PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神異>希望ヶ浜学園迷宮ラビュリントス

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●虚構進撃
 R.O.Oのバージョンが3.0へと到達した。
 仮想世界の敵の攻撃は激しさを増し、練達のシステムを維持するマザーも甚大なダメージを受ける。
 その結果、練達国内のシステム維持力は低下の一途をたどり、あちこちでライフラインの断線や、ネットワークの不調など、あらゆる障害が街を包んでいる。
 ……それは、再現性都市も例外ではない。再現性東京2010街、希望ヶ浜。此処でも練達のシステム障害の影響は大きく、さらにR.O.Oに囚われた佐伯研究室の行方不明者たちも、その全てが帰還はしていないのだ。
 ――結果、人々の不安は加速する。そしてその不安に付け込む容易に、夜妖は脈動を続けていた……。

「つまり、現実とR.O.Oってのがリンクして、真性怪異が暗躍してるって事ですか?」
 希望ヶ浜学園、学内。クロエ・クローズと共に走る希望ヶ浜学園の男子生徒。希望ヶ浜学園に通う生徒は、夜妖退治を行えるように訓練されているものも多い。そのため、こうした非常時にも活躍している。
「そうだ。現実と虚構の同時進行と言う奴だ! 仮想世界のカムイグラをダシに、希望ヶ浜に降臨を狙っているらしい」
 クロエが言う。学内の曲がり角に到着して、角からこっそりと先を覗き込む。何もいない。
「おかげで……こちらでも夜妖の動きが活発になってきている。学園もそうだ。先ほどから、内部に夜妖が大量発生している……っというのは、君には言うまでもないか。すまない。こう見えて、少し混乱している……」
「まぁ、クローズ先生ってけっこうポンコツな所ありますしね……」
 生徒の一人、榎本が言うのへ、クロエは「なんだとぉ」と言った。しかし、すぐにこほん、と咳払い一つ。
「内部にいた非戦闘員の教師や生徒、ついでに近隣住民の一部は、大体育館に避難させている……学内にはもう、流石に誰もいないだろうな……?」
「それで今命がけで見回りしてるんでしょ! クローズ先生は体育館にいればよかったんですよ、戦えないんだから!」
「それでも、子供に何でも任せて大人が身を隠していられるか! 先生なんだぞ、ワタシは!」
「それは素晴らしいですけど、適材適所でしょうが……先生! 後ろ!」
 慌ててクロエが振り向くと、黒い影のようなものが、鋭い爪をぎらつかせてクロエに迫ろうとしていた。クロエが身構える――その背後から、榎本の放った呪符が黒い影にとりつき、一瞬のうちに蒸発させた。
「すまん……!」
「大丈夫です……!?」
 そう榎本が言った瞬間、後者が激しく揺れた。地震か!? そう思った刹那、廊下側面の壁をぶち破って、何か巨大な人影が飛び込んでくるのを察した。
「牛頭……!?」
 榎本が叫ぶ。雄々しい雄牛の頭をし、身体は筋骨隆々とした男性の身体をしている。和装をしており、手にはいわゆる七支刀を構えており、その牛頭は轟、と吠えた。
「牛頭天王ってやつか!? そんなもんまで再現されるのかよ、夜妖は!」
「今は人々の恐怖がピークだ、何でもありだろう……逃げるぞ、このクラスの夜妖相手には、ローレットのイレギュラーズでなければ分が悪い!」
 二人が走り出す……同時、再び建物が揺れた。轟、轟、と牛頭天王が吠える――刹那、校舎のあちこちが壁となり、通路となり、道となり、行き止まりとなる。通路は組み替えられ、部屋は解体され、天井は蠢き、地面は部屋になり、窓が道となる。
 刹那の後に目の前に広がっていたのは、希望ヶ浜学園をベースとした巨大な迷宮だった!
「ば――」
 榎本は叫んだ。
「馬鹿野郎! ラビュリントスはミノタウロスだろうが! 牛違いだ! 神仏習合とかそう言うレベルじゃねぇよ! 誰だ混同した馬鹿は!!」
「それを言ったら牛頭天王はそもそも牛頭か!? くそ、何でもありにもほどがある……! エノモト、逃げるぞ! ゴズタウロスと戦うよりは迷宮に迷った方がマシ――」
 クロエが叫んだ刹那、牛頭天王の巨腕が、クロエを殴りつけた。
「が、はっ!」
 激痛に、クロエが息を吐く。同時、壁にたたきつけられたクロエが、そのまま意識を失う。
「クローズ先生……! ……!?」
 榎本が駆けようとした瞬間、迷宮は再び胎動を始めた。足元が突如としてぽっかりと開いて、榎本はそのまま奈落の底へと落ちていく――。

