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シナリオ詳細

化石掘りの災難。或いは、そこはかつて海だった…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●天秤の話
「やぁ、諸君。早速だが、諸君は化石というものをご存知かな?」
 砂の混じった渇いた風。
 それから、降り注ぐ陽光。
 砂漠のどこか、岩盤地帯に立つ彼は枯れ木のような老爺であった。
 緑の衣や身に付けたアクセサリーは、ひと目でそれが高価な品であることが分かる。
 白い顎髭を蓄え、どこか挑発的な笑みを浮かべるその立ち振る舞いやよく通る声、年齢に比してまっすぐ伸びた背筋なども含めて見れば、彼が一端以上の商人であると、ラサの民ならすぐに理解できるだろう。
「いや、知らずとも良い。この儂、パンタローネが軽く説明するのでな。化石とはつまり、大昔の生き物の遺骸や痕跡が地層中に埋もれたものを言う。限りなく石に近く変質したものもあれば、元の成分とほぼ同等のまま残っているものもあるが……今回、儂が欲しているのは前者の方だな」
 そういって老商人・パンタローネはよく磨かれた靴の踵で足下の地面をコツコツと蹴り飛ばした。
「信じられないかも知れないが、かつてここは海だった。海の底だったのが、この大地だ。当然、海の生き物たちの死骸は海底に沈み、微生物や他の生物によって解体される」
 しかし、と。
 どこかもったいぶった様子で、パンタローネはポケットから小石を1つ取り出した。
 小石には奇妙な模様……否、巻き貝の遺骸が埋まっているのが分かる。
「これはほんの一例だし、価値としてもそう高い物ではないが、しかし歴としたこの地で採取された化石である」
 価値の高い物ではない、とパンタローネはそう言った。
 しかしそれは、大商人であるパンタローネの基準での話だ。
 一般的な価値観からすれば、化石の値段は石1つに付けるには法外なものに違いない。
「特にここはな、周辺の環境も相まって化石の採取が難しい。そういう場所から算出された化石には、手間賃やレア度といった付加価値が付くのだよ」
 ちなみに、貝の化石は値段が安く、巨大なトカゲや幻獣の類は値段が高くなるらしい。
 素人には分からないが、化石となった生物自体にもレアリティがあるのだろう。
 ところが、と。
 笑顔を一変、わざとらしく曇らせてパンタローネは視線を右の方へとずらす。
 あれを、と彼が指さした先には岩壁に埋もれた状態で石化した男の姿があった。
 成人男性の化石……と言うわけでも無いのだろう。
 作業服やヘルメットなど、男の身に付けている装備品は近代のものだ。
「彼は私が雇った発掘調査員だ。ここで化石の発掘作業を行っていたのだが、ある時、ピタリと定期連絡が止んでしまってな。様子を見に人を寄越して見れば、ご覧の有様となっていたそうだ」
 パンタローネ曰く、岩壁に埋まった彼は既に死亡しているらしい。
 また、調査……検死の結果、生前に【重圧】【石化】の状態異常を受けていたことが確認されているという。
「ではなぜ、壁に埋まっているのか。よくよく壁を見てもらえば、幾らか彼の体と壁の間に隙間ができているのが分かるだろう?」
 隙間の位置や大きさから判断するに、元々そこに埋まっていた“何か”のサイズはおよそ2メートルほど。
 成人男性より、幾らか大きい程度の“何か”だ。
「彼はここで“何か”を掘り出し、そしてそれに襲われた……と儂はそう予想している。簡単な言い方に変えてしまえば、つまり、この採掘ポイントは非常に危険というわけだ」
 そして件の犯人……人かどうかも定かではないが……は未だ見つかっていない。
 ともすると、今この瞬間も、すぐ後ろで自分たちの様子を伺っているかもしれない。
 或いは、土竜か何かのように地中に潜ったり、鳥のように空高くへ舞う能力を持っているのかもしれない。
「儂は考えた。安全のため、採掘ポイントを1から探し直すか? それとも、彼を殺めた何かを探して安全を確保するか? または、気にせず採掘を続けるか? 金と命を天秤にかけて……ふと君たちのことを思い出したというわけだ」
 報酬は期待してくれたまえ。
 そういってパンタローネは、どこか暗い笑みを浮かべる。
 
