PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>ご安全に!第23話『泣き虫フラム』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「さあ、次回の『ご安全に! プリティ★プリンセス』は――?」
 明るい声音が弾む。正義の片田舎の街に立っていた少女は長く伸ばした金の髪を揺らしていた。
 鮮やかに輝いたのは青色の瞳。オープニングテーマでもなぞられる『青空の瞳』。
 コスチュームは初期装備。マスコットキャラクター『アン・ゼーン』に誘われたときの彼女が最初に着用したバトルドレスだ。
 ハートと桃色のお姫様は誘導棒にしか見えない魔法のスティッキ『トゥインクルハートロッド』を握りしめ、皆の平和のために戦い続けるのである。

「ネイコちゃん、ネイコちゃん! 正義の味方がやってきちゃうよ!」
「ええっ、アン・ゼーン、其れって本当!? 『悪の』プリティ★プリンセスとして正義の味方はやっつけないと!」
 彼女の名前は現場ネイコ。正統派ヒロイン。
『起立! 気をつけ! プリティ☆プリンセス』の正統派の後継作としてファン人気も高いプリティ☆プリンセスのヒロインである。
「もう~! 変な世界に転移しちゃって困っちゃう!
 ネガイちゃんもジコルちゃんも居ないんだから……っ、ううん、でもこんなこと言ってられないよね!
 アン・ゼーン、行くよ! ワールドイーターと共に世界を『安全』に導かないと!
 ――貴方の心に安全確認っ! 今日も、明日も、安全ヨシッ! ご安全に! プリティ☆プリンセス!」


「パラディーゾが出現したの」
 すんっとした調子でそう言った『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)は遠い目をしていた。
 正義国はあろう事か侵略されていた。大司教であるアストリアの構築した『短期未来予測術式』『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』の星詠みを持ってして始めて判明した事実を前に、イレギュラーズはバグを認識し、対抗するべくクエストをこなしている最中だ。
 その最中――パラディーゾと呼ばれた存在がこの侵略に関わっていることが知れたのだ。
「パラディーゾは、現場ネイコさんとおんなじ外見なの。あのね、あのね、私ね、プリ☆プリシリーズが大好きなの。
 それでね、そこに居るパラディーゾはなんて言うか本物の『ヒロイン』のような感じでね……」
 少し早口になったスノウローズがずいずいと迫ってくる。
『ご安全に! プリティ☆プリンセス』のヒロインそのものを演じるパラディーゾは作中の彼女の中まである『看板・ネガイ』と『零回・ジコル』の話に触れながら『悪の魔法少女』として活動をしているそうだ。
「私みたいなガチ勢が居たからネイコさんのアバターにマジっぽい『ネイコ』が顕現したのかな……」
 少しだけ責任を感じるスノウローズは一度首を振った。
「パラディーゾが活動している地域で、彼女を撤退させてワールドイーターを追い払わないといけないの。
 それに関連するクエストを受注するんだけれども……」

 クエスト名:泣き虫フラム
 クエスト内容:フラムはとっても泣き虫。帰るおうちがなくなっちゃったみたいなの……。

「どう考えても、ワールドイーターが飲み込んだことで『迷子のクエストが完了できなく』なってるの。
 このクエストの同行者が何でも屋の笹木花丸さん。花丸さんのR.O.Oでの姿ね」
 正義の街道を歩きながらスノウローズが手を振った。黒衣に身を包んだ少女はスノウローズとイレギュラーズの姿を一瞥してから「どうも」と頭を下げた。
「私たちと、花丸さんで『フラムちゃん』をおうちに返す事が今回のクエストオーダーなの。
 でもね、ワールドイーターを倒すためには必ずパラディーゾと接敵することになる。彼女たちも此処では深追いはしてこないと思うけど……」
 ワールドイーター単体を倒すだけでは終わらない以上は面倒事であるのは確かなのだろう。
「その『パラディーゾ』が何か知りませんが、撤退させなくてはならないのでしょう?」
 花丸は冷ややかな声音でスノウローズへと問いかけた。仕事をこなさねば彼女は病に伏せる妹の薬を購入できない。
 だと言うのに少女フラムが帰る家は歩き回れども辿り着けない。急ぎ、彼女を家へと帰し報酬を受け取って妹の元へと帰らねば。
 その焦燥が花丸を焦らせていたのだろう。現実とは大きく事情を違えた彼女はイレギュラーズをまっすぐに見据えた。
「私はこの仕事をこなさねばならないのです。……協力してくれますか?」

