PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<lost fragment>永遠に燃ゆる聖女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 現実――混沌大陸に存在する『天義』こと聖教国ネメシス。
 その南西部に、ある町がある。その町の名を『オルタンス』という。
 梅雨時には一面を紫陽花の咲き誇る美しき町であったという。その町を一帯に知らしめたのは、ある夏の日の話。
 魔術師としても知られ、あらゆる病を、傷を癒して『聖女』と呼ばれたある女が領主によって魔女裁判にかけられ、火あぶりにされた事件であった。
 聖女を殺したその日から、不正義を以って正しさを焼いた町は悪名高く歴史に刻まれ――そして時と共に忘れ去られていった。

 さて、場所を変えて話そう。
 ことは通称を『正義』、あるいはジャスティス。
 ROO――虚構世界の『ネメシス』に該当するその国においても、同じ町は存在していた。
 ――そう、存在して『いた』のである。

 アストリア枢機卿がヒイズルの技術を模して完成に至った『短期未来予測術式』――『【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)』によって、正義は既に『国土のおおよそ七割』が侵略されたことが判明した。
 その事実を、『ネクストの住民であるNPC達は認識できずにいた』のである。
 知れずのうちに過半を虚無へと変えられていたNPC達が、それに気づけたことそれ自体が、称賛に値することといえた。
 多くの人間が認識できなくなった『正義』において、彼のオルタンスは『まさに誰にも気づかれなかった』。
 辺境に近い南西部であることに加え、恐らくは『それに気づけたNPCすらいなかった』その町は、まさしく完全に滅ぼされていたのである。

 ――ではなぜそれが気づけたのか。
 その理由の一つはまさに【偽・星読星域】(イミテイション・カレイドスコープ)のおかげもある――が。
 なによりも『君』のおかげであった。
 画面上、広げられた正義のMAPをズームして見たりしていると、君はふと『不自然に遠い』町があることに気づいたのである。
 どこかで休息する町が無ければおかしいほどの距離――広がるその光景に不自然さを覚えたその時、画面にその文字は踊る。

 ――『イベントlost fragment開催中です!』――
 なんともちんけな、人をおちょくっているかのような文言。
 それはネクストの新しいイベントの一つ。正義を喰らうワールドイーターとの戦いの始まりであった。


 ――激しく業火が燃え盛る。
 閉鎖されたモザイクの町。
 天へと立ちのぼる炎は、その内側にある一人の少女を苛烈に燃え立てる。
 括り付けられた少女は、四肢を焼く痛みも、呼吸を侵す煙も、溢れ出る有害な物質さえも無視している。
 ただ空へと向かうは、神への祈り。
 ――神よ、御身へ好みを捧げましょう。
 穏やかに微笑みながら、少女は笑う。
 少女は笑う。
 問題はそれが、ワールドイーター(バグ側)の存在であること――ただそれだけだった。
「死ね!! 死んでしまえ! 悪魔の子め!」
「私の子に何をしたっていうの! この子が可哀想……アンタみたいなのに救われるなんて!」
「燃やせ!」
「燃やせ!」
「「燃やせ!」」
 与えられる罵詈雑言――それらすべてに対してなお、少女は静かに微笑みを残す。

「……酷いな」
 その様子を遠巻きに見る『君達』は、顔をしかめる者もいるだろうか。
 この地獄は――終わらない。
 この『モザイク』は、『バグ』は、『永遠にこの時のみを切り取り映し出す』。
 周囲を覆う群衆は、全て人の形をした炎に過ぎず。
 灼熱に燃え上がる中央の乙女は、死ぬことなく燃え続ける。

 ――この地獄を終わらせよう。
 『核』であるワールドイーターを倒さなければ、この世界を終わらせられないのである。
 核として刻み付けられたワールドイーターにさえも、この世界はあまりにも冷酷だった。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 モザイク異界に鎮座する磔の聖女を打ち破りましょう。

