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シナリオ詳細

<神異>かざぐるまは歌う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●襲撃者たち
 警報(サイレン)は烟りとなって日常の風景を霞ませる。
 待ち人来ずにカラカラと回る風車をよそに、映画館の一角で止まぬのは、けたたましい報せばかりでなかった。何処からか集いし槍術士の群れが放つ、戦の音もまた弾丸よりも早き心地。館内も外も、多くの兵が在ったにもかかわらず、麗しき彩色玻璃(ステンドグラス)を苦慮せず破り、彼らは忽ち道を拓いた。
「標的は奥に有るはずだ! 探せ!」
「逆賊共が屯する場だ、刻め、壊せ、打ち砕け!」
 襲撃部隊の内から種々の声が挙がる。恐ろしげなる敵意で目を血走らせた彼らは、面差しだけなら穏やかそうな鬼人。しかしその誰もが狂気めいた形相で、館内を荒らして回る。
 こうして彼らは、玻璃もブリキも辛苦で塗りたくった。国産みの女神『豊底比売』への愛の印を刻むため、主君の命に従って、逆賊が触れたであろう総てを槍で薙ぎながら。磨かれた穂先は民や平穏を守るためでなく、天香 遮那と神使を処するための一手として、虚しく振るわれていく。
 そんな中、一人の鬼人種もまた使い慣れた槍を手に、辺りを見渡す。
 血気盛んな者たちと違い、やや落ち着いた様子の青年は、いつのまにか転がっていた風車を摘みあげた。玻璃や戸が壊れたことで吹き抜けるようになった風が、カラカラリと色彩を歌わせる。
 持たぬはずの記憶めいた映像が、彼へ染み入った狂気に触れていく。己か、誰か、それすら判らぬ小さな手と、砂にまみれた風車。だが浮かんだ映像はすぐさまかき消えた。それこそ砂へ呑まれたかのように、狂気に浚われていく。
「……今のは……?」
 見入っていた青年の、その瞳はひどく穏やかで、ひどく冷たい。
「セツ殿! あっちはもぬけのカラだ!」
 呼びかけに顔をもたげ、セツと呼ばれた青年は風車を腰へ差すと、小さく息を吐いた。
「……でしょうね」
 言いながら彼は指だけで仲間を招き、とある会場の扉を前にした。
「いきなり開けては、セツ殿が……」
 一斉に攻撃が降りかかることを懸念した戦友がそう囁くも、セツは浅い息で笑う。
「故に逆賊となったのでしょう。名乗る場を設ける反逆者など、居やしません」
「ならばセツ殿より我等が先にゆこう」
「いえ、たとえ逆賊であろうと、私は私の礼儀を貫きます」
 部隊で挙って映画館の建材や設備を傷つけておきながら、妙なこだわりを示したセツの手がドアへ触れる。本来であれば、映画を観るための期待と興奮を胸に、開かれるべきドアだ。
 しかし今だけは、狂気に染まった手で動かされる。そして開けた直後、青年はこう告げる。
「私はセツ。この部隊の長を務めております。星読みの道具を潰しに参りました、叛徒の皆様」
 腰に刺した風車が、カラカラとささやかに歌う中で。

●防衛戦
 大きなまなこを流すようにそっと動かして、月ヶ瀬 庚は神使へ意識を向けた。
「始まりました。『現実』と『虚構』の同時侵略が」
 想定していたとしても、望まなかった最悪の事態。
 かといって悲嘆に暮れてばかりもいられず、庚は言葉を紡ぐ。
「どうか、星読幻灯機(ほしよみキネマ)を死守してください」
 星読幻灯機といえば、銀幕へ未来の事件を映せる道具。
 高天京壱号映画館に置かれたもので、悲劇を防ぐのに神使も頼りに頼った存在だ。
「襲撃者は鬼人種の部隊です。部隊長セツ率いる槍使いたちが、星読幻灯機を破壊しにきます」
 時間は残されていない。一足先に劇場内で待機し、かれらを迎撃してほしいと庚は託した。
「かれらは『侵食の月』の影響によって、狂気に侵されています」
 元のデータは、兵部省の善良なる兵であった。侵食されたことで彼らもまた、敵となって襲いくる。
 戦いの最中に説いただけで、正気を取り戻せるような状態でもない。
 殺してしまうのが一番確実だが、もしそれが忍びないなら『不殺』のすべを用いるのが良いだろう。
 庚はふと目線を空へ外し、物憂げとも取れる表情で云う。
「何にせよ、急ぎ事を鎮めて頂きたいのです」
 夜に差す光が、闇夜の平穏を喰らいきってしまう前に。

GMコメント

●目標
 襲撃部隊の殲滅または撃退

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●状況
 オープニング直後からスタート。
 映画館の会場へ続く大きな扉から、敵部隊は突入します。(全員が一度に突入することはありません)
 戦場はその場内と、会場前の広い廊下になります。廊下は既に破壊され、ボロボロ。
 星読みキネマは館内の別の所にありますが、ここでイレギュラーズが敗れた場合、星読みキネマの元へ辿りつかれてしまいます。

●敵
・セツ
 鬼人種の男性。現実では兵部省に所属する、真面目すぎる青年です。
 R.O.O.でも所属は兵部省ですが、今回は敵として襲い掛かってきます。
 素早い反応、強靭な体力と精神でしぶとく戦いぬく風槍術士。
 風を読み、味方につけての槍術を振るいます。

・襲撃部隊の隊員×10人
 鬼人種の男女。セツ同様、現実だと兵部省に所属する風槍術士です。
 風と槍の合わせ技で攻撃。R.O.O.内だからか、この人数ですが強敵。
 内、後衛の4人は回復する風も起こせます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが、失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、侵食度に微量の影響を与えます。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <神異>かざぐるまは歌う完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

神谷マリア(p3x001254)
夢見リカ家
マーク(p3x001309)
データの旅人
アレクシア(p3x004630)
蒼を穿つ
にゃこらす(p3x007576)
怪異狩り
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
アルヴェール(p3x009235)
夜桜
ミミサキ(p3x009818)
うわキツ
Sakura(p3x009861)

リプレイ

●からからと
 開演を待つ然なきだに静かな映画館は、より深い静寂に強張っていた。
 静寂を打ち破るものはあれど、騒動は劇場も望まぬもの。
 からからと風車(かざぐるま)が歌う中、そこに燈る光は、果たして希望か絶望か。
 セツと名乗った鬼人種の青年をはじめとする襲撃部隊を、半円状に布陣して若者たちは出迎える。
 入口近くのサイバーつぼから飛び出した『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)は、もふもふの両頬を挟むようにもふもふと叩き、月閃を点して。
「突撃ー!」
 落ちるは椿、その名を冠した刃を贈る。
「……からの、とっておきの一撃をお見舞いするですよ!」
 そして、ミセバヤの風に乗ってマリアも動く。
 小気味よい靴音で劇場を飾った『怪盗見習い』神谷マリア(p3x001254)が、会場扉の奥まで見据えて口端をもたげる。
「先手必殺、一番槍行かせてもらうのにゃ!」
 纏うは黒影、冴えるは二粒の金。
 月閃という名のビーストモードを発動させたマリアの跳躍は、猫又そのもの。
「にゃおおぉん! 暴れ回るにゃ!!」
 獰猛さを前面に飛びかかるも殺さず、血祭りにあげるマリアの乱舞。敵の守りも構わず打ち砕かんとする彼女の威は、槍や風に阻まれながらも、後衛に陣取るヒーラーの生命をしかと抉る。
 その頃、第四の加護を点した『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)が呼吸を整えていた。骨に染む狂気があろうと、変わらぬ気質を持つのなら。マークも背筋を伸ばして迎えざるを得ない。
「セツさん、だね。訣別の騎士、マーク。僕が相手だ」
 誓いの言が響けば、セツも血気盛んな隊員たちも一時、彼のシルエットを捉えた。
「訣別、か。逆賊ゆえの称号だな」
「……今のセツさんにとっては、そうだよね」
 ふわり笑みを眦へ刷き、マークはセツの目線が動くのを待つ。
 ゆくぞ、とセツの一声が落ち、隊員らは突入と同時に散開する。ぶみゃあ、と何処で猫が鳴き、姿を眩ませた。
 逆賊だと罵られたことに、アレクシア(p3x004630)がむうと唇を尖らす。
(そんな風に言われる筋合い、ないんだけどなあ)
 己を高めながら彼女が一列へ放つのは、身体を凍てつかせる一撃。ひやりとした風が男たちを怯ませた隙に、マークは鯉口を切り、踏み込むと同時に振り抜く。青き軌跡を描けば、セツのまなこもそれを追う。だからマークは口を開いた。
「敵ながら見事な士道、天晴な忠誠心だよ。けれど、その心を向ける先は、本当に人々の為だろうか?」
 耳にしたセツは片眉をあげる。部隊長へ染み入る不穏を感知したのか、幾らかの隊員が叫ぶ。
「セツ殿!」
「私に構うな、数を減らすんだ!」
 加勢しようとした仲間を拒み、セツはマークとの対峙に集中した。
「さすがですね、叛徒の皆様。準備がよろしいようで」
 声音や顔つきが穏やかでも、膨れた敵意に侵された彼らの今は――狂人。
 そうと痛感しつつSakura(p3x009861)の鋭利な眼光は、静かに隊員を見据える。
「迎え撃たれる為に来たようなもんだ、遠慮なく受け取っていいんだぜ」
 矯めつ眇めつ、Sakuraが狙うのは風のはじまり。は、と浅く息を吐いて風の先端を掻き乱し、突入を果たした数名を衝撃で洗う。
 やれやれ、と『夜桜』アルヴェール(p3x009235)は肩を竦める。
「信頼厚いのも有難い事だけれども、人使いが荒くて困ってしまうね」
 扇を横たわらせるかのような、アルヴェールの花風が舞う。桜吹雪にのまれた彼の眼前、そこにいた隊員たちも眩む心に気付く。いや、気づいた頃には浚われていた。
 僅かな空白が戦いで生まれたため、アルヴェールは慣れた手つきで特務高等警察手帳を取りだし、掲げる。
「特務高等警察、月将七課のアルヴェールだ。映画館へのこれ以上の狼藉はご遠慮願おうか」
「大人しく投降するのであれば、こちらもこれ以上此処を壊しはしません」
 セツが応じるも、どうだかとアルヴェールは双眸を細めた。
 同時に、ミセバヤを見送った『ステルスタンク』ミミサキ(p3x009818)がツボから景気よく飛び出す。名乗りや口上でセツと向き合う仲間たちがいるからこそ、ミミサキは真っ直ぐ隊員のひとりへ迫る。狂気のまま相手が槍で空間を薙ぎ、鎌鼬の如き風でミミサキを傷つけようと、彼女は。
「こっちはいただきますねー。美味しいかまずいかは別として」
 悠然と口角をあげた。
「あ、牙と舌どっちがいいスか」
 選びようのない選択肢を並べはしたが、彼女が捕食する点においては変わらない。
 ミミサキががぶりといく間に、別の位置で赤い毛並みに緊張が走る。赤毛の主、『バケネコ』にゃこらす(p3x007576)は月を食んだのか、はたまた背負うのか、宿した一閃はかれを巨躯なる猫へと変えた。炎ゆらめかせて舞う彼こそ。
