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シナリオ詳細

<Closed Emerald>蟹と鹿

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「余所者には、死、あるのみ!」
 鹿は怒っていた。
 愛してやまぬ美しき緑を湛える翡翠の森、迷宮森林は今や「大樹の嘆き」と呼ばれる汚らわしき者が跋扈する禍々しい地となり、鹿は憤怒に血の涙を流す。
 この時、鹿の眼前にはひとりの「余所者」がいた。
 「余所者」はものの一撃で大地を深く抉り、空気を震わせ木々を粉砕し、目にも止まらぬ速さで鹿の体に打撃を入れる。
 鹿はまるで鉄砲玉のように吹き飛ばされ、やがて血を吐き横倒しになった。
「ちょっと、この辺りじゃキミが一番強いんだよね? これで終わり?」
「おのれ……おのれ……」
 鹿は精霊を集める。「余所者」はニヤリと笑った。
「何だ、まだ本気出してなかったの? 余所者を殺すとか言っておきながら随分手ぬるいんじゃない?」
「貴様は……何者だ?」
「何者って、キミ自身がさっきから言ってるじゃない、『余所者』って」
「違う!」
 鹿は己の口から出た否定の一言に内心驚く。
 鹿は、かつて「余所者」と呼んだイレギュラーズと戦い、手痛い反撃を受けた。
 だが、その時不思議と森は殆ど傷付かず、それどころか余所者たちは去り際に鹿や精霊たちに慈しみの情まで向けていた。
 余所者は余所者、この森から排除すべき……その考えは変わらない。しかし、余所者の中にも無碍に自然を壊すを良しとしない者が少なからずいることを、その時鹿は知ったのだった。
 故に鹿は眼前の「余所者」とかつて対峙した「余所者」は何かが違うと感じている。

 鹿は集めた精霊たちに何かを無言で命令した。途端に精霊たちは「余所者」に攻撃するかと思いきや……。
「どこに行くのかな?」
 首を傾げる「余所者」の傍をすり抜け、精霊たちは全速力で森の外れを目指す。
「そっか、教えてくれないんだ。なら、拳で訊くしかないね」
 「余所者」は精霊を追いかけ、両の拳を素早く交互に突き出し空を裂いた。
 周囲に稲妻のような電撃が迸り、精霊が数体地面に落下、落ちた精霊はほどなくして消滅する。
 それは、「余所者」の一撃があり得ないような威力を有していることを如実に表していた。
 更に、恐れていたことが起こる。
 倒れる鹿の背後に生えていた樹木から次々と氷の人形が這い出てきたのだ。
 それを見た鹿の口元が震える。
「た、大樹の嘆きだ……」
 樹木は迷宮森林内のこの一角で長くを生きてきた「大樹」のひとつだった。
 「余所者」の手によって森の自然が破壊された嘆き、悲しみ、怒り……氷の人形たちは歪んだ口笛のような音を発しながら辺りをうろつく。
 人形の口笛は首を真綿で絞めるようにじわじわと鹿を苦しめ、既に深手を負っている鹿の顔は苦悶に歪んだ。
 そして、その不気味で物悲しい口笛は「余所者」をも襲うが、「余所者」は力任せに人形を粉砕しその場を容易く凌いでしまう。
 それでも、人形は大樹の根元から次々と生まれ地を這い口笛を吹いた。
「こっちにまでその気持ち悪い口笛聞かせないでよね。あ、そうそう――」
 もはや言葉を発する力さえなくした鹿に、「余所者」はまたもニヤリと笑う。
「――オレ、余所者は余所者でも、『天国篇第二天 水星天の徒』Ignat。よろしく……って言っても、もう聞こえてないか」
 鹿は既に意識を失い、その命の灯火も消えかけていた。


