PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Closed Emerald>冬の一族

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●冬の一族
 Rapid Origin Online――ネクスト、翡翠。現実世界の深緑に似た国家だが、かの国よりも幾分か閉鎖的で過激的。それが周囲からの認識であろう。
 しかし翡翠の民とて、個の集合体である。余りあるほどに過激的な者もいれば、穏健派と呼ばれる者たちもまた存在していた。
 その穏健派の中で有名なのが、『冬の一族』である。
 フユツキの姓を持つ彼らは錬金術師の一家であり、特にクオン・フユツキはその功績で以て、人間種ながら翡翠での居住を認められた者である。翡翠に恩恵をもたらした術はリュミエの覚えも良く、彼は幻想種の娘を妻として迎え、3人の子宝にも恵まれた。幸せな家庭である。
 ……が。その子宝が育った今、少しばかり困った事にもなっているのだ。

「またなの?」
「こちらまで2人の声が聞こえてきましたよ」
「ああ……すまない」
 部屋から出てきた長女と妻を振り返ったクオン。その表情は些か疲れており、チトセは休憩しましょうと夫に茶を入れる。翡翠で栽培される茶葉は疲労回復に秀でているのだ。
「今日はどのようなことで?」
「……余所者を追い返しに行くと言って、飛び出していったよ」
 困った奴だ、とクオンは苦笑する。
 彼の子供は長女、長男、次女の3人だ。裕福な家庭では育てる事になんの支障もなかったし、父母ともに惜しみない愛を注いで育てた。結果、色々な要因が重なったのだが――長男がそれはもう、傲慢不遜で我儘三昧の男に育ってしまったのである。
 そんな彼の評判は実に様々。彼が気に入らない者は『成金太郎』の渾名で呼ぶ場合もあり、かと思えば気に入った者へ惜しげなく投資するものだから素晴らしい投資家だと褒める者もおり。ちなみにリュミエからは『もっと落ち着いたなら』と言われ、カノンからは『燃やしてやる』と言われている。後者は自業自得であることも記しておく。
 クオンに窘められるも家を飛び出し、戻ってくると姉に諭され部屋に篭り。どう見ても遅れた反抗期であったが、厨二にも目覚めて妹にも苦笑されている。
 しかし、ここまでなら微笑ましいで済む範囲なのだ。反抗期はいつしか過ぎ去るものだし、落ち着きを持ったならフユツキ家の長男は素晴らしい人材なのだから。敬愛するリュミエの為、日夜努力のできる男である。
「私は今でこそ翡翠の民だが、元は人間種だ。……どうにも、納得ができなくてね」
 彼は翡翠の外も知っている。色々な人間がいることもまた、知っている。
 裕福な貴族。卑怯な賊徒。毎日働く平民に、貧しいスラムの子供達。完全な善でもなければ、完全な悪でもない。翡翠とてそうであろうに、翡翠の民はこの地が、自然が大切なあまりにそれを見失ってしまうのだ。
「外の世界にはイレギュラーズという者たちがいるそうだ」
「行商の方が仰っていた方々ですね。その方々を、招き入れたいのですか?」
 黒い翼を持つ少女。錬金術の道具や資材を取引していたのだが、彼女もサクラメントの停止により翡翠へ立ち入れなくなっていることだろう。彼女は以前、イレギュラーズたちと協力して砂嵐の傭兵団を退けたのだと話していた。
「ああ。どうやら彼らは翡翠の国境辺りまで辿り着いているらしいのでね。余所者を追い出してくれたなら、説得の材料ともなるだろう」
 過激派の面々が彼ら自身に説得されれば尚良い。最も、既に交戦したと言う話も聞いているから全員の説得は難しいだろうが。

