PandoraPartyProject

シナリオ詳細

峠の怪。或いは、黒い塚の鬼女…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●峠の怪
 豊穣。
 とある峠に鬼が出る。
 そんな噂が立ち始めたのは、今からおよそ半年近く前のこと。
 その鬼は、猫背に細身の女であると人は言う。
 黒いボロを身に纏い、全身からは濃い血の臭いを漂わせる。
 その手に握った包丁は、刃渡りが2尺にも及ぶ長大かつ分厚いものだ。
 女の身なりに相反し、よく手入れされているらしい。
 月光を浴びて、ぬらりと不気味に光るそれを巧みに操り、女は人をあっという間に解体する。
 麓の里で確認できただけでもその数、12人……しかし、仏の見つかっていない事例もあるだろうことを考えれば、実際の犠牲者は倍以上とも予測されていた。

 件の鬼女について、里の者たちは以下のように語る。
「歳は20かそこらじゃないか? 目は血走って真っ赤でな、人の言葉を理解している風じゃない」
「きっと何かに“憑かれ”てるんだぜ、ありゃ。実際、女の影が勝手に動いて追ってきたって言う奴もいた」
「包丁捌きが巧みでな。まさに【必殺】の一撃って奴よ。俺ぁ、びびると同時に思わず見惚れたね」
「そういや、見つかる死体は男のものばかりだな。男は斬って、女は……さて、どうしてるんだかね」
「五感が獣みたいに優れていやがるらしいぜ。そんで、自分よりも強い相手とみれば、さっさと逃げるだけの頭もあるらしい」
「近い距離で斬り合って、生き延びてるのは旅の女武芸者だけだったか? えらくでかい刀をぶん回す怪女だったが、当たらなきゃ意味がねぇわなぁ」
「弓を射かけたって猟師がいただろ? 逃げられなきゃ、あと1歩で仕留められたって言ってたが、どんなもんかね?」
「治癒力や身体機能を強化する術が使えるって説もあったな。まぁ、どっちにせよ、1人や2人で峠は越えねぇこった」
 始めに鬼女が現れてから約半年。
 その間に、多くの者が鬼女と遭遇し、その様子を語って聞かせた結果がこれだ。
 背びれも胸びれも尾ひれも付いた噂話の集大成。
 およそ噂とは、酷く誇張されて伝わるものである。
 けれど、そこにはいくらかの真実が隠されている。
 古今東西、古くから今に至るまで、噂の種類は様々なれど、その本質は何も変わっていないのだ。

●黒い塚
 此度の依頼は、殺人鬼の討伐。
 豊穣の辺境、山の奥の小さな里に現れた、怪奇混沌とした殺人鬼。
 “鬼女”と呼ばれるその女を、見事討ち取り、峠に平和を取り戻すことがイレギュラーズに課せられた任務である。
「まぁ、簡単な話だ。問題は、件の鬼女が尋常でない力を得ている点ぐらいだな」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、呆れたようにそう呟いて、手元の資料をテーブルの上にばさりと広げる。
 そこには彼が集めて回った、ターゲットについての情報が事細かに記されていた。
 しかし、肝心のターゲットを至近で見た、と言う者だけがどういうわけか見つからない。
「ここにあるのは、噂話の類だけだ。明らかな出鱈目を除いて、それなりに手がかりとなるだろう情報を諸君には開示している」
 鬼女は1人。
 包丁を得物とし、接近戦では無類の強さを誇る。
 何かに“憑かれ”ているのか、筋力に優れ、多少の回復能力を持つ。
 大まかに噂の内容を纏めると、以上のようになるだろうか。
「調査の結果、鬼女のねぐらを見つけることは叶わなかった。まぁ、誘き出す策は必要かもしれないな」
 これまでの傾向からすると、鬼女は大人数で移動している相手を襲ってはいない。
 ならば、1人を囮として、他は周囲に潜伏するのはどうだろう?
 そのような発想に至った者もいるだろう。
 しかし、ショウは首を横に振り、困ったような顔をする。
「獣のような五感を有しているらしいからな。近くの茂みに潜伏する程度ではあっさりと発見されるだろう」
 そういってショウは自身の頭部を指さした。
 深く被ったフードが揺れる。
 獣の耳が、小さな音を拾って動いた証拠である。
「姿を消したり、空を飛んでいたりすれば或いは……いや、これ以上はお前たちの方で決めるべきか」
 投げ広げた資料の中から、特に重要な数枚だけを手に取ると、ショウはそれをイレギュラーズへと渡す。
「峠の頂、黒い塚のある辺りが鬼女の頻出するポイントだ」
 くれぐれも逃がすことが無いように。
 そう言ってショウは、イレギュラーズを送り出す。

