PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>物語を綴るのは

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●獣の蹂躙
 破壊し、踏み砕き、侵略する。
 それは、土埃を立てて。
 それは、大群を率いて。
 それは、全てを蹂躙する。
 それは、世界を滅ぼさんとする終焉の獣。

 最初に見た人は、こう思ったはずだ。
 ――何か、黒いものが見えた、と。
 次第にそれが小さな塊ではないことを知り、押し寄せる軍勢だと知り、人々は恐怖した。
 まるで、悪い夢を見ているかのようだっただろう。
 まるで、幸せで結ばれない物語の結末のようだっただろう。
 人々の笑顔で締めくくらない、醜悪な物語。
 全てを破壊し尽くす、希望の残らない物語。
 人々はただ絶望する。
 ああ、終わりが来たのだ、と。
 剣を握る力も無きその身は終焉の波に飲まれ、ここで潰えるのだ、と。

「これは……」
 ホームにしているエアツェールング領の外れにある館から街へと買い物に出ていた『NyarAdept-ねこ』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)は思わず声を震わせた。
 警鐘の音に気付いて高台へと上ってみれば、街から少し離れた森――の、更に奥。恒ならば豊かな緑で溢れている平原が、その日ばかりは『黒』かった。押し寄せる何か――恐らくは敵勢力だと思われる何かが、害をなそうとしていることを彼は瞬時に理解する。
 そういくらもたたない内にそれは平原を進みきり、森へと到達することだろう。
 しかし幸いなことに、敵との距離はまだある。
 そして更に幸いなことに、ナハトスターの住まう館と森は領内の外れで、人も猫も辺りには居ない。恐らく此処が戦いの最前線となる。――いや、そうしなくてはならない。街も人も猫も、終わりを迎えさせるわけにはいかないのだから。
 エアツェールングの領主へは、既に非常事態の知らせが届いていることだろう。
 ならば、ナハトスターに出来ることは――。

●日出る国より
 ネクストが四度目のアップデートの告知を出した。
 ――R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』。
 それは、R.O.Oに残る病巣全てが『各国』を蹂躙し、滅ぼさんとする大いなる破局の始まりを告げていた。それらはすぐに世界に混乱を招いた。世界の各地に終焉を齎す敵が現れたのだ。
 各国は力を合わせ、それに対応する。具体的には、該当地域へ武力の助力――援軍を送り合い、世界を守らんとした。
 ナハトスターから連絡を受けた『検非違使』雲英は、ふたつ返事で引き受けた。お上からも神使たちによくせよと、『神逐』で受けた恩を返すべき時だと言われている。
 兵部の『白百合の剣』瑠璃雛菊、そして陰陽寮のたまきちとともに知り合った神使たちに声を掛け、彼等はヒイズルの地から離れたのだった。

 ――エアツェールング領。
 そこは伝承内にある猫と猫好きな人が暮らしている土地で、猫好きには有名な領地であったりもする。領主たるヨゾラ・エアツェールングは涼し気な見た目だが、礼儀正しく大の猫好きであることがよく知られており、彼の人柄に惹かれて移住を決める者もいるのだそうだ。
 その領主は、今。
「この度は駆けつけてくれたこと、感謝するよ」
 ナハトスターの館に集った面々に、ヨゾラは深く頭を下げた。
 魔術師としても優秀な彼だが、平和な街へ押し寄せる『終焉』の大群をひとりで対処するのはできない。近隣の領へ救助を求めようにも、伝承国内はバルツァーレク領を中心として混乱に陥っており、国内の貴族たちはそちらへの援軍で手一杯であった。
「ボクたちが必ず食い止めてみせるよ☆」
 殊更明るさを意識したナハトスターは穏やかで居られない心中を隠し、ヨゾラを元気づけるように笑いかける。ヨゾラは、無人の館に住み着いた少年の事を情報として得てはいたが、顔を合わせるのはこれが初めてだ。『星の魔法少年』を名乗る少年を薄氷めいた硝子の奥で捉え、目礼を送った。

