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シナリオ詳細

<Noise>再現性東京2010:輓近

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●輓近のありさま
 ノイズ交じりのラジオが避難を呼びかけた。オール電化の屋内に蓄電池から供給された僅かな電力では足りなくなってきたからだ。
 ぱち、ぱちと弾ける音が響く。学校の廊下は暗く、避難誘導灯の明かりももう灯っていない。
 広々とした体育館にジャージ姿でごろりと転がった。……いつまで続くんだろう。

 再現性東京2010街<希望ヶ浜>。其れが私たちのちっぽけな世界だった。
 テレビの中ではキャスターが淡々とした声で異常気象を観測したように伝えてくる。空を思わせた広大な液晶モニタは明暗を繰り返し、闇だけを返している。世界が夜に包まれたなんてポエミーな台詞を吐き出すSNSを眺めるスマートフォンの寿命も僅か、つまり充電切れだ。
「かずはぁ、充電器持ってない?」
「持ってる」
 ほら、と希望ヶ浜学園大学部に通っている友人へと充電器を投げ寄越した『探偵助手』退紅・万葉(p3n000171)は嘆息した。
 避難所扱いの体育館に入ることが許されなかった面白山高原先輩と蛸地蔵君はカフェローレットに一先ず避難させた。
 情報収集でもしようかと此処までやってきたが、彼女たちは頑なに『現実』から目を背けたままだ。
 練達の内部に存在する架空都市。どこまでも続いていくと思われる空は偽物で、海だって嘘っぱちばかり。
 ドーム内部に器用に作られて現実と架空を織り交ぜることでできあがったかりそめの楽園が崩れそうになっていた。
 時折、エラーメッセージが表示される空は青く光り、直ぐに暗く戻される。
 電力障害やネットワーク障害を伝えるラジオも取り繕う事を忘れていた。
「かずはぁ、これっていつまで掛かると思う?」
「……どうかなあ」
 早く終わってくれなきゃね、とは言えなかった。
 外ではマザーに高度な負担が掛かりセフィロトそのものも障害に塗れている。
 できうる限りの備えを行って『災害』扱いでぼんやりと過ごしていられる希望ヶ浜はある意味『救い』のようだった。
 懐に入れておいた連絡用端末が着信を告げる。
 万葉は「ごめんね、ちょっと犬猫を預けた所から電話」と友人を置いて立ち上がった。
 ……希望ヶ浜の住民が避難をしていても、イレギュラーズは大忙し。なんて物語の登場人物めいて独白しながら。

●introduction
「やあやあ、諸君! お集まりいただきどーもありがとう! ……じゃなくって、ごめんね、足下見辛かったでしょ?」
 万葉は肩を竦める。緊急時の電力供給で明かりの灯されたカフェローレットは『close』の看板が掛けてあるが大忙しの有様であった。
 練達では『Rapid Origin Online』によりマザーへと不調が生じたらしい。その影響は希望ヶ浜にもあった。
 かりそめの平穏と日常を謳歌する人工都市では空調や天候システムにも影響が出ているらしい。
「昨日は台風が観測されたらしいし、今日は夏みたいに暑いでしょう。……なんだか、おかしくなっちゃってるの。
 それでね、希望ヶ浜がこれだけ混乱してるから……夜妖も結構な勢いを増していただいたみたいで」
 こんな時でも夜妖とイレギュラーズは休みなし、なのである。
 影のヒーローも辛いのだと肩を落とした万葉のミルクティブラウンの髪は僅かにごわついていた。
「実はね、希望ヶ浜学園の大学部のある施設でシステムがダウンして閉じ込められちゃったっていう事件が起こってるみたいで。
 空もこんなだし、復旧はまだまだ掛かるし……それに、システム異常が起きているから研究室内のロボットが暴走してるみたいなの」
 人工知能を扱っていた工学部の研究所であるらしい。ロボット達は暴走し始め、校内で大暴れをしている。
 辛うじて避難を行えた学部生達は体育館での避難生活をしているらしい。それも日常を取り戻す一助なのかもしれない。
「私たちはロボットの暴走を食い止めて、佐伯先生から頂いてある緊急時用のキーで救出を行います」
 万葉の足下で餌を鱈腹食べていた面白山高原先輩が「わん!」と鳴いた。できるか? と問うたのだろう。
 このまま閉じ込められてロボットによって何らかの被害が生まれる前に、救い出さねばならない。
「……急ごう!」

