PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>それは、魂を引き裂かれるような痛みで

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『なにもない』ばしょ
「ベーク、何か見えるか?」
 と、サンディ・カルタは言う。白き聖銃士の衣装。正義聖銃士隊(セイクリッド・マスケティア)の一人である彼は、目の前の『何の変哲もない街道』に目を向けていた。
「……君と同じ。何も見えませんよ、サンディ君」
 同様に――白き聖銃士の衣装に身を包むベーク・シー・ドリームもまた、虚空へ目を向けながら、悔しげに頷いた。

 先日のことだ。
「のう、二人とも。ザクセルの街を覚えておるか?」
 そう、『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』の星読みの機械から目を離したアストリアは、傍でサポートをしていた二人にそう尋ねた。
「ザクセル? いや、聞き覚えは無いな。ベークは?」
「僕もです……その街に何か?」
 尋ねる二人に、アストリアは悲し気に微笑んだ。
「いや、妾も全く覚えておらん。
 と言うのも、すでに『敵』によって食われた街だという事が、星読みで今しがた分かった程度じゃ」
 敵……ワールドイーターなる、バグたちに寄ってみ生み出された存在は、世界の『データ』を喰らう。データを喰らわれ、虚空へと消えた場所には、ワールドイーターによって『バグの世界』が生み出されるわけだが、一般的なR.O.Oの人々……例えばアストリアやサンディ、ベーク達は、その「バグによる異変」を認識できない。これは、ゲームの登場人物が、ゲーム内のバグを認識できないのと同じように、ネクストの大半の人物にとっては、それがバグっていることが当たり前となってしまうためだ。
 街が食われたなら、そこに街は無い。そこに街は無いなら、以前から無かった、という認識になる。
 故に……ザクセルと言う街があったとしても、ワールドイーターによって食われたなら、三人にとっては聞き覚えが無いどころか、『もともと存在しなかった街』と言う事になる。
「じゃが……なぜであろうな。何か、寂しさと言うか、失ってしまったことの悔しさを、強く感じるのじゃ。
 まるで、敵の認識改変にも屈しなかったかのような、思い出がそこにある様な……そんな気持ちがな」
 そう言われてみれば、二人の心にも、何か寂しさと悔しさのようなものが浮かんだ。だが、それがどこからくるものなのかは、全く覚えがないのだ。
「……この気持ちは、もしかしたらザクセルの街にあるかもしれない、と言う事ですか?」
 ベークが尋ねるのへ、アストリアは苦笑した。
「分からん。まったく。
 ……すまぬな、忘れておくれ。さて、まだまだ今日は星を見なければならん! 仕事は残っておるから、付き合ってもらうぞ!」
 気丈に笑うアストリアの表情に、二人は胸の痛みを抱く。
 二人にとって、アストリアは仕えるべき上司であると同時に、かけがえのない友人でもあった。
 ……なら、それを何とかしてやりたい、と強く思う……。