「敵勢力、数は不明。形状も不明、ですね」
 敵が街まで来た時に備え、ヨゾラは街の護りにつかねばならない。戻っていく彼を視線で見送ってから「さて、どうしましょうか」と口を開いた瑠璃雛菊が、領主から貰った地図にマークをつけた。現状の広がり具合はこれくらい。近接することによってこれくらいに広がるかもしれない……という当たりは、かなりの広範囲となっている。
 敵は、現状では黒い塊にしか認識できていない。距離がある状態でこれだけ見えているということは、かなりの数だろう。
 しかし。
「俺様たちはいつも通り倒せばいいだけだ」
 『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)の言葉に、そうですね! と『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)が飛び跳ねて。
「兵部と刑部の皆さんも居ますし、決して通さないようにするのです!」
「では、俺の隊は右翼。雲英さんの隊は左翼でどうですか?」
「任された」
 瑠璃雛菊の言葉に、雲英が浅く顎を引く。
 連れてきている兵部と刑部の兵は、ともに40名ずつ。一番敵が多く押し寄せるであろう中央部をイレギュラーズへと任せ、敵が散り散りに広く押し寄せるであろう左右の護りを担う、との申し出だ。
「私は御主等の側に居ようぞ」
 厳かに気品と風格を漂わせ、たまきちが口にする。
 チラとTethの視線が彼女の頭上に行くと、不思議そうに三角の耳がぴこりと揺れた。
「なに、私の陰陽術で――」
 ――ポン!
「おい」
 ――ポポン!
 たまきちが喋っている途中で、『たぬ耳とたぬ尻尾が生えた』。
「おい! たまきちお前……!」
「……ああ! こんな時にぽん!」
 先程までの冴え冴えとした雰囲気は消え去り、たまきちの気配が変化する。
 なんでこんな時に限って! とTethは頭を抱えるが、仕方がない。たまきちは一定時間ごとに強制的にたぬ耳たぬ尻尾になってしまうのだから。
「ねこじゃなくなっちゃったねー」
「大丈夫たぬ。些細なことぽん!」
 ぐっとサムズアップするたまきちに、Tethは何とも言えぬ気持ちとなった。
 たぬ耳たぬ尻尾になってしまったが、たまきちの能力に問題はない。彼女は神使たちが全力で戦えるようにする結界を張るそうだ。
「今回は万全だから、前回よりもいいものぽん!」
「後は……前線をどこにするかも決めておいた方が良いですね」
「この森をよく知っているナハトスター殿の意見を聞きたいところだな」
 今はまだ黒くしか見えない未知の敵を迎撃するため、残された僅かな時間でイレギュラーズたちは知恵を絞る。
 必ずこの地を護りきるために。

GMコメント

 ごきげんよう、イレギュラーズの皆さん。壱花と申します。
 R.O.O伝承から全体シナリオをお送りします。

●成功条件
 終焉獣(ラグナヴァイス)の殲滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●シナリオについて
 エアツェールング領の外れでの戦闘になります。
 敵は領地外から押し寄せてきます。
 森の中で戦うか、森の外(森を背に)で戦うか、全体で方針を定めて下さい。プレイングが割れていた際は、多い方の意見が採用されます。
(森やその付近の土地は住みやすいはずなのに長らく無人無猫の土地となっており、その理由は領主も知りません。が、ナハトスターさんはそこにある館に住んでいます)

●敵
 押し寄せてくる黒い敵たちは世界に終焉を告げる使徒。その数はわかりません。
 これらは『石花の呪い』(詳細下記)をばら撒きます。

・終焉獣×???体
 体の形は黒い狼のようで、狼よりも一回り大きいです。
 本来なら目のある場所に目は無く、ない場所にあったり、目ではなかったりします。姿も個体のようであったり半分液体のようであったりと様々です。
 口は歪に大きく裂け、爪は禍々しく、一般人が相対すれば恐怖で動けなくなる醜悪な姿をしています。
 一体一体が『怪物』であり、これまでに類を見ない凶悪なモンスターです。

・終焉の巨狼
 獣を倒すごとに、黒い霧のようなものが辺りに満ちていきます。澱のように足元に溜まった霧が腰辺りまでに迫る頃、それは現れます。
 黒い霧のようなものが集まり、木々の二倍か三倍はありそうな姿になります。その凶悪な姿はかなり遠くからでも目視出来、街に住まう人々に恐怖と混乱を齎すことでしょう。
 巨体から振るわれる攻撃範囲は広く、命中・火力ともにとても高いものとなります。

●石花病と『石花の呪い』
 石花病とは『体が徐々に石に変化して、最後にその体に一輪の華を咲かせて崩れて行く』という奇妙な病です。
 石花病は現実の混沌でも深緑を中心に存在している病です。
 R.O.Oではこの病の研究者アレクシア・レッドモンドの尽力により『試薬』が作られました。幻想種達はこれらを駆使して、『石花の呪い』に対抗できます。(1Tのギミック解除時間が必要)(全員所持している扱いになります)
 ・『石花の呪い』はバッドステータスと種別を同じくする特殊ステータス状態です。
 ・敵の攻撃がクリーンヒットした時に20%程度の確立で『石花の呪い』が付与されます。
 ・『石花の呪い』に感染したキャラクターは3ターン後に体が石に転じ死亡します(デスカウントが付与される状態になります)

●味方
 以前は敵として戦った瑠璃雛菊と雲英、イレギュラーズたちが守り抜いたたまきちがヒイズルから支援に来ています。
 三人の参考シナリオ:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6758

・たまきち
 汰磨羈さん(p3p002831)のROOの姿。味方だぽん。
 陰陽寮を束ねる『月ヶ瀬 庚』の直属の配下だぽん。
 今回は体力も万全だぽん! すごい術を使うから褒めて欲しいぽん!
 皆のために術を展開しているけれど、少数の敵からの攻撃くらいなら大丈夫ぽん。防御の術と霊符で自分の身は自分で守れるたぬ。

