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シナリオ詳細

シーズンオフの怪談 inアクエリア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 月明かりに照らされる海辺、男はそこに女を見た。
 ちょうどこちらに背を向けているのか、ふわりと髪のようなものが靡いている。
 海水浴場としてはシーズンを終わらせている今、そもそもそこに女がいること自体が不自然だ。
 だが、こんな夜中、夜の海へと入っていくその姿。
 それはまるで、自ら命をなげうたんとしているかのようにさえ見える。
「おーい! 待ちなよ、お嬢さん!
 早まっちゃいけねえ!」
 男は気づけばそんな声を上げて、女の方へ走っていた。
 海水に濡れることなど知った事ではなかった。
 人命の関わることだから、というのはもちろんあった。
 同時に、『ここで死なれちゃ困る』という管理者としての気持ちも微かに入っていたのだろう。
 男の足は速く、ゆるゆる進んでいるように見えた女の肩を、トン、と掴んだ。
「おい、あんた――は?」
 それによって、女が揺れた。
 そう、揺れたのである。
 それも肩を掴まれて、上半身だけ引っ張られたようにではない。
 それはちょうど、『上から吊らされた人形の肩を強く叩いた時のように』横に揺れた。
 男が意味も分からず声を漏らし、状況に気づいて背筋を寒いものが駆け抜けるのとほぼ同時――男の視界は、真っ黒に覆いつくされた。
 それ以来、男の行方はようとしてしれない。


「――という時期外れの怪談がアクエリアにて流行っております」
 アクエリア島は『静寂の青』と呼ばれる海洋と神威神楽との間に存在する広大な海の中継地点の1つ。
 冠位魔種やあの竜との決戦地となったフェデリア島とその海域と並ぶ航路の重要拠点である。
 そんなアクエリア島の一角に、長旅の疲れをいやすために作られたレジャースポットと海水浴場のようなものがある。
 もちろん、極めて簡素であり、大きさもそれほどではないのだが、目的もあって繁盛しているらしい。
「そんな場所の1つで、この怪談は始まりました。
 もちろん、最初は根も葉もない噂、戯言だと思われていました。
 ですが、どうにも実際に被害者が出ている『本当の話』の可能性がある、という事になりまして」
 情報屋のアナイスは、淡々とちょっとしたホラー話から始まり、さらりと状況の説明を始めている。
 その手の怪談なんて、実際に事件の数々を扱ってる身からすれば今更なのか、あるいは信じてない口なのか。
「そして調査と情報の精査を重ねた所。
 この怪談は『狂王種が絡む実際に起きている話』が現在進行形で伝聞調に伝わってしまったもの、との結論に至ったのです」
 徹頭徹尾を淡々と説明した彼女は、そのまま本題、とばかりに資料を手渡してくれた。
「皆様、チョウチンアンコウはご存知でしょう。あの、疑似餌を使って獲物を誘い、パクリといくお魚です。
 先のお話に出て参ります『女』が疑似餌に当たるものなのです。
 こちらに背中を向けて海に向かっていく人間を見たら、止めたくもなろうというもの。
 その性質を利用して、近づいてきた人間が『女』に触れた所で――」
 開いた手で、さっと拳を作る。
「ぱくり、と。隠れていた本体が捕食してしまうわけです」
 そう言って一つ呼吸を入れると、残念そうな表情を浮かべ。
「既に、この狂王種のものと思われる被害がいくつか発生しております。
 もちろん、中には夜逃げや何らかの手違いなどもあるでしょうが。
 これに襲われた人も多いと考えております。
 どうか、討伐のほど、お願いします」
 実際に思い悩んでいる人を見殺しにする形になりかねぬ以上、注意喚起を徹底するというのも難しい。
 一番手っ取り早く解決する方法は、やはり狂王種を討伐するのが一番だ。

GMコメント

 さてこんばんは、春野紅葉です。
 砂浜近くで潜む深海魚とは? といった感じではありますが、そこはそれ。狂王種ゆえというやつです。

●オーダー
【1】『女形餌』ジョコウの討伐。
【2】海の亡霊の討伐

●フィールドデータ
 アクエリア島内部に存在する砂浜。
 本来であれば停泊中の船の乗組員などが海水浴なり休憩なりを楽しむために解放されていた場所です。
 足場が砂浜と遠浅の海辺のため、対策がない場合、機動力や反応、回避に手間取る可能性があります。