 かくして、二人は、異変を認識できる数少ない人間からの情報を手掛かりに、消えたというザクセルの街があったという跡地へととずれていた。だが、二人には、そこにバグの世界があることを認識できない。普段通りの街道が広がり、そこを通っても、なにも認識できずに、ただ街道を歩いたのだ、と言う事しを認識できない、と言う事の怖さを、小さく見積もっていたかもしれないです」
 ベークが言う。
「認識を変えられるという事は、ある意味で記憶を改変されるに等しい。それは、魂の侮辱です……。
 こうして、ここに何があったのか、もし僕たちがここで何か大切なものを得たのだとしても、それを思い出すことはもちろん、失ったと知る事すらできない。
 ……それがどれだけ、恐ろしく、やってはいけない事か。僕は今、こう言う立場になって、本当に理解できるようになった気がします」
「……そうだな。どうして俺達は、『視える者』じゃないんだろう」
 サンディが言った。『視える者』とは、異変を認識できるもの達のことを暫定的に指し示す言葉だ。
「もし異変が見えたなら、アストリアの負担を軽くしてやることだってできたはずなんだ。
 あいつが……悲しむような顔をさせなくて済んだはずなんだ……」
 二人が悔しげに虚空を臨む。刹那、甲高い音と主に、二人の脳裏に痛みが走った。同時、眩暈が視界を揺らし、軽い脱力感が二人を襲う。
「なんだ……!?」
 サンディが呻くのへ、しかしその辺はほんの数秒の間で収まった。が。視界を取り戻した二人の前に現れたのは、さらなる異変だった。
「な、なんですか!? これ!?」
 ベークが叫ぶ。と言うのも、今まで何もなかったはずの街道に、忽然と、四角いカラフルなブロックを敷き詰めたような――それは、見るものが見ればモザイクの塊だと理解できる――異様な空間があったからだ。
「こ、こいつ、『視える者』の報告書で確認したぞ! 異変がある場所には、こう言う訳の分からない空間が広がって見えるって……!」
「じゃ、じゃあ、僕たちは今、異変を見ている……?」
 ベークの言葉に、サンディは頷いた。
「異変が見られるなら、この異変の世界に入れるはずだ。
 もしかしたら、この街を俺たちで取り戻せるかもしれない」
「えっ、ぼ、僕たちだけで入るんですか!?」
 驚くベークに、サンディは頷いた。
「当たり前だ! 俺達は正義の正義銃士隊だぞ! 本来は俺たちが異変と戦わなくちゃいけないんだ!」
 それは、本音でもあり、建前でもあった。正義心のようなものは確かにあったが、その脳裏には、アストリアの悲しげな顔が浮かぶ。友を苦しめる禍根を、自分たちの手で立ってやりたい。そう言った心は、確かにあったのだ。
「……そうですね。今まで鍛えてきたのは、こんな時のためだったのかもしれません」
 ベークが頷く。その想いは、ベークも同じくするところだ。
「いきましょう、サンディ君。僕たちで、この異変を解決するんです!」
 二人はゆっくりと、モザイクの世界へと侵入していく――。


「ええい、あの大馬鹿どもめ!」
 と、あなたたちイレギュラーズの目の前で、アストリアが憤慨した様子で腕を振った。緊急の要件と言う事で呼び出されてみれば、なんでも正義銃士隊の二人、サンディとベークが、偶然か敵の策略か、バグの世界へと潜入してしまうという予知がなされたという。
「ついさっき星が動いたのじゃ! 予知の術式のわりに、こういう時に反応が遅いのは改善の余地ありじゃな!
 ともかく、今から急いで行っても、二人はすでに敵地の中じゃ! 汝らにも異変の世界の中へ入ってもらう事になる!
 危険な任務じゃが……たのむ! あの二人は……妾の大切な友なのじゃ!」
 そう言うアストリアの表情は、異変の解決を願うのはもちろん、二人の大切な友達を失いたくないという気持が現れていた。
 こうも真っすぐに伝えられては、あなたも断るいわれはないだろう。力強く頷き、クエストを受注すれば、アストリアは安どの表情で何度も頭を下げた。
「済まぬ……あやつらが無事なら、伝えてくれ。気持ちは嬉しいが、無茶をすることは許さん、とな」
 アストリアの言葉を受けて、あなたたちは一路、ザクセルの街跡地へと旅立った――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 敵地へと入ってしまった二人の正義聖銃士。
 二人を救出し、敵ワールドイーターを撃破しましょう。

●成功条件
 サンディ・カルタとベーク・シー・ドリームが生存している状態で、敵ワールドイーター『奇怪なる老人』を倒す。

●状況
 敵ワールドイーター、『奇怪なる老人』によって食われたザクセルの街。この街の偵察に来ていたサンディとベークは、どういう訳か突然『異変を認識できる』ようになります。そのまま、事件解決のためにザクセルの街へと向かった二人。しかし、それはワールドイーターの罠でした。
 ワールドイーター、奇怪なる老人は、『意図的に異変を相手に認識させる』ことで、自分の世界に誘い込み、その相手を喰らう事に無上の喜びを覚える老人です。二人はその罠に誘い込まれてしまったわけです。
 一刻の猶予もありません。皆さんは今すぐこの異界に向かい、二人を救出。敵ワールドイーターを撃破してください。
 作戦エリアは、ポリゴンやテクスチャの狂った、まさにバグの街、といった様相を呈しています。
 足元は凸凹で、少し歩きづらいかもしれません。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