GMコメント

●ミッション
峠の鬼女の討伐

●ターゲット
・峠の鬼女
ボロを纏った鬼女。
猫背で細身。
獣のような振舞をするが、知性そのものを失っているわけではないようだ。
また、接近戦では無類の強さを誇る。
得物は刃渡りが2尺にも及ぶ包丁。
目撃者の話では、何かに“憑かれて”おり、彼女の影は勝手に動いていたという。

※彼女が狙う対象にある、一定の法則があるようだ。
※彼女は身体能力の向上と、体力回復を行うスキルを持っているらしい。
※彼女の攻撃には【必殺】が付与されている。

●フィールド
豊穣。
ある山奥の峠。
峠の麓には里があるが、その他、人の住む場所は付近にない。
峠の頂にある黒い塚の周辺で、鬼女はよく目撃される。
獣道より幾らかマシといった程度の細い道があるだけで、道路は整備されていない。
道の左右は林や藪になっている。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 峠の怪。或いは、黒い塚の鬼女…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月11日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
嘉六(p3p010174)
のんべんだらり

リプレイ

●黒塚
 豊穣。
 草木も眠る丑三刻。
 空には丸くて白い月。
 とある峠の頂付近を、外套纏った人影が歩む。
「あった、黒い塚……随分と惨いっすが、何が目的なのやら」
 外套で顔を隠した『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は、すんとひとつ鼻を鳴らした。
 鼻腔を擽る土と草木の臭いに混じって、血肉の腐った臭いが混じる。
「殺されるだけでなくマトモな遺体も残らないなんて、悲しすぎるでしょう」
 黒ずんだ地面を爪先で蹴って、慧はそんなことを呟く。

「鬼女ね。別嬪だったらいいねェ……俺ァ女に弱いんだよな」
「……犠牲者が多数出てしまう前に対処出来なかった事は痛恨と言う他ありませんわね」
 軽口を叩いた『特異運命座標』嘉六(p3p010174)へ向けて『神使』星芒 玉兎(p3p009838)はじっとりとした視線を投げる。
 峠の鬼女は人を襲う。
 男の死体は無残に刻まれた野に転がった。
 女の死体は、今のところたったの1つも見つかっていない。
 鬼女の凶行を止めるべく、イレギュラーズはこの地に至った。囮を務める慧の様子を、気配を消した2人は藪の中から見やる。
 一方、遥か上空には『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)や『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)が飛んでいる。
「鬼女なぁ……正気じゃなさそうって話だが」
「でも……私は同じ鬼女だから、できれば彼女も救いたいんです」
「……まぁ、そりゃきっと皆同じ想いだろうよ」
 救える者がいるのなら、救いたいと、手を差し伸べたいと考えることは至って普通のことだろう。ただ、多くの場合、人の手はそこまで長くないのだ。
 差し伸べた手が、届かないこともある。
 何度も、何度も、手を差し伸べて、届かなかった。
 掬い上げようとしたのに、指の間から零れてしまった。
「今は待つしかないッスよ」
 ドーナツを片手に『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)はそう呟く。
 空から見下ろす夜の森は真っ暗で……どこまで深く、落ちていきそうな闇の海のようでさえある。
「助けられるものは助けたくはありますが……さて、どこまで手が届くか」
 誰の耳にも聞こえぬような微かな声で『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそう言った。
 気配を殺し、闇に紛れて、じぃと囮を務める慧へ視線を送る。
 件の鬼女は、人を襲う。
 それも、1人か2人とごく少数でいる者ばかりを。

「っ……あォォン」
 断末魔のようなか細い声を零した『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は、慌てて自分の口を小さな手で塞ぐ。
 慧が峠の頂に、到着してから数分後。
 リコリスの鼻が捉えたのは、血肉の腐った臭いであった。
 風が止んだ瞬間に、それはリコリスの鼻腔を擽る。先ほどまでは、なかった臭いだ。だとすれば、近くに鬼女が接近しているのかもしれない。
 茂みに身を隠したまま、リコリスは素早く視線を四方へ巡らす。
 鬼女は五感が鋭いと聞いていた。
 必要以上に音を立てず、気配を殺し……ざあ、と風が吹き抜けて、リコリスの背後で何かが地面を蹴飛ばした。
「っ!?」
 リコリスの頭上を跳び越えたそれは、黒い襤褸を纏った女だ。その手には、鈍い輝きを孕んだ包丁が握られている。
 獣のように荒々しく、そして風のように速く。
 女は世闇を切り裂いて、慧の背後へと迫る。

