シナリオ詳細
機械回路のゴーレム。或いは、オアシス直下の金属遺跡…。
オープニング
●ある魔術師の供述
オアシスへ、火炎を投げ込み干上がらせた阿呆がいた。
彼女は若き魔法使いだ。
「自身の魔法とオアシスの水、どちらが勝るか比べたかった」と、彼女は後にそう語る。
すっかり乾いたオアシスの底に、金属製の扉を発見したのはきっと偶然だった。
扉を開ければ、地下へと続くなだらかな階段。
ラサの遺跡では珍しく、階段や壁は金属の素材でできていた。
好奇心に突き動かされ、魔女は階段を降りていく。
途中、何かの仕掛けを踏んだのだろう。
ごうん、と重たい音を鳴らして行く手を阻むゴーレムが姿を現した。
「随分と賢いゴーレムだったわ。そして、いざ戦闘か! という段階になって、私は覚悟を決めたのです。けれど、ゴーレムが襲いかかって来ることはなく、どういうわけか私に従う素振りを見せましたの」
はじめは魔女も驚いた。
見知らぬゴーレムが、他人の支配下に入るなど、異常事態であったからだ。
しかし、ゴーレムが従順であると知った魔女は、すぐに考えを改める。
良い物を得た、と。
魔女はゴーレムを連れて、地上に戻ったのである。
ちなみに、遺跡の奥に何があるかを彼女は確認していない。
遺跡の奥へ進むことは、ゴーレムが許可しなかったからだ。
また、長く遺跡に留まっていると、湧いたオアシスの水に飲まれるリスクもあった。
業火の魔法を得意とする彼女は、水に滅法弱いのだ。
有り体に言ってしまえば、泳げないのである。
そうして、彼女はゴーレムを使役し、強盗を働いた結果、捕縛されて今に至る。
強力なゴーレムを手駒としたことで、調子にのった哀れな女の末路がそれだ。
さて、ここまでならば力と欲に溺れた女の愚かな行動の顛末に過ぎない。
しかし、問題はここからだ。
魔女の捕縛に辺り、ゴーレムは破壊された。
その残骸を調査する中で、ある異常が確認されたのである。
その異常とは、ゴーレムの頭部に埋め込まれていた1つの機械部品の存在だ。
調査の結果、その部品は練達の技術を応用して作製されたものであり、ゴーレムの頭脳としての機能を備えていたということだった。
●オアシスの下の遺跡
「3日間、徹夜に徹夜を重ねた結果がこれなのよ」
朝日が黄色く見えるわね。
そんな風に愚痴を零した『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、手にした書類をテーブルにたたきつけるのだった。
書類の枚数は都合3枚。
たったそれだけの情報を集めるために、彼女が忙しく駆け回っていたのである。
「破壊されたゴーレムの頭部に機械の部品ね。調査によると、それは練達の技術で造られた学習装置……ゴーレムの頭脳に当たる部品だったみたい」
生憎と、回収した時点で機械は破損していたようで、それ以上詳しい情報は得られなかった。
製造者も不明ではあるが、今よりも十年以上は昔の技術や理論によって構築されたものであることは間違いない。
つまり、今よりも昔に、誰かが練達の技術をラサへ持ち込み、ゴーレムと組み合わせたということだ。
「なぜそんなことをしたのかは分からないけれど……自らの意思で外の世界へ出かけるようなゴーレムの行動が気がかりよ」
幸い、遺跡の場所は判明している。
内部構造こそ不明ではあるが、十分な準備をしていけば、調査も不可能では無いだろう。
「ゴーレムの攻撃には【必殺】【ブレイク】【呪縛】が付与されていること。そして、非常に頑丈で状態異常に耐性を持つことが確認されているわね」
遺跡の範囲は、直径50メートルほどのオアシスの真下。
魔女の話では、地下3階ほどまではあるだろう、とのことである。
「遺跡内部には他のゴーレムがいるかもしれないわ。でも、通路のサイズから考えるに3メートルを超えるゴーレムはいないはず」
情報を持ち帰ること。
それが今回の任務であると、プルーは告げた。
未知なる遺跡の最下層まで到達し、何かしらの成果を得て、それを回収して帰れば、然るべき対策も練ることができるだろう。
「ゴーレムを破壊するのは問題ないわ。でも、あくまで最優先は情報を持ち帰ること」
それを忘れないでちょうだい。
そう言ってプルーは、仲間たちを送り出す。
- 機械回路のゴーレム。或いは、オアシス直下の金属遺跡…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月15日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●オアシス直下
暗く、冷たい場所だった。