●サクラメントについて
 復活用のサクラメントが存在します。
 数回程度は、復活後戦闘復帰は出来そうです。

●エネミーデータ
 シナリオ開始時点で、大体の敵味方の配置図配下のようになっています。

       北
    ワールドイーター
  
兵隊  サンディ&ベーク  兵隊

   兵隊      兵隊

     イレギュラーズ


 ワールドイーター・奇怪なる老人×1
  その名の通り、奇妙な姿をした老人のような姿をしています。
  紳士的な言葉を話しますが、本質的には外道です。
  主に神秘属性の攻撃を行うほか、
  BSとしては『毒系列』『不吉系列』を付与してきます。

 兵隊 ×16
  バグによって生み出された兵隊たちです。人型をしていますが、全てテクスチャとポリゴンがバグっており、気持ちの悪い動きと異常な外見で迫ってきます。
  基本的に、物理の近接攻撃をおこなって来ることが多いです。
  BSとしては、『出血系列』を付与していきます。
  能力的には、シンプルな物理アタッカーと言った所。やや防技が高い、回避よりは耐える方の敵です。

●味方NPC
 正義聖銃士隊、サンディ・カルタ&ベーク・シー・ドリーム
  サンディ・カルタ(p3p000438)さんとベーク・シー・ドリーム(p3p000209)さんの、R.O.Oの姿です。
  アストリアの銃士にして親友である二人は、アストリアのために異変を解決するため、バグの世界に侵入してしまいます。
  戦闘能力はしっかりと歩いため、兵隊を倒す際には、充分戦力として役立ってくれるでしょう。
  ですが、ワールドイーター相手には少々厳しいかもしれません。頼り所を間違えないように。
  アストリアとサンディ、ベークは、この街にとある思い出があるようです。
  が、その思い出も、現在ワールドイーターに食われているため、失われてしまっています。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <lost fragment>それは、魂を引き裂かれるような痛みで完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ムー(p3x000209)
ねこ
Gone(p3x000438)
遍在する風
夜乃幻(p3x000824)
夢現の奇術師
迅牙(p3x007704)
元陸軍所属機
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
アルヴェール(p3x009235)
夜桜
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録
ゼスト(p3x010126)
ROO刑事ゼスティアン