『金花雪狼の陣』術の範囲内に居る味方に【識別】【命中+20】を付与します。術者を中心とした半径40m以内に有効。展開中は足元に半透明の陣が展開され、目視可能です。

・『白百合の剣』瑠璃雛菊 
 ルーキスさん(p3p008870)のROOの姿。
 兵部省所属。前回は敵でしたが、今回は味方です。
 兵部兵を率いて右翼の迎撃に当たります。
 強敵出現時はイレギュラーズたちの元へ向かい、合流します。

・『検非違使』雲英
 刑部省麾下検非違使を束ねています。前回は敵でしたが、今回は味方です。
 検非違使兵を率いて左翼の迎撃に当たります。
 強敵出現時はイレギュラーズたちの元へ向かい、合流します。

・兵部兵×40名 & 検非違使兵×40名
 それぞれ左右に別れ迎撃します。
 強敵出現時もその場で敵の対処に当たります。

・『エアツェールング領領主』ヨゾラ・エアツェールング
 ヨゾラさんのROOの姿。
 イレギュラーズたちの迎撃から漏れて敵が街に入った時の対処のため、前線には現れません。彼の領地の人と猫を、懸命に守っています。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。

 神逐が叶ったため、ヒイズルの神様はヒイズルの民の味方です。
 そのため、限定的ではありますが、ノーリスクで使用可能となりました。
 ヒイズルの援軍とともに参戦するイレギュラーズは月閃が使えます。

●重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

※サクラメントからの復活
 街の中にありますが、戦闘場所からはかなり距離があります。

●重要な備考
 <ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
 但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
 又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
 又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>物語を綴るのは完了
  • GM名壱花
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月06日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
花糸撫子(p3x000645)
霞草
ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)
叫ぶ流星
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
シラス(p3x004421)
竜空
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
みゃーこ(p3x009529)
野良猫
澄恋(p3x009752)
もう一人の私