●化石発掘調査隊結成
「掘るのです。とにかく、あちこちを」
 丁寧かつ迅速に。
 どっちもやらなきゃいけないのが化石掘りの辛い所なのです、と『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は玄人顔してそう言った。
 ユリーカに化石発掘の知識があるのかは不明だが、たぶんきっとノリと勢いで言っているだけだろう。
「パンタローネ氏が現地に脚を運んだ時、掘り起こされたはずの化石はどこにも無かったそうなのです」
 つまり、発掘調査員の彼を殺害した“何か”がそれを持ち去った可能性があるということだ。
 一体どういう目的で? となると、現状では情報が少なすぎて応えが出ない。
「皆さんにやってもらいたいことは、発掘作業および、それを妨害する“何か”の排除です」
 1つ、とユリーカは人差し指を立てて言う。
「パンタローネ氏も言っていたように、地中から掘り返された“何か”による襲撃の可能性」
 例えば、休眠状態にあった魔物。
 または、ゴーレムなどの魔術的な生物などがそれに当たる。
「それと2つめは、盗賊や別の採掘者による人為的犯行の可能性」
 その場合、襲撃犯は化石が高価なものであると知っているということになる。
「近くを通る商人や旅人なんかにコネクションがあったり、知られていたりすれば有力な情報を得られるかもしれないですね」
 そう言ってユリーカは、テーブルの上に重たい音をたて木箱を置いた。
 木箱の中にはツルハシやバールをはじめとした発掘に使う道具がぎっしり詰まっている。
「……ボクたちとしては未知の脅威の調査および討伐を優先したいのですが、依頼人の意向は違うようで」
 パンタローネ商人がイレギュラーズに求めているのは、自衛ができる発掘作業員としての役割ということだ。
 申し訳ないのですが、と。
 困ったような顔をして、ユリーカは参加者たちにツルハシを手渡していく。

GMコメント

●ミッション
化石の発掘および採掘現場の安全確保

●ターゲット
・石化能力を持つ何か
正体不明。
化石発掘調査員を襲い死亡させたなにか。
掘削した岩盤に、石化した調査員は埋め込まれた状態で発見された。
調査員が埋め込まれていたスペースに、元々こいつが埋まっていたのではないか、とパンタローネは予想している。
一方、ユリーカは盗賊や化石泥棒などが犯人ではないかと予想している。

詳細は不明ながら【重圧】【石化】を付与する攻撃手段を有している。


・パンタローネ
砂漠の国に拠点を持つ強欲な老商人。
ラサのとある地域で採掘された化石が高く売れることを知り、人を雇って採掘に乗り出した。
しかし、採掘のために使わせた人員が不審死。
彼は採掘および周辺の安全確保のためイレギュラーズへ依頼を出した。

※何をもって「安全を確保した」と判断するかは、イレギュラーズに委ねられている。

●フィールド
ラサ。
砂漠の真ん中にある岩盤地帯。
かつては海の底だったらしく、発掘作業により化石が採取できる。
天候は晴れ。
炎天下。
身を隠す場所は、発掘拠点として用意されたテントぐらいしか存在しない。
時折、近くを旅の商人や旅人、他の化石発掘員などが通りかかることがある。
トークスキルやラサでの名声如何によっては、有益な情報を得ることもできるだろう。
例えば敵の姿を知れれば不意打ちを受けづらくなるし、攻撃手段を知ることが出来れば回避もしやすくなる。
また、場合によっては潜伏場所を突き止めることも出来るかもしれない。


●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 化石掘りの災難。或いは、そこはかつて海だった…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
剣砕きの
レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
赤々靴
サンディ・カルタ(p3p000438)
横紙破り
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
夜に一条
エルス・ティーネ(p3p007325)
竜首狩り
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
狼殺し
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
ウルファ=ハウラ(p3p009914)
砂礫の風狼

リプレイ

●渇ききった海の底
 ラサ。
 砂漠のマーケット。
 じりじりと地面を焼く陽光に、行き交う人々の喧噪。
 その片隅につい今朝がた、急設されたテントがあった。
 一見してどこにでもあるラサの旅商人の野営テントだが、見る者が見ればその持ち主がある有名な武装商家の一員であると分かるだろう。

 薄暗いテントの中に数人の人影。
 ほのかに漂う生姜の香りは、各々の手元に置かれたカップからのものだろう。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は、カップの中身をひと口啜ると、ふぅ、と熱い吐息を零す。
「知っていればで構わない。化石、と言う商品について最近何か変わった事や、気になる事はなかったか?」
 向かい合う数人の商人の顔をラダは順に見つめて問うた。
「最近、それを売り捌いている者は? 市場価格はどれほどだろう? 何、妙なことじゃない。砂漠を生きる上で情報は命綱だからこれくらいはな」
 ラダの問いを受けた商人たちは顔を見合わせ、首を傾げた。
それから、チラとラダの背後に立つ女性へと視線を送る。褐色の肌に薄い布を纏った、妙に露出の多い女性だ。名を『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)という旅芸人である。
 にこり、と微笑むミルヴィは空いたカップに茶のお代わりを注いだ。
 スパイシーな香りの紅茶で唇を湿らせ、商人の1人が「そういえば」とある噂話を口にする。
「化石を掘りに行くって言ってた連中が、何者かに襲われて積荷を奪われたらしい……何だったかな。何でも、岩の化け物に襲われたとかって話だが」
 なんて。
 その一言を聞いた瞬間、ラダの瞳はほんの一瞬、細くなる。
「夜の暗い時間に襲われたらしくてな。岩の化け物の分際で、偉く知性のある動きをしてたってんで、こうして記憶に残っちまったや」
 
 ラダとミルヴィが市場で聞き込みをしている間、イレギュラーズのメンバーは岩盤地帯をうろついていた。
 依頼主であるパンタローネの言うように、辺りではよく化石が採れる。一攫千金を狙って、発掘作業に勤しむ者の姿も幾らか見受けられた。
「ところでパンタローネさんってココの評判ではどうっすか? 優しい人っす? 怖い人っす?」
そのうち1人に声をかけ『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)はそう問いかけた。
 パンタローネの依頼でこの地に来た者の、その強欲な性根に対して幾らかの不信感を抱いているのだろう。
「パンタローネについて知らないってんなら、発掘のコツとかでもいいぜ。さっきから見てるが、随分と根気と技術のいる作業なんだろ?」
 レッドに続き質問を投げた『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)は、注意深く作業員の手元へ視線を注いでいる。サンディとレッド、そしてサンディが連れている少年……モルダーの視線を受けた発掘者は、いかにも居心地の悪いといった顔をしていた。
「パンタローネさんか? どうだろうな。あの人はあまりここに来ないからよ……っと、そう言えば、あの人の使いで化石を掘ってた男、最近見かけねぇよな?」
「ん? 知らねぇの?」
「あの人は何かに襲われて、死んじゃったんっすよ。だから、代わりにボクたちがここに来たんっす」
 なんて。
 2人の言葉を聞いた男は、驚きに目を見開いた。
 パンタローネの手によってか、それとも別の事情があるのか、発掘員の不審な死はあまり知られてはいないらしい。

 風に踊る艶やかな髪をそっと押さえて、『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は自身の手元へ視線を落とした。
「遺跡で色んな光景は見てきたけれど、普通の石のような見た目だと言うのに凄いものがあったりするのね」
 彼女が手にしているのは小さな貝殻だ。
つい先ほど、『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)が音を頼りに発見し、掘り起したものである。
「化石……ミイラもどきじゃな」
「骨が石になったやつよね。そんなものを欲しがる人がいるものなのね……」
 なんて、エルスの手元を覗き込みウルファと『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)は言葉を交わす。
 ところで、とヴィリスは視線を背後へ向けて、『狼殺し』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)へ「ねぇ」と声をかけてみた。
 先ほどから、地面にしゃがみこんだまま、リコリスは何かしているのだ。ほんの数分前までは必死に地面を掘り起こしていたが、今はそれも止めている。
「んぁ? あぁに?」
 ヴィリスを振り返ったリコリスは、何かを喰っているようだ。
 もごもごと口を動かしているのだが、時折「じゃり、バキ、ペキ」と妙に硬質な音が聞こえるのはなぜだろう。
 まさか、とエルスは頬を引き攣らせて問うた。
「ねぇ、何を食べているの? ほら、ぺってして? ぺって」
「……貝」
 口の中ですっかりすりつぶされた化石を吐き出すと、リコリスは顔を顰めて、呟くようにこう言った。
「美味しいのかな、って思ったけど……石だよ」
 それはそう、と。
 リコリス以外の3人は、心をひとつにしたのであった。

●化石掘りの災難
 化石の流通、および不審死についての情報が少なすぎる。
 聞き込み調査を行った結果、ラダとサンディは共に同じ印象を抱いた。
「情報を操作している奴がいるってのが、俺とモルダーの見立てだ」
「化石を奪われたという者はいるが、命までは失っていない。件の石化した発掘員だが、何らかの理由があって命を奪われたと見るべきだろう」
「あと、化石ってとてもじゃないけど食べられたものではないよ! 食用に奪っていったんじゃないと思う!」
「……石っすからね。食べようと思ったのなんて、きっとリコリスさんだけっすよ」
 仮に石でなかったにしろ、あれは貝殻や骨である。
 広く見分を得ることは、レッドにとって望むところではあるが、それにしたってイレギュラーな事例であった。
「化石を喰らうか……石化させた死体が保存食というのはどうじゃ?」
「周囲を軽く見て回ったけど、魔物の類が移動した痕跡は残ってなかったわ。穴だらけではあるけれど、どれも人の手によって掘られたものだもの」
 ウルファ、ヴィリスもそれぞれの見解を口にした。
 顎に人差し指を添え、エルスは暫し思案する。
 状況証拠から見るに、化石を奪って回っているのは人だろう。
 そして、顔を見られるか、正体を突き止められるかしたことにより、件の発掘員は殺された。つまるところ口封じ。
「でも、岩の化け物に襲われたとか……」
 確かな知性と岩のような体を有する存在はいる。
 イレギュラーズの中にも、そのような特徴を備えた者がいたはずだ。
「まぁ、そこまで分かれば誘き出すことも出来るだろ」
 良い考えがある。
 そういってサンディは、仲間たちへ自身の策を伝えるのだった。

 日が暮れて、辺りが闇に包まれたころ。
 イレギュラーズの面々は、荷馬車に木箱を次々と詰め込んでいた。
 どこか周囲を警戒するような面持ちで、ラダやヴィリスはしきりに辺りを見回している。
 付近で発掘作業に従事していた男たちは、遠巻きにその様子を眺めながら疑問を抱いた。
 荷馬車を出発させるにしては、些か時間が遅すぎる。
 だが、しかし……視界の悪さを横に置いても夜間に移動する必要があるとすれば。
「急ぎ戻らなきゃいけない理由ができたってこったな。よぉ、その木箱にゃ何が詰まってんだい?」
 土に塗れた男が1人、サンディへと声をかけた。
 興味津々といった顔をしたその男は、始めにレッドとサンディが話しかけた作業員だ。
 彼の視線は、発掘現場の奥……大きな布で覆われている一角へと向いていた。
「ガリガリと穴を掘る音がしてるな。一緒にいた赤い髪の嬢ちゃんか?」
「あー……ま、そうだな。赤い外套の食いしん坊とセットで化石を掘ってんだ」
 発掘のコツなど聞いた手前、サンディは男の質問に答えない訳にはいかないのだろう。
 エルスやウルファのじっとりとした視線を背中に感じながら、誤魔化すように肩をすくめる。
「ここだけの話、夜通し掘ったら、明日の早朝には出立しようと思っててな。俺らが出て行った後なら、その辺りを好きに掘ってくれて構わないぜ」
「へぇ? そりゃ、随分な“掘り出し物”でもあったのかね」
 なんて。
 喜色の滲んだ男の声に相反し、その目はひどく冷めていた。

「さぁ、掘りましょう! ラサの発展に役立つものなら是非力になるわ!」
 夜も深まり、辺りが黒に染まる中、闇より黒い艶髪がばさりと風になびいて踊る。
 積まれた木箱の上に立っているエルスの視界では、発光しているサンディとモルダーが一心に地面を掘っていた。
 日中、発掘作業をしていたレッドやリコリスはテントの中で休憩中。
 残るメンバーは荷馬車を寝床に待機しているという状態だ。
 広くは知られていないとはいえ、人を石に変える何かがいる土地で、警戒心が薄すぎる。
 そう思いはするものの、明朝に予定されている移動のことを考えれば、全員で寝ずの番などしていられない。
 休める時に休む。
 不足の事態と確定された予定の実施に備えるためには、それが何より重要だ。
 加えて、エルスであれば多少の過酷な状況にも対応できるという目算もある。
 なんて……。
「全部、建前なんじゃがの……さぁて、本業を始めるかのぅ」
 そう言って。
 ウルファは馬車の屋根に立ち、世闇に紛れて迫る巨大な影へ向け、真空の刃を撃ち込んだ。

 星でも落ちたみたいな閃光。
 一拍遅れて、ドカン、と音が鳴り響く。
 攻撃と共にウルファが撒いた轟音と光は、仲間たちへと向けた“襲撃”の合図であった。
「ほぅ? 変わった術を使うのぅ? いや、しかし良かった。人相手の方がやりやすいからな!」
 ウルファの放った真空の刃は、それの体表を僅かに削って消え去った。
 岩の塊……否、岩石の鎧を身に纏った男は忌々しげに歯を食いしばり、ウルファへ視線を向けている。
「化石泥棒か。作業員たちの帰路を襲って、化石を横取りしておったのじゃろ?」
 嘲るようにそう言って、ウルファは馬車の後ろへ飛び降りる。
「ヴィリス!」
 姿を隠すのと同時に、ウルファは仲間の名を呼んだ。
 咄嗟に男は巨岩に覆われた腕を顔の前で交差する。防御の姿勢だ。岩など纏っているせいで、男の動きは酷く鈍重。また、視界を確保するためか、顔だけは露出しているようだ。
「えぇ、細かい作業はできないけれど……おおざっぱでいいなら任せてちょうだい!」
 直感的な行動とはいえ、男の選択は最善に近い。
 地面を這うようにヴィリスは男へと接近し、剣を備えた踵を膝へと突き立てた。
 1点に集中された衝撃が、男の膝を覆う岩を砕き割る。
「っ……嘘だろ」
 鉄壁とまではいかなくとも、かなりの強度があったはず。
 しかし、ヴィリスの蹴撃は岩の鎧を確かに砕いた。
 腕を交差した隙間から見下ろせば、なるほど彼女は男に張り付き、当たるが幸いとばかりに蹴りを連打しているのだ。
 1撃で砕けぬのなら、2、3と連撃を叩き込めばいい。
 流れるような、踊るような動作とは裏腹に、その攻撃は酷く粗暴なものである。

 ヴィリスへ向けて、男は拳を振り下ろす。
 巨大な槌による殴打にも似た一撃を、ヴィリスは咄嗟に回避した。
 感じる不気味な気配は、何らかの術によるものか。
 拳の掠めた脚先が、パキパキと音を立てて石へと変わっていくではないか。
 なるほど、発掘調査員を【石化】させたのはこれだろう。
 触れることが条件か、と判断したヴィリスは転がるように後ろへ下がる。
 しかし、そう離れないうちに脚の自由は失われ、彼女は仰向けに転倒した。
「まぁ、問題無いわね」
 脚が動かない程度、ヴィリスにとっては慣れたもの。
 追撃のために歩を進める男であったが、ピタリとその足が停止した。
 顔をしかめ、防御の姿勢を取ると同時に響く銃声。
 それから岩の砕け散る音。
「この状況、まるでミイラ盗りのミイラを盗りに来たミイラ盗りの……あれ?」
「ミイラが渋滞しているな。それより、敵の攻撃範囲から逃げつつ火力支援を。レッドはヴィリスの治療を頼む」
 額目がけて、ラダの放った弾丸は、直撃の前に防がれた。
 その隙に展開された無数のドローンは、小さな銃口を男へと向け一斉掃射を開始する。
 降り注ぐ弾丸の雨あられ。
 たまらず男は、うずくまるようにしてダメージの軽減を図る。
「退避! 退避っすー!」
 石化を始めたヴィリスの足をひっつかむと、レッドは素早く踵を返してかけ出した。

 赤い旗を大地に突き立て、レッドはひとつ大きく息を吸い込んだ。
 その小さな体の内から滲む淡い燐光は、旗をなびかせ次第に周囲へ拡散される。
 燐光を浴びたヴィリスは、先ほどまで石化していた脚をさすって安堵の吐息を零す。
 それを見て、レッドは満足そうに頷いた。
「これでよし……お次は荷馬車っすね」
 荷馬車に積まれた木箱の中身はほとんど空だ。
 あくまで化石泥棒を誘き出すためのダミーでしかない。
 しかし、幾らかは発掘した本物の化石も混じっており、依頼の達成にはそれを持ち帰る必要があった。
 リコリスが幾つか噛み砕いたが、現状、パンタローネに満足してもらえるだけの量は確保している。
「せっかく掘った物、壊れちゃったら嫌っす」
 旗を大きく頭上で振れば、空気を押しのけ淡い光の障壁が荷馬車の周囲を包み込む。

