シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>Clamat ultor ficta
オープニング
●
砂嵐――『ラサ傭兵商会連合』の勢力圏に相当するその領域の中ほど。
そこには辛うじて家屋の類であったであろうという面影の残す遺跡が点在していた。
遠い昔、それらの遺跡の中でも一際ふるびた屋敷は、異界より訪れた武芸者が居を構えたという。
以来、その子々孫々が居を構え、時代が下るにつれてそこを離れていった。
そんな遺跡にたった2人の姉弟が住んでいる。
普段であれば寂れた遺跡、そこには今、珍しい来訪者があった。
「……ほう、つまり、なんだ? それらはこの世界の終わりを告げる存在であると?」
姉弟の片割れ――アンドレアは、来訪者の後ろに浮かぶ異質なモノへ視線をやり。
「えぇ、そういうことです。お二人を私がこちら側に招いたのは、全てはこの日のため。
世界は滅びるのです。どうでしょう? あの威容、あの異形。まさか、勝てるとでも思われますか?」
静かに語るのは銀髪紅眼の女。来訪者の言葉を静かに聞き終えると。
「なぁ、梓紗。お前は私がどういう考え方をしているか、分かってないな」
「どういう事でしょうか? アンドレア様も向こうの世界で自分を殺した人間と会ったのでしょう?
私の気持ちも、分かると思うのですが」
「――はっ。知らんな。さっぱり興味がない。
そもそも、そこだ。『私は自分を殺した人間を恨んでいない。貴様と違って、な』」
微笑む梓紗へ、アンドレアは鼻で笑い、ゆっくりと立ち上がる。
「は? ……殺されたのでしょう? 無残に、多数の相手に殺されたのでしょう? 理不尽に」
梓紗から漏れてきて来たのは、唖然としたような声。
そんな梓紗へ、アンドレアはゆっくりと首を振った。
「何を思って、どういう状況で私が死んだのかは、正確には知らんがどうでもいい。
ただ一つ言えることがあるとしたら、私は戦いが終わってしまうことを後悔することはあっても、戦いで死ぬこと自体を後悔せん」
「なん――ですか、それは! なんで――なんでそんな風に割り切れる!? あんたらも、私と同じように殺された側だろうが!?
理不尽に作られて、向こう側では既に殺されている。2度死ぬ生だなんてまっぴらだ! 違うのか!」
梓紗は己の被っていたであろう理性の仮面を脱ぎ捨てて、怒りに任せて絶叫する。
それに対して、アンドレアは少しばかり驚いた様子を見せ。
「――潜ってきた戦場の数が違いますから」
それに答えたのは、アンドレアではなくクルトであった。
「まぁ、そういうことだ。悪いな、梓紗。私達は今回、貴様とはいっしょに行けぬ。
――貴様と共に戦ったら、今しか殺れぬ強敵をみすみす見逃すことになりそうだ」
そう言って、アンドレアが凄絶に笑う。
闘争への野心を剥き出しにしたアンドレアに対して、梓紗の眼が血走って怒りに震えだす。
「えぇ、ですが……ですがもし、今回の大一番、貴女が生き残ったのなら。
その時はもう一度、手をお貸ししましょう。
今、剥き出しにされた貴女の本性――そちらの方は人間らしくて好ましい」
短刀を抜いた梓紗と対するように双剣を抜き、クルトは静かにそう言い残して。
「良いでしょう……さっさとあちら側に行くがいい! あいつを殺すついでに、お前ら2人も一緒に殺し尽くしてくれる!!」
深い憎悪に満ちた双眸で睨む梓紗を放置して、アンドレアがクルトと共にその場を後にして――残った遺跡が、影に呑み込まれた。
●
――『終焉(ラスト・ラスト)』
そこから溢れ出すように姿を見せた圧倒的な数の大軍勢は砂嵐を瞬くのうちに蹂躙した。
傭兵であり盗賊でもある獰猛なりし砂嵐に起きた惨劇は世界中の人々を震撼させ、恐怖のどん底まで叩き落した。
しかし、そこは砂の王ディルクであり、また砂嵐を代表する傭兵達。
彼らは半ばなし崩し的に伝承王国と和睦、ネフェルスト奪還のため――そしてけじめを付けさせるため、その戦列へと加わった。
それに続けるようにして、翡翠が、正義が、鋼鉄が――航海と神光が、伝承に存在するビフレストへと集結した。
文字通りの『総力戦』に近しい状況が、歩み寄る終焉へと相対しつつある。
遥かな遠方で、影が地平を覆っている。
それらはただの影に非ず。
行く先全てを蹂躙し、砂嵐を呑み込んだ終焉の獣。
ここからはまだ、その姿は分からない。
だが漆黒の影に覆いつくされ、終焉をもたらされる地平線の向こうを見れば、その数が圧倒的なものであることは明らかだ。
「ここはすさまじい数ですね」
リセリア(p3x005056)はそれらを見ながら思わず感嘆の息を漏らす。
「やばそうッスね!」
隣でそう言ったのはレア(p3y000220)だ。
続々と集結する中で、ベネディクト・ファブニル(p3x008160)はリュカ・ファブニル(p3x007268)を見つけた。
「おう、兄弟」
「兄上もですか」
勝手知ったるとばかりにハイタッチを交える。
迫りくる敵の大軍を見やり、リュカは獰猛に笑う。
「大層な数を用意してくれた見てぇだな」
「そうですね……それに、もしかするとあれらは現実にもいるのだろうか」
「さてな。でもよ――あんだけいるんだ。折角だ、いくら獲れたか勝負しようぜ、兄弟――いや、ベネディクト」
「――あぁ、分かった」
互いに竜眼を覗かせて言い合ったその時だった。
向かい合った立ち位置的に、まず目を見開いたのはベネディクトの方だった。
ベネディクトは思わず愛刀を抜き、跳んだリュカが振り返りながら拳を構える。
「おっと。そう構えないでくれ。今回は味方だ」
そこにいたのは、長大な大太刀を背負う1人の女。