 ――ともあれ。フユツキ家としての動きは定まった。


●翡翠にて
 『灰の流星』グリース・メイルーン(p3x000145)は調査の為、再び翡翠の国境まで足を踏み入れていた。勿論1人ではない。ここで幻想種に会えば、何があるか分かったものではないのだから。
「良かった。幻想種の姿はないみたいだ」
 特段好戦的というわけでもない。故に戦わなくて済むならその方が良い。戦うならDPSで負けたくないけれど。
 不意にパーティメンバーの1人が待って、とグリースを呼び止める。それに反応したのはグリースと――遥か遠くにいたはずの、人影。
「幻想種か……っ」
「待ってくれ。私はキミたちに危害を加えるつもりはない」
 警戒心を強めたイレギュラーズたちに、しかしその人影はすぐさま両手を上げる。そうしてゆっくり近づいてきた彼の姿に、グリースは息をするのも忘れて凝視した。
(どうして、ここに)
 その者は珍しく、翡翠内だと言うのに幻想種ではなかった。伝承などで良く見るような、普通の、人間の耳。獣種や海種、飛行種のような因子も見受けられない。恐らくは人間種だろう。
「私はクオン・フユツキ。キミたちはイレギュラーズで合っているだろうか?」
 頼みたいことがあるのだと告げられて、グリースは半ば働かない頭で頷いた。他の仲間たちも声を上げないから間違っては無いんだと思う。多分。何も考えられていないけど。
 他の幻想種に見つかると厄介だから、とクオンは一同を近くの小さな家へ促した。小さいと言っても家である。そこは子供達が小さい頃、家でどうしても邪魔されたくない時の避難所かつ作業場だったのだそうだ。
「さて、茶のひとつも出せず申し訳ないが、事態は切迫していてね」
 翡翠の民たちが言う『余所者』が大々的に動き出したのだ、とクオンはイレギュラーズたちへ告げた。それに合わせ、各地に存在する大樹が嘆いているのだとも。
「大樹が……嘆く……?」
「ああ。自然が起こした防衛機構だ。それに伴ってか、翡翠の精霊たちもざわついている。翡翠内部だけで全ての対処をするには間に合わない」
 故に、協力してほしいのだと。この場にいるイレギュラーズへ頼む件は少々――いや、かなり私情を挟んだものになるのだが。
「余所者を追い払うと息巻く者の1人に、私の息子がいてね。悪い子ではないんだが、反抗期真っただ中でね。こちらの話を聞きもしない」
 要約すれば『ゲンコツの一つも浴びせて連れ帰って欲しい』というものだった。幸か不幸か、反抗期に入るまではクオンが稽古を付けており、実力は十分にある。元は素直ないい子だから、冷静になればイレギュラーズが話に聞く余所者と違うこともわかるだろうと。
(ちょっと待てよ)
 グリースはようやく頭が回ってきて、あることに気付く。クオンの息子。現実世界ではクロバとセツナの2人の子供がいたが、実はそれ以外に子供が存在したのだろうか?
 これはある種の現実逃避であった。そんな反抗期真っただ中なんて。しかも聞いたところ齢は19だって言うじゃないか。やめてくれよ、本当に――。
「息子はクロバ。クロバ・フユツキという人間種だ。どうか、よろしく頼むよ」
 ゲームの中も非情だった。反抗期の中身を見せられると言うグリースは、けれど、目の前のクオンを見て思ってしまった。

 ――ゲームの中じゃ、ちゃんと家族なんだな、って。

GMコメント

●成功条件
 NPC『クロバ・フユツキ』の保護

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不測の事態に気を付けてください。

●フィールド
 翡翠の迷宮森林内です。クロバさんを射程圏内外で視認したところから開始します。(探索プレイングは不要)
 木々が時折視界を遮るかもしれません。また、精霊たちの力により局所的に天候変動の可能性があります。
 彼は怒れる森の精霊たちと共に、迷宮森林まで迷い込んだ余所者を撃退する心づもりのようです。

●エネミー
・森の精霊『シルフィード』
 風を司る精霊です。空気を循環させ、時に次代の種をどこかへ運んでいくモノ。1m程度の小さな少女の姿で、緑色を帯びた短い癖毛の髪が跳ねています。
 何かを言っているようですが常人には理解できない言語のようです。
 非常に攻撃力と反応が高いです。気が立っており、イレギュラーズに対し攻撃を加えてきます。【出血】等のBSが想定されます。