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、よろしくお願いします。

●目的
 クエスト『泣き虫フラム』をクリアすること

●クエスト『泣き虫フラム』
 フラムは8歳くらいの女の子NPCです。彼女は泣き虫でずっと泣いています。
 おうちへと送り届ける簡単なクエストでしたが、どうやら『おうち』が消えてしまったようです。
 フラムは外でえんえんと泣きながら待機しています。スノウローズが護衛に付いていますのでご安心下さい。
 
 ・フラムの家
 フラムの家のあった村周辺です。ワールドイーターの被害を受けており、彼女は帰ることが出来なくなっています。
 ワールドイーターを撃破することでフラムの家を取り戻すことが叶い、帰還させることが可能となります。(クエストクリア)

●『ぱっくりんの世界』
 ワールドイーターの世界です。メルヒェンで可愛らしい空間が広がっています。
 ハートやリボンがちりばめられた女児向け空間の中ではパラディーゾと一緒にワールドイーター『ぱっくりん』がティータイムを楽しんでいます。

 ・ワールドイーター『ぱっくりん』
 ずんぐりむっくりとしたクマです。何処か魔法少女のマスコット風の可愛らしい外見をしています。
 パラディーゾの指示をよく聞き、正義の国を『安全』にするべく食べて行っています。
 可愛い外見をしていますがとっても前衛タイプ。殴って蹴っての大騒ぎです。

 ・パラディーゾ『ヒロイン』&『アン・ゼーン』
 パラディーゾ階位 天国篇第六天 木星天の徒。
 プリティ☆プリンセスシリーズ『ご安全に!プリティ☆プリンセス』の主人公『現場ネイコ』をイメージした明るく元気なパラディーゾです。
 マスコットキャラクター『アン・ゼーン』と共に『悪のヒロイン』として皆さんのクエストを妨害します。危険になると撤退します。

●味方NPC
 ・『笹木 花丸』
 R.O.Oでの笹木 花丸(p3p008689)さん。正義の端の寒村に生まれた人間種の少女です。
 貧しい家族を養い、不治の病である妹の治療薬のために何でも屋を営んでいます。
 根っからのお人好しです。『人の命を奪う』仕事以外は何だって引き受けて来ました。
 時には探偵として、時には交渉人として、時には傭兵として――現実の花丸さんと比べるとシビアで、諦観を感じさせます。
 皆さんと協力してクエストをクリアする為に動いてくれます。戦闘は近接タイプ。指示があればお願いします。

 ・スノウローズ
 外でフラムを護衛しています。打たれ強い泣き虫ヒーラー。

●『パラディーゾ』イベント
 当シナリオでは『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

  • <lost fragment>ご安全に!第23話『泣き虫フラム』完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイ(p3x000395)
自称モブ
リースリット(p3x001984)
希望の穿光
シラス(p3x004421)
竜空
ルフラン・アントルメ(p3x006816)
決死の優花
ひめにゃこ(p3x008456)
勧善懲悪超絶美少女姫天使
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ

リプレイ


 ――絶対、絶対に許さないんだから! ド・カーター! 私が皆を護らなくっちゃ!