 過日、翡翠方面のサクラメントが一斉に停止するという不自然な現象が発生した。
 元々排他的で過激な性質を持つ翡翠ではあるが、突如国境閉鎖という強硬手段に出たのには、自然を荒らしている「余所者」がいたせいだと調査の結果判明した。
 そして、この「余所者」の暴挙が「大樹の嘆き」という忌まわしい存在を生み出しているという。
 翡翠の者であろうとなかろうと、翡翠の自然が壊れようとどうなろうと、周囲に無差別な攻撃を加える「大樹の嘆き」。
 やがてそれは、まるで周辺を更地にするまで止まらぬかのように暴れ続ける。

 翡翠を混乱に陥れた「余所者」の主軸のひとつ――『パラディーゾ』。
 ログアウト不可能となったイレギュラーズたちのデータがバグらに解析され、その兵となってしまった存在たちのことだ。
 翡翠の者たちにとって、パラディーゾは見たこともない「余所者」に違いない。ゆえに、「余所者」の手で自然が壊され、鎖国に走ったのは「余所者」のせいだと言っていたのもあながち間違いではなかったのかもしれない。
 パラディーゾらが翡翠各地に存在する「大樹」を一斉に攻撃し始めたことにより、『大樹の嘆き』はこれまでになく活性化している。
 このままでは翡翠全土が疑心暗鬼の果て、暴力の嵐に塗れてしまうかもしれない。

 鹿に命じられ、命からがらIgnatの攻撃を逃れた精霊がサクラメントの前に辿り着く。
 それは、イレギュラーズたちにクエストが齎されることを意味していた。
『大樹の嘆きを発生させている危険人物を追い出して』
 かくして、停止されていた翡翠各地のサクラメントが解放され、緊急クエスト『Closed Emerald』の表示が出現。
 「行方不明者」の解放に繋がるトロフィー獲得のチャンスでもあるパラディーゾとの戦い……それは、閉ざされた翡翠の今後の有り様を決める戦いでもあると言えよう。

GMコメント

マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。

●成功条件
 大樹の嘆きを完全に倒し、更にパラディーゾを撤退させる
 ※鹿の生死はクエスト結果に影響しません。死んでもクエスト失敗とはなりません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 現時点で判明している情報に嘘はありませんが、不確実な要素や不明点が幾つか存在します。

●戦闘場所
 迷宮森林内です。
 本来であれば草木が鬱蒼と茂っている森なのですが、現在パラディーゾによる凄絶な破壊行為を受けかなり荒れた状態です。
 折れた木々が瓦礫のように散乱し、非常に悪い足場となっております。
 ただし、木々が散々なぎ倒されているため、日当たりは良くなっており、視界は良好です。

●敵について ※一部PL情報です。
 ・大樹の嘆き
  氷で出来た人形のような風体で、常に5~6体がうろうろしています。
  体長はそこまで大きくなく、イメージとしては人間の幼児くらいです。
  強力な攻撃は仕掛けてきませんが、かなり強烈なバッドステータスを常にばらまき続けます。
  鹿の状態から、【無常】【塔】【石化】【呪い】【致命】【封印】【重圧】辺りをガンガン撒き散らしているものと推測されます。
  パラディーゾが自然を破壊している限り、何体倒そうとまた新たに生まれてくるため、パラディーゾを撤退させない限りキリがないと言えます。
 ・パラディーゾ
  『天国篇第二天 水星天の徒』Ignatと名乗っています。
 『カニ』Ignatさん(p3x002377)のデータを解析され、生み出されたバグNPCです。
  高い物理攻撃力を有しますが、生半可な「高い」ではありません。とにかくバグッているのでとんでもない物理攻撃力です。まじパねぇというやつです。
 何とかしてこの場から撤退させましょう。

●R.O.Oとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で、練達ネットワーク上に構築された疑似世界を指します。
 練達の悲願を達成するため、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。
 情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 更に、暴走の結果ログイン中の『プレイヤー』がこの世界内に閉じ込められるという深刻な状況が発生しています。
 R.O.O内の造りは現実の混沌に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在するなど、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されているようです。
 ローレット・イレギュラーズの皆様はログイン装置を介してこの世界に介入し、、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指して活動します。

●重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
 但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

●『パラディーゾ』イベント
 <Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
 <Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。