●エネミーデータ
・『女形餌』ジョコウ
 姿形は鯨並みの大きさをしたチョウチンアンコウです。
 戦闘開始時には疑似餌を外に出して潜った状態です。
 何らかのアクションを起こして疑似餌に衝撃を与えると、触れた物を捕食するために頭部を見せます。
 少なくとも、大の大人を容易く一口で丸呑みできる大きな口を以っています。
 疑似餌への衝撃は『誰かが触れる』正攻法の他、遠距離からの攻撃による衝撃も可能とします。
 ただし、普通にやったら捕食後すぐに戻ってしまいます。
 誰かが囮になるなどしてブロック等、逃げないようにしてもらった方がよろしいでしょう。

 強靭な顎によるかみ砕き、巨体を駆使しての突撃のほか、口に含んだ大量の海水を放出する【貫通】攻撃などを有します。
 鋭い歯が【出血】系列をもたらすほか、電気袋があるらしく【痺れ】系列のBSを持ち、疑似餌の独特な動きが【混乱】を誘います。

・海の亡霊×3
 ジョコウの被害者と思しきゴースト的存在です。
 怨念的な存在で、皆さんを仲間にしようと誘っているようにも思えます。
 怨念らしく憑りつくような至近距離での抱きしめの他、呪詛を囁いてきます。
 抱きしめは【狂気】、【呪い】をもたらし、呪詛は【摩耗】【AP吸収】を持ちます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • シーズンオフの怪談 inアクエリア完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月11日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


