PandoraPartyProject

シナリオ詳細

極彩を紡ぐ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●それは少し前の話。
 ――まだ、夏真っ盛りな頃の話である。
「ここがカムイグラかあ!」
 船のタラップを降りた女性は目を輝かせてあちらをきょろきょろ、こちらをきょろきょろ。これまで見てきた国の何処とも違う風景は、久々に異国の新鮮さを彼女へ齎していた。
 カムイグラ――それは海洋大号令による絶望の青踏破の果てにあった国である。大号令が成し遂げられたことにより、少しずつ交易も拓かれている。イレギュラーズたちは空中神殿よりここまで一瞬だというから、ほんの少し羨ましい。
「にしてもあっついな……」
 今でこそ冬の気配があるものの、彼女が到着した頃はまだまだ地面が焼かれるような暑さを持っている。船着き場から早々に離れて日陰のある場所に行こう。レーヴェンはすぐさまそう決めると膨らんだ肩掛け鞄をぽん、とひとつ叩いて歩き出した。
 内陸側へと向かっていけば、そこは大きな市場であるようで。船着き場から降ろした荷をここで卸し、小売店へ運んでいくのだろう。その盛況ぶりにレーヴェンの足は自然とそちらへ。食材などは見たことのあるものもあれば、そうでないものもあり。しかしレーヴェンからすれば――。
(うーん……普通だなあ)
 ――と、ちょっぴり落胆してしまうのである。
 別に鮮度がどうこうとか、そういう問題ではない。彼女の食指に引っかかるものではなかっただけ。何か良さげなものはないかと視線を巡らせるレーヴェンは、今通り過ぎようとしたそれに釘付けになった。
「布……?」
 荷台に積まれたそれらは、埃避けの為に上から別の布がかぶせられている。けれどその隙間から見えたのは多分、布だと思う。それもかなり鮮やかな色合いの。
 レーヴェンはそのままどこかへ向かっていく荷台を追いかけてみる事にした。卸す前なのか、小売店へ運ばれる前かは定かでない。けれどもっと、じっくり、見てみたい。
 目を爛々と輝かせたレーヴェンは人の波を縫って進みながら足を緩めず追いかけていく。荷台は暫く大通りを行くと、細い脇道へ入って止まった。卸す前であったようだ。
 一方のレーヴェンはと言えば、荷台が脇につけた店を見てあんぐりと口を開ける。
「いらっしゃいませ。お客さん、西のお人?」
「え? あ、はい。ここは織物の店ですよね?」
 店主らしき女性がおっとりと首を傾げ、レーヴェンはかくかくと頷く。女性は反物を扱う場所――呉服屋であると彼女に教えてくれた。
「たんもの」
「ええ、あんまり馴染みがないでしょう。こういう着物を一着作るのに必要な分だけ巻いてあるんですよ」
 こういう、のところで自身の着る着物を示す女性。レーヴェンはまじまじと着物を見た。慣れない内は着るのが難しそうな服だが、異国の文化というのは一定層にウケるものである。何より――食指が動いた。
 是非とも商談をさせて欲しい、とレーヴェンが言おうとした矢先、肩に何か当てられる。布だ。巻いてある布をいくらか伸ばして肩に当てられている。少し慣れない匂いは虫よけだろうか。
「あの――」
「お客さん、目立つ色合いも似合いそうねえ。こんな柄どうかしら? こっちの方がいいかしら?」
「え、いや、」
「奥にしまってあったのも良さそうね。ちょっと持っていて下さる?」
 反物をレーヴェンに預け、店の奥へ入ってしまった女性。レーヴェンはすっかり言い出すタイミングを失っていた。
(これが豊穣……)
 視線を持たされた反物に落とし、慣れぬ空気を肺いっぱいに吸い。レーヴェンは小さく笑みを浮かべる。
 この国への滞在は楽しいことになりそうな、そんな予感がした。


