シナリオ詳細
<Closed Emerald>死者の剣
オープニング
●
あれはどれくらい前の話だったか。
そうは遠くないが、昨日今日の近さでもない。
「……誰だ」
砂漠の只中に放棄された小さな遺跡。
月明かりの下、どこからともなく姿を見せた影に、大太刀を背負う女が声を上げる。
「初めまして。――――と申します。
砂嵐に所属される姉弟の傭兵、アンドレア様とクルト様ですね?」
その言葉を聞くや、女――アンドレアが大太刀に手を置く。
「警戒なさらないでください。今日はお二人と死合うために来たのではありませんから」
そう言いながら、女がちらりと後ろを見る。陰に隠れるようにして立っていたクルトが、そっと姿を見せた。
「――今日はお二人にとっておきの情報を差し上げに参りました。
知ってますか? この世界が虚構であること」
「……何の話だ? その手の妄言が通じると思うな」
「ふふ、そうですよね……ですが、お二人は見たことがありませんか?
確かに昨日斬ったはずの相手と、少し前に斬ったはずの相手と、何度か戦ったことはありませんか」
女の問いに、アンドレアは思わず太刀から手を離す。
「たしかに、何人か覚えがありますが」
変わって答えたのは、アンドレアではなく、クルトであった。
「でしょう? それもそのはずなのです。
彼らはこの世界の者ではない。いわば魂だけこちらに連れてきている、そんな者達なのです。
こちらから彼らを直接殺すことは今の時点では難しいのですよ。
――どうです? 私の事を信じて頂けるのでしたらお二人により一層、強い彼らと戦う場をご提供しましょう」
それは甘言だった。
分かり切った罠のようにも見えた。
だが――私は、私達は、あまりにも飢えていた。
もっと戦いたい――もっと殺し合いたい。
無窮に戦場を駆け抜ける。
ただそれだけが、この商売を始めてから思うことだった。
――だが、それは。
「あちらの世界は、この世界と似たような光景と共に、この世界にいる人間と同じ、けれど違う者達がいるのです。
もちろん――その中には、貴方達もいたのですよ」
「いた、ということは」
「――アンドレア様、クルト様。ご姉弟は二人とも、別々の戦場で討ち死にしています。
運が良ければ――お二人の死に関わる人間と、戦場で会うことがあるやもしれません」
穏やかに、淡々と女はそう告げる。
「アンドレア姉様、少しばかり、乗ってみるのも一興でしょう」
「――それは、勧誘か、それとも、依頼か?」
クルトの言葉を遮るように、アンドレアは視線を女に向ける。
「そうですね……では、ひとつ。ここは依頼、ということにしましょうか」
「ならば、受けるだけだな。何をすればいい?」
「時が来たら、お教えしますよ」
そういうや、女の姿は消えた。
――その日は、珍しく武者震いで手が震えたのを、覚えていた。
あれからどれだけ経ったのか。
一度、女の言う通りに動いて、8人ほどの者達と戦うことになった。
直接、手合わせをした者は1人だったが、あれだけの実力者がもっといるのであれば、と。
抑え込んだ心が騒いだのを覚えている。
「アンドレア姉様。あの女が仕事を持ってきました」
「そうか……なんと?」
「今回は、翡翠の木を傷つけ、そこから出てくる大樹の嘆きを斬り伏せろと。
きっと彼らは、それを止めに来るから――とのことです」
「せっかくだ――私達を殺した奴に、挑戦状を出したいものだな」
「では――こういうのはどうでしょうか」
少し考えた様子を見せたクルトが告げた言葉に、アンドレアは薄く笑った。
●
突如として発生した、翡翠――現実世界で言うところの深緑――の国境閉鎖。
それは、現実のそれよりも遥かに排他的にして過激な性質を持つ翡翠にしても、あまりの唐突さは『何かしらの異常事態』の印象を与える。
それが故に行われたイレギュラーズによる調査の結果、現在翡翠には『よそ者』による攻撃が与えられていた。
傷つけられた大樹が起こした『防衛機構』ともいうべき『大樹の嘆き』に関して、イレギュラーズは対応を続けてきた。
そんな中、遂に翡翠は正式に『国境封鎖』を完了させんとし始めた。
それと同時、余所者――すなわち、バグによるNPC達は、本格的に動き出した。
主軸となっているのは度々プレイヤー達の前に姿を現していた『ピエロ』と――新たに判明した、『バグ陣営』の存在、『パラディーゾ』
それは、ログアウト不可能状態のイレギュラーズを解析、再構築して生み出された新たな兵士達であった。