リプレイ

●歪む思い出
「くそっ、どうなってんだ此処は……!」
 バグの世界に突入していた、R.O.Oのサンディが、鬱陶し気に舌打ちした。街の中はぐちゃぐちゃのテクスチャの張られた建物の壁や石畳が広がり、空は夕焼けとも青空ともつかぬ色をしている。オブジェクトもポリゴンが異常をきたしおり、妙な所が出っ張っているかと思えば、内側にひしゃげているような、奇妙な姿をしていた。
「……サンディ君、思い出しました……!」
 R.O.Oのベークが、呟いた。
「ここで……この街の教会で、僕たちは銃士隊の叙任式を行った。そして、あの教会の大きな楡の木の下で、アストリア君と僕たちは三人で、共に護り合う事を、そして正義のために戦う事を誓い合った……!」
「ああ……間違いない! 昨日のことのように思い出せる! どうして、忘れちまってたんだ……!」
 それこそが、ワールドイーターの事件の性質の悪い所と言えただろう。NPCである彼らの認識を、バグったゲームの都合のいいように変えてしまう……。それは、ベークも言ったことだが、まさに魂の侮辱である。
「ほっほ、ほほ! 思い出しましたか!」
 ぱん、ぱん、と手を叩く音が聞こえた。街の広場に到着したサンディたちを迎えたその拍手の音。それと共に現れたのは、一人の老紳士である。帽子をかぶり、ステッキを振り回す男は、耳までさけた口を、にぃ、と歪めて笑った。
「良い……実に良い! その、愕然とした表情!
 今あなた達の胸にあるのは、怒りですか? 屈辱ですか? それとも恐怖?
 ああ、その感情が最高のソースとなって、あなた達を喰らう私の舌を楽しませてくれるのです!」
「ワールドイーターか!」
 サンディが叫ぶ。
「如何にも――紳士、と呼ばれています」
「……僕たちが、突然異変を察知できるようになったのは、どうやら君のせいみたいですね。
 随分とゲスな紳士もいたものです。改名なさっては?」
「ほっほほほ! 良い! ですが忘れてはなりません。此処はワールドイーターの世界。いわばあなた達は、私の口中にいるようなもの。
 なれば後は、噛み砕かれて舌の上で転がされるだけ……」
 ぱちん、と指を鳴らせば、サンディとベークを囲むように、人型の何かが現れる。人、なのだろうか? 確かに人の形をしているが、そのテクスチャは異常な色を見せ、瞳は生気なく、さながらゾンビのようでもある。
「ワールドイーターの『兵隊』か……」
「囲まれましたね……どうします?」
 ベークが尋ねるのへ、サンディは叫んだ。
「決まってる! あのおっさんを倒して、この街を開放するんだ!」
 がちゃり、と手にしていた銃を構える。サンディ。ベークは頷いた。
「そうですね、ここまで来たんです。この際、付き合いますよ」
 同様に、銃を構えるベーク……だが、ベークは同時に、状況を俯瞰していた。
(数が多い……それに、敵の能力は未知数です。最悪、僕を囮にしてでも、サンディ君は助けなければ……)
 同時に、サンディも思う。
(とは言ったものの……流石にヤバいな。だが、仮に俺が食われたとしても、ベークだけでも……!)
 二人が、同時に戦いへの覚悟を決めた。紳士はにやにやと、うまそうな食事に舌なめずりをする。
「では……いただきましょうか!」
 紳士がステッキをふる。同時に、『兵隊』達が唸り声をあげて、前進――だが。
「だめ、なのです……!」
 声が上がった。同時、穏やかながら激しい、春の風が巻き起こり、南方にいた兵隊のグループを飲みこんだ! 緑の風のエフェクトが、兵士たちに神秘の力による打撃を与える! おお、と唸る兵隊たち。その攻撃(スキル)の主は、『うさぎははねる』アマト(p3x009185)だ!
「あなたには、サンディ様や、ベーク様を、食べさせたりしません……!」
 きっ、と一生懸命に、紳士を見据えるアマト。
「援軍、か!?」
 サンディが叫ぶのへ、
「ソノ通りダ」
 黒い何かが、戦場を駆ける! ずあっ、と駆ける黒い風。それがサンディとベークの間を駆け抜けた時、彼らの前に立つ、『遍在する風』Gone(p3x000438)の姿があった。
「……救えヌ。「サンディ」。
 バグに飛び込んだところデ何も守れやしなイ。仇討ちは誰かを守る動きじゃなイ」
「なっ……!?」
 静かに呟くGoneへ、サンディは驚いたように声をあげた。