――バグNPC『長刀』アンドレア。
バグ陣営たる目の前の女は、本来で言えば向かってくる影の陣営にいるはず。
「見たか、あの怪物」
やや2人の間合い寄りに立ち止まったアンドレアは影の方へ視線を投げかける。
「あれが終焉だそうだ。……今しかやれない相手、しかも相当に手応えがありそうと来る。
お前達とは何時でも戦えるが、残念ながらあれらとは今しか戦えないだろう。
つまり、せっかくだ。今回ばかり、共同戦線はどうだ?」
戦闘狂い――そうとしか言えぬ狂気じみた笑みを浮かべて、彼女が笑っている。
「……貴方もアンドレアと同じ理由ですか、クルト」
剣を抜いたリセリアは眼前に立つ青年に警戒を露わにする。
「えぇ……少しばかり違いますが、そちらと共闘したいと考えています。
あれは『世界を終わらすモノ』だと、梓紗――前回、私達を雇っていた女が言っていたのです。
ただまあ、流石に世界が滅んでもらうのは困りますから」
リセリアに対してゆるりと告げたクルトに向けて、レアが表情を強張らせる。
「どうしたのです、レアさん」
「……梓紗、あーちゃんが、あそこにいるんッスか?」
震える声で言った彼女に、クルトが視線を向けて。
「ええ、梓紗、彼女はこの世界を壊したいのだと言ってました。
――『自分を殺したことを隠匿した国を許さない。
この世界を滅ぼし、現実で殺した国を滅ぼして。現実世界で自らを殺した人間を殺す』だとか言ってましたね」
言い放った言葉に、レアが何か思いつめたような顔を浮かべていた。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>Clamat ultor ficta完了
- GM名春野紅葉
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年12月10日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
家屋跡らしき遺跡の間を、六腕の怪物の上半身が飛び出ている。
全高4mほどもありそうなその巨体の化け物は、建物越しからも良く見える。
「絶景絶景、まさにこの世の終わりと言える空じゃのう」
10体の怪物と、その足元をうろちょろする人間らしき者達。
それらを見ながら『雪風』玲(p3x006862)はその光景に思わず声を漏らす。
(それにしても……『自分を殺したことを隠匿した国を許さない。』……か)
胸に去来するは、虚構(ここ)ではない地上でゲイムに命を散らせた身内(どうきゅうせい)のこと。
(思うところはあれど、それはそれ、これはこれ、じゃな)
(敵対していたNPCがこちらに与するコトになるとは……
それだけ現在の状況が切羽詰まっていると言えるのですかね)
道案内をするように先導していた2人のNPCへ視線を向ける『物語の娘』ドウ(p3x000172)は、その一方でもう1つの事にも考えを馳せる。
(石花病……現実の深緑にもある病気ですが、この試薬の知識は現実にも応用出来るモノなのでしょうかね?)
実際のところはどうかは分からないが、可能であればサンプルを貰っておきたいと思っていた。
「ようやくたどり着いたな。準備はいいか、イレギュラーズ。
まあ、悪くとももう遅いと言われればそれまでだが」
すらりと身の丈を超える長大な大太刀を抜き払ったアンドレアが、冗談にも聞こえぬ軽口を叩けば。
「絶対に石花病では死なせないから思い切り戦ってくれ」
バグNPCである2人へ向け、声をかけたのは『竜空』シラス(p3x004421)である。
「石花病……致死性の高いあの良く分からない病気ですか。
助かります。……そちらもどうか思いっきり」
クルトからの言葉にシラスは頷いて。
「任せろ、丈夫が取り柄だ」」
静かに綺麗な竜の眼が光を放つ。
「まさかお前らと共闘する事になるとはな。
ま、お前らの強さは骨身に染みてる。味方になるとなりゃあ心強い限りだぜ」
赤き竜の瞳を以って大空より戦場を睥睨する『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)は、獰猛な笑みを見せる。
「本音いうとタイマンでやり合いたかったんだが……残念だが今はそれどころじゃねえ。
さっさと片付けて、イノリとクリストのやつもぶん殴って解決して、それから喧嘩と行こうや」
真剣さを帯びた瞳で告げれば、バグNPC2人が肯定するように笑う。
「何時か出会う時があれば決着を、とは思っていたがこの様な展開になるとはな」
「ふむ、たしかに。こうなるとは私達も思ってなかった。
思いのほか、胸が躍っているところだ」
「戦いの最中、倒れる事は決して珍しくない。だが、言わせて貰うぞ」
夢幻白光を抜き放ち、『災禍の竜血』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は静かに終焉獣どもを見上げる。
「俺達の戦いの決着はまだついていない。こんな所でやられるなよ」
「――あぁ、全くだ!」
歓喜にも似た声と共に、後ろから闘気が溢れ出すような気配を感じとる。
剣を抜きながら『紫の閃光』リセリア(p3x005056)は思う。
(……意外といえば意外ですが)
「常に敵だった貴方達と、仮にとは言え肩を並べる機会を得られるというのは……悪くないですね、むしろ面白い。
貴方達の戦士の魂に感謝します、アンドレア、クルト」
それは悪い意味ではなく。
「そうですね、一度ぐらいは共闘というのも面白いです」
クルトが静かに頷く。それを確認してから、
「死ねばそれまでですかね、くれぐれも無理はせず、幻想種達の解呪を受けてください」
