PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔女と人形

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・魔女は願う

 まだあの人と、あの子と生きていたかったのだ。
 魔女はただその一心で、ある魔術を使った。


 それは、人の魂を人形に閉じ込める魔術。空っぽの人形の中に、誰かの魂を埋め込むもの。命を与えられたそれは、生きた人間と同じように言葉を話し、軽やかに歩き、当たり前のように生活ができるという。

 この世界における魔女は、永い永い生を過ごす。彼女らが生まれて、少女の時代を過ごす間に、普通の人間はその一生を終えるのだ。だから、例え誰かと出会ったとしも、同じように歳を重ねるどころか、共に歩んでいくこともできない。

 この魔女にとって、その事実は耐え難いものであった。愛した人たちを死なせたくなかったし、まだ一緒に生きていたかった。
 心を許し愛しんだ人を失い、それでもなお永久を生きるなど、どうしてできよう。そんなの、耐えられるはずがない。寂しくて、つらい時間が待っているはずだ。

 独りになりたくない。死なせたくない。共に時を過ごしたい。その想いに縋り、魔女は一つの魔術を見つけた。
 それが、誰かの魂を人形に入れこむものだった。

 そうして魔女は大切な人たちと時を過ごした。優しく、温かい日々を。しかしその魔女の命は、存外あっけなく砕け散った。
 後に残されたのは、ひとりでに動く人形たち。彼らにはもう、この世界に留まる理由はない。愛してくれた人は、いなくなってしまったのだから。

「ねえ、お願いだ。ぼくたちを解放してくれないかい」
「わたし、お母様のところに行かなくちゃ」
「あの子はきっと、寂しがるだろうから」
「でも、私たちではどうすることはできないの」

 助けてくれないかい。薄暗くなった部屋に、静かな言葉たちが落ちていく。
 魔女と彼らがもう一度出会えるように。彼女らの魂が、あるべき場所に戻るように。救いの手を差し伸べてはくれないだろうか。


・再び巡り合うために

「人形の魂を、解き放ってほしいんだ」

 境界案内人カストルは、本の表紙を撫で、それからゆっくりと顔をあげた。
 魔女によって人形に閉じ込められた魂たち。魔女と共に生きることを望んだからこその姿なのに、その魔女はいなくなってしまった。

「彼らは、自分たちでは元の姿に戻ることも、魂だけになることもできない」

 だから誰かが解き放ってあげる必要があるのだ、とカストルは告げる。
 そのための儀式は、決して難しいものではない。ただ人形の体に触れて、念じるだけでいい。後は彼らの意思で、外に出ることができる。

「魔女と彼らを再び会わせるために、協力してくれないかな」

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 人形が出てくる話です。

世界観:
 魔女がいる世界です。魔女は非常に長い時を生きますが、決して不死ではなく、病気や外傷で死に至ることもあります。
 様々な魔術がありますが、人形に魂を入れこむようなものもあります。
 私の一本目のライブノベル「少女たちの目覚め」と世界観は同じです。別の場所の別の場面を切り取ったものになります。「少女たちの目覚め」を読んでいなくても問題ないです。

目的:
 人形に入れ込まれた魂を解放することです。
 彼らは魔女に対する愛情、憐憫、もしくは何か別の感情により、人形になることを選びました。しかし、魔女が息を引き取った後も、人形の姿から元に戻ることはありませんでした。
 今回皆様には、彼らを人形から解き放ち、ただの魂に戻してもらえたらと思います。一人につき一人ずつ、この儀式を行っていただきたいです。

特殊ルール:
 人形の魂を解放する際には、必ず人形に触れてください。人形の魂が外に出る際に、皆さまの体を経由することがあります。その時のために、人形の体のどこかに触れてから念じてください。

できること:
・儀式を行う人形を選ぶ
・人形と対話をする
・儀式を行う


サンプルプレイング:

 あなたはどうして、お人形になることを選んだのかしら。永い時を生きるのは苦しいって聞いたことがあるわ。あなたまで、そんな苦しみを味わうこともなかったでしょうに。
 そんなに魔女が大切だったのね。……愛していたの?
 愛していたのなら、彼女の元に行かなくちゃね。ええ、わたし、力になるわ。


 人形の特徴(性格や魔女との関係性)についてご希望がありましたら、プレイングに記載していただけたらと思います。記載がなければこちらで人形を用意いたします。

  • 魔女と人形完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年11月14日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
雨紅(p3p008287)
愛星
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
温もりと約束
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

・この瞬間、この一時

 まいったね。なんでこんな後始末をしなければいけないんだか。
 わずかに顔をしかめながら、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は溜息をついた。

 寿命のある体を捨てて、永遠に残る体を手に入れた。そして、魔女と楽しい楽しい時間を過ごした。これが彼女らの望んだ結末ではなかったのか。状況が変わればそんな体は要らないなんて、贅沢にも程がある。せめてこの後を楽しむ方法を見つければよかっただろうに。