「サンディ。愛も、力も、承認も、知識も。持っていないとは言わせない。
 恵まれたお前の役目は『守ること』、どんなに痛くても『守ること』なのダ。
 ……正義聖銃士になったのであれば、何かしら儀式で誓ったのだろウ?」
「それは……」
 サンディがうつむいた。思い出す。これまで忘れていた、この街での叙任の儀式を。守ると誓った、三人の誓いを。
「くそっ……なんなんだ、あなたは……どうして、そんなに……?」
「まぁ、とりあえず援軍、という認識で大丈夫です」
 すっ、と飛び込んできたのは、『ねこ』ムー(p3x000209)だ。ムーは、驚いたように目を丸くするベークに視線をやりつつ、
(……全く以てわからないものです。よもや、ベーク・シー・ドリームを名乗る茶髪の子供が天義、いや、正義国でしたか? そこで枢機卿に拾われて聖銃士とは。出世したものです。
 ……『僕』には縁のない話です。ついでに『僕』には身寄りもありません。それが、こんな再現なんて)
 目を細める。
「ええ、と」
 ベークが困惑したように言うのへ、ムーは頷いた。
「ワールドイーターは僕たちに任せてください。君たちを助けるように、と言う依頼です。アストリア君から」
「アストリア君から……」
 ベークが嬉しそうな、申し訳ないような顔をする。
「その通りでございます、サンディ様。ベーク様」
 恭しく一礼をして見せたのは、『夢現の奇術師』夜乃幻(p3x000824)だ。幻は穏やかに微笑むと、
「確かに、麗しき乙女の涙は宝石のように美しいもの。ですが、実際に流させるとはしのびないもの。
 それに涙よりも、笑顔の方が美しいものです。
 その笑顔を浮かべるための奇術の鍵が、お二方の無事の帰還で御座いますよ」
「つまり、撤退を勧告しております」
 『元陸軍所属機』迅牙(p3x007704)が言った。
「これより、我々で包囲に風穴を開けましょう。そこから南方へ離脱願います」
「だが、ワールドイーターは……!」
 サンディの言葉に、
「言ったろ! 無茶すんな、って!
 それに、アストリアのねーちゃんも無茶するなって怒ってたかんな!」
 『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)が、むーっ、と頬を膨らませていった。
「家族ってのは、バラバラになっちゃダメなんだかんな!
 にーちゃんたちは、ねーちゃんと家族みたいなもんなんだろ?
 だからちゃんと、生きて帰るんだぞ!」
 しかる様にいうルージュに、ベークは苦笑した。
「あはは……でも、確かにそうです」
「ほっほほほほほ!」
 だが、紳士は愉快気に笑う。
「特異運命座標! よもやとんだ御馳走が現れたものですな!
 あなた達は、『死なない』のでしょう? なれば何度も味わえるというもの」
「やれやれ、俺たちの事を、ガムか何かだと思っている様だね?」
 『夜桜』アルヴェール(p3x009235)が静かにそう言った。
「依頼者は……アストリア嬢と言ったか、彼女には涙ながらに、大切な友を助けてくれと言われていてね」
 と、やや誇張しつつ、告げる。
「つまる所、俺達としては、彼ら二人を失うわけにはいかない。絶対に、助け出させてもらうよ」
「悩み苦しむ友のために命を賭け、危険な場所と知っていても飛び込むことを愚かと笑う無かれ……人、それを……『友情』と呼ぶ……。
 友情を嘲笑い己の快楽のために弄ぶワールドイーター、貴様らにその思いを汚させはしないであります!」
 びしっ、とポーズを決めながら、
「ROO刑事ゼスティアン、見参! 二人の勇気ある者と共に戦う……任務了解! であります!
 いざ、電ッ装!」
 『ROO刑事ゼスティアン(自称)』ゼスト(p3x010126)が叫んだ。どーん、と背中で爆発が起きたような錯覚を覚える。
「では皆様、参りましょう! まずは、二人を救い……そして、あの悪の紳士を成敗いたしましょうッ!」
 ゼストの言葉に、仲間達は頷く。
「やれるな『サンディ』。これハ仇討ちでモ、己の溜飲をさげるための戦いでもなイ。
 生き延びテ、帰る。ソノタメノ、戦いダ」
 Goneの言葉に、サンディは頷く。
「ああ、やってやるよ、悪霊さん!」
 先ほどとは違う決意を胸に、サンディとベークは頷いた。
 生きて帰る。その為に。

