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シナリオ詳細

EX<オンネリネン>聖獣は葡萄畑より逃れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●聖獣を追って
「あれは、アポロニア様!」
「神々しいお姿が……ああ、誰に傷つけられたのでしょう!」
 アドラステイアの聖銃士たちの声が、霞みかけたマルク・シリング(p3p001309)の聴覚に飛び込んできた。

 オンネリネンの子供たちとともに村を襲おうとして逃げ出した聖獣『アポロニア』を追うこと数日間。自身が限界に近い状態にあることは、マルクとて誰よりも良く知っている。
 が、それはアポロニアに関しても同じ話だと言えた。彼女とて、足を止めればいつマルクと『流転する槍媛』イングヒルトに止めを刺されるか判らなかったのだから。
 互いに休む暇を与えずに。マルクらに関しては、アポロニアが道端で無辜の誰かを喰らって傷を癒やすことすら許さずに、ここまで長い追跡行を果たすことになった。もしも、自分が追っていなければ、幾人の命が失われたか……それを考えるだけでマルクはぞっとした気分を味わうが、本当にぞっとするのはこれからのことだ。

 聖獣は聖銃士らの声に気付くと、そちらに自身の意識を向けた。マルクも僅かに意識を向ける……ああ、これまで彼が犠牲を出すまいと奮戦したのは無駄だったのであろうか! 何故なら聖獣の向かう先、聖銃士らの列のすぐ後ろには、彼らが処刑場たる嘆きの谷へと連行する最中の“魔女”たちが並んでいたからだ。

 だがその時マルクらは、別の方向から新しい声を聞いたのだった。
 特異運命座標たち。マルクらがアドラステイアに向かっていることを知り、早馬と空中神殿ワープを用いてジャストタイミングで到着した援軍ら。

 聖銃士たちが各々の武器を援軍らに向ける。
 聖獣は彼女の“餌”を求めて魔女たちの列へと方向を変える。

 命を削るマルクの奮闘は、道すがらの人々を救ったばかりか、今、“魔女”たちの処刑の運命さえ覆さんとしているところだ。
 ただし、それは聖獣が“魔女”たちを喰らうことがなければの話……この天秤を実際に傾けられるのは、援軍として現れた特異運命座標たちなのだ。

GMコメント

 本シナリオは、『<オンネリネン>報復は葡萄畑に迫り(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6668)』の続編であり、直後の状態から始まります。皆様は際どく現場に到着できたものとし、時間的猶予はありません(相談期間も短くなっています)。目的は聖獣および聖銃士の撃破または捕縛であり、成功条件に“魔女”たちの生死は含まれません。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●『オンネリネンの子供たち』とは
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供たちで構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
 活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。今回の活動は天義(聖教国ネメシス)のとあるワイン産地の村々となります。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1

●敵
・聖獣『アポロニア』
 残存HPは2割、APはほぼ0の状態です。また、疲労のため反応に大幅なペナルティを受けているものとします。聖銃士たちまで残り150m程度の段階で全力移動を開始しました。機動力は5で、最初のターンは『全力移動で魔女たちに接近』、次のターンに『魔女を1人選んで接近して触手にて捕食し、HPとAPを回復させる』となります。以降も回復を優先させます。魔女を捕食できない場合は、他の手近な相手を捕食しようとします。
 APがある程度回復すると、後悔と絶望の2つの光線を同時に射出し、受けた者の気力を摩耗させる攻撃ができるようになります。

・聖銃士(前衛盾役×3、近接攻撃役×2、遠隔神秘攻撃&回復役×3)
 アドラステイアに忠実な子供たちです。聖獣アポロニアが傷ついていることと、彼女が魔女たちを処刑することで傷を回復しようとしていることに気付いているようです。

●味方
・マルク・シリング(p3p001309)&『流転する槍媛』イングヒルト
 アポロニアの40m弱後方につけています。残存HPは3割、APはほぼ0である状態です。また、疲労のため反応に大幅なペナルティを受けているものとします。
 前回からのスキルや装備の変更等には制限はありません。

・他の特異運命座標
 聖銃士たちの横あい200m程度に位置した時点でアポロニアが全力移動を開始しようとしたのが見え、戦闘開始となります。

●他陣営
・“魔女”×10
 アドラステイアの魔女裁判で有罪となった老若男女です。縄で繋がれており、また疲弊しているため逃亡はできません。

●Danger!
 アポロニアの触手攻撃によりKOされた場合は捕食され、パンドラ残量に拠らない死亡判定が発生します。
 あらかじめご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • EX<オンネリネン>聖獣は葡萄畑より逃れ完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ

●掴まれる可能性
「ゴメンナサイ……」
 駆け出し際に聖獣の囁いた嘆きは、彼女を追っていたマルク・シリング(p3p001309)にも聞こえはしなかった。呪わしきイコルによって姿を変えられてしまった少女の、後悔でもあったその祈り。聞くものも、知る者もなく虚空に失われる定めであったその言葉にしかし、疾風とともに返す者がいる。
「私はヴァイスドラッヘ。さぁ、貴女の後悔も絶望も、全ての想い受け止めてあげるわよ!」
 同時、聖獣はいななく壁に、その行く手を阻まれた。彼女とて想像するべくもない……今、自身が進まんとしていたより倍もの距離から、人馬一体の女騎士が飛び込んでくるなどと!
「ああっ、聖獣様が……!」
「ファルマコン様、アポロニア様をお助けください……」
 一部始終を目の当たりにした聖銃士たちの間にまで混乱と動揺が広がる中で、『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)は馬上より高らかに名乗ってみせた。
「私はヴァイスドラッヘ。皆を助けに来たわ」
 レイリーを斃さぬ限りこの先には進めぬことを、アポロニアは理解する。聖銃士たちもまた同じ……ならば。
「落ち着け! 突出なんてむしろ好都合!」
「神敵どもの合流を妨げろ!」
 ある者はアポロニアと合流せんとそちらに駆け出して、またある者はレイリーと他の特異運命座標の間に割り込まんと飛び出してゆく。無論、“魔女”らを奪われまいと留まる者もいる……足並みの揃わぬ彼らへと、轟く人狼の咆哮がひとつ!
「……でも、何もしないほうが、もっとこわいもん!」
 あの触手に捕らえられたら喰い殺されてしまうかもしれない――ギフトで隠していなければ、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の小さく丸まった尾が見て取れたろう。
 それでも、彼女の脚はぐんと加速する。自分だけが助かって、代わりに誰かが食われるなんて嫌だ。聖銃士が間に割り込もうとするよりも早く、リュコスは野を駆け抜ける!

 自身へと伸びる触手を幾つか引き千切りながら、彼女はアポロニアを抜き去っていった。今、聖獣の注意は彼女に奪われている。聖銃士たちも同様だ……今すぐ聖獣の下に参らねばという危機感と、魔女どもを放置してはいけないという使命感の板挟みになって、彼らの足取りは揃わない。
 ゆえに、これを二度目の続きと呼ぶべきか三度目と呼ぶべきかは『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)にとって悩ましい話ではあったが、いずれにせよこれが最後の機会となることばかりは間違いはなかった。いいや、誰ひとりとして犠牲を出さぬまま、確実に最後にしてみせるのだ……何故ならあれから姿の見えなくなったマルクが、こうして彼女を追い詰めてくれたのだから。
 そのような姿に堕ちたのは、とても辛く、苦しいことだったでしょう。
 だからここで、終わりにしましょう?
 慌てて自身と聖獣の間に割り込んだ聖銃士ごと、正純の矢は流星となり聖獣を貫いた。否、それは流星などというか細いものでなく、天の星々が集いて生まれし光龍か。
「ファルマコン、ファルマコン」
 聖獣が喘ぐ。そんな彼女を救わんと、遠くから祈る聖銃士たち。
 だが、祈りは届かない。届かせるわけにはゆかぬから。彼らが祈るのと同じぶんだけ、死神は聖獣から命を削る……くるりと回した『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)のパラソルは、違うことなく聖獣へと向けられて銃弾を放つのだ。
「こんなところで、黒狼隊の貴重な文官を失う訳にもいきませんから……ね!」
 彼女のラブリー・パラソルとはすなわち仕込み銃――いや、どちらかというと銃であることを隠さない、銃パラソルとでも呼ぶほうがより適切か。もっとも、いずれにせよ執拗なるハイエナの一撃が、獲物に食らいついて離さぬことだけは変わらない。

