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シナリオ詳細

河童解放戦線。或いは、地下施設の河童たち…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●痩せた河童
 豊穣。
 場所は港一番の規模と勢力を誇る賭場。
 名を“エビス祭場”。
 そこでは夜を通して蝋燭の明かりと人々の喧噪は消えず、日夜、湯水のごとく金と酒とが消費されている。
 
 かつて、エビス祭場のあった場所には相撲部屋が存在していた。
 部屋の名前は“山ン本部屋”。
 河童の力士たちが日夜鍛錬に励む、活発な部屋であったらしい。
 しかし、ある時を境に相撲部屋は潰れ、代わりにエビス祭場が建設された。
 その町はエビス祭場を中心として繁栄した町だ。
 ほんの1年ほど前までは、どこにでもある寂れた小村だったのだから。

 エビス祭場の名物と言えば、きゅうりを巻いた寿司だろう。
 寿司や酒が、自動で動く滑車……練達でいうところのベルトコンベアに似たものだ……に乗せられ、祭場の各所を流れているのだ。
 祭場で遊ぶ者たちに限り、酒や寿司は飲食無量となっている。
 遊戯に興じる者たちは、それらを肴にせっせと賭博に励むという寸法だ。
 
 ある日、港に1体の河童が浮いていた。
 まだ子供の河童だ。
 骨と皮ばかりになるまでやせ細り、全身に無数の切り傷を負った状態で遺体となっていたという。
 本来、河童は河川を住処とする妖だ。
 それが、どういうわけか海に浮いていた。
 また、町の周辺は自然も豊であるため、子供とはいえ河童がこれほど痩せ細るとは考えにくい。
 そして、全身についた幾つもの刀傷。
 河童は何者かに捕えられ、虐げられて、命を落としたのだろう。

●地下労働施設
「俺が見間違えるはずはねぇ。瘦せ細っちまってたが、ありゃ山ン本部屋に去年入ったばかりの新弟子だ」
 ローレットへと情報を流したある商人はそう言った。
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の調べによると、商人は大の相撲好きということだ。
 彼の趣味は、山ン本部屋の後援活動。
 相撲部屋へ食糧や鍛錬に使う道具を提供し、時には力士を連れ出し食事を振舞うこともあったという。
 そんな趣味なものだから、彼は山ン本部屋の力士たち1人ひとりの顔をしっかり覚えていた。
 それこそ、引退した力士や修行の旅に出ている力士たちの顔さえも。

「彼は山ン本部屋の力士たちがどこへ行ったか、ずっと気にしていたみたいです。でも、どれだけ探しても当時、部屋にいた力士の1人さえも見つけられなかったそうです」
 何かがおかしい。
 そう考え、彼は1年ぶりに港へ訪れて、そこで件の河童の遺体を目にしたという。
 それから彼は調べに調べ……商売で得たお金のほとんどをはたいて、賭場の会員になったという。
 そこで彼が見たのは、賭博と酒と寿司に狂った金持ちたちの姿。
 それから、賭場の各所に配置されたいかにも力自慢といった様子の鬼人種たちの姿であった。
「エビス祭場は2階建て。階段を昇った2階が賭場の入り口です。1階が賭場となっていて、そこでは各種の賭博が楽しめるそうなのです」
 しかし、実際にはさらに地下の施設があるのではないか……と、商人の男は予想していた。
 敷地の面積と賭場の広さから判断するに、飲食物を自動で運ぶ滑車の動力を1階、2階には設置できないということだ。
「賭場主や金庫番の控える部屋は2階。1階、2階には警備員や賭博を仕切る壺振りなんかも無数。それと、戦闘能力を持たない博徒たちが大勢」
 賭博に疲れた者たちの多くは、比較的静かな2階ロビーで酒や食事に興じていることが多い。 
 ここで供されるきゅうりを巻いた寿司はとくに絶品で、そこらの高級店よりも美味いという噂まであった。
「各所に散っているけれど、鬼人種の警備員は全部で30人ほどいるそうです。全員が大太刀を帯びており【滂沱】【必殺】【ブレイク】を伴う剣技を習得しているとか」
 おそらく、同じ道場で鍛えた者たちだろう。
 商人の男は、警備員たちを指してそのように言った。
「警備員たちをまとめ上げるのは、エビス祭場の頭目でもある鬼人種の男性……名を“ハダニ”というです」
 普段は滅多に表に姿を見せることは無いが、時折は彼自身も賭博に興じるため1階にいるという。
 酒に顔を赤くし、博打の結果に一喜一憂していながらも、その眼光は鋭く、そして得物を決して手放すことはない。
 時折、彼の指示で警備員の何人かが賭場を出ていくなどしていることから、おそらくイカサマ師などの調査や始末を行っていると商人の男はそう予想していた。
「河童たちが捕らえられているとすれば、おそらく地下1階です。しかし、現在のところそこに通じる通路が発見できてないです」
 敵は大勢。
 万が一の場合は、外から応援が駆けつけてくる可能性もある。
 結果的に交戦が必要にはなるだろうが、それは最後の手段であろう。
「まずは入り口の確保。それから、地下へ向かって、河童たちを救出してほしいのです」
 そう言ってユリーカは、仲間たちを送り出す。