 砂浜は穏やかな波が打ち付けている。
 時は夜半、月の灯りが砂浜を照らしている。
 南国なれど夜という事もあっていっそ過ごしやすい涼しさを感じさせた。
 そんな浜辺を、少しばかり緊張した面持ちの『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が浮かんでいる。
「きょ、巨大肉食魚……わたしも、なんど、煮え湯を飲まされたことか、わかりませんの……!」
 言葉にはいくらかの震えを伴いながら、ぎゅっと握った手に力が籠っていた。
「でも……召喚前の、わたしとはちがって、いまは、わたしが、煮え湯を飲ます番ですの。
 さあ、わたしの、半生の集大成……うけてみると、いいですの!」
 珍しく、めらめらとノリアの瞳は燃えているように見えた。
(夜の海に沈んでいく女、か。
 ……正体がわかっていても、色々思い出しちまう以上、いつまでも眺めていたいようなモンでもねぇな)
 考えるまいとしても――いや、考える前にも、眼を閉じればその姿は浮かんでくる。
 取り出した煙管の先端に火を入れて、ゆるりと燻らせていた『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は首筋に手を当てて、少しばかり深く呼吸を残す。
 あれは、もう終わった。終わらせた景色。
 あれとは全く違う由来であっても、どうにも思い浮かぶのは止められないらしい。
「にしても、幽霊の正体見たり枯れ尾花、とはよく言うが……やれやれ、こいつはある意味幽霊よりたちが悪いぜ」
「蓋を開ければただの狂王種退治ってわけっスね。
 いつもの厄介事には変わりねぇし、迷惑な人食い魚はさっさと退治するっスよ」
 砂浜に転がしたサッカーボールでやんわりと遊びながら『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は思う。
「怪談の正体が魔物っていうのはあるあるではあるけど……
 せっかく平和になった絶望……じゃなくて静寂の青で問題が起きてるなら解決しないとね」
 指揮杖を片手に『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は思う。
 かつては絶望を冠していたこの一帯。
 今は静寂と名付けられてこそいるものの、その実は最も大きな脅威を終わらせただけにすぎない。
 未だに狂王種は海上、海中に数多く生息しているのだから。
 それらが人々の生活圏を蝕む以上、倒さない選択肢はない。
「アンコウは骨までおいしいけど、人を食べたアンコウを食べるのは気味が悪いな
 ……とかなんとか言っていても始まらないよね」
 そもそも、とてつもなく大きなチョウチンアンコウとはいえ、相手は狂王種――果たしてそもそも食えるのか? という疑問もありはするが。
「どうあれ、まずは人食いアンコウを成敗してやらなけりゃね」
 術式を展開すると共に、砂浜を軽く蹴って低空に浮かび上がり『若木』秋宮・史之(p3p002233)は海上の方へ視線を向ける。
「混沌では割とよくある怪談話……と思ったら原因が思ったよりだいぶ物理的だったというわけなのです?
 正体が分かった方がより怖いやつなのです」
 霊現象のたぐいであると説明されていた方が、現実味が無くてマシというものか。
 メイド服を海風に晒す『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は首を傾げ。
「ともあれ、お化けだろうが人食い生物だろうが、焼いてなんとかなるなら排除するのです。
 犠牲者と思しき方々の魂に、焔色……でなくとも、相応の安息がありますよう」
 一応黙とうをささげる中で、一際強い風に目を閉じた。
「……無念な食われ方だったから亡霊が残っちゃったのかな。
 心配して寄ったら食われるなんて、理不尽だよな」
 景色を眺めていた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、海の方を見ていると、不意に嫌な感覚に襲われた。
 いつの間にか姿を見せた、海の方へ歩いていく女性の後ろ姿。
 その女性を誘うように、海の向こうへ、人影が3つ。
 それは手を前に掻くようにしておいで、おいでと誘っているように見えた。
 向こう側が見えるその存在が、いわゆる現世の存在などではないことは見れば分かるというものだ。
「今、綺麗さっぱり終わらせるから、安心して成仏してくれ」
 静かに、祈るようにして細剣を抜いた。
「海洋には凄いおばけがいるのね……! でもルシェ負けないわ!
 これ以上ぱくりされる人出させないのよ!」
 月明かりに反射するブレスレットが『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)の動きに合わせて揺れる。
「おーい、こっち向け、向かなかったら今からボールぶつけるっスよ」
 海へ向かう女性の影の方へ向けて、葵が声を上げる。
 返答はなく、ゆっくりと女性は海の方へ動き続けた。
 ノリアは深呼吸をして自分を奮い立たせると、隙だらけに疑似餌へと近づいていく。
「……あの、そっちは危ないですの。止まった方が良いですの」