●それではこれより今の話。
「……という訳なのさ!」
「はぁ」
 レーヴェンの力説に『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は気の抜けた言葉を返す。仕方がない、彼女の話を聞き始めてから軽く2時間は経っていた。シャルルは眉間を揉んで「それで?」と問う。
「レーヴェンが豊穣で作られている布とか、そういうのに興味が出たのは分かったんだけど……今日は依頼があるって聞いたよ?」
「そう! 女将さんが極彩鳥の羽根を集めてきたら発注してあげるわよって言ってたんだ!」
 ぱちん、と両手を合わせてレーヴェンが目を輝かせる。なんでも、極彩鳥の羽根で紡がれた糸はとても綺麗に染色できるそうで、その糸で織られた布は一級品なのだそうだ。布や糸を染めるというのはなかなかムラができやすいそうで、故に極彩鳥からできる糸は高級品とされているらしい。
「……羽根?」
 シャルルは脳内に浴びんばかりの羽根を想像した。これからの季節、布団に良さそうな……ではなくて、随分と集める事になりそうである。
「20枚くらいでいいって言ってたよ? こーんな大きさなんだって、羽根が」
 自身の手の爪から肩口までを示すレーヴェン。それを視線で追ったシャルルは眉間に小さく皺が寄った。
 それは、もしかしなくても、結構大きな獲物になるのでは?
「でも1羽から1枚しか落とさないし、戦っている間も持っていたりしたらすぐ折れちゃうんだって! だから私も一緒に行くよ。皆が戦ってる時は隠れてるから、ね!」
 口ではそう言いつつも、彼女の目が輝いているように見えるのは気のせいだろうか。何か別の魂胆がありそうだが、少なくともここで彼女の口から出ないなら依頼内容には関係ない事なのだろう。
「それじゃあボクは人を集めてこようかな。飛べる人の方が良いんだよね?」
「あ、ううん! 極彩鳥たちが嫌がる臭いがあるから、それを出して下まで降りてきてもらうんだって。猟師の人に臭いの素を分けて貰ったんだ」
 なるほど、それならばどんな面子でも問題ないだろう。シャルルは一つ頷くと、人を募るために一旦ローレットへ帰ることにしたのだった。

GMコメント

●成功条件
 極彩鳥の羽根×20を回収すること

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。嘘などはありませんが、不明点もあります。

●フィールド
 豊穣の都を出て暫く東へ向かった場所にあるだだっ広い野原です。冬近いこともあり、背丈の高い草などは見受けられません。
 空も含め非常に見晴らしが良い状態となりますが、隠れる場所もありません。

●極彩鳥
 大人が背中に乗れるほど大きな鳥です。体には様々な色味が浮かび、飛んでいても目印としてわかりやすいことから極彩鳥と呼ばれています。【飛行】が可能です。
 彼らは10羽前後の群れで行動し、イレギュラーズたちが仕掛ける日は複数の群れが空を横断していく見込みです。
 一定ダメージを与えると逃げていきますが、1羽が逃げ始めると群れの仲間たちも一緒に逃げていきます。

 苦々草という薬草を焚き火に放り込み、嫌な臭いを上空へ昇らせることで極彩鳥たちは近接距離程度まで降りてきます。
 近づいて爪や嘴で攻撃してくる他、風を起こして範囲攻撃をしてくることもあるようです。【出血】等のBSを付与される可能性があります。

●極彩鳥の羽根
 一級品の糸を紡げる羽根です。極彩鳥同様に多くの色味が含まれていますが、これを糸にすると何故か白くなり、綺麗に染色できるそうです。
 羽根の状態では非常に繊細で、些細な攻撃でダメになってしまいます。極力レーヴェンに預かってもらうのが良いでしょう。

 羽根を落として欲しい個体に一定ダメージを与える事で、逃げる際に羽根を落としてくれます。1羽から1枚しか落ちません。
 一定ダメージの与えられていない個体、倒してしまった個体は羽根を落とさないので注意してください。

●NPC
 『色彩蒐集者』レーヴェン・ルメス(p3n000205)
 鴉の翼を持つスカイウェザーの女性で、パサジール・ルメスの民です。海を渡って豊穣までやってきました。【飛行】が可能です。
 彼女は色鮮やかなものに目がなく、豊穣の美しい布の数々には非常に興味を持っているようです。
 戦闘能力はありませんが、戦闘後であれば落ちてきた極彩鳥の羽根の回収をお手伝い出来ます。戦闘中は邪魔にならないよう避難しています。