GMコメント

●ミッション
“エビス祭場”地下に捕えられている河童たちの救出

●ターゲット
・ハダニ×1
鬼人種の武人。
エビス祭場の頭目にして、警備頭でもある。
大太刀を得物とした、8尺を超える巨体が特徴。

迫真一刀:物近単に大ダメージ、滂沱、必殺、ブレイク
大上段からの振り下ろし。
人ぐらいであれば、真っ二つにする威力があると噂されている。

迫真怒涛:物中単に特大ダメージ、連
疾駆する勢いを乗せた斬撃。
大太刀という得物を使って行使するには、かなりの膂力と体捌きが必要となる。


・警備員たち×30
エビス祭場の各地に散っている警備員たち。
全員が鬼人種であり、大太刀を得物としている。
いかにも強そうな風体で、厳めしい顔つきをしている。
また、同門らしく同じ流派の剣技を身に付けている。

迫真一刀:物近単に大ダメージ、滂沱、必殺、ブレイク
大上段からの振り下ろし。
人ぐらいであれば、真っ二つにする威力があると噂されている。


・その他、賭博客や壺振りたち
エビス祭場に無数にいる一般人。


●フィールド
豊穣のある港町。
かつては山ン本部屋という名の相撲部屋があった。
裏手は海となっている。
入り口は階段を昇った2階にある。
2階→正面入り口。休憩場所。警備員室、頭目の私室、金庫などがある。
1階→賭場。無数の人でごった返している。各種の賭博に興じられるフロアであり、部屋の隅には金貸しが常駐している。
※1階には寿司や酒を自動で運ぶ滑車が設置されている。客はそれを自由に飲食しても良い。
地下→詳細不明。河童が捕らえられているのなら、おそらくそこだろうか。

・河童たち
山ン本部屋で日夜稽古に励んでいた河童の力士たち。
総勢20~30名ほどいるとのこと。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 河童解放戦線。或いは、地下施設の河童たち…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
如月 追儺(p3p008982)
はんなり山師
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ

●エビス祭場
 喧々諤々、絢爛豪華。
 豊穣のある港町。エビス祭場に集う金持ちたちは、今日も賭場に集まった。
 酒と寿司と、それから各種の遊戯に興じ、浮世の澱を洗い流すのだ。
 と、そう言ってしまえば聞こえは良いが、要するに金持ちたちを鴨にした非合法の賭場である。当然のように黒い噂も流れるもので、やれ稼ぎ過ぎた客は密かに消されてしまうだと、やれ裏では武器や薬の類を商いしているだとと、数え始めれば両手の指では到底足りぬ。
 そんな噂の1つとして「エビス祭場の地下では、河童たちが過酷な労働を強いられている」というものがあった。
 それというのも、エビス祭場が建っている場所はほんの昨年まで“山ン本部屋”という相撲部屋だったからである。
 