「そうだな、戦場で死に方をとやかくは言えんが――得体のしれん死に方はゴメンこうむりたいところだ」
からりと答えたのはアンドレアだった。
「戻ってきたってこと……――まぁいいわ。どこにいようと、どうせ殺す。
どうせ滅ぼす。――だから、貴方達全員、纏めて殺してやる!」
それは、女の激昂であった。
銀色の髪を戦場に揺らすこの戦場のボス――梓紗が殺意を露わに見せる。
(……しかし、梓紗。近衛長政の傍にいたあの梓紗か)
リセリアはすっと、静かに目を細めた。
目の前に立つ女は、確かにあの時、近衛長政の傍にいた少女だ。
(……彼女が自らの力で手ごまにしようとしたのは、『イレギュラーズに殺された者』といったところか)
たった一つの共通点。なにをどうして、その共通点を探り当てたのかまでは分からないが。
考えを振り払い、真っすぐに終焉獣へ視線を戻す。
――対して、メイドは、『人形遣い』イデア(p3x008017)は緩やかにドレスを揺らすばかり。
「なにやらあれこれ事情がある様子。ですが私のやることは変わりません。
この歪で優しい世界をまだ終わらせるわけにはいきません。
……そのためにも止めさせていただきますよ」
「やれるもんなら、やってみろ!!」
「そう、か。亡くなった人が存在しうる世界だから……
その人が抱いたままの無念や未練、そして恨みも、顕現しうるということなんだね」
剣を握る『データの旅人』マーク(p3x001309)にも思うところはある。
(……それが間違っているとは言えないけれど。
それを受け入れることも僕たちはできない。……だから)
握り、騎士にように剣を掲げて、深呼吸する。
(――せめて、逃げずに全てを、正面から受け止めよう)
真っすぐに見据えるのは、梓紗。
「レアよ」
翼を広げ移動を開始せんとしつつ、『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)は声をかけた。
「どうしたんっすか、先輩」
梓紗から視線を外さず――あるいは外せずにいる少女は、ヴァリフィルドを見上げた。
「過去は変えられぬ。たとえそれが自ら、あるいは誰かの願いによってもたらされてしまった過ちであったとしても。
それから目を逸らしてはならぬ」
視線が合えば、少女は少しばかりうつむいている。
「……たとえ血泥にまみれようとも、それがうぬの受けた依頼であるなら、
最後までやりきって、その分も生きねばならぬだろう?」
「……そうっすね。その通りっす」
「であれば、そんな顔をしている場合か?」
少女が顔を上げて、再びヴァリフィルドを見やる。
その瞳に先程までとは違う色を見て、ヴァリフィルドは静かに視線を前へ戻す。
凄まじい速度を以ってイレギュラーズの全てを無視して走りこんできた梓紗が、レアの前へとたどり着く。
マークはレアの前へと立つ。
「邪魔を――するな!」
紅の瞳を見開いた梓紗の短剣が走る。
対して、マークは剣の腹をもって苛烈な衝撃に耐えていく。
斬撃の余波が続き、最後の一筋が、懐に入って傷を生む。
その一太刀一太刀を、マークは見逃さない。
(僕たちは必要な犠牲を許容して、誰かを生かすために誰かを殺してきた。
……自己満足なのかもしれない。
それでも、彼女の恨みは、世界への恨みは、僕にも受ける義務があるのだから)
軌跡が終息して、梓紗が僅かに間合いを戻す。
「だ、大丈夫っすか?」
「……君の恨み、悲しみを――僕は忘れたくない」
レアへと頷いて見せてからマークの告げた言葉は、まっすぐに梓紗を射抜く。
「――雑兵共」
戦場を突っ切り、前線へと向かったヴァリフィルドは、着地と同時に取り巻き共を睥睨する。
身を大きく見せるように、身体を起こして、深く息を吸った。
「図が高いわ!!」
それは竜らしく、威風堂々と告げる咆哮。
戦場を揺らす振動を、敵を薙ぎ払うように終焉獣を中心とする一帯へと押し付けた。
(……敵とやらは本当にこの世界を、ひいては現実の練達という国を本気で滅ぼすつもりでおるのだな)
終焉獣と、その周囲をうろちょろする破滅主義者たちを見ながら、『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)は改めて目の前の敵の冗談のような狙いに思いを馳せる。
雷霆を呼び寄せる準備を整えながら敵を見る。
(座標はこの辺りで良いか)
「――招雷、Thunder Fall」
空に浮かぶは、暗き雲。
白き光を抱き、雷鳴を呼べば――刹那、空から一条の雷霆が降り注ぐ。
それを道標とするが如く、幾つもの稲妻が鳴り響き、終焉獣と使徒たちへと打ち据えられていく。
追撃の雷が打ち据え、終焉の使徒の抵抗力を失わせていく。
イデアの手繰る黒騎士が動き出す。
狙うはタオの雷霆に打たれた終焉獣たち。
「メイドは誰かの為に尽くす者ですからね」
黒騎士は剣を携え一気に突撃すれば、そのまま周囲を黒き一閃を以って斬り伏せる。
壮烈なる斬撃は退避を許さず敵の注意を引き付ける。
終焉獣が雄叫びを上げてイデアの方へと動き出す。
釣られるように使徒たちも動き出して、吶喊を仕掛けてくる。
(一気に来られてしまったら、押しつぶされてしまいかねません。
ある程度は相手の動きを制限できる異様な場所で戦わなくては……)
ドウは静かに敵を見る。戦場にいる敵の数は、圧倒的に敵の方が多い。
風を纏って移動しながら手をかざしたのは終焉獣の一体。
その足元、終焉獣の影が踊りだす。
それは刃となって終焉獣を、影の中にいた取り巻きの使徒たちを一気に貫いた。
それは完全なるサイレント。
自身と外界との間にある音を掻き消す空間より放った魔術に、敵の様子は困惑しているようだった。
