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シナリオ詳細

<Noise>再現性東京1999:再現性終末シンドローム

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界の終わりに
 再現性東京・1999街。
 永遠の世紀末の街。
 永遠に訪れぬ『破滅』を目前にし、それを笑い飛ばしながらも、どこか破滅を待ち望む。そんな混沌と諦観のるつぼ。
 破滅とは、『恐怖の大王』のことである。それは、大昔に存在した、ノストラダムスなる男の戯言。1999年七の月に訪れるという、破滅の先触れ。
 1999年当時の日本は、空前のノストラダムスブームであり、1999年に世界が破滅するのだと、誰もが『心の何処かで期待』していた。もちろん、本当に破滅するなんてことは信じておらず、何か大きなイベントが起こり、世界の変革が起こるのではないかと、無邪気に期待していたのだ。
 ――さて。永遠の1999年の街のモラトリアムにも、しかし異変が起こる。
 まず、空が消えた。空――つまり、練達の天井が、その空の投影を止めたのだ。練達とは、いわばドーム都市であり、再現性東京がいくら東京を謳っていようとも、その実態は練達と言う国土の庇護下にある。故に、練達と言う国家の異常には、必然、逆らうことなどは出来ない。
 空が消え、太陽がブレ、でたらめになった気象が、十月の空に雪と雷を落とす。昼と夜が逆転し、時間の感覚が壊れ、世界がおかしくなっていく。
「ついに来たんだ」
 と、誰かが言った。
「恐怖の大王が」
 誰かが呟いたそれは、当時のネットワーク――口コミであったり、普及し始めたポケベルやケータイメールなど――で即座に伝播していった。新聞とゴシップ記事が世界の破滅を煽り、住民たちは絶望を・期待を・恐怖を・好奇を・世界へと向け始めた。
 街の各地では、世界の終末を目論む者、回避を目論む者達での衝突が起こり、警察が日夜その鎮圧に追われている。サカモト刑事。アデプト・トーキョー・1999街ポリスステーションに所属する『警察官』である彼も、警部と言う立場ながら、そう言った暴動の鎮圧に追われている。
「アカシ、これで何件目だ!」
「いやぁ、もう正直数えてないっす!」
 護送されていく暴動者が、警察車両にのせられていく。それを横目で見ながら、サカモト刑事はアカシ刑事に問うた。
「連日連夜っすよ。元々こういう、終末主義者? の暴動はありましたけど、ここ最近はもう……」
 空を見上げる。時計は午後12時を指していたが、頂点に達しているはずの太陽は存在しない。空は夜よりも暗い黒に彩られ、終末の気配が満ちている。
「これじゃあ、連中も気がせくってもんか。なにが『恐怖の大王』来る、だバカバカしい。そんなもん、本当に来るわけが――」
 サカモト刑事がそう言った瞬間、あちこちで声が上がった。大捕り物を野次馬していた民衆が、一様に空を見上げる。
 サカモト刑事も、引き寄せられるように空を見た。
 空に、闇があった。深い闇である。闇、黒とは、光を吸収する。とある黒の塗料などは、光の99.9%をも吸収し、色ではなく洞のように見えるというが、まさにそう言った現象を想起させた。宙に空いた洞、闇はゆっくりと空から降ってくる。
「来たり」
 と、闇は言った。
「諸人よ、汝らの願いを受け、我は来たり。
 我は大王。恐怖の大王。
 アンゴルモアの大王をよみがえらせ、マルスの前後に支配をもたらそう。
 汝らの望みのままに。汝らの願いのままに」
 それは、直接脳内に叩き込まれたかのような異質な声であった。
「マジかよ」
 サカモト刑事があんぐりと口を開ける。あちこちから悲鳴が・歓声が・喜びが、絶望が、響き渡る。無数の人々の声。待ち望まれながら忌避された破滅の具現。恐怖の大王が、ゆっくりと、降ってくる。
「あ、あいつ! トーキョー大電波塔に!」
 闇はゆっくりと、トーキョーのシンボルでもあるトーキョー大電波塔へ降り立った。その展望室を包み込むと、そこから上下に向って、塔を飲み込むように、闇を広げていき――瞬く間に、一筋の巨大な闇の柱へと生まれ変わった。