 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 ウォーカーの少女。皆さんと共に戦ってくれます。神秘アタッカーです。多数を相手取るのは難しいです。特に指示がなければ、体力の多そうな極彩鳥へ攻撃を仕掛けます。
 レーヴェンほどではありませんが、大陸と異なる文化の中でもわかりやすい衣類については多少の興味があるようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ラサの一件より暫し、海を渡ったレーヴェンとの再会です。羽根を集めて綺麗な布を心待ちにしたいでうすね!
 それではどうぞ、よろしくお願い致します。

  • 極彩を紡ぐ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月29日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼

リプレイ


 さあぁ、とそよぐ風は冷たさを纏っている。薄青色の空ではもっと冷えた風が流れているのだろう。そこへ注ぐ柔らかな日差しはほんのりと温かく、冬の初めにしては優しい空気に『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)ははあ、と小さく息を吐いた。それが淡く白むまではあと僅かばかりか。
(色々と大変な時期ではあるが、ここは穏やかだな)
 イレギュラーズは年中多忙だ。世界のどこかで事件が起き、今も練達ではR.O.Oでの一件が目まぐるしく戦況を変えている。その一方でこうして他国からも依頼が絶えないのはローレットの強みなのだろう。日々駆けまわっている情報屋には頭が下がるばかりである。
 それに、とエーレンは小さく目を細めた。この国は何処か懐かしい。こうした平和な依頼も多く寄せられていた。この場所からあの世界の様子はわからないが、村長たちは元気にしているだろうか。
「……考え事?」
「む? ああ、いや。少しばかり思い出していただけだ」
 不意に声をかけられたエーレンは『Blue Rose』シャルル(p3n000032)へ首を振る。彼女もこちらに合わせた装束で馳せ参じたようだ。その後ろでは『色彩蒐集者』レーヴェン・ルメス(p3n000205)や『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)が豊穣の話で盛り上がっている。この国出身である朝顔としては、この国を好いてくれるのが嬉しいのだろう。
「……でも、極彩鳥の羽根かぁ」
「朝顔も見たことがないの?」
 レーヴェンへ頷く朝顔はもう一度記憶を掘り返してみるが、極彩鳥については思い至らない。
「一度、その羽根で織られた布を遠目に見たことがありますよ。確かにとても綺麗でした」
「そうなんですか!」
 『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)が見たのは色打掛だったか。染は鮮やかで美しく、陽光を浴びて輝くようだった。
「極彩鳥……いい名前だもの、きっと羽根も綺麗なんでしょうね」
 『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の言葉に朝顔は頷いた。羽根はこの依頼でお目にかかれるだろう。紡いだ糸から織られる布もできれば見てみたいところだ。
(……ほんの少しだけ布地とかって頂けたりしますかねぇ)
 希少な部位から作り上げられた逸品。正純としては縁があるならば欲しいのが率直な思いだが、全ては依頼が終わってからである。
「鳥の羽根、のぉ……まぁ銭貰えるならなんでもやるわ」
 儲け話と思って来てみたばかりに、羽根集めと聞かされて拍子抜けといったところか。唯月 清舟(p3p010224)は任せろというようにレーヴェンへ笑みを浮かべた。
「極彩鳥だかなんだか知らんが、鳥を捕まえればええんじゃろ? やすいやすい! 腕っ節強い連中ばかりやしな!!!」
「うんうん、頼りにしてるよ! その分、私は回収した羽根をしっかり守るからね!」