水の抜けたオアシスの底。金属の扉を開けて降りた先にあった空間は遺跡だろうか。
金属の壁と床。
冷えた空気が充満しており、遺跡にありがちな埃やカビの臭いはしない。
「練達の技術をこんなところに持ち込んだ挙句、其れを放置するとはなんとも傍迷惑な……」
「砂ではなく、金属の匂いが満ちています。水の底に作ったのは、この場所を秘匿するためでしょうか」
『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)と『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)は遺跡の壁にそっと手を触れそう言った。
金属壁の遺跡はなだらかな傾斜となっており、通路は下方へ延びている。
コォン、と響く硬質な音は『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の剣踵が金属の床を叩いたことによるものだ。
「私って調査とかニガテなのよね」
足元が金属となれば、鋼の義足では音を立てずに歩くことも難しい。
「金属製の遺跡に練達の技術か……今のところ、付近にゴーレムらしい存在は確認できないけど。色々と調べる必要がありそうだな」
ヴィリスの鳴らした音の反響に耳を澄ませる『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、油断なく腰に下げた剣の柄へと手をかける。
オアシス直下で見つかった遺跡について、判明している幾つかの事項はどれも特異なものばかり。遺跡の調査に出向いたことも初めてではないが、それにしたって決して油断できるものではないのである。
錬達の技術を応用して造られた金属の遺跡。
岩のゴーレムに埋め込まれた機械部品。
件のゴーレムに至っては、創造主を他者に乗り換えるような挙動を見せたと聞いている。
「自分の意思で外へ出たがるゴーレム、ね。面白そうじゃないの、こういう依頼は好きよ私」「えぇ、発見に至る過程が少々あれですが、遺跡とやらの探索は楽しみですね」
燃えるような紅い瞳と髪を備えた魔女・『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)はどこか愉し気な様子。
それに同意を示す『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)は背後を見やり、入り口から現在地までの距離を試算する。
遺跡の通路はまっすぐだ。しかし、緩やかに湾曲しているのか現在地から入り口の様子は見えない。
「……話には聞いていたが、本当に練達の技術が使われているのだな。何かやらかしてラサに逃げてきた奴の研究施設か何かだろうか? それとも、耐久力を上げるためか?」
「どちらにせよ、ラサにとって貴重なオアシスになんて事をしてくれたのかしらっ。全く……魔女さんはちゃーんと賛成してもらわなきゃ、ねっ」
「……私の予想が正しければ、今頃は檻の中だろうな。エルスは恨まれているかもしれない」
足を止めた『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、後続の仲間たちに制止をかけつつ『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)と言葉を交わす。
ゆっくりとその場にしゃがんでみれば、床板の一部がスイッチとなっていることが分かる。
事前に得た情報によれば、スイッチを作動させるとゴーレムが現れるらしい。
今回の目的はゴーレムの討伐ではなく遺跡の調査だ。不必要な会敵を避けるべく、ラダはスイッチの周辺に印を刻む。
スイッチを避け、一行はさらに奥へ進んだ。
●2階層
1階に仕掛けられたスイッチの数は少なかった。
ラダを先頭に一行は2階へと移動。造り自体は1階と同じだが、仕掛けられたスイッチの数は多い。
得てして遺跡やダンジョンとは、深度が進めばその分難易度もあがるように出来て居る。
それは、最奥部に秘匿しておきたい何かがあるからだ。
その例に則るのであれば、この金属遺跡もおそらく……。
「駄目だな。対処しきれない……どうしても幾つかは踏み抜くことになる」
ラダは愛用のライフルへ手を伸ばし、そんなことを言う。
「魔女の話もある、ゴーレムは手出しされるまでは様子を見たい」
武器を構えはしたものの、いきなり交戦となるわけではない。遺跡の発見者である魔女は、戦闘を行わずにゴーレムを従えたということだ。
「幾つか作動させてみましょう。遭遇と戦闘を繰り返して観察を重ねていきます」