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、よろしくお願いします。

●目的
 希望ヶ浜工学部の学部生を救出する

●希望ヶ浜学園工学部 とある研究所
 希望ヶ浜学園大学部の工学部。少し喧噪から離れた位置にあるキャンバス内の研究所です。
 人工知能を研究しており、ロボットが複数体収納されていました。
 制御システムが暴走し、ロボットが暴れ回っています。また、施設の警備システムがダウンしたことで出ることも叶いません。

●緊急時のキー
 研究所の扉を外から開くことの出来る緊急時のキーです。これを使って学部生を救出してください。

●暴走ロボット 8体
 研究所の外に4体、中に4体。それぞれ暴走しており、無秩序状態です。
 動くものを適当に攻撃します。意思の疎通は出来ません。人型を思わせるロボットです。
 システムの不調での暴走です。倒して壊れてしまっても、学部生達がまた元通りに組み立てるでしょう。

●救出対象『学部生』 5名
 内部で息を潜めて隠れている大学生達です。皆、ロボットから身を隠しており、物音がしても顔を出しません。
 何も罪はないので、救出してあげてください。

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <Noise>再現性東京2010:輓近完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月27日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
レニー・エメディア・オルタニア(p3p008202)
半百獣のやんちゃ姫
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


 天高く飾られていたモニターはノーシグナル。停電も続く練達内の闇の中をするりと抜けた『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は嘆息する。見慣れたネオンは今はなりを潜め、平常のざわめきを忘れた響めきの夜がやってきた。耳障りな程に響いた生活音は今は息を潜めて獣の狩りを怯えるかの如く気配を消した。
「……夜以外で空が黒く染まるのは少しだけ怖いな。練達が大体機械で出来ていたのは知っていたがこういう所も機械だったのだな。
 まあともかく、巻き込まれた側からすれば災難にもほどがある。速やかには助けに行こう」
 嘆息すれども、平穏は戻ってこない。この夜闇を作り出したのはラピッド・オリジン・オンラインによる影響であることをこの場のイレギュラーズは誰もが知っていた。
「私の故郷がこんな大変な事になっちゃうなんて……。
 ここだけじゃなくて色んな所で事件が起きてるみたいだし正に練達の危機、なんとしても解決しなきゃ正義の味方の名折れ。万葉さん任せてね、必ず解決して見せるから!」
 それがヒーローとしての決意であると『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は点滅し続ける『空』を見つめた。時折観測されるエラーログは通常の空の映像を投影出来ないことを告げているのだろう。恐ろしい状況であることには違いない。
「クラリスお姉さんが大変なことになって、ROOもだけど練達も凄く大変……! いっぱい大変だけど、一つずつどうにかしなきゃ!」
『クラリス』による影響が大きく出ているのだと『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は不安を滲ませた。彼女が電脳世界から影響を受け練達の都市機能が低下している事は耳にしていた。再現性東京は練達の近未来的な雰囲気とは大きく違えているが、この区画も練達であることは変わりない。
「むむむ、再現東京全体が大変な事になっているですか? ここではロボット暴走ですか!?
 慌てた様子の『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)もこくりと頷いた。
「そっか、再現性東京も練達だから、こんなに影響が……とにかく! 今は早く助け出してあげないと!」
 R.O.Oも『てんやわんや』。様々な事に忙殺され続けるイレギュラーズの立場は辛い。一つずつでも片付けていかねば首が回らなくなると言うものだ。
『半百獣のやんちゃ姫』レニー・エメディア・オルタニア(p3p008202)は物陰からこそりと希望ヶ浜学園大学部の敷地内にある工学部研究所を眺めた。
「……うわ、建物の外にロボットいるじゃん」
 それはさながら門を護る兵士のような。堅牢に守りを固めて部外者を遮らんとしている様子である。レニーの呟きに『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)がそっと武器を握りしめる。
「兎に角、巻き込まれた人達を一刻も早く助けます!」
 ルーキスは内部へと入り込む役割を。そして、外で潜入を食い止めんとするロボット達を『ヒーロー志望』山本 雄斗(p3p009723)は攻撃することとなる。ロボットは端から見ても出来は立派だ。其れ等を作った工学部の生徒達の苦労が忍ばれる。
「いくら暴走してる緊急事態と言え……工学部の人たちが作ったロボットを壊すのは忍びないな……」
 雄斗は神頼み。この行いで、工学部の学生達の単位が落ちませんように――そんな願い事を胸に、「待たせたな!」と戦場へと馳せ参じる。木枯らしがぴゅうと吹き、安全確実に派手な音を立てて試作型ヒーロースーツⅣ号へとその姿を変貌させる。それはまるで戦隊ヒーローのような派手さ。
 ちら、と一瞥してからその周辺に保護を展開したキルシェはリチェルカーレと共にロボットの前へと躍り出る。
「ルシェもお外のロボットさん達を止めるお手伝いをするわ! メイお姉さんたち、中のロボットさんたちをお願いします!」
「お姉さん!」
 お姉さんと呼んで貰えたそれだけで心が弾む。メイは華やぐ笑みを浮かべてから「フムー、お姉さんとしていいところを見せなければいけないですね!!」と胸を張った。