●生きて、帰って
「幻にーちゃん、西側の敵を頼むよ!
 おれたちは、東側を狙うぞ! ゼストにーちゃん!」
 ルージュがそう告げるのへ、幻、そしてゼストが頷いた。
「承知いたしました。では、ショーを始めましょう」
 優雅に一礼する奇術師。硝子の杖を掲げれば、墜ちるはスピカ。青き星の墜ちる夢。されどこれは奇術、夢現のショーの中。仮令夢であったとしても、その身に刻まれる痛みは現実。落ちるスピカは兵隊たちを打ち貫く。その後に続いた迅牙が肩に背負ったロケットポッドから、ロケット弾を次々と射出!
(勇気と無謀はなんとやらだが、兎に角…そういう説教やなんやは助けだしてからだな)
 胸中で呟きつつ、同時、降り注ぐロケット弾が、兵隊たちを飲み込んで爆発を巻き起こした。
「こちらは引き受けます。東側を」
「了解だッ!」
 ゼストが飛び込む。同時、その胸部に手をクロスさせるや、輝く光が胸から漏れ、
「フラッシュゥゥ……ストォォォォムッ!!」
 一気に両手を開放すると同時に、胸に発生した巨大なエネルギーが、光線となって解き放たれる! 光が兵隊たちを飲み込み、強烈な打撃を与えた!
「やるじゃん、ゼストにーちゃん! じゃ、おれも必殺攻撃だ!」
 だぁっ、と気合と共に振るわれた刃から、謎の光(本人にも原理は謎らしい!)が解き放たれた!
「これが、愛の力……ルージュアタックだぜ!」
 ゼストに当てられたように、初期に命名した名前を叫ぶルージュ。二つの光はクロスし、北東側の兵隊たちを十字砲火に飲み込んだ!
「アルヴェールにーちゃん、アマトにーねーちゃん! 今のうちに中央に突っ込んでくれ! サンディにーちゃんとベークにーちゃんを頼むぜ!
 サンディにーちゃん、ベークにーちゃん!
 まずは防御を優先して突っ込んだりしないでくれよ!!
 何とか敵の囲みを破るから、それまで持ちこたえてくれよな!!」
「わかりました!」
 ベークが叫び、遠距離から銃撃を放つ。北東側はダメージが大きいと判断した二人が、包囲を突破すべく、遠距離からの援護攻撃を行った。果たしてその行動は上手くいき、ルージュ・ゼストの二人の攻撃も相まって、東側の包囲が崩れ始めている。
 一方で、アルヴェールは包囲の綻びを突破し、紳士へと向かう。アマトもその後を追ってぴょんぴょんと跳躍。
「アマト君、俺とGone君、ムー君で老紳士を抑える。援護を頼むよ」
「は、はいなのです!」
 ぴょん、と飛び跳ねたアマトが、その両手を掲げる。その手に抱かれたイースターエッグから、ニンジンのような温かなオレンジ色の光が放たれて、今まさに紳士と交戦中のGone、そしてムーの傷を癒した。
「助かります!」
 礼を言いつつ、ムーが肉球でぱんちを見舞う。薙ぎ払うように放たれる肉球のぱんちを、老紳士はステッキをくるりと回して受け止めた。
「ほほっ、やんちゃな猫ですなぁ!」
「おっと、猫はこう見えて凶暴ですよ、にゃー!」
 つづく爪の一撃。大上段から放たれたそれを、紳士は後方へステップして回避。同時、駆けこんだGoneが渾身の鎌の一撃を見舞う。横なぎに振るわれた斬撃を、紳士は避けることができない。強烈な一撃を腹に喰らい、鮮血のように砕けたポリゴンが飛び散る――だが、その顔からは余裕の笑みは消えない。
「やりますなぁ、ええ! 食前の運動はしっかりと腹を空かせられるようなほどがいい!」
「減らず口ヲ!」
「続くよ!」
 Goneの背後から飛び込んだアルヴェールが、大太刀を上段から薙ぎ払う。一閃が閃き、紳士の帽子を切り裂いた――顔面に直線傷を作る老紳士。直撃ではないが、とにかくダメージは蓄積している。
「ううむ、これは多勢に無勢――ですかな!?」
 ほっほっほ、と紳士は笑う。
「どうやら、まだまだ元気らしい」
 アルヴェールが言うのへ、アマトが叫ぶ。
「き、気を付けてください! 兵隊が後ろから迫ってきています!」
 言われてみれば、確かに数を減らしつつも、兵隊は包囲を狭めてきている様だ。現に、兵隊の狂ったオブジェクトの槍は、こちらを傷つけんとぎらついて接近してきている。
「……チッ。どうする、ムー」
 Goneが言うのへ、ムーが頷いた。
「撤退を視野に入れましょう。クエスト自体が失敗したとしても、優先すべきは僕たち……あ、いや、サンディ君とベーク君の生存です。
 試合に負けて勝負に勝つ、と言う奴です」
「……それしかない様だね」
 アルヴェールが言う。
「アルヴェール、ムー、二人を連れて退ケ。可能な限り、ワールドイーターはこちらで引き付けル」
「分かりました……お気をつけて」
 アルヴェールは頷くと、
「二人とも、包囲を突破するよ。
 アマト君も、直掩について。突破できそうなのは……」
「アルヴェールにーちゃん、こっちだ!」
 ルージュが叫んだ。
「こちらの方が手薄でありますッ! 今、さらに風穴を開けましょうッ!
 ゼタシウムゥゥ……光ッ線ッ!!」
 ゼストが叫び、必殺光線を打ち放つ! 激しい光が道を開くように放たれ、敵陣を切り裂いて間隙を生み出した!
「よし、行こう、二人とも!」
「……すまねぇ、Goneさん。俺は……」
「気にするナ。行け」
 サンディの言葉に、Goneは頷く。
「ありがとうございます」
 ベークがそう告げるのへ、ムーは頭をかきつつ、
「あー、はい。でも、まだ気を抜かないで」
 ムーはなんだか困ったような笑顔を浮かべた。
「……Goneさん、僕ら何やってたんでしょうね」
 そういうムーへ、Goneは静かに答えた。
「……幻ノ中デ位、上手クやってたッテ良イハズナノダ」
「かもですねぇ。大切な友人、ですか。僕も言われてみたいものです」
 ムー、アルヴェール、アマトが、サンディたちと共に駆けだす。紳士はにやにやと笑いながら、Goneを見つめていた。
「おや……決死の覚悟、と言う奴ですかな?」
「お前に、奴らを追わせるワケにはいかなイ」
 Goneが鎌を構える。
「もうすこし、俺に付き合ってもらうゾ」
「ほほほっ、そう言った悲壮な決意もまた美味……喰いきれぬとは言え、味あわせてもらいましょう!」
 紳士は、残る兵隊と共に、Goneへと襲い掛かった。