「俺の名はにゃこらすだ」
 音は風を伝って隊員へ届く。
「覚えなくていいからよ、お帰りいただけねぇかな!」
 にゃこらすの描く幻像が後衛を蝕む。怒りに囚われた隊員が不意の絶叫を轟かせる間も、恐ろしげなる敵意が、イレギュラーズへ絶えず注がれ続けていた。そこへ。
「もう一人来たぞ!」
 Sakuraが声をあげ、次なる突入者を知らせる。それこそが最後の癒し手、これで場内に役者は揃った。
 月が閃めくときの輝きで以て、血気盛んな敵勢を一頻り見渡し、マリアは瞬ぐ。
(にゃーのお昼寝の時間が台無しなのにゃあ)
 それを壊した襲撃部隊には、相応の報いを受けてもらわねば。
 彼女はトリックスター。舞い上がり、麗しさを宿して隊員らへと食らいつく。
「見惚れてると大怪我するのにゃ」
 その色香で僅かながら躊躇した隊員へ囁き、ブラッドカーニバルを再演した。
 襲撃部隊で回復を務める手数がひとつ、減る。
 いざ目の当たりにしたヒイズルの陣営を前に、ミセバヤはふるふるとかぶりを振る。
(ヒイズルの勢力と敵対するのは正直、複雑な気分ですが……!)
 敵の猛撃を受け、ころん、と後ろへ転がりはしても、また起き上がって身震いをする。
「ここで……ここで負けるわけにはいかないのです!」
 正気に戻ってと叫ぶ代わりの一撃。ミセバヤの気勢と覚悟にふらついた男は、呻きながらその輪郭を捉えた。なんて奴らだと吐き捨てる男を前に、ミセバヤはズレかけのバンダナを整える。
 理解して貰えるとは思えないのが残念なのです、と胸の内でだけ呟いて。
 一方、丁々発止と切り結ぶマークに、セツの眉間のしわもやや深まっていた。
「何処へもゆかせまいとするか」
「何処へも行かせるつもりがないからね」
 不敵な応酬をぶつけあう。乱戦は勢いを増し、決して狭くはない劇場の中が狭く感じる程となった。
 アレクシアは目を矯め、天穹で一体ずつ押し返していた。前衛もひとり崩し終えていて。
 ここへ来て彼女は好機の片端を掴む。
(! 後衛……っ)
 激戦ともなれば、治癒を担う者は渦中へ近づかざるを得ない。初期の布陣からこれまでの動きが滑らかだったことも功を奏し、少女の矢は――。
「あなた達に幻灯機は……未来は壊させやしないよ!」
 治療士でもある槍使いを射抜いた。
 倒れる仲間の姿にもう一人の使い手はぎょっとしたが、前線へ休まず支援を届けていて。
 風光り、槍術士の傷が言えていくのをSakuraたちは目撃した。
(先に後方を倒しきりたいところだが……)
 既に仲間がそれ目当てに動いている。ならば自分は。
 挟み撃ちなどさせまいと、Sakuraが地を蹴れば。
 帽子を目深に、やや俯きがちのアルヴェールが片頬をあげ、死と癒し、相反する力を持つ桜の花弁を身に纏う。
「俺に触れない方がいいと思うよ」
 触れれば痛みが隊員に突き刺さる。その苦痛ごと拭うかのように、彼はSakuraと狙いを重ね、二種の攻めをお見舞いした。
 踵を鳴らしつつ、アルヴェールが吐息混じりに囁く。これも仕事さ、と。
 そのときSakuraは、襲撃部隊のやってきた方面を一瞥し、瞳を揺らす。
(破壊音に怒号。嫌なモンだね)
 修復するのも大変そうだと、来たるべき未来へ想いを馳せる。
 こうして巧みな連携により道さえ拓けば、あとは――。
「申し遅れましたにゃ、にゃーの名前は神谷マリアにゃ!」
 既に駆けていたマリアが、残りの回復手へ迫れる。瞬く間の出来事だった。
 マリアの爪に勢いを剥がされた癒し手は、ふかふかの座席へどさりと腰掛けるはめになって。
「この劇場の特注座席にゃ。座り心地は、いかがかにゃ?」
 ウインクだけ投げつけて、マリアは瞼を閉ざした彼の脇へポップコーンを差し入れし、場を後にした。
 攻勢凄まじい仲間たちを眺めて、うんうんとミミサキは幾度か頷く。
「いやあ、タンクが多いのはありがたいスね」
 そして彼女も合間を縫い敵へと近付く。しなやかに手招くは、弱っていた治癒の使い手。一思いに砕くのではなく、容器の中へ招待して注意を促す。
「もう、映画館ではお静かにって教わらなかったんスか?」
 マナーは大事だと説く。男が癒しの風を起こす気力と意識を無くすまで、延々と。
 これにて回復できる敵対存在は、失せた。
 一方で、仲間とセツのやりとりを目撃してきたにゃこらすは思う。
(洗脳されてなかったら、気のいい兄ちゃんなんだろうな。……いや)
 ふうむと一頻り唸ったあとに、双眸を細める。
(洗脳されても、その気質は変わりゃしねぇのかね)
 不憫だと思う。そう思うことで寄り添えぬ狂気は、やはり恐ろしい。
 男の槍がにゃこらすを突けば、ふんわりなびいた尾をぴんと立てて、にゃこらすは男を睨む。男が痛みに怯んだ、その一瞬――因果は巡る。生気を奪う化け猫の爪牙が、男へ更なる重苦を与えた。