 幅の広い階段を昇った2階。
 エビス祭場の正面入り口である。
 入口は2階に、その後、受付を済ませて1階へ降りればそこが賭場となっている。
 2階の大部屋は受付兼休憩場というわけだ。
 酒や寿司をつまんで腹を満たしたのなら、いざや1階へ降りて遊興というわけだ。
 そんな2階の大部屋の隅で、皿に積んだ寿司を頬張る女が1人。
 灰色の髪に狼の耳、旅人然とした姿の『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は金持ちたちの集まるエビス祭場において、些か浮いた存在だった。
「あんた、旅人かい? いや、まぁ、入れたってこたぁ、それなりに金を持っちゃいるんだろうけどね。寿司や酒はタダだけど、1階でしこたま遊ぼうと思やぁ、切り餅1つぐらいはあっという間に吹っ飛んでくぜ?」
 好奇心か、はたまた親切心だろうか。
 若い商人がシオンに声をかけたのは、自然の成り行きだっただろう。いかにも金を持っている風には見えないし、野性味こそ滲んでいるが、シオンの見目は良いのである。
「あぁ、あたしは最近この街に来たんだけどさ。噂には聞いてたが、この寿司は旨いな」
 特に河童巻きが絶品だ。
 シオンがそれを口にしたなら、若い商人はピクリと肩を跳ねさせた。
「はは。噂ではあるが、何でもその道の匠……本物の河童が握ってるって話さね」
「あら、河童さんってきゅうりが好きだって聞いたけれど本当なのね? でも、やりたいこともできずに閉じ込められているのって本当に辛いことだと思うわ」
 楚々とした足取りで、商人の傍に身を寄せたのは『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)であった。
 左右をシオンとヴィリスに挟まれながら、商人はだらしなく口角を下げる。
 美味い酒と、美味い寿司、そして娯楽はエビス祭場が供してくれる。しかし、若い商人にとっては1つだけ足りないものがあった。
 それは何かと言えば、つまりは女であるのだが……幸運にも今日、彼はそれを手にする機会に恵まれたのだ。
 もっとも、2人の眼鏡に適ったことを“幸運”だと捉えているのは、商人だけなのであるが。
「……順調のようですね」
 なんて。
『山ン本部屋暫定横綱』ルーキス・ファウン(p3p008870)は横目で2人の様子を見ると、1階へ向け降りていく。
 外でひとつ段取りを進めていたことにより、他の仲間より幾分遅れての到着である。

 喧噪。怒号。歓声、喝采。
 人を起因とする騒音に包まれながら『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)はフロアを歩き回っていた。
「音からして、地下があるのは確実なんスけど」
 きょろきょろと周囲を見回してみても、それらしい物は見つからない。鹿ノ子の目は、物質を透過し視ることができるが、最大で1メートルの厚みまでしか効果を及ぼさない。例えば、地下への入り口の前に棚なり置かれていればそれだけで発見は困難となる。
『Pチキ下さい……じゃなくて、先輩そちらはどういう状況ですか?』
 鹿ノ子の脳裏に『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)の声が響いた。2メートル半を超える長身がフロアの中央付近を行ったり来たりしている様子が、鹿ノ子の位置からでもよくわかる。
「……今のところ、それらしいものは見当たらないッス」
 他の仲間はどうだろう。
 鹿ノ子は素早くフロアに視線を走らせる。
 
「だぁ、くそ! また負けた!!」
 頭を抱え、悲鳴のような怒声をあげる『馬には蹴られぬ』不動 狂歌(p3p008820)に人の視線が集まった。
 畳の敷かれた部屋の隅で、壺振りに興じていたらしい。悔しそうな様子を見るに負けが続いているのだろう。
「もう1回、もう1回だ!」
 力任せに畳を殴って狂歌は叫ぶ。
 そんな彼女の背後を通る、非常に目立つ女性が2人。2色の長い髪を揺らす鹿ノ子と、長身を屈めた朝顔だ。
 2人は一瞬、脚を止め狂歌の手元……今しがた殴りつけられた畳へと視線を向けた。

 しゃなりしゃなりと歩を進め、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はフロアの一角へと近づいた。
「ねぇ、アンタ……すごくイイ男だねぇ」
 1段、高く造られた座敷のようなスペースだ。モカは煙管を燻らせながら、座敷に座る大柄な鬼人種の男へと声をかける。
 ふぅ、と細く紫煙を男へ向かって吹き駆けながら、艶やかな所作で座敷に腰をおろして見せた。一瞬、傍らの大太刀へ手を伸ばした男だが、モカの姿をじぃと見やると、警戒を緩める。
 男の名はハダニ。
 エビス祭場の警備頭にして、支配人である。
「何だ? たかるのなら、もっと別の者にしとけよ」
 なんて言いながら、ハダニは渇いた杯を手に取り酒を並々注いでは、それをモカへと差し出した。
 杯を受け取ったモカは、唇を湿らせ楚々と酒を喉へと流す。こくり、と細い喉が蠢き、空いた杯をハダニへ返す。
 杯を受け取ったハダニは、さてもう1杯、と酒の瓶へと手を伸ばし……。
「どないしはったん、手が止まっとるで? 早う進めましょや」
 『妖しい鬼いさん』如月 追儺(p3p008982)の声に、ぴたりと動きを止めたのだった。
「っと、悪いな兄さん。いや、なに、すこぶるいい女だったもんで、ついな」
 酒を注いだ杯をモカへ手渡しながらハダニは言った。
 それから伏せていた札を手に取ると、追儺と自分の間に広げられた絵札へ素早く視線を走らせる。
 花札と呼ばれる遊戯であろう。
 勝ちを重ねていた追儺にハダニが声をかけたのが事の始まりだ。賭場を荒らされそうな気配を感じれば、上手く誘って隔離するのも警備頭の務めであった。
「はぁん? さては、月と華と、どっちで1杯飲るか迷ってはるね?」
 ハダニの視線から追儺は手札に予想を立てた。
「よく見てやがらぁな。そりゃ、強ぇわけだ」
 呵々と笑うハダニの手札を覗くように、モカがそっと身を寄せた。
 
