PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Closed Emerald>Flocon de neige

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●わたしのやりかたで
「もー少し、静かにこの村に隠れていたかったんだけどなあ」
 大地が唸り、悲鳴をあげる。土がひび割れ、裂け目から強い光が零れる。
 だだっ広い広場の中央、横に真っ二つにへし折れた大樹が唸る、その顔が裂け、まるでかぼちゃのランタンのような形相を成す。
 大樹の嘆き、永くを生きた大樹がその命尽きかけた時に放出する、悪足搔き。
「そうかい、それがキミのやり方かい」
 広場で語り合う幻想種達は驚き立ち上がり、逃げ惑う。運の悪い奴が何人か、大地から生えた根っこに締め付け引きちぎられる。無理もない、彼らにとってそれはほんの数秒前まで憩いの場の象徴たる大樹であった、実に鮮やかで静かな犯行だった。
「確かにこれじゃあ、普通の人には誰がやったかわかりやしない」
 暴れまわる大樹が広場の中の命を奪いつくすのを遠く眺め、少女が一人、ぽつりとつぶやいた。退路を断つように湧き出る木の根に翻弄される幻想種達の中、引くことも歩み寄ることもせず、淡々とその大樹が暴れまわる様を観察し続ける。
「あのピエロ、翡翠《ひとんち》に入ってエネルギー取りやがって……何するかと思ったらあんなつまらないコピーまで作って……この箱庭といいそんなにコピーが作りたいかい、私には『一人』で十分なのに――」
 喧騒の最中、逃げる幻想種の身体がぶつかり、少女の身体が揺れる、白銀の髪の隙間から藍色の瞳がその男を見つめる。
「何やってんだよ、早く逃げろ! あいつがすぐにこっちに来るぞ!」
 少女は何も言わない、そっとその手を静かに上げて、指を交差させる。
「いきなり大樹サマがこうなるなんて、やはりリュミエ様の言う通りお前のような余所者など入れるべきでは――」

 指が鳴った。男は言葉を最後まで言い切ることはなかった。すべての音が停止した。

「あとは……ああ、やっぱり来るかい、完全に私の計算が外れたよ。『たった一人』に絞って情報を遮断すりゃあたどり着けないと思ったけれど――本当にお人よしだなあ、みんなは!」
 少女は恍惚とした表情を浮かべ、その虚ろな瞳を天へと向けて乾いた声で笑っていた。いつまでも、いつまでも。

●白い少女、ふたたび
「なんだ、これは……」
 サクラメントへと転移したイレギュラーズの一人が、目の前の光景に唖然とする。
『パラティーゾ』と呼ばれるバグに汚染されたNPC達が生み出した兵隊、そして彼らが暗躍し生み出した『大樹の嘆き』。それを抑え込み翡翠との信頼を回復する、このクエストもその一つであった。大樹の嘆きを抑え、回復し、元の奇麗な姿にする、そんな他と変わりないクエストの一つだった、はずだ。
 だが、何だこの有様は。
 大広場にいる、あの顔のついた巨大な樹の化け物こそがその魔物であるのは疑いようも無い。だがその顔は青く恐怖に張り付き、停止している。滝はその中身を水面にたどり着かせる事なく凍り付き、木々はその葉に霜が降り、人々は大樹から逃げ惑う姿勢のまま目から光が失われてる。
 全ての動きが、時間が、凍り付いていた、ただ一つを除いては。
「お、おぬし……まさか」
 息をまともに吸い込めば肺が砕け散りそうなほどの冷気の中、乾いた空気に『きつねうどん』天狐(p3x009798)の澄んだ声が通る。魔物のその折れた幹の上で、少女が腰かけ雑に組んだ足をぶらぶらと揺らしている。少女はじっと天狐たちを見つめ、ため息をついた。
「なんだってさぁ、お、て、つ、だ、い、だよ?」
 木から少女の身体が舞い上がる。
「つい手が滑っちゃって周りのハーモニアもみーんな凍らせちゃったけれど、ま、いいよね? キミ達からしたらどうせデータなんだしさあ!」
 石畳に着地すると、その両手から、両足から、地面が凍り付いていく。冷気が満ちていく。凄まじい冷風に身構えたイレギュラーズ達を眺めながら、白い少女は両手を虚空に向けて大きく笑う。
「メープル様……」
『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)の呼びかけに、少女の笑い声が止んだ。瞳を動かし、静かに問う。
「……その名前、誰に聞いた? 本人?」
「はい……貴女は何か悲しい事故があって生まれた存在だと――」
「そりゃあ勘違いさ、私は好きでこうしてる。目的の為にこの森にいる長耳共を全部滅ぼす、その望みは最初から変わっちゃいないさ!」
 少女は寂し気な表情を浮かべると、指を鳴らし精霊達を呼び集める。その身に冷気を纏い、イレギュラーズ達と距離を取る。
「でもキミ達はそうじゃない、少なくとも大樹の嘆きごと村を凍らせる奴は敵だ、そうだろ? 敵をぎゃふんと言わせて、都合よく村人たちだけを溶かして貰わないとね、そうだろ? じゃあまずは戦おうじゃないか、お話はそれからだよ」
 少女は天へと手のひらを掲げ、巨大な氷柱を召喚する――もはや猶予は10秒もあるまい、今はやるしか、選択肢は与えられていない。
「ネージュ、フロコン・ド・ネージュ、それが今の私さ……さあ、殺す気で来なよ、イレギュラーズ!」