●鬼女
 硬質な音が鳴り響く。
 よく研がれた包丁が、慧の頭部を打ち付けた音だ。
 纏っていた外套が裂け、側頭部から垂れ下がる歪な角が顕わになった。角で包丁を受けた慧は、衝撃に押され数歩ほど後ろへと下がる。
「っ……重!?」
 頭を振るようにして慧は包丁を弾いた。無理に抗うことなく、鬼女は一旦、後ろへ跳躍。着地と同時に地面を蹴って、低い姿勢で慧の懐へ潜り込む。
 後退しながらも、慧は鬼女の様子を観察していた。
 衣服は襤褸布のようだ。手足も細く、とてもではないが、慧が押されるほどの力を持っているようには見えない。
 肌の白さは、まるで死体のようでさえあり、整った容姿ではあるものの、生気に欠ける。瞳は赤く充血しており、どこか虚ろ。慧の方を見ているが、焦点が合っていないようにも感じる。
「武器が、なくともっす」
 腕を中心に魔力の壁を展開し、包丁による刺突を防いだ。
 瞬間、ゆらりと地面に落ちた女の影が不気味に蠢く。まるで小さな羽虫の群れが飛び立つみたいに、影は地面を離れ慧の足首に纏わりついた。
 ぎゃり、と皮膚が削られて、湿った地面に鮮血が散る。
「っと……この」
 影を引き剥がすように蹴りを放つが、ひょいと軽く身を捻ることで鬼女はそれを回避した。
 にたり、と。
 口角を上げた不気味な笑みを浮かべた鬼女は、慧の脚へ向け包丁を振るう。魔力壁によって斬撃は弾かれるが、お構いなしに何度も、何度も、狂ったように包丁を振り下ろし続けた。
 
 藪に足を取られた慧が仰向けに地面に転がった。
 馬乗りになるようにして、鬼女は慧の両腕を膝で抑え込み喉へ向けて包丁を振るう。
 刃が喉に届く寸前、鬼女は無理矢理に腕の軌道を変えた。
 背後へ向けて包丁を一閃。
「ってぇ……よう、別嬪さん。そっぽ向くなんてつれねえなあ」
 飛び散った血が鬼女の白い頬を濡らした。
 背後に立った嘉六の掌には深い裂傷が刻まれている。あと数センチも踏み込んでいれば、嘉六の指は落とされていただろう。
 死角外から放った嘉六の掌打は防がれた。
 勘が良いのか、気配に敏感なのか、或いは別の理由だろうか。
 慧の腹を蹴って跳んだ鬼女は、嘉六を次ぎの獲物と定める。振り抜かれた包丁が嘉六の方から胸にかけてを斬り裂いた。
「まぁ、なんだ。あんたみたいな女が辛そうなのは悲しい。俺に笑った可愛い顔見せちゃくれねぇか?」
 後退しつつも、嘉六は鬼女へと言葉を投げる。
 しかし、返って来るのは斬撃ばかり。白く整った顔には、些かの動きも見られない。
 感情を表に出すのが苦手なのか。
 否、どうにもそう言う風ではないと女の顔を見て嘉六はそのように判断する。
「……あんた、まさか」
 嘉六の零した呟きは、連続した銃声によって掻き消された。
 
 断続的な銃声は、リコリスの操る小型ドローンによるものだ。
 ばら撒かれた銃弾を浴び、鬼女は踏鞴を踏んで後ろへ下がった。
「…………ぁぉ」
 眉間に皺を寄せたまま、リコリスはドローンを操作する。危うく吠えそうになったが、不用意に鬼女の感情を煽ることを恐れて、ギリギリ堪えた。
「……んぅ? こっち見た?」
 藪の中に隠れたリコリスへ、ほんの一瞬、鬼女の視線が向いた気がした。
 ドローンの動きから、操作しているリコリスの位置を割り出したのか。それとも別の要因によるものか。
「念のために」
 攻撃の手を止めないまま、リコリスは場所を移動することにした。