 そろそろ用意しておこうとレーヴェンは鞄――大陸の方にいた頃から持ち歩いていた、色々な物が詰め込まれた鞄だ――から大きな布と、瓶に入った草を取り出す。後者は恐らく極彩鳥をおびき寄せるための苦々草だろう。正純の視線は前者へと向いた。
「レーヴェンさん、そちらの布は?」
「回収した羽根を包むのさ。かの羽根は小さな衝撃で折れてしまうそうだから」
 集めきった羽根は布で包んで、糸を紡いでくれる店まで細心の注意を払って運ぶのだという。繊細な品物と同じだ。星の社をツテに聞いた話でも、極彩鳥の羽根は子供が簡単に折れるくらいに華奢だと言っていた。
「さて、話に聞いたところによればこの辺りですね」
「焚き火の準備をしましょうか」
 朝顔やエーレンたちは燃えやすそうなものを集め、火をつける。空へ苦々草の臭いを充満させるのならば暫く火を絶やすわけにはいかないだろう。簡単に消えないよう少しずつ太い枝などを足し、風よけも簡易的に作る。
「……あ。あれ、極彩鳥かな――鹿ノ子?」
「え? あ、そ、そうッスね。そろそろ苦々草を燃やしましょう!」
 視線を巡らせたシャルルが声をかけると『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)がはっと焦点を合わせ、それから空に見えた影を見て頷く。
 聞こえない。何も、何も。だってオルゴールなんて持ってきていない。だから音色なんて聞こえない。そうでしょう?
 鹿ノ子の言葉にレーヴェンが瓶から苦々草を取り出し、正純へ渡した。その匂いは名に似合わぬ清涼感で、話に聞いていたのと違うぞとイレギュラーズたちは揃って首を傾げる。
 が、その臭いが変化したのは焚き火へ放り込んですぐの事だった。シャルルとエーレン、清舟は露骨に顔を顰める。
「くっっさ!!」
「……本当に臭いがすごいなこれ」
「なんというか、災難だよね……」
 鼻の曲がりそうな臭いにイレギュラーズたちはそっと焚き火から離れる。煙と共に臭いは上空へ向かっているようだし、離れていればそこまで辛くない。はずだ。
(あ、あの影降りてきた。そりゃ鳥も降りてくるわな……)
 シャルルの見つけた影が近づいてくるのを見て清舟は同情の眼差しを向ける。地上の方が呼吸が楽なのは道理。影が段々近づいてくる。近づいて、近づいて――。
「――でっか!! でかくない!?」
 ぎょっと清舟は目を剥いた。もう自分より影はでかい。猛禽類越えて、妖異の一種と言って差し支えないのではなかろうか。間違って子供なんか丸呑みにされそうである。
(えっ皆平気そうな顔しちょるのなんで!? 儂が変なの!?)
 流石は歴戦の猛者たちというべきか――その真実は定かでないが、少なくとも清舟から見た仲間たちは少しも動じていない様であった。この中で清舟だけがビビり散らしているなんて、まかり間違っても悟らせたくないと冷や汗が背を伝う。
「それじゃあ始めようか」
 『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)が短弓に矢を番え、放つ。遠い地でも幻想種たる彼女へ加護をもたらすファルカウの弓は、矢を力強く極彩鳥たちの元へと届けた。矢から撒かれる甘美なる毒から極彩鳥たちは翼で逃れんとするが、既に吸い込んでしまったものはどうしようもない。
「苛めてごめんねー、ちょっと羽を分けてね、極彩鳥ちゃん!」
 次の矢を番えるクルル。エーレンは更に降下してきた極彩鳥たちへと肉薄し、その刀を抜いて攻勢の構えを取る。
「不快な思いをさせて申し訳ない。少し羽根を分けておくれ」
「とびっきりに綺麗な忘れ物、鳥さんたちにはしてもわらなくてはね」
 乱撃を繰り返すエーレンに続くヴィリス。アン・ドゥ・トロワとステップを踏んで、そのたびに神聖なる光が瞬いていく。彼女の通ったあとへ斬撃が飛んだ。
「殺しませんが、その羽根貰います!」
 茨の棘がちくりと朝顔を刺す。それは死んでしまう呪いを書き換えるように、痛みを与えても束の間の眠りを与えるだけ。極彩鳥たちであればその前に自由な空へと逃げていくだろう。
(今回は『殺しちゃいけない』じゃなくて『倒しちゃいけない』んですよね……)
 そう、彼らは逃げなければならないのだ。逃げる時自然に落ちるたった1枚が、上質な糸になる条件を満たしている。