開かれた戦端、リュカは家屋を迂回して回り込むと、終焉獣の一体へと一気に肉薄する。
「終焉獣様に手を出させるか!」
取り巻きらしき3人の使徒が各々の獲物を構えて迎撃してくる。その間を縫うようにして、リュカは奥へ。
「退けぇ!」
赤い闘志が可視化するほど濃密に放たれれば、中てられた終焉獣と鳥薪たちの視線がリュカに集中する。
『オオオオオ!!!!』
雄叫びのようなものがした刹那、終焉獣が六腕より長剣を振るう。
苛烈なる連撃は幾つも重なり、周囲をただの荒野からクレーターの如く作り変えていく。
その連撃を全て受け止めて、リュカは竜眼を以って終焉獣を下からにらみつける。
「必殺の気迫が無けりゃあ俺は殺せねぇぞ!」
返答は怒号。取り巻きの使徒たちと、見下ろすような終焉獣の長剣の乱舞。
玲もまた、取り巻きを振り払うようにして終焉獣へと肉薄していく。
使徒たちには目もくれず、その視線は終焉獣しか映さない。
「 今日は忙しいのう、西に東にひたすらおぬしらと戦い続けておるような……そんな感じがして仕方ないのう? 終焉獣とやら」
こちらを見下ろす終焉獣からは人語を介する能力を感じ取られぬ。
暴れる暴風の如き斬撃の乱舞を躱し、或いは受け流して跳躍。
人体の心臓部分辺りで愛銃二丁を抜き放つ。
火花散らす弾丸は終焉獣へと集束していく。
「終焉の獣よ、この世界を終わりになどさせはしない。俺達がこの世界に居る限り!」
受けた攻撃全てを受け止めたベネディクトは大喝する。
蒼竜の大喝に終焉獣の周囲にいた取り巻き共が視線を向ける。
「――月閃!!」
刹那、その身に宿る蒼竜の魂が脈動する。
蒼き竜の魂が全身を包み込む濃密な魔力と化していく。
それは宛らベネディクトそのものを竜とするようにその身に魔力の鎧を形成する。
刀身の輝きを増した夢幻白光を振り払い放たれた斬撃が、真っすぐに取り巻き2人を斬り捨てれば、たちまちその2人が消滅する。
オーバーキルだったのか、そのHPゲージの減り方は文字通りの一瞬だった。
同時、撃ち込まれた斬撃は中央にいた終焉獣のHPさえも一気に削り落とす。
月閃による強化に加え、ログアウト不可のバフが青天井とばかりにベネディクトを強化していた。
『オオオオ』
――眼前に立つ敵から見れば随分と小柄な竜撃士へ、終焉の獣が苛立ちを露わにした。
終焉獣の方へと走り出したバグNPC姉弟とほぼ同時、シラスが動く。
「月閃――行くぜ」
白亜が黒く、禍々しき鱗へと変貌する。
圧倒的な迫力を抱く黒き竜は戦場を飛ぶ。
黒い羽が地上に降り注ぎ、周囲にいた仲間達に加護をもたらす。
黒き鱗が美しきスパークを迸らせていく。
爆ぜた黒の稲妻が音を立てて前にいる終焉獣2体とその取り巻きへ迸る。
光を思わせる速度の雷霆は避けることを許さない。
「りゅ、竜だと!?」
驚愕するような様子を見せた使徒たち。
「竜なわけあるか! 怯むな! 行くぞ!」
自らを奮い立たせるような声と共に、剣が、槍が、シラスへ向かって差し向けられ、次いで銃弾と矢が降り注ぐ。
それらの殆どは、シラスの黒き竜の鱗を以って弾かれて傷にさえならない。
続くように2体の終焉獣が突撃を仕掛けてくる。
放たれるのは2体それぞれが振るう斬撃の乱舞。
大地を、取り巻きの使徒をも巻き込みながら斬撃がシラスに降り注ぐ。
終焉獣を中心として陣を描く斬撃の乱舞が、都合4度に渡ってシラス刻み、黒き羽が空に散る。
「おぉ、終焉獣様! 我らを贄としてどうか、世界を滅ぼしたまえ!」
切り刻まれる使徒の、狂信の声がシラスの耳を打つ。
「今だ、俺もろともやってくれ!」
声を上げれば、後ろからバグNPC達の声がする。
「良いだろう」
背中から撃ち込まれた斬撃、強烈な横一閃。
確かに減ったHPゲージ、真っ二つに切り裂かれた使徒たちがデータに還っていく。
フリー枠の終焉獣とその取り巻きを見つめ、リセリアが動く。
取り巻き3人を無視して狙うは終焉獣。
踏み込みと共に紡ぐ斬撃が終焉獣の足元を強かに撃ちぬき、銀玲瓏の太刀は終焉獣を支える四本足の尽くを切り刻む。
足元で撃ち抜く斬撃の痛みに、終焉獣が猛る。
六腕の斬撃が降り注げど、それを巧みなステップで受け流せば、長剣たちが大地へと次々に突き立つ。
●
戦いは続いている。
圧倒的な物量差だった戦線は、取り巻きの使徒たちもろとも削る終焉獣のおかげで瞬く間にイレギュラーズ優位に立ちつつあった。
終焉獣は取り巻きのことなぞいざ知らず、そのまま長大なる長剣が戦場を走らせていく。
大地を削り、世界を滅ぼす崩陣の太刀が乱れ舞い、多くの傷を刻む。
「――む? デカブツとやり合うのに集中しすぎたか」
そう言ったアンドレアが、足を止めた。
「――石花の呪いか」
見れば、アンドレアに刻まれた傷口からの1つが石化しつつある。
「乗れ!」
それに気づいたシラスはすぐさまアンドレアの前に降り立った。
「言っただろ、絶対に石花病では死なせない」
「すまない、手間をかける」
背中に乗せて羽ばたけば、そのまま一気に目指すは戦線の後方。
シラスの姿を見たらしい幻想種達が直ぐに近づいてくる。
「じっとしてな。あいつの方は任せろ」
「……あぁ」
短く頷いたアンドレアをひと先ずおいて、再び舞い上がる。
視線の先には、もう一人のバグNPC――クルトがまだ戦っている。
圧倒的な機動力を以って飛翔し再び前線へ。
「影よ、あれらを喰らいつくせ」
タオはディメンジョンイーターの1体へと自らの影を一気に伸ばしてけしかける。
黒影はディメンジョンイーターの影と溶け合うや、影の質を変貌させる。
影はそのまま踊り、ディメンジョンイーターの身体を下から食らいつくしていく。