 流れる金色は絶対安心の証。勝ち気な瞳に乗せた決意は何時だって彼女を前へ、前へと走らせる。アン・ゼーンと共に戦うその姿は美しい。
 それが『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)の知る『ご安全に! プリティ★プリンセス』
「……私の知ってる現場・ネイコは、どんな時でも優しくて、強くて。
 誰かが泣いていて、心が荒れ果てていてもキレイに舗装して笑顔にさせてくれる。そんなヒロインだった」
『泣き虫フラム』のような女の子がいれば直ぐに抱き上げて、大丈夫だと笑顔を与える女の子。
「あたしもプリ☆プリは見てるけど、その中のネイコさんはすっごく強くてかっこいいの。
 こっちで一緒に戦うネイコさんは……ちょっとたまに『!?』ってなるけど……、強くてかっこいいのは変わらないよ。だから、悪の魔法少女なんて止めてみせるんだ!」
「え?」
 少しだけ『小声』で本音を隠した『大樹の嘆きを知りし者』ルフラン・アントルメ(p3x006816)を振り返ったのは『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)。プリティ☆プリンセスシリーズの一作、『ご安全に! プリティ☆プリンセス』のヒロイン『現場 ネイコ』をイメージしたアバターを纏ったプレイヤーだ。コスチュームはアバター用に変化して、結い上げた金髪がふわりと揺れる。
「何もないよ!」
 首をぶんぶんと振ったルフランは杖をぎゅうと握りしめた。彼女の眼前に存在するのは奇妙なモザイク。涙に濡れた小さな少女がえんえんと大声で泣き叫ぶ奇妙なシチュエーション。『普通のNPC』から見れば長閑な街道が広がったその場所は本来ならば彼女、フラムの家が存在する場所らしい。
「ん、涙拭いてフラム、帰るお家見つけてきてあげる……指きりで約束。よし、帰る子供の笑顔と家を取り戻しにがんばる……」
 指切りをして、『ハンドルネームは』グレイ(p3x000395)は優しく声を掛けた。恐慌に、心を揺さぶられていた少女はグレイと指を絡めて、約束をひとつ。頷いた彼女の背を撫でたのは『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)と笹木花丸であった。
「彼女の事は任せて下さい」
「そうそう! 皆が安心して戦えるように、ここで待ってるから!」
 にんまりと微笑んだスノウローズに頷いた花丸は仕事モードなのだろう。グレイは小さく頷き直し、モザイクを茂みを分けるかのように進み始める。
 桃色の髪をふわりと揺らして。ステップを踏むように『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)は花丸の顔を覗き込んだ。
「お、あれに見えるは笹木さんじゃないですか! おーい! しにゃですよ! アナタの親愛なるしにゃこです!! って言っても判りませんか、ROO内では知り合いではないようですね!」
「……」
 花丸の不思議そうなかんばせにひめにゃこはにんまりと微笑んだ。現実世界では既知でもこちらではそうではない。ソレが良く分かるようで、ひめにゃこは可笑しくなって笑み漏らして。
「という事はひめが毎回ご飯やおやつを強奪してる事は知らない……いやでもこっちの笹木さんにソレするのはさすがに可愛そうですね……。
 大丈夫です、ご安心ください! 今回はひめ達がバッチリ手伝いますからね! 可愛い子の為ならいくらでも頑張れますよ!」
「今のは本物の花丸ちゃんが可愛くないって事かな?」
「い、いや~?」
 誤魔化すひめにゃこはワンターン。くるんと身を翻せばモザイクの奥にメルヒェンが覗いている。パステルピンクに温かな光が陽のように差す女の子の夢の空間。
「いいですね、ピンクフリフリメルヒェン世界! そうは思いませんかスノウローズさん!
 でも残念ながら敵さんの世界なんですよねー。せめてもの手向けとして勧善懲悪超絶美少女姫天使ひめにゃこちゃんが華々しく散らしてあげましょう!」
「可愛い世界だけど、安全じゃないと~」
 メルヒェンな桃色に、フリルやレース、リボンと女の子の大好きばかりを詰め込んだ宝箱。世界に飛び込むひめにゃこは悪役なんて蹴散らせてやると胸を張って。走る背中を見送ってヨシカとネイコが言ってきますとフラムに手を振った。