  • <Closed Emerald>蟹と鹿完了
  • GM名北織 翼
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月08日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュート(p3x000684)
竜は誓約を違えず
神谷マリア(p3x001254)
夢見リカ家
Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
リアナル(p3x002906)
音速の配膳係
夢見・マリ家(p3x006685)
虎帝
アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)
女王候補
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
ミミサキ(p3x009818)
うわキツ

リプレイ


 破壊の限りを尽くされる迷宮森林の一角。
 折れた木々や踏み潰された草の青臭さと土の臭いが、本来清浄である筈の空気を重く支配している。
 耳に響くのは地底に引きずり込まれるかと錯覚するような悲哀の音色。
(あわわ、森が滅茶苦茶に……でもそれ以上に――)
「――この口笛みたいな音、聞くと全身ゾワッとして嫌な感じなのです……は、早く何とかしないと」
 『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)はプルプルと小刻みに震えながら金色の垂れ耳をぎゅうっと両手で押さえた。
 森の惨状には『食いしん坊ドラゴン』リュート(p3x000684)も胸が軋む思いだ。
(うう……森全体が泣いているというか、リュートたちに敵意剥き出しな感じッス。でも――)
「――リュートはめげないッス!」
 「大樹の嘆き」である氷人形の動きも、元凶たるパラディーゾの位置も、敵対心を感じ取れるリュートにはお見通しだ。
 リュートは敵の動きを警戒しつつ、纏わりつくような音に不吉の前兆を感じながらも倒れる鹿に駆け寄った。
「鹿さん大丈夫ッスか? 今助けるッス!」
 リュートの可愛らしい鳴き声が意識深くに届いたか、鹿の前足がぴくりと動き、うっすらと瞼が上がる。しかし……。
「そのまま死なせた方がそいつにとって楽じゃないのかな? ま、オレにはどうでもいいけど!」
 パラディーゾ『天国篇第二天 水星天の徒』Ignatの閃光がリュートを吹き飛ばし、薙ぎ倒された木々の隙間からよろよろとリュートが立ち上がった時には、水星天の鋏脚が彼の急所にめり込んでいた。
 警戒していても対処しきれない動きと攻撃……水星天はあまりに桁違いの存在だ。
「にゃんつー馬鹿力……」
(あんなのにゃーが喰らったらやってられないにゃ!)
 水星天の凄まじい力に『夢見リカ家』神谷マリア(p3x001254)は愕然としながらもちらりとIgnatを見やる。
(……でもまぁ、悪そうな見た目してるし罪悪感なくやれるわね……本物ちゃんには悪いかもだけど)
「あ、今何かやましいこと考えたでしょ! 言っとくけどあっちはバッタモンだからね!」
 マリアと目が合った『カニ』Ignat(p3x002377)は水星天を指さしながらその存在に全力でケチをつけた。
「うるさいよ、『オレ』」
 新たな閃光が容赦なくIgnatを直撃し、光に呑まれたまま飛ばされるIgnatが叫ぶ。
「ああそうだよこっちが本家――っていや流石に無茶苦茶な強化貰っててバカみたいな砲撃になってる!」

「……うーん殺意。これ私もすぐ吹き飛ばされてログアウトさせられない? 大丈夫??」
(いや絶対大丈夫じゃないやつ! でも諦めちゃダメ、ないよりマシ程度でもやる、「クソゲーじゃん!」って叫びたくないからね!)
 早々に消えたリュートに戦慄を覚えた『音速の配膳係』リアナル(p3x002906)は、すぐに『女王候補』アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)に術を掛け、自身の力も高めて備える。
 その間にも大樹の嘆きである氷人形たちはずるりずるりと這い回り、イレギュラーズにゆっくり近付いてきた。
「マリアさん、準備いいですか?」
「バッチリにゃ!」
 一糸乱れぬ連携こそ戦いの場においては最大の武器。
 ミセバヤはマリアと共に移動を開始すると、
「これ以上見過ごすわけにはいかないのです! どんな敵でも、このミセバヤが華麗に成敗するですよ!」
 と早々に斬撃を放った。
 どんなもんだとばかりに「ふんすっ!」と鼻息を荒げたミセバヤに、氷人形はダークな口笛と共にずるずると這い寄る。
 ミセバヤは水星天に対峙する仲間たちから氷人形を引き離すように転進を始めた。
 