●聖獣に慈悲を
「マルク、大丈夫でしたこと!?」
 その隙に駆け寄ってきた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)へと、マルクはふらつきながらも力強く頷いてみせた。
「皆が来てくれたなら、負けない!」
 ちらと離れた場所に視線を遣れば、その先でイングヒルトも深く頷いて返した。目立たぬように戦場を大回りして進む彼女は、少しずつ“魔女”の下へと近づいていっている。
 あとは、彼女に攻撃が向かないように、聖銃士たちを牽制するだけだ……寝不足と疲労と興奮で血走る目で彼らを睨みつけ、こんな時のためのとっておき――甘露(アムリタ)の天上の美味を味わいもせずに喉奥へと流し込む!
「でしたら、構いませんわ。……どっせーーい!!!」
 もう心配の必要もないと解ったヴァレーリヤの聖戦棍が、炎を纏って聖獣へと振るわれた。それは革命の使命を帯びた司祭の打撃というよりも力任せに触手を毟り取ってやらんとでもいうほうが近い、酒場で乱闘する時のような荒々しい打撃。
 だが、それでいい。聖獣に脅威はまだまだ多いぞと知らしめて、こうなればマルクを喰らおうかという気にさせずにおけるなら恥も外聞も必要はない。何故なら――『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)――も警鐘を鳴らす。まだ、予断を許さない状況が完全に覆ったわけではありません、ね。思うところはありますけれど、今はこの状況を切り抜けるのが先決、と。
 レイリーと愛馬ムーンリットナイトの突出に聖銃士たちが対応するべくもなく、すっかり2グループに分断されている今は、そのための絶好にして最後の機会だと言えた。ようやく自分たちのほうに来る敵がいないと気がついて、“魔女”たちを手放して合流を急ぐ聖銃士たち。合流を許し、戦いが泥沼化してしまったならば、敵とはいえ大人たちに利用されたままの少年少女を、殺めぬよう手加減していられるとも限らない……アッシュの青くきつい眼差しが、駆けてくる聖銃士たちを睨めつける。そして宿した銀の魔力を、近づけばあなた方もこうなりますよと聖獣へと放ってみせる。

(本当はアッシュさんだってそんなことしたいわけじゃないってことを、どうやればあの子たちに解ってもらえるの)
 勝手な定義で決められた“魔女”をどれだけ処刑しても何も変わらないことも、彼らが憎む特異運命座標らが実は彼らを救いたがっていることも。伝える術がないことが『善性のタンドレス』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)にはもどかしかった。
(……ううん。それらはどれも時間をかけて、彼らが教えられて学んだこと。すぐに間違いだったと受け容れることなんてできるわけがない)
 だから、解ってもらうまで、ココロもそれ以上の時間を重ねるだけだ。もしも彼らが殺そうとするのなら、自身はそれを守ってみせよう。彼らが敵意を向けずにはいられぬのなら、自身がその矛先になってみせよう。願いが聖銃士を包み込む霧となり、彼らの精神を眩惑させる。あの獣は人を食べようとしているのよ? なんでそんなことをさせようとしているの? すると問いかけが生み出す反感を、聖銃士たちは自分自身でも制御しきれない。
 聖獣様のために放たれるべき魔力が、次々にココロに突き刺さっていった。それが、命運の分かれ目だ……残像さえ帯びながら、リュコスが野生の速度で舞い戻る。聖獣は触手を大きく広げ、それを受け止めんと試みる。あの中に自ら飛び込んでゆく度に自ら捕らわれてしまう危険を重ねることになると思えば、どれほど恐ろしいことだろう……でも、ぼくはやるって決めたんだ。残像の中から影の狼が伸びてゆく。聖銃士の祈りが届いていれば力を取り戻していたはずの触手は、実際にはリュコスの心の叫びを止めきれない。
 ならば、あとは自分自身と自分を信じてくれる皆を信じるだけ。突き立てられた影狼の牙は、違わず聖獣の喉笛を食い千切る!!

「アポロニア様、どうして……!」
「お前たち、よくも聖獣様を……!!」
 聖銃士たちの嘆きと怒りを聞きながら、聖獣アポロニアの躰は4本の腕と多数の触手を天へと伸ばすようにしながら、ゆっくりとその場で倒れていった。せめて、最期くらいは彼女が人であった時の名で呼んで遣れたなら……そう思うがマルクには、彼女の真の名を知る術もない。できるとすれば彼女を変えた張本人を探し出し、聞き出した名を彼女の墓前に添えるくらいだ。
 その機会をいつか掴むためには、アドラステイアの大人たちに繋がるかもしれない手がかりを、少しでも多く集める必要がある。だからマルクはイングヒルトを追って、“魔女”たちの保護へと足を進める――いや、そんな理由は後付けだ。苦しむ“魔女”たちや聖銃士たちを見て、ただ助けたいと思っただけだ……もしも時を戻すことさえ許されるのであれば、アポロニアが聖獣にされてしまう前に出会えればよかった。

 聖獣様の力になるという目的を見失い、本来の目的――“魔女”の処刑を思い出すことになった聖銃士たちは、今度は来た道を戻らねばならなくなった。
 だが、それを許さぬ高らかな声。
「助けるわ! 罪なき人々も、貴方たちも!」
 ムーンリットナイトに跨ったまま大上段から呼びかけることで、レイリーは敢えて彼らに不快感を植えつける。我こそは、罪人たる魔女たちを罪なしと断じて憚らず、聖銃士の叙勲を憐れむ背教者。それを倒してみよと挑戦を求め、彼らの剣を、槍を、魔術をその白鎧で受け止めてみせる!