●迷宮踏破・希望ヶ浜学園
 ローレットのイレギュラーズ達が駆け付けた時、希望ヶ浜学園の外観自体は、いつもと変わらぬように見えた。だが、一度入り口から中に入ってみれば、明らかに普段のそれよりも広大な敷地が内部に広がっているのが見える。
「ろ、ローレットの皆か……!」
 学園入り口、下駄箱の影から、一人の男子生徒が姿を現した。エノモト、と名乗った彼は、この学園内に牛頭天王とおもしき夜妖が出た事、それがこの学園を異界に取り込み、迷宮化してしまった事。クロエ・クローズが内部に取り残されていることを語った。
「悪い、先生を連れて逃げられなかった……中は夜妖の巣窟だ。充分に注意してくれ……!」
 榎本の言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。もしこのまま放置していれば、事件が解決したとしても、希望ヶ浜学園は夜妖の巣窟となってしまうだろう。それに、クロエの命も危ないかもしれない。
 イレギュラーズ達は意を決すると、迷宮と化した学園内に足を踏み入れた――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 神異の事件、こちらは現実・希望ヶ浜での事件となります。

●成功条件
 迷宮を踏破し、牛頭天王を撃破する
  オプション――クロエ・クローズの生存

●状況
 神異の影響により、夜妖が活発化。希望ヶ浜学園内部にも夜妖が大量出現し、調査と討伐が行われていました。
 そんな中に現れた牛頭天王。牛頭天王は希望ヶ浜学園の校舎を迷宮化、内部に君臨しています。また、折しも調査中だったクロエ・クローズも内部に囚われてしまったようです。
 このままでは、希望ヶ浜学園校舎は迷宮化したままとなり、加えてクロエの命も危ういです。
 皆さんは迷宮化した希望ヶ浜学園校舎に乗り込み、ボスである牛頭天王を撃破してください。
 作戦決行タイミングは夜。しかし内部には充分な明かりがあるものとします。

●エネミーデータ
 夜妖 ×???
  内部を徘徊している夜妖です。下級のものが多いですが、稀に中級クラスの中ボスと遭遇することもあるでしょう。
  下級は全般的にイレギュラーズよりも格下で、数を頼みにした攻撃を行ってきます。BSなども特に使用してこないため、適切に対処すれば蠱惑は無い相手のはずです。
  中級から、それぞれの個性(例えば、素早い、とか、硬い、とか)を持った敵になります。BSも、『火炎系列』や『毒系列』、『痺れ系列』などを使用してくるでしょう。

 牛頭天王 ×1
  迷宮の奥に潜む、迷宮の主です。本来牛頭天王に迷宮に関する逸話は無かったのですが、どこかで何かと混線し、この様な性質の夜妖となってしまった模様。
  七支刀を使った物理攻撃や、術式の神秘攻撃を行います。少量ですがHP回復、BS回復のスキルも使用してきます。 
  が、基本的には物理偏重の肉体系アタッカーです。単純な暴力が得手となっています。

●味方NPC
 クロエ・クローズ
  迷宮に囚われた化学の先生です。戦闘能力は一切ありません。牛頭天王に捕まっているようですので、倒すついでに助ける、位の認識で大丈夫です。

●侵食度<神異>
<神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

※本シナリオは運営スケジュールの都合により、納品日が予定よりも延長される可能性がございます。

  • <神異>希望ヶ浜学園迷宮ラビュリントス完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月03日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
オライオン(p3p009186)
最果にて、報われたのだ
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ウルファ=ハウラ(p3p009914)
砂礫の風狼