●オーダー
【1】『偽典:磔の聖女』オルテンシアの破壊

●フィールド
 ワールドイーターにより構築されたモザイク世界の中です。
 『聖女が火刑に処されている大広間』そのものとでも言える光景が広がっています。
 ただし、聖女の周囲を取り囲む群衆は『人型の炎』であり、『火刑に処されている聖女』を含めてエネミーです。

 この世界ではどうやら距離情報がバグっているらしく、
 超遠より遠くに逃れてもワールドイーターの攻撃が飛んでくる場合があります。

 『バグを認識できないNPCの目』ではこの場所には普通の街道が広がっているだけとのこと。
 またバグの世界内のワールドイーターを倒すことで領土・領民を『何事も無かったかのように』取り戻すことが出来ます。

●エネミーデータ
・『偽典:磔の聖女』オルテンシア
 現在進行形で火刑に処されている聖女と十字架。
 この一帯のワールドイーターであり、核にあたります。

 『火刑に処されている聖女』という性質上、その場所から移動することはありません。
 ですが、前述のフィールド効果も相まって射線が通っていると、
 超遠以上遠くにいても攻撃が届く場合があります。
 戦闘においては射線の相手いる場所に向けて5種類の炎を投射してきます。
 全ての炎が範攻撃にあたります。

 【業炎】【炎獄】をもたらす『赤炎』
 【猛毒】【致死毒】をもたらす『紫炎』
 【氷結】【氷漬】をもたらす『藍炎』
 【ショック】【感電】をもたらす『黄炎』
 【泥沼】【停滞】をもたらす『黒炎』

・群衆の炎影×25
 オルテンシアを取り囲むようにして存在している『人型の炎』です。
 ワールドイーター部下のエネミーです。
 戦闘開始時は聖女に対して罵詈雑言を浴びせかけ、興奮する群衆のようになっています。
 聖女に向かって攻撃する者を『聖女を奪還しようとする者』と誤認したように襲い掛かってきます。

 抑えつけるように皆さんに襲い掛かります。
 【足止】系列、【火炎】系列のBSをもたらします。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <lost fragment>永遠に燃ゆる聖女完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
Gone(p3x000438)
遍在する風
樹里(p3x000692)
ようじょ整備士
マーク(p3x001309)
データの旅人
シラス(p3x004421)
竜空
吹雪(p3x004727)
氷神
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者