「数が多くとも統率さえ取れていなければやりようはあるものです」
悠然と告げるイデアは、バフで強化されたステータスの堅牢さをもってしてディメンジョンイーターの長剣を、取り巻きたちの武器を相手に対抗する。
長剣が戦場を切り開く。苛烈なる斬撃の連鎖がイデアに傷を広げていく。
受けた傷をそのままに、イデアは糸を絞る。
ぎりぎりと絞られた糸は刃となって使徒と終焉獣の身体を締め上げ――切断する。
「――やることは単純明白……吹き飛ぶがよい」
ヴァリフィルドは深い呼吸を残す。
応じるように、戦場へと染みわたるはその身へため込んだ膨大なるデータ。
膨大なるデータを口元へと集め、放つは竜の息吹。
圧倒的な質量を以って打ち出された息吹が、1体の終焉獣を中心に円形状を焼き尽くす。
「――龍の呪いを、舐めんじゃねぇ」
赤龍の魔力を纏うリュカは殴りつけてきた敵を視界に抑え、手をかざす。
リュカの殴りつけた敵の集団を中心に、赤い陽炎が立ちのぼる。
空間の内側に落とし込まれた敵めがけ、手を握り締める。
刹那、リュカの纏う魔力が実体を持ち、それはさながら龍の腕の如く終焉獣を締め上げた。
質量を持った呪いに、終焉獣の雄叫びが響く。
それは果たして苦悶か、怒りか。
構えを崩して虫の息となっている終焉獣の一体を見つけ、玲は一気に走り抜けた。
横薙ぎに払われた敵の長剣を躱して、その剣身へと飛び乗れば、そこを足場に一気に走り抜ける。
「……さて、の。終わりじゃ」
跳ね上げた速度のまま、振り抜かれた長剣をもう一度躱し、終焉獣の顔と視線を交えた。
ぶち込んだ弾丸が、真っすぐに終焉獣の双眸を潰して。
別の腕へと着地したまま、懐へと文字通り跳びこみ、再び弾丸をぶちまけた。
巨大な終焉獣の身体が、ぐらりと揺れて――落ちていく。
「終わりだ、終焉獣――」
災禍をもたらす蒼き竜の化身と化したベネディクトは、竜刀へ自身を形作る蒼きオーラを刀身へ集束させていく。
刀身へと纏われゆく魔力は、密度が増すにつれて透明度を増していく。
鮮やかなる白銀とも蒼穹ともとれる清廉なる輝きに映り変わっていく。
「手負いの竜程恐ろしい物は無いと、身を以て知るが良い!」
踏み込みと同時、閃光が戦場を包み込んだ。
美しき閃光は終焉獣の身体を包み込み、霧散させる。
「1……2……3……残り3体のようですね。
イレギュラーズ、残りの終焉獣は私達姉弟に任せてください。
あの女の事は、任せます」
戦場全体を見渡したクルトからの言葉に頷いて、イレギュラーズは本命――梓紗へと向かっていく。
「あと3体なら、アンタらの支援をやってやるよ」
黒竜の姿から玲瓏なる純白の竜へと戻ったシラスが静かに告げる。
「アンタらの火力にオレが支援すれば、3体ぐらいすぐだろ?」
悠然と告げたシラスの言葉に、バグNPC2人が頷けば。
「踏ん張りどころだ。最後まで――俺の分も暴れてくれよな」
大翼を広げたシラスの加護が純白の輝きを放つ。
鮮やかな光はクルトの身体を包み込む。
同時に、クルトが戦場を矢のように突っ切って走り抜けていく。
「全て終わった後、私は君とも戦ってみたいところだ」
それだけ言って、アンドレアが長大なる大太刀を薙いで――3体の内、一番の重傷を負っていた1体が真っ二つに裂けて落ちた。
●
マークは、剣を構えながら、梓紗を見据えた。
「許してくれ、なんて言えない。けれどせめて、僕は――僕達は忘れない。
いつかの君を犠牲にした今日を、生きているという事を」
苛烈な連続斬撃にその身を斬り開かれ、死が加算されていく。
「それでも、虚構(わたし)じゃないリアル(わたし)は、もうとっくの前に忘れられた!」
マークへの返答を告げながらも、激昂する少女の視線はマークには無い。
「私は、死んだ。殺された。その事実は、何も変わらない。
だから――殺された恨みは、晴らすだけ!
何度でも、何度でも! そこで庇われてるだけのアンタを――殺す!」
冷たくも激しい怨の感情を、余波ながらに当てられているマークは、敢えて自らの傷を完全には癒していない。
「――それでも! 君がその憎悪から、訣別できるように。
僕は、訣別の騎士を名乗ろう!」
それは時間が惜しいからではない。
目の前の少女が持つ憎しみを断ち斬ってみせるための挑戦。
不意に、梓紗の視線がレアを離れてマークを見る。
「訣別――ですって? 私から、この怒りを、奪うってこと?
あぁ――そうよね、そうしないと貴方達は私に勝てないもの」
――刹那、マークは死を感じた。
それはあくまでイメージだ。
明確なる殺意が、初めてマークに向いた瞬間だった。
「――月――」
否な予感がして、思わず守りを固めたマークの視線の先、青い閃光が梓紗を裂いた。
庇わんと短刀を動かした梓紗の身体を、蒼剣の閃光は守りを無視して切り裂く。
「ちぃ――邪魔を!」
梓紗の視線が、忌々し気にドウを見止めた。
それは、師の一太刀。
未だそこに至らねども、一歩でも近づくべく研鑽する一閃。
ドウが全霊を用いて振り払った、一太刀。
2度に渡る蒼刃の動きは、止まることなく走り抜ける。
「何をするつもりだったか知りませんが、ここからは私も参加させていただきます」
青い残像を引くドウは言葉を残して、再び梓紗へと斬撃を払う。
奇襲気味の一閃とは対照的に、今度は短刀が合わされる。
止められた剣身から放たれた魔力の斬撃がもう1つ傷を刻む。
「――彼奴を撃ち抜く為に力を貸してくれい!
闇よ、妾に応えよッ!」
梓紗めがけて走り出した玲は覚悟を乗せて月閃を発動する。
真祖の身体を包み込む暗き濃霧が立ち込め、全身を包み込んでいく。
そのまま、速度を殺さず梓紗へと肉薄していく。
「のう、梓紗。殺すのは、滅ぼすのは、楽しいかのう?