リプレイ

●いざ、学園迷宮へ
 イレギュラーズ達は、入り口から校舎内に入る。下駄箱のおかれた入り口は、まだ校内の景観を保っていたが、しかし左右に伸びる廊下は異常な長さを見せていた。明らかに、廊下から先の空間が歪んでいるのが理解できる。
 外から見れば、学校の外観に変化は見られなかったが、内部は異界に飲み込まれ、変貌を遂げているらしい。このままでは学内だけでなく、外にまで影響を及ぼすかもしれないし、迷宮に取り残されているというクロエ・クローズの安否も心配と言うもの。
「エノモトお兄さん、外で待っててね?」
 と、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は、傷の痛みにうめく学生エノモトへ、自身のギフトから生み出した聖水を、コップに入れて手渡した。
「飲むときっと、気が落ち着くわ!
 それに、簡単だけど手当はしたから、少し休んだら動けるようになるはずよ」
「有難う、キルシェちゃん……で、いいかな?」
「むむ、わたしはお姉さんだから、キルシェさん、がいいわ!
 でも、今はひじょうじたいなので、わたしはきにしません!」
 腰に手を当てて、キルシェが言う。エノモトは苦笑しながら、
「あらためてありがとう、キルシェさん。どうか気を付けて……」
「そちらも。念のため、警戒は怠らないようにしてください」
 『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)がそう言う。エノモトは、頷いてからキルシェから渡された聖水を飲み干すと、身体を休めるように座り込み、壁に背を預ける。
「では、それでは、ゆるりと参りませうか」
 ヘイゼルの言葉に、一行は一歩を踏み出す。迷宮探索ならば、なには無くともまずは現在位置とルートの確認である。
「よいしょ、っと!」
 『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)が、顔料を混ぜた石灰をバッグから取り出して、壁に印をつける。此処は通った、と言うしるしだ。
「これで、来た方向は解るね。この調子でしるしを付けて行こうか!
 ……まさか、突然迷宮の中がぐちゃぐちゃになるとか、そう言う意地の悪いことはしないよね?」
 サンティールが言うのへ、『元神父』オライオン(p3p009186)はふむ、と頷く。
「可能性はないとは言えないが……印をつけて無駄になることはないだろう。
 しかし、迷宮化か、不可思議な事が当然として起こる都市だな、ここは……。
 女史の救出と魔物討伐、そして迷宮踏破。油断せずに行くとしよう」
「まぁ、これほどの事態は、最近の練達の異変レベルのことが起きないとそうは発生しないでありましょうけれど!」
 『どんまいレガシー』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)が肩をすくめる。
「まさかR.O.Oとリンクして現実が、等とは! まったく滅茶苦茶な事態でありますな!
 吾輩としては、R.O.Oは安心楽しく遊べる環境に戻したいですゆえ! 現実での事件もしっかり解決いたしませんと!」
「それに、今回は人命もかかっていますからね」
 耳を澄ませて索敵と状況把握を行いつつ、『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)は言う。
「ええ、速やかに迷宮を踏破し、クロエさんを助けなければいけませんね。
 ローレットからは、あくまで迷宮の解除と牛頭天王の撃破が優先、とはされてはおりますけれど。
 やはり、すくえる命は救いたいものです」
 マグタレーナの言葉は、他の皆も同じくする思いだろう。情報屋と言う立場であるクロエは、同じローレットの仲間でもあるのだ。
「しかし、牛頭天王、ですか。えっと、確か……拙の元の世界だと、祇園社の神様でしたか?
 後は荒魂だとか疫病を司る神様、だとかも聞いた事はありますが……」
 『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)がそう言うのへ、『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)が頷いた。
「我もきいた程度であるが、そのように認識しておる。間違っても、ミノタウロスと混ざるものでもないだろう。
 いくら夜妖が感化されやすいといっても……のう? 寝ぼけておったのか、この地の人間は」
「ですよねー」
 ステラが苦笑した。
「……まさか、学内新聞とか雑誌などで流布しておらんだろうな? あまりにも……あんまりであるぞ、これ」
 肩を落とすウルファ。まぁ、確かに、牛頭天王とミノタウロス、そうそう混ざるものでもないだろう。誰かが洒落で言ったことが、昨今の異常の力を借りて顕現してしまったのかもしれない。
「逆に言えば、それ位いい加減な認識を受けてしてしまうほどに、今は希望ヶ浜も大変な状況、と言えるのかもしれませんね」
 ステラの言葉に、『青樹護』フリークライ(p3p008595)が頷いた。
「皆 タイヘン。ワカル。
 ダカラ フリック達 ガンバル」
 その言葉の通りだ。今は大変な時期だからこそ、フリークライたちが、イレギュラーズ達が頑張らなければならない。
「ソレニ クロエ モ タイヘン。
 ハヤク 助ケニイク」
「そうですね。助けを待っている人たちのため、頑張りませんと!」
 よし、と気合を入れつつ応える『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。
「広い学校がまるで迷宮みたいにー、って話を聞いたことがあるのですよ。
 でもそっちは「まるで」で、これだと「まさに」迷宮でして……。
 皆さん、気を付けてまいりましょう!」
 ルシアの言葉に、仲間達は頷く。かくして、迷宮探索はここに始まった。

●学園迷宮パラドックス
 現在の校舎内部を表すのに、必要なのは一単語で良い。すなわち『迷宮』である。
 これは冗談でもなんでもなく、まさに迷宮と化しているのだ。右に左につながる廊下。上下につながる無数の階段。行き止まりのような教室に、まるでループに陥ったかのように錯覚する変わり映えのしない景色。明らかに校舎の面積を越えている通路が、あちこちにつながっている。
 トラップが存在しないようなのは幸いだろう。敵の油断か力不足かは不明だが、迷宮が新たに増築しないのも、変化しないのも、これもイレギュラーズ達にとっては有り難い要素だ。
「ふむ、元より意味の分からぬ習合である。ミノタウロスの力の方を使いこなせておらんのだろう」
 とはウルファの言である。が、ウルファは渋い顔をして、
「……そもそも、ミノタウロスは迷宮の主、とはいえ迷宮をミノタウロスが作ったわけではないからのぅ。
 こう……なんだかな、であるなぁ。
 ま、学園の迷宮化。区分けされておるとはいえ、そもそもこの世界の建築様式ではない。練達外部の者からすると元から迷宮みたいなものじゃの」
 とぼやいていたが、それはさておき。
 さて、迷宮自体は――広大であるとはいえ――シンプルな迷宮である。
「迷宮はシュペルお兄さんの塔以来だけれど。
 あっちに比べたら、ずっと単純ね」
 キルシェがマップを描き込みながらそう言う。フリークライは、辺りを見回しつつ、頷いた。
「転移サレタリ 試練アッタリ シナイ。
 気持チハ 楽」
「確かにそうですけど……流石にシュペルさんの塔と比べられたら、牛頭タウロスも立つ瀬がないのでは?」
 ステラが苦笑する。確かに比較対象が違うというものだ。逆に、シュペルの塔に挑戦したメンバーにとっては、この程度の迷宮なら、広い迷路程度のものなのかもしれない。
「おや、心強いですね」
 ヘイゼルが笑った。
「マッピングなどはお任せします。その分、前に出て敵の攻撃は抑えますので。
 ……しかし、不思議な感覚ですね。学校が、そのまま迷宮になる……。
 それに夜の学校。昼のそれとは、趣が違っていて……。
 まぁ、希望ヶ浜学園には、私は通っていないのですけれどね」
「そうなのか? いや、制服を着ているので、てっきり通っているものかと……」
 オライオンが尋ねるのへ、ヘイゼルは人差し指を口元などに当てつつ、笑む。
「ふふ。まぁそう言う事です。
 さて、どうやらお客様のようですよ?」
 その言葉に、仲間達は身構える。刹那、すぅ、とあたりの空気が冷える感覚がして、同時、目の前の天井から上半身だけの女が、次々ぼとり、と落下してくる。
「あら? すでにやられている……と言うわけではなさそうですね?」
 マグタレーナが、頬に手を当てて小首をかしげる。
「おお! これはてけてけって奴ですぞ! 上半身だけの女の霊で、てけてけと這いずって襲ってくるのです!」
 ジョーイが言うのへ、マグタレーナが、まぁ、と声をあげた
「大変難儀な移動をなさるのですね。それも、こんなにたくさん」
「うーむ、ここに現れる夜妖は、学校で噂される怪談縛りですかな?」
 ジョーイが言うのへ、返事をするみたいに、てけてけたちが唸り声をあげた。まるでコマ送り再生のようにかくかくと身体を動かす。シンプルに恐怖を煽ってくる動きに、
「いやぁ、いいね! なんてフォーマルな怪異象だ!
 そう言うかくあるべしみたいなパフォーマンス、嫌いじゃないよ?」
 サンティールが笑い、碧霄を構えた。
「できれば、画面の中でだけ見て居たいけれど、きみたちはそうじゃないらしい。
 僕たちの仲間を傷つけるつもりなら、それは勘弁してほしいな。
 痛いのは嫌だし、友達が傷つくのはもっと厭なんだ」
 その想いは、仲間達も同じくするところだ。こんな所で傷ついて倒れるつもりもないし、仲間を傷つけさせる気もない!
「登場いただいたのは有り難いのですが、邪魔をするのでしたらお帰り願いたいわけでして!」
 ルシアが構える。仲間達も、各々武器を構えた。
「申し訳ありませんが、強行突破とさせていただくのです!」
 ルシアがえいや、とその手を掲げると、途端、指先から放たれる雷が、てけてけたちを打ち払う! 雷の痛みに震えながら、てけてけたちが散開。雄叫びをあげながら、そのナイフのように伸びた爪を振るい、襲い掛かってくる!
「わわっ!」
 ルシアが慌てて飛びずさると同時に、てけてけが着地。そのまま飛び跳ねるように追撃を仕掛けてきた――が、間にヘイゼルが飛び込み、
「おっと、お相手は私ですよ?」
 同時、振るわれる朱い魔力の糸。時間差で放たれた無数の魔力糸が、間断なくてけてけを切り裂き、細切れのままに消滅させる。
「サンティールさん」