リプレイ

●見える境界線と見えない境界線
 地平線を覆う黒。
 最初は線を描いていたそれは次第に膨らみ、嵩を増す。いまだ離れているとは言えやがて『この場』に訪れる驚異であることを、その場にいる誰も彼もが理解していた。
 ――急がねばならない。
 豊かな森の木々を伐採した白き竜――『竜空』シラス(p3x004421)は、その巨躯から伸びる首を今はまだ黒い塊にしか見えない『終焉獣』たちから背け、彼奴らを迎え撃つべくバリケード作成に勤しんだ。
 仲間内で一番身体の大きなシラスには、やれることが沢山ある。人間サイズのプレイヤーキャラクターやノンプレイヤーキャラクターたちが木を切り倒すよりも楽に出来るし、一度に多くを運ぶことも出来る。運搬よりも木を倒す方が今は必要だろうと見定めて木を倒していけば、仲間たちが協力してそれを積んだり細工をしたりと役立ててくれる。
「ヨゾラさんには後から説明して謝っておかないと!」
 事後説明になってしまうけれど、と口にするのは『NyarAdept-ねこ』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)だ。敵が攻め込んではそれ以上の被害が出るのは明らかであるため、領主のヨゾラは自領のピンチならばと首を縦に振るのは解りきっている。ふうと吐息を吐きながら資材を縛って固定して顔を上げたナハトスターの視界に、白が揺れた。
「俺が言伝を預かろう」
「え、でも……」
 配下の検非違使兵たちに指示を出し終えたと視線で伝えた雲英が、狐口面の下で口を開く。
「他の神使からも言伝を預かっている。俺が行くのが一等疾く、無駄がない」
 前線となるこの森の外から、街の中にあるサクラメントは離れている。それを懸念した『うさぎははねる』アマト(p3x009185)が移動手段の用意をお願いできないかと考えていたが、領主は領主邸に既に戻っており、今は領地全体の差配に忙しくしていることだろう。
 移動手段としての馬をサクラメントに用意してもらいたいと告げたアマトへ、雲英は「ならば中継地点の館にも用意してもらえるよう伝える」と請け負った。そうすれば、全速力で駆けさせた馬を乗り継ぎ、また全速力で前線まで駆けることが叶い、戦闘不能となったイレギュラーズたちの戦闘復帰も自身の足で駆けるよりも早くなる上、体力の温存にも繋がる。一般兵に伝令を任せるより、交渉の必要が出た際に二度手間にならぬように将である自身が向かうと告げた雲英の姿は、あっという間に木立の中へと消えた。
「昨日の敵は今日の友、瑠璃雛菊様と雲英様が味方にいるのは頼もしいですね」
 消えた白と、遠方で率先と身体を動かす青を視線で追った『花嫁キャノン』澄恋(p3x009752)は、満足気に笑みを浮かべながらも抱えた木枝でシラスが切って積み上げたバリケードの補強を行っていく。
「此処に柵を。それからこっちに塹壕を……」
 バリケード作成や落とし穴や塹壕、柵を作る位置を指示する『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)の言葉に、ヒイズルから来た兵たちはイレギュラーズたちと手分けをして作業にあたっている。彼等と戦った記憶もまだ新しい澄恋はその姿に瞳を細めると、両手指を組んでくるりと向きを変える。
「と・こ・ろ・で、たまきち様」
「ぽん?」
 愛しげに名を呼ぶ声に、『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)と『金花雪狼の陣』を何処で発動させ、圧された場合はどう動くか――と、Tethが飛ばしたドローンからの情報を元に戦場の確認をしていたたまきちが振り返る。
「たまきち様を吸わせてくれたらとても頑張れる気がするんです」
 返事を待つ必要はない。吸うのは確定事項だから。
 澄恋は見事な足捌きでススススと近寄り、徐に顔をそのふかふかふわりとした魅力的なたぬ尻尾へと埋めた。
「あのたぬ吸いが忘れられなくて……スゥー!」
「や、やめるたぬ……!」
「だから! 仙狸は! たぬきじゃねぇ! たまきちももっと否定しろ! たぬ尻尾に簡単に顔埋められてるんじゃねぇ!」
 たまきちがたぬき姿になった事に震えながら耐えていた、怒りが爆ぜた。
 しかし、たぬ尻尾は猫のそれよりも吸いやすいので仕方がない。不可抗力たぬと抗議の声があがる前にふたりの肩と肩に手を置きバリッと引き剥がすと、「たぬー」「ああっ」と短な声が上がった。吸っただろ、もういいだろ、作業に戻れ! の三拍子揃った視線にはぁいと背中を向けた澄恋は、「終わってからまた吸いますね!」との予約も忘れない。
「……気をつけろよ、ほんと」
「き、きっとその頃には戻ってるぽん!」
 だといいですねとお天道様が微笑むなか、ふたりは動きの最終確認を行っていく。
 イレギュラーズたちはヒイズルの友軍とともに、時間の許す限りバリケード作成に当たる。
(領地の猫も、人も。そして他国の彼等も、間違いなくこのROOで生きている)
 一部がとても和気藹々としながらもプレイヤーキャラとノンプレイヤーキャラクターが入り混じって作業をする様子を視界に収めたスイッチは、より強く『彼等が生きている』と実感した。彼等の命をここで散らすわけにはいかない。彼等のこれからの日々を守らねばならない。彼等の日常はこの戦いの後も続いていくのだから、絶対に取り零す訳にはいかないのだ、と。強く、強く。スイッチは胸に刻みこむ。
(皆、生きているのね)
『霞草』花糸撫子(p3x000645)の瞳にも、ノンプレイヤーキャラクターとして生きる住人たちが無機質な者とは映らなかった。混沌の、現実からすれば彼等はデータなのかもしれない。けれど、彼等には彼等なりの考えがあり、生き抜くために努力をしたり、他国のために手を貸す姿勢は現実と何ら変わりない。
(世界の終わり……いつか、混沌世界でもこんなことが起こるのかしら)
 絶望するだろうか。悲しむだろうか。
 地平の黒を見る。
 近くの仲間たちを見る。
 いいや、絶望なんてしない。
 守ればいい。守ってみせる。
 何かをする前に諦めたりなんてしない。
「理由が身近な分、やる気は十分ですよ」
 撫子の気持ちが声になって漏れてしまっていたのだろう。同じ場所で作業していた『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)も、小さくそう漏らした。ラピスラズリにとってこの世界は『とても都合がいい』。『復活』のあるプレイヤーたるイレギュラーズは惜しむこと無く命を懸け、世界を護り悪をくじくことが出来るからだ。
 身勝手な理由だとは重々承知の上。
 けれどもきっと、救われる側からしたら、『そんなことは関係ない』。
 だから、『それでいい』。
 一人でも多くの人を救い、一体でも多くの敵を屠るため、敵の進路を誘導できるようにとラピスラズリは土嚢を積み上げる。
「えいっ! えいっ! こんなものでしょうか?」
「にゃっはっはー、攻撃スキルで穴を開けるの楽しいねー」
 バリケードの外。終焉獣が進行してくる側では、ロップイヤーの兎と黒猫が飛び跳ね――否、攻撃スキルを使用して落とし穴を作っていた。『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)が始めたことだが、それを見た『野良猫』みゃーこ(p3x009529)が楽しそうだと便乗したのだ。これは遊んでいるわけではなく、大きい人がやれる役割は大きい人たちに任せて、小さなふたりは小さな身体でも出来ることをしているのである。……正直めちゃくちゃ楽しいけれど。
「これくらい掘ればだいじょうぶでしょうか?」
 アマトもできることを精一杯に、とふたりの穴掘りのお手伝い。アマトにも、この世界での思い出が出来た。誰かが決めた終焉で、勝手に幕を降ろされたくなんて無い。
(それに、練達にはニルの……)
 大好きな人がいる。
 R.O.Oの危機は、練達の危機。難しいことまでは解らないけれど、危険なのは『よくない』。終わりは、駄目。きっと皆悲しくて、辛くて、心も顔もぐちゃぐちゃになっちゃうから。
「おわったら、みんなでおいしいごはんをたべましょうね」
 頬に跳ねた土を拭ってアマトが口にすれば、さんせー! とみゃーこが飛び跳ねた。
『おいしい』はまだわからない。けれどそれが好ましいこと、心がぽかぽかすることは解る。『かなしい』よりも、そのほうがずっとずっといい。やれることをたくさんたくさん頑張ったら、つかれた身体と心にごはんは、きっとずっとおいしい。
 終わりになんてさせない。やれることをしよう。

