって、テレーゼ殿やマルク殿を狙うつもりか? そうはさせない)
刀身へ宿るは雷霆。
眩き雷霆のエフェクトを引きながら、スイッチは一気に跳んだ。
相手がハッと我に返ってこちらへ構えを取る頃には、スイッチは懐にいる。
斬り上げからの振り下ろし。
稲妻を纏う斬撃は、金星天の動きを締め上げる。
イデアの身体の傷は多い。
守りは得意であれど、強烈な一撃に傷が増えている。
内燃機関を燃やして効率を高め、自身の加護を張りなおし、そのまま自らの傷を癒すために自己修復速度を上げていく。
「これで終わりだ――」
振り上げられた金星天の剣が蒼い光を放つ。
振り下ろされた斬撃はイデアのHPゲージを0に限りなく近くまで落としていく。
疲労で痺れる腕を動かして、黒剣による反撃を叩きつけた。
「請け負うと、お約束しましたからね」
まだ終わらないと、声を上げた。
「ただいま……これで終わりにしよう。
もうこれ以上、僕の姿で誰かに、悲しみや憎しみを振り撒く事を許さない」
再ログインを果たしたマークは、イデアと交代するように前へ。
「後はお任せします。私も支えますので」
言葉を残して後退するイデアへ頷いて、視線を金星天へ。
余裕そうに笑む僕(偽物)の身体は、あまりにも多い傷が刻まれていた。
微かに歪む身体が、目の前の偽物の空元気であることを告げていた。
「聞いていたよ、この世界の僕が、もう一度大切な場所を失わないように、だっけ?
……僕の姿でテレーゼ様を殺せば、僕が苦しむ。きっと理由はその程度なんだろうと思ってたけど。
お前は、許さない」
真っすぐに見据えて、剣を構えた。
受けた傷をそのままに、一気に前へ。
身体に馴染む自然な動作の振り下ろしが、真っすぐに金星天へと吸い込まれていく。
太刀を以って防ごうと試みた金星天の太刀が砕け散り、勢いを殺されることなく真っすぐに敵を斬り伏せた。
「――うそだ、ここで、死ぬ? 僕は――なんのために、僕は――」
虚しく響いた偽物の言葉が、空を切って、終わる。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
リプレイの納品、誠にお待たせしました。
お疲れさまでした。イレギュラーズ。
GMコメント
さてこんばんは、春野紅葉です。
<ダブルフォルト・エンバーミング>2本目でございます。
●オーダー
【1】『金星天』マークの討伐もしくは撃退
【2】グリムリーパーの殲滅
【3】テレーゼ・フォン・ブラウベルクの生存
【4】NPCマルク・シリングの生存
●フィールド
交易都市エーレンフェルト内部テレーゼ・フォン・ブラウベルク邸宅。
ダブルフォルト・エンバーミング主戦場への出兵直前という事もあり、全体的に物々しい雰囲気です。
貴族としては標準的程度の広さを持った邸宅です。
2階に領主の執務室があり、そこで金星天とNPCの戦いが始まります。
場所がどこかは突入すれば戦闘音から簡単に分かります。
皆さんが突入する入り口には終焉獣が4体存在しているほか、
邸宅内をうろちょろしています。
また、領主の執務室直下の書斎にはサクラメントが存在しています。
リプレイ開始後、テレーゼはこの部屋に移動してきます。合流するにはうってつけです。
・リスポーン時間
サクラメントからのリスポーンには6T~20Tほどかかるものとします。
1分後(6T後)にはHPとAPを3割回復した状態での復活となり、1分(6T)ごとに3割回復し20T目には全快での再開になります。
●エネミーデータ
・『金星天』マーク
マークさんのデータが解析されて生み出されたバグNPCです。
バグNPCらしく、しっかり強敵です。
前回の戦闘(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6853)を踏まえて考えると、
マークさんが反転したような精神性であると思われます。
豊富なHP、堅牢な防技と抵抗、やや高めの物攻、『極めて高いEXF』と比較的隙の無いタンク型です。
また、新たに【必殺】を会得したことがデータから判明しました。
・『終焉獣』グリムリーパー×10
ボロボロのフードに身を包み、袖からガントレットが覗く浮遊する怪物です。
常に3mほどの低空飛行状態にあります。
その両手に刃先が四叉に別れた鎌のような武器を握っており、ガントレットの爪先は鋭くとがっています。
フードの下は闇に包まれ、顔がある部分には、個体によって色の違うぼんやりとした光が灯っています。
機動力、神攻、反応が高めで、物理攻撃へ耐性を持っています。
弱点になる部分以外の箇所に攻撃を受けた場合、最終ダメージから2割ほど威力が軽減されてしまうようです。
弱点に関しては【弱点】属性スキルを用いるか、エネミースキャンと同等の能力を持つ非戦スキルによって看破可能です。
共通して【致命】【石花の呪い】を振りまくほか、光の色によって下記の別種のBSをもたらします。
赤色の光を放つ個体は【火炎】系
青色の光を放つ個体は【凍結】系
紫色の光を放つ個体は【毒】系
※『石花の呪い』
・『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。
・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
●味方データ
・『変わり者』テレーゼ
ROOに生きるNPCのテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)です。
リプレイ開始後、3Tほどかけて部屋の窓から飛び降り1階に移動し逃亡を図ります。
現実のテレーゼと異なり、多少の戦闘能力を持ち、ある程度自分の身を守れます。
とはいえ、あくまで『ある程度』であり、皆さんが合流できないとあっさりと死にます。
・『若き学士』マルク・シリング
ROOに生きるNPCのマルクさんご自身です。
金星天は彼への成り代わりを目論んでいるようです。
現実のマルクさんと同様、神秘後衛として攻撃、回復を行なえます。
皆さんの合流がないと『善戦するが殺されて』しまいます。
・『青き守護の剣』メイナード
マルクさんの関係者でもあるNPCです。
現実同様、テレーゼに仕える騎士風の青年で、テレーゼの私兵隊長とのこと。
攻防ともに堅実な戦いを熟す物理前衛です。
皆さんの合流がないとマルクさん同様に『善戦するも殺され』ます。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
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