 彼女らの攻撃を追いかけるように『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)もまた刀を抜く。想像と違って随分大きな図体は斬り甲斐があるというもの。しかしうっかり殺しては繊細な羽根が駄目になってしまうときた。気を付けて刀を振るわねばなるまい。
「よっしゃあ、羽根おいてけー!!」
 彼の放つ乱撃が、まだ攻撃を受けていなかった極彩鳥たちへ向けて放たれる。間にいる仲間は正確に避け、極めて鋭利な斬撃に極彩鳥たちは鳴き声を上げた。
 嫌な臭いに降下して見れば突然痛めつけられ、彼らが怒らぬわけもない。嘴で突き爪で引っ掻き、翼で打つと大暴れな彼らに追い回されつつも清舟は鹿ノ子をテスタメントで強化する。
「ありがとうッス!」
 1人離れた箇所にいた鹿ノ子はエネミースキャンで極彩鳥たちの強さを測り始める。ここから弱体化した相手が分かれば御の字だ。群れで降りてきた極彩鳥たちは入り乱れ、ダメージ調整も難しいものになる。正純は彼らの様子を伺い見ながら、まだ元気そうな鳥へ神光閃光を放った。
「空へなんぞ逃がさんからな! 儂の日銭の為、1羽残らず羽根落としてってくれや!」
 清舟が懐から取り出したマジカルゲレーテYが煙を上げる。鳥達から逃げつつの前傾姿勢は撃つに不利だが、それをものともしない曲芸射撃は真っすぐ上空の極彩鳥を捕らえた。……が。
「あ、いたい! いたい! 爪食い込んでる!!」
 仲間を傷付けられより荒ぶる鳥が清舟を鷲掴みにかかる。あわやのところでシャルルの攻撃が放たれ、危機を察した極彩鳥は彼から離れる事で回避した。
「だいぶ気が立ってるね」
「しかし――もう少しだろうよ」
 タン、と軽く地を蹴りシャルルの横を通り過ぎるエーレンが呟く。動きそのものが鋭い刃を纏い、極楽鳥たちを攻め立てる。袋叩きにあいそうな彼へ、朝顔の福音が齎された。まだひとつ目の群れだ。誰1人として倒れさせないと、攻撃手が十分にいる事を確認して回復に回る。
「あそこの極楽鳥、まだ元気そうッス!」
「あら。仲良く皆で落としてもらわないとね?」
 鹿ノ子の指摘にヴィリスが舞った。瞬く激しい光に極彩鳥が空中で態勢を崩す。そこへ跳躍した獅門が思いきり鳥の身体を空へ蹴とばした。
「――羽根です!」
 ひらり、と。正純は視線に入ったそれを見るなり叫ぶ。
 1羽が羽根を落としながら上空へ逃げると、先導されるように1羽、もう1羽と大きく羽ばたいた。鹿ノ子はそれらが落とした羽根をそっと持ち上げる。
「これが……」
「極彩鳥の羽根ですね」
「思っていたより大きいわ……羽根飾りにはできないかしら」
 しみじみと眺める鹿ノ子に朝顔。ヴィリスはその大きさに小首を傾げる。自分用に1枚くらい……と思っていたが、これでは加工も一苦労だろう。糸を紡ぐのも大変そうである。
「皆、まずはお疲れ様! 次の群れが来ないうちにここへ重ねていってね」
 レーヴェンが離れた場所からかけて来て、大きな布を地面へ広げる。エーレンと清舟はそこへそっと集めた羽根を下ろした。
「預かっといてな、嬢ちゃん」
「うん! それにしても……これだけでもいい色合いだなあ、十分価値が付くと思うんだよね」
 清舟の言葉に頷いたレーヴェンはにんまりと嬉しそうな表情を浮かべる。彼女のお眼鏡にかかる多色の羽根だ。
「きらきらで綺麗な色なのに、糸にすると白くなっちゃうんだね?」
「不思議だよね! でもこの素晴らしい羽根に負けないくらい鮮やかな色がつくっていうんだからすごいと思う!」
 目を輝かせて語るレーヴェンにクルルはうんうんと頷いて、重ねられた羽根を見下ろした。これだけでも十分綺麗だけれど、糸や布も見たい。
(ふふふ。私、頑張っちゃおうかなっ)
 別に規定量以上を集めたって文句は言われないのだ。多めにあれば、その分イレギュラーズやレーヴェンに恩恵があるかもしれない。
「どっさりッスよ、レーヴェンさん!」
「わぁ、すごいね!」
 極彩鳥たちを観察していた鹿ノ子は、他の仲間たちが回収しそびれていた羽根をしっかり回収してきたようだ。それも大きな布の上へと乗せられる。
(まるで花火みたいッスね……でも花火と違って一瞬で燃え尽きることもなくて……)