・森の精霊『ノムニ』
 土を司る精霊です。自然を育むにあたって沢山の栄養を分け与えるモノ。1m程度の小さな少女の姿で、何かをぶつぶつと呟き続けています。
 防御力に秀でており、耐久性も申し分ありません。こちらも非常に気が立っています。【足止】等のBSをかけてくる他、2人まで庇うことができます。

・森の精霊『ウンディーヌ』
 水を司る精霊です。綺麗な水を巡らせ、自然に潤いをもたらすモノ。1m程度の小さな少女の姿で、その体は若干向こう側が透けて見えます。何かを押し殺しているようにずっとだんまりです。
 回復に秀でており、抵抗力を上げるベールを張ることができます。また【棘】を持っています。【窒息】等のBSが想定されます。

・クロバ・フユツキ
 クオン・フユツキの息子。傲慢不遜にして我儘な19歳。厨二に目覚めて左目と左腕を錬金術で黒く染め、クロバ・フユツキ(p3p000145)と同じ姿をしています。
 刀とガンブレードの二刀流で接近戦を仕掛けてきます。EXAと【連】付の攻撃により、非常に手数に秀でています。また、反応速度にも注意が必要です。
 その他、彼は錬金術を多少扱うことができます。此方に関しては詳細不明です。
 翡翠の民と認められており、精霊たちは彼へ攻撃しません。【不殺】、或いはスキルなしの通常攻撃で倒す必要があります。また、彼が倒されると、森の精霊たちが彼を取り返そうと倒れるまで襲ってきます。


●NPC
・クオン・フユツキ
 最愛を失わなかった世界線のクオンです。錬金術が翡翠の功績となり、チトセ・フユツキとの結婚が叶いました。また、彼らフユツキ家(通称『冬の一族』)は、幻想種でなくとも翡翠に住まう事を許されています。
 この世界線のクオンは『剣聖』の名を持っていません。愛する人と可愛い子供に囲まれるお父さんです。
 リプレイには登場しません。

・チトセ・フユツキ
 クオンの最愛。この世界では幻想種です。(元々は別世界の住人であるため、もしも召喚されていたならウォーカーでしょう)
 クロバの反抗期は長い目で見守るつもりのようです。幻想種の時間は沢山ありますから。
 リプレイには登場しません。
 

●ご挨拶
 愁と申します。
 翡翠編なのでお父さん出してあげたいな! と思っていたら家族円満な設定を拝見したのでこうなりました。
 それではどうぞ、よろしくお願い致します。


●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●重要な備考
 <Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
 但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

●『パラディーゾ』イベント
 <Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
 <Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <Closed Emerald>冬の一族完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月08日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グリース・メイルーン(p3x000145)
灰の流星
シフォリィ(p3x000174)
クィーンとか名前負けでは?
ムー(p3x000209)
ねこ
Siki(p3x000229)
また、いつか
グレイ(p3x000395)
自称モブ
マーク(p3x001309)
データの旅人
ディリ(p3x006761)
コル(p3x007025)
双ツ星

リプレイ


 ここはゲームの中だ。嗚呼、わかっているとも。
 無辜なる混沌のデータを吸収した紛い物。どれだけ本物に酷似していても、その命は作り物。

 ――それでも。

(……なぁ、あんたはこの世界で幸せな家族を築けたのか。クオン)
 きっとあの世界では。俺と、妹と暮らすあんたは、幸せな家庭だと思えなかったんだろう。いいや、家庭を築いていたとすら思われていなかったかもしれない。俺も、妹も、あんたにとっては『ただの道具』だったのだろうから。