●撤退
「どうやら、ここは撤退のようで御座いますね」
 幻が一礼。迅牙がロケット弾幕を展開する。
「了解、撤退支援を開始いたします」
「それでは皆様、またの御来演を――」
 爆風の中に、二人の影が消えていく。一方、残るメンバーは、ゼストとルージュの開けた風穴から包囲外へと離脱。バグの世界の外目がけて、脱出を開始していた。
「くそっ、俺達がもっと強ければ……」
 サンディが悔しげにうめくのへ、ゼストが頭を振った。
「いいや、あなた達は充分に戦った……自分たちの力不足であります」
「にーちゃんたち、ここから脱出したら……また、忘れちまうのかな」
 ルージュが言う。恐らく、二人が異変を認識できるようになったのは、敵の策略だろう。ならば、その影響下から逃れたのならば、二人はまた、異変があったことを認識できなくなるに違いない。
 ここで、サンディ、ベーク、アストリアが誓ったあの日の事を。忘れてしまうのだろう。
「……ですが、そうですね。今回は、僕たちも無茶をし過ぎました。そこは反省しなければなりません」
 ベークが言う。
「……もし、また記憶を取り戻そうと思うなら、その時はまた、手伝わせてほしいな」
 アルヴェールが言った。サンディは頷く。
「ああ、有難う……あ、いや、ありがとうございます、皆様」
「ふふ。別に、かしこまらなくても大丈夫なのですよ」
 アマトが言った。サンディはバツが悪そうに頭をふる。
「皆様、こちらです」
 合流した幻が声をかける。隣では、迅牙が頷いて立っていた。
 果たして一同は、モザイクの壁に突入して、現実世界へと帰還する。そこには、テクスチャやオブジェクトの狂っていない、当たり前の街道があった。
「……ああ、もう、何があったかわからないんです」
 ベークが言った。もはや、彼らには、異変を認識することが出来ないのだ。
 ここで何を失い、なにを得ようと戦い、そして戻ってきたのか。
 それはもう、二人には……。
「でも……何か、とてもつらいのだけは分かるんですよ。
 それは、魂を引き裂かれるような痛みで――」
 ベークは胸を抑えた。

 特異運命座標たちに、クエスト失敗の情報がもたらされる。
 だが、サンディとベークは、ひとまずその安全を確保された。
 今は……それだけでも、充分なのかもしれなかった。

成否

失敗

MVP

ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

状態異常

Gone(p3x000438)[死亡]
遍在する風

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 惜しくもワールドイーターの討伐はなりませんでしたが、サンディとベークは救出されました。
 少なくとも、それは一つの成果です。

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