 瞼の裏に浮かぶのは、ここにいないはずの人形。彼女はあの後、楽しみを見つけて、少しずつ自分の力で生きていけるようになって――。なのにここにいる人形たちは、それを捨ててしまうという。なんて皮肉だろう。

 魔女が死別を恐れて、周りを人形に変えた結末がこれとは。後々のことを一度でも考えておけばよかっただろうに。今更何を言っても詮無きことだが。
 小言など、いくらでも湧いてくる。だけど仕事は仕事。さっさと終えてしまおう。

 溜息を一つ。もう一つ零れそうになるそれを抑えて、目の前の人形に目を向けた。
 ずらりと並べられたそれが、一様にこちらを見上げてくる。不安そうな色、期待を寄せる色、縋るような色がそれぞれの瞳に浮かんでいる。世界はそれを見て、一瞬だけ下を向いた。見ていられなかった。

 人形は、誰でも良い。この世から去るだけの魂に、何を語ったところで無駄でしかないのだ。だからさっさと触れて儀式をするつもりだし、会話をする気もなかった。
 目があった人形の、小さな手を握る。

 ああ、あの人形を思い出す。

「あなたは、一体」
「俺のことは気にするな」

 会話をする暇があるのなら、その時間を使って、一秒でも早く魔女に会いにいけばいい。それが人形たちの望みだろうし、彼女もその方が喜ぶに違いない。
 そう思ったときだった。人形の体からかくりと力が抜け、世界の元に倒れこんできた。なるほど、魂はこの身体から抜けたらしい。
 こうして、魔女と彼女の大切な人たちは、再び魂として永い時を一緒に過ごすのでした。めでたしめでたし。……こんなところだろうか。

 人形を正しく座らせながら、世界は呟く。今回は柄にもなく気を荒立ててしまったな、と。
 まあ、魂だけの状況を苦に感じ、身体を欲した魂を知っているのだから、特段不思議ではない、か。

 久しぶりにアイツの所にでも顔を出すか。世界は、ある者の顔を思い浮かべた。


・もう、寂しくないように

 同じ、世界のはずなのだ。かつて人形に魂を与えたはずのこの場所で、今回は逆のことをしようとしている。
 どうしてだろう、少し躊躇う気持ちがある。そう『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)は胸をおさえた。

 本人たちは望んでいる。その理由も理屈も分かっているはずなのに。断る理由はないはずなのに。どうして、人形に手を伸ばせないのだろう。少し話をして納得したいのに、誰かに声をかけることもできないのだろう。

 ゆっくり、周囲の人形を見回す。期待の眼差しを向けられながら、雨紅は誰かが近寄ってくれることを願った。誰の魂を解き放てばいいのか、分からなかったのだ。どんな人がいるのかも、どんな人がそんな選択をするのかも、分からなかった。

 人形が、こちらの戸惑いを悟ってしまったのか。ついと服を引っ張る手があった。この子にしようと思った。

「あなた様は、何故、人形になったのでしょう」

 きっかけがどうであれ、お互いに愛情があって、寂しい気持ちにさせたくない思いがあったのでしょうか。そう問えば、人形はふわりと微笑んだ。

「愛していたのよ。私の魔女を」

 友愛のようなものだと彼女は言う。でも離れがたいのだと。共に在れないのは寂しくて、暗い場所に溶けてしまいそうになるのだと。

 繋いだ手の温もりがなくなったとは、それを知る前よりもきっと、ずっと冷たくて、寂しいのだろう。それこそ、暗闇の中にいるように思えるのだろう。
 限りある命ならば、その解放にもっと戸惑っていただろう。それは命を奪うことに他ならないから。だけど、今回は、違う。
 永遠と等しいその身に、冷たさ、寒さ、寂しさに耐え続けろと言うのは、あまりにも酷だ。

「あなた様を解放してさしあげます」

 人形の片方の手をとり、自分の額に当てる。祈るような恰好に、人形はふと表情を緩めた。

「ありがとう」

 あなた様と魔女様の魂の行く末が、良きものであるように。同じ所へ行きつくように。
 そう思ったとき、身体の中を何かが通り抜けていく感覚があった。力を失った人形を抱きしめながら、雨紅は唇を噛み締めた。

 魂や黄泉路、あの世と言ったものが存在するのかどうかも分からない。だけど、あってほしいと、彼女らを温かく迎え入れる場所であってほしいと、願わずにはいられなかった。


・孤独には

 物には魂が宿る。それはどこでも言われているけれど、頼まれたのは解放だ。誰にするかを選ぶのは、どうやら自分であるようだ。
 人形たちから向けられる目線が、気になる。そう『粛々たる狙撃』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は口の中で呟いた。