 銃弾が地面に穴を穿ち、砂埃を巻上げる。
 鬼女は銃弾を受けながらも、じりじりと後ろへ下がっていった。視界に映る獲物は慧と嘉六の2人だけ。撤退するにはまだ早いとでも考えているのか。
 なるほど確かに、鬼女は接近戦において無類の強さを誇るのだろう。
 事実、ここまでの攻防で慧や嘉六の攻撃は1度たりとも受けてはいない。
 だが、しかし……。
「久しぶりの斬り合いだ。どんくらい強いのか楽しみだな!」
 重たい音と地響きを引き連れ、鬼女の背後に巨躯の鬼が降って来た。
 分厚い刃の大太刀を背負ったその男の名は獅門。鋼のような体を捻って、大太刀を背後へと引き絞る。
 鬼女は背後を一瞥することもなく、その場に素早く身を伏せた。
 刹那、棚引く黒髪がばっさりと半ばほどで切断されて空を舞う。
 獅門の放った斬撃を回避し、鬼女は前方へと転がるようにして移動。回避と撤退、続けて行われたそれらの動作に迷いはなく、まるで背中に目があるようだ。
 事実、初撃を外した獅門は即座に身体を旋回させて2撃目の用意を整えていた。
 もしもほんの数瞬でも、鬼女が足を止めていたなら獅門の太刀は鬼女の背を斬っていただろう。
「あ? 何だ、今の?」
 2撃目を外した獅門は、訝し気にそう呟いた。
 瞬間、獅門の首元が裂け、どろりと鮮血が溢れだす。どうやら回避と同時に斬られていたらしい。
「よぉ、気づいたか?」
 獅門へちらと視線を向けて、嘉六はそう問いかける。

 見上げるほどの長身が、鬼女の顔に影を落とした。
 進路を塞ぐ8尺を超える長身。
 手にした刀を低い位置で一閃させて、朝顔は1歩、前に出た。
「足を狙えば、より逃げにくいでしょうか?」
 鬼女の足元を狙った斬撃を、しかし鬼女はいともたやすく回避する。
 跳びはね、身を沈め、時に地面を転がりながら……朝顔の方へ視線を向けずとも、その動きは妙に正確だった。
 そうしながらも、鬼女は朝顔の脚や腕、胸や腹へ続けざまに刃を叩き込んでいるのだ。
 “当たらなければ意味がない”
 里の者が言っていたのはこういうことか、と朝顔はその身をもって理解した。なるほど確かに、こちらの攻撃を当てられないなら、いかなる武芸者でも鬼女には叶うまい。
「いくらすばしっこいからって、僕は怯んだりしないッス!」
 刺突、斬り払い、かち上げ一閃。
 鹿ノ子の放つ流れるような連撃を鬼女は、包丁を使って匠に捌いた。
 白い腕が裂け、血が零れる。
 リコリスの与えた銃疵は既に半ばほど癒えているが、まったくのノーダメージというわけでもないのだろう。
「捌いたっスね! なら、このまま……僕を止められるものなら止めてみるッス!」
「っ……足止めを!」
 鬼女の回避性能は確かに異常だ。
 けれど、完全ではない。
 鹿ノ子の連撃を鬼女は避けずに、受け止めた。
 そこへ朝顔が加わることで、鬼女へ刀が届く回数も増えた。
 
 身体を滅多に刻まれて、鹿ノ子が地面に倒れ伏す。
 どちゃ、と飛び散る鮮血が、彼女の負った傷の深さを物語っていた。
 鹿ノ子の頭部へ向け、鬼女は手を伸ばし……。
「どこに持ってくつもりっすか」
 割り込んだ慧によって阻まれた。
 
「影に触れてはいけません! 攻撃を読まれます!」
 そう叫んだのは瑠璃であった。
 前へ出かけた朝顔は、咄嗟に足を止め数歩後退。
 なるほど、たしかに鬼女の影は朝顔の方を向いている。
 獅門と嘉六、朝顔と【パンドラ】を消費し立ち上がった鹿ノ子は距離を取って鬼女を囲んだ。
 やはり、とそう呟いたのは嘉六だ。
 ここまでの攻防を樹上から観察していた瑠璃ほど正確ではないにしろ、嘉六や獅門も鬼女の不自然な動きには違和感を抱いていたのである。
 鬼女は、目ではなく影によりイレギュラーズの動きを察知していた。
 刀に比べて、銃弾や矢の命中率が高かったのは、それらの影が小さいからだ。
「とはいえ、この暗さでは影も捕えづらいですね……せっかく種は割れたのに、あまり有利になれる気がしないのも難しいです」
 ぎり、と親指の爪を噛み締めて瑠璃は思考を巡らせた。
 鬼女と影は一心同体……しかし、動きを見るに影の方が主導権を握っていることは明白。
 例えるのなら、機体とパイロットの関係に近いだろうか。
 鬼女という名の機体を、影というパイロットが操っている状態だ。
「……影が見づらいのなら」
 ちら、と。
 背後へ視線を向けて、瑠璃は玉兎へ合図を送る。
「えぇ、【神気閃光】を用います。ついでに、光も当ててみましょう」
 ひとつ、深く頷くと玉兎は藪から立ち上がる。
 胸の前に掲げた手には真白い光。
 自身を中心に、強い光を放つ玉兎は1歩、また1歩と鬼女の方へ歩いていく。
 玉兎との距離が縮まるにつれ、辺りは次第に明るさを増した。
 暗い峠のその一角だけ、まるで夜明けを迎えたかのように。
 真白い光が地面を薙いだ。
 ざわり、と。
 鬼女の影が、苦し気にもがく。
 はっきりと、地面を這う影の形が浮かび上がった。
 角を生やした女の影だ。
 身動きを止めた鬼女とはまったく正反対に、彼女の影は苦し気に身を悶えさせているではないか。
「鬼女を昏倒させて解決するなら御の字……そうでなくとも、これなら影と切り離せるかもしれません」
 タン、と。
 微かな音と共に、鬼女の足元には1本の短刀が突き刺さる。
 瑠璃は短刀へ向け、素早く空に指を走らせ印を刻んだ。
 直後、ごうと魔力の渦が巻きあがり鬼女の体を黒い棺が覆い尽くした。