どちらにせよ、遺跡の調査というのならいつまでもゴーレムを避けて通るわけにはいかない。アッシュは数歩、前に出るとスイッチの1つを踏み抜いた。
ガコン、と足の裏に伝わる小さな振動。
「っと、来たみたいだ」
通路の先を見つめていたイズマが告げる。
暗がりの中から現れたのは、2体のゴーレムだ。腰の剣を抜き、イズマは臨戦態勢を整えた。
まずは様子見という算段とはいえ、万が一に備えて警戒は必要だろう。
「ゴーレムというのは大概、術者の指示で動くか、予め決められた動作を繰り返すか」
「様子見と従属が決められた動作と? ですが、いざとなれば火力重視で一気に畳みかけますので、皆さんは備えを」
ジュリエットは掲げた腕に炎のように揺らぐ魔力を集中させた。同じく、臨戦態勢を整えたアッシュの周囲には紫電が散っている。
2体のゴーレムは、イレギュラーズと一定の距離を保ったまま動きを止めた。
少なくとも見た目の上では、岩の体をした全長3メートルほどのごく一般的なゴーレムだ。
棒立ちにも見えるが、ゴーレムというものは得てしてそういうものである。そこに殺意や敵意など無いまま、命令に従い対象を襲う。人ではないのだ。戦闘を開始するに当たって、構えなどは必要としない。
数十秒。
距離を保ったまま、時間が流れる。
互いに様子見、といったところか。もっとも、ゴーレムに様子見という概念があるのか否かは不明であるが、少なくとも問答無用で攻撃を仕掛けて来るということも無いようだ。
「調査はあまり力になれなかったし戦闘は頑張るわ……って思ったけど」
「積極的に仕掛けてくる風でも無い以上は……奥に進むのを許可しないということは、進もうとすると敵対する可能性が高そうですね」
試しに、とエルスとヴィリスが前へ出た。
剣を構えた綾姫は、万が一に備え後方で様子を伺う。
2人の動きに反応して、ゴーレムは僅かに首を動かす。
1歩、2歩……距離を詰めてゴーレムの眼前へと至った。
瞬間、前に出ていたゴーレムが大きく拳を振り上げる。
「下がってください!」
アッシュの指示に従って、ヴィリスは後退。
一瞬、回避の遅れたエルスが腕を殴打され、金属の壁に身体を打ち付け床に倒れる。追撃するゴーレムだが、岩の体は鈍重だ。
2歩も進まないうちに、側頭部に弾丸を受け姿勢を崩した。
ラダの作った一瞬の隙を狙い、綾姫、アッシュ、ジュリエットがゴーレムの上半身を狙い一斉に攻撃を叩き込んだ。
火炎が吹き荒れ、紫電が奔る。
飛ぶ斬撃が片腕を落とし、ゴーレムは姿勢を大きく崩した。
前のめりに倒れるゴーレムへ、エルスは氷の鎌を一閃させる。
「っ……騒がしくしてしまってごめんなさいねっ」
半壊した頭部を落とされると、ゴーレムはその機能を止めた。
後に残るは、傷ついた岩の体だけだ。
2体目のゴーレムが前へ出る。
合わせて、駆け出したイズマは降り抜かれた拳へ向けて細剣による刺突を放った。
甲高い音が鳴り響き、力負けしたイズマが床に押し倒される。強打したのか、額が割れて血飛沫が散った。
身体が痺れて動けないが、最低限の役割は果たした後だ。
「今だ!」
「えぇ、戦闘となれば……ここはここは力押しでいくしかないわね!」
倒れたイズマを跳び越えて、ヴィリスはゴーレムの拳へ着地。剣踵を岩の体に突き刺しながら、まるで矢のようにゴーレムの頭部へと接近を果たす。
ひゅおん、と風を切る音がした。
速く、しなやかに繰り出された蹴刀がゴーレムの頭部……正確には首と胴とのつなぎ目付近を蹴り抜いた。
交戦の最中、スイッチを押してしまったらしい。
イレギュラーズの前に、新たに1体のゴーレムが姿を現した。
「これが続くと、キリが無いな」
そう呟いたラダは1発、通路の奥へ向けて銃弾を撃ち込んだ。
着弾と同時に、爆音と暴風が吹き荒れる。
衝撃で、新たに幾つかのスイッチが押されたらしく、さらに2体のゴーレムが現れた。まるで金属の壁から這い出るような出現の仕方だ。察するに、金属壁の向こうにはゴーレムたちの安置場でもあるのだろう。
「みんなこっちだ、走れ!」
同時に現れたゴーレムたちだが、狭い通路で押しあう形となった結果か動きが鈍い。
自慢の剛腕も、暫くは十全に振るえないだろうことを見て取り、ラダは仲間たちへと進行を告げた。
イズマとヴィリスは、相手取っていたゴーレムへトドメを刺して走り出す。
2人に先行する形で、サルヴェナーズは姿勢を低くし疾駆した。
どろり、と溢れた汚泥を引き連れての前進だ。汚泥より生まれた毒蛾や蠅が、ゴーレムたちへと襲い掛かる。
「単独で先行して、さらなる隠し罠がないかを検証しますね」