●地下労働施設の河童たち
 地下の賭場にて喧噪なんて日常茶飯事。
 多くの富を抱えた商人、貴族の類が主な客であるとはいえど、酒が入って、負けが募れば苛立つものと相場が決まっているのである。
「おいおい、こんな高利で借りられるかよもっと下げられねぇのか!」
 故に、狂歌が怒声をあげて渾身の力で畳を殴り割ったとしても、ほとんどの客は「またか」といった顔でそちらを見るばかり。
 巻き込まれては叶わないと、2階へ避難を始めるもの。
 警備員たちと酔客との乱闘を見物しようと、壺振り場へと歩み寄るもの。
 酒を片手に、狂歌が何人の警備員を倒せるか、と近くの客と賭けはじめるもの。
 人によって様々であるが、中に数名……警備員たちだけは、顔色を青くし狂歌の元へと殺到していく。
 酔客の対応など慣れたものだ。
 1発、殴りつけて大人しくさせた後は2階の部屋か、店の裏へと同行願うというのがいつもの流れであった。
 だというのに、なぜにこうも慌てているのか。
「ちっ……馬鹿力が」
 畳が割れたと報告を受け、ハダニは忌々し気に顔を歪めて見せた。
 それから、声を潜めて手下たちへと指示を下す。
「なんや、後ろ暗いことでもあるん?」
 パチン、と「紅葉に鹿」の絵札を取りながら追儺は笑みを含んだ声音でそう問うた。
 一瞬、追儺とモカの視線が交わる。
「おぉ、剣呑剣呑。物騒でありんす」
 怯えたように振舞ながら、モカはハダニへ抱き着くように身を寄せた。身体を使ってハダニの視線を遮ったのだ。
 さて、その背後では人混みに紛れ鹿ノ子が行動を開始した。

 壺と賽とが宙を舞う。
 狂歌は割れた畳を掴むと、力任せにそれを上へと投げ捨てた。
 それから1人、警備員の顔面へ渾身の拳を叩き込んで昏倒させる。混乱の最中、鹿ノ子と朝顔は壺振りの場へと近寄った。
「あら? これは一体どういうことですか?」
 そう言って朝顔は、畳の下で昏倒していた男を1人、掴み上げ衆目に晒すようにして高く掲げてみせたのだ。
 畳の下に人が隠れている理由など、イカサマの補助を行うためと相場が決まっているではないか。特に壺振りなどはその顕著な例で、例えば畳の下から針で賽を突き、出目を変えてやるだけで、たちまち勝敗はひっくり返る。
 万が一にも畳を壊されることなどないよう、頑丈なものを用意しておいたはずだが、狂歌の怪力を前にしては些か強度が不足していたということだろう。
「お、おい! イカサマだ! エビス祭場の奴ら、イカサマしてやがった!」
 2階へ続く階段の上で誰かが叫んだ。
 見ればそれは、まだ若い商人である。顔が強張ってこそいるが、やはり流石は商人とでも言うべきか、彼の声は良く通る。
 イカサマの現場を抑えてやろうと、客の一部が壺振り場へと殺到を開始した。若い商人に先導された形である。
「まだ青いと思っていたけど、なんだ……いい仕事するじゃない」
「あぁ、次はあたしらの番だな。さっさと助け出してやらねえと」
 人の流れに紛れ込み、ヴィリスとシオンは疾走を開始。
 警備員が野次馬たちを抑え込んでいる隙に、壺振り場へと到着すると畳の下の空間へ向け、その身を跳び込ませたではないか。
「あ、てめぇら! そっちにいくん……ぐぁ!?」
 2人の侵入に気づいた男が数名いたが、直後、ひらりと太刀が閃きその首筋を峰打った。
 首に強い衝撃を受け、男は意識を失った。その背を蹴り飛ばしながら、鹿ノ子は告げる。
「脱出経路はこっちで確保しておくッス!」
 追手を阻むべく、鹿ノ子は刀を正眼の位置に構えた。
 そんな鹿ノ子のすぐ近くでは、狂歌と……そして、混乱に紛れ駆け込んできたルーキスが暴れ回っている。