 避けられるより、まだ見つめられる方がまだ良いのかもしれない。だけど、一人ひとりの期待や不安が胸に刺さるから、少し困る。

 どこか視線を避ける様に部屋を見回すと、こちらを見つめもしない誰かに気が付いた。その人形は部屋の隅でうずくまっている。
 思わず、足を向けてしまう。

「ねえ、そこの貴方」

 その人形が、ゆっくりと顔を上げる。
 長い前髪が特徴的な少女だった。瞳を覆うほどのそれがふさぎ込んだ様子を表しているように思えて、ジョシュアは胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになった。

「差し支えなれば、少し貴方のことを聞いても?」

 少女は驚いたように息を吐く。戸惑うように震えた唇は、やがて決心したように言葉を紡ぎ始めた。

 彼女は、魔女に拾われたという。愛娘のように接してもらい、日々を愛しむことも、誰かを想うことも、全て教えてもらったという。

「家族のようなもの、でしょうか」
「そうよ、ええ、お母様よ」

 彼女は独りではなくなったはずなのに、また、置いていかれてしまった。
 自分の力では追うこともできないのなら、その苦しみも寂しさも、きっと深いものなのだろう。だから、会いたいという気持ちに縋るしかなかったのだろう。

「もう一度お母様に会いたいの。いけない、ことかしら」
「いいえ。そんなことはありませんよ」

 自分はまださほど生きていないし、言葉も持ち合わせてもいない。それでも、ただ孤独に過ごす時間は長く感じるということは分かる。
 これ以上の孤独は必要ない。だから、彼女を解き放ちたいと思う。

 こちらの身体に触れても、毒にかかることはない。だけど彼女は華奢で繊細だから、儀式を行うとなると少し心配になる。情が湧いたからといって、考えすぎか。

 彼女の前髪をかき分けると、宝石のような瞳がこちらを捉えた。そこに映る自分は少し寂し気で、思わず目を伏せる。これを見るのは、最初で最後なのに。

 温かな魔女の元に行けるようにと願いを込めて、その額に触れる。すると、彼女の身体から何かが抜けていくのを感じた。光を失った瞳にはもう何も映っていなくて、思わず小さく息をついた。


・**に捧げる鎮魂歌

「初めましてなのだ! ヘルちゃんが君の事を救いに来たのだ!」

 薄暗い部屋に、明るい声が澄み渡る。すると、恐らく魔女のことを考えていたであろう人形たちがぱっとこちらを向いた。

「ふふーん! ヘルちゃんはこう見えても巫女なので、成仏させるエキスパートなのだ!」

 目のあった人形を抱きしめ、ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)はにっと歯を見せて笑う。

「という訳で、君のことを教えて欲しいのだ♪」

 人形がなぜと言葉を紡ぐ。
 理由は単純だ。知りたいからだ。

 大切な誰かと一緒にいたい。その気持ちは理解できる。しかし、永遠などないのが世の常。物体であろうと魂であろうと、想いであろうと例外はない。そういうものだ。だから、それから外れてはいけないものなのだ。

「僕は、彼女のことが好きだった。間違っていることだとしても、それだけは永遠に」

 異端だとは思う。「死出の番人(ニヴルヘイム)の巫女」としては、許せるものではない。人形に魂を移しこんだ魔女のことも、勿論。合意があったから良いというものではない。しかし、この切なさで彩られた瞳を見ていると、また違う感情がこみ上げてくる。巫女としての考えをとりはらった、ヘルミーネとしての感情が。

「愛、か」

 人形の手をとり、自分の掌で包み込む。きっとこの手は、愛する人に握られていたのだろう。そうして、永久を生きることの意味を分かち合ったのではないだろうか。

 羨ましい。長い年月を想い合っている彼らが、心底羨ましい。
 大切な人とは、ずっと一緒にいたいのだ。独りぼっちは、寂しいから。
 そう思うと、苦いものがすっと胸の中から消えていくように思えた。後に残るのは、どこか晴々とした決意だ。

「ヘルちゃん――ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイムの名の元に、君の魂を解放しよう。そして流転の末に、また愛しき者と巡り合える事を祈ろう」

 この鎮魂歌を手向けにして。どうか君と魔女の魂の行く末に、幸あれ。

 ギフト。ヘルミーネの優しさをのせた鎮魂歌。それが、小さな人形を包み込んでいく。

「僕を彼女の元に送ってくれて、ありがとう」

 人形が最後に見せたのは、淡い笑みだった。それが不思議と儚く見えて、思わず息を吐いた。
 力を失った人形の身体を横たえ、目を閉じる。

 一仕事終えたし、一杯洒落こむとしようか。そうヴォードリエ・ワインを一気飲みする。こうして他のことを考えていないと、寂しさで心を埋め尽くされてしまいそうだった。

「あー! うまいのだ! やっぱり酒は最高なのだ!」

成否

成功

状態異常

なし

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