「これが『プリ☆プリ』の世界……とってもふぁんしーなのです!
 敵は……えーと『ぱっくりん』? 何だか気の抜けた名前ですが、油断せずに戦うですよ!」
『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)は首を傾いで。目に見える世界の鮮やかさは少女趣味そのもの。まるでスノウローズのコスチュームのようだと中を覗き込むミセバヤに「大丈夫?」とスノウローズは問いかけた。
「ここが魔法少女の世界なら、こちらも魔法少女ぱわーで対抗なのです! 雪k…「あああああああッ!!」
 ――スノウローズさん! 自分は今から『魔法少女スノウローズ』の『マスコット』になるです。だから命令して下さい、『敵をやっつけろ』と!
 その内にある熱い魔法少女魂をミセバヤにぶつけて欲しいのです! 共にハッピーエンドを掴み取るですよ!」
 胸を張ったミセバヤにスノウローズは頷いた。少し叫んだのは女の子の秘密。
「私はフラムちゃんを護るわ! だから、ミセバヤちゃん、それから、皆!
 ド・カーターを、それから、メイワークでアークダーク、ドトウノキョウテーキを! 倒してきて!」
 歴代敵の名前を叫んだスノウローズに背を押されてワールドイーターとパラディーゾの居る異空間へと踏み入れた『竜空』シラス(p3x004421)は圧倒されて息を呑む。慄くように身を逸らし、ごくりと息を呑んだシラスは一面のファンシーさに頭痛を覚えた気さえしていた。
(部屋一つなら可愛いもんだが、辺り一帯となると何か当てられる心地だ。早くターゲットを倒して元通りにしないと……)
 ふんわりと由来だリボンには可愛らしい花が飾られている。少女の夢を閉じ込めたしゃぼん玉の中ではお姫様のティアラにネックレスが鮮やかに光を帯びていた。
「『パラディーゾ』……戻れなくなっていた皆の偽物、あれが翡翠をかき回していた『敵の尖兵』の正体ですか。そしてワールドイーターを率いる、私達の敵」
 それから――ここが『プリ☆プリ』と呟いたリースリット(p3x001984)は「はあ」と息を吐いた。紅玉の瞳が見遣れば、少女趣味の世界からひょこりと小さな何かが覗く。それはマスコットだろうか。ヨシカが「アン・ゼーン!」と指させば、小さな生き物は慌てたように走り出す。
「たいへーん! たいへん! ネイコちゃん! 敵が来たよ~!」
「ええっ、もう!? どうしよう、アン・ゼーン……ううん、困っては居られないよね! 行くよ!
 ――プリティ☆プリンセス! 今日も、明日も~~安全確認ッ! ヨシッ! 夜道も輝く、一等星! プリンセスルミナス!」
 まるでアニメーションムービーを見せられているかのような非現実感の中、ヨシカは立ち竦んでいる。ルフランは「すごい」と瞳を輝かせて。
「成程……変身シーンまで再現……いえ、『安全』……。『安全』か。
 言葉は通じているように見えても、まるで話が通じていない感覚。依って立つ土台がそもそも違うからなのか、それとも……」
 リースリットにとってはキャラクターの成り立ちにより使われた文言が通常の語彙の意味とは懸け離れていることが恐ろしく感じられた。
 可愛らしい変身シーンにひめにゃこがブーイングを送る様子を眺め、リースリットはまじまじと見遣る。彼女は、屹度、『バグ』によりそうすることが求められたNPC――まじまじと見遣ったネイコはごくり、と息を呑む。
「本当に本物の『ネイコ』さんなんだね……。今の私と同じ姿をして居るや」
 ネイコは傍らで呆然とその様子を眺める花丸を――この世界の『自分』を見つめた。その瞳は乾いた砂漠を思わせる。感情の起立はなりを潜め、仕事のためならば一定のラインまでは尽力する。思う事はある。けれど、困っている彼女を放っておけないのは本当の気持ち。
「――マルっとお任せ……何て、今は言えないけど。それでも全力で支えてみせるよ。彼女の大事なものを守れるように。
 貴女が『悪』を名乗るのなら、今だけは正義を名乗らせてもらうよ。行くよ、ヨシカさん! 皆と一緒に私達で世界の『安全』を取り戻すんだっ!」
「ええ。行きましょう。『ヒロイン』は私たちを知ってるかしら?」
 まるで、物語が進んでから二人が始めて共闘した時のように。ヨシカとネイコは『ヒロイン』の前へと立ちはだかる。
「ねえ、『ヒロイン』。私の事は見覚え、あるかしら」
「……?」
 ヒロインと呼ばれたパラディーゾにとって、プリンセスセレナーデの正体は知る由はない。彼女の魔法少女服は初期デザイン。その頃の彼女は『ド・カーター』の敵幹部セメンテート。
「――だったら、私が教えてアゲル。現場・ネイコの青の瞳は零れ落ちる涙の色じゃない、晴れ渡る空の色だってコトを!
 皆、行くわよ。今日もご安全に、ヨシ! 子守歌を奏でてあげるわ?
 そう、今日の私は未来からプリンセスルミナスを救いに来た愛の戦士……プリンセスセレナーデ!」
 プリンセスチャージで変身した二人へとヒロインとアン・ゼーンを任せて、グレイは『ぱっくりん』を探す。
「プリ☆プリごっこして誤魔化そうとしても私……俺はだまされない。
 君らは変装したメイワークかアークダークに違いない!! ド・カーター以下! 悪い事するヤツは絶対プリ☆プリなんかじゃない認めないそう呼びもしない」
 憤慨するグレイは『可愛い熊』に向き直る。可愛らしい名前ではあるものの、ずんずんと地を踏み締めるたびに大地が揺れる様は『かわいい』からはほど遠く。
「大したパワーだな……よっし、任せろ!」
 竜のからだは力を称えて。白き鱗は鎧の代わりに。シラスは鉄壁たる盾としてその身をぱっくりんへ向けて走り出す。援護しますと囁く花丸のてのひらをぎゅうと握ったルフランは「花丸さん」と呼び慣れた名を囁いた。
「でも、傷が深かったらちゃんと下がってね。帰る場所があるはずだから、無茶ダメ、ヨシ! じゃあ、いこう!」


