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シナリオ詳細

<神異>ひぐらし、日は沈み久しく

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 しょりしょりしょりしょりしょり。
 しょりしょり、ああ。
 しょりしょりしょりしょりしょり。
 呼ばれている。
 しょり。
 仰っている。
 しょりしょりしょりしょりしょり。
 殺せと。しょりしょり神使をしょり殺せとしょり。
 ああ、この風塵じみた身で其れが叶うのであれば
 しょりしょりしょり
 やってみせましょう――全ては神異の為――
 ああ、……ひぐらしが、ないている……

「あ……!」
 女が声を上げ、駆け出す。建物へと入っていく。
 しょりしょりしょり
 追いかけよしょりしょりしょり捕まえよしょりしょり
 手を剥しょりしょり屠しょりしょりしょりしょり殺しょりしょりしょり死



 女はいつものように、高天京壱号映画館へと向かう道を歩いていた。
 今日も予知はあるだろうか。巫女二人や管理者は元気にしているだろうか。
 神光の情勢が危うい、と小耳に挟んだ。夜妖の活動も活発になっているかもしれない。
 様々に考えながら、映画館に続く路地を横目に通り過ぎて――女は足を止めた。
 何かいる。ぞわり、背中に汗が伝った。
 杞憂であってくれ、と願いながら女は横目で見る。
 ――いた。
 路地の中を、うぞうぞと蠢きながら此方へ来る何かがいた。
 背中から生えた指が蠢いている。
 まるで車輪のように生えた腕が足の代わりだというように、ぺた、ぺた、と大地を這っている。
 ぶぶぶ、と蝉の羽根のような音がする。

 ――夜妖!

 女は一も二もなく駆け出した。相手は複数。分が悪すぎる。
 まさかこの映画館の至近距離に現れるなんて。映画館は無事だろうかと、女は慌てて映画館に駆け込む。
「……誰か、誰かいますか! 皆さん、無事ですか!」
 答える声はない。けれども、するり、と白い手が、扉の鍵をかちんと閉めた音がした。
 女ははっとして振り返る。巫女と呼ばれる少女は、しい、と小さな唇に指を当て。
 どうか当館では、お静かに。



 ――虚構と現実の二面を護らねばならない。

 とある男が言う。

 ――これは想定された中の“最悪”。だよね?
 ――其の通り。此処でまさかマザーが揺らぐとは。

 練達の母の揺らぎは、子たる者たちに不安の影を落とした。其の不安に付け込んだ“其れ”は、不安の間を泳ぐように、虚構と現実を食い荒らしていく。
 侵食は神光というデータに及び、そして命令を課した。

 神使を排除せよ。逆族である。……と。

 其れはまさに「全てが敵になった」状態だ。僅かでも侵食を受けていたNPCデータは敵意の旗を翻し、神使――イレギュラーズに牙を剥く。神霊と朝廷、その全てが敵となったのだ。
 彼らは夜妖を操り、また自らも戦線に身を投じ、神使に敵対する。
 これまで神使に協力してきた者たちにも危害が及びかねない。
 星読みキネマに行って御覧。きっと誰かに会えるだろう。まあ、その扉が開くことはないのだけれど。
 何故なら異形の夜妖が、其処を狙っているからね。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 おや? R.O.O.に動きがあったようですね。
 取り敢えず巫女たちに指示を仰ぎに行っては如何でしょう。

●目標
 高天京壱号映画館を護れ

●状況
 アップデートを受けて予知を受けに来た皆さんが夜妖に遭遇する形になります。
 オープニングの通り、高天京壱号映画館は襲撃されているため予知は使えません。
 まず映画館の扉を開くわけにいかないので、戦闘が終わるまで入る事も出来ません。
 少しイレギュラーな事態ですが、対処をお願い致します。

●立地
 星読みキネマ真ん前の開けた場所です。人通りは何故かありません。
 ただしょりしょりなものがしょりしょりとしょりしょりしているだけです。
 時刻は夕暮れ。夏であればひぐらしが鳴きだす頃です。

●『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
(星読みキネマが使えず、予知をお伝え出来ないためです)

●エネミー
 夜妖「ひぐらし」x10体

 頭から手が生えていたり、胴体から指が無数に生えていたり。
 人体を冒涜した肉塊の夜妖です。蝉の因子が入っており、羽根があったり(飛べません)しょりしょりと蜩のように啼きます。
 真っ直ぐに星読みキネマを狙ってきますので、退治して下さい。
 基本的には肉弾戦が主です。腕を伸ばして遠くの敵を殴ったり、不要な四肢を千切って投げたりしてきます。
 また、其の血には呪詛と毒が混じっており、わざとふりまく事もあります。

●侵食度<神異>
 <神異>の冠題を有するシナリオ全てとの結果連動になります。シナリオを成功することで侵食を遅らせることができますが失敗することで大幅に侵食度を上昇させます。

★月閃
「陰と陽よ、転じて廻れ――魔哭天焦『月閃』!」
 イレギュラーズは『侵食の月』の力を転用した、『月閃』という能力を使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。

●重要な備考
 <神異>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
 <神異>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
(達成度はR.O.Oと現実で共有されます)

 又、『R.O.O側の<神異>』ではMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。

 『R.O.O側の<神異>』で、MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 但し、<神異>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。



 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <神異>ひぐらし、日は沈み久しく完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
アウラ(p3x005065)
Reisender
Steife(p3x005453)
月禍の閃
シュネー(p3x007199)
雪の花
崎守ナイト(p3x008218)
(二代目)正義の社長
ビャクダン(p3x008813)
複羽金剛
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
ゼスト(p3x010126)
ROO刑事ゼスティアン

リプレイ

●夏は終わり久しく
「しょりしょりしょり」
 進む。進む。進む。
 這う。這う。這う。
 転がる。転がる。転がる。
 およそ人の体を冒涜しきった其れ等は、真っ直ぐに大きな建物を目指していた。
 高天京壱号映画館。誰が呼んだか“星読みキネマ”。
 あと少し。もう少し。殺そ。死なそ。剥ご。屠ろ。
 其の異形の手がぺたり、とキネマ前の石畳を叩いた、其の時だった。

「おいおい、キネマ(Cinema)はただいま閉館中(Close)だぜ?」

 そんなイカした声と共に現れる――俺達の社長(President)!
 『正義の社長』崎守ナイト(p3x008218)は片腕を持ち上げて肘を折り、頭の斜め上辺りでもう片手と繋ぐちょっと言語化し辛いかっこいいポーズを取りながらひぐらしの前に立つッ!
「酷くあっさりと、理不尽が襲い掛かる。其れは虚構も現実も同じようですね」
 だから其れを遠ざけるために、私達は戦う。さあクマさん、可愛い翼をあげましょう。空から私たちを見守って下さいな。
 其れは『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)の願いであり、命令でもある。翼を持ったテディベアは上空へと舞い上がり、8名と10体を見下ろしていた。――いや。
「8体しかいません」
「まだ何処かにいるかもしれないね。其れにしても……ひぐらし? これが?」
 『Reisender』アウラ(p3x005065)は蒼いサングラスを上下させて訝し気に呟く。
「これ明らかにひぐらしじゃなくて、気持ち悪い別の何かだよね。ていうか、根本は人間のような感じがするし」
「SAN値が一気に吹っ飛んでアイデア成功発狂ロール入りそうな見た目ですね……希望ヶ浜にだってあんな悪趣味なの見た事はありませんでしたよ」
 長い尾を神経質に左右させて『閃雷士見習い』Steife(p3x005453)が言う。答えるようにひぐらしがぺたり、と手を地面につけ、はちゃめちゃに生えた羽根を鳴らした。しょりしょりしょりしょり。其れは確かに蜩の声にも似ている気がするが――
「しょりしょり、言ってますね」
 『雪の花』シュネー(p3x007199)が呟く。長耳がぴこ、と動くけれど、其れを蜩の声だとは思いたくない。夏。あの人が緑をかき分けて、話をしに来てくれた夏の夕暮れを、こんなものの鳴き声で上書きしたくはない。
「嫌ですね、呪いのにおいがする」
 自らも呪いを制御し、呪いに制御されているからだろうか。『複羽金剛』ビャクダン(p3x008813)の嗅覚は鋭い。だが、あるはずのないところにあるはずのないパーツが生えている様は、悍ましいと思う。ああはなりたくないものだ。
「キネマも人も害するってんなら倒すだけですが、……救えるものが残っていなさそうってのは、少しばかり悲しいものがありやすね」
「へんな生き物。へんな音。しょりしょりって言ってるのです。気持ち悪いのです。なんとかしなきゃ」
 『うさぎははねる』アマト(p3x009185)は後衛の位置に付き、ぴこぴことラビットイヤーを動かして周囲を探る。残りは何処かな、何処かな?
「360度何処から見ても化け物! このROO刑事ゼスティアンがいる限り、映画館には指一本も触れさせないであります!」
 『ROO刑事ゼスティアン(自称)』ゼスト(p3x010126)が叫び、一撃を放つ。胸元の装甲が輝いて、まずはどうぞとばかりにひぐらしを一度に薙ぎ払う!

 しょりしょりしょりしょりじじじぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!

 ひぐらしが鳴く。
 夏はもう終わって久しいのに。日も