 ヘイゼルがそう声をあげるのへ、
「オーライ、僕で引き受けよう!
 さぁさぁ、フォーマルな怪異さんがた! 僕のお相手をお願いするよ!」
 碧霄を指揮棒のように振るい、サンティールは敵を引き付ける! 数匹のてけてけがロケット花火のように高速で吹っ飛んでくる。サンティールは、碧霄を使って、ナイフのような爪の斬撃を受け止めた。
「這って動く……じゃなかったんですか!?」
 ステラが赤い燐光を光らせる指輪を剣のような形に変貌させて、飛び跳ねるてけてけを切って捨てた。ジョーイが応戦しつつ、
「あれぇ、おかしいですなぁ!? これも異変の影響!?」
「ふふ、随分と元気なようで。母はやんちゃな子も好きです。
 ……が。少々お行儀はよろしくありませんね。ならば、子をしかるも母の役目」
 マグタレーナが、弓を構える。そこに矢は番えない。純粋な魔力の塊を片手に構え、それを矢のように構えて弓を引く。
「では、シンプルに。ばぁん♪」
 その声と共に、放たれるは言葉通りにシンプルな魔力の奔流! 砲撃の如き魔力が、てけてけをまとめて消し飛ばす!
「おお、このペースでいけば……んっ!?」
 と、ジョーイが叫ぶ。同時、まるでジョークのように傍の教室の扉があいて、筋骨隆々の人体模型が、鼻息荒く乱入してくる!
「おおっとお!? 学校の怖い話には欠かせませんな! 動く人体模型は!」
「てけてけより強そうですね! いわゆる中ボスと言う奴でしょうか?!」
 ステラが叫び、斬りかかる――その斬撃を、人体模型は筋肉で受け止めた。うぞり、と蠢く筋肉は、恐怖と共に些かの笑いもさそう。
「ええい、恐怖と笑いは紙一重とは言うが! 面妖にもほどがあろう!」
 ウルファの身体に、風霊の力が巻き起こる。緑のオーラをその身に纏い、それを凝縮させて放たれる魔力砲撃の一撃が、人体模型を打ち貫く! ぬおお、と悲鳴を上げた人体模型が、しかし筋肉と内臓をぴくぴくと揺らしながら跳躍! くるりと回転しながら襲い掛かってくる! ウルファは跳躍して回避、刹那の後に飛び墜ちてきた人体模型の拳が、床に巨大なクレーターを作る!
「キモいわ! その面、不敬にもほどがあるぞ!」
 再度ウルファの身体に、風霊の力が巻き起こり、緑の魔力が解き放たれる! 人体模型がまともに喰らって吹き飛ばされ、壁に激突! 派手に穴をブチ開けた!
「ふざけた奴じゃが、ええい、力に関しては確かに驚異的であるぞ! 皆のものは気をつけよ! あの拳をまともに喰らうでない!」
 ウルファの怒りの叫びに、しかしまだ息の合った人体模型が起き上がる。イレギュラーズ達の攻撃を受けて身体はボロボロであったが、その顔に無駄な笑顔を浮かべて、その拳を力強く握る。確かに、異様な気配を感じる。あの一撃をまともに喰らっては、ダウンは免れまい!
「大丈夫 傷ツイテモ フリック 皆 治ス」
 フリークライの身体がぽう、と光を帯びると、そこから放たれた燐光がイレギュラーズ達の身体を包む。疲労と傷が癒されて、人体模型に対抗する力を湧きあがらせる!
「フリック 負ケナイ。
 皆モ 負ケナイ」
「そうよ! ルシェも頑張ります!
 だから負けないで!」
 合わせるようにキルシェもまた、その手を掲げる。放たれた聖なる光は雲間を裂く陽光のように夜の校舎を照らし、仲間達の背を押した。
「確かに、こんな所で臆している場合ではないな」
 オライオンが頷く。
「奴の足を止める。その隙に攻撃を頼む」
 いうが早いが、オライオンがその手を掲げる。同時、その手から生み出された茨が、人体模型を強く縛り上げた! その拳を振り上げようとする人体模型、だがオライオンの茨は強く巻き付き、その動きを許さない!
「拙が参ります!」
 ステラが声をあげて、一気に駆けだす。途端、速度を最大まで上げて一気に接敵、速度を乗せた超新星の斬撃が、人体模型を真ん中から真っ二つに叩き伏せた!
 おおお、と悲鳴をあげて、人体模型がばたん、と倒れる。同時、ぶしゅう、と煙を上げてその残骸が闇へと消えた。
「ふぅ……ひとまず、討伐完了ですか?」
 ステラが言うのへ、
「ええ! 怪我をしている子がいたらわたしが治すわ!
 フリークライお兄さん! 手伝って!」
 キルシェの言葉に、フリークライが頷く。
「迷宮の夜妖も中々の強敵なようだね」
 ヘイゼルが言うのへ、オライオンが頷いた。
「索敵を重点的に行い、避けられる敵は避けた方がいいだろうな」
「困難な道になりそうですが……ええ、わたくしも頑張りますよ」
 マグタレーナが頷いた。
「よし、じゃあ少し休んでから出発しようか!」
 サンティールの言葉に、
「はい! あらためて、皆さん頑張りましょう!」
 ルシアが言う。戦いも、探索も、まだまだ始まったばかりであった。