GMコメント

 こんばんは、塩魔法使いです。
 このシナリオは天狐さんとフィーネさんのアフターアクションからの派生になります。
 ……この世界じゃ、会おうとするだけで会いやすくなるものなのさ、きっとね。

●勝利条件
・エネミー『ネージュ』の撃破、あるいは撃退。
・オプション:ネージュの目的について問いただす。

●ロケーション
 翡翠のある町の開けた広場、直径100メートルの円形のフィールドとして戦う事ができます。
 開始地点は敵軍から20メートル以上の地点です。(自由にプレイングで指定できます)
 イレギュラーズ達の背後には2,3ターンほどで復帰が可能な筒状のサクラメントがあり、敵に破壊されれば依頼は失敗となります。

●敵情報
○『白い少女』ネージュ
 R.O.O.の世界におけるメープルにバグが絡み生まれたバグエネミー、翡翠の幻想種を憎む魔女。
 目的の為に力を蓄えていた最中ピエロとイレギュラーズの争いに巻き込まれご機嫌斜め、ある程度HPを削れば彼女は戦闘を放棄するでしょう。
 全ての能力が高水準、反応と回避など幾つかは常識的な範囲に収まっていますが……
【A】格闘 神至単【高威力】【鬼道大】【重圧】【絶凍】
【A】氷柱 物至範【鬼道中】【防無】【氷漬】
【A】竜巻 神超域【万能】【邪道・鬼道小】【凍結】【氷結】
【A】EX:終焉 物中単【即死】【1戦闘1回まで】
【P】絶対冷気 命中+? 回避+? 【加速1(上限??倍)】
【P】氷の魔女 凍結無効+何らかの理由で行動を止められた場合、数ターンその原因に対する不完全な耐性を得る。

○アイススピリット
 ネージュが召喚する『弾避け』、様々なBS攻撃で邪魔をしてきます。
 毎ターン同じ数になる様に補充されますが倒しただけネージュのHPを削ることができます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
 但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
 
●『パラディーゾ』イベント
 <Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
 <Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 このシナリオは以下のシナリオの続編になりますが、読まずとも問題はございません。
・<大樹の嘆き>白い森の、その奥で

  • <Closed Emerald>Flocon de neige完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月10日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドウ(p3x000172)
物語の娘
シフルハンマ(p3x000319)
冷たき地獄の果てを行くもの
コル(p3x007025)
双ツ星
アルス(p3x007360)
合成獣
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
オウェード(p3x009184)
若き日の
天狐(p3x009798)
うどんの神
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ

●雪の結晶は舞い続ける
 透き通るような青白い水晶に彩られた世界はギラギラと眩く幻想的な光に囲まれ、どこか異界に来た様な神秘感がそこにあった。
 それが、バグによって引き起こされた異常現象でさえなければ、だが。
 宙に浮かんだクリスタルの様な氷柱がひび割れ、隙間から噴き出す冷気に、吹雪に、全ての熱が掻き消されていく。
「サイズ!?」
『妖精の守護鎌』シフルハンマ(p3x000319)の叫びも掻き消されそうなほどの風にさらわれ、ネクストの彼の姿が小さくなっていく。広場を取り囲むように、あるいは侵入するものを阻むように冷風の風が白く取り囲む。
「一体なんだい、二人で散歩しに来たって訳でもないだろ――」
 咄嗟に振り返ったサイズの視界の端で、ネージュの姿が消える。残影と共に身構えたサイズの胸元に叩きつけられる、彼女の拳。
「ッ!」
 受け身を取るシフルハンマへと追撃するネージュ、その背後を取るように『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)の影が揺れ、千切れ飛んだ闇の弾丸となり彼女を狙い撃つ。影は白に掻き消され、ゆらりと揺れた彼女の髪から精霊達が更に弱弱しく零れ落ちた。
(……背後から狙われるのは想定の内、でしたか)
 ネージュの足元に零れ落ちていた精霊達がゆらりと浮かび上がる。天に浮かぶ氷晶から冷気が流れ込み、精霊達の崩れた形を整えていく――それはまるで、光で形造られた天使の輪郭の様な姿。敵意で瞳を振り返らせながら少女は振り向くと彼らをガラス玉を放り投げるかのように天へと解放し、滅ぼせと呟いた。
 精霊達は彼女の周りを巡るように舞い上がり、青白く湾曲するレーザーをイレギュラーズ達を目掛け次々と放ち始める。凍った草木が冷気に耐え切れず砕け散り、辛うじて凍らず残されていた物も次々と青と白に染まっていく。
「問答無用ですか!」
『双ツ星』コル(p3x007025)はひどく冷たくなったナックルを握りしめ、体を震わせ得た僅かな体温でそのレーザーを躱し、ネージュへと向き直る。なぜ彼女が戦いを挑むのかはわからないが、こちらも応戦しないわけにはいかない。このまま放置してしまえば、彼女に凍らされた村の幻想種達は永遠に凍り付いてしまうのだ。
「速攻で決めるのですよ!」
「はい、行きましょう」
 コルと共に蒼く輝く剣を抜き、ネージュの懐へと飛び込む『物語の娘』ドウ(p3x000172)もまた、既に戦う意思を決めていた。たとえネクストというデータ上の世界であろうとも、幻想種へと危害を加える彼女の存在は、きっと相容れないものであっただろうから。
『きつねうどん』天狐(p3x009798)が飛び退いた場所もまた、広場の大地へと突き刺さると、雪の結晶の様な文様が広がり、大地がスケートリンクの様に凍り付いていく。
「くっ、本当に全部凍らせるつもりかこやつ! 出力制御とかできんのか!」
「んにゃ~……どっちかっていうとヤケクソに見えるんだけど」
 滑っていく天狐に手を振りながら『合成獣』アルス(p3x007360)はためいきをつき、ネージュをじいと見つめる。
「とにかく黙らせてからじゃないとお話って感じじゃないよね☆彡」
「はい、とにかく周りの人たちを巻き込むのだけは止めさせないと……」
『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)はシフルハンマを起こしながらその体に手を当てる。以前彼女と出会った森もまたこのように凍り付いていた、なぜこうも、全てを彼女は滅ぼそうとするのだろう。疑問は浮かぶが、今は仲間を支えねば。
「ああ、悪いが俺も全力で行かなきゃ不味いみたいだな!」
『若き日の』オウェード(p3x009184)もまたシフルハンマをかばう様に前に立ち、大剣を抜き構える。彼と目の前の少女を憐れむ気持ちを、そして彼と約束したあの女性の為に――その心を内側に秘め、若き姿のアバターは勇敢に立ち向かう。
「くそっ、畜生――やるしかないのかよ!」
 シフルハンマは自らの本体の姿である鎌を具現化しようと手を構え、首を振ると盾と魔本を手に彼女に相対する。がむしゃらに『二人』で奇跡を信じ探し回った末に見つけたのだ、ここで殺すわけにはいかない……だが、どうすればよい、何ができるのだ? そう自問自答を、くり返しながら。
 魔の雪嵐は、止まる気配を見せない。