「雲英さん、こちらを」
「……俺が預かっても良いのか?」
 言伝を終えて戻ってきた雲英に、ラピスラズリが『試薬』を差し出した。
 終焉獣の振り撒く『石花の呪い』は強力だ。ひとりにつきひとつずつ試薬を持っているとは言え、一度かかれば耐性が出来るという類のものではない。
 最終的に死に至るその呪いはノンプレイヤーキャラクターには驚異だが、イレギュラーズたちにとっては然程驚異ではない。命が有限ではない彼等は死に戻れば済むだけだ。タイムロスは手痛いが、ひとつしかない命が喪われることを考えれば、天秤にかける必要もなかった。
「アマトのも使ってください」
「ありがとうぽん」
「これは自分や部下がピンチの時に使って下さい」
 たまきちも瑠璃雛菊も試薬を預かる。渡さなかった他のイレギュラーズたちは彼等が自力で使用できない場合を想定して所持したままだが、気持ちは同じだ。彼等の命を散らさないよう、最大限の努力をしようとこの場にいる。
「ありがとうございます、使わせて頂きます」
「か、勘違いしないで欲しいのです、別にお前のことが心配な訳じゃないのです! それと、うっかり死んだりしたら許さないのですよ!」
 プリプリと怒ったようにミセバヤは耳を揺らす。ついついツンデレじみてしまうが、自分自身相手なのだからその心境も複雑なので仕方がない。
「大丈夫です。帝の元へ必ず戻ると誓っておりますので」
「~~~っ、お前のそういうところが羨ま――いえ、嫌、なんですよ!」
 本当に本当に、複雑だ。
「あ、」
「そろそろ、だな」
 みゃーこが黒い三角耳をぴぴっと震わせ、Tethが上空のドローンを見上げてからたまきちへと視線を向ける。視線を受けたたまきちはたぬ耳をピンと立て、顎を引いて頷いた。
「皆、配置につくぽん!」
 霊符が飛んで規則正しい列を成し、たまきちの指の動きに合わせ符に篭められている力もまた動いた。
 たまきちを中心に金色の光がするすると蔦のように伸び、紋を刻み、花が咲く。
 巨大な花の陣は金蓮花を描き、その上に淡く白い光が重なって――『金花雪狼の陣』、此処に成る。

●綴り手の筆を離れ
「まるで波のようだぜ」
 黒い、波が押し寄せる。
 全てを破壊し、全てを殺し、全てを終わらせる。
 終わりを告げる、終焉の波だ。

 ――■■、■■■■■■!!!