リプレイ


 燃え盛る炎は死中に合わせて天に昇る。
 くべられた足元が酷く輝き、熱が聖女の姿を揺らめかせる。
 それでも、何も思わぬと言った風情で手を合わせて微笑むその姿は、清らかさと共に、いっそ恐ろしささえある。
(彼女を倒すことが結果的に救いにつながる。むろん、無論、それも彼女が望む結末とは異なるのだろうが……)
 虚構の聖女を見下ろすようにして、現場へと姿を見せた『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)は、すぐさまスキルを発動する。
「グゥルラァァァ!!!!」
 それは天を割らんばかりの咆哮。
 戦場を劈く竜の雄叫びに、それまで聖女へと罵詈雑言を浴びせ続けていた人型の炎が、ヴァリフィルドを見た。
 人の形を取り、ぽっかりと黒炎で目と鼻を作る異形がぞろぞろとこちらを見る様はあまりにも醜い。
「「魔女の手先か! 魔女の手先だ! 殺せ! 殺せ!」」
 振り返るや否や、それらは合わせたかのように声を荒げ、ヴァリフィルドめがけて移動していく。
「僕は訣別の騎士、マーク。世界を侵食する悲劇から、オルテンシアを奪還する!」
 動き始めた群衆に割って入ったのは剣を天へと掲げるようにして姿をさらした『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)だ。
 その言葉に反応するようにして一部が今度はマークへと意識を向けて近づいてくる。
(オルテンシア……混沌(現実)で実際に起こった悲劇の再現。
 防ぐことができないのは哀しいけれど、せめて、安らかな終わりを)
 視線を向けたオルテンシアは、未だ空への祈りの手を崩さない。
「あの女を渡してもらうぞ、バカ騒ぎはここまでだ。終わらせてやる」
 続けて姿を見せた白亜と澄んだ夜空を思わせる『竜空』シラス(p3x004421)は、大きく翼を広げると、辺りの仲間へと竜の加護を降ろしていく。
 その姿を見た人型の炎がシラスへ近づいてくる中、シラスの口元にスパークが走り出す。
 それは瞬く間にまばゆい白い光へと変質していく。
 口から放ったのは、雷鳴轟く1つの球体。それはすさまじい速度で戦場を貫き、こちらを見ていない1体の人型を貫いた。
 その瞬間、身体を痺れさせながらそいつがシラスの方を向く。
(……これはデータ、作り物の世界の、仮初の人間。
 実際に敵を倒せば全部が元通りになるような奇跡があっさり起きる。
 そのうえにあの聖女はバグ……なのに)
「気分の悪い話だ」
 眼下を見下ろすような形となったシラスは、思わずそう呟いた。
(こんな風に焼かれ続けているなんて……)
 悲壮感に顔を歪めて『氷神』吹雪(p3x004727)はふるふると顔を振る。
「ここで何をしたところで、現実で起こったことは変わらない
 でも、このままになんてしておくわけにはいかないわ」
 そう、彼女が――聖女が消滅しない限り、彼女は燃え続けるのだから。
「そのためにも……まずは邪魔な貴方たちからね」
 視線を群衆の炎へ。声色は、風貌らしく冷たい。
 その視線は氷神を形どる彼女らしく冷たく。けれどうちに見える怒りが静かに燃えている。
 救われた側が、口汚く救った側を罵る様ほど悍ましく怒りを覚えるものはない。
 見据えられた空間丸々が、一気に凍り付いていく。
 人型の炎が、刹那のうちに氷像と化していく。
 たかが人型の炎、氷の中へと閉ざすことなど容易い。
(本当に聖女ナラ俺ノ出る幕ではない。ガ……。
 異なる理により顕現したバグだというなら、同類だな。であれば、刈り取るのミ)
 揺らめくように『遍在する風』Gone(p3x000438)はそこにいる。
 風が騒めきたてる。
 そのまま文字通り風の如く空中を疾走すると、マークの方へ殺到する人型の炎へと向けて鎌を乱雑に振り回していく。
 振り回され、かき回された風はやがて幾つかが鎌鼬と化して、近づいてきていた人型の炎の一部を切り裂いた。
(ふむ…ひとをいやし、そして責められてもそれをうけいれる。
 まさしくせいじょのかがみというものですね)
 炎に焼かれながらも微笑み続けるエネミーを見て『聖女ぜったい呪縛狂気るようじょ』樹里(p3x000692)は思いにふける。
「わたしも受理のみことして、おおきくなったらそうなるのでしょうか……いえ、まぁ多分ないですね。
 そもそもひとところにとどまらないでしょうし。わたしはきちんと否を否といえるようじょです」
 ふるふると首を振って、樹里は聖女の方へ視線を向ける。
 人型の炎たちを躱すように移動しつつ。
「さぁ。嗤うせいじょと嘲るようじょのたいめんですよ」
 見えてきたエネミー。その表情はあまりにも穏やかだ。
「くべられている、というのにひどい表情です。
 まったく、さいきんのせいじょというものはこれだから。
 ふーひょーひがいはなはだしいですね」
 舌足らずな言葉で、そう言って樹里は微笑む聖女へ言の葉を紡ぐ。
「聖句・外典より一説『待て。しかして希望せよ』
 ――もっとも、あなたのそれ(祈り)はきぼうなどではないのでしょうが」
 囁く言葉は遮られることなく、天への祈りを捧げる聖女の耳元に入っただろう。
 その証拠に、彼女が穏やかなままにこちらを向いた。
「神よ――」
 返すように、聖女が何かを語る。
 すると、彼女を焼く炎が変色を開始。
 赤から紫へ、紫から黄へ、変質をつづけたオルテンシアの炎が彼女の頭上あたりで炎球を描き、樹里めがけて飛んできた。
 炸裂した炎がスパークを発して電流を迸らせる。
「時の領主が何を思って、魔女裁判などを起こしたのか。
 行きついた所で大凡碌な事では無いのだろうが……」
 行きつこうとも思わない。大方の想像がついてしまうあたり、少しばかり身を置いてきたところがあろうか。
 すらりと竜刀を抜き払い、『大樹の嘆きを知りし者』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は怒りの滲む竜眼を群衆へ向けた。
「幾度となく繰り返す、この地獄を止めよう。それが俺達に今出来る事だ。
――だが、生憎と加減は出来そうにない、挑むならば覚悟して掛かって来い!」
 敵の人型の炎へと肉薄すると同時、ベネディクトは声を上げた。
 憤怒にも満ちた瞳で声を上げると同時、握った剣を横に薙ぐ。
 斬撃は目の前の数人を斬り、斬られた者達の意識をこちらに集中させる。
「はい。きっと、あれはもう終わったもの。なら、終わらせて正すのも私達の役目、ですかね!」
 一時の狂騒ですらない、歪な光景を見ていられないと判断した『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)が愛杖を握り締めて。その瞳に覚悟を乗せる。
「熱狂はもう終わりです。退いて貰いましょう! ――インタラプト!」
 かつての世界の自身の力を再現して魔法の出力を上げたカノンは、そのままの勢いで杖を人型の群に突きつけた。
 杖の先から放たれた魔弾は範囲内にいる数人の人型の身体を貫いてはその身体をその場で縛り付けていく。