 水星天は息吐く間もなく辺り一帯に電撃を走らせ、その間にも氷人形たちの口笛は相変わらず不穏な旋律を奏でる。
 すると、能力を高めた『ステルスタンク』ミミサキ(p3x009818)がまるで「私を倒すとイイコトありまスよ」とでも言いたげに氷人形たちに迫った。
(翡翠はずっとゴタゴタしてましたし、そろそろ情勢を落ち着かせるためにも、ちょっと頑張りましょーか)
 氷人形たちから発せられるのは慟哭とも憎悪とも嘆きとも取れる酷く物悲しい口笛ばかりでその表情も全く変わらないが、ミミサキに引き寄せられるようにずるずる、ずるずると方向を変えて動き……。
「いただきまス」
 ミミサキの牙ががぶりと氷人形に食らいつく。
 氷人形は砕け散ったが、その直後、鹿の背後にある大樹の根元から同じ形の人形が這い出てきた。
(成程、倒しても新手が生まれるということですか……)
 ミミサキの背後に回り込む他の氷人形には、ミセバヤが
「お前たちの相手はこっちなのです! 悔しかったら捕まえてみろなのです!」
 と言い放ちお尻ぺんぺんあっかんべーと挑発して気を引き、マリアも
「小人さん、嘆くよりマリアと一緒に気持ちいいこと考えようね? にゃあんっ♪」
 と蕩けるような猫撫で声で魅惑的な言葉を投げる。
 ほんの一瞬氷人形の口笛が小さくなった機を逃さず、マリアは距離を詰め凄絶の一言に尽きる二連撃を繰り出した。
「行くにゃよ連撃! 足でもぶっ壊して地面とキスしてろにゃ!」
 氷人形は己の口笛に頭を抱えるような仕草を見せながらその場に立ち尽くす。
「死なれたら次が湧いて厄介にゃ、生かさず殺さずにゃ!」

 ミミサキらが大樹の嘆きを食い止めている間、『虎帝』夢見・マリ家(p3x006685)は魂を猛らせると水星天に向けて耳を劈くような咆哮を浴びせる。
「うおおおおっ!」
 パラディーゾはただでさえ歴戦の猛者たる者のデータを利用しているというのに、更にそれをバグらせとにかくあり得ない強さを持っている恐ろしい敵だ。
 しかし、『虎帝』を冠する者として敗北は許されない。
 気合満点の咆哮は幾波もの衝撃波を形成し、まるで殴りつけるように水星天を襲った。
 すると、戦闘欲を刺激されたのか、水星天はマリ家に怒りに似た興奮を覚えて肉薄し殺戮兵器と化した鋏脚を突き出す。
 だが、己の力を高めたアンジェラがリアナルにもらった「勇気」を友にして大盾でそれを阻んだ。
「いいね、なかなか固いじゃないか」
 水星天が心底楽しそうにそう言った直後、鋏脚の斬撃幾閃がアンジェラをあっという間に消し去ってしまう。
「オレも得意なんだよね、連打」
 とはいえ、アンジェラを葬った水星天も無事では済まなかった。
 アンジェラに弾かれた鋏脚の先は水星天の体に傷を作っていたのだ。
「無傷じゃ済まなかったけど、まあいいか」
 水星天は気を取り直すと鋏脚を振り回しマリ家を追い詰める。
 マリ家は何とか仲間が水星天の背後を取れるよう走り回りながらそれを避けるが、凄まじいスピードで繰り出された鋏脚に鉄砲玉のように弾き飛ばされ、立ち上がるともう水星天が構えていた。
 しかし、水星天の殺戮鋏がここでマリ家を消すことはなかった。
「あーっ、アンジェラごめんっ! 頼むよマリ家! さっさとそこのバッタモン吹き飛ばして楽させてあげるからね! FIRE IN THE HOLE!」
 穿ち貫け、燃ゆる閃光! Ignatの主砲が火を噴き、閃光が水星天のサイドを直撃する。
「へぇ……やるじゃない、『オレ』」
「そりゃあね。オレの偽者が迷惑掛けちゃってるし、不用意にデータコピーされちゃったツケを支払わないとマズイでしょ、本家としては!」