●奇跡と絶望と
 巨大な吹雪の渦で移動を制限されたイレギュラーズを更に惑わす様に無数の竜巻が氷礫をまき散らしながら現れ掻き消される。氷が舞い、夜空の様に煌めく中をコルの爪が突き抜ける。
「一方的にやらせるわけにはいかないのです!」
 ひらりと身を躱したネージュを爪から放たれる真空の刃と尻尾が、そして足蹴りが襲い掛かる。逃げる方向を制限され、着地した少女を襲うは無数のうどん型爆弾の皿。
「どーせ凍り付いて食べられないのじゃ! こってりうどんをマシマシで食らうとよい!」
 少女の白銀のドレスが爆風ではためく、食いしばった彼女の頭上でドウの蒼剣が眩い光を放ち、出来上がった影が鋭くネージュを突き刺す。ドウの肉体がチラつき無数に別れ、ネージュの周囲を高速で通り抜け様に斬りつける――!
「お望み通り殺す気で止めさせてもらいます、お覚悟を!」
 致命的な一撃が蒼の閃光が彼女のドレスと肉を切り裂いた、が。氷柱が輝き、冷気がネージュへと流れ込むと、巻き戻されるかの様に傷口が閉じ、血が、戻っていく。少女の乾いた笑い声だけが残された。
「実体のない氷晶、あれが彼女の魔力の結晶ですか、中の魔力を枯渇させるしかないですね――」
 黒子は観察結果を共用と試み、ふと顔を見上げる。精霊達が司令塔を務める後衛を狙おうと魔力を充填する――が、それよりも前に彼女達の影が蠢き、瞬く間にその肉体は影自身に呑み込まれる。
「何体か、そちらへ」
「わかってる!」
 シフルハンマは咄嗟に魔本を開き、魔術を展開する。己と後衛を護る壁になり、必死に想いを巡らせる時間を稼ぐのだ。自分に『メープル』は攻撃できない、できるものか!
 開かれた魔本から放たれる無数の武器が精霊の胴を貫く。武器が透過し消滅すると精霊は力なく崩れ落ち、しかし幾秒後、氷塊から流れ込んだ冷気で再び形を取っていく。見れば黒子の術式で呑み込まれたはずの影から精霊がふわりと浮かび上がり、こちらへと機械の様に冷たく狙いを定めている。シフルハンマは再び魔本を開き、無数の矢を解放し抵抗する。その二人の背後から不意を打つべく、精霊が頭部に狙いを定める。だがそれが放たれることはなかった。
 ばくん。
「オッケー、匂い覚えたよー(お前そんな機能あったのか?)言ってみただけー」
 精霊を呑み込んだ尻尾の花弁をゆらゆらと揺らし、アルスはぶつぶつと彼女をセミオートで操作する中の人と会話しながら四つん這いの姿勢を取る。
「ネージュ、良い気になってられるのも今のうちだよー☆」
 花弁がぐぱぁと開き、勢いよく何かが撃ち込まれる。先ほど呑み込んだ、精霊に彼女の毒のラブフェロモンをびっちりとなじませたものであった。
 精霊達は呻き、虚ろな瞳で匂いの元であるアルスの元へとふらふらと向かっていく。効果あり、アルスはにっこりと微笑んだ。
「やったね、アルスちゃん大成功! ってあれ、ネージュの方は――」
 地響きがアルスの耳に届いたのも一瞬、アルスの足元から浮かび上がった巨大な氷塊が彼女の肉体を打ち上げ、その肉体を貫かんと鋭い先端を覗かせる! 肩をうち抜かれるよりも早く、奇跡的に躱したアルスの上には拳に力を籠め、鬼の形相で殴りつけるネージュの姿が。
「あっれー、なんか逆鱗踏んじゃった?」
 大地に叩きつけられたアルスの肉体を押しつぶす様に、飛びかうネージュの肉体が直角に曲がり大地に轟音が響いた。だが、それもまた彼女の手の広の上。
「やっぱりトドメさしに来るよね、じゃあこういうのはどう?」
「ッ!」
 大地にネージュの拳が叩きつけられる直前、アルスは手の平を彼女の前へと向ける。身構える間もなく、燃え盛る炎がネージュの前で炸裂し、彼女のマナを打ち消していく。
「この通り、凍った心にも焼きが見事に入って――っ!」
「アルス様!」
 緑色の輝きがアルスの身体を包み、それはアルスへその場を離れるための活力を提供する。ネージュの気が逸れた隙に飛び退いたアルスに、フィーネが心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか? かなり無茶をされたのでは……」
「えへへ、でも、うまく言ったでしょ☆」
 炎を払い、ネージュは再び魔力を練り固める。次は逃がすな、確実にとどめを刺せ、そう精霊達に力を分け与える。だがその指令が飛ぶよりも先に、オウェードの大剣が彼女の脚を横に切り払う方が早かった。
「ああ、完璧だ!」
「完璧なのです!」
 空中から叩きつけられる無数の拳。続くコルのフィニッシュブローに上体を大きく逸らすも、ネージュは足を踏み込み食いしばる。だが、彼女の息は荒く、大きく開けた口からはダイヤモンドダストが白く輝いていた。
「流石の氷の魔女も息が上がってきたみたいだな、この攻撃の傷を治せるならやってみやがれ!」
 行ける。オウェードは大きく飛び上がり、彼女の躰を目掛けて大剣を振り下ろす。ネージュは目を見開き、そこで、全てが終わるはずだった。