●ゆるゆると
 生存本能から一目散に囲いを飛び出したミセバヤは、ぴこん、と兎の耳で絶えない戦の音を拾う。
(ずっと聞こえているのです。これは……風音)
 風槍術士である襲撃部隊の面々はいずれも、風とは切っても切れない縁で結ばれている。
 ならば思い違いも無いだろうと、ミセバヤは首肯して。
「例え誰であろうと、ネズミ一匹通さないのです!」
 言葉を風へ乗せた。四囲を試みる襲撃部隊の流れを覚った青き光が、敵の懐へ飛び込むや一太刀で『今』という瞬間に相手を縛り付ける。
「通りたくば、このミセバヤを倒してからにするのです!」
 ふんすと誇らしげなる鼻息で言い切れば、勇ましい宣言を打ち倒そうと躍起になる隊員も出始めた。だからこそミセバヤは彼らが織り成す風音を聞き、穂先が自分へ向かう瞬間を捉えながら、押しつ押されつを繰り広げる。
 一方セツと相対し続けるマークは、風に苛まれていた。
「人は神の意のままとなる従属物では無いはずだ。だって……僕らには『心』がある」
 苦痛が総身を迸ろうとも、マークがセツへ反すのはフォム・ダッハ。
「心なるもの、戦場(いくさば)において無用の長物だ」
「本当にそうかな」
 マークの温和な瞳は、何ひとつ諦めない。
「その拾った風車を捨てず、壊さず持っていた事には理由があるはずだよ」
 言の葉を微風で運ばせ、剣には想いを込め、マークはセツに総てをぶつけた。
 仲間と鬼人種の応酬を折々認め、聞きとめ、アレクシアは唇を引き結んだ。
 ――願いに手が届く。
 そう感じてしまったから、躊躇われる月閃の力が過ぎる。自身へ注がれる敵意の目線を払うように、アレクシアは『それ』を使った。胸の裏側を、何かに掻き乱される感覚。気持ちの悪さが押し寄せながらも、彼女は矢を番えた。
「押し込むよ!」
 隻語ののちに彼女の軌跡で煌めくは、天を穿つ一矢。
 アレクシアの志に射抜かれ隊員は倒れるも、己の命がまだ此処に在ると一驚して。
「な、ぜ……?」
 瞠目した隊員に、アレクシアは弓を下ろしながら告げる。
「星読幻灯機を守るのはもちろんだけど……」
 目線で射止めれば、男がびくりと震えた。
「犠牲をなるべく出さないようにすることだって、譲れないから。私」
 目許を和らげた少女の声を聞き、男がは床へ額をこすりつける。
 土下座でも謝意でもなく、ただただ行き場なき感情を散らすように。
 現実でもR.O.Oでも、いつだって彼女は変わらない。
 同じ頃、眼鏡の玻璃越しに知った劇場はやはり薄暗く、死の臭いさえ漂ってきそうでミミサキは笑む。
「ま、狂気に侵されてるんですし、多少は大目に見てきましたけど」
 仕方が無いと割りきっているミミサキの眼差しは、戦の時間が長かろうと揺らがずに。
「……ちょっと苦しくても大目に見てくださいねー?」
 男が正常な判断もできぬうちに、ミミサキは器でもって彼を締め付け、ぐったりさせた。
 直後、聞け、とSakuraの叫びが場内に響く。
「別に俺達はあんたたちを殺したいわけでも、ましてや傷付けたいわけでもない!」
 部隊の勢いも虫の息といえよう。だから訴えかける。
「向かってくるから迎え撃ってるに過ぎないんだ、帰るってなら深追いはしないぜ」
「何を言うか、悪逆の身をのさばらせてはおけん!」
 頭に血がのぼっているとも言えるが根本、狂気が判断力を濁らせている可能性は高い。
(……どうしようかね)
 帽子をつまんでSakuraは長い睫毛を震わす。
「撤退しないってなら仕方ない」
 水風のように目線を流したSakuraが、仲間たちの興した火勢を扇ぐように魔哭天焦を手中におさめる。そうして標的を定めたのは、ミセバヤの呪縛で鈍っていた一体。
「こっちは撤退も促したんだ、恨みっこなしだからな」
 もっともSakuraとて、恨み節ひとつ奏でるつもりは毛頭なかったが。
 軽やかに跳ねた現在のSakuraへは、月影が被さっている。かの力を槍斧へ這わせての一撃はきっと、隊員に動揺も疑問も抱かせなかっただろう。穂先にてSakuraを突きはしたものの、男はそれこそ怨み言ひとつ呟けぬまま倒れた。
 敵数は充分減ってきた。あと一手、決定打となる一瞬が欲しい。
(嗚呼、今だ。今でないと)