 終焉を知らしめるべく、獣が鳴いた。酷く醜く、耳障りな声だ。
 腹の底から湧き上がる不快感に、自然と眉間に皺が寄る。
 この耳障りな声は、街まで届いているのだろうか。
 ――届いていなければいい。
 浮かんだ思考を、反射的に否定する。
 届けない、届かせない。そのために、自分たちはここにいる。
「僕の……ボクの大切な存在達を終焉(おわ)らせないから☆」
 弓をギュッと握りしめたナハトスターの眼前で、終焉獣の先頭がバリケードへと到達する。
 一体一体が恐るべき『怪物』である終焉獣たちの前に、ただの木である即席バリケードは破壊されていく。――が、無駄ではない。壊されるであろうことは、もとより織り込み済み。故にシラスは、数や規模を重視したのだ。
 大群は、少しでも前がつっかえれば足並みが狂う。回避しようと足を止めたり迂回しようとした終焉獣が押し寄せる群れに潰されたりとしていた。
 落とし穴も、そうだ。落ちても自力で這い上がってくるだろうが、一時的に数は減らすことが叶う。
 どれだけ訓練を積んだ兵でも、数の前では負けてしまう。自然の障害物のない平地で戦うのならば、押し潰されないように、押し流されないように、一時的にでも数を減らす必要があった。『波』と言えるほどに、醜悪な獣たちは次々と押し寄せてくるのだから。
 即席のバリケードにしては、期待以上に効果が得られたと言える。
「掛かりましたね!」
 幾重にも張ったバリケード。そのうちのひとつからピョンッと飛び出した兎が、身を低くして素早く駆ける。短刀――ミセバヤにはちょうど良い長さの刀『月兎耳』の鯉口を切り、向かう先は落とし穴のひとつ。金花雪狼の陣から出てしまわぬように気をつけて、落とし穴に嵌った終焉獣と自身の周囲の終焉獣をに何だかとてもビカビカと青く光る何かすごい斬撃を浴びせた。
「わっ、とと!」
 敵の只中へと飛び込めば、あっという間に囲まれる。……しかもとても派手だったので、余計にだ。
「終焉獣の見た目が怖すぎて夢に出てきそうなのです……絶対に捕まりたくないのです……」
 どうにも獣に囲まれると、この身はブルブルと震えてしまう。
 けれど、初めてR.O.Oで大きな獣と対峙した時よりも、ミセバヤは経験を積んでいる。震える身体を叱咤し、終焉獣の足元を掻い潜り、素早く駆け回った。いくつか攻撃は受けたものの、仕留められてはいない。
「本当に多いな……。けれど……!」
 眼前にホログラムのターゲットスコープを出現させたスイッチも終焉獣の群れへと飛び込んでいく。傷ついた敵を倒して減らすよりも活きの良い敵の行動阻害を目的とし、仲間たちが攻撃していない敵のど真ん中で刀を滑らせれば、大きな一振りからは想像もつかぬ無数の斬撃が終焉獣を襲った。
「101匹でぞろぞろ大行進ってか? ダルメシアンになってから出直して来いよ」
 たまきちへ「なるべく近づけさせねぇから安心しろ」と言い置いて、なるべく金花雪狼の陣の端の位置を維持し、まずは数減らしと同士討ちを狙って呪雷の魔術《S1:ARC_Collider》を放った。
「――しっかしまぁ、スゲェ便利な術だな、『金花雪狼の陣』ってのは」
 Tethが放った呪雷は縦横無尽に駆け巡り、多くの終焉獣を焼き払った。明らかにいつもより火力が出ていること、また仲間を気にせず全力を出せることに、たまきちへの感嘆が素直に出た。
「いや、本当にスゲェな。マジで」
「ええ、私も同意します」
 すごいですねと零した黒い全身アーマーが駆け――『魅剣デフォーミティ』に血と魔力を捧げる。
「今日は存分に戦えます。忍法――魅刹天凌」
 足元で花を描く陣から出ないように留意し、魅剣デフォーミティを大きく振るう。周囲の者の心を乱すこの技が仲間へと向かわずに済むというのは、とても魅力的だ。陣から出ないことだけは気をつけなければいけないが、持てる力を最大限に活かすことが出来た。
『■■■■■■――!』
『■■、■■■■!!』
 Tethとラピスラズリの周囲に居た終焉獣の何体かが唸り声を上げる。仲間であるはずの終焉獣へと食らいつくと、敵であるとみなされたのだろう。『仲間たち』は一斉に襲いかかり、手早く『エラー』を『修正』した。
「まあ。容赦がないのですね」
 ひいらり飛んだ《大紫蝶》。白無垢姿の鬼嫁から紫髪の鬼へと変じた澄恋は淑やかに咲い、前へと出た。
「ボクたちみたいに仲間意識とか協調性とかはあまりないのかもしれないね☆」
「にゃっは、所詮は畜生なのかも、だね。さあ、性悪のワンコども、このみゃーこちゃんが成敗してしんぜよー」
 ナハトスターがえーい☆っと飛ばした星と猫たちが、ミセバヤが攻撃した終焉獣の数体に止めを刺し、横をすり抜けるように駆けた小さな黒猫――みゃーこもまた、最前線へと加わった。
「ボクの方が性悪ニャンコって思ってる? なぁんて、にゃっはっはっはー」
 同士討ちを狙う戦い方は正道とは言えない事を理解して。そこはまぁ猫だからねと笑い、みゃーこは黒い尾を揺らすのだった。

 ごうと風が鳴き、次に巨大な影が落ちた。
 イレギュラーズたちの頭上を飛び越えた其れは最も敵が集まっているど真ん中へと降り立つと、鋭い牙の生えた口端を上げた。
「かかって来な、テメェらを超える怪物がここにいるぜ」
 吼えれば、空気が震える。元より大きな白き竜はその身を更に膨らませ、禍々しき黒を纏う御伽噺の悪いドラゴンのような姿と変じていた。
 シラスは、成さねばならないことを誰よりも理解していた。故に、序盤から月閃を発動させた。中央任された意を汲んで、そしてそれが叶うと信を置かれたならば、応えるまで。序盤で崩れては、総崩れだ。押し寄せる『波』に押し流されぬよう、敵を散らし、耐え抜かねばならない。
 黒い稲妻が、駆ける。空気を焼いて、敵を焼いて――一体でも多くの終焉獣を屠り、掠る程度で済んだ敵を引きつける。
 崩れさせない。守り抜く。
 たとえどちらが『怪物』かわからなくとも。
 必ず、耐え抜いてみせる。
「どうした? 怖気づかずにかかって来いよ」
 竜が吼える。
 獣が吠える。
 終焉の、悪夢みたいな戦いだ。
 黒い竜と黒い獣、果たして『怪物』はどちらだろうか――。