 圧倒的な数を有していた人型の数は、イレギュラーズの猛攻を受けて瞬く間にその数を減らしていく。
 25人の群衆の数は15人程度まで減少している。
「ひげきのびしゅはおいしいですか?
 ――『時よ止まれ。貴女はいかにも美しい』」
 それを受けた樹里は再び聖句を紡ぐ。
 二度にわたる呪縛と狂気の祝詞は確かに聖女を削っているように見える。
(……とはいえ、ヘイトがむいてきてますね)
 樹里の放つ言の葉は聖女には響くまい。
 そもそもあれは聖女ですらない――が。
 ただ、その言の葉一つ一つが胸を騒めかせる雑音になれば、自分の仕事は達成するのだ。
 火刑の炎が色を変じて赤へ。
 煌々と燃え盛る赤い炎は球を作って飛来、放物線を描いて空へと舞い上がり、一気に降下する。
 爆炎が轟き、範囲内を延焼する。
「――愚かな」
 醜き炎の塊を見下ろして、ヴァリフィルドは静かに声を漏らす。
 ヴァリフィルドを囲み、抑え込むように圧迫してくるそれらの足止めと燃え移る炎を受けながら、静かに、竜らしく。
「全て朽ちた後、我が食らってやる」
 その口の中に、炎が散り付く。
 零すは竜の奔流。
 もたらすは業火と死への誘惑。
 口元に溢れる紅蓮の炎を、任せるままに思いっきり吹き付けた。
 息吹に焼かれる炎が絶叫を上げる。
「魔女を助けるつもりか!」
「魔女を救うつもりか!」
「「ならお前も魔女だ!」」
「お前達に言っても意味はないだろうけど――」
 マークは大盾で敵の圧を防ぎながら、剣を後ろへ隠すように構える。
 のしかかる圧迫感は、確かに人のようで、感じる熱は炎のようだ。
「それでも、大切な人を助けくれた人にやることじゃない……!」
 水平に、引くように払った剣が美しい軌跡を描いて人型の炎を一気に斬り払っていく。
「死ね!」「死ね!」「魔女を捌くことを邪魔する悪魔め!」
 狂ったように叫びながら迫ってくる敵が、のしかかるようにしてベネディクトに襲い掛かってくる。
 これらは所詮データだ。
 例え狂ったように叫ぼうと、それはいま抜き取られた過去の言葉を再現しているに過ぎない。
 けれど、それでも傷は深く、敵の波は多く。
 ベネディクトは自身を奮い立たせるように雄叫びを上げる。
 燃えるように竜眼を光らせて、ベネディクトは剣で薙ぎ払う。
「すまんな、言ったはずだ。手加減は出来ん」
 真っ二つに割かれてデータに還った残れ火を見て、静かに告げた。
「それにしても、こいつら好き勝手に言いやがってよ」
 シラスは次の一撃を撃ち込む合間に、聞こえてくる言葉の数々に眉に相当しそうな辺りを顰める。
「……たしか、このバグは過去の切り出しだって言ってたな。
 ここが混沌の再現だというなら……現実の天義でも同じようなことがあったかもしれないと」
 雷鳴轟く口腔からブレスを撃ちだしながら、シラスは険しい表情を向け続けた。
「……腹が煮えくり返るぜ」
 スパーク残す口で、ぽつりと呟いた。
「いつ見ても、こういう手合いは理不尽ですね……」
 カノンは戦場にある人型の炎が既に10体程度であることを見て、手に握る杖を立てるようにして持ちなおす。
「移動せず、動けず、回避する余地も無さそうですが――だからこそ」
 先端に魔力が幾重にも集束を繰り返す。
 それはただの魔弾。
 基礎の基礎ともいうべき魔術に、自分なりの改良を加えた魔術。
「あなたを、すぐにでも救いましょう」
 弾丸は尾を引いて飛翔する。眩く輝き、残像を引くそれは、魔弾でありながら流星の如く。
 すさまじい速度を以って聖女の身体に叩きつけられた。
 吹雪は静かに人型の炎から視線を外す。
 そこにある彼女は、ただ穏やかなまま。
「もうそろそろよさそうね……オルテンシアさん、これ以上苦しまないように終わらせてあげましょう」
 それを見て、吹雪は複雑な思いを抱きつつ、手を伸ばす。
 掌に急速に冷気が集束、圧縮を繰り返していく。
 大気中の水分を凍り付かせながら集束しては破砕するを繰り返して、限界点に至ると同時に射出。
 真っすぐに放たれた冷気は直線上の全てを冷気の圧で体勢を崩させ、加護をはぎ取りながら突き進んでいく。
「……去レ」
 眼前には人型の炎が1つ。緩やかにGoneは大鎌を振るう。
 美しく苛烈な軌跡を生んだ鎌は大振りに振り抜かれ、目の前に立つ人型の炎を逆袈裟に斬り捨てる。
 鮮やかな軌跡の一撃に周囲にある風が一気に騒めきたて、散り散りとなった炎を掻き消していく。