「貴方達にとっては『安全』なのだとしても、そこに在るものにとってはそうではありません。――消させはしません!」
 リースリットが引き抜いた守護聖剣が鮮やかな光を帯びる。風の精霊が剣へとキスを一つ、魔力は刃を包み込み、風を束ねた剣と為した。
 流れるような、金の髪を揺らがせて、リースリットがぱっくりんへと放つ鎌鼬。
 威嚇をし、引き寄せていたシラスがその到達前に直ぐに地を蹴り跳ね上がる。口を開けば、呼気は雷に変化をしぱちんと音を立てた。
「こんな世界壊しちゃうぞー!」
 杖でわざとらしく世界を壊す『ド・カーター』の真似をするルフランは危険となる自分に注目してとぱっくりんを引き寄せる。
「メイワークを倒そう!」
 ぱっくりんは『どったんばったん大騒ぎ』するはずだと告げるグレイは踏破者の盾を手にその距離を詰める。
「――外で泣く彼女と約束、泣き虫にさせている悪いの、ぶっ殺す!」
 グレイのスキルが光を帯びる。続き走ったルフランは『憧れたプリ☆プリ』のヒロインのように杖で魔法(物理)を叩き込んだ。
「ヨシッ!」
 安全確認は何時ものの通り。
「安全第一! くらえ! マジカル☆ラビット斬!」
 目には目を。マスコットにはマスコットを。ふぁんしーさと脳筋度ならばクマにも負けない。チェック、ヨシッ!
 びしりと指さしたミセバヤはするりと引き抜いた刃を叩きつける。その名も、椿落し。首を落とす仇花の軌跡は鮮やかにぱっくりんを切り裂いた。
 腕を振り上げて、叩きつける。余りにも子供じみた攻撃をシラスは真っ直ぐに受け止めた。
「アン・ゼーン! アン・ゼーン!」。その声はまるで効果音のように。言葉なくとも意思を疎通しようとするぱっくりんの行く手を塞ぐようにシラスは前線へと躍り出た。
 飛び込んでくるぱっくりんが大口を開いている。噛まれようとも容赦はせずに。この竜の体は『強者』の証。
「――俺はしつけえぞ、絶対に離さねえからな! 今だ!」
 押さえつけ、此処は任せろと叫んだシラスにひめにゃこがにんまりと微笑んで。世界には負けじと輝くハートマーク。桃色の気配ニャウコネウムが光線として放たれる。
「其の儘じっとしてて下さいよ? 合言葉はー?」
 ――応える声はなくとも。『ヒロイン』は何時だって笑顔を崩さない。