 ゆらゆらゼラチン質の尻尾を揺らしながら、ポン、と女性の肩を叩けば、女性の身体が振り子のように横に揺れた。
(さあ、存部に来るといいですの!)
 まるで『うっかり疑似餌に触れてしまった愚かな女』にしか見えない仕草を見せつけた時だった。
 反射の如く、黒がノリアの視界を覆い――その体を覆う大いなる海の水が棘のように黒――口の中に突き立つ。
 背後、綺麗な月明かりの下へ、ノリアはすぐさま後退する。
 その場にはのたうつ巨大な顔が見えた。
 海へ引っ込もうとした巨大な顔――もとい巨大なチョウチンアンコウ、ジョコウへと、影が走る。
「逃がさないのです!」
 飛ぶようにして走りだしたクーアは、海の方へ。
 遠浅の海を踏みしめて、疑似餌へを形成する、にゅっと伸びた触角をむんずと握る。
「獲ったどーなのです。ねこの瞬発力、見たかなのです」
 ジョコウの身体は見えない。
 顔から逆算すれば、身体のサイズは小型の鯨ほどありそうだった。
 それを考えれば、今クーアが立っている海辺の下にもこいつの身体は埋まっているのだろう。
「うわ……」
 顔だけ出してじたばたと暴れるジョコウを見て思わず声を漏らした葵は、グローリーミーティアSYを真っすぐ上に放り投げる。
 少しばかり足を砂浜にとられながらも、跳躍。
 オーバーヘッドから思いっきりボールを蹴り飛ばす。
 魔力を帯びて強化された脚力より放たれたボールは文字通りの弾丸となり、真っすぐにジョコウの頭部目掛けて炸裂する。
 ボールは大口の開いたジョコウの口の中へと叩きつけられ、痛みからか大きくその身体が揺れるのが見えた。
 一瞬の攻防で動きを止められたジョコウの周囲には3体の亡霊。
「……気が散ってしょうがねぇや」
 ふぅ、とため息を吐いた縁は、胸いっぱいの煙を吐き出してから煙管をしまいこみ、代わって抜き払うはワダツミの太刀。
 美しき青は海を反映するように妖しい輝きを帯びている。
 駆け抜けるや足元を海へ浸しながら太刀を振り払う。
 斬撃は横一線を切り結び、偶然遠くにいた者を除いて2体の注意を縁へと集中させる。
 誘うような憎しみが縁への単純な怒りに聞こえ出す。
「おう、お前さん方の仇は、しっかりとってやるからよ。
 ……だから、安心して成仏してくれや」
 愛刀を構えて告げた言葉は、亡霊に届いただろうか。
「成仏しますように……」
 アクセルは握りしめた指揮杖に魔力を籠めていく。
 魔力の込められた指揮杖を宙を拡販するように振るえば、魔力は楽譜を描きだす。
 鮮やかな旋律を紡ぐ楽譜は術式として構築されていき、亡霊たちの頭上に陣を描く。
 瞬く光はネメシスの閃光。
 邪悪を払う神聖なる光の裁きに、幽霊たちはどことなく強い反応を示す。
「よし、1体ずつ着実に――だね」
 史之はびょうと飛翔して、特に縁が行なったヘイトに反応しなかった個体の方へ近づいていく。
 そのまま愛刀に魔力を籠め、振り抜いた。
 極めて微弱な太刀筋は、亡霊の身体を傷つけるには足らないが、その意識をこちらに向けるには十分すぎる。
『おぉぉぉぉ』
 怨嗟に満ちた、どこか苦し気にも聞こえる声で唸る亡霊が史之の方へ近づいてくる。
 覆いつくすように亡霊が抱き着いてくる。
 全身をおぞけが走る。狂気に満ちた声を振り払って、史之は向かい合う亡霊に刀を構えた。
 別の方向では、縁の方へと2体の亡霊が近づいて取り付くように覆いかぶさった。
 縁へ襲い掛かった亡霊にイズマが走り出す。
 その手に握る細剣が闘気を帯びる。
「任せてくれ」
 美しき明星を抱く剣身が輝きを増せば、振り抜く斬撃と刺突の乱舞が撃ち込まれていく。
 それは夜の海辺の景色を反映するように、軌跡を彩り、亡霊の身体を構成する魔力のようなものが溢れ出す。
 乱舞は一度でおらわず、連続して亡霊の身体を切り裂き、貫いていく。
 ノリアの視界に映るは揺らめく疑似餌。
 チョウチンアンコウがかぱりと大きく開く。
「ふふん、この程度ではあきらめたくないくらい、わたしがおいしいのは、知っていますの。
 さあ、おいかけてみると、いいですの……わたしは、浅瀬や、陸でも、およげますけれど、あなたは、はたして、どうでしょうか?」
 おめめグルグルなノリアの挑発に答えるように、ジョコウが大きく口を開いて――がぶり。
 伸びた水の棘がジョコウの口の中に突き立てば、その身体がのたうち回る。
 水球のまま、するると胃の方へ探検したおめめグルグルのノリアは、熱水噴出杖を突きつけて、高圧水流を突き飛ばす。
「うわわ!?」
 一方、むんずと疑似餌を掴んでいたクーアは地震のようなものを感じたかと思えば、地面が隆起する。
 そのまま、ジョコウの身体が海面へと浮かび上がる。
「食べるなら、おいしくあじわって、くださいですの!!
 丸のみなんて、ごめんですの!!」
 高圧水流の勢いに押されるようにして外に押し出されてきたノリアの混乱ここに極まれりな声が響くのだった。
「ノリアの姉さん! 大丈夫!?」
 ルシェはそんなノリアの混乱した様子を見て声をかける。
 桜の花をモチーフにしたブレスレッドがその想いに導かれるように淡い輝きを放つ。
 月光に満ちた戦場に優しき慈しみの雨が降り注ぐ。
 ルシェの祈りの欠片が反映した温かい輝きは、混乱するノリアに平常なる精神を取り戻す。

 亡霊退治は手早く片の付くものだった。
 ルシェの歌が月夜に響き渡る。
 少女の歌声は仲間達の傷を癒し、疲労感を取り除く治癒の祝詞である。
「亡霊さん達、寂しいからっておばけお姉さんのお手伝いして同じレベルに下がっちゃダメなのよ!
 後で、出来る限り亡霊さんたちのことがわかるもの探して、亡霊さんたちの家族に渡せるようにルシェたち頑張るわ!
 だから亡霊さんたち、寂しくて冷たい場所じゃなくて、あったかくて安心できる場所で眠りましょう?
 亡霊たちを叱咤するように、そして慈しむように告げた少女の言葉は、既に消滅している亡霊に届いているのかは分からないけれど。
「……お休みなさい」
 最後に、鎮魂を思う少女の言葉はきっと届いているはずだった。
「やっぱあの疑似餌が邪魔っスね」
 ころころとボールを砂浜に遊ばせながら、葵はじっと疑似餌の方を見る。
 揺らめく疑似餌は見ていると何やら引っ張られるような感覚さえある。
 真紅のガントレットを嵌めた手でボールを拾い上げると、お手玉のように両手で行き来させて砂を払い、頭上へ放り投げる。
「行くっスよ――」
 跳躍して、オーバヘッドで叩きつけるは一条の弾丸。
 戦場を駆け抜けて狙い澄ませたのは疑似餌そのもの。
 叩きつけられた弾丸そのものといえるサッカーボール。
 吊り下げられた疑似餌の中身がかなり軽いのか、苛烈なボールの勢いに合わせてぐるぐると縦に回転するばかりだった。
 ボールは疑似餌を通り過ぎて、そのままジョコウの頭部に突き立つように炸裂する。
「海釣りは元来ひとたる我々の領分。
 本日はひとではなく狂王種の大捕物なのです!」
 疑似餌の触角部分をむんずと掴んだまま、クーアはその手に雷を纏う。
 バチリと音を立てるジョコウめがけて振り下ろす掌底が衝撃と同時に稲妻の奔流をその全身へと伝えていく。
 稲妻はジョコウの全身へと隙間なく迸り、のたうつアンコウがびたんびたんと身体を地面にたたきつけ始める。
「大人しく――するのです!」
 着地して、クーアは声を上げた。
「待たせちまったか。加勢するぜ。
 ――さっき、あいつらにも仇は取るって言っちまったからな」
 届いたのかは分からぬ亡霊への言葉を果たすように、縁はワダツミの刀身に二種類の魔力を纏う。
 壱は赤く。弐は黒く。
 複雑に絡み合いながら剣身を揺蕩う魔力は、毒性を帯びた炎。
「さっきの見た感じ、打撃には強いんだろうが、切断はどうだ?」
 振り抜いた斬撃は疑似餌ではなく、疑似餌を繋ぐ触角へと伸びていく。
 黒を覆う赤き斬撃は、触角の半ばからスパンと斬りはなして疑似餌を切り落とした。
「そんなに大きいなら――これはどう?」
 アクセルは移動してジョコウの正面まで構えた。
 指揮杖を振るい、空気中の魔力と自身の魔力をかき集めながら、纏う魔力を杖の先端へ集めていく。
 充実した魔力を圧縮して小さくまとめ――えい、とばかりに投擲。
 放たれた魔力は砲撃と化してジョコウめがけて直進する。
 攻撃をしようとしたのか、あるいは元からそうなのか、半開きの口の中へ入り込んでいった砲撃は、やがてジョコウの尾びれ付近の肉から貫通して消えていった。
「それだけの大きさなら――これは効くんじゃない?」
 愛刀を構えた史之はその剣身へ不可視の魔力を纏わせていく。
 振り払った斬撃は魔力によって隠匿され、風を切ってジョコウの口の中へと入っていく。
 そもそも回避のような行動をしていないこともあり、打ち上げられた形のジョコウは逃さずの斬撃を身体の奥へと呑み込んでいく。
 今頃は斬撃の刻まれたところから毒が全身へと浸透しようとしているところだろうか。
「あとはお前だけだな」
 イズマの握りしめる細剣に闘気が集束する。
 夜空に流星を描くように振り抜いた斬撃は、海辺を断つように走り抜け、ジョコウの身体に傷を入れる。
 衝撃を受けたジョコウの身体が微かに揺れ動く。
 それを見た頃には、イズマは次に映っていた。
 闘志に包み込まれた細剣は夜空よりもなお暗き漆黒へとその剣身を覆いつくされていく。
 身体を引いて、撃ち抜くように叩きつけた刺突から、濃密なる闘志が走り抜ける。
 行く先を塗りつぶすような純黒の斬撃は、動きの鈍ったジョコウの腹部を抉り取る。


 それから少しして、ジョコウの身体が横たわったまま動かなかくなった後、史之はその身体に近づいていた。
 あまりの巨体ゆえに引き上げるだけでも一苦労だったが、引き上げた後、太刀を入れてそのお腹を掻っ捌いた。
「……被害者の遺品があればいいんだけど」
 呟いて、史之は中へと入っていく。
「史之お兄さん、大丈夫かしら?」
 その様子を見ながら、ルシェは思わずつぶやく。
 ルシェも遺品がないかと探す予定だった。
(……家族もずっと心配してると思うし、遺品とかがあればいいんだけど……)
 ぎゅっと握る手は少しばかり震えていた。
 イズマは転がる触角に触れてみた。
 触角の形状は独特だった。
 今はスパンと斬り放されているが、もしも疑似餌があれば太い部分は疑似餌に隠れてしまう。
 全体的に暗い色をしており、先端に行くほどに細い部分は正面からでは夜には到底視認できまい。
「……アンコウって食べられたっけ」
 食べれはする。それも全身くまなく。
 流石に人を食って成長してきた狂王種を食いたいとは到底思えなかったが。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
発見された一部の遺品は、後に被害者の遺族に手渡されたようです。

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