 Ignatの攻撃で水星天が怯んだ隙に、リアナルは
「絶望を越えて届け――なんてね!」
 とマリ家に「勇気」を即日お届けすると、水星天には対照的に「絶望」を着払いで送りつける。
「悪いけど荷物は一個じゃないから!」
 続く追加配達に水星天は力を奪われているのか溜め息を吐いた。
「うわ……けっこうやるね」
 水星天はふらつきを見せたがすぐに体勢を立て直し、反撃する。強烈な閃光がリアナルを貫き、更に広範の雷電がIgnatを巻き込みながら二人諸共消し飛ばした。

 現状、水星天を相手取るのはマリ家だけになり、これを危惧したミミサキは
「こちらにも倒して損はないのがいまスよ」
 と氷人形のみならず水星天をも挑発する。
「あ、そう? じゃ、遠慮なく――」
 水星天の閃光は容赦なくミミサキを呑み込み、遥か彼方へ吹き飛ばされた彼女は……戻らない。
 だが、ミミサキを攻撃した際に微かな反撃を食らった水星天は一瞬注意力が削がれ、マリ家はミミサキが作った貴重な隙を生かし自慢のバルカン砲から連続射撃を入れた。
「拙者の底力! 見せて差し上げます!」
「ちょっと、砲撃はこっちの領分なんだけど」
 水星天は苛立ちの表情を見せ電撃を落とす……が。
 その雷閃のうちの一筋があろうことか水星天自身を直撃した。
「あー……そういうことね」
 水星天はマリ家を睨むと一気に加速して迫る。
「負けませんよ! かかってきなさい!」
 鋏脚を突き出す水星天とマリ家がぶつかろうとした、その時。
「……もう戻っちゃったワケ?」
 間一髪、アンジェラの盾が水星天の鋏脚を阻んだ。
「ええ、我ながらバカねって思うわ。折角死なないように備えてるのに自ら強敵の抑えを買って出ちゃうんだもの。でも、殺されまくってログアウト不能になってもそれはそれで万事OK、そんなことよりR.O.Oそのものを守れないことの方がマズイのよ!」

 更に、大樹の嘆きがいる方向からは
「ぎゃうー!」
 という可愛らしくも力強い鳴き声の後、
「森にもおいしい食べ物たくさんあるのに、これじゃ台無しっす! 木も草花も痛がって悲しんでるっすよ! 森自身を壊してまで暴れちゃ駄目っす! 守りたいものを忘れちゃ駄目っす!」
 と周囲の植物の意思を代弁するのが聞こえてくる。
 リュートもサクラメントから戻り再び氷人形たちを対峙していたのだ。
 この場にミミサキがいたら、きっと「そういえばちょうど茸とかの季節ですスねー」などと山の幸談義で盛り上がったのだろうが……。


「折角消したのに、また戻ってるし。もう、キミたちもそこの気味悪い人形と変わらないよね」
 水星天はもはや苛立ちを隠そうともしない。 
 当初は水星天の独壇場にも思えた戦いの旗色は、確実に変わり始めていた。