●牛頭天王+ミノタウロス
 まさに縦横無尽に広がる迷宮を、イレギュラーズ達は進んでいく。ヘイゼルを先頭にしつつ、
「先の方を見てきましたよ!
 3のルートに分かれて居まして、一つには敵がわんさか、のようでしてー……」
 ルシアが先行。先の確認をして印をつけてから本隊に帰還し、可能な限り敵を避けて進んでいった。
 先を見据えるのは、ルシアの足だけではない。
「確かに、先に足音が聞こえますね。避けて通れるなら避けて通りたい所ですが……」
 例えばマグタレーナの超聴力や、ウルファなどのエコーロケーションによるエコー探査により、先の見通せぬ場所でも充分に偵察が可能だ。
「なら、ファミリアーを先行させる。念のため、先に道が続いているかだけでも確認した方がいいだろう」
 そのほか、オライオンのファミリアーによる先行偵察なども合わせ、危なげなく一行は迷宮を踏破していく。
 ジョーイ、キルシェらによるマッピングで、現在位置とルートの確認も完ぺきだ。
「OK、ここに印をつけておこうか」
 サンティールの目印なども会わせて、一行が迷宮で迷う事はほぼないといえるだろう。一部メンバーは、彼のシュペルの塔に挑んだこともあるほどだ。そんなメンバーにとってはこの程度の迷宮は入門用に等しいかもしれない。
 さて、戦闘面でも、メンバーはしっかりと活躍している。ステラは切り込み隊長として充分にその実力を発揮していたし、傷ついた場合にはフリークライらによる素早い回復により、ここまでの脱落者は存在しない。もちろん、それなりに疲労はしていたが、敵のボス……ゴズタウロスと戦える余力は充分に残している。
「確かに、敵は弱兵ではありますが……時折現れる中ボスはそれなり、と言った所ですね」
 ステラの言葉に、フリークライが頷く。
「皆 気ヲツケル。
 デモ 牛頭天王 キットモウスグ」
 それは励ましの意味であっただろう。だが、フリークライのその言葉は現実になる事となる。果たして一行がたどり着いたのは、おそらくは視聴覚室だろう。本来のそれよりも何倍も広くなった巨大な教室では、設置されていた机やいすが乱雑にあちこちに放り出され、暴風のような暴力でそれが行われたことを理解させた。一方、その教室のど真ん中を見てみれば、牛頭の巨大な怪人が、七支刀を持って立っているのが見える。
「……間違いない、の。牛頭天王……もう、ゴズタウロスでいいな。それじゃ」
 ウルファが声をあげる。教室内に侵入したこちらに気づいているのかいないのか、敵は微動だにしない。だが、何か獰猛な気配だけは強く感じた。隙があるわけではないのだ。恐らく、こちらが戦意を見せれば、すぐに襲い掛かって来るだろう――。
「あっ、足元! 人影が!」
 キルシェが声をあげる。銀髪のハーモニアが、ゴズタウロスの足元で倒れているのを確認した。情報と照合すれば、それがクロエ・クローズ……この異変に巻き込まれた希望ヶ浜学園の教師の一人であり、ローレット所属の情報屋であることは理解できる。
「ゴズタウロスは、クロエ殿をどうこうするつもりはないようですな! 人質のつもりでしょうか?」
 ジョーイが言うのへ、
「分かりませんね……ですが、はやく助けてあげたほうがよろしいかと」
 マグタレーナの言葉に、仲間達は頷いた。
「では……ルシアさん、予定通りお願いできますか?
 敵はこちらで引き付けます」
 ヘイゼルがそう言うのへ、
「おまかせでして!」
 と、ルシアが頷く。同時、ゴズタウロスが、ごう、と鼻息を噴出した。同時、巨大な七支刀をゆっくりと振り上げる。
「おや、お気づきだね?」
 サンティールが声をあげた。
「ごきげんよう、絵巻物の大妖怪さま!
 きみは喜劇はお好きかな?
 ああ、だめだめ! 涙も、血のあかいろも。僕が紡ぐものがたりには不似合いだ!」
 その言葉に、轟、ゴズタウロスは雄たけびを上げる! 教室中が、びりびりとした震動に震える。肌を打つような雄叫びを受けて、サンティールはにこりと笑った。
「そうだね、僕だけを見ていておくれ――さあ行こう、皆! 大妖怪様は活劇(アクション)がお望みのようだ!」
 イレギュラーズ達は一気に走り出す。ぶもう、と雄たけびを上げたゴズタウロスが迎え撃つ!
「あいつを錯乱させます! あとに続いてください!」
 ヘイゼルが叫ぶ。同時、掲げた手から放たれた意志の力が、ゴズタウロスに突き刺さる! ばん、と音を立ててさく裂する意志弾。ゴズタウロスはさく裂し明滅した光に当てられ、ごう、と叫び、暴れるように身体を振るう。その動きが、自身の身体に傷を作ることもいとわず。