●再現性終末シンドローム
「ローレットのイレギュラーズだな?」
 と、トーキョー大電波塔――今は巨大な闇の柱と化したその足元に、イレギュラーズ達はいた。イレギュラーズ達を迎えたのは、サカモト刑事である。
「みての通りだ。面倒なことになった。
 1999街は、ノストラダムスの予言集って言う、大昔に死んだおっさんの詩集が流行っていてな。それによると、1999年の7月に、恐怖の大王ってのが来て、世界がどうにかなっちまうらしい」
 サカモト刑事の言によれば、この予言は、1999年の日本の世相――バブルの崩壊や、各紛争・戦争、そして地球環境の破壊など――を踏まえ、『驕った人類へのしっぺ返し』があるに違いないと、ある種奇妙な信仰のようなものとして人々の心に根付いていたらしい。
 もちろん、本気で信じていたものが多いわけではないが、少なくとも、1999年に何かが起こると期待や不安を抱いていたものが多いのも事実だ。そして、1999街は、そんな世紀末の東京の再現であり、必然、ここに住まう人間も、そう言った不安を楽しみながら日々を生きている。
「で、昨今の外の……練達の方でのシステム不具合で、こっちにも影響が出ちまった。空のスクリーンは空を映さなくなったし、ライフラインも不安定だ。そうなると、不安ってのは強くなる。本当に、世界が終わるんじゃねぇか、って思っちまう奴も出る……したら、これだ」
 サカモト刑事の言う事には、『恐怖の大王』を自称する何かが突如現れ、トーキョー大電波塔を占拠。この通り、闇の柱へと変えてしまったのだという。
「外からの観測も手伝ってもらっての結論だが、これは2010街なんかでよく見るって言う、『夜妖』と同等の存在らしい。
 確かに、1999街にも、そう言う『怪人』みたいな奴は出てきた……それも、夜妖と源流を同じくするものなんだろう。
 とにかく、これは……なんだ、この街の、破滅を望む集合的無意識を媒介に……ええい、わからん。とにかく、住民が信じてた気持ちを餌に、ああいうふうに姿を現したって事だ」
 サカモト刑事は煙草を取り出すと、火をつけて、煙を吸い込む。ふぅ、と煙とため息を吐き出すと、
「こうなると、俺たちの手には負えん。そこで、アンタらの出番ってわけだ」
 サカモト刑事は、トーキョー大電波塔内部の地図を差し出すと、イレギュラーズ達へ手渡した。
「内部がどうなってるかわからんが、変わってないようならそのままだ。エレベーターを使って……まぁ、階段使ってくれても構わんが、とにかく最上階の展望室へ向かってくれ。恐怖の大王は、そこに降りた。たぶん、そこで戦う事になる。
 恐怖の大王を倒せなければ、間違いなくこの1999街は破滅だ。外の学者の言う事には、住民たちの不安と期待が減資なら、住民が皆殺しになれば恐怖の大王も自身を維持できないだろうって話だから、この街が消えても外がどうにかなっちまうことは無いだろう。
 だが、この街の人間も結構な数が生きてるんでな、出来れば全滅ってのは避けてくれ」
 サカモト刑事は、そう言うと、ゆっくりと頭を下げた。
「俺たちの不始末を押し付ける形になっちまうが、後を頼む」
 その言葉を受けながら、イレギュラーズ達は闇の柱へと突入する――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ここよりは終末。
 再現された終わりの時へようこそ。

●成功条件
 1999街を救う

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 昨今のR.O.Oに端を発したマザーの異常により、都市維持システムに影響の出始めた練達。
 当然、その練達の一部である再現性都市にも、その影響は起きています。
 1999街では、その影響の結果、人々の不安の心を糧として、『恐怖の大王』が顕現。トーキョー大電波塔を飲み込み、何かを行おうとしています。
 このままでは、少なくともこの1999街は消滅することが予測されます。これを見過ごすわけにはいきません。
 皆さんは、この『トーキョー大電波塔』改め『闇の柱』へと突入。展望室へと向かい、『恐怖の大王』を撃破してください。
 作戦決行タイミングは昼。内部は広く、なぜか明かりは存在するものとします。

●エネミーデータ
 現時点で発覚している情報です。

 虚神・恐怖の大王 ×1
  現れた『恐怖の大王』です。内部にいるのは、すべての光を飲み込む闇を纏った、黒い人影です。
  下記の、四つの像が存在する展望台の中央にて何かを行っているようです。速やかに討伐してください。
  EXAが高く、稀に『1ターンだけ自分に『物無』を付与する』スキル等も使ってきます。(使用頻度は高くはありません)。
  神秘属性の攻撃を主に行ってきます。『毒系列』『窒息系列』のBSにご注意ください。

 白の騎士の像 ×1
 赤の騎士の像 ×1
 黒の騎士の像 ×1
 青の騎士の像 ×1
  展望台の、東西南北に設置された謎の像です。
  動かず、自ら攻撃は行いませんが、破壊しようとするのを察知すると、反撃の神秘属性攻撃を行ってきます。
  白の騎士は、『毒系列』を、
  赤の騎士は、『火炎系列』を、
  黒の騎士は、『足止系列』を、
  青の騎士は、『不吉系列』を、
  それぞれ付与するBS攻撃も行ってきます。

 偽神・アンゴルモアの大王 ×1……?
  予言集を信じるならば、恐怖の大王はアンゴルモアの大王を復活させる存在との事です。
  ならば、この大王も発生する可能性があります。現在の恐怖の大王の活動が、アンゴルモアの大王を復活(正確には、夜妖として誕生)させるためだとするならば、それを阻止することが出来れば、発生することなく、戦う必要もなくなるでしょう。
  性能は不明です。『火炎系列』や『不吉系列』などのBSや、『呪殺』を持つ攻撃などを行ってきそうです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <Noise>再現性東京1999:再現性終末シンドローム完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月29日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
黄野(p3p009183)
ダメキリン
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
すみれ(p3p009752)
薄紫の花香
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

リプレイ

●やみのはしら
 イレギュラーズ達は、トーキョー大電波塔、いや、今や闇の柱と化した構築物を臨む。
 光のほとんどを飲み込むその黒は、世界に空いた巨大な穴のようでもある。意を決してその闇に触れれば、柔らかな布に触れたような奇妙な感覚ととともに、つぷ、と内部へと沈んでいくのを覚えた。
 刹那の間に、気づけば大電波塔の中に侵入していることに気づいた。内部は事前情報から得られた地図の通りである。展望台がどうなっているかはわからないが、少なくとも入り口近辺のエリアは、変質はしていないらしい。
「電気もまだ通ってるのね? ……でも、普段通りに見えるだけ、人がいないのはちょっと不気味かも……」
 『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が言う。人が消えた人工物と言うのは、こうも違和感を覚えさせるものなのだろうか。本来は1999街のシンボルとして親しまれていたであろう電波塔には、今は誰もいない。
「……恐怖の大王って言うのをやっつけないと、この街自体がこうなっちゃうかもしれないのね? うん、わたしも頑張らなきゃ!」
 一つの街が消えるかもしれない、という責任の重さを感じながら、キルシェは頷く。
「でも、その大王も、人々の、破滅への不安と期待が生み出したものなのですね」
 『陽色に沈む』金枝 繁茂(p3p008917)が静かに言った。
「可哀そうな事だとは思います……でも、いつもの明日が来ることを祈ったり、今も励まし合ったりして生きている人たちもいるはずです。
 破滅への不安と期待が敵の力となるのなら、明日への希望と祈りで敵を撃ち砕きましょう」
 繁茂の言葉に、仲間達は頷く。その言葉通り、この敵が、人の不安や、無意識下に持つ現状変革の願い……破滅への願望を糧として成立するのであれば、確かに、対立すべきは希望であろうか。
「でもさ、みんながみんな、本当に破滅を望んでるわけじゃないんだよな。
 なんとなく、変わったことが起きて欲しいってだけで……死んだりしたいわけじゃないんだ。俺も死にたくないしな」
 『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が声をあげる。破滅への願望が、と言ったが、もちろん、すべての人間が、真に破滅を望んでいるわけではないだろう。何となく、日常ではない、非日常を楽しみたい。そんな無邪気な願いが、破滅と言う一大イベントをどこか望むように感じてしまう。此処はそんな都市なのだ。
「えーっと、エレベーターか、階段か、って言ってたな」
 展望台に向かうには、二つのルートがある。エレベーターと、階段。どちらで行っても、イレギュラーズ達の身体能力なら、さほど時間は変わるまい。
「電気が死んでない、って事は、エレベーターも生きてるんだな。
 ……あー、でも俺は、階段使わせてもらうよ。なんっていうか、鳥かごより息苦しいよ、あの狭い箱」
 苦笑するカイトに、『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)はnyahaha、と笑った。
「では、私も階段を往こう。私は巨躯故」
「おっ、アンタが来てくれるなら、仮になんかあっても安心だな」
 カイトの言葉に、オラボナは頷いた。
「敢えての分割移動と言う事も考えられよう。貴様等も好きにすると良い」
「じゃ、各々好きな方で移動、と言う事で良いですか?」
 『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、巨大なテーブルナイフ(ウィズィの武器だ)を肩に担いで、にっ、と笑った。
「各員、現地で会いましょう。
 さーて、ちょっと神斬ってきますかぁ」
 軽口をたたくように、ウィズィは笑う。仲間達は頷き、上層への移動を開始した。

 エレベーターからは外の景色が見えるようになっていて、鉄塔風に作られた電波塔の内側から、1999街を見下ろせるようになっている。闇のヴェールを透かして見る形にはなってしまうが、それでも暗闇の中に灯る人工の明かりは、なるほど、美しく見える。
「わあ、どんどん上がって建物が小さく……凄いねえ」
 『四季の奏者』鳶島 津々流(p3p000141)が言った。眼下に広がる建物はおもちゃのように小さい。
「観光で来れればよかったのにねえ。
 ……ううん、この戦いが無事に終われば、観光で来ることもできるよね」
 津々流の言う通りだ。この戦いに勝ち残れば、この街は明日も存続できるだろう。
「それにしても、ええと……のす、とら、だむす……って人の予言は、とても影響が大きかったみたいだねえ。
 みんながそれについて考えて、みんなの不安が重なって、こうやって本当に恐怖の大王が現れてしまったんだもの」
「不思議ですね。……でも、混沌世界も、神託の滅びの予言があったりしますし。
 元々の世界の、この時代の人達にとっては、ノストラダムスの予言が、わたしたちにとっての神託の予言みたいなものだったのかもしれないですね」
 柊木 涼花(p3p010038)がそう言う。この時代のこの都市の人々にとっては、破滅とはある種のイベントのようなものだったのかもしれない。平和ボケと言われてしまえばそれまでだが、しかしその独特の空気は、ある種の混沌とした魅力を伴ってはいる。
「……なんにしても、このままではこの街が滅んでしまうことは間違いありません。
 滅びの予言なんて、わたしたちで防ぎましょう!
 ……この街の音楽を楽しむためにも、です」
 涼花が言う。音楽や景観、そういった文化的な面から見ても、再現性都市群は貴重なものだ。その中の一つを滅ぼせば、ある世界に根付いていた文化の再現が消滅することになる。それは、別の世界で生まれた人々が、この世界で生きた証の喪失でもあり、街の消滅などは、絶対に差せるわけにはいかないのだ。
「……そろそろだね。みんな、気を付けて」
 津々流の言葉に、エレベーターに乗っていた者たちが頷く。途中で降りて、階段組と合流した『愉快な麒麟』黄野(p3p009183)を除くエレベーター移動組は、人の立ち入れる最上階にあたる展望室への到着を、そのデジタルの数字で示していた。ちん、という音がなって、全身にわずかな重力を感じる。籠が止まる。扉が開く。
 刹那、イレギュラーズ達を包んだのは、闇、だった。すぐ隣すらも見渡せぬような闇が、一瞬、自分たちを包んだかと思うと、さらに次の瞬間には、イレギュラーズ達は見たことのない広い部屋の中にいた。
 展望室、なのだろう。だが、その光景は事前に調べていた地図のそれとはまったく異なる景色だ。展望室には様々な設備がなどが本来あるはずだが、その全てが何もない、まったいらな空間になっている。と言うか、先ほどまで乗っていたはずのエレベーターすら、気づけば消滅し、イレギュラーズ達はその部屋に真ん中に立ち尽くしていることに気づく。
「……なるほど、敵の中に飲まれた、って感じですね」
 ウィズィが言う。その言葉通り、敵の生み出した異界のようなところえ取り込まれたのだろう。
「……す、すごく、こわいかんじがするのです……。
 何もかもが、ここで終わってしまうような……とても、ふあんになるのです……」
 『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が、怯えた様子で言った。
「然り。これこそが諸人の心の裡なり」
 声が聞こえた。脳に直接語り掛けるような奇妙な声。イレギュラーズ達が身構えると、目の前に真っ暗な人影がただ在った。
「恐れるか? 滅びを。怖れるか? 終わりを。
 されど、諸人こそが我を呼ぶ」
「……みんなのこわい、ってきもちが、恐怖の大王様をよんだ。それは、お聞きしているのです」
 ニルが言う。少しだけ、身体が震えた。目の前にいるのは、人々の恐怖の具現だ。だが、ニルは目をそらさず、この時強く、大王を……虚妄の神を見据える。
「だから、そのこわいってきもちを、何とかするためにニルはきました。
 ……みんなの気持ちで何かができるのなら、それはあったかくて、おいしい、って言う気持の方がいいはずです」
「そうですね。チープな恐怖像が、おこがましいというものでしょう」
 『しろきはなよめ』すみれ(p3p009752)が静かに言う。
「虚神、ですか。
 信仰されてこその神ゆえ、そう名乗るのは分かるのですが……。
 大人しく佇み人語で動機まで呟くとは、随分と親しみやすい恐怖ですねえ」
 すみれは静かに続ける。
「そんな輩の齎すチープな終末など、我々が砕いて差し上げます。
 虚妄なる神よ、あなたの顕現する場など、この世界には存在しません」
「おおっと、少し遅れてしまったかの?」
 黄野の声が聞こえた。同時、闇の中より、階段を上ってきたメンバーの姿が現れて、エレベーター組に合流する。
「途中から闇に飲まれてどうなる事かと思ったが……なるほど、結局はここにたどり着くわけか。
 さて、おぬしが恐怖の大王か。
 2000年続いた人の時代の終わり、世界を滅ぼす恐怖の大王。
 そして降臨する暗御留燃阿なる正体不明の王者。
 ……ほおん、面白いのう。まっこと面白い!
 こんなどりーむまっち、応えねば泰平の獣の名が廃るというもんじゃ!
 来ませりは滅びの預言、相手にとって不足なし!」
 魔刀を抜き放ち、黄野は笑う。
「滅び来たりし時、それを打ち砕くものが現れる。それを望む矛盾もまた人の意識なり」
 闇がうごめく。周囲の闇が、虚神に集まりて、それは密度を増した。同時、足元に見たことのない様式の魔法陣が生み出され、それを描く赤い光が輝くと、東西南北にそれぞれ騎乗した騎士をモチーフとした像が存在することに気づく。
「騎士像……? どうしてこんな所に?
 何か強烈な違和感を覚えます。皆さん、気を付けてください……」
 繁茂の言葉に応じるかのように、虚神は呪文を詠唱するように声をあげた。
「終末を告げる四つの騎士よ、我が闇を湛えよ」
 ずう、と音を立てて、虚神の身体を構成する闇が……人々の恐怖が、像へと注がれている。
「なるほど! これが虚神の行っている儀式って奴か!」
 カイトが叫ぶ。
「見た目通り……さて、これは闇をため込んでいるのか、或いは浄化しているのか……?
 私としては、破壊を提言します」
 繁茂の言葉通り。果たしてこの騎士達は、闇を吸収しているのか。それとも、浄化しているのか?
「nyahahaha――黙示録の四騎士を気取るか。人の想像より創造されたものらしい。随分と想像力豊かな人間どもだ。
 成程、症候群と記すのが相応しく、終末の在り方には親しみが涌く。
 何もかも私と同じではないか、破滅への集合性無意識……。
 媒介とした枝分かれはひどく醜いものだ、Nyahaha!!!」
「つまり……あの像は壊していい奴だな!?」
 カイトの言葉に、オラボナは頷く。
「然り。地獄の蓋を開けたくなければ、早々に壊してやるのが良いだろう。
 さて、破滅の大王よ――真逆、王が邪神を無碍出来まい」
「異界の恐怖よ、汝の存在に敬意を表そう」
 虚神が嘯く。ず、と音を立てて、虚神がゆっくりと手をあげた。闇が集積して、巨大な洞が生まれる。
「来るぞ。構えよ」
 オラボナの言葉に、
「すみれさん! 始まる前に、念のため保護結界をはっておこう!」
 キルシェが言うのへ、すみれはゆっくりと頷いた。
「ええ、承りました」
 二人の展開した保護結界が周囲を包む。同時、闇は強大な圧力となって、イレギュラーズ達へと振り下ろされた。

●恐怖の大王
 強烈な圧力が、辺りを叩きのめした。攻撃から素早く飛びずさって逃げたイレギュラーズ達だったが、その威力に慄然とする。
 まともに受けては、とんでもないダメージを受ける羽目になるだろう。保護結界により周囲が破壊されるようなことはなかったが、もしここが異界ではなく展望室であったら……と嫌な想像が浮かぶ。
「作戦は!」
 ウィズィが叫ぶのへ、涼花が答えた。
「虚神を抑えつつ、騎士像の破壊を優先しましょう! たぶんですけれど、あれは在ってはいけないものです!」
 SInG-AS Voyager、アコースティックギターを構え、弦をかき鳴らす。涼花の歌う詩が、破壊を肯定する黙示録の力となる。
「黙示録の四騎士でしたっけ? こっちのナンバーは魔神黙示録です! 負けませんよ!」
「さらに俺の星も輝くぜ! 不安打の恐怖だのは、俺達でぶっ飛ばす!」
 カイトが声をあげて、その翼を広げる。同時、夜天明星、星々の力が仲間達に降り注ぎ、その背中を押す。
「了解! さあ、Step on it!! さっさと終わらせましょう!」
 ウィズィが駆けだす。青の色をした騎士像へと向けて。
「石像なだけに固そうですが……私の攻撃の前では無力です!」
 振るわれる、巨大なテーブルナイフ! 本来なら一撃で粉砕されるであろう石像は、しかし、まるで何かの障壁が守っているかのように、その攻撃を受け止めて見せた。途端、石像の目が輝き、不吉な突風がウィズィ目がけて駆け抜ける。湿ったような、腐ったようなにおいに、ウィズィは顔をしかめた。
「ちっ……ですが! 私の抵抗力を抜けると思うな!」
 再度振るわれる斬撃が、障壁と接触してバチバチと火花を散らす。その間にも、まるですべてを疫病の内に沈めるかのような不吉な病風が、辺りに吹き出された。
「病の風、だね。でも、その風でも、僕の桜吹雪を散らすことはできないよ」
 穏やかに笑う津々流が、舞扇を緩やかに振るう。途端、巻き起こる霊力が桜の花となって周囲を舞い、嵐のような風と共に騎士像へと舞い踊る。
 対抗するように病風を吐き出す青の騎士像。が、その不吉の風を上書きするかのような勢いで、桜舞は踊り続ける。
 やがて青の騎士像を覆いつくすみたいに、桜吹雪は優しく吹き荒れた。障壁と桜の花びらが衝突して、じりじりと音をあげる中、ついにその障壁がはじけてきえる。吹き荒れる桜吹雪が青の騎士像を飲み込み、ばき、ばきとあちこちに日々を這わせ、刹那、内部にため込んでいた不安のような闇が、断末魔の悲鳴のように放出された。
「……! 魔法陣の光が、弱まったような気がします!」
 周囲を観察していた涼花が言う。この現象を素直に受け止めるなら、騎士像を破壊することで、内部にため込んでいた闇が放出され、魔法陣へのエネルギー供給が絶たれる、と見える。
「本来魔法陣とは、呼び出した魔より身を守るためのもの。
 ですが、近年は、魔法陣より魔を呼び出すもの、としても描かれます。
 さて……人々の想像より産まれしこの儀式、この魔法陣はどちらでしょうね?」
 すみれが小首をかしげた。つまり、パターンは二つ。この魔法陣で大王を呼び出している。あるいは、この魔法陣で大王を封印している。
「でも、このきしさまの像……こわい、かんじがします……!」
 ニルが言った。確かに、封魔の神聖さのようなものはイレギュラーズ達にも感じられない。むしろ逆の、何か悍ましいものを感じる。
「かまわねぇ、ぶっ壊そう!」
 カイトが叫ぶ。虚神を引き付け、ぎりぎりで攻撃を回避する。
「なんとかの大王が呼び出されるかもってんだろ!? いいさ!
 これで壊して封印できるならそれでよし! ダメでも、俺達でやっつければいいんだ!」
「――ハッ! その通りじゃな! なぁに、オレ達ならやれるだろうよ!」
 黄野は笑いつつ、白の騎士へと向けて駆ける。一気に飛び上がると、魔刀の斬撃。振り下ろす刃。障壁がばりばりと音を立てて、刃を受け止める。楽し気に黄野は笑みを浮かべた。
「何より、深く考えている暇もあるまい! ほれ、ニル! おぬしも続け!」
「は、はい!」
 黄野が飛びずさった刹那、ニルの放つ冷気の嵐が白の騎士像を襲う。ダイヤモンドダストの凍気が障壁を撃ち貫き、騎士像を瞬く間に凍り付かせた。
「こわいのは、ニルがやっつけるのです!」
 ニルが声をあげると、ダイヤモンドダストが激しさを増す。がりがりと凍り付いた騎士像が、まるでガラスが砕けるようにばらばらとなった。邪悪な闇がその内より吹きあがり、中央の魔法陣が輝きを曇らせる。
「諸人よ、汝らの力を認めよう」
 虚神が言う。
「されど、我が恐慌の闇を消すことはかなわぬ」
「素直にこう言ったらどうだ? 予想外に追い込まれてビビってます、ってな!」
 カイトが叫び、その翼を広げた。
「破滅願望の夜妖相手、破滅と狂気の夢が効くかどうか勝負だ!
 なーに、ちょっと深い深い、朱い夢に堕ちるだけだ。破滅の先に飛び続ける、啄み喰らう赤い鳥の永遠の夢をな……!」
 そのまま一気に、虚神へ向けて突撃! カイトの手が虚神へと触れると同時、その闇の内部に朱い夢の片鱗が浮かび、鈍く輝く。
「ほう、これなる悪夢は――」
「オラボナ、抑えるぞ!」
「Nyahahahahaha――」
 カイトの言葉に、オラボナはその『視線』を交差させる。恐怖と恐怖。虚神と邪神。混ざり合う闇。混濁する世界。
「良かろう、異界の邪神よ」
 バチバチと音を立てながら、虚神がその手をかざす。闇は巨大な手となり、すべてを飲み込むかのような虚がオラボナへと迫る。
「闇に飲まれるがいい」
 叩きつけられる、闇! オラボナの身体を、強烈な圧力が叩く! オラボナの脳髄を駆け回る恐怖はさながら物理的な衝撃となって、オラボナの身体を駆けずり回る!
「Nyahahaha――だが、その程度の恐怖が私の意識を刈れると思うな」
 しかしオラボナは、圧倒的な恐怖の集合体を前に、それに劣らぬほどの恐怖と畏怖を持ってたちはだかる。
 それは宇宙的恐怖。暗黒の神話。恐怖の大王とはまた異なる形の恐怖の化身。
「故に、我らは同一。されど別個。教えてやろう。本当に、どうしようもないほどの恐怖と言うものを」
 恐怖は笑う。
 そして、戦いは佳境へと向かう。

●大王たちの夜
 イレギュラーズ達と、虚神・恐怖の大王との闘いは続いた。虚神の戦闘能力は高い。それを抑えるカイト、オラボナ、黄野、そして全体の支援を担っている涼花とキルシェの負担と疲労の色は濃い。一方、周りの騎士像を破壊するために動いていたイレギュラーズ達だが、いくら動かないとはいえ、敵の反撃の威力は高く、こちらの破壊も一筋縄ではいかない。徐々にダメージを重ね、イレギュラーズ達は疲弊していった。
 だが、青の騎士像、そして白の騎士像を破壊できたイレギュラーズ達は、決死の攻撃を敢行――。
「申し訳ないが不安要素は取り除かせてもらいます」
 放たれた繁茂の精神の弾丸の一撃が、赤の騎士像を粉砕する。闇が解放され、また一段と魔法陣の赤の光が弱くなる。
「残るは、一つ――」
 繁茂が再度放つ精神の弾丸が、残る黒の騎士像に突き刺さる。反発するように障壁が弾丸を抑え、火花を散らして闇に光を放った。
「ここまで来て足を止めるわけにはいきません。一息に押し込みましょう」
「承りました」
 すみれが優雅に跳躍(ステップ)、軽やかに騎士像の前に躍り出ると、その手を緩やかにかざすや、途端、放たれた衝撃波が黒の騎士像を吹き飛ばす。闇の壁にたたきつけられた騎士像が、みしり、と音を立てる。同時、その像が黒いキューブに包まれ、握りつぶされるように圧力をくわえられた。
「こちらが本命。では、おさらばです」
 きゅ、とすみれがその手を握る。同時、キューブは伸縮し、その内部にありとあらゆる苦痛を叩きつける! 内部にいた騎士像が、生命でなかったことは幸いだろうか、その苦痛を感じることなく、破砕されるだけで済んだのだから。騎士像が粉々に砕け散り、闇が吹き出す。魔法陣が光を無くし、僅かな赤い光が、世界を照らすのみとなった。
「……これも人の子の願いか」
 虚神は、静かに声をあげた。
「真に破滅を望んだのは人。
 されどその破滅を回避せんと願うもまた人。
 破滅の願い我を齎し、
 救世の願いは汝らを齎した。
 矛盾せし願いを、なぜ人は同じ心の裡に併せ持つ?」
「そこが分からないから、あなたは虚神なのでしょうね」
 すみれが言った。
「さて、虚妄の神と言えど神は神。
 ここよりは神殺しと参りましょう」
 すみれが、その手をかざした。キューブが形成、虚神の右腕を包み込む! ばづん、と音を立てて、キューブに飲まれた虚神の部位がちぎれ飛ぶ!
 ダメージ……いや、自ら切り離した! 虚神はずる、と闇を滑るように駆けると、その手に刃を形成、一息で振りぬく!
 衝撃波が、イレギュラーズ達を切り裂いた! 激痛が走る同時、歌が、歌が、光を齎しその傷をいやす。
「わたしの役割は、皆を倒れさせない事。
 そのために、わたしはある」
 涼花はそのギターをかき鳴らし、黙示録の唄を奏でながら、そう言ってみせる。
「これしかできないなら、せめてこの身に代えても貫き通す。
 それが意地ってものでしょう?
 あなたにはわからないかもしれませんね、恐怖の大王様?」
 激しくかき鳴らされるギター! その寧に合わせて歌われる、キルシェの天使の歌声!
「……大きな王様って言うぐらいだから、すっごく大きいと思ったらそこまで大きくなかったわ……!
 あんまり大きいと天井で頭打つからかしら?
 黒さは……オラボナお姉さんとどっちが黒いかしら?
 うん! 恐怖の大王って言ってたけど、別に怖くないわ!!」
 自身も傷つきながら、にっこりと笑ってみせる。その声は、天使の歌声を奏でる事を止めない。
「ルシェが怖くないんだもの! みんなだって絶対そう!
 大王様、あなたなんかに、ルシェたちは……この街の人達は負けないわ!」
 歌が、二人の奏でる曲が、仲間達の背中を押す! 傷を癒し、萎えた腕に力を取り戻し、今一歩、歩み出す力と勇気をくれる!
「これが物語だ、恐怖の大王」
 オラボナが、言った。
「恐怖は常に、打倒されるのだ――足掻き、生きる人によって」
 オラボナの持つ闇が、恐怖の大王の闇を穿つ! 同時、繁茂の放つ精神の弾丸が、恐怖の大王の身体を貫いた!
「確かに大勢が破滅を望んだかもしれない、でもそれを実行するのはあなた(虚神)だ。
 ならその責任はあなた(虚神)のものであり、大勢の誰かのせいにするべきではない、だから。
 ――あなた(虚神)をここで撃ち砕きます。
 それが責任を背負うということです」
 ぼん、と音を立てて闇がはぜる。闇の人型が、闇の中へ消える――僅かな後に、闇は再び集まり、人の姿を取った。回復したのか? いや、以前のそれに比べて、その闇の持つプレッシャーは確実に弱い!
「ダメージは喰らっとるぞ!
 確実に弱まっておる!」
 黄野は叫び、一気に飛び込む。振るわれる斬撃! 闇が魔刀の放つ剣閃によって切り裂かれ、さながら光が闇を昇華するかのように見えた。
「悪いが人の世はこの後も続くのじゃ、それを人々自身が望もうと望まざるとな!
 驕ろうと驕らざると全ては久しからず、されど全く絶えることもないものじゃ。
 それを理解できぬ故に、お主は虚神なのじゃよ! 大人しく暗がりへと帰るがよい! 虚妄の内に生まれた存在できぬ神よ!」
 返す刀で、黄野が魔刀を振るう。が、その攻撃が闇に溶けてするりと手ごたえを失った。虚神の纏う闇が、この時、黄野の刀を無力化していた。黄野が叫ぶ。
「物理攻撃を無力化しおったぞ!」
「関係、ないね!」
 魔力を帯びた巨大なテーブルナイフが、神秘の力を纏って虚神を切り裂く!
「どっちもできるのが、私の戦い方の強みなんですよ! よーく覚えましたか?
 冥途の土産、って奴にしなさいな!」
 嵐のように吹き荒れるテーブルナイフの斬撃! 斬り飛ばされた虚神が距離を取り、周囲の闇を纏い身体を再構築する! だが、その威容は、力は、確実に弱まっている!
「花嵐の伏籠は、あなたの纏う闇すら吹き飛ばして見せるよ」
 津々流の放った桜吹雪が、虚神の再構築すら許さず、その周りの闇を吹き飛ばす! 光を吸収する絶黒の闇が、華やかな桜のそれへと上書きされるように飲み込まれていく。無数の桜の花が、闇に無数の穴をあけた。刹那に、闇は再び人型に戻る。その都度、確実に、闇はその勢いを消滅させていく。
「なぜ、だ」
 虚神が呻いた。
「なぜ、潰えない。何故、潰されない」
 なぜ、恐怖と不安に屈しないと。
 虚神は喘いだ。
 敵が恐怖と不安の顕現なら、イレギュラーズ達は希望と勇気の顕現だ! 如何な恐怖と不安にまみれたとて――勇気と希望が人の心にあるならば、その先に終わりは訪れない! それは、イレギュラーズ達が、この街を、この国を、この世界を救うという勇気と希望を捨てずに戦っているように――。
「そんなもので!」
 カイトが叫んだ。
「俺たちが、足を止めるか!」
 再び輝く、カイトの星。仲間達に、最後の一押しのための力を授ける暖かな光。希望の星。勇気の光。
「ニルたちは……ううん、この世界に生きる人たちは」
 ニルが言った。
「こわいものになんて、まけたりしないのですから!」
 希望の星の光が、ニルの背中を押した。かざしたニルの手か放たれる、神秘の力を乗せた一撃。それはおそらくは、心の一撃。勇気の一撃。放たれたそれが、闇を吹き飛ばす! 虚神を吹き飛ばす! 恐怖を、不安を! すべてを吹き飛ばす!
「なぜ……おお、なにゆえに……」
 虚神が、消えていく。その勇気の奔流に全てを吹き飛ばされ。言葉も切れ切れに、闇が光の彼方へと消えていく――。

●そして、いつもの日常に
 一つの闇もない、光に満たされた空間に、イレギュラーズがいた。
 闇は消し去られた。希望と、勇気と。明日を望む人々の声、その代弁者であるイレギュラーズ達の手によって。
 闇が作り出した異界、それが消える僅かな刹那の時間に、イレギュラーズ達はいた。
 イレギュラーズ達の目の間に、極小の、小さな闇のシミがあった。光の空間にわずか残った闇。その闇の中から、一つの眼がぎょろり、とこちらを除いているのに、イレギュラーズ達は気づいた。
「目覚めの時は今に非ずか」
 闇は言った。
「あなたが、偽神ですか」
 すみれが、言った。
「我はアンゴルモアの大王なり。人の夢の裡に眠りたる、破滅の化身なり。
 恐怖と不安の化身は、我を起こす事できず。
 我は眠り続けるものなり」
「結構です。そのままお眠り続けるとよろしいかと」
「アンゴルモアの大王さま、わたしたちは、あなたが起きる事を、望んだりはしないわ!」
 キルシェが言った。
「もし、起きたとしても……大王様も王様も、ルシェたちとめて見せるのだわ!
 人様に迷惑かけたらめっ! なんだから!!」
 叱るように言うキルシェに、偽神はまばたきを数度してみせた。
 笑っているかのようであった。
「それでよい。
 人々よ、よき新世紀を」
 偽神がそう言った刹那、光が爆発するみたいに広がって、闇のシミを消し飛ばした。そのまま、広がった光が一点に収束する――その光がぱっと消えた時、イレギュラーズ達は本来あるべき展望室にいた。ガラス張りの周囲から、闇のヴェールを通さない、綺麗な再現性東京、1999街の光景が見えた。
「終わった、ようですね」
 繁茂が言った。まるで戦いにつかれたイレギュラーズ達をねぎらうように、不調だった練達のドームパネルが光を取り戻し、真昼の太陽の映像が、1999街の闇を照らす。
「この光も、都市も、偽物であるけれど。
 この街に生まれた人の想いは本物であって……。
 その人の想いが、今回闇をよんだ、ってことか」
 カイトが言うのへ、オラボナはNyahaha、笑った。
「人がいる以上、それは生まれるものだ」
「なんにしても、これで終わり、ですね」
 はぁ、と涼花は座り込んだ。皆ひどく疲れていた。皆ひどく消耗していた。
「はー、流石にしんどかったですね! でも、ま、これでミッション完了って事で!」
 ウィズィが笑う。
「うむ! なかなか興味深い現場に居合わせることができたものじゃった!」
 黄野がケタケタと笑った。
「あ、皆、見て。下からライトで照らしてるよ」
 津々流がそう言うと、地上の警察車両から発せられたのだろう、サーチライトの光が展望室に飛び込んでくる。外からも、電波塔を包む闇は晴れたはずだ。下の人々も、気が気ではないに違いない。
「手をふったら、わかるでしょうか?
 だいじょうぶですよ、皆様」
 ニルがそう言って、地上に向かって手をふる。それが見えたのかどうかはわからないが、サーチライトはそれに応じるみたいに、左右に揺れて、イレギュラーズ達を探しているみたいだった。

 1999年を再現した街は、これからもそのようにあり続ける。
 世紀末への不安と期待。破滅への不安と期待。
 そう言ったものを、変わらず抱きながら……。
 それでも、勇気と希望を、その胸の何処かに抱くのだろう。
 勇者(イレギュラーズ)達が見せてくれた光を、その胸に抱いて、生きていくのだろう。
 それはきっと、とても素晴らしいものであるはずだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、再現性東京1999街は救われました。

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