 ――きっと、誰かの目にずっと焼き付いていられるのだろう。

 鹿ノ子は小さく首を振る。余計な考えは依頼に支障をきたす。目の前の事に集中しなければ。
「これで全部かしらね。それじゃあレーヴェンはまた下がっていて。羽根をよろしくね」
「うんっ、折れないように気を付けるよ!」
 ヴィリスの言葉にレーヴェンが羽根を布で包む。それを慎重に持って行くレーヴェンを見送って、イレギュラーズは群れの再来に備えた。



「ああああ痛い! 痛い!! 今のうちに攻撃して! あいたァ!!」
「助かる……けど、無理しないで」
 清舟を追い掛け回す極彩鳥へシャルルが攻撃を仕掛ける。鳥が離れていくも束の間、唐突に落ちた影をはっと見上げたシャルルは、極彩鳥が射抜かれる姿を見て反射的に後ろへ飛び退った。
「油断はあかんよ」
「……肝に銘じとく」
 肩を竦めるシャルル。2人は背中合わせになりつつ、互いに、時には他の味方への援護射撃を行う。不意に空を無数の矢が『空中で』跳弾した。
「ごめんね、もう少しだけ羽根ちょうだい!」
 クルルは更に矢を番え、もう一矢。予期せぬ軌道を描いたそれはピンピンしていた極彩鳥を死角から射抜く。
「数が多いですね……!」
「加勢するッス!」
 正純の神気閃光が瞬き、その合間に肉薄した鹿ノ子が軽やかに舞う。白の刀身が陽光を浴びてきらりと輝いた。
「できる事ならこの群れで終わりにしておきたいところだが……ッ」
 獅門は極彩鳥たちの攻撃をいなしつつ、素早い斬り上げと斬り下ろしの連撃技を繰り出していく。獅子が噛みつくような様とは対照的に合わせて動くヴィリスはどこまでも華麗だ。彼らの攻撃範囲と被らぬよう、朝顔もまた連携して茨の祝福を与えていく。
 空から鮮やかなそれが1枚降り注いだならば、それは彼らの撤退の合図。しかしエーレンはこのまま逃がさないと力強く土を蹴る。
「すまないが、最後に1枚落としていってくれ」
 彼の纏う刃が一押しとなり、大きく跳躍したエーレンを蹴り落とした極彩鳥は彼の望むまま、その羽根を落としたのだった。

「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
 着地した――というよりは落ちてきたエーレンに朝顔が駆け寄る。足蹴にされた部分を押さえてはいたが、身のこなしが軽いため受け身が取れたようだった。
「さあ、回収しましょう」
「多ければ多いほど懐もあったかくなるってもんよ」
 ヴィリスの言葉に頷いた清舟がウキウキと羽根を拾う。ぼちぼち集まっただろう。もう一戦は大分キツいが、これで終われば酒や飯も食えるし賭場にだって足を伸ばせるというもの。つまりは浮足立っているのである。
「どんな布が織られるか楽しみだな!」
「うん! 私も見てみたいなー」
 獅門とクルルは集めた羽根をレーヴェンの元へ。傍でシャルルが一緒に枚数を数えているようだ。朝顔がどうですか、と聞けばレーヴェンはにっこり笑った。
「依頼達成! 目標枚数集まったよ。少し余るくらいで――」
「――レーヴェンさん、折り入ってご相談なのですが」
 その言葉を聞いた正純、半ば言葉を遮るように口を開く。失礼、と謝罪をした正純は余った分の羽根で作られる布をわずかばかり欲しいのだと告げた。
「ちょっと縫いたいものがありまして。ほんの少しだけ。もらえたりしませんかね?」
「あはは、大丈夫だよ! 皆が取ってくれた羽根だもの、布にする手間賃くらいはかかってしまうと思うけれど、余った分も布にしてくださいって頼みに行こう!」
 レーヴェンはからりと笑う。何にせよ、まずはこれから糸を紡いでもらわなければ。
 繊細な羽根をしっかり布で包んだ一行は、周囲に危険なものがないか気を付けながらその場を後にしたのだった。

成否

成功

MVP

ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 沢山の羽根が集まりました。これからが楽しみですね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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