 セツの風槍によって、敷かれたカーペット上を靴裏で滑ったマークは、摩擦熱が埃の煙りを上げるより早く叫ぶ。
「アレクシアさん!」
 水分を失った掠れ声だが、少女は一句も逃さず受け取った。
「後を、頼んだよ」
「っ! わかった、任せてね」
 返答が届くや否やマークは月の閃きを綻ばす。
 彼が力を解き放つ間に、アレクシアは動こうとしたセツの懐へ飛び込み、荘重たる雲を纏わせて。
「だめだよ! 私も皆も絶対諦めないから!」
「……そうだよセツさん」
 囁き事が、アレクシアの言に連なる。
 そしてセツを縫い止めたアレクシアのまなこは、次の瞬間はっきり捉えた。
 月を食んだマークのフォム・ダッハが――セツへ振り下ろされるのを。
 膝を折り、今となってはもう得物を手放さぬことしか叶わぬ身となったセツが、そこにあれば。
「セツ殿!」
「おのれ、おのれ逆賊共め!」
 遺った戦友たちが憤る。狂い咲いた彼らへ、大丈夫だよ、とはマークも言えなかった。
 でも目の前に居様するのみのセツにだけは伝える。
「僕たちは、貴方を殺さない」
 何故、どうしてといった類の問いはなく、セツは項垂れ、
「……そうか」
 としか返せない。
 一方怒りに震えた隊員らはというと。
 再び相見えたにゃこらすのしぶとさに、一人は驚愕するだけでなく及び腰になっていた。
「何故倒れぬ……いや、何故!」
 たとえ何度倒されたって、また何度でも戻ってくるだけ。
 それが当たり前だと教える代わりに、にゃこらすはふるり毛並みを揺らして彼を、そしてセツを一瞥する。
「思ってしまったからな。どうにかしてやらねぇと、って」
 怪訝を塗りたくった顔の隊員に、発言の意図は解らずとも。セツはにゃこらすからの一言で眉を上げた。反応を目視したからこそにゃこらすは、隊員へやまずの祟りをもたらす。生気を喪失した男には、もはや倒れる以外の道など無かった。
 一人落ち、次なる隊員へと今度はアルヴェールが歩み寄る。
「俺の相手をしてもらうよ。もう少しだけね」
 もう少し。
 余命宣告に似た響きは男の顔面を蒼白に染め上げるも、アルヴェールはただただ微笑を乗せるだけ。
「それとも何か、俺ではつまらないと?」
「ぐっ……詰まる詰まらぬの問題でなし、参る!」
 意を決したらしき男自ら、アルヴェールとの差を詰めてくる。
 手間が省けたと斬り断つための花を開けば、命奪わぬ斬花を浴び、男は偃臥する他なかった。
「しっかり星詠みの道具は守ってみせるよ、完璧にね」
 仕事をこなすアルヴェールの眼差しは、どこまでもまろい。
 残存した兵も伏せた今、マークは再びセツへ向き直る。
「……気付かないんだね」
「何……? っ!」
 秘密を囁くようなマークに瞠目したセツは、息を呑んでから己の腰元へ手をやった。
 いつのまにか色彩が失われている。からから廻り、風音で耳を愉しませていた、あの色が。
「んーふふふお宝ゲットなのにゃ!」
 それこそカラカラと笑うのはマリアだ。劇場の座席に腰掛け、ぱたぱたと足を遊ばせながら風車へ息を吹きかける。眉根を寄せたセツへ、彼女はにんまり口角をあげて。
「怪盗に奪えにゃいものは無いにゃ」
 ミセバヤと同時に駆けた際、青年から取り上げておいたのだ。
 戦闘不能に陥ったものの命を奪われなかった面々へ、Sakuraが短い溜息を共に云う。
「守りたいものを違えるなよ。失ってからじゃ、遅いんだ」
 返事はない。けれど銘々表情だけは、口惜しげで。
 そんな光景を見届けたマリアは、ふにゃわわあと大欠伸をきめて、廻り続ける風車へ指を添え――ぴたりと止めてあげた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

神谷マリア(p3x001254)[死亡]
夢見リカ家
アレクシア(p3x004630)[死亡]
蒼を穿つ
にゃこらす(p3x007576)[死亡]
怪異狩り
アルヴェール(p3x009235)[死亡]
夜桜
ミミサキ(p3x009818)[死亡]
うわキツ

あとがき

 激戦、お疲れ様でした。
 今後とも、R.O.Oをよろしくお願いいたします。

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