 大上段から振り下ろされた斬撃を、両手に構えた刀でもって受け止める。
 火花が散って、金属のぶつかる音が響いた。
「地下施設の存在が公になるのも時間の問題。今まで通りの祭場経営は難しくなるでしょう……今の内に賭場を畳むことをお勧めしますよ」
 男の太刀を受け流し、ルーキスは転がるようにしながら前へ。
 一閃、男の背後で刀を振るって膝の裏を斬り付けた。膝を斬られた男が地面に倒れ込む。
 血を流し、悲鳴を上げる男の身体を朝顔は「えい」と掴み上げた。
 大柄な男を頭上に持ち上げ、力任せに集まって来た客へ目掛けて投げつける。
「うわっ!」
「何やってんだ、ちくしょう!」
 悲鳴をあげて逃げ惑う野次馬たち。
 混乱はより一層に増していく。
 
「……なぁ、上の方、いつもより騒がしくないか?」
 薄暗がりの中で、掠れた呟きが零れた。
「黙って仕事しろよ。また、飯抜きにされるぞ」
 そう言いながら、別の誰かは痩せた腕で滑車を回す。
 黴臭い地下に、ずらりと並ぶ20を超える人の影。皆、疲弊しきっているのが暗がりの中でもよくわかる。
「あぁ、ほら……黙れよ。誰か来た」
 男の1人が、カツンと硬質な足音を聞き取り、仲間へ注意を促した。
 その直後……。
「ねぇ、河童さんってきゅうりが好きだって聞いたけれど本当なの?」
 そう声をかけたのは、1人の女性だ。
 鋼の義足をカツンと鳴らし、地下労働施設に現れた彼女……ヴィリスを見やり、男たちは目を丸くする。
 濃い緑色の肌に、黄色い嘴。
 頭の上には皿を乗せ、水かきの付いた手で滑車を回している。
 男たちの容姿が、通常の人と異なることは一目瞭然。
「寿司、握ったのってあんたらだろ? ごちそうさん。美味かったぜ」
 目を丸くする河童の前にもう1人の人影が姿を現した。
 意識を失った警備員を両手で引き摺りながら、シオンはにぃと鋭い犬歯を剥き出しにして笑う。
「安心して、敵じゃないから。私たち、河童さんたちを救けに来たのよ」
「どいつもこいつもすっかり痩せ細っちまってるな。こりゃ、親玉とやらを思いっきり殴らねーと気がすまねえ」
 警備員を通路の端へと投げ飛ばし、シオンは奪った鍵の束をちゃらりと鳴らした。