蛇のように体をくねらせ、ゴーレムの足元や、脇の間を潜り抜けた。サルヴェナーズを追うようにゴーレムたちは体を反転させるが、互いの身体が邪魔になっていて動きが鈍い。
通りを進んだ先にあるのは、幾らか開けた空間だった。
1階にあった、階段が設置されている小部屋だ。
「ごめんなさいっ! 頭部を回収し損ねたわ!」
血の滲む肩を抑えてエルスは告げる。
先の交戦で落としたゴーレムの頭部は、いつの間にか消えていたのだ。おそらく、他のゴーレムたちがそうであったように、壁か床に取り込まれる形で回収されたのだろう。
「十分に動けないと見るや撤退していったわよね? 埋め込まれた回路のお陰か、高度な自立性も得ているみたいだったわ」
「ちょーっと調べさせてもらう必要がありそうね」
ジュリエットの考察をメモしながら、エルスは眼前へと視線を向けた。
いつ、どのタイミングでスイッチを作動させたのかは不明だが、階段を塞ぐかのように新たに1体のゴーレムがそこに立っている。
階段付近に迫っていたラダとサルヴェナーズ、アッシュは既に射程圏内に入っている。咄嗟に下半身を馬へと変えてラダは後退。
だが、残る2人は逃げ遅れた。
仲間の盾となるべく、サルヴェナーズは顔に巻かれた布を引き上げ、瞳を晒す。魔眼に魔力が集約し、それと同時にアッシュは魔力を練り上げた。
しかし、2人が戦闘態勢を整えた段階になっても、ゴーレムに動きはない。
それどころか、2人に対し首を下げるかのような動きを見せるではないか。
「……神秘攻撃に反応しているのでしょうか?」
アッシュは呟く。
その仮説を裏付けるべく、綾姫は剣を構え魔力を練った。
攻撃態勢を整えてなお、ゴーレムに動きはない。
ならば、とイズマが剣を下げて前に出た。ゴーレムは反応を示すことなく、沈黙したままだ。
けれど、彼が階段へと向かおうとすれば、ゴーレムは腕を掲げて進路を阻む。
「やはり進もうとすると敵対することに変わりは無いようですね」
「……1度、壊してしまいましょう。終わったら私のギフトでゴーレムを再構築してみるから」
ジュリエットの提案に従い、綾姫は剣に纏わせていた魔力を開放。
ごう、と空気を押しのけて放たれた、魔力の砲がゴーレムを襲う。
ゴーレムの頭部を砕き、エルスは機械部品を取り出した。
一見しただけで、それがどのような意味を持つかは分からない。しかし、サルヴェナーズだけは自身のスキルにより、部品に刻まれていた古い文字を読み取れた。
「んん? 身体……21?」
機械部品に刻まれた文字はたったそれだけ。
ジュリエットが組みなおしたゴーレムを伴い、一行は地下3階へと向かう。
●地下3階
予想に反して、地下3階に仕掛けられていたスイッチの数は少なかった。
また、地下1階、地下2階と比べると遺跡自体の作りも些か異質に思える。
「最下層には何があるのかしら? やっぱりお宝? それともゴーレムの秘密?」
壁や床には、太いケーブルやダクトの類が縦横に張り巡らされている。歩きにくそうにそれらを回避しながら、ヴィリスは視線を左右へと巡らせた。
「さてな。最奥に何が待つかは分からないが、ついでにゴーレムを停止させる手段も知りたい所だよ」
「はてさて、何が出てくるやら……有意義な調査になるといいのですが」
先頭を進むラダとサルヴェナーズは、ふと足を止め言葉を交わした。
暗い遺跡の進行方向に、僅かな明かりが灯っているのが見えたのだ。一瞬、視線を交えると一つ頷き、2人は前へ。
汚泥の伴うサルヴェナーズを先頭に、ライフルを構えたラダが続く。
そうして2人は、通路を抜けて明かりの灯る場所へ……遺跡の最奥部へと辿り着いた。
果たして、そこには……。
「何よ……これ」
そう呟いたのはヴィリスであった。
視線の先には、何かしらの薬液に満たされたガラスの水槽。そして、水槽の中には無数のコードを繋がれた“脳”らしき器官が浮いている。
「練達の技術……に、違いないのでしょうが、これは」
「ゴーレムが守ろうとしていたのはこれか? ズカズカ上がって強引に進むようで悪いが、どうしてもここのことを知りたいんだ……って、会話はできるのか?」
敵意は無いと証明すべく、綾姫は剣を鞘へと戻した。
それから、代表してイズマが水槽に浮いた脳へと声をかけるのだが、当然のように返事はない。
「……こんな人目に付かない場所で何の研究してたのかしら」
背後に控えたゴーレムへ視線を向けて、ジュリエットはそう呟いた。
水槽に浮かんだ脳こそが、遺跡やゴーレムを造った者で間違いは無いだろう。
「幾らか生活の痕跡はありますが……古いですね。もう何年も、使われてはいなさそうです」