 ロボットの暴走から人を助ける。それは実にヒーローで。ヒーローめいた変身を行った雄斗を思い出してメイは愕然としていた。
「……仮面持ってくればよかったのですよ。シティガール仮面チャンスだったですね。
 むー、今回は急いでいたのでメイのまま来てしまったのですよ。チャンスがあればシティガール仮面しなければ!!」
 折角ならば正体不明の美少女戦士『シティガール仮面』として工学部の生徒達を救出して見せたかった。今回は緊急事態につき、普通のメイとして出陣だ。
 焔は「行こっか」と囁いた。外で戦い始めた仲間達を一瞥し、隙を突いて研究所へと侵入開始。キーをつかって扉を開き、するりと猫のように内部へと入り込んだ焔の前を神の使いたる小さな猫は我が物顔で研究所内を走り行く。
「只今、救助隊がそちらに向かっています。ロボットの動きを止めるまでの間、危険ですのでその場から動かない様お願いします。繰り返します……」
 その声音は研究所内へと響き渡る。ルーキスの行った『非常放送』は内部で息を潜めている学生達にとっての救いの声だ。遍く存在を敵対視するロボット達はこの声に誘われてくるだろう。生徒達の現在地把握はメイの人助けセンサーを頼りに進む。
「うーん、どこに居ますかねー?」
「皆、なかなか動けないよね。動体センサーでロボットが襲ってくるなら怖いし……
 でも、学部生の人たちから離れればこっちの者! 十分に引き離して時間を稼いで外の皆を待とう!」
 焔にメイとルーキスは頷いて。研究所の奥から聞こえた機械的駆動音を聞き漏らさずに武器を手にする。

 それは疾く風の如く。仲間達を『送り出す』為に走り続けたレニーは先行し、自慢の脚を駆使してロボットを引きつけていた。
「よーし!」
 揺らいだのは尻尾。意気揚々とその感情を表して、地を蹴り飛ばす。ロボットのセンサーは目のあたりか。頭がギュインと音を立てて動けばこちらのもの。天駆脚の足運びは独特。武術の巧みとさえ呼ばれた高等技術は小さな半百獣の少女が空を駆け巡るような錯覚を与え続ける。
 一先ずは回避優先。レニーが場を乱せば、その地に注いだのは目映き光。邪悪を許さぬ聖光を放ったグリムは確実にロボットを倒してみせると鋼花闘装アサルトブーケと精神をシンクロさせ、その潜在能力を顕在化させてゆく。
「練達の側とすれば天災の一つだろうが、この地は巻込まれたと同等……災難にも程がある」
 そうぼやくグリムの傍らからするりと抜けて飛び出したのはルビー。赤いマントがばさりと揺れて深紅の月(カルミルーナ)が音を立てて変形する。
 両手剣が繋ぎ合い、大鎌へと変貌させて、ロボットへとその刃を叩きつける。ギア・ゼロ――そのリミットは必要も無く。地を駆ける少女は蒼き彗星を思わせる鋭さを武器に乗せて紅い軌跡を描く。
 薔薇の花弁の如く散りゆく魔力の残滓。その後方では仲間を支えるキルシェが桜花に願いを込めて祈りを綴る。七色のリボンをポイントにしたポケットも沢山あるリュックサックを背負った少女はロボット達を早く倒さねばと焦燥に駆られる。
 華やいだエメラルドの瞳には強き決意を湛え。メイお姉さん達の元へと努力を声にする。アルミナ・クリスタルの強靱なる輝きは桜色の小さな少女に力を与えるようにより強く光を齎して。
「ロボットさんたちから逃げ遅れた人たちを助けてあげなくちゃ! 早く、中を目指しましょう!」
「ああ。任せてくれ! ――ロール・チェンジ!」
 叫んだ雄斗の名乗り口上は常の通り。『英雄願望』はヒーローを作り出す。限界なんて此処にはなく。雄斗は引きつけたロボットへと衝撃波を湛えた拳を叩きつける。外に跋扈するロボット達の数を目視で確認し、キルシェは「あと2体!」と声を上げた。
 最初に頷いたのはレニー。風を切るかの如く、魔力の塊を一気に打ち込んだ。
「一番近いのは……君だね! あんまり壊したくもないけど、この際そんな事言ってらんない! ――ごめんね!」
 魔力は獅子を作り出す。牙を剥き食らいつく獰猛な獣の気配に呑まれるロボットへとグリムの光が放たれる。
 次だと言わんばかりに鮮やかな紅色がロボットをたたき切る。ルビーの長剣は蒼き躍動と共にその鋭さを煌めかせて。
「まだまだ!」
 レニーが踏みしめれば、ロボットは負けじと『対抗プログラム』によって攻撃を放つ。ルビーが「わ」と声を漏らし、身を逸らす。
「皆が無事に帰るためだから。今はじっとしてて、ごめんね。
 ……って危ないなぁもう! アタイの反射神経がなかったら当たってたじゃないか! 時間はかけらんないの! 中で助けが待ってるんだ。大人しく退いてもらうからね!」 
 唇を尖らせるレニーに「大丈夫ですか!」とキルシェが問いかけた。小さく頷くレニーに「畳みかけるぜ」と雄斗が更に声を張り上げる。
 彼の元へと飛び込んだロボットを間近に見遣り、ルビーの鎌が鋭く切り裂いて――


「――物を壊しちゃうですけど、緊急事態なので許してほしいのですよ!」
 そう叫んだメイはばたばたと動き出す。振り子のように動き出した動作確認用の機械をわざと動かしてロボットの注目を誘う。
 使える物ならなんでも。この際、時間稼ぎと『安全』の為には何もにも変えられない。
 それらが一気に接近したのを確認してロケッ都会羊は急発進。親切なおじさん謹製の羊のぬいぐるみが少女の体をまっすぐに前線へと押し出した。
 星の如く、敵を強かに貫くメイがぐりんと体を捻る。その位置へと叩きつけられたのは炎の斬撃。ロボットを溶断するのはカグツチの天火。
 まるで演舞の如く、ぐりんと宙を踊った槍を構えて焔は炎神の加護を纏う。
 その様子を『まるで観察する』ように見遣るロボットはルーキスにとっては命のない物ではないように感じられた。その動作、仕草はプログラミングされた創造物といえども人間のように動いている。
「まるで人間のような機械ですね。練達の技術というのは本当に凄い……と、感心している場合では無いか」
 機械といえども、動力源が何処かに存在しているはずだとルーキスがロボットを見遣る。まじまじと『視た』ならばその胸元あたりに心臓よろしくコアが添えられていて。
「成程。胴を狙いましょう。人間よろしく動力源(コア)が存在して居るみたいです」
「心臓ってことですね! 分かりました!」
 むふーとメイが胸を張る。ルーキスの引き抜いた白百合は師より授かった砕の刀技を乗せて叩きつけられる。がしゃりと音を立てた我楽多がエラー音のみ響かせて。
 もうすぐ、外でロボットを対処していた仲間達が追いつくはずだ。其れまでの時間稼ぎを行うためにルーキスは懸命に刀技を放ち続ける。
 一歩、強く地を踏みしめれば硬いフロアの床が靴裏に吸い付いた。身を捻るようにロボットの横面へと刀を叩きつけ、その勢いの儘後退する。
 汚れ一つも落ちていなかった床では荒れる砂さえないけれど。硬質なる音がぎいぎいと響き靴音だけが木霊する。
 仲間達の接近を感じるメイが鼻をひくつかせ、この儘、ここで『ラストスパート』を駆け抜ける為に再度ロケッ都会羊の勢いで前線へと踊り出す。
「此の儘、ロボットさんにはお休みして貰って、皆をお助けするですよ!」
「そうだね。学生さん達の努力の結晶――だけど、皆の命には代えられないんだっ!」
 焔の降ろした福音がルーキスを包み込む。神々の加護をその身に纏い、緋色に白花を咲かせた移ろいの衣を揺らがせて焔はひらりと踊り槍の穂先をロボットの胸元へと突き刺した。貫いた硬質の気配。ばきりと音を立てたまがい物の心臓に構っている場合ではないと言うように紅い髪がふんわり揺らぐ。

「メイお姉さん!」

 聞こえたキルシェの声に「待っていたのですよ!」とメイが手をぶんぶんと振る。レニーが見遣れば、ルーキスと相対するロボットは二体。
「あと二体。ここなら『安全』に倒すことが出来るから皆で畳み込もう!」
「オーケー」
 焔の槍に炎の気配が齎される。燃え盛る火の気配に頷いてルビーの鎌が煌めいた。
 停電状態の闇の研究所の中で、その存在を誇示するように光るロボットの瞳が爛々と踊っている。おどろおどろしい雰囲気さえも切り裂くように雄斗は誰かを救う英雄として一気にロボットへと詰め寄った。
 張り上げた声に反応するロボット達を追い詰めるのはグリムの目映き光。先行したメイ達を癒やすキルシェは学生達が無事と聞き安堵したように胸を撫で下ろした。
 硬いボディを傷つけて、溶かした焔の炎の気配。槍は一刀両断し、胴体だけでも動かんとするそれをルーキスの刃がとどめを刺して。
 深、と。静まりかえった研究所内には八人のイレギュラーズの気配だけ。遠く、身を隠した学生達にも安全を届けてやらねばならないか。
 ぱちん、と音を立てて一瞬のみ復旧した明かりの下で残骸となったロボットを見下ろして焔は「わあ」と小さな声を漏らしたのだった。


 ――ロボット停止と危険解除のお知らせを行います。

 その声音が研究所内へと響き渡る。所内に危険は存在しないと告げるルーキスの声に物陰に潜んでいた学生達がこそりと顔を出し、周辺を警戒しながら集まってくる。
「ご無事で良かったです!」
 にんまりと微笑んだキルシェの側でリチェルカーレがふすふすと鼻を鳴らし、おでむかえを行えば訪れた平穏に学生達が胸を撫で下ろす。
 彼らの近くに転がった『研究成果物』はこの際、勉強代として納得しておくべきだろう。其れ等を彼らが片付けてくれなければこうして安全無事に顔を揃えることもなかったのだから。
「ロボット壊しちゃってごめんね」
 しょんぼりと耳を折り曲げた焔に学生達はいやいやと首を振る。この儘では自身等の作ったロボットによってその研究者としての道を絶たれる可能性もあったのだ。暴走するロボット達を止めてくれた命の恩人を無碍にするわけもない。
 ほうと息を吐いた学生達は水を飲んで随分と落ち着いたのだろう。サンドウィッチを用意していたルーキスは「せめて空腹だけでも満たして下さい」と緊迫した空気を和ますようにその背を撫でた。
「これで全員ですかー? 逃げ遅れた人はいませんか?」
 メイが首をこてりと傾げれば、念のためと研究所を見て回ったレニーが大丈夫そうだと大きく頷く。
「ロボット、傷だらけになっちゃったな」
「そうだね……皆が感謝してくれてもちょっぴり心が痛いね」
 雄斗に尾をしょんぼりと降ろした焔が息を吐く。壊れ、床へと倒れていたロボットをまじまじと見下ろしたキルシェは「ねえねえ」と学部生の腕をちょんと突いた。
「今直すのは危ないかもしれないけど、落ち着いたらロボットさんたち直してあげて欲しいの。
 ロボットさんたち大暴れしちゃったけど、普段は生活のお手伝いしてくれるんでしょう? また仲良く一緒に過ごして欲しいわ!」
 少女の天真爛漫な笑みに研究者はぱちりと瞬いた。こうした機に暴走するロボット達は危険因子であると言われても仕方が無いというのに。
 それでも彼女はロボットとの共生を認めてくれるのか。学生達の心に満ちた暖かさは彼女が差し出してくれた水のおいしさのように心へと染み入って。
「それにしても人工知能を研究しててロボットを作ってるなんて夢のある話だよね。
 いつか私たちと一緒に何かが出来る日が来るといいな。その日の為にまた頑張ってね学生さん!」
 ルビーは有り得るかも知れない未来を想像して微笑んだ。ロボット達との共生。彼らの作ったロボットが生活を豊かにする。
 練達では当たり前のように行われていた冷暖房のシステムや生活サポートのロボット達。それらが更に発展を遂げれば――
 少女の言葉に頷いて。学生達はありがとうございましたと頭を下げた。
 じいじいと音を立てたモニターに一時的に映し出された空の色は、何時もと同じ見慣れた世界であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)[重傷]
孤独の雨

あとがき

 この度はご参加誠にありがとうございました。
 再現性東京の不和が少しでも安らぎますように……。

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