●たったひとつだけ
「これで仕舞だぜ――なっ?!」
 ネージュの姿が、消えた。オウェードの剣が氷に突き刺さり、思わず周囲を見渡した彼はその事実に戦慄した。彼女がどちらに動いたかすらも目に捉えられぬ事に。
「素早くなってきただと!?」
 いいえ、と黒子の低い声が響く。
「遅くなっているのです、私たちの方が」
 黒子は気づいていた、この場に居る皆が遅くなっていた。自分も、精霊達も。あらゆる防寒を嘲笑うかのように貫き、肉体を構成し思考を制御するプログラムが鈍っていく感覚に。そう、彼女以外は。
 パキ、パキと空の氷晶がひび割れる、得体の知れない魔力がネージュに降り注いていく。広大な森一つを凍らせる、彼女の真価――
「――そう、奴らを半端に生かしておけばキミ達は戦ってくれると思ってた」


 オウェードの目は驚愕で見開かれる、いつの間に背後に。そう考えを過らせる間もなく、強烈なアッパーが叩き込まれる。冷たい嵐が戦場に吹き荒れ、視界が薄れていく。
「そうさ、一人で戦うための練習台にしたかったのさ、キミ達を、でももう十分さ、やれるんだから!」
 少女は笑う、イレギュラーズ達を、仲間の精霊達も、全てを凍てつかせてもなお、冷たく笑う。
「この力で長耳達も、大樹も、あのピエロも! 全部凍らせてやるんだ!」
 白い渦は蠢き、あたかも無数の怨念が蠢くように禍々しくイレギュラーズ達の背後から迫る。サクラメントが呑み込まれ、翡翠色の柱が白くひび割れた。
「もう戦闘ごっこは十分、あとは楽しい凍結ショーだよ!」
 吹雪の中サクラメントが悲鳴をあげる。リログインの機能が低下し始めているのだ。
「ちょっと、これ以上死ぬのはまずいみたいだよ?(もとからまずいけどな……)」
「ダメージは入っています、後はあと一撃、芯にとらえられれば」
 焦るアルスの言葉に飛んでくる黒子の冷静な報告に「寒くて無理!」と野次を飛ばすと、精霊達の存在を思い出し。
「こっちで削っていくしか、ないようだね!」
「任せるのです!」
 再び毒液、それを援護するようにコルの追撃が精霊の、ひいては氷晶のエネルギーを奪っていく。
「ジリ貧だよ、もう凍るのさ!」
「それよりも早く溶かして見せます!」
「やってみろ!」
 フィーネの貼るバリアを打ち破り、ネージュが吹雪を散らす。精霊たちは何度でも起き上がり、イレギュラーズ達の刃に打ち破れる。氷晶がぼろぼろと崩れ落ち、光が舞う。
「メープル、もういい、やめてくれ!」
「うるさい!」
 見開いたシフルハンマの目にネージュの掌が飛び込んでくる、顔面を掴まれ彼の小さな体は容易に持ち上げられてしまった。青白い光がキラキラと走り、ノイズが彼の思考を、データを、侵食されていく――
「ああ、そうだ、次は無いって言ったよね? 防御に回られるってのも邪魔だし、凍らせちゃおうか――」
 ネージュが乾いた笑い声を漏らし、何かを唱えようとした瞬間。
「させません!」
 身を屈め、突進したドウの身体にサイズの肉体は弾き飛ばされる。大地が裂け、氷柱にドウの身体は包まれた。ドウの肉体がピクセル単位に分解され、氷に置換されていく。ガラガラと氷が砕け散り、光に消えた所には何も残らない。