 水星天は、相変わらず不気味な口笛を響かせる氷人形諸共イレギュラーズに電撃を放つ。
 電撃は動けぬ鹿をも襲おうとするが、そこにミセバヤが駆けつけ体を張って鹿を庇った。
 鹿の盾となったミセバヤは電撃を食らい消えたが、リュートは何とか踏ん張り、追い込まれた状態ながらも水星天の位置を確認すると、
「これでも食らうッスよ!」
 とブレスを放つ。
 惨状甚だしい森に走る色とりどりの光弾ブレスは氷人形のみならず水星天にも突撃していき、見事に巻き込まれた水星天は直近のマリ家に鋏脚を繰り出したが、当然のようにアンジェラが立ちはだかった。
「ねえあなた、そこのIgnatさんよりも強いんでしょ? でも残念ね……これだけぶつかっても本物との違いがあんまり分からないわ?」
 素早くターンして再度、再々度と振るわれる鋏脚の斬撃をアンジェラはひたすら盾で受け止める。
 もう駄目か……とふらついても消えず、次こそは……と思えても踏ん張る。
 今のアンジェラには運もかなり味方しているのだろう。
「いっそ私をバグるくらい何度も殺して、本物よりも圧倒的に強いってところを見せつけてくれればきっと本物とは違うって区別出来ると思うんだけど……」
「ああもうイライラするなぁ!」
 水星天の渾身の一撃がアンジェラをとうとう盾ごと吹き飛ばしたが、彼女に攻撃を当て続けた水星天も当然その代償を払うこととなり、水星天は息を乱した。
 更に、その間に復活したリアナルがIgnatを抱えて飛んで飛んで猛烈ダッシュで戦場に割り入ってくるという状況が水星天を追い詰める。
「火力も連れて戻ったからね!」
 リアナルはパラディーゾになおも絶望を送りつけ、そこにIgnatが距離を詰め痛烈な斬撃を入れた。
「本家からの忠告! 弱い者いじめをして自慢げなんて恥ずかしいことをしないでほしいね! 目指すなら常に最強でなきゃ!」
 至近での強烈な斬撃はさすがの水星天も受け止めるのに精一杯で、しかもそれが連続で入ってくるとなるととても体勢を維持することは出来ない。
 Ignatの斬撃が水星天の体をふらつかせ動きを鈍らせると、今度はマリ家の串が水星天を突き上げる。
「拙者必中の雷速の突き! 食らいなさい!」


 水星天は必死の形相で串を受け止め、気合の怒号を響かせながら後退ると、電撃を飛ばして一気にイレギュラーズたちから距離を取った。
 そして、突然姿を消したかと思いきや
「ははは、楽しいよ……こんなに楽しい殴り合いは初めてかもね。でも今日はこの辺で帰るとするよ。オレももっともっと強くなりたくなっちゃったしね!」
 と、全速力で去っていく足音だけを残す。
(やっぱオレのデータコピーしてるだけあって消えて逃げようとしてる!)
「おいっ、待てよ!」
 Ignatは水星天を追おうとしたが、この場はまだ収まっていない……そう、「大樹の嘆き」がまだそこここに響き渡っているのだ。
「竜の誇りにかけ、この森を守る決意を押し通した。もう破壊者はいない、鎮まるのだ!」
 いつの間にか徐々に疲弊してきていたリュートは巨竜の姿となり、思わず頷きたくなるカリスマ性を漂わせながら水星天の撤退を懸命にアピールし、これ以上森を傷付けてはいけないと氷人形たちに訴える。
 しかし、
「いくら訴えても無駄だ。我々の願いや言葉さえ届かぬ存在に余所者である貴様らの声など響く筈もない……」
 と、動けないながらも意識を取り戻した鹿がリュートに告げた。
 確かに氷人形は一見リュートの訴えに耳を貸していないようにも見えるが、マリアが一体を豪快な二連縦裂きで破壊しても、それ以上大樹の根元から増えて出てくる気配はない。
「……もしや、かの余所者が去り破壊が止まったことで、大樹の嘆きにも変化が?」
 鹿の推測は恐らく正しい。リュートの訴えも決して理解出来ていないわけではないのだろう。だが、大樹の嘆きは新たに生まれこそしなくなったものの呪詛の如き音色を奏でることは一切止めない。
 鹿は悲しげに瞼を伏せた。
「……やはり、倒すしかないか」