●河童解放戦線
 ルーキス、そして狂歌はそれぞれ2人がかりで床に押し付けられていた。
 仰向けになったその顔面に、蹴りや拳が降り注ぐ。
 鼻を潰され、額が割れた。
 顔面を真っ赤に染めながら、しかし暴れ続ける2人に警備員たちはどうにも手を焼いているようだ。
「簡単に突破はさせません!」
「俺に触れるなセクハラ野郎!」
 吠える2人を押さえる方も血塗れだ。
 狂歌が男の手首に食いつき、ルーキスは振り下ろされる拳にヘッドバットを叩き込む。
「もっと人、寄越せ!」
「無理だ! むしろこっちに寄越してくれ!」
 すぐ近くにいる仲間へと応援を求めるが、そちらはそちらで手一杯。
 地下へ向かったヴィリスとシオンを追いかけようとしているのだが、立ちはだかる朝顔と鹿ノ子の防御は硬い。
 振り下ろした太刀は朝顔に受け止められ、空いた胴へ鹿ノ子が刀を叩き込む。
 また1人、意識を失い床に倒れた。
 しかし、その隙を突いて警備員2人が朝顔と鹿ノ子の防衛網を突破した。
 警備員たちは、脇目も振らず地下へと跳び込んでいき……。
「攪乱するわ! 河童さん達は海へ!」
「道を空けろ! 加減してる余裕はねえからな!」
 1人は鞭のようなヴィリスの蹴りを、顔面に受けて吹き飛んだ。
 1人は抉るようなシオンの拳を、腹に受けて床に沈んだ。
 地下へと続く通路から、飛び出して来た2人は左右へ散会しながら目につく警備員たちを手当たり次第に蹴って、殴った。
 そんな2人の後に続いて河童たちがぞろぞろと地上へ這いあがる。
 薄汚れ、傷だらけになった痩せた河童たち。
 血走った眼で、懸命に走る。
「いかせねぇぞ!」
 道を塞ぐ警備員を前に、ひと際大柄な河童が張り手を放つ。
「道を空けねぇか! このアホンダラぁ!」
 痩せて衰えたとはいえ、日々、相撲の稽古に費やして来た経験は伊達じゃない。全盛期の力には程遠いが、その張り手は強烈だ。
 ミシ、と男の胸部で骨の軋む音。
 血を吐き倒れた警備員を踏みつけながら、河童たちはフロアを進む。
 その様子を見て、ルーキスはくっくと笑ってみせる。かつて“山ン本部屋”の河童と相撲を取ったことがあるのだ。その時に受けた張り手の威力を思い出せば、直撃を受けた男が無事ではないことが手に取るように理解できた。
「あちきの側に来ておくんなんし……じゃなかった。こっちに来るんだ! 逃走経路は確保している!」
 河童たちを手招きするのは、着物を脱いでいつもの服装に戻ったモカだ。
「野郎、どこから入った!」
 警備員の1人がモカを止めるべく近づいていく。
 そんな男の股間へ爪先蹴りを叩き込みながら、モカは叫んだ。
「野郎じゃないわ!」
 動きにくいからと【ギフト】で胸を薄くしたのが仇となったか。
 
 零れた血で、床が赤く染まっていた。
 1階の端、相対している追儺とハダニは視線を交わし、どちらともなく笑ってみせた。
 追儺の着物は千々に裂かれて、細い上半身を晒した状態だ。無数の裂傷が刻まれた肌は、血で真っ赤に濡れている。
 一方、ハダニはと言うと諸肌脱いで、肩に大太刀を担いで佇む。
 鍛え上げられた上体には、幾つもの痣。
 一進一退の攻防が続き、ハダニは部下たちの手助けに向かえないでいるのである。
「やりますなぁ、新調した着物がズタボロやわぁ」
「ほざけ。何でくたばらねぇんだ、てめぇ」
 じくり、と追儺の傷が蠢いた。
 自身に治癒を繰り返すことで、追儺は戦線を維持しているのだ。
「さぁ、なんでやろな? なんでやと思う?」
「問答に付き合ってる余裕はねぇんだが……もう間に合わねぇか」
「せやねぇ。随分遊んでもろたもんねぇ」
 2階へ去っていく河童たちの後ろ姿を見送り、ハダニは大きなため息を零した。
 それから、ハダニは大太刀を下げる。
「多勢に無勢ってな。数の有利も逆転したし……俺ぁ、勝てねぇ賭けはしねぇ主義なんだ」
 いつの間にか、ハダニの周囲をヴィリスやシオン、鹿ノ子、朝顔が取り囲んでいた。
 河童を追っていた数名の警備員は、たった今狂歌とルーキスに斬られて階段を落ちたところだ。
「大金より命だな。命あっての物種だ。他人のために命を賭ける狂人どもとやりあってちゃ、こっちが損をするばかりだぜ」
 からん、と大太刀を床に落とすとハダニはその場に座り込む。
 頬を濡らす血を舐めとって、追儺は問うた。
「ええのん?」
「疫病神にゃさっさとご退場願いてぇもんだ」
 行け、と身振りで示すハダニに従いイレギュラーズは賭場から逃げ出していく。
 一行がすっかり消えたことを確認し、ハダニは盛大な吐息を零した。
「悪の栄えた試し無しってか? とはいえ、おめぇら……世に悪人の種は尽きまじとも言うぜ」
 なんて。
 誰に聞かせるわけでも無いが、そんな言葉を呟いた。

成否

成功

MVP

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera

状態異常

不動 狂歌(p3p008820)[重傷]
斬竜刀
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
如月 追儺(p3p008982)[重傷]
はんなり山師

あとがき

地下で働かされていた河童たちは無事に解放されました。
山ン本部屋は、別の土地で再興するつもりだそうです。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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