「ドウさん!」
「……いいさ、お人よしはいつでもやれる」
 ネージュは唾を吐き捨て、拳を握りしめる。もう誰にも邪魔はできないとひきつった笑いを零す。
「当てれるもんなら当ててみなよ、どうせ奇跡なんて起きやしない!」
 咄嗟に守りに入った黒子へと殴りかかり、怒りに目を血走らせる。
「そんな遅い攻撃で不意打ちできるもんなら――」
「やってやるさ!」
 オウェードがスピリットをなぎ倒し、ネージュへと剣を向ける。彼の目の前には、凍り付いたサクラメント。
「俺達は負けない! 必ず『みんな』救って見せる!」
 その言葉にネージュが振り向いたその瞬間、彼女の背中に蒼い剣閃が走り、ネージュが硬直した。
「なんで? そんな早くあの棒きれでリログインできるはずが……」
 驚愕に停止した彼女の思考にある文字列が奔る。――p3x000172、ログアウト不可。
 まさか、これはあのピエロの、でも何で? 彼女はログアウトできないのを利用して、死の苦しみすら戦略の為に放り投げたとでも?
「この状況が、こうして好都合になるとは、ですね?」
「正気なの、イレギュラーズ!?」
 好機は生まれた、天狐発進。天高くから降り注ぐうどん爆弾。
「奇跡というのは、信じる心が作るのじゃ!」
 牽制で更に生まれた隙に、天狐はなんと豪快にもリアカーをジャイアントスイングでぶん投げる!
「お代はいらん、持っていけ!」
 強烈な閃光と爆風をバックに腕を組む天狐。それと同時に冷気を放ち続ける氷柱、彼女の魔力の塊がひと際強い光を放ち……それは止まった。
「っと、勢いでリアカーぶん投げたけど大丈夫じゃったかのう」
「……ちッ!」
 朽ちていくように黒ずむ氷晶に、ヒビがより深く核へと伸びていく。不意にそれは静まり返り、不気味に震えだし――ガラスが割れるような音を木霊させた。
「ああ、良かったようじゃの……本当に」
 氷の嵐は、止まった。再び凍った青い村が露出する。凍った人々が、結晶に覆われた村が、そして走ってくる、誰かが。
 空高く浮かぶ氷柱が割れ、天の闇が裂けていく。粉々になった破片はまるで闇夜に浮かぶ星の様に輝き、幾秒を置いてネージュへと吸い込まれていく――光に包まれた少女然としたネージュの姿は、心なしか大人びたそれへと変わっていた。
「まだだ、まだ私は――」
 精霊達がひらひらとネージュの手に集まり、一つの武器の形を成す。二度と季節の廻らぬ、白き冬姫の姿がそこにあった。
「終わりじゃない!」
 叫びながら彼女は冷気で完全に動きが鈍ったイレギュラーズの首筋を狙い、武器を大きく振りかぶる――だが、最早その攻撃は彼らに直撃する事は無い。吹雪を放っていた魔力を身に取り込んだ今、『彼』とネージュを遮っていた壁は、もう無い。
「メープル、もう、やめよう」
「なんで」
 ネージュの刃が広場の地面に突き刺さり、光へ溶けていく。イレギュラーズ達をかばう様に、サイズがネージュの前で両腕を広げて立っていた。
「キミも、そう言うんだよ――」
 力なく崩れ落ち、サイズの体を抱きしめながらネージュが泣きじゃくる。もう傲慢に振る舞う魔種の姿はどこにも、なかった。
 戦いの終わりは、ひどく呆気なかった。