●聖銃士たちへの祈り
 アポロニアの屍の隣で奮闘するレイリーと、彼女と“魔女”たちの中間で祈りを捧げるココロ。ともに聖銃士たちとの睨み合いを強いられたことにより、彼女らが合流する機会を逸していたことは事実ではあった。
 ……が、特異運命座標たちも苦しいが、聖銃士たちはそれ以上に苦しかったことだろう。何故なら最後まで“魔女”たちの下に残っていたのは、より冷静さと責任感を備えた盾役と回復役だ。ココロたったひとりを打ち破ろうにも、決め手があるとは言いがたい。一方で、無事にアポロニアとの合流を果たした側は全く逆の状況だ……すなわち攻撃の手は十分にあるものの、それ以上に守りの手が不足する。
 傍目には勝負など決まったようなものなのに、それでも彼らが諦めてくれない理由は、正純には決して挑発を受けたからというだけではないように感じられていた。
(自分たちがあの聖獣のようになる可能性もあるというのに、彼らは教えられたことしか信じられないのでしょう)
 今はまだ、救えない。魔女も、特異運命座標も、ファルマコンの敵は全て滅びて然るべきと彼らが信じている間は、何もしてやることなんてできない。
 だから……矢を番えることなく弓を引く。鳴る弦は神気と共鳴し、邪心だけを貫く閃光と化す。勝利を信ずる彼らを打ち倒したならば、誤った信仰に綻びを与えることも叶うかもしれぬから。
「主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に」
 ヴァレーリヤの唱えた聖句の一節は、彼らに死ではなく新たなる生の機会を与えんと願うものであり。遣い手の命さえ削った祈りを受けて、ますます燃え盛る聖棍の炎は、聖銃士の少女の偽神への祈りを焼き滅ぼさんとする。
 弾き飛ばされる少女。纏わりつく炎は彼女の命を奪うどころかむしろ頭を大地に打ちつける危険から救いさえしていたのだが、傍目から見ただけの聖銃士たちには知る由もなかった。助かるには――ただ特異運命座標たちから逃れるのみならず、自分たちまで魔女の処刑を怠った魔女として断罪されぬためには何をするべきか。ようやく、冷静さを取り戻す者が彼らの中に現れる。……が。
 強烈かつ無慈悲な浄化の炎が、そういった者の一人を中心に渦巻いた。
「その程度で聖銃士を倒せると思ったか!」
 盾の後ろに身を隠しつつ、彼は炎の術者――アッシュへと強がってみせる。
 だが、そのために彼が足を止めたこと。それが痩せ我慢にすぎないことを物語っていた。再びアッシュの指先に、破壊の魔力が収束しはじめる。
「しっかりと足を踏みしめなさい……。あなた方が皆を殺そうとしているように、わたしも……あなた方を殺すつもりで来ているのですから」

 こちらが“魔女”たちの救出を目的としていると知る聖銃士たちが、彼らを人質に取ろうと目論むのならば。特異運命座標は彼らが人質へと駆け寄らんとする間の隙自体を人質としてみせるほかはないのだ。
 もっとも、そのはずがしにゃこのラブリー・パラソルは、今は銃としての役割ではなくパラソルとしての役割を果たしているばかりにしか見えないのだが。
「捕虜に構ってていいんですか? じゃあこの隙にいっぱい攻撃しちゃいましょうかね!」
 パラソルダンスとともにかけられる言葉はまやかしで、無視しない理由なんてないはずだった。聖銃士が人質なんて卑怯な真似はしませんよねなんて喚く彼女など、耳を傾けてやる価値もない……はずなのに。
 聖銃士たちは彼女のカワイイポーズが、それ自体恐るべき攻撃であったのを知る。否、それこそ彼女の慈愛。そんな彼女はファルマコンの化身に違いなく、しにゃちゃん様が人質はいけないと言うのなら、従わぬ仲間を殴ってでも止めることこそ聖銃士の責務!
 ……ゆえに、マルクたちが“魔女”たちを繋ぐ鎖を断ち切ることを、聖銃士たちが妨げることは起こらなかった。
「もう、大丈夫だ。ともに安全な場所に」
 呼びかけるマルクに対し……“魔女”たちは応じるも、その足取りは遅々として進まない。
 マルクも疲れていたかもしれなかったが、彼らはそれ以上に激しい魔女裁判により困憊させられていた。ならば、最後にもう一度自分に鞭打とう。歩けぬ老人を背に負って、子供を抱えて歩みはじめるマルク。