「助かるよ! 僕一人じゃきっと、どうにもならない!」
 続いて飛び込むサンティール。敵の動きを抑えるように碧霄を構え、隙をついての斬撃を繰り出した! 魔力を乗せた一撃が、ゴズタウロスの着物を切り裂く。和装のそれの破片がちり、隙間から硬い筋肉がちらりと見える。
 ――怪我をするのは怖い。
 ――武器を振るうのだって、怖い。
 ――でも、並び立って戦ってくれる仲間がいる。
 ――振り向かなくていい、って言ってくれる仲間がいる。
 サンティールは強大な敵に、ひるまずに立ち向かう。それは確かに、自分を信じて託してくれる仲間の存在があるが故に。
「だから、僕だって逃げない。
 仲間たちのことも、クロエのことも、
 境界の狭間に閉じ込められたみんなのことも、守ってみせる。
 そのために立ちはだかる障害を、退けてみせる!」
 振り下ろされた七支刀の一撃を、サンティールはギリギリまで引き付けて跳躍、回避してみせた。床が抉れるのを見て、サンティールは碧霄を振るう! 魔力の斬撃が、ゴズタウロスの筋肉を切り裂く! 深い傷は、しかし敵の筋肉によって無理やりのように押し固められた。敵を倒すには、もっと深く。もっと鋭く切り込まなければ!
「居たな牛頭ロース。食えぬ牛よ。討伐開始じゃ。
 風狼よ、食いちぎれ!」
 ウルファの周囲に、風霊が巻き起こる。風が、魔力が、その身を包み、同時、突き出した手から放たれるは暴風の如き魔力の砲!
 放たれた風狼に、ゴズタウロスは正面からまともにそれを受ける! 体を刻む衝撃に、刹那、その動きが止まる――!
「チャンスでして!」
 ルシアが飛び込み、足元のクロエを抱きかかえた。そのまま走り去る――刹那、しかしそれに追いすがる様に、ゴズタウロスは七支刀の腹で、ルシアに殴り掛かった!
「く、うっ!」
 クロエを守るように身体を丸めたルシアが、直撃を受けて吹き飛ばされる! このままでは受け身もとれない――大ダメージを覚悟したルシアが目をきゅっとつぶる瞬間、フリークライがその身を挺してルシアを受け止めた!
「大丈夫? 痛クナイ?」
「えへへ、ありがとうございます」
 痛みに顔をしかめながら、ルシアは起き上がり、クロエを床に寝かせた。同時、ルシアは跪く。直撃のダメージは相当に大きい。自身も回復を続けたうえで可能性を昇華せねば耐えられなかっただろう。
「フリック 治ス。
 キルシェ 手伝イ オ願イ」
「まかせて!」
 キルシェが慌てて飛び込んできて、フリークライと共に福音を/歌を響かせた。輝く聖光がルシアを癒し、その額ににじみ出る汗を引かせるくらいには、痛みを軽減してくれる。
「ルシアは大丈夫です……クロエさんの方も見てあげてください」
「フリック ルシア 診ル」
「ルシェがクロエお姉さんを診ますね!」
 キルシェはクロエの身体に手を当てる。ぱっとみたところだが、幸いに骨が折れていたりなど手ひどい外傷は見当たらない。どうやら、気を失っているだけのようだ。
「みんな、クロエお姉さんは大丈夫!
 あとは、ゴズタウロスをやっつければ終わり!」
 キルシェが叫ぶのへ、仲間達は頷く。自身の獲物を奪われた怒りか、ゴズタウロスは再び轟、と雄たけびを上げた。七支刀を鋭く振るうと、無数の斬撃が衝撃波となってあたりに飛び散り、天井や床、足元の机やいすを切り裂いた。同時、その凶器のような衝撃が、イレギュラーズ達に襲い来る!
「おおっとぉ!? 流石に筋肉馬鹿は、飛び道具も筋肉に頼っておりますな!」
 痛みに顔をしかめつつ、軽口をたたいて見せるジョーイ。
「ふふ。健やかなのは良い事です。が、少々おいたが過ぎますわね?」
 マグタレーナが小さく呪言を唱える。それは空気を震わせる呪いの震動となって、ゴズタウロスの耳朶を打った。途端、その呪は明確な禍となってゴズタウロスの内部を穿つ! ぶもう、と悲鳴をあげたゴズタウロスの筋肉の一部が、がちがちと石となって固まっていく。
「少し、少し、石となって眠りましょうか。
 ころり、ころりよ、おねむりなさい」
 ばぎばぎ、とその身体が石に侵食されていく。呪いの言葉が、ゴズタウロスの身体を蝕んでいく。が、ゴズタウロスは、轟、と吠えた。破魔の力を持ち合わせているであろうそのいななきは、呪いの浸食を抑え、己の行動を可能にさせる。マグタレーナは、あら、と声をあげた。
「ほんとうに、やんちゃなのですね。母も少し困ってしまいます」
「でも、しっかり動きは止められていますよ!」
 ステラが叫び、飛び込んだ。指輪の力で巨大大剣を生み出し、その重量を扱うべく、身体全身を使って大剣を持ち上げる。
