PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<神異>かわいいかわいい雀ちゃん

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●心に空いた穴は、埋めることはできない
「君はここにいるんだ。外で音がしている間は、決して外には出てはだめだよ」
 銀髪の男は、優しく微笑んでそう言った。
 紫色の髪をした少女を、床下の隠し倉庫に屈ませて。
 少女は何か言いかけるが、男はその唇にそっと人差し指をたてた。
「大丈夫。必ずアッシが守ってあげる」
 彼の腕には血が流れ、ぽたりと少女の膝におちた。
 それでも優しく、男は微笑む。
「アッシのかわいい、雀ちゃん」

 ヒイズルの国に、華盆屋 善衛門という男がいた。
 貧しい家に生まれ、父が病に倒れたために働きに出ざるを得なかった彼は、商人の家でとても人間的とはいえない労働を課せられていた。
 だが彼は弱音を吐くことも逃げ出すことも、まして主人に反抗することもなかった。
 常に糸目を作って人なつっこい笑顔を浮かべ、誰よりも早く起きて店の前に箒をかけ、寝る間も惜しんで読み書きそろばんを覚えようとした。
 全ては己が妹のため。
 可愛い可愛い妹のため。飛行種と精霊種の間に生まれた彼には紫の髪をした飛行種の妹がいた。
 彼女たちが笑って暮らせるためならなんだってする。
 蹴られようが砂を喰わされようが、笑って働ける。
 それが善衛門という少年であった。
 彼はその克己心ゆえに出世し、やがては番頭を任されるまでになった。
 実家への仕送りは増え、手紙も山ほど書いた。
 返事がないのは気になったが、元気な証拠と思って働き続けた。
 そんなある日。
 彼の取引先の主人から娼館へ誘われた。
 女遊びに興味のなかった彼も付き合いだからと宿へ入り……そして。
 妹を、赤い格子越しに見た。

 彼は絶望と暗黒に呑まれたか――といえば、そうではない。
 怒りに燃え憎しみに狂いそうになったが、しかし彼には力があった。
 持ち前の商才と演技力、そして世渡りの巧さを駆使して娼館の主人を失脚させ、姉と妹を地獄の底より救い出したのだった。
 だが、そのせいだろうか……。
 娼館を潰すにあたって高等警察に協力しそれからも長い付き合いをしていたがゆえ、八扇に目を付けられたのだった。
 今、『高天京特務高等警察詰め所』として機能している彼の店の前には八扇の部隊が展開している。
 全員武装し、一部は夜妖を身体に取り込んだ者まである。
 火矢が放たれ屋敷が燃え始めるなか、彼は妹を床下の隠し倉庫へと押し込めた。店をもっていた前の主人が財産を隠すために作った倉庫だ。防火に優れ見つかりづらい。
 八扇の抹殺部隊は自分を見つけ殺すだろうが……妹だけは生き残るだろう。
「大丈夫。必ずアッシが守ってあげる」
 もう一度そうつぶやき、扉を閉じ、隠蔽し……そして立ち上がって振り返る。
「アッシのかわいい、雀ちゃん」

●ヒイズル動乱
 世界を歪める神、豊底比売がヒイズルを実質的に支配していた。
 表の世界……つまりは希望ヶ浜地区への侵食を実現させるため、世界を歪め邪魔なものを排除していた。帝も八扇も豊底比売に操られ、国家はもはや神の傀儡であった。
 その陰謀に気がついた遮那は国家に反逆し、神を打つべく動き出し、そしてイレギュラーズもまた高等警察という立場を獲得して同じく神への反逆を始めた。
 それに対し、帝及び八扇は遮那と高等警察を国賊と断定。処刑すべく各要所へと部隊が放たれた。
 今回舞台となるのは、高天京特務高等警察詰め所のひとつとして機能している絵屋『華盆屋』である。
 華盆屋の主人善衛門は娼館におとされた妹を救うべく高等警察と手を組み、その流れで数多くの事件に協力していた。同じように行き場を亡くした少女たちを財力をもって助けて回るという形で。
 その一環として、(急にやけに人数が増えた)高等警察の仮設詰め所として自らの邸宅のひとつを貸し与えていたのである。
 よもや、そんな場所に八扇が部隊を放とうなどとは……。

「アッシの命は落ちてもいい。だからオマエさんには……あの子を守って欲しいんだ」
 そう呼びかけたのは奇妙な素材でできた鎧の騎士。スパロウ(p3x006151)である。
 ずんぐりとしたボディに大きな盾。収納された剣からは不思議な魔力があがっていた。
 『あの子』が誰を指すのか知っているスパロウは、ゆっくりと善衛門へと頷く。
「問題ありません。ある意味『私』は、そのために作られたのですから」

GMコメント

●おさらい
 イレギュラーズこと高等警察は国家反逆の罪により軍による襲撃を受けた。
 仮設詰め所である華盆屋邸は囲まれ、火矢をかけられている。
 燃え上がる屋敷の中へと、武装した兵や夜妖憑き兵がなだれ込んでくるだろう。
 協力者である華盆屋とその妹を守るため、そして国を歪めた神への反逆を成すために、今こそ戦わなければならない。

●フィールド
 燃えさかる華盆屋邸。
 広くて部屋が沢山あり庭も綺麗な大金持ちらしい邸宅です。燃えていますが。
 軍隊がなだれ込み、あなたは少数精鋭でこれに対抗せねばなりません。
 ですがこちらには『月閃』という力があります。これを使い、敵軍を払いのけるのです。

●エネミー
・機動部隊ー呂三三四『カミクイムシ』
 八扇が高等警察を抹殺するべく組織した特殊な機動部隊です。
 主な任務は強引な証拠隠滅。今回は高等警察詰め所をスタッフもろとも破壊し尽くそうとしています。
 訓練された兵は呪力を帯びた刀を装備し、上級兵はそれぞれ凶悪な夜妖を憑依させています。

・上級兵『イツワ』
 凶悪な都市伝説型の夜妖を憑依させた精鋭の兵たちです。
 クチサケオンナ、アカマントなど殺傷力の高いものを中心に各夜妖を兵器転用したものを憑依させています。
 力を解放するとかなりヤバイ敵になりますが、『月閃』で対抗し食い破りましょう。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、侵食度に微量の影響を与えます。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●『侵食の月』
 突如として希望ヶ浜と神咒曙光に現われた月です。闇に覆い隠されていますが、徐々に光を取り戻していく様子が見て取れます。
 一見すればただの皆既月食ですが、陽がじわじわと月を奪い返そうと動いています。それは、魔的な気配を纏っており人々を狂気に誘います。
 佐伯操の観測結果、及び音呂木の巫女・音呂木ひよのの調査の結果、それらは真性怪異の力が『侵食』している様子を顕わしているようです。
 R.O.Oではクエストをクリアすることで、希望ヶ浜では夜妖を倒すことで侵食を防ぐ(遅らせる)ことが出来るようですが……

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

  • <神異>かわいいかわいい雀ちゃん完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

すあま(p3x000271)
きうりキラー
神様(p3x000808)
R.O.Oの
スパロウ(p3x006151)
アーマーナイト
WYA7371(p3x007371)
人型戦車
きうりん(p3x008356)
雑草魂
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
アズハ(p3x009471)
青き調和
ミミサキ(p3x009818)
うわキツ

リプレイ

●炎よりも熱きもの
 クエストウィンドウを閉じる。
 『ステルスタンク』ミミサキ(p3x009818)は近くのサクラメントに手を触れながら、転送されていく己のアバターを見た。
「娼館の主人を失脚……ねぇ」
 それが、一般飲食店の業務停止命令とは比べものにならないほどの『詰め』であることをミミサキは知っていた。
「なかなかのやり手だと思いまスよ」
「……」
 『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)が無言のまま『そうなのですか?』という視線を送ってくる。
「素直に関心っス。国営風俗ならともかく、裏風俗はソーシャルな防御が滅茶苦茶固いっスから」
 しばらくすると、彼らは高等警察詰め所へと転送。
 詰め所と呼べる場所は沢山あるが、その中でも(クエストを受けようと情報を集める際に)割とよく来るタイプの場所だった。美術商を営む華盆屋の屋敷を一部改装したもので、生活スペースにもなっている。割と必要な機材が一通り揃っているので拠点としても優秀という、そういう場所だ。
 だが今、そんな場所が燃えていた。
「焼き討ち現場って初めてかも。
 わたし達が逃げちゃったら火を消してくれる人はいるのかな? 片付けまでがお仕事だからねー!」
「どうだろうな、消すよりも一通り燃やしきってから再建するほうがコストが安いかもしれない」
 転送されてきた『CATLUTONNY』すあま(p3x000271)と『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)が、周囲の状況を観察しながら言った。
「館ごと葬る勢いで攻め込まれてる以上、ここに居座って防衛するのは難しい。
 華盆屋さんと妹さんを守りながら館を脱出しよう。まずは華盆屋さんのところへ――」

(ところ変われば……いえ、もしかしたら向こうも「こう」なのかもしれません。
 どちらにせよ、守ってほしいと願われたなら力になりましょう。
 私は、そのために作られたのですから)
 襲撃は既に始まっている。一応表の門は閉じ籠城状態にあるが、敵がなだれ込んで来ていないのは門を開けた際の反撃を警戒してか。
 『アーマーナイト』スパロウ(p3x006151)はモノアイを動かし、華盆屋を再び見た。
「華盆屋殿。籠城はしません。倉庫を開き、『妹さん』を連れてここから脱出しましょう」
「オマエさんそれは……」
 この人数では難しいのでは、と言いかけた華盆屋に後ろから声がかかった。
「奴等の狙いは我々だけでなくこの邸宅全てです。徹底的に家探しされれば妹君もいずれ見つかりましょう」
 屋内ということで動きやすいヒューマンタイプアバターで現れた『人型戦車』WYA7371(p3x007371)である。
「粋でいなせな心意気、ってやつかい!? うーんいぶし銀だねぇ~。
 義によって動くのは人の常。しかして僕は神だから、理によって助太刀致す」
 その横には『R.O.Oの』神様(p3x000808)の姿もあった。
「違うか? まそんな感じで! 歪めたのが神ならば、正すのもまた神ってね!」
「軍隊だろうがなんだろうがかかってきな! 私が居れば文字通り百人力だよ!! 全員まとめてかかってこい!!
 華盆屋くんも妹くんもスパロウくんも全員私が守ってみせるからね! そのためにきうりがいるんだよ!!」
 二人の後ろからヒュッと顔を出した『雑草魂』きうりん(p3x008356)がシュッシュと拳を降った。彼女に関してはサクラメントからワープしてきたというより、すぐそこの隊員用宿泊個室で寝てたクチである。ログアウトできなくても案外生活には困らないというのがイレギュラーズなのだ。
 そこへ、アズハたちが駆けつけてくる。
 スパロウが頷く動作をみせた。
「私だけなら籠城しかなかったですが……事情が変わりました。
 今回はこのように人手が足りてますから。何人か守って屋敷を出ることは十分可能でしょう」
「……なるほど」
 華盆屋は目を細くして考え込んだ。そして、倉庫の鍵をスパロウへとかざす。
「ならアッシがここに残って――」
「だめです」
「だめでしょ」
「だめだな」
 多方面から一斉にNOが浴びせられた。
 いっそ滑稽なそのさまに華盆屋が顔をしかめると、スパロウが端的に言った。
「貴方に死なれると後味が悪くなる」

 こうして、この『クエスト』における暗黙の二択が決定された。
 機動部隊ー呂三三四『カミクイムシ』の包囲から逃れ、華盆屋善衛門と妹の二人を連れ、この屋敷から脱出するというルートが選ばれたのである。
 おそらくは最も困難だが、もっとも多くを得ることの出来るルートが。

●脱出作戦
 かちゃり、と鍵穴にさした鍵を回す。
 扉のさきからおそるおそる顔を出した少女を、スパロウはよく知っていた。鏡越しに見る、いつもの自分だ。より厳密に言うなら、『戦いをあまり知らなかった頃の自分』だろうか。
 モノアイの光りを細め、そして平静を装う。
「ここから出ましょう。籠城作戦から脱出に切り替えました」
「大丈夫……なの?」
 その場に並ぶイレギュラーズの顔ぶれを見つつも、やはり外への不安が勝った様子の少女。
「現場に神いる方が強いでしょ。常~考~」
 飄々としてみせる神様が手を差し出すと、華盆屋善衛門の妹――華盆屋 雀芽(かぼんや すずめ)はその手をとった。
「それで? どこから脱出するの?」
 すあまは随伴する鎧『ラダ』に命じてきうりんを騎乗させるように言うと、きうりんはラダの首元によいしょと跨がった。まさかの肩車フォームである。そのまさかっぷりに思わず二度見するすあま。
 きうりんは胸を張って腕組みすると、ビッと正面門のほうを指さした。
「壁だの何だのを乗り越えてたら防備の弱いところを狙い撃ちにされるだけ。
 今回は何人かをわざと『捨て駒』に出来るんだから、正面から出てできるだけ多く敵にエンカウントしたほうが脱出効率たかくない?」
「脱出効り――えっ」
 そういう頭の良いことをいう筈だったWYA7371に先んじてきうりんが提案したものだから、WYA7371がぴくりと顔をあげた。
 『ディテクティブ』センサーを放ってこそいるが、『武装してるっぽい存在が館の周りに沢山いるな』程度しか今のところ分かっていない。
 ドローンを飛ばせば視覚情報を得られるが、打ち落とされたら終わりなので使いどころは選びたい。そしてそれは今じゃあない。
 ふと見ると、黒子がじっと考え込んでいるようだった。今ある材料だけでなんとか最短効率をはじき出そうとしているらしい。そして、その計算は思ったよりも速かった。それこそ、彼の本領なのである。
「きうりん様を正面門まで運搬した後は、ラダ様には善衛門様を運搬する係に変更。雀芽様は――」
「はいはい、私私。私が運びたいっス」
 賽銭箱みたいなデカい木箱から上半身を出したミミサキが『ミミサキのここ、空いてますよ』のポーズで箱を示した。箱底面からはカッチャンと音を立ててダッシュローラーが展開し、いつでも突っ走れる構えを見せる。
 黒子は深く頷き、スパロウが『事情が変わりました』と言った意味を反芻した。
 敵機動部隊は『強制的証拠隠滅』に特化した部隊だ。これを差し向けられて全力で逃げようとした者は多いだろうし、それを追い詰めることも当然想定されているだろう。
 走れば逃げ切れるなどとは、到底思えない。特に非戦闘員である雀芽や善衛門の手を引いてなど……。
 しかしメンバーにすあまとミミサキが加わったなら話は別だ。
 二人の(実質的な)機動力を確保したまま逃走しつつ、そして同時に戦闘が可能になるのだ。
 理想的なチェイスバトルを展開することができるなら、籠城戦をしなくて済む。
 神様やアズハ、スパロウたちが一定の飛行による戦闘機動能力を有するのもこの場合は有利に運ぶだろう。
「では、そのように。あとは道中での足止め役ですが……」

●一点突破
 機動部隊ー呂三三四『カミクイムシ』。その中でも特に凶悪な夜妖を憑依させた上級兵たちは、状況の変化に身構えた。
 正面の門が、向こうから開いたのだ。
 降伏か、それとも一か八かの反撃か。
 前者はもちろん、後者であっても楽だ。こちらは門から兵を突入させるべく集めているし、多少時間が稼げれば裏手に回した兵もすぐに駆けつけることができる。
 開いた門のスキマから最初に飛び出してきた飛行ドローン。
 こちらの兵の様子を確認したのだろうが、構うことはない。即座に草刈り鎌を投げつけ破壊すると、そのまま門は派手に開かれた。
「ここを通りたかったら私を食べてからにするんだね! 月閃!!」
 飛び出してきたのはまさかのきうりん一人。
 ビネガーオーラに包まれたきうりんは密集する兵たちめがけて(鈍足ながらも)飛びかかると、オーラの波をぶつけてきた。
「くらえ、『ウィークネス』!」
 強烈にビネガーなオーラを、しかも堂々と技名まで叫んでぶつけたのはわざとらしさを見せるためである。
 それが牽制だと分かっていても、敵はこれを対処しないわけに行かない。特に統率された兵であれば、ひとりふたりが不審に思っても攻撃命令が出た以上集中攻撃をしなければならなくなるのだ。
 そしてきうりんの想定通り、カミクイムシたちは一斉にきうりんへと襲いかかった。
 突如として巨大なピクルスと化したきうりんに大量の槍が突き刺さる。大体20回くらい死んだはずだが、きうりんは強靱敵不死性によって20回くらい復活。
 団子状になったところで……。
「今です」
 黒子たちは一斉に『塀の上』を飛び越えて敷地の外へと脱出した。
 メンバーの大半が飛行能力を有するからこそできる芸当である。
 すあまはくるんと宙返りをして着地すると、善衛門を乗せたままのラダとともに走り出す。
 その間『足止めにはとてつもなく役に立つ』一般兵たちはきうりんに突き刺さったままだ。しばらくはそうだ。
 動けるのは一部の上級兵たちのみ。
「くそっ、ハメられたか……!」
 クチサケオンナを憑依させた上級兵が凄まじい速度で追跡を開始。
 アズハや神様たちのフォローによって兵を飛び越えていたWYA7371とミミサキはローラーダッシュモードで距離を稼ぐが、クチサケオンナ上級兵から逃れるには速度が足らない。
 前方に回られた――所で、
「程度ってモノがあるワケ。そのワクに収めるのも神の責任かも知れないと思ってさぁ?」
 相手の繰り出す必殺の一撃にカウンターする形で神様が月閃を発動。神の光でもって相手の攻撃を相殺。更に腕をもぎとるだけの衝撃を与えた。
 スパロウは抱えてていた黒子をはなし、着地させる。
 対して黒子はピッと手をかざして『先に行け』のシグナルを発した。
 神様もまた空中でターンするようにしてクチサケオンナ上級兵をブロック。
 さらなる上級兵が追いつき追撃してくるのに対し、黒子は月閃を発動。複数のスキルを同時発動させて迎え撃った。

 が、それで追撃が終わったわけけではない。
 大通りに飛び出したアズハたちを追跡してくるのは、商店の屋内を強引に突っ切って現れたアカマント上級兵とジンメンケン上級兵。
「さあ、Step on it。さっさと終わらせましょう」
 WYA7371は召喚していた拡張フットパーツのローラーダッシュを操作し急速反転すると、バック走行しながらレーザーブレードを召喚。呪詛のナイフを握って飛びかかるアカマント上級兵とつばぜり合いを始めた。
「ここは当機が担当します」
「いや、二人必要でしょ。俺も残る」
 アズハは上半身を動かさずに走っていた特殊なフォームを転じて格闘の構えをとると、ジンメンケン上級兵めがけてガンブレードのなぎ払いを繰り出した。
 回避された――が、その動きは読んでいる。
 素早くガンモードに変形させると、至近距離で特殊弾をぶっ放した。
「邪魔はさせない。一宿一飯の恩……じゃあないけどね。月閃!」
 アズハは突如として分身を出現させジンメンケン上級兵を四方八方から斬撃、射撃、打撃で集中攻撃していく。
 一方でWYA7371も月閃を発動。人型戦車に搭載している全武装を一斉召喚すると、そのすべてをアカマント上級兵へとぶっ放す。
 
 善衛門を乗せたラダとすあま、雀芽を乗せたミミサキ、そしてスパロウ。
 三人だけとなったが、これで結構だ。こちらのデスカウントが増えるだけ。『誰も死なない戦い』が出来ればこちらの大勝利なのだ。
「この先の十字路を曲がれば安全な場所に逃げ込める。そこまでの勝負です」
 スパロウがウィングパーツを操作しながら仲間に呼びかける――と、後方から気配があった。
 長い両手と素足を地に着けた白いワンピースの女が凄まじい速度で追跡してくるのが見えた。
 と同時に、側面の建物が粉砕され身の丈2m半はあろうかという巨躯の女が出現。こちらも白いワンピースだ。
 すあまとミミサキが戦闘に参加すれば、最悪保護している雀芽たちまでダメージがいく可能性がある。
 建物を壊して飛び出すという奇襲によってすあまの腕が掴まれるが――。
「はなして!」
 器用に身体をひねって二段蹴りを繰り出すと、巨躯の女の顎を蹴りつけ無理矢理離脱。ラダに飛びついて肩車フォームになると、抱えた善衛門を確認。
「ラダ、交代するよ――月閃!」
 すあまはぴょんと飛び出すと、巨大な猫へと変身した。その背にまたがるラダとしがみつく善衛門。すあまは強化された足によって凄まじい速度でダッシュをかけた。
 一気に距離を開いていく。もうこうなれば追いつけないだろう。
 ミミサキはそれを見てうーむと唸った。
(侵食率はオモテで音呂木さんたちが抑えてくれてるはず。月閃は使っても大丈夫そうっスね)
 そして、箱の中の雀芽に呼びかけた。
「少し揺れるから、近くのものに捕まっててくださいっス」
 月閃、と小さく冷静に呟く。
 と同時に、ミミサキの『箱』がモンスタートラックへと変化した。運転席にはえたミミサキはハンドルを握り、アクセルをふむ。凄まじい速度で突っ走り、前方に回り込んだ四つ脚走行女を轢く勢いで突っ切っていく。
 それを追跡しようと構えた女たち――だが。
「悪いですが、これで『詰み』です」
 スパロウが空中でターンをかけ、あえてズンと地面に着地してみせた。
 投げたピコハンがブーメラン軌道を描いて飛び、それを素早く交わした女たちに――。
「守ると決めた戦いはやり遂げてみせます――『月閃』」
 縦から引き抜いた剣には黒い呪力が炎のように吹き上がり、スパロウのボディも黒いカラーリングに変更された。
 ズッ、と踏み込むその動きだけで風を飛び越え、気付いた時には女たちの後ろに立っている。
 そして、剣は既に振り抜かれていた。
 それも、二度。
 血を吹き上げ、女たちがその場に崩れ落ちる。
 スパロウは息をつき、そしてターンした。
「これで戦いは終わりには……なりませんね。この国ごと、守らなくては」

成否

成功

MVP

黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用

状態異常

神様(p3x000808)[死亡]
R.O.Oの
きうりん(p3x008356)[死亡]
雑草魂
黒子(p3x008597)[死亡]
書類作業缶詰用

あとがき

 ――脱出ルートでクエストをクリアしました
 ――華盆屋 善衛門と妹の雀芽を救出しました

 ――コングラチュレーション!

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