所詮は仮初の世界。無意味なはずじゃ。だとしても滅ぼそうというのじゃろう?」
闇の奥、赤と碧、2つの光が梓紗を見据える。
「――全く、楽しくなんてない。
ああ、でも、私を殺した人間が苦しんで死ぬ様はきっと、きっと心地いい!」
二丁拳銃による連打を撃ち込み、弾丸を撃ち込んでいく。
防御を許さぬ連撃は、幾つもの傷を生んだ。
「自らを殺した者を殺す……其方のような者が出るのも道理であろうし、
『あれは自分とは無関係な人間の話である』とできる人間ばかりでもなかろうな」
蒼火を揺らめかせながら、タオは梓紗の言動を肯定する。
「――だが当然であるからと看過もできまい。
悪いが、其方に寄り添う事はしてやれぬ。
妾にできるのは燃やし尽くす事のみであるが故に」
そういう者がいることは理解できる。
だからといって、そう思う者に寄り添えるかと言われれば、それは別の話だ。
「――月閃」
タオが宿す蒼火の火力が格段に上昇し、全身から炎が具現化したような力が溢れ出す。
連続で撃ちだされた3発の火弾のうち、1つは真っすぐに、2つが外に向かうように放物線を描いた後で梓紗へと炸裂した。
一歩後ろへ後退を余儀なくされた梓紗へ、リセリアの剣身が走る。
玲瓏なる斬撃は、しかしながら梓紗の双刀によって大きく勢いを殺される。
鍔迫り合いの状態で、リセリアは梓紗を見た。
「『貴女の最期』からすると、彼女は『貴女を救おうとしてくれた友達』ではないのですか?」
彼女、とレアの方を見て告げる。
「貴女は夜妖に囚われ人として死にました。
そして彼女は亡者となり果てた貴女を祓った――それでも彼女が、世界の全てが許せませんか」
現実の石神地区では『現実での梓紗』のようにゾンビのような存在と化した事件があったという。
似て非なる話なのだとしても、対処療法として祓うしかなかったのなら、それは亡者であることよりマシだろう。
問うリセリアの胸の内には、同時に納得する自分もいた。
例えどうであれ、突如として降りかかった不幸と理不尽。
その結果に死んでしまった側からすれば、何かを呪わずにはいられない――そういうこともあろう。
「許せなくとも、受け止めて――その上で祓いましょう。他人に出来ることはそれだけです」
間合いを整え、剣を構えなおす。
「話に聞いたけど、お前が怒るべきはお前を騙した夜妖じゃねえのか?」
梓紗へと肉薄したリュカの言葉に、梓紗の表情が歪む。
「夜妖に騙されてレアや他の奴らに討伐されたってところまでは、百歩譲っても同情の余地もあるけどよ。
元凶のことすっ飛ばして、練達や自分を殺した人間を恨むのは、流石に八つ当たりだろ」
握りしめた拳が赤き龍の覇気を纏っていく。
「それとも、人格ぶっ壊されて、自分を騙した奴に良いように使われた方が良いってか?
俺だったら死んでもゴメンだけどな」
充実した迫力は復讐を誓う龍の覇気に加え、囚われた魂(ログアウト不可)のバフ。
「きっと、ッ――あっちの私は、ただ耐えられなかっただけなのに!
それを、全部、――全部! 切り捨てた練達なんて、許さない!」
「……そうかよ」
絶叫と共に目を見開く梓紗に、ゆっくりと近づいていく。
一瞬、梓紗がたじろいだ瞬間――リュカは真っすぐに拳を叩きつけた。
「戦えないか? 友人とは」
レアの隣に立って問うたベネディクトに少女が顔を上げる。
「怒るわけじゃない。親友相手というのなら、猶更だ。
だが、君は今この戦場に立っている。
迷いこそはすれ、君は友の前に立つ事を選んだ」
胸に去来するのは同じように戦って、倒したかつての親友のこと。
青い髪をしたあの男には、最後には怒られてしまったが。
「相手を恨む必要も、遠慮する必要もない。
相手が大切だからこそ、抜かねばならない刃も時にはある。
――君の思う事は全て相手にぶつけるべきだ」
背中を押すようにそう告げて、ベネディクトは前へ出た。
(――なあ、そうだろう、ローランド)
そのまま踏み込んで、一気に肉薄。
逆鱗の太刀が芯を捉え、梓紗の身体を大きく切り裂いた。
辺りを見渡して状況を把握したらしき梓紗が苦虫をすりつぶしたように表情を歪めた。
「どいつも、こいつも邪魔ばかり――」
大量のバフが乗ったベネディクトの一閃は、バグによって脅威的なステータスにまで至っている梓紗の身体を綺麗に抉り取っていた。
ちりつくデータの粒子が、流血でもしているかのように零れ落ちていた。
追撃を仕掛けるのは竜。空より飛来した青き竜は、禍々しいフォルムへと変じている。
竜――ヴァリフィルドは咆哮のような物を上げてからそのまま梓紗めがけて吶喊する。
「うぬの言うことも分からんではないが、どちらにせよ我々は勝って元の世界に戻らねばならんのだ――」
充実したデータを口の中に含めて告げたヴァリフィルドは、思いっきり梓紗を飲みこまんと食らいついた。
バリバリと音を立てながら食らいついた竜牙は、都合4度に渡って梓紗の身体を文字通り喰らい、生命力を奪い取る。
「私が支えましょう。メイドらしく」
続けて到着したイデアは人形に仕込んでいた回復術式を起動させる。
それはイデアの心臓にあたる内燃機関を回転させる要領を周囲の仲間達にも一時的に発動させるもの。
綾い輝きを放つ術式より齎される高効率の治癒魔術は梓紗との戦いで疲弊する仲間達の傷と疲労感を打ち消していく。
●
「……私は、私は……死にたくない。
もう、死にたくなんてない――死ぬなら、私を殺した奴らを殺してやる」
蒼火を纏うタオは、静かに目の前の少女を見た。
少女の表情は、あまりにも痛ましく見えた。
「なんと、其方……」
そう言って悲し気に顔を歪めた少女は、再び憎悪の仮面をかぶる。
「……なんであれ、妾に出来ることは、其方を焼き尽くすことのみか」
業炎を浮かべ、一言。
画面上に浮かぶ月閃のタイムリミットはあと少し。
纏う力に限りがあるならば、その限りが尽きる前に、焼き尽くすのみ。
出力を増した蒼き業火は、狐のように揺らめき、跳ねるように疾走して、梓紗の身体を焼きつけた。
(流石に、疲れてきましたね)
「……もうひと踏ん張り、でしょうか」
敵のHPゲージを見るに、残存HPは残り3割程度。
虚ろな瞳をした梓紗と眼があった。