●陰鬼
 ゆらり、と。
 影が起き上がる。
 羽虫の群れのごとくに影は蠢いていた。
「……こいつぁ」
「既に死んでいる……みたいっすね」
 獅門と慧は、棺へと視線を向けてそう言った。
 鬼女の死体を動かしていた影は、白光の中に佇んでいる。
 その視線は、まっすぐに朝顔へ向いていた。
「此処で終わらせます……!」
 そう告げて、朝顔は腕を持ち上げる。
 深く刻まれた裂傷から、滂沱と血が零れ落ちた。
 血を見て興奮したわけでもあるまいが、がばり、と影が口を開くような動作をしたのが分かる。
 それから影は、1歩、朝顔へと近づくとその黒い腕を彼女の首へと向けて伸ばして……。
「取り憑いているモノよ、在るべき所へ還って!」
 黒い爪が朝顔の喉を貫く直前……。
 朝顔の貫手が、影の胸部を貫いた。

 同物同治、という言葉がある。
 身体の弱っている部分を治すには、不調の場所と同じものを食せばいい、という考えだ。
 で、あれば。
 美しさを保つためには、美しい物を食せばいいのか?
 死んだ身体を動かすためには、命ある者を食せばいいのか?
 それが、女の死体ならどうだ?
 例えば、死んだ自分の体を蘇らせるため、どこかの女が悪霊と化したとしたら。

「亡骸……と、呼べる状態ではありませんね」
 ぽつり、と。
 そう言葉を零し、瑠璃は唇を噛み締める。
 場所は峠から、幾分離れた森の中。
 地面に斜めに掘られた穴の奥深く……おそらくそこは、鬼女の寝床であったのだろう。
 或いは、彼女の死体が埋められていた墓穴か。
「ですが、犠牲者は弔わなければ」
「……っスね」
 玉兎は目を閉じ、女たちの遺品へ向けて手を合わせる。
 どうにか、同意の言葉を吐いて鹿ノ子はその場に膝を突いた。
 穴の底にあったのは、赤茶けた無数の骸骨だ。
 それから、血塗れの着物や手荷物など……鬼女に食われた女たちの遺品だろう。
 
 都合、20を超える骸を分類し、それぞれ1つの墓を作った。
「ふひ〜〜っ! やっと喋れるよ!!」
 すべての仕事を終えたリコリスは、やっと大きな声が出せると喜んだ。
 生きることは食べること。
 強者は弱者の肉を喰らって生きるのだ。
 となれば、此度の依頼に集った面子の中で最も鬼女の行為を理解できるのは彼女であろう。
 とはいえ、しかし……。
「まぁ、ゆっくり眠りな。あァ、なんも怖いことはねえよ、お嬢ちゃんたち……」
 紫煙を燻らせ、嘉六は囁くように言う。
 静かな言葉は煙に乗って、暗い空へと昇っていった。
 弱肉強食は世の常とはいえ、無念のうちに死んでいった女性たちのことを思えば「そういうもの」と割り切ることも難しい。
 せめて、その御霊が安らかに成仏するように。
 そう願わずにはいられない。

成否

大成功

MVP

星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

状態異常

星影 向日葵(p3p008750)[重傷]
遠い約束

あとがき

鬼女は無事に討伐され、犠牲者たちも弔われました。
依頼は大成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございます。
また縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM