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シナリオ詳細

<神異>memento mori、死を想い死と踊れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死そのもの
 果てが無いと思えるほどに広大な墓地があった。
 形こそ様々な墓石が、地平の彼方まで等間隔に続く、ここはあまりにも非現実的な空間だ。
 空に太陽はあれど、早回し映像のようにすぐに沈みゆきてはまた登る。昼と夜を繰り返し、雲は驚くような早さで流れちぎれて過去のものへと過ぎていく。
 おぞましきは、墓石に自分や姉の名が刻まれていることだろう。
 メッセージも何もなくただ名前だけが彫り込まれた石の列。
 参拝する者もないのか、どこか朽ちたような、寂しくざらざらとした石の列。
 だが、それらを丁寧に眺めている時間も、ましてや洗って手を合わせてやる暇もない。
 なぜならば……。
「ああ、あのとき戦っておいて本当によかった」
 両手をジーンズパンツのポケットに入れ、よれたシャツとジャケットの襟を直すことも無く猫背に立つ男。咲々宮 幻介(p3p001387)。
 彼はいつも背負っていた竹刀袋はない。
 その代わりに――。
「来い、『響命』!」
 かざした手に、鞘からひとりでに抜けた刀がぱしりと収まる。
 刀身のない、柄だけの刀だ。
 だが幻介が空に描いた光の閃きが文字となり、文字は剣に虚偽の銘を刻み込む。
 欺かれた世界はそれを、封刀『響命』と認めざるを得ない。
 幻介の手の中から柄が消え、代わりに全く同じ速度で跳ぶ和装の少女めいた存在が現れた。
「解封抜刀――『響命』」
 全く同じモーションで身構える。
 相手は。
 見るもおぞましき、巨大な影。
 『餓者髑髏』である。

●神は居る。ただ、あなたに優しくないだけで。
 異界からの侵食を受けている。『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式 (p3n000170)は不吉そうに言った。
 公園の、なんともいえない小石の山に朱色に染めた割り箸で鳥居を作り、ソルトピーナッツの中身をぶちまけたあと缶ビールのプルタブをあけ、一口あおってから逆さにしてぶっかける。
 深刻な嫌がらせみたいな風景だが、そうしたことで目の前に楕円状のゲートが生まれ、その向こうにはどこか見覚えのある風景が広がっていた。
 並ぶ墓地。不気味な空。そして、心臓を冷たい誰かの手が背後からスッと撫でたかのような怖気。
「ROOの中に生まれた歪んだ国ヒイズル。あの場所に生まれた神は、この希望ヶ浜へと信仰と懐疑をもって侵食していた。
 お前達も薄々気付いているのだろうが……希望ヶ浜地区は『常識への信仰』と『怪異への懐疑』によってその状態を保っている。
 外からの情報的干渉には常識の結界を。それによって生じる歪みは怪異としての夜妖として出力される。夜妖さえ倒し続ければ平和が守られるというメカニズムだ」
 缶ビールの中身を注ぎ終えたところで、まだ僅かに中身の残る缶を握りつぶしてその辺へ投げ捨てた。エコロジーという思想が欠片もない動作だが、奇妙にそれは洗練された動きに見えた。
 渇いた音をたてて公園の砂地をはねる空き缶。
「だがそこに付け込まれた。ROOへの懐疑が特殊空間を生み、空間の中に『再現性帝都』を作り出した。ヒイズルの神までもだ」
 神はいる。専用の神社で拝むことも、雪ぞりで一緒に遊ぶことも、なんなら遊園地のふれ合いコーナーで抱きつくことだってできる。それが混沌という世界だ。
 そしてそれゆえに、新たに生み出すことも不可能ではないのだ。
「元々この希望ヶ浜地区には日出建子命信仰があった。あちこちに神社があるだろう? 音呂木神社が仕切っているヤツのひとつだ。そいつと接続するかたちで、この異空間――いや異世界とも呼ぶべき『豊小路』が生成された。このまま放置すれば希望ヶ浜は侵食を受け、常識の結界すら破られるだろう。
 お前が毎日楽しんでいるラジオ競馬も永久に開催されない」
 最後のあたりだけ、その場に居た咲々宮 幻介(p3p001387)に向けられた。
 え、俺? と競馬新聞を凝視していた幻介が顔を上げる。
 そんな彼の肩を、三國・誠司(p3p008563)がポンと叩いた。
「そのレース、僕は金貸さないからね?」
「頼む! 三倍にして返すから!」
「それ絶対返らないやつじゃん」
 がしりと掴んできた手を払いのけ、誠司は無名偲校長へと向き直る。
「で、僕らは何をすればいいの? 前みたいに夜妖退治?」
「ああ……ああ、そうだな。まだ」
 言い方にひっかかりを覚えて眉間に皺を寄せる誠司に、無名偲校長は続けた。
「『餓者髑髏』という夜妖が、ヒイズル側から侵食している。このまま認知されれば死の神になりかねん。そうなるまえに、斬り滅さねばならない」
 向き合えない死なら、忘れるしかない。そう言って無名偲校長がドサリと放り出したドラムバッグを開くと、中には人数分の『刀の柄』が入っていた。
「『封刀』だ。使い方は教えたな?」

 封刀。それは刀身を持たない柄だけの刀であり、所有者の思いを形にする剣だ。
 特徴的な刀身をふるう者もいれば、刀身の代わりに少女を作り出す者や、大砲にした者もいる。
 そんな思い出とともに掴み上げると、誠司は再び校長の顔を見た。
「あのとき斬らせたのは、このためってワケかあ。
 向こうの世界からマジの神様になって出てきちゃったら、斬るどころじゃ済まないもんね。今度こそキッチリ滅ぼさなきゃ……ね」

GMコメント

●オーダー
 成功条件は至ってシンプル。餓者髑髏を倒すのみ。
 ですがそのためには『封刀』を使いこなし、あなたの力とする必要があるようです……。

 前回封刀を使ったシナリオはこちら
『<半影食>仮想贋作神殺し(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6415)』

●特別ルール:封刀
 PCにはひとりに一本ずつ儀式道具である『封刀』が与えられます。
 刀身のない柄だけの剣ですが、儀式魔術を開始すると本人にふさわしい刀身が現れ、刀が一時的に『銘』をもちます。
 今回はあなた専用の刀として、名前とその形状、ふるった際のエフェクトなどを考えてみましょう。
 普段つかう刀をそのまま再現してもよし、いつもの戦闘スタイルにちなんだものにしてもよし、思い切ってイメチェンしてみてもよしです!
(現在お手元の武器は装備したままでOKです。ステータスもその状態を参照します。見た目だけ刀装備っぽくなります)

・コピペ用テンプレート
銘:
形状:
エフェクト:

●フィールド:偽阿僧祇霊園
 阿僧祇霊園の広い墓地を摸したエリアです。日出神社から侵入可能な異世界のなかにあります。
 無限に続く墓石には自分たちの名が刻まれ、空は恐ろしく歪んでいます。

●エネミー:餓者髑髏
 片手で一般的な人間の大人を掴める程の大きさであり、愚鈍ながらも巨体に見合う凄まじい頑強さをもちます。
 基本的に近距離戦闘に優れているように見えますが、破壊の規模が大きいため離れた距離からも容易に攻撃が行えるようです。
 また、この夜妖は『死そのもの』でできているためこの無限に続く墓地全体からエネルギーを無限に得ているとも考えられます。
 見た目からは想像のできない、常識から外れた動きや攻撃をいくらでも繰り出してくるでしょう。

 ……ですが、こちらにはそれに対抗する武器があります。
 このフィールド限定ながら、『封刀』はそのリミッターを外し無限に近いエネルギーで攻撃を繰り出すことができるでしょう。
 その力で、餓者髑髏を斬り滅ぼすのです。

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●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●Danger!(真性怪異による狂気)
 当シナリオでは『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』や『反転に類似する判定』の可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。

  • <神異>memento mori、死を想い死と踊れ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年11月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
天穿つ
咲々宮 幻介(p3p001387)
背で語る
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
ボディ・ダクレ(p3p008384)
ぬくもり
三國・誠司(p3p008563)
一般人
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
冰宮 椿(p3p009245)
冴た氷剣

リプレイ

●メメントモリ
 公園である。質素な木のベンチとブランコ。さび付いたジャングルジムのあるその公園は、この辺りではまあまあ少ない子供のたまり場になっていた。
 だが、今は子供の声すらしない。
 有毒ガスが発生しただとかいう理由で立ち入り禁止テープが貼られ、近隣住民も念のためにと一時避難を求めたためである。
 いまいるのは、『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)たち希望ヶ浜特待生(イレギュラーズ)のみ。
 かつてあった石碑は粉々に砕け、小石の群れからそれが石碑であったことを察するのは難しい。
 が、そうした印象を塗りつぶすかのように、そこには楕円形のゲートができあがっていた。
 ゲートの先には墓地。それも広大すぎる墓地だ。
 幻介は一呼吸整えてからゲートの向こうへと入り込んだ。
 折れた卒塔婆を拾いあげ、握る。
「餓者髑髏って、アレだよね。前に倒した(?)やつ」
 柄だけの刀を手に、『一般人』三國・誠司(p3p008563)があとからゲートをくぐってくる。
 周囲を見渡し、以前の墓地とは比べものにならないほど歪んだ風景に顔をしかめた。
「明らかに力を増してるように見えるけど……」
「これはこれは大層なものが出てきたでごぜーますね?
 しかもROOからの侵食とは……本当になんでもありでごぜーますね、混沌という世界は。
 さすがは理不尽と不条理こそが代名詞のカオスっぷりでありんすな。
 くふふ、封刀とかいう玩具もありんすし、ちょいと遊んでみんしょうか」
 同じくゲートを潜った『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は借りてきた封刀をしげしげと観察している。
 『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)もゲートを潜り、この異質な空間で深呼吸をした。
 そして普通なら顔をしかめるようなところで、彼女はほっこりと笑みを浮かべるのである。
「中々良いのが居るじゃないですか♪ 死の概念? 仲良くなれたらいいですねえ、無理そうですけど」
「死と仲良く……ですか。変わった考え方ですね」
 黒い一揃えのスーツを纏った『龍成の親友』ボディ・ダクレ(p3p008384)は、ゲートを潜ってすぐに起きた画面のノイズに気付いてトントンと側頭部を叩いた。
 頭部といっても、グリーンの箱形モニターにグリーンの背景が映っているという異形頭の者である。
「……」
 ノイズはすぐに収まったが、どうもゾワゾワとした感覚がボディには残っていた。
 封刀。死を忘れるための刀。
 餓者髑髏。死と向き合うための怪異。
 もしかしたらボディも、そうした存在たちの間にあるものだったのかもしれない。科学が死と向き合い、そしてある意味で忘れようとした結果なのやも。
「私も随分とひどい存在ではありますが……餓者髑髏というのも、中々」

 発生当初は『希望が浜異世界』といった名で呼ばれていたそこは、今やまごうことなき『仮想世界からの侵食』であった。
 噂話と信仰によって生まれた現実の歪みが怪異となる。希望ヶ浜地区における夜妖の基本となる考え方だが、それを逆手にとって世界そのものを転写しようとするとは……。
「現実というものが、そう簡単に蝕まれてはたまらない」
 『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は馬の足でゲートをまたぐと、砂利敷きの墓地を歩く。
 墓地には誰かの名前が刻まれて然るべきだが、名はぐにゃりとゆがみラダやその家族の名になっていた。
 嫌がらせのような有様に顔をしかめ、そして振り返る。
「これは、どういう意図のものだと思う?」
「死は、平等に訪れる結末。安寧の果て……」
 『冴た氷剣』冰宮 椿(p3p009245)が静かに、そして優しくそう言った。
「この世界の混沌法則(ルール)によるのなら、わたしたちもいつかは死ぬでしょう。そして蘇ることはない。だからこそ、生きたうちから自らの墓をもつものです」
 餓者髑髏という存在が、いずれ誰にでも訪れる死を象徴し、それと向き合いよりよく生きるための『概念』であったのだとしたら……。
「それが直接わたしたちの命を奪いにくる構図は、あまりに歪みすぎています。わたしは、まだ死ぬつもりなどありません」
「……だな」
 椿のいわんとしたことを理解した『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、バンダナをより強く結んで気を引き締めた。
「誰にでも平等に死があるのはわかります。死んだ後のことを考えたことがないと言えば嘘になる。けれど、『だから今すぐに死ね』という理屈はありません」
 この空間は、まるで死をお仕着せてくるような嫌な気配が満ちていた。
「長居は無用、一刻も早く主を倒して退散するとしましょう」
 地球にはサンタ・ムエルテという信仰対象がある。死の聖母を意味するそれは、ローブを纏う骸骨という死を擬人化した姿で現された。異端とすら称されるその信仰が深く根付くのは、それだけ死が身近な行き方があるからだ。
 その意図は『俺たちはどうせ死ぬからどうでもいい』ではなく『明日死ぬかもしれないからよく生きよう』なのだと、誰かが言った。
 ルーキスは封刀を手に強く握りしめた。普段己が握る刀に込めた想いを、胸の中に強く抱いて。
「その象徴自体が歪んだのなら、一度封じ、忘れるべき……ということですか」
 椿たちがスッと構える気配がした。
 同時に、空間が振動するような気配。
「――来る」
 誰がそう言ったのだろう。だが事実そうなった。
 地面が割れ、巨大な――死の怪物が腕を伸ばす。
 這い出たそれの名は、『餓者髑髏』。

●死を厭うな、死を喰らえ
「その死すらも」
 封刀を握り、顔の高さへとあげた椿。
 横一文字に振り抜く動作と共に、その力を解放した。
「刈り取りなさい。解封抜刀――『紅椿』」
 振り抜いたその剣は、長い柄をもつ大鎌に似ていた。
 軌跡を描くようにして赤い椿の花弁が舞い、走り出すその軌跡を更になぞった。
 まるで死刑を宣告する判事の手のごとく、巨大な腕を振り上げる餓者髑髏。
 振り下ろす直撃――かに思えたそれは、散った花弁を潰しただけだった。
 側面を回りこむようにして、崩れ始める足場を走る椿。放り出され宙を舞う墓石を蹴って飛ぶと、椿は餓者髑髏のすぐそばをすり抜ける一直線の軌跡を花弁で描いた。
 途中でくるりと円が描かれているのは、スピンをかけて相手の首を切り落としたからだろう。
 実際、餓者髑髏の巨大な首はずるりと落ちて地面でひどい音をたてた。
「悪意を以て悪意を制す。死を以て死を制す。
 世界のため、なんて。崇高な言葉を口にすることは出来かねますが……わたし達の『生』を掴むために。『死』すらも、死なせてみせます」
 もう一度スピンをかけて着地した椿。
 が、その後ろで餓者髑髏の腕が大きく薙ぐようにふるわれた。
「――!?」
 咄嗟に防御行動。
 致命傷こそ防げたが、着地をねらった打撃を回避するのは困難だったようだ。
 無数の墓石を破壊しながら椿が吹き飛んでいく。
「首を落としても尚、ですか……」
 吹き飛んできた椿をキャッチしようと走ったルーキスだが、椿は(そつなく)鎌で地面をひっかくようにブレーキをかけると自力で着地した。
「そのようですね」
 椿が乱れかけた髪を振って元通りに直すと、それを見つめていた餓者髑髏の首がにたりと笑った、ように見えた。
 伸びた赤黒い血管のような物体が絡み合い、首がふたたびくっつく形で修復されていく。
「超再生能力……いや、違う。外観を維持しようとしただけです。であれば、畳みかければ倒せる」
 冷静に分析したルーキスは刀を握り、そして胸に抱いた想いをその刀にも込めた。
「共に行きましょう――『瑠璃雛菊』!」
 高貴な誓いが青い花弁となって渦を巻き、ルーキスを霞の風が吹き抜ける。
 刀は彼がいつも握る、瑠璃雛菊の意匠が施された高雅によく似ていた。
 それはもしかしたら、ルーキスが元から『死神を殺す』だけの誓いを刀に込めて古い続けてきた証明なのかもしれない。
「この銘に懸けて、死の骸を討ち滅ぼす!」
 ルーキスは赤い椿花弁が未だに散る宙空を逆向きになぞるように走り抜けた。
 空で混ざる赤と青の花弁。迎え撃つように振り返る餓者髑髏。
 横向きに払う腕を跳躍によって回避すると、足下で滅茶苦茶に破壊されていく墓石群をちらりと見てから刀を強く握りしめた。
「この距離だ――『毒空木』ッ」
 刃文をなぞるかのように浮きあがる毒のオーラ。つい先ほど椿が切り落とした首の線をそのまま、正確かつ精密に刀を撃ち込んでいく。
 そして後を追うように舞った青い花弁が刀へと集まり、カッと蒼い炎のように輝いた。
「――『鬼百合』ッ」
 吹き飛んだ墓石のひとつを蹴るかたちでターンしたルーキスが、凄まじい速度での斬撃を餓者髑髏の腕にたたき込む。後を追ったさらなる花弁たちが腕を無数に切りつけていく。
「『死』とは人にとって避けては通れぬもの。けれど今はまだ、その声に応える訳にはいかないんでね」
 直後、ルーキスの身体ががしりと巨腕に掴まれる。腕や首を切り落としたくらいで止まらないのは学習済みだ。自分一人で取り押さえられるとも思っていない。
 だが――。
「こちらは『独り』じゃない。例え自分が倒れても、仲間に機会(チャンス)を繋ぐことが出来れば、上等だ」
 不敵に笑うルーキスが地面に叩きつけられるその瞬間、餓者髑髏の脇腹付近へとボディが滑り込んでいた。
 最大攻撃の瞬間故の隙。咄嗟に払いのけようと持ち上げたもう一方の腕は、首から伝わった毒によってびくりと一瞬だけけいれんした。
 それだけだが、それだけでいい。
「己の燃やしなさい――『心火』」
 振りかざした刀の柄より、燃え上がるように赤熱する短い刀身が現れた。
「その腕、貰います」
 脇腹から腕にかけてに刀を走らせ、そのまま刀身をうめつつ手首まで駆け抜ける。
(死へと想いを馳せるのならば、きっと餓者髑髏は間違っている。
 死は土へ還ることだと何処かで読んだ。
 ならば還ることもなく、ああして蠢くアレは歪んでいる。死に縁する私以上に)
 切り裂き、そして飛び退く。
「あるべき場所へと帰らないと言うのなら。
 死が、私の前に立つんじゃない」
 どさりと、餓者髑髏の腕が脱力したように地面に落ちた。
 にたりと笑っていた表情も、いまは崩れている。
「畳みかけます。エマさん」
 連携を求めて声をかけると、エマはこくりと頷いた。
「強大にして巨大。相手にとって不足なし、という訳でごぜーますか……『封夜之煙管』」
 短くそう刀の銘を呼ぶと、キセルの形に変わってエマの手に収まる。
 口をつけ、小さく吸うと、エマは煙を吐き出した。
「まさに死の象徴といった感じでありんしたが、うっかり間違って復活したなどと言われてしまっては、たまったものではごぜーませんね。おー怖い怖い」
 キセルからあがった煙が力ある存在へと変わり、餓者髑髏へと襲いかかっていく。
 巨大な餓者髑髏を包み込んだ煙。それを払うように腕を振り回すが、更に濃密になっていく煙に餓者髑髏が包まれるのみである。
 一方的に蹂躙できたか? そう思われた所で……。

「来るよ」
 誠司はあえて走り、そして飛び上がった。
 広大な墓地のあらゆる場所から、巨大な腕が何本も伸びた。
 地平の彼方まで続くだろうと思われる『腕の群れ』が、誠司たちをつかみ取ろうと襲いかかる。
「無窮に轟け、『撃留』!」
 振り抜く柄に大砲のごとき刀身が生まれ、拡張された柄を両手でしっかり握りこむと誠司は自らを狙う腕めがけてそれをたたき込んだ。
 激しい閃光がはしり、爆発音と打ち上げ花火の如き鮮やかなスパークが走った。
「納得できないなら忘れるしかない。
 それは正しい事だと理解はしてる。
 けどそれじゃあ、ここにいる想いは無かった事になっちまう。それが死ぬほど気に入らない……!」
 誠司は歯を食いしばり、着地と同時に剣を地面に突き立てた。
 黒い刀身が赤く変色し、そらが更に白熱していく。
「『弔ってやる』よ、餓者髑髏。仮想世界から染み出た、いないはずの死人とおきないはずの死が寂しいんだろ」
 一度『読んでいた』彼は知っていた。
 餓者髑髏のもつ空虚と嘆きを。
「知ってるか餓者髑髏。ゲームのキャラクターが死んだって、人は泣くんだぜ。
 だから向き合ってやる――『八重芯菊・撃留』!」
 更に巨大化した刀身が、白い光となって餓者髑髏の腕たちを一斉になぎ払う。
 ねねこはそのタイミングを逃さなかった。
「いつも通りに行きましょう、『鳴』『響』っ」
 放った二本の小太刀がまるで鳥のように光りと闇の翼を広げ、ねねこの周りを一度旋回飛行した。
 光り翼をもつ『鳴』はダメージを受けたルーキスのもとへ飛び、治癒の光りを放射する。
 一方の闇の翼をもつ『響』が攻撃を受けているボディのそばへ割り込んで反撃するためのビットとして飛び回る。
「ほぉ……便利だし凄いですね! このタイミングにしか使えないのが勿体ないくらい」
 ねねこはにっこり笑うと、オーケストラを指揮するかのように腕をかざしてふたつの刀を操り始めた。
 そんなねねこを餓者髑髏の腕たちが掴みかかろうと襲うが、直前でねねこを抱えたラダが馬の足でジャンプ。真後ろギリギリを抜けていった腕をかわし、その速度のまま墓石から墓石へと飛び移る勢いで走る。
「ねねこ、防御を任せる。こっちは攻撃に専念だ」
 いいな? と問いかける視線を送るラダに、ねねこは指でオーケーのサインを出した。
 『響』と『鳴』を引き寄せ、交差させることで餓者髑髏の腕による拳を受け止める。
 衝撃は激しいが、元々防御能力の低いラダにとって【棘】能力の付与はハマりがよい。更に言えば、カウンター&ヒール型の防衛はラダにとって最も適切といえた。
 ここでは『落ちない』ことは重要じゃない。HPというリソースを最大有効活用した上で最大火力をたたき込めるのだ。
「さて、こちらの番だな。――貪り喰らえ、『奈落』」
 ぽいっと投げた柄が金の冠へと変わり、ラダの頭上で浮かぶように回転する。
 キィンと高い音をならしたかと思うと、無数に開いた亜空間ゲートホールから夥しい量のコオロギの群れを召喚した。それも蝗害を呼ぶに相応しい黒と茶の色に染まったコオロギである。
「銃になるかと思ったら……なぜこんな性質に」
 若干だが戸惑っているラダが馬型のボディから精霊の翼を展開。羽ばたきをもって高く飛び上がると墓石と墓石の間をジグザグに走って高度をとる。
「使い心地が悪くはあるが、使いこなせと言われたからな。
 それにお前等は何でも食い尽くすのはお手の物だろう?」
 それを追いかけて伸びる餓者髑髏の腕。そこへ群がったコオロギの群れが死を喰らい細く脆く崩していく。
 幻介はその根元から走り出した。
「走れ、『響命』!」
 呼び出したのは少女の形をした刀。響命は幻介とリンクしたかのように全く同じ動きで腕の柱を駆け上がる。
 餓者髑髏の腕は自らの腕から更に腕を伸ばすことで延長をつづけ、まるで太く長い綱のようにラダを追いかける。
 その上を走る幻介たちは、半分に折った卒塔婆をそれぞれ握って突き立て、そして切り裂いて進む。
 『刀』に定義された木の板が、死の概念をも切り裂いていったのだ。
 餓者髑髏という存在を知らされてからずいぶんたつ。今戦っているこれが『本物』なのかは、正直にいって分からない。
 なぜなら、死に嘘も本当もないからだ。
 現実に死体がなくても人は死ぬし、心臓が動いたまま人として死ぬこともある。
 はるか昔に亡くなったはずなのに誰かの心に生き続ける人間もいれば、忘れ去られたことで本当に死んでしまった誰かもいる。
 そして人間社会に死があり続ける限り、『餓者髑髏』も生まれ続けるだろう。
 なぜならこれは、死そのものなのだから。
「だからなんだ」
 幻介は呟いた。
「死そのものが何だ、こちとら神さえも置き去りにする神殺しだ。だったらその死さえも追い付けねえ速度で駆け抜けてやる!」
 加速。と呼ぶべきか疑わしい。
 幻介が歯を食いしばったその時には餓者髑髏の腕は先端まで切り裂かれ、そして地平の彼方まであった餓者髑髏の腕がみな一斉にスパンと斜めに切断されたのだ。
 あまりのことに、足場にしていた腕まで消えて転落する幻介。
 ターンしたラダがキャッチしなければそのまま地面に激突していただろう。
 そんな中で、ラダはふと地平の先を見た。
 墓地であったはずの風景が崩れ、そして淡い光りになって空へのぼるのが見えた。
「概念が、崩れていく」
 ラダのつぶやきを最後に、イレギュラーズたちはフッとその場から消えた。

 気付けば、公園に立っていた。
 ゲートはもうない。
 石碑の痕跡すら、もはやなくなっていた。

成否

成功

MVP

三國・誠司(p3p008563)
一般人

状態異常

なし

あとがき

 ――クエスト完了

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