(倒れないこと、崩されないこと……それが大事)
 左翼を見る。崩れていない。
 右翼を見る。崩れていない。
 大人数の戦闘に慣れているのだろう。敵の半数程は中央に集っているとは言え、指揮官の下、兵たちは動きを乱さず広範囲に広がる敵の対処にあたっている。
 中央も、シラスの奮闘のお陰で敵は一時期かなり減った。
 けれど敵は倒しても倒しても押し寄せてくる。
 ――倒れてはいけない。
 回復は、戦の要。皆の背を支えるものだ。倒れないようにそっと背を支え、そして自身が一番倒れてはいけない。疲れても踏ん張って、『大丈夫だよ』を皆に届けるのだ。
「みんな、みんな、――元気になあれ」
 アマトは祈りを込める。言葉に祈りを篭めて、皆を励ます。
 大丈夫、負けない。
 いくら倒れたって、戻ってこれる。
 早く戻るための手段もお願いしてある。
 戻って、戦って。
 ハッピーエンドで結ばれる、その時まで。
「ふふ、歌に聞き惚れてしまったかしら!」
 撫子の歌は、戦場であっても美しく響く。
 彼女が歌えば、仲間たちは背を預け合える仲間がともに戦っていることを思い出すだろう。
 彼女が歌えば、醜悪な獣とて聞き惚れ、動きを止めてしまうだろう。
 歌声は、響くから。空気に、心に。
 撫子は歌を送る。終焉獣に、仲間たちに。
「獣、数体抜けました」
「こんな目立つ陣を張ってりゃあ、狙われるのも当然ってか!」
 最前線を抜けた終焉獣は真っ直ぐにたまきちへと駆けていく。彼女を中心として陣が展開され、その陣に収まるようにイレギュラーズたちが立ち位置を調整しているのだから狙いに来て当然だ。
「たまきちさんはそのまま陣の維持を」
「届かせないから、大丈夫だよ」
 金花雪狼の陣さえあれば仲間に攻撃は向かない。
 直様範囲攻撃で巻き込む形で何人かが対応すれば、たまきちへと向かう終焉獣は黒霧となって霧散した。
「……活躍する場がないぽん」
 せっかく迎撃するように霊符もいっぱい持ってきているのに。
 今回は万全なたまきちが前回よりもいいところが見せられるのに。
「たまきちさんは充分すごいよー☆」
 回復するねと声を掛けたナハトスターに合わせ、アマトもうんうんと大きく頷きながら元気になあれと祈りを籠める。
「……なぁ、たまきち。これ終わったら、後でじっくりと教えてくれねぇ?」
「俺にも教えてくれないかい?」
 右翼に流れた大勢に対処してきたスイッチも話に加われば、たまきちは「私の話についてこれるかぽん?」なんて満更でもない顔をしてみせたのだった。

 戦況としては、悪くない。
 神光からの兵士はよく訓練されており、終焉獣にひとりで当たることは決してしない。確実に倒せるよう複数人で仕留めるようにと指揮されている。そして、指揮に当たるふたりが強いことも敵対したことのあるイレギュラーズは知っている。
 中央から多勢が流れてしまった際は、動きの早いスイッチやミセバヤが素早く対処にあたった。
 終焉獣を倒す度、内包する黒が爆ぜるように霧散し、空気が淀む。黒い霧のようなそれは身体に纏わりつくことはないが、場に満ちれば満ちるほど重たげな澱のように足元へと溜まっていった。
 靴底までの然程気にならない黒は足首まで達し、脛、膝……と段々と上がっていく。上がれば上がるほど、沼にでも嵌ったかのような不快感を覚えた。ねっとりと纏わりつくことはない、けれど気分の良いものではない。
「だいぶ黒霧が溜まってきているけど大丈夫?」
「にゃー。見えるけど、完全に覆われているよ」
「自分もです……! 困りはしないのですが……」
 スイッチの声に、視界から消えてしまっているみゃーことミセバヤが返事を返す。小さなふたりは既に黒霧の中である。
「チッ……陣も見づれぇな……」
 金花雪狼の陣は黒霧の中でふんわりと優しい光を放っているが、視認しづらくなった。出てしまわないように気をつけねばとイレギュラーズたちは終焉獣を倒していく。
『■■、■■■■!!』
 掴んだ終焉獣をぶんぶんと振り回して獣同士をぶつけた澄恋の手の中で、終焉獣が霧散する。手のひらへと視線を落としても汚れは残っていないが、そういえばと考えるのは石花病のこと。
「神光の皆様は大丈夫でしょうか!」
 左翼右翼はそれなりに遠方。声を張り上げれば、「大事ありません!」と返ってくる。右翼の瑠璃雛菊の声だ。左翼からは返ってきてはいないが(返したのかもしれないが、声が届かなかった可能性が高い。)雲英は抵抗値が高い。視界を広く持つ仲間の声掛けで、石花病に気付き次第イレギュラーズたちも試薬を彼等に使用している声が聞こえていたため、きっと大丈夫なのだろう。