 聖銃士たちも最後の力を振り絞り、それに追いつかんと駆け出さんと欲する。だからもう一度、レイリーは声を張り上げる。ムーンリットナイトはこれ以上自分への攻撃に巻き込まれて傷つかぬよう、既に遠くに逃がしてしまった。あとは、自分が倒れなければいい……そして、まだまだ倒れるつもりなんてない。
 逆に、もう幾度目かも判らぬ正純の鳴弦の儀が、いまだ立つ聖銃士たちを次々に打ち倒していった。
 なのに、彼らは諦めてくれそうにない。
「人質を諦めて撤退すれば見逃がしてあげます!」
 しにゃこがそう呼びかけてみても効果は見られない……おそらくは、「アポロニアが神の如き超絶美少女に撃破されたってお偉いさんに伝えるといいですよ☆」なんて余計な一言をつけ加えたのが理由ではない。
(ですが……命さえ奪わずに終わらせさえすれば)
 だから正純は矢を番えず戦いつづける。そして、それは決して無駄な努力などではないことを、アッシュも同じく信じている……その証拠に彼女も正純の弓鳴りに、自身の全く同じ魔力を共鳴させるのだから。
 死んだ、と思った先のこの世界で過ごすうち、彼女は随分と甘くなってしまっていたのかもしれなかった。濃厚な敗色にもかかわらず、いつまでも立ち向かいつづける彼らの姿は、そんな気持ちで俺たちを救えるだなんて勘違いするなと言っているようにさえ思えてくる。
 でも、それがアッシュのエゴ。救いたいものは皆救い、それすら叶わぬなら覚悟を以って手を汚す。自分ひとりでは不可能であったに違いないそれは、今ならば、仲間たちの存在により成し遂げられる――。

●アドラステイアの未来
「――これでよし」
 ココロの見立てによれば“魔女”たちは、激しく衰弱こそしていたが簡単な処置だけで一命は取り留められるようだった。聖銃士たちに関してもいずれも命に別状はない。
 もっとも……どちらも心身ともに健康になるまでには、長い時間がかかるのだろうこともまた彼女は指摘しなければならなかった。この場所で、ゆっくりと回復を待つ暇まではない。お願いね、と声をかければ、頷いて彼らを背負ってゆくリュコス。
「はやく、ここから離れないと」
 いつまた別の聖銃士たちが通りかかるかも定かでない場所に留まっていれば、どんな目に遭うか判らないから。本当はその聖銃士たちも倒して処刑されそうになっている“魔女”たちを救えたならどれだけいいことかとは思うけれども。そのせいで助けられた人たちまで失ってしまったら、本末転倒なくらいはリュコスにだって解る。

 そうしてこの場に誰かがいた形跡は、いつしかすっかりと失せていた。残されていたのは草むらの中にひっそりと盛られた土と、その前で祈るヴァレーリヤの姿だけ。
 主よ、どうか彼らの魂をお導き下さい。
 アポロニア。他の聖獣へと化した人々。そして、魔女と断じられて処刑された全ての犠牲者たちのために。
 冷たい風が吹きつけて、白い法服の裾をなびかせた。ヴァレーリヤは閉じていた瞼を開くと踵を返す。
 今は、助けられた者がいることだけを喜べばいい。たとえ今日はこの場を去らねばならぬのだとしても、それは次の機会を万全に迎えるためでもあるのだから。

成否

成功

MVP

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

状態異常

なし

あとがき

 これにて、聖獣アポロニアを巡る一連の事件は、終わりを迎えたことになります。魔女とされた人々も、聖銃士たちも、これから長い時間をかけて心と体を癒やされてゆくのでしょう。

オープニング作成時の私「この距離だと機動力6かブリンクスターで2ターン目にギリギリ間に合う計算だな」
リプレイ執筆時の私「1ターン目にブロックの余裕まで残して到着……だと……?」

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