「平和を作るのが貴方達の使命のはず。なのになんで! 世界を壊すワールドイーターの味方をするの!?」
 ヨシカは唇を噛む。トゥインクルハートロッドは『安全』の光を灯し、『ヒロイン』の体へと叩きつけられる。「セメンテートの『プリティアビリティ』!?」と叫んだ彼女は何処までも物語に忠実だ。
「違うよ、セメンテート。世界を作り直すんだ! この世界は『おかしなこと』ばっかりだから、もっと安全で誰もが笑っていられる世界にしないと!
 ――彼女みたいな子が、泣いている誰もが、救われない。そんな悲しい世界、安全なんかじゃないんだ!」
 声を張り上げた『ヒロイン』のハートロッドが桃色の光を帯びる。
「『悪の』プリティ★プリンセスを名乗っておきながら私達を無視するなんて許さないんだからっ!
 ここから先に――スノウローズさんや皆の大好きが詰まったプリ☆プリを台無しにするような行いをする子は絶対に通さない!」
 ネイコの睨め付けた瞳は燃え滾る焔のように決意が揺れる。結い上げた金の髪、ヒロインの証は淡く桃色に煌めいた。
 プリンセスルミナスは、誰もを照らす星。苦しくとも決して失わない希望の心。
 パラディーゾと呼ばれた天の御遣い。光を纏い、脅威となって世界を害する喰い荒らす者。
「私は負けない……だって、信じられる仲間が沢山いるから!」
 ネイコとヨシカが走り出す。桃色の光は愛を湛えて広がって。地を蹴りターン。踊るように、魅せるように。
 此の儘ではと顔を見合わせた二人へと嘲笑うかのようにヒロインは近づいて――遠く聞こえた勝利の声に足を止めた。
「『パラディーゾ』。貴方達は、何故こんな事を」
 リースリットが、じり、と距離を詰める。彼らの行動には明確な戦略の意図。個の意識がないのは作られた故なのだろうかと見定めるために彼女の紅玉が『ヒロイン』を眺める。
「……私は『ヒロイン』だから?」
 答えになっていない。けれど――
「ルミナス、此の儘じゃ世界が崩れるよ! 逃げよう!」
 世界が崩れ去って行く。腹の内側から溢れ出したデータが世界を構築していく様をイレギュラーズは眺めている。鮮やかに、ブロックが積み重なって――

 気付けば、フラムとスノウローズが。そして、『ヒロイン』の姿は何処にも存在していなかった。


「これで、仕事は終わりでしょうか」
 呟いた花丸にネイコは頷いた。ヨシカは「フラムのお父さんとお母さんも居るみたいね」と安堵したように胸を撫で下ろす。
 シラスがMAPを開けば、先程まで存在した街道は影も形もなく存在せず。村の名前が刻まれている。
「……ワールドイーターを撃破したら元に戻る、か」
 呟く彼にリースリットは小さく頷いた。流石はゲーム。そう口にしたくもなる世界の有様がリアリティを突き放す。
「フラムちゃん、よく頑張ったね。これ、お土産だよ」
 視線を合わせて頭を撫でたルフランの周囲に淡い光が溢れて行く。それは光の花弁となった少女の体を包み込む。「食べてみて」と囁く声音はとっておきの悪戯を込めて。指先で摘まみ上げれば甘ったるい砂糖菓子のように舌先に溶けてゆく。
「あまい」
「でしょ? 花丸さんも、よければ」
「……ありがとう。妹たちにも食べさせたいなあ」
 呟いた花丸にルフランは彼女の境遇が『現実』と違うことを思い出し、その瞳に切なさを乗せる。暗澹の世界を歩く彼女の肩の荷が少しでも下ろせれば。それは、まだ、ずっと時間が掛かるのだろうけれども――

「ふぅ、一仕事した後の雑草は最高なのです。あ、スノウローズさん。『マスコット』の件は今回で終わりじゃないのです。
 だってまだ、全てが終わった訳じゃないですから……次の戦いに向けて、今から『魔法少女ぱわー』を高めておくですよ! ふんすっ!」
 鼻息を吐き出したミセバヤに「ほんと~?」とつんつんと突いたスノウローズは魔法少女になりきれることを喜ぶように。
 此で終わりじゃない。あの『偽物』は何処かへと逃げ果せた憧れを怪我された気がするグレイが口を噤めばリースリットは「パラディーゾとは、難しい存在ですね」と肩を竦めて。
「……でもいいですね、あの二人のコンビ! ひめも相方ほしいかもしれません……
 スノウローズちゃん! ひめの相方とかやってみませんか!?」
 ひめにゃこは瞳をきらりと輝かせて声を掛けた。スノウローズは暫く呆然と彼女を見つめた後――がしり、とミセバヤを捕まえる。
「そうね。うんっ、ひめにゃこちゃんとならとっても素敵なコンビニなれるかも! 臨時で時々結成しましょうね!
 でもね、マスコットはゲットしたのよ。ミセバヤちゃんなの。
 ふふ、ご安全に! プリティ☆プリンセス! 次回、第24話! 臨時ヒロイン就任!? お楽しみに!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はとっても可愛らしいプリ☆プリの世界にご参加頂き誠にありがとうございました。
 スノウローズちゃんは屹度、この後、羨ましいと大暴れするのでしょう。

 フラムちゃんは無事、おうちに帰ることが出来ました。これにて、一件落着……?です。

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