「拙の刃、拙の力! 巨魁なるあなたにとて劣りはしません!」
 ステラが、大剣の重量と、自身の全身のばねを利用した大斬撃を見舞う! 切れ味無双、雷のごとし。まさに落雷が如き斬撃に、ゴズタウロスは石化した筋肉を、ばきり、と粉砕させられた!
「ごおおおう!!」
 それは、雄叫びでも威嚇でもない、ゴズタウロスの悲鳴だ! イレギュラーズ達の決死の攻撃が、ゴズタウロスへの強烈なダメージを与えたのだ!
「オライオンさん! このまま押し切ります! 敵の動きを止めましょう!」
「承知した」
 オライオンが、手をかざす。放たれた茨のワイヤーが、ゴズタウロスの四肢へと絡みついた! ぎちり、と鋭く縛り付けられる茨のワイヤー。万全の状態のゴズタウロスなら引きちぎれたかもしれないそれは、消耗した今となっては決してほどけぬ絶死の拘束となっている!
「今の君では、この拘束を解くことは出来まい。
 迷宮の主よ、君の強さは大したものだった。それは認めよう。
 だが、伝承の魔物と習合したことが仇となったな。
 伝説の魔物と言えど――英雄には敗れるものだ」
 ぎり、とオライオンが茨のワイヤーを強く引き絞った。
「固めてやれ、マクダレーナ君」
「ええ、では、もう一度」
 マクダレーナの呪言が、再びゴズタウロスの四肢を侵蝕した。ばきばき、と身体のあちこちが石と化していく。激痛に、ゴズタウロスが再びの悲鳴をあげ――。
「ゆめはゆめへ。……あるべきところへ、おかえり」
 サンティールの刺突撃が、ゴズタウロスの心の臓を貫いた。同時、体中が石化し、心臓の部位からあちこちにひびが入る。刹那、ばん、と音を立てて、その石像は砕け散った。破片が落下する中、地へと落着する寸前に風に乗って消えていく。
「ふむ。どうやらお終いのようじゃの?」
 ウルファが肩をすくめた。
「所詮はどこぞの誰かの勘違いで生まれた怪物。この程度であろうよ」
 その言葉に、皆が無事に作戦を完遂できたことを、仲間達は安堵する……途端、辺りがぐらり、と揺れた。世界が、ぐわん、と侵蝕するような感覚が視界を襲った刹那、あれほど広かった視聴覚室が、常識的なサイズのそれに縮んでいることに、イレギュラーズ達は気づいた。
「……! 迷宮化もとけたようであるな!」
 ウルファが言う。
「それは良かった。帰りも迷宮かと思うと、少々骨が折れる思いだった所です」
 ヘイゼルが苦笑した。
「そうでありますな! 流石に帰りもあれはキツイ!」
 ジョーイが笑う。確かに、何事もなく帰れるなら、それが一番だろう。
「クロエ 大丈夫? 目 覚マサナイカ?」
 フリークライが声をあげる。どうやらクロエの意識はまだ戻らない様だった。
「クロエお姉さん、起きて!」
 キルシェが心配そうにクロエに声をかけると、少しだけ唸った後、クロエが目を覚ます。
「君達は……? っ! そうだ、ゴズタウロスが近くに!」
「大丈夫よ! わたしたちがやっつけました!」
 キルシェが胸を張る。状況を察したクロエが、なるほど、と頷いた。
「どうやら、助けてもらったようだな……すまない。迷惑をかけた」
「どのみち、ゴズタウロスが出た時点でローレットの仕事だ。気にすることはない」
 オライオンが頷く。
「そうですね。それより、ご無事で何よりです。あ、エノモトさんもご無事ですよ。外で待っているはずです」
 ステラがそう言うのへ、クロエは「そうか、無事だったか……」と安堵の微笑を浮かべた。
「さて、動けますか? 難しいようでしたら、わたくしがおんぶをいたしましょう」
 マグタレーナがそう言うのへ、クロエは頭を振った。
「いや、幸い傷はないようだ……すぐに歩けるさ。有難う」
「クロエ、立てる?
 さ、手を! みんなにいいしらせを持って帰ろう!」
 サンティールが笑って手を差し出すのへ、クロエは不器用に笑って、その手を取った。

 かくして、イレギュラーズ達の戦いにより、学園の異界化は阻止された。
 囚われたクロエも救出され、ひとまず学園の危機は去ったといってもいいだろう。
 勝ち取った平穏。それが再びやって来ることを皆に伝えるため、イレギュラーズ達は帰路へと就くのであった。

成否

成功

MVP

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、ゴズタウロスはせん滅。校舎の異界化も解除されました!

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