そんな中、停止されていた翡翠各地のサクラメントが解放され、緊急クエスト『Closed Emerald』の表示が、ゲーム画面に輝いた。
『私を殺した武人へ』
――それは、件の翡翠からのSOSの1つに紛れるように刻まれていた、挑戦状であった。
『私の名はアンドレア。
現実世界では、私は既に君達によって討ち取られたと聞いた。
教えてくれ、その武器を持って。私がどのような死にざまであったのか。
あるいは、どのように私と戦ったのかを。
――さもなくば、私は20人ほどレンジャーを殺すことになる』
堂々たる挑戦状。
その文面を見るに、相手は現実世界を知るバグNPCに間違いなさそうだった。
- <Closed Emerald>死者の剣完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年11月09日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
喧騒が瑞々しくも歴史を語る大樹の狭間を裂いて響いている。
「んー。これはこれでぇ自分たちの死を大切にしてるってことにぃなるのかなぁ?」
ゆらゆら動く『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)はその様子を眺めつつ、クエストに刻まれていた敵からの挑戦状を振り返る。
新手の登場にレンジャーの気配が変わる。
あれは、動揺と、敵愾心と、疲労か。
「まぁ、どうであれぇ、あのヒト達にはぁエイラたちにもぉアンドレア達にも手出しして欲しくないよねぇ。
最悪ぅエイラ達以上にぃアンドレア達に攻撃して欲しくないかも。
アンドレアたちぃ自分で仕掛けといてなんだけどぉ、エイラ達との戦いに興が乗ってきたらぁ警備隊を邪魔に思うかもだしねぇ」
その全身に電気を纏いながら、エイラはのんびりと思う。
ゆらりと、けれど戦場のど真ん中を突っ切るようにしてアンドレアの前へ立ちはだかる。
その金色の瞳を以って、アンドレアを見据えれば、まるで興味なさそうにレンジャーを見ていた彼女の眼に闘志が映る。
「やっと来たか。攻めかかられた故、少しばかり始めてしまっていたぞ。あと15ほど残っているが」
エイラの言葉に興味を持ったらしいアンドレアがエイラの方へ身体を向けてくる。
「エイラはぁ口で語れる縁はないからぁ。武を以てぇ応えさせてもらうねぇ」
「――なに、口だけできいてもつまらぬ。武を以って語るのは本望よ」
(異なる世界、異なる自分の事、関心を抱く気持ちは理解出来ますが……。
さて、どうやってそれを知ったのやら)
エイラとの交戦に入ったアンドレアを見ながら『月光』星芒玉兎(p3x009838)は彼女達に現実世界の事を『教えた』という相手の事を少しばかり考えた。
「まずは警備隊の方々と仲良くなるところからですわね」
ぴょんと跳躍するように走り抜けた玉兎は、その脚でレンジャー部隊の前へと歩み寄る。
「わたくし共はイレギュラーズ。そちらとの交戦の意思はありません。
これより傭兵姉弟との交戦に入りますが、手出しなさらぬよう。
やるにしても、わたくし共か、傭兵姉弟のどちらかが倒れた後にすることを薦めますわ」
それだけ告げて、頭上に氷で出来た大輪を呼ぶ。
生み出された冷徹なる氷輪は光を湛え、クルトを蒼き光で照らし付ける。
反撃の剣撃に身体を撃たれながら、玉兎は場所を移動しようと動き出す。
「私達はあの2人を撃退しに来たのであって、森を害する意思はないよ。
あれは私達にとっても貴方達にとっても、なかなかキツい相手だよね。
まずは彼らへの対応を優先して、貴方達と私達の話はその後で、にしない?」
玉との言葉に付け加えるように『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)はレンジャー部隊へと声をかける。
ついでに傷を癒そうとは思ったが、幸いなのか否か、電子の海へ帰った5人以外はそれほど傷がない。
(彼らはあちら(現実の話)は理解出来ないだろうし、
彼らの安全を考えれば持ち出すべきではない)
それがイズルなりの考えだ。
イズルは取り出した薬品を光晶翼にしみこませて、一気に射出する。
放たれた翼は一斉にクルトの頭上へと集まり、降り注ぐ。
幾つかの翼は地面へと落ちていくものの、多くはクルトの身体を裂いていく。
直後、イズルの身体に微かな傷痕が刻まれる。
「どうしてここの敵は現実じゃないのを悔やむのにゃ、普通に過ごしてればかわらないだろうに、
そんなに自分の居る影響ってのを残したいものなのかにゃあ?」
分からない、と疑問の尽きぬ様子の『夢見リカ家』神谷マリア(p3x001254)だった。
ただ、一つだけ、少し気持ちが分からなくもないところもある。
「ましてや別の世界で殺された相手と戦いたいなんて……バトル馬鹿って言う奴なのにゃ。
にゃから、せめてお望み通りすりつぶしてやるにゃよ!」
クルトの眼前へ飛び込むように姿を見せる。
「マリアの爪とそっちの剣、どっちが早いか勝負にゃよ!」
金色の猫眼が妖しく輝いた。
拳を握るようにして放たれる斬撃が残像を描きながら紡がれていく。
それは敵の守りを無視して切り拓かれる斬撃がクルトの身体を縛り付ける。
刻み付けた連撃に合わせるように、クルトの反撃がマリアの身体を斬りつける。
「速い方が多いですね。さて――ではどなたから始めましょうか」
連撃を浴びたクルトが小さく笑む。
緩やかに笑いつつも、その視線は一番近くにいるマリアを見ていた。
「話には聞いていたけれど。アンドレアにクルト……本当、懐かしい顔ね。
ご招待いただいたので……ええ、参りました。貴方達ではない貴方達を語る為に」
イレギュラーズ側の連撃と姉弟の攻撃の合間、リセリア(p3x005056)はクルトの前に姿をさらす。
「アンドレアは……リュカさん、暫しお願いします」
既に交戦を開始しているエイラにも視線をやってから、リセリアはリュカへ告げる。
「自分より強いやつと戦ってみてぇって意味ならわからねえでもねえか」
短く頷いた『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)が走り出すのを見届けて、改めてクルトに視線を向ける。
「改めまして――貴方が斃れた戦場には縁が無かったので、最期には立ち合えませんでしたが……
戦いを邪魔する余計な囁きを、腕を切り落としてでも跳ね除けて最期まで戦い続けたと聞きました」
「そうですが……たしかに、私らしいといえばらしいですね」
握られた双剣が興味を持ったことを示すように微かに起きる。
「貴方は、此方で言う『砂嵐の砂蠍に雇われた傭兵』として『伝承に攻め込んだ』のですよ」
手にした愛刀を、一気に振り抜いた。
銀の閃光が走り抜け――合わせるように双剣が動き出す。
「そういえば、それに近しいことはやりましたね。こちらでも」
その言葉を聞いて、そんなクエストが発注されていたことを振り返る。
その時は参加できなかったが。
走り抜けたリュカはエイラと構えているアンドレアの眼前へ。
「よお。俺はお前を殺したやつじゃねえけどよ。ちっと付き合えよな」
「良いな、そう言う気迫があのレンジャーどもには足りん」
挑発的に告げた言葉に、挑発的な笑みが返ってきた。
「ガッカリはさせねえよ。そっちもガッカリさせるんじゃねえぞ!」
「――お互い様だ!」
拳に纏うは赤竜の爪。濃密なる刃を纏い、力任せに振り抜いた。
合わせるように動いたアンドレアの剣が拳にぶつかり、余波のオーラが彼女の身体を強かに打ち付ける。
煽られるように後退するアンドレアへ、もう一度、拳を叩きつけた。
「言うだけはある――」
微かな笑みを零したアンドレアの剣がいつの間にか位置を変え、斬撃が咄嗟の防御姿勢越しに身体を煽る。
「言っただろ? ガッカリはさせねえってなぁ!」
互いに、凄絶な笑みを零して。
「この世界が虚構であるか否か。何者かの甘言に乗せられているかどうか。
あるいは別世界の自分がいかな死にざまであったのか。
――そんなものはまーったく、これっぽっちも関係ありませんわ!
目の前のバトルこそが唯一の真実! それ以外のすべてはただのノイズに過ぎません!」
「――そうですね、否定のしようがありません」
竹槍を握って立つ『なよ竹の』かぐや(p3x008344)の言葉に、クルトが緩やかに返答する。
「それでは――いざ、全開バトル!」
そのまま竹槍を頭上でグルグル振り回したあと、パシリと逆手に持って――渾身の投擲。
びょうと音を立てて飛ぶ竹槍が真っすぐにクルトの身体に突き立つ。
「まだまだ終わりませんわ!」
そのままもう一本とばかりに次を取り出したところで、斬撃がかぐやの身体を撃つ。
「助けに来たぞおら! 邪魔だから後ろ行ってて!」
激情を露わに、『雑草魂』きうりん(p3x008356)は取り出した青果をぽいぽいとレンジャー部隊へと放り投げた。
「自分を殺したやつと戦いたい……意味わかんない!
そんなどうでもいい理由で私の森(違う)を傷つけるなよ! 森だって生きてるんだぞ!
許さないからね!!」
「私達は森は傷つけてないのですが……まぁ、森の民は傷つけているので同じですか」
苦笑を浮かべたクルトは構えたまま周囲にいる敵を見て。
「何度でも蘇るやつ筆頭です! 殺せるもんなら殺してみろよばーかばーか!」
自らを晒すように挑発すれば、クルトはきうりんの方を見て。
「姉様とは違って、何度でも蘇るやつを殺す趣味はあまりないんですが……まあ、良いでしょう。始めましょうか」
双剣を握ったクルトの視線はきうりんに集中する。
●
戦いは苛烈を極めていた。
「いやはや、全く……先手を取る方が多いと流石に少々しんどいですね」
疲れを滲ませてボロボロになりながらも、けれどどこか愉しそうにクルトが笑う。
イズル、玉兎、マリアの3人はクルトを相手に確実に先手を取れる反応速度を持っていた。
正確に言えばエイラもそうではあるが、アンドレアを相手にしている彼女は計算には入るまい。
ともかく、3人が常に先手を取れることは戦闘のペースをこちら側主導にするのに容易かった。
それでも、一度攻勢が始まれば、瞬く間に削り落とされる。
デスカウントが稼がされていた。
「こんなもん? 私は何度でも蘇るよ!」
ぴょんと跳ねながら復活を果たしたきうりんは再びクルトの前へ姿を見せた。
自らの中にある生命エネルギーを循環させて免疫力を活性化しなおす。
再びクルトの前に立てば、相手の表情がさすがに曇り始めた。
「同じ人が向かってくるのもなんとも思いませんが、
さすがに4度も殺すのはきついものがありますね……」
苦笑は晴れず、構えられた敵の剣は鈍りを見せぬものの疲れが見えている。
「私は不死身だからね! どうしたの? その程度で人殺しとか言ってたの?」
ふふん! とどや顔見せれば、クルトの表情が少しばかり引きつった。
「この辺りであればよさそうですわね」
玉兎はアンドレアと対角線を描くような位置にまで後退していた。
撃ち抜く星辰の術はこの世界では意図したように使うのが難しい。
確実にクルトを狙って撃ち抜くのに、最適な射程はクルトを中心としてアンドレアと反対の位置にいる事。
「霞染月・夾雑――いざ、撃ち抜き給え」
その全身を覆う月気が集束して、光の矢を描き出す。
美しく、物静かでどことなく深い魔力をたたえた月の輝き。
そのまま、弦を引くように矢は絞られ――戦場を疾走する。
一条の光は揺らめきながらもただクルトのみを狙い澄まして、その肩辺りを貫く。
光の矢が貫く寸前、クルトの腕がこちら目掛けて振り抜かれたのは分かっていた。
斬撃が浅く身体を裂いた。
「まだまだ――いくにゃああ!!」
自棄に近い叫び声と共に、マリアは再び血のカーニバルを披露する。
連続する斬撃は傷だらけのクルトの身体を瞬く間に切り刻んでいく。
鮮やかに舞う血色のエフェクトが彼の身体の傷を示している。
狂気をもたらし、相手を縛り付けるはずの斬撃は、クルトの身体を明確に削り続けている。
イズルの戦場における役割はひとえにクルト戦線の生命線となっていた。
クルトとアンドレアの性格なのか、2人はヒーラーに対してあまり積極的に攻撃してこない。
その理由は考えるだけ無駄と言っていい。
単純に『長く戦うなら癒し手を倒してしまっては意味がない』という、あまりにもあんまりな理由だろうからだ。
(そうはいっても、一度でも攻撃を喰らえばごっそりと体力を持っていかれるのはまずい……)
高い精密性、素の物理戦闘力、連撃能力の高さも相まって、敵が一度で与える傷は深い。
久しぶりにROOが『クソゲー』の類だったことを思いだしていた。
薬品をリセリアめがけて放り投げる。
様々な薬品の混ざり合ったそれは、朝日を浴びて煌きながら、リセリアの身体にしたたり落ちて、受けた傷を癒していく。
「――貴方には、今でも感謝しています」
閃く剣閃を目と直感的に動く経験を以って何とか捌きながら、リセリアはクルトへ声をかけた。
「おや? 感謝されるほど、貴女と何かを為した記憶がありませんが」
「えぇ、でも――私は『向こうの』貴方と剣を交えて、人と剣を交わす楽しさを見いだしたのだから」
「そうですか、ならば。私はきっとこう答えるでしょうね。
喜ばしい事です。私は貴女のような人と戦いたくて生きているのですから――と」
強烈な斬撃がHPを3分の1ほどまで削り落とす。
先程のヒールが無ければ、今ので殺されていただろう。
反撃とばかりに、玲瓏なる銀の閃光を走らせた。
連戦の疲弊か、クルトの身体が大きく揺れる。
「やれやれ、わたくしも忘れてしまわれては困りますわ」
かぐやは握りしめた竹槍を再びぶん投げた。
鮮やかに飛ぶ竹槍が疾走して、再びクルトの身体を貫いた。
その瞬間、クルトががくりと膝を屈した。
「お見事です……」
鋼鉄の流さえも穿ち貫く竹槍を浴びた男は、膝を屈してなお、かぐやに笑う。
立ち上がることは出来まい。HPゲージはゼロを示している。
●
「硬いな。とはいえ、堅牢――というのは君には合うまい。どう言い表したものか」
緩やかに太刀を構えなおすアンドレアがエイラに声をかけてくる。
「この手合いを相手にするのは初めてだ。胸が躍るというもの」
「そう言ってもらえるとぉ助かるよぉ」
ぷかぷかと浮かぶエイラからすると、こちらに意識が向いている限り、エイラの役目は達成され続ける。
アンドレアの精神力は高く、状態異常を与えるには向いていない。
ゆえに、戦うことで意識を向かせる方が重要だった。そしてそれは明確に意味があることだった。
「君がぁあっちでぇどのようにぃ戦い死んだかを知りたいのならぁ。
まずはぁ教えてあげるんだよぉ。クルトの死をねぇ」
「ほう、あれの死にざまか。それは聞いてみたいところだ」
構えを崩さないアンドレアがメデューサの双眸を物ともせずこちらを見返してくる。
「悪くねえな。悪くねえよお前。こっちじゃなかったら俺の傭兵団に誘ってたところだ」
獰猛に笑うリュカの拳には苛烈な威力が乗っている。
それは赤竜の剛力。
その内側に燻る竜の怒りを乗せた闘志の分、今までよりも苛烈なものがある。
「ほう、傭兵団ときたか。どこのだ?」
「クラブ・ガンビーノだつったら、どうだ」
少しばかり興味を見せたアンドレアへ、リュカが答えれば、彼女はやや目を見開いて。
「――なるほどな、あそこは甘いがいい。あれぐらいの人間性の方が傭兵『らしい』というものだ」
アンドレアのいうクラブ・ガンビーノが砂嵐のソレであろうことは違いないが。
「そうか、であればお前は――いや、無粋か。楽しみだな!」
凄絶に笑うアンドレアの闘気が質量を増した。
全霊を乗せた赤龍の拳が二度に渡ってアンドレアの身体を打ち据え、返すように光に反射して輝く剣閃がリュカを切り裂いた。
「にゃー!」
そこへ飛び込んだのはマリア。
最速で跳びこんだ猫又の鉤爪がアンドレアの胴部を切り裂かんと走る。
守りに入ったアンドレアの剣を複雑な動きで躱して、爪が皮膚を裂く。
「あれは、倒れたか!」
それに気づいたアンドレアが笑う。
「次はお前にゃー」
構えなおして、マリアは告げた。
そこへ続くように飛びこんだのはリセリアだった。
「お待たせしました。私は――此方ではリセリアと。向こうでは……久住舞花。お相手頂きましょうか、剣士アンドレア。
武人、剣士として……ええ、あの戦いぶりは尊敬しています。
……貴女は、最後まで楽し気に笑っていました。ええ、私が貴女を討ち取った時、死ぬまでずっと」
「お前が――私を殺した者か。それは――良い!」
ゾッとするほど濃密な殺気が彼女から放たれた。
「弟が倒れたら次は姉の番。思い出すべくも無いでしょうが現実の流れとリンクさせて差し上げました」
かぐやは竹槍を構えながらアンドレアへ告げる。
「……ほう? そうか、そう理由なのか。なるほど」
「満足頂けたかどうかは戦いっぷりで見せてくだされば結構」
アンドレアが言葉を返すよりも前、かぐやは思いっきり竹槍を投げつけた。
竹と侮ることなかれ、それは天運あらざれば躱すこと違わぬ必中の槍。
撃ちだされた槍はアンドレアの太腿辺りに突き立った。
●
「……全く、まだまだ未熟か」
戦いの継続する中、アンドレアが嘆息する。
「お前とは1対1でやりあってみたかった」
「ふ、その時はじきに来るさ」
リュカの言葉に、アンドレアが笑う。
「すまないが、こう見えても私達は雇われの身でな。死ぬわけには行かん」
静かな笑み――刹那、イレギュラーズの殆どは一気に後ろへ吹き飛ばされていた。
「帰るぞ、クルト」
そんな声は、片膝を屈して身動きを取れないでいるクルトがいる方から聞こえた。
「全く、梓紗の小娘が言っていた話は本当だ。たまらんな……求道者なぞやってられん。
本気での殺し合いがああも楽しいとは思いださせてもらえたよ」
振り返った所で、クルトを担ぐアンドレアが見えた。
「流石にこの姿は恥ずかしいのですが……」
「ふん、腕利きを相手とは言え無様を晒した罰だ。
――おめでとう、この度は君達の勝ちだ。次は本気でやろう」
その全身に宿す闘志が、先程までより濃密になりつつあるのを感じながら退いていったアンドレアを見た。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
MVPはエイラさんへ。
アンドレアの抑えは貴女がいなければできなかったでしょう。
GMコメント
こんばんは春野紅葉です。
<Closed Emerald>では2本をお届けします。
●オーダー
【1】アンドレアの撃退
【2】クルトの撃退
【3】レンジャー部隊の半分以上の生存
【3】は努力目標とします。
●フィールド
迷宮森林の只中、いわゆる翡翠の『迷宮森林警備隊』が駐留する場所に当たります。
極太の木々が生える只中を、屯所と開けた地上が広がり、中央を小川が流れています。
●エネミーデータ
・『長刀』アンドレア
バグNPCです。現実を認識し、現実で自分を殺した相手と戦いたいというだけの理由で襲撃してきています。
二つ名の通り身の丈を超すほどの大太刀を持つ女性の傭兵。
豪胆かつ極端に理性的な性格です。
現実では先に殺されたクルトの仇討ちの名目でイレギュラーズと会敵し、最後には強敵と戦い死ぬことを喜んでました。
こちらはその片鱗さえ見せず、一種の求道者じみた存在感があります。
非常に高い抵抗力と物攻を有し、【飛】【ブレイク】【復讐】を有します。
また、パッシヴで【覇道の精神】を有します。
射程は至近から超遠距離、単体、貫通、超遠扇、中範レンジがあります。
・『双剣』クルト
こちらもバグNPCです。
二つ名の通り、双剣を握る青年の傭兵です。アンドレアとは実の姉弟です。
非常にストイックかつ冷淡な性格です。
現実では自らを斬り伏せたことによる痛みで『原罪の呼び声』を振り払う武人的なストイックさを持っていました。
あちらに比べて容赦なさが増しており、必要とあらば人殺しを躊躇しない人物です。
命中、物攻、EXAが高く、【氷結】系列のBS、【追撃】【カウンター】【反】を有します。
また、パッシヴで【覇道の精神】を有します。
射程は至~中距離です。単体、中扇、自域、近列レンジがあります。
●中立よりエネミーデータ
・迷宮森林警備隊×15
翡翠のレンジャー部隊です。ロングボウを装備した超長距離戦闘や魔術により中~遠距離範囲戦闘などを得意とします。
近接はダガーなどによる近接のアサシンタイプが主体です。
戦闘開始時はアンドレアとクルトを相手に抗戦中ですが、かなり押され気味です。何もなければじき全滅するでしょう。
また、彼らは敵というわけではありませんが、現時点で味方でもありません。
説得などを行なわない限り、皆さんにも攻撃を仕掛けます。
●重要な備考
<Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
<Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
●『パラディーゾ』イベント
<Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
<Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『サクラメント』
今シナリオでは屯所の屋根の上に解放されたサクラメントがあります。死亡後の再ログインは可能ですが、最低でも3~6Tのロスが発生します。
Tweet