 溜まっていた黒霧が、撫子の腰あたりまで到達した。
 その時だった。
「うみゃみゃ!?」
 思わずぴょんっと後方に飛び退いたみゃーこの足元で、黒が『膨れた』。
 ――否。
 黒霧が『一箇所に集まっている』。
 空気が渦を巻くように黒霧が動いて。
 その中で何かが形成されていくように上へと横へと膨らんで。
 それは、音もなく現れた。
 どの場所からも見える巨体。
 シラスが見せた御伽噺に出てくるような悪いドラゴンの姿よりももっと禍々しい、終焉たらしめんとする巨大な狼。黒い体中にある幾つもの瞳がぎょろりと動けば、誰かの剣が落ちる音がやけに大きく響いた。しかしそれを叱咤する者はいない。膝が笑っても、手が震えても、尻を着かずにいるだけで称賛に値することだろう。
「たまきち、少し下がれ」
 Tethの声に、陣を維持したままのたまきちが終焉の巨狼から距離を取る。
 素早くブンと振られる鋼の山の如き前足が、ガンと硬い音で止められる。この場の誰よりも素早い雲英が左翼から駆けつけ、刀で押さえたのだ。
 強すぎる力に、足が沈む。刀は小刻みに震え今にも膝をつきそうな雲英を、シラスとミセバヤがカバーし、遅れて駆けつけた瑠璃雛菊が強い力で弾き返した。
「猫の地に無理やり狼が来るんじゃありません!」
 ガンと弾き返された前足が宙に舞い、巨体を支える足が三本になったところへすかさず澄恋が近寄り打撃を与え、温存していた月閃で姿を変じさせた仲間たちが次々と軸足を狙う。
「巻き込まれないよう気をつけて!」
「皆さんは巨狼に集中を!」
 巨狼が倒れれば、その先にいる終焉獣は潰されてくれることだろう。だからその反対側、巨狼を倒さんとするイレギュラーズたちを攻撃しようとする終焉獣へ月閃により威力が増した忍法を放ち、まとめて仕留めていく。
 揺らいだ身体を、巨狼が持ち直さんと前足を強く踏み降ろす。
 させじと白い体躯をシラスが滑り込ませる。
 補う瑠璃雛菊に「俺はこれくらい平気だ、アンタは兵士の指揮に集中してくれ!」と告げるが、神光の将ふたりは顔を見合わせて。
「指示は先に出してあります」
 ふるりと首を振った瑠璃雛菊の火力は、耐えるだけでなく押し返すことが可能だ。けれど本当に危険な時は彼の首根っこを掴んで退く旨を、隙きを狙っては飛びかかってくる辺りの終焉獣を斬り殺した雲英が告げた。
「大きいってだけでもかなり厄介だね」
 背面のスラスターを起動させ、勢い付けて切り込んだスイッチの力でも巨狼は倒れない。
「せーのでいきましょう!」
 毛先が黒くなったアマトが赤い瞳で巨体を見上げ、顎に垂れた汗を拭う。
「せーの、ね……せーの!」
「せーの、にゃ!」
「もっともふもふになってから来なさいな!」
「貴様等全員塵になれーーーーーー!!」
「何が終焉獣だ。こっちがテメェ等を終わらせてやらぁ!」
「R.O.Oを終わらせなんてしない……!」
 掛け声に合わせ、それぞれの一番火力を出せる技が月閃で高められ――!

 どうと倒れる音もなく、巨狼は地に着く前に霧散した。
 しかし巨狼が居なくなっても、終焉獣はまだまだいる。
「本当に多いな……!」
「でも、きっと!」
「ああ、終わりは見えている!」
 物語をバッドエンドなんかで締めくくるつもりはさらさらない。
 全部きっちり倒して、イレギュラーズたち以外に人的被害を出さず、ハッピーエンドで終わらせる。それが可能であると信じているし、そうできる仲間たちを信じている。
 そうして信じて力を振るい続け、イレギュラーズたちは全ての終焉獣を倒し尽くした。
 新たに溢れていた黒霧は、巨狼を再び出現させるには足りていなかったのだろう。終焉獣が全て居なくなれば自然と薄くなり、穏やかな風が背後の森の木々を揺らす頃にはまるで夢だったかのように全ての痕跡が消えていた。
 物語を終わらせるような醜悪な獣も、悪夢のような巨大な狼もそこにはいない。
「帰りましょうか」
「そうだね、街の人の無事も確認したいし」
「ヨゾラさんに報告もしなきゃ、だね☆」
 疲労で、身体が重い。
 最低限の傷を癒やし、イレギュラーズたちは肩を貸し合いその場を後にする。
 確かに護りきったのだと言う証を、その目で確認するために。

成否

成功

MVP

シラス(p3x004421)
竜空

状態異常

ラピスラズリ(p3x000416)[死亡]
志屍 瑠璃のアバター
花糸撫子(p3x000645)[死亡]
霞草
ミセバヤ(p3x008870)[死亡]
ウサ侍
澄恋(p3x009752)[死亡]
もう一人の私

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

皆さんのお陰でヨゾラさんの領地は守られました。
森の外で戦ったので森への被害も最小限(伐採された木)で済んでおります。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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