「……メモらしきものはあるけど。駄目ね、何を書いているのか読めないわっ」
水槽の周辺には作業机や幾らかの書籍が散らばっている。
けれど、どれも薄汚れており、文字も薄くなっていた。アッシュの見立てでは、それらは長年、この場に放置されていたものであるという。
また、作業机の上にあった紙片を1枚手に取ったエルスは、書かれている文字に視線を走らせ首を振った。
古いインクは変質し、すっかり薄れて何を書いているのかを読み取れる状態ではない。そうなってしまえば、サルヴェナーズにも解読は不可能だろう。
「こっちには灰が詰まってる」
「何か……研究の記録や資料でも焼いたみたいね」
散策していたイズマとヴィリスが発見したのは金属製の箱だった。一抱えほどもあるその箱の中には、何かを焼いた灰だけが残っている。
水槽に浮いた“脳”が誰のものであるかを確認することは出来なかった。
脳の正体に繋がる資料は、全て破棄されていたからだ。
しかし、調査の結果として分かったことも幾つかある。
1つ……ゴーレムの頭部に埋め込まれていた機械部品は、水槽に浮いた“脳”とリンクしていること。
1つ……水槽に浮いた“脳”は、外の世界へ出かけるための身体として、ゴーレムを用意していたこと。
1つ……何らかの理由で“脳”は機能の大半を喪失している状態にあること。
その結果として、ゴーレムたちは「強い魔力を持ち」、「攻撃の意思を持たない」「女性」を主と誤認して従っていたのだろう。
「あまり考えたくはありませんが……まさかこんな遺跡が他にもあるのでしょうか」
「何はともあれ、これで任務は達成です。水を戻して、遺跡へ入れないようにしてしまいましょう」
アッシュと綾姫の表情は優れない。
依頼は達成されたとはいえ、謎のままとなった部分は多いからだ。
一瞬、水槽の破壊も視野に入れたが「任務外の行動である」とアッシュは判断し、それを止めた。水槽の破壊に踏み切った結果、ゴーレムたちが暴走を開始しないとも限らない。
「オアシスの遺跡は二箇所目だけれど……やっぱり遺跡は面白いわね。他の様々な遺跡をもっともっと見てみたいわっ!」
調査結果を書面に纏め、エルスはそんなことを言う。
ともすると、アッシュやエルスの言う通り……練達よりラサへ移住した何者かが、各地にここと似たような、研究施設を残していないとも限らないのだ。
「練達の科学と、ラサの魔術の融合ね。まったく……石の身体なんて手に入れて」
どうするつもりだったのかしら。
ジュリエットの零したその一言は、誰の耳にも届かない。
水の底に再び沈み行く遺跡を、彼女はじぃと陽が沈むまで眺め続けていたのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
遺跡の調査は無事に終わり、およその仕組みやその役割についての予測は立てられました。
ゴーレムが持ち出されないよう、今後、遺跡には監視者が付けられることになるでしょう。
依頼は成功です。
また、場合によっては似たような遺跡がいずれ見つかる可能性もあります。
以上、この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、またどこかでお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
オアシス地下遺跡の調査、および調査結果を持ち帰ること
●ターゲット
・オアシス地下の金属遺跡
直径50メートルほどのオアシス直下にある遺跡。
床や壁が金属の素材でできていることが特徴。
予想では、地下3階までが存在している。
特定の装置を踏むと、ゴーレムが出現することが確認されている。
・小型ゴーレム×?
1メートルから3メートルほどのゴーレム。
素材は石だが、頭部には機械の部品が埋め込まれている。
学習能力が高く、また頑丈な体は状態異常に対して高い耐性を持つ。
その攻撃には【必殺】【ブレイク】【呪縛】が付与されている。
※然るべき対策を取れば、出現パターンや行動パターンをある程度分析することは可能だろう。
●フィールド
ラサ。
砂漠のどこかにあるオアシス。
現在、水は抜かれている。
直径は50メートルほど×3階層(予想)
壁や床は金属素材で構築されており、所々にスイッチらしき仕掛けがある。
仕掛けを作動させると、どこからともなくゴーレムが現れるようだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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