糸を手繰り、黒騎士を自分の近くへと動かして体勢を立て直す。
高い回転率もあって、ヒーラーとして戦線維持にこれ以上に無い貢献をしているが、それでも直接狙われた時のダメージは強烈なものがあった。
(私はヒーラー……倒れるわけには行きませんか)
深呼吸すると同時に、治癒魔術を一気に行使する。2つ同時に起動した治癒魔術を、重ねるようにして起動すれば、周囲の仲間を巻き込んで、一気にHPとAPを回復させて見せる。
「月閃!!」
帰還を果たしたマークはそれをトリガーにその全身をより騎士らしく変えていく。
充実した魔力の鎧で鎧を包み込み、騎士は剣を握り締める。
体当たり的に思いっきり突撃を仕掛けると同時、表情の優れぬ梓紗へ視線を向ける。
「終わりにしよう――君の事を、僕が、僕達が覚えておくよ」
剣身に纏う魔力が質を高めていく。
自らの失った生命力の分を魔力へと変換し、膨れ上がった月閃による身体強化をも利用して。
真っすぐに、剣を振り下ろした。
美しき軌跡を描いた斬撃は、残像を伴い梓紗の身体を削り落とす。
ドウは死からの即時帰還と同時に、真っすぐに梓紗の下へと駆け抜けた。
本来のHPよりも回復量こそ少ないものの、壁役が別にいるのであれば、気にすることではない。
「貴方は、此処で止めます!」
自身の出せる最高速度で振り抜いた蒼刃。
迸る蒼刃の軌跡と共に、残像を引く鮮やかなる蒼い斬撃は瞬く間にして梓紗の身体を幾つもデータの塵に変えていく。
連続斬撃は既に深すぎる傷を負った梓紗の身体を削り落とすに十分。
微かに残ったHPで、梓紗が顔を上げた。
「過去である以上、静かに眠るのだ」
強靭なる顎から犀利なる牙を覗かせて、ヴァリフィルドは梓紗を見下ろした。
その口内に多数のデータを内包させ、膨張を続ける力をそのままに、思いっきり食らいつく。
身体を引き裂くようにして、梓紗を構築するバグを抉り、削り、飲み干していく。
2度に渡る噛みつきのうちの1つは、深く刻まれ、彼女の芯を捉えた。
崩壊を開始したその身をもって、梓紗が1歩、2歩と後退する。
されど崩壊に至らぬ彼女目掛け、白雷が走り抜けた。
退避を許さぬ砲撃はシラスによるもの。
疲弊に加え、必中を期す雷鳴の一撃が梓紗に追撃を与える。
「……まだ立つみたいだ」
降り立ち、静かに呟けば、視線の先で梓紗がイレギュラーズに視線をやっていた。
「――諦めない、諦めてなんて、やるもんか。私は、絶対に、絶対に――!」
絶叫した梓紗が、残る力を振り絞るように、短刀へと魔力を籠め――爆ぜるようにイレギュラーズめがけて飛びこんできた。
連撃の幾つかは、痛撃になりこそするが――それでも、既に大勢が決している。
「……最後まで支えましょう」
イデアはその様子を見ながら、静かに呟いて――痛撃を喰らった仲間達の方へ移動して回復術式を起動する。
まばゆく輝き、仲間達の受けた傷を瞬く間に癒して見せれば、梓紗の表情は暗い。
「影の中で眠るのだ。安らかにな」
静かに手をかざしたタオが掬うように手を捻れば、梓紗の足元にあった影が踊り、死角からその身体を刺し貫いた。
関節を貫いた影が纏わりつき、梓紗の身体を包み込んだ。
続けるようにドウは一度動きを止めた。
静かに敵を見据え、再び風を纏う。
ボロボロな身体の梓紗の傷跡を真っすぐに見据えれば、動きの隙を突くように駆ける。
蒼き風のように走り抜けたドウは、そのまま斬撃を払う。
美しき傷を開いた連撃の終焉と同時、マークは押し立てるように盾を構えて、前へ踏み込んだ。
梓紗の目の前にいたマークの傷は深かった。傷の多い身体も、マークにとっては利しかない。
「さようなら……」
踏み込みと共に振り抜いた斬り降ろしは、梓紗を切り裂いた。
「……貴女の思いは、もう十分に受け取りました」
リセリアは静かに告げて、剣を振り上げた。
その手に握られし太刀には、紫電が纏われている。
それは文字通りの落雷の如く。
美しくも熾烈なる太刀筋は真っすぐに――梓紗の身体を断ち割った。
終息した紫電と共に、リセリアは鞘に納める。
(……しかし、隠匿ですか)
現実の梓紗の死は、隠匿されたという。
彼女の死が『夜妖に関係した事件によって起こった』のであれば――『非日常を嫌う希望ヶ浜』では、御法度の存在だろう。
(……これもまた希望ヶ浜の歪みと言えるのでしょうか)
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
大変お待たせいたしまして申し訳ございません。
GMコメント
さて、練達決戦でございますね。
こんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】梓紗の討伐
【2】終焉獣と終焉の使徒の討伐
●フィールドデータ
砂嵐内部にある遺跡です。
複数の家屋であったと思われる構造物が点在しています。
遺跡の郊外にはサクラメントが存在しています。
●リプレイ開始時状況とサクラメントについて
皆さんはアンドレアとクルトに導かれてフィールドデータの遺跡へと突破、潜入を果たしたものとします。
リプレイ開始時に遺跡の郊外にあるサクラメントを再開放し、そこをスタート地点として行動することになります。
サクラメントが破壊された場合、再度戦場に戻れないためクエスト失敗とします。
敵軍がサクラメントを攻撃するのはフィールド内に味方戦力が1人も残っていない場合のみとします。
・リスポーン時間
サクラメントからのリスポーンには6T~20Tほどかかるものとします。
1分後(6T後)にはHPとAPを3割回復した状態での復活となり、1分(6T)ごとに3割回復し20T目には全開での再開になります。
20Tで全開にはなりますが、あまりゆっくりしているとサクラメント破壊の可能性が高まります。ご注意ください。
●エネミーデータ
・『アヴェンジャー』梓紗
短刀の二刀流を駆使する銀色の長髪を流す紅眼の少女です。
圧倒的な反応速度、極めて強力な物攻、高めの神攻、EXAと防技、攻撃時に伸びるCTが特徴的なハイスピードアタッカーです。
【痺れ】系、【凍結】系、【連】、【変幻】、【復讐】、【移】を用います。
魔種に相当するスペックを持ち、レアを優先的に攻撃します。