 氷人形たちはまるで道連れを求めるかのように弱っている鹿に近付く。
「ったく、その音耳障りなのにゃよ!」
 ここまで奮戦してきたマリアも今ばかりは音に当てられろくに動けないが、リュートの鳴き声に癒されて何とか力を振り絞り、
「いい加減じっとしてるにゃよ!」
 と鉤爪を振るった。
 そこに復活したミミサキが舞い戻り、氷人形たちを引き寄せてがぶりと食らう。
 氷人形は嘆きの響きを一層高く響かせながらミミサキに纏わりつこうとするが、
「させない!」
 とリュートが足止めすると、すかさずマリ家の串が横から刺突し、氷人形が粉砕した。
 残った氷人形をマリア鉤爪を振るって破壊すると、最後の氷人形はまるでむせび泣くような声を発し、へし折れた木々に溶け込むようにして消えていった。
 

「危険人物は追い出したし、鹿さんも助かったにゃ……というわけで精霊さん、マリアにお宝融通してほしいにゃ~♪」
「森の宝、自然」
「森の宝、静寂」
「森の宝、真心」
 「大樹の嘆き」が鎮まり姿を見せ始めた精霊たちにお宝交渉を始めたマリアだったが、精霊たちからの答えにがっくりと肩を落とす。
「……真心だけ貰って帰るにゃ」

「いやもう……これからって時に戦線離脱することになるなんて……」
 と言いつつも、ミセバヤは全速力で戻ってくるなり、まだ動けずにいる鹿の傷を癒す。
「しっかりするのです! もう全部やっつけたので安心するですよ!」
「……何故庇った」
 鹿はぽつりとミセバヤに疑問を吐露した。
「何故って……」
 ミセバヤは困ったように頭を掻く。彼にとって当たり前のことを、どう説明したらいいものか、と。
「鹿もウサギも森の愉快な仲間同士。放ってはおけないのです。そもそも……倒れている相手を助けるのに、理由なんていらないでしょう?」
「我々に癒しを施したところで余所者への意識はそう変わらん。だが……」
 鹿はミセバヤの前で軽く俯いてみせた。
「……余所者が全て我らの翡翠を汚す存在とは限らぬこと、巫女リュミエにも伝えておこう」
 染み付いた排他的思考はそう簡単に変えられるものではない。
 しかし、鹿の見せた態度と発した言葉は、鹿なりの精一杯の「誠意」に違いない。

「全くパラディーゾとかゾッとしないっスねー。だってデータとか勝手に取られるわけでスよ?」
 サクラメントに向かい森を歩きながらミミサキは嘆息する。
「乙女には秘密の一つや二つあるんでスから、そこは気を遣ってほしいものでス」
「……乙女?」
 ミミサキの言葉に、何者かによってどこからともなく発せられた懐疑的一言。
「誰でスか今『お前は乙女ではないだろ』発言をしたやつは」
「……」
 誰もそこまでは言っていない筈だ。なのに何故全員目を逸らすのだろう。
「むうぅ……次言ったら薄い本でスからね?」
 新たな強敵「パラディーゾ」を退け破壊行動を見事に止めたイレギュラーズたちは、ミミサキによって薄い本の題材にされかねない恐怖に口を閉ざしつつも翡翠の将来に思いを馳せながら森を後にするのだった。

成否

成功

MVP

リアナル(p3x002906)
音速の配膳係

状態異常

リュート(p3x000684)[死亡]
竜は誓約を違えず
Ignat(p3x002377)[死亡]
アンジャネーヤ
リアナル(p3x002906)[死亡]
音速の配膳係
アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)[死亡×2]
女王候補
ミセバヤ(p3x008870)[死亡]
ウサ侍
ミミサキ(p3x009818)[死亡]
うわキツ

あとがき

マスターの北織です。
この度はシナリオ「<Closed Emerald>蟹と鹿」にご参加頂き、ありがとうございました。
少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。
パラディーゾ、めちゃくちゃ強かったですが何とか退けることが出来ました。皆様本当にグレイトです。
今回は、配達を頑張ったあなたをMVPに選ばせて頂きました。そして、パラディーゾ相手に巧みな戦術で立ち向かったあなたと仲間を支え続けたあなたに称号をプレゼントさせて頂きます。
改めまして皆様に感謝しますとともに、またのご縁に恵まれますことを心よりお祈りしております。

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