「……トドメ、刺せばいいのに」
「できませんよ、そんな事」
 ネージュの頭からフィーネの掌が離れる。彼女が解析で読み取った誰かの思い出が、ほんの微かに流れていく。

 それはほんの小さなすれ違いが生んだ悲劇であった、閉鎖的な環境が生んだ幻想種の一部は選民思考に染まり、彼らは森に住まう他の隣人へと矛先を向ける事となる。
 誤解が解けるまでの短い時間は、ひ弱な妖精達にとっては地獄の様な夜であった。たった一人の生き残りは、瀕死の誰かを抱えながら叫んだ。
 私の全部をあげます、お願い、誰でもいいから力をください。この人を守る力を――

 目に痛いほどの色を取り戻した翡翠の村に、紅葉が舞う。彼女は確かに約束を護った、嘆きに奪われた命はあれど、彼女自身は誰も殺さなかった。仲間たちが大樹の嘆きに傷ついた村人たちの治療に走る最中、何人かは彼女に治療と引き換えにいくつかの話をする条件を提案し、今に至る。
「反転した貴女は復讐に狂った、護ったはずのサイズさんすら操り人形にして」
 フィーネとアルスの治療を受けたネージュは俯き、ぼそりと呆れる様に呟いた。反転は願いを歪ませる。彼女の憎しみが一度は収まったのは、その元の祈りを否定しきれないからだろうか。
「元の願いを知ったところで何さ。私が何千何万って殺した事実は!」
「変わらなくてもいいさ、ここに居る人はそれでも見捨てたりしないよ」
 ネージュの言葉を、アルスは肯定する。たとえキミがバグに汚染されたデータだろうと自分たちは受け入れる、と。
「AIのボクが言うんだ、間違いない!」
 ただ、俯くままのネージュを見かねて天狐が質問を投げかける。
「お主、これからどうするんじゃ?」
「……シフルハンマさん」
 しばらくの沈黙、ネージュの口からこぼれたのは、シフルハンマへの質問であった。
「キミは、奇跡を信じてるかい?」
「え?」
 ネージュは天狐へと向き直ると、藍色の瞳で彼女を見つめ、返答の言葉を投げかけた。
「私はいるだけで周りの物を凍らせ、人を狂わせる。どこか遠い国に行くよ、このクソッタレの世界が終わるまで、静かな所へ」
 そして、その次の言葉に、イレギュラーズ達は息を呑んだ。
「それに、サイズを連れて行っても、いいかな?」
「……!」
「あの凍った手は私のバグが感染しつつある証拠、目覚めた今、一緒にいちゃいけない、わかってるけど」
 ネージュは空虚なそれとは違う自信たっぷりの笑みを浮かべ、シフルハンマへと向けた。それは彼が良く知る、彼女の顔だった。

「信じてくれるかい? あの伝説の鍛冶職人に、壊れた妖精の魂を治すっていう奇跡をさ」
 シフルハンマはサイズと顔を合わせ、そして――

 氷の魔女が引き起こした大樹の嘆き事件は、イレギュラーズが無事解決したという形で書類上は幕を閉じる事となる。
 数日後、翡翠のある地域で200を超す大樹の嘆き達が不自然に凍り付いた状態で発見されたという報告がイレギュラーズ達のもとへと届く。
 データではイレギュラーズの成果という事になっていたが、そのユーザーはいまだ特定されていない――

成否

成功

MVP

ドウ(p3x000172)
物語の娘

状態異常

ドウ(p3x000172)[死亡×3]
物語の娘
コル(p3x007025)[死亡×2]
双ツ星
アルス(p3x007360)[死亡×2]
合成獣
黒子(p3x008597)[死亡]
書類作業缶詰用
オウェード(p3x009184)[死亡×2]
若き日の

あとがき

 本当にお待たせしました。遅れてしまってすいません。
 きっと、これでよかったのでしょう。
 MVPは、逆境を逆に好機に活用した貴女に。

 二人で闇に堕ちるのか、あるいは光を見出すのか。
 ネージュとネクストのサイズさんの未来はわかりませんが、きっと二人は後悔する選択肢を選ぶことは無いでしょう。
 ……それがあなたの希望通りであることは、保証されませんが。

 参加ありがとうございました、もし機会がありましたらまたよろしくお願いします。

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