現実世界では既に故人の少女のROO版と言われています。
佐熊 凛桜(p3n000220)によると、現実の彼女は希望ヶ浜で生まれ育った旅人の少女でした。
事故によって両親を失い、『私の命と引き換えにしてもいいから、両親を生き返らせて』という内容で性質の悪い夜妖と契約。
結果、夜妖に騙されて人格を奪われ『肉体を得た強力な悪霊』のようになってしまい、
『ゾンビのような動く死体となった両親』もろとも密かに殺す以外なかったとのこと。
バグNPCとして目覚めたROOの梓紗は、『マザー』が防御にスペックの過半を割いたことで上記の事実(データ)が流出して
『自分と家族が殺されている』ことに気づき、『自分を殺した人間と、それを隠匿した練達という国家』を憎悪しているようです。
<特殊能力>
虚実背反:バグ化に当たって梓紗が得た固有能力です。
現実世界の事を語り、それを『事実』と認識したNPCのデータをバグらせます。
現実で言うところの『原罪の呼び声(クリミナルオファー)』的能力と言えるでしょう。
・『終焉獣』ディメンジョンウォーカー×10
全高4mほどある四足六腕のケンタウロスっぽい謎の怪物です。
全体的に禍々しいオーラを纏っており、6本の腕にそれぞれ3m規模の長剣を握っています。
ブロックに2人を必要とします。
攻撃が1種のみである代わり、HPが異様に高く、EXA、機動力、物攻、防技、反応、抵抗、命中が高めです。
また、常に自域範囲へと【狂気】【懊悩】をもたらしています。
また【石花の呪い】を振りまきます。
<スキル>
乱舞する崩滅の極陣:多腕より放たれる厄災の乱撃。
物自域 威力大 【スプラッシュ3】【連】【追撃】【邪道】【変幻】【ショック】【致命】【体勢不利】【滂沱】
・終焉の使徒×30
ラスト・ラストを信奉する破滅主義者達です。
彼等は終焉の使徒を名乗り、終焉獣(ラグナヴァイス)と共に、一大攻勢を仕掛けてきています。
終焉獣1体につき3人取り巻きとして存在しています。
学生服のようなものに身を包んだ剣や槍、斧、銃、弓などを持った人間種風のエネミーです。
スペックは終焉獣よりも遥かに下です。
●友軍データ
・アンドレア&クルト共通項
友軍としての弱点は『自力で回復する能力がない』こと、『NPCのため皆さんと違いリスポーンできないこと』です。
単に戦闘不能であれば撤退しますが、『石花の呪い』による死は不可逆です。しっかり死にます。
2人とも、当シナリオの構成が『本気』のようです。
将来的に2人を討伐するシナリオが出た場合には参考になるかもしれません。
・『長刀』アンドレア
現実を認識し、バグによって強化されたNPCです。
二つ名の通り身の丈を超すほどの大太刀を持つ女性の傭兵です。
本来的には皆さんとは相容れぬ立ち位置ですが、今回は素直に味方として使い潰せる戦力です。
今回は『あっちよりこっちのほうが強敵と戦えるっぽいな』という割と軽いノリで皆様と共闘します。
豪胆かつ極端に理性的な性格です。
豊富なHP、非常に高い防技と抵抗、物攻を持つオールラウンダーです。
アクティブスキルは【飛】【ブレイク】【復讐】を有します。
パッシヴは【覇道の精神】【底力系のバフ】【反】を持ちます。
射程は至近から超遠距離、単体、貫通、超遠扇、中範レンジがあります。
肉壁にするも、攻め手の1つにするもご自由にどうぞ。
・『双剣』クルト
こちらもバグNPCです。
二つ名の通り双剣を握る青年の傭兵です。アンドレアとは実の姉弟です。
本来的には皆さんとは相容れぬ立ち位置ですが、今回は素直に味方として使い潰せる戦力です。
今回は『流石に世界が滅んでもらうのは困りますし、一回くらいは肩を並べてみるのもいいかもしれません』という理由で皆様と共闘します。
非常にストイックかつ冷淡な性格です。
豊富なHP、命中、物攻、EXA、機動力が特徴の近接物理アタッカーです。
【氷結系列】【出血系列】のBS、【追撃】【カウンター】【反】を有します。
パッシヴで【覇道の精神】を持ち、自付与に自身を大幅強化する【瞬付】を持ちます。
射程は至~中距離です。単体、中扇、自域、近列レンジがあります。
攻め手の1つにするもサブアタッカーとして運用するのもご自由にどうぞ。
・レア
オッドアイの女の子。希望ヶ浜学園の生徒であり、一応イレギュラーズです。
物理近接バランス型。攻防ともにある程度なんでもやってくれます。
また、今回、範囲ヒールを覚えてきています。
現実での名前は佐熊 凛桜(p3n000220)
梓紗とは希望ヶ浜で親友ともいえる仲でした。
要求された依頼かつ手遅れであったとはいえ、
他7人の参加者と共に現実世界の梓紗を殺した張本人でもあります。
・幻想種×5
下記の石花の呪いに対抗できる幻想種です。幻想種1人のつき1人の解呪が可能です。
戦闘能力もありはしますが、当シナリオでは基本的に戦力には数えず、上記の解呪に集中させた方がいいでしょう。
●魔哭天焦『月閃』
当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
※石花病と『石花の呪い』
・石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。
・石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
・R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。
幻想種達はこれらを駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(1Tのギミック解除時間が必要です)
・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
●重要な備考
<ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。
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