 群衆の数が10人程度まで低下した時、突如として戦場に姿を見せた時計。
 その針の音が、激しい戦場の音の何よりも強く響き渡る。
「刻限のようだな。『バグ』は『バグ』成れば、『風』と同ジ。
 同じ風は無ク、流れヌ風は無イ。見苦しク粘ることなク、速やか二消え去るガ良い、わが同類ヨ」
 時計の針が時を刻む。
 それらはやがてすべてが終わりに到達する。
 始まりをも示す零に至った刹那、Goneの姿は忽然と消失。
 砕けつつある磔の聖女の背後で鎌が首を刈るような挙動を示す。
「…………眠レ」
 静かに告げれば、ガタガタと聖女が揺れて、紅蓮の炎が色を変えていく。
 禍々しい紫へと色を変じた聖女は、紫の球体を頭上に浮かべ――毒性のあるそれをGoneを中心とする領域へと投射する。
 炎は滞留し、一帯へ毒を分散させていく。
 その隣を走り抜けたシラスは、聖女の前へ。
「……アンタはなんで逃げなかったんだ、最期まで祈って焼かれて満足だったか?」
 戦場の中心、未だに動くことなくくべられる聖女へと、シラスは思わず問うた。
 それは、煽りなどではなく、純粋な疑問だった。
 きっと、逃げるという選択肢だって合ったはずであろうにと。
「私は間違ったことはしていないのですから、逃げてどうしようというのでしょう。
 それに、逃げてしまえばあの子たちを救ったことも間違いになります」
 ――それは、あくまで目の前にいるエネミーの言葉だ。
 これが再現されたかつての一頁に過ぎないのなら、その言葉の真偽も真意も分からない。
 けれど。シラスの眼には、目の前にあるその聖女(エネミー)の言葉は、本人のそれのようにも思えた。
「……そうかよ」
 口元から光が零れていく。それをブレスのように吐き出せば、一気に連続して聖女の身体へと叩きつけられていく。
 当たり判定が大きいのか、割と当たってなさそうな部分でも、敵のHPが減っていくのがエネミーなのだという証左である。
「神の下へ往くというのなら、この様な場所に縛り続けられる事は無い──もう、終わらせよう」
 静か似告げたベネディクトが握りしめた夢幻白光。
 竜眼が蒼く美しき輝きのエフェクトが散れば、美しく輝く銀色の輝き持った剣がそれよりも美しき蒼い光を帯びていく。
 竜の怒りを思わせる斬撃が真っすぐに振り抜かれると、聖女の身体に罅が入り。
 やがて――ある種の限定解除の如き強靭の一太刀は、美しく聖女の胴部分辺りを切り裂いた。
「たとえお主が意思を持たぬ虚像であったとしても、お主のしてきたことは間違っていなかったはずだぞ」
 静か似告げたヴァリフィルドの口元に笑みが刻まれる。
 ヴァリフィルドは一気に戦場の奥へ向かって疾走すると、口を開いてオルテンシアを捉えている楔付近めがけて食らいついた。
 メリメリと音を立てる楔をそのままに、ヴァリフィルドは後退する。その口元には破砕したデータの分が散り散りに残っている。
 一方、姿こそ変わらぬものの、聖女の方は身動きを停止している。
「火刑の悲劇は、これで……終わりにしよう」
 マークの握りしめる剣に、力が籠る。
 自身に刻まれた悪意の炎が削られた身には復讐の気力が籠る。
 踏みしめた足に、重心を乗せて――自然な流れで剣を振り下ろす。
 基本に忠実に、愚直な斬り降ろしは、シンプル故に速く、シンプルゆえに技量の分だけ洗練される。
 剣がエネミーの身体を切り裂いて、崩れ落ちて、遂に聖女の姿が砕けて散った。


「……再現するのなら、何もこんな光景でなくとも良かったでしょうに。
 きっと、彼女も再演を望んだわけじゃないでしょうに」
 モザイクの晴れていく世界を見ながら、カノンが思わず呟く。
 そして――全てが元に戻った頃。
 聖女が張り付けられていた場所には、小さな慰霊碑が一つ。
 突如として姿を見せた慰霊碑には、オルテンシアの文字が見える。
 風化した様子などは特になく、聖女の生年と没年、慰霊碑が建てられた年も記されている。
 見れば、聖女の死から50年と少し後に立てられたようだ。
 そこには献花を思わせる物が供えられている。
 ――我らを救い給うた貴女がどうか静かに眠れますように。
 刻まれた文字は短く。
「……おやすみなさい」
 驚きつつも、眼を閉じてカノンはそっと告げる。
「この様な形でしか終わらせる事が出来なかった、済まない。
 もう貴女が起こされることが無いように祈らせてくれ」
 慰霊碑へと語り掛けて、ベネディクトはそっと片膝をついて礼を示す。
(……50年もあれば、世代が変わるわ。
 彼女に助けられた子供達が大人になって、彼女を貶めた人達が表舞台から消えるぐらいには。
 ……そういうこと、なのでしょうね)
 この慰霊碑が、現実から模倣されてここにあるという前提とすれば。
 これを立てたのは、救われた子たちなのだろう。
 吹雪は、そっと目を閉じて手を合わせた。
 もしも現在進行形ならば、救うために手を尽くしただろう。
(私達には、アナタを救うことは出来なかった。
 けれど、貴女が救った命は貴女を忘れなかったみたいね)
「……どうか安らかに」
 眼を開けてから、そっとどこからか取り出した花束を慰霊碑の前へ手向けた。

成否

成功

MVP

吹雪(p3x004727)
氷神

状態異常

Gone(p3x000438)[死亡]
遍在する風
樹里(p3x000692)[死亡]
ようじょ整備士

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
聖女ならざる聖女は消滅いたしました。

PAGETOPPAGEBOTTOM