 俺も、あんたも。あんな風に居られたなら、誰も悲しみ、絶望することなんてなかっただろうに――。



「……幸せな家族、か」
 『灰の流星』グリース・メイルーン(p3x000145)の言葉に『クィーンとか名前負けでは?』シフォリィ(p3x000174)は何とも言えぬ表情を浮かべる。彼女も此度の依頼主であるクオン――混沌世界にいる方――とは相対したことがある。姿形は同じなれど、纏う雰囲気が異なるとああも違うのか。
(世界が違うとわかっていても、複雑なものですね……)
 ともあれ、今回クオンがイレギュラーズの味方サイドであることは確かだ。彼の願いである『息子の保護』をきっちり果たさなければ。
「こちらに攻撃してきそうなのはちょっと勘弁ですけれどね」
「ん……連れ戻すのはきっと大変。でも翡翠の関係改善の足掛かり」
 頑張って連れ戻さなければと『ハンドルネームは』グレイ(p3x000395)は気合を入れる。最も、やんちゃでワガママ、反抗期の厨二病と面倒臭い要素は揃い踏みなわけだ。
「まあなんというかその、あれだな。このくらいの年頃なら……」
 あるだろう、と『君の手を引いて』ディリ(p3x006761)の言葉がやや歯切れ悪いのは、もうすぐ二十歳にもなろうという相手だったからか。否、少し遅い反抗期と思えば納得もできる。それに何かへの憧れは性格をも変えると言うから。
(だが……少々おいたが過ぎるな)
 ディリは微かに眉根を寄せた。余所者であることは確かだが加害者ではない。罪なき者に危害を加えてしまう前に、家族の元へ帰ってもらったほうが良いだろう。
「……それにしても気のせいか、どこかで聞いた事あるような名前」
 そうぼそりと呟いたグレイにグリースが肩を揺らす。いやいや気のせいだって。万が一にいたとしても混沌とは別の人間だし。
「――わあ、いたのです! 本当にクロバさんなのです!」
 不意に『双ツ星』コル(p3x007025)がぱっと表情を輝かせながらある方向を指す。一同がつられてそちらを見れば確かに、なんか見たことのある姿の男が佇んでいた。男はコルの声に気づいたか、イレギュラーズの方を振り向く。その左目と左腕――服に隠れているため、左手と言うべきか――は黒く染まっているようで。
「遅咲きの厨二病なのです、これは手遅れですね……!」
「カッコいいのかな、あれ……」
 コルがきんきらりんと目を輝かせてまじまじ見る傍ら、グリースは至極何とも言えないといった表情であった。
 混沌世界の姿はほら、仕方ないから。でも自分で染めたとなれば話は違う。事情を知らない面々からは自分もそう見られているのかもしれないと思うと、落ち度はないのに恥ずかしくなってきそうじゃないか!
「精霊たちも一緒のようですね。彼らも何とかしないといけないでしょう」
 シフォリィが『青の罪火』Siki(p3x000229)へと強化を施せば、彼女はゆるりと頷き、そして――駆ける。その身から溢れる青の炎は、触れた何もかもを塵へと還すだろう。
 しかし――Sikiの瞳には、彼らを守る薄いベールが見えた。半透明で球体のようなそれは、恐らく水の精霊ウンディーヌによる守護の力。
「よくノコノコと姿を現せたもんだな」
 聞き慣れた声に視線を向ければ、クロバが二振りの武器を手にこちらを睨みつけていて。
「余所者はオレが全員、叩っ斬る!!」
 武器を構え突っ込んでくる――その刹那、Sikiとの間に何者かが滑り込んだ。
「チッ」
「訣別の騎士、マーク。お手合わせ願いたい」
 Sikiに動き出しを合わせ彼を食い止めた『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)へ、クロバは舌打ちひとつ。そしてそのまま流れるような連撃を叩き込む。
(僕1人でどこまで抑えられるかな)
 マークはそれを受け流し、あるいは受け止めながらクロバを見据える。
 精霊たちは彼の味方だ。味方につける――認められるまでに鍛え、練り上げた技と心が彼にはある。少しの油断も許されない。
(本当にそっくりなのですね)
 自身を強化したコルはとん、と地を蹴る。ゲームの世界で仲間たちを模したNPCに出会ったことは初めてじゃない。けれども、ここまで似たNPCは初めてだ。この翡翠におけるイベントで登場したパラディーゾとも違う。なおさら不思議な気分だった。
 知人と似ていても、その厨二病が治らなくとも、誤解は解かねばなるまい。その荒々しい気性をまずは沈めるところから、とコルはクロバに負けぬ手数の至近戦で仕掛けていく。
 しかし守るべき翡翠の民が攻撃されるのを、精霊たちが黙って見過ごすわけもなく。そのうちの1体が彼らへ近づかぬよう、ディリは立ちはだかるとガンブレードを担いだ。
「俺は俺の仕事をさせてもらおうか。相手になるぞ、風霊」
 挑発の仕草と言葉を投げかけるも、風の精霊シルフィードはクロバを助けに行こうとするように視線を彷徨かせる。それを見たディリは小さく眉根を寄せた。
 現実のギフトよりも効果の強いアクセスファンタズムは、それでも絶対ではない。しかしここでそう易々と通すわけにはいかないのだ。
(多少手荒でも、やるしかない!)
 本来なら攻撃しない方が良いことを承知の上で、それでも用意しておいたダメ押しの一撃。それによってシルフィードの視線がディリへと固定される。
 クロバとシルフィード。それぞれが抑えられた隙に仲間たちは残ったウンディーヌ、ないしはノムニへと攻撃を叩き込んだ。
 ノムニの力が地面に作用し、うねって体勢を崩しにかかる。それを抜けたグレイがウンディーヌへ攻撃を届かせると、彼女の纏う水が針のようにグレイを突いた。微かな痛み。けれど躊躇ってる場合ではない。
 ウンディーヌはゆらりとゆらめくと、その両手を空へと伸ばす。すると黒い雲がむくむくと膨らんで、あっという間に土砂降りの雨が降り出した。
 木々に紛れたグリースは精霊たちへ声をかける。武器は下ろさない。向こうからの敵対心を受けている以上、無防備な姿は見せられない。
「教えてくれ。どうして敵対してくるんだ?」
『余所者ハ消ス。翡翠ノ民ヲ護ル。オ前タチハ余所者……!』
 ノムニが顔を上げる。その瞳の奥に燃えているのは――憤怒か。
 地面が揺れる。グリースはその場を素早く離れ、跳躍しながらノムニへ向かってヴォーパル・スターを放った。土壁を作ったノムニのあらぬ方向より、『ねこ』ムー(p3x000209)がにくきゅうぱんちを繰り出す。
「やはり、堅いですね。落としにくそうです」
 空中で一回転し、地へ着地したムーの足元が軽く滑る。一瞬目をそちらへ向けて、それからムーは視線を巡らせた。
 堅いノムニ、回復手のウンディーヌ。そして苛烈なシルフィードと――。
(こういう風に、知人に似た人を見るたびに変な気分になりますね)
 現実世界でも見たことがある、けれど別人のクロバ。ムーは何とも言えぬ表情を浮かべながら、倒せそうなところからと気まぐれに駆け出していく。
 シルフィードの攻撃に味方を巻き込まないようにしつつ、ディリは回転剣で仕掛けていく。彼をシフォリィがひたすら回復しているが、徐々に押されていく。
 これらの精霊たちはいずれも下位精霊ではない。このまま押し切られてしまうのは時間の問題だ。
(精霊との連携でクロバもマークを倒してしまうかもしれない)
 彼らをもたせるため、グレイは癒しの力を使う。攻撃を抑えてでも戦線は維持しなければ。
「こっちは私たちが相手なのです!」
 コルの素早いパンチとキックがウンディーヌへと入り、同時に肌をチクチクと刺される感触を覚える。それでも、クロバとシルフィードを抑えてくれている2人よりは痛くない。
(抑えに回ってる仲間もあまり長くは耐えきれません)
 数の利を作らなければと攻めるコルに合わせ、グリースとSikiはノムニへ攻撃を向ける。 Sikiの一刀が土壁を粉々に砕いた。
「私たちは侵入者でないよ。……なんて、簡単には信じてもらえないだろうけれど」
 それでも、木の枝1本だって燃やしていいものは存在しない。故にSikiは炎を収め、剣を向けるのだ。
「また天候が変わりましたね……」
 ムーは面倒そうに宙へと視線を向けて、それから手を地につける。風が強い。戦闘のできる体勢ではないが、こちらの方が動きやすい。あとはなるようになるしかないだろう。
「クロバさんにも影響がありそうなものですけれど、精霊さんたちは何でまたこんなことを……あ、何言ってるのかわからないのでやっぱりいいです」
 残念ながら、グリースのように精霊との対話手段を持っているわけではないのだ。ムーは聞きかけて早々やめた。わからない言語を解する努力も、伝えようとする努力も、互いに今は時間が足りない。
(しかしまぁ、クロバさんは……家族とかはよくわかりませんが、幸せなことは、まぁいいことだと思いますけれど)
 何が彼をこの場へと突き動かしたのか。チラリとクロバを見れども、そればかりは伺えない。彼を想うクオンやその家族のことも。
 そのクロバを相手するマークはクロバと何度も切り結び、彼が抜けようとすればその道中に立ちはだかる。徹底的に妨害し、彼を行かせまいとしていた。
「さっさと退くなら命くらいは助けてやるよ。なあ、余所者!」
「確かに大樹の嘆きは、余所者の仕業だ。けど、その余所者は僕らじゃない!」
 マークの言葉は真実だ。けれども翡翠の民はとても強情で過激で、それは穏健派と言えども『外から永住した』クオンと『物心ついた時には翡翠にいる』クロバでは差異があるのだろう。
 拮抗していた力が偏り、マークが後方へ跳ぶ。まだ倒れるつもりは更々ない。武器を構え直した彼にクロバは切先を突きつけた。
「それならあんたたちが森を怒らせる余所者じゃないこと、どう証明するつもりだ――?」



 シフォリィの治癒の光が木々の間を飛んでいく。その最中、Sikiはちらりとウンディーヌを見た。
(何か……言いたげなんだよなぁ)
 シルフィードやノムニはこちらへの敵意を表しているが、ウンディーヌはひたすら無言を貫いている。けれどもその裏に彼女――少女の姿をしているのでそう呼ばせてもらおう――の意思があるような気がして仕方ないのだ。
「ねえ、ウンディーヌ。言いたいことがあるなら言った方がスッキリするよ」
 Sikiの言葉にウンディーヌの表面が文字通りに揺らいだ。波紋がひとつ、ふたつ。その足元に雫がひとつ、ふたつ。
「ウンディーヌ――」
『……ぜんぶ、』

 きえちゃえ。

 瞬間、Sikiの周辺に顔を覆うような水の球が出現した。それを吸い込む直前にSikiは息を止め、目の前を払うように武器を一閃させる。ムーは敵の攻撃を押しとどめるようににくきゅうぱんちを繰り出した。
(まずいですね、押されている)
 クリミナル・スクエアで敵を軽く飛ばしたグリースはシフォリィへ「下がって!」と鋭く叫んだ。彼女を傷付ける訳にはいかない――傷付けさせたくない。本名プレイの彼女をグリースは『現実(リアル)で良く知っている』。故に、例え彼女がこちらに気付いていないとしても気まずい思いをすることになるだろう。万が一、傷つけんとしたのがこの世界のクロバであれば、尚更だ。
 その状況を横目に把握しつつ、マークはクロバへ言葉を重ねる。自身らが知っている事実を、どうか彼が納得してくれるようにと。
「森を傷付けているのはイレギュラーズにそっくりな連中……僕そっくりの偽物も居た。彼らが悪意を以て翡翠と外部の対立を煽っているんだ。翡翠を守るなら、真因となった悪を断つべきじゃないのか!」
 攻撃の雨は止まない。クロバの心には――響いていない。
 ならばとマークは手にしていた剣と盾を投げ捨て、両手を広げた。さしものクロバも手を止める。
「何のつもりだ。命乞いでも?」
「いいや。……この通り僕は無防備だ。それでも大樹の嘆きを生んだ犯人と決めつけるのなら、僕を斬れば良い」
 それはマークの覚悟でもあった。命を投げ出してでも止めようとすれば、響くのではないかと。彼も少しは余所者を知ろうとしてくれるのではないかと。
「斬れるなら斬ってみろ、分からず屋!」
 その眼前に、銀の煌めきが走る。
「――味方だって証拠もないくせに、命なんてさらけ出すもんじゃねえよ」
 薄れゆく意識の中、マークはクロバを睨みつける。その向こうに見えるのは、覚悟。
 受けたのは自身が守るのだと――立ちはだかるモノは必ず倒すのだという、強い意志。
「今、精霊たちが攻撃を仕掛けられてる。それだけでオレにとってあんたたちは敵だ」


 場へクロバが突如乱入してきたことで、イレギュラーズたちはざわついた。クロバが手元の其れを握りしめたことで周囲の木々がうねり、一同を邪魔しにかかる。こちらを傷付けんとするその術にグレイは声を上げた。
「ソレは遊びですることか!? 人や周囲を傷付ける為に教わったのか!?」
「これを使うのは、いつだって翡翠の為さ」
 鋭い枝が串刺しにするように迫り、ある者は武器で押しとどめ、ある者は斬り払う。
「分からず屋さんには後でパパさん、ママさんからお説教ですよ!」
 コルは素早く飛び出すと、精霊へ向けてできうる限りの打撃を加えた。しかしその間にもクロバの手は止まらない。今にも攻撃を放とうとしていたグリースへ向けて肉薄し、武器を振り上げる。それを辛くも受け止め、グリースは怒りの目を向けた。
「家族を置いて何やってんだこの大馬鹿野郎!!」
「――こんな時だから、置いていくんだ」
 それは小さく、囁くような。攻撃を受け止めたからこそ聞こえた言葉。グリースが目を瞬かせると同時、もう一振りの武器が振り下ろされた。
(こんな時……だから……?)
 崩れ落ちながら、グリースは思い出す。自分たちへ依頼を寄せたクオンのことを。
 あんな顔、知らない。知らなかった。あんな顔が出来たんだって初めて知った。
 "俺"が無くして――否、最初から得てすらいなかった、けれど普通の人なら誰しもが持っている筈のもの。それをこの世界の"オレ"は持っている。
 悔しかった。羨ましかった。心の底から嫉妬していた。
 すぐさま踵を返そうとする男の裾を掴んで、グリースは振り向かせる。嗚呼、本当にそっくりだ。
「ねぇ、知ってるかいクロバ・フユツキ」
 吐息のように、言葉が零れ落ちる。

「大事なものは"持ってる者"にはわからないものなんだよ――」

「グリースさん!」
「私が行く!」
 叫ぶシフォリィ。Sikiがクロバを食い止めるも、今度はシルフィードが解き放たれる。そのヘイトはディリを回復し続けていたシフォリィへと向けられた。
「……退きましょう」
 ムーもコルとともに攻撃を仕掛けるが、数の差を埋められた以上勝ち目は薄い。これ以上は悪戯にデスカウントを増やすだけだ。
「いつか……親愛なるお師匠様にそっくりなあなたと、話がしたいな」
 またね、と。殿を務めるSikiはクロバから踵を返し、仲間についていく。後ろから追いかけてくる気配はあるが、逃げ切らなければ。

 ――それから暫しして、追跡の気配は消えた。諦めたのだろう。
 同時にイレギュラーズたちもクロバの位置は分からなくなったわけだが、まずは態勢を立て直さなければ。半数ほどまで減った一同は、応急処置を施すとゆっくり移動し始めたのだった。

成否

失敗

MVP

グリース・メイルーン(p3x000145)
灰の流星

状態異常

グリース・メイルーン(p3x000145)[死亡]
灰の流星
シフォリィ(p3x000174)[死亡]
クィーンとか名前負けでは?
マーク(p3x001309)[死亡]
データの旅人
ディリ(p3x006761)[死亡]

あとがき

 お疲れさまでした。
 クロバ・フユツキは――さて、何処へ行ってしまったのでしょうね。
 ゆっくり英気を養い、再開に備えましょう。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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