 弾丸の雨に晒されて、男はついに焦り始める。
 岩鎧の硬度を過信していたのであろう。
 事実、岩鎧を纏うことで彼は労せず大量の化石を奪取することに成功していた。
 より楽に、大きく儲かる仕事を。
 善性など、とっくの昔に投げ捨てている。
 善では腹が膨れない。美味い酒にもありつけない。
 つまるところ、男は怠惰で強欲だった。
 なるほどそれは、いかにも人間らしい感情ではないか。
「ちっ……始末できねぇなら、せめて化石だけでも」
 追い詰められたことにより、男はこの時、確かな成長を見せた。
 多少の痛みさえも嫌っていた彼は、ここに来て防御を捨てたのだ。

●大金に体を張れ
 体の痛みよりも、目先の大金を手に入れるため。
 大金のために体を張ると覚悟を決めて、重い体を引きずり彼は駆け出した。
 弾丸を浴びた肩の鎧が砕け散る。
 むしろ軽くなったと内心喜んだ。
 進路を塞ぐミルヴィへ、渾身の殴打を叩き込む。
「うぉぉ!」
 咆吼は自然と零れたものだった。
 暴力的な衝動に駆られた男は、エルスとサンディへタックルをかまし強引に道を切り開く。

 顔面が赤に塗れている。
 血走った目で見据えるは、ただひたすらに正面ばかり。
 岩の鎧に覆われた腕を振り回し、男はサンディの腹部を抉るように打ち抜く。
「そう……簡単に! 石化なんてしてやらないぜ!」
 一瞬、サンディの体を不快な魔力の波動が覆う。
 しかし、サンディはそれをどうにか耐えきった。

 氷の鎌を振るう度、エルスの体は悲鳴を上げた。
 岩を斬り付ける反動が、骨を軋ませ、筋肉に負担をかけ続ける。
 飛び散った岩の破片に穿たれ、白い肌は血塗れだ。
「でも、退かない!」
 振り抜かれた拳の真下を潜るように、エルスは男へと接近。
 長い髪を踊らせながら、鎌による一閃を肘関節へ叩き込む。
「関節の装甲が薄いのよね? これはよくよく見ないと見逃してしまいそうだわ……っ!」
 氷に覆われた肘へ、鎌の柄先を叩き込みつつエルスは告げる。
 先ほどヴィリスが蹴り砕いた膝、そして今しがたエルスの裂いた肘の装甲のどちらも装甲が薄かった。
 一見すればそうとは分からないその事実は、しかしヴィリスが膝を蹴り砕いたことで露見している。
 つまるところ、エルスの狙いははじめからこれだったのだ。
「だからどうした!」
 怒号と共に振り抜かれた拳がエルスの眉間に撃ち込まれる。
 割れた額から血を噴きながら、エルスは仰向けに倒れ……。
「ねぇ、どんな感じなのかしら? 岩を纏って動くのって」
 にぃ、と。
 笑うエルスの体を、淡い燐光が包み込む。

 レッドの回復術により、ギリギリのところでエルスは意識をつなぎ止めた。
 これ以上、エルスが怪我をすることが無いように、レッドは前線へと駆ける。
 赤い靴は、レッドをいつでも、どこにだって運んでくれるのだ。
 エルスは十分に役目を果たした。
 これ以上、彼女が戦う必要はないだろう。
 なぜならば、ヴィリスとサンディの攻撃が、ヒビ割れた肘関節へ同時に叩き込まれたからだ。
 1本の釘の欠落が破滅を招くこともある。
 いかに頑丈な鎧であっても、ヒビ割れた箇所を支点とすれば砕ききることも叶うだろう。
 蹴りとナイフの直撃を受け、鎧に走るヒビが広がっていく。
「光ってるところを狙え!」
 ナイフを握り込んだまま、サンディは叫ぶ。
「今じゃな」
 ウルファ、ラダ、リコリスによる掃射。
 男の悲鳴は、銃声にかき消されて誰の耳にも聞こえなかった。

 粉塵と硝煙の漂う中、男はヨロリと立ち上がる。
 岩の鎧を失い、意識も朦朧としているようだ。
 そのような状態で、彼は1歩、前に出た。
 何かを求めるかのように、腕を前へと突き出して……。
「しつこい奴は嫌いでね」
 ラダの放ったゴム弾が、今度こそ男の意識を刈りとった。

成否

成功

MVP

サンディ・カルタ(p3p000438)
横紙破り

状態異常

サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
横紙破り
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)[重傷]
夜に一条
エルス・ティーネ(p3p007325)[重傷]
竜首狩り

あとがき

お疲れ様です。
化石泥棒は無事に捕縛され、憲兵に突き出されました。
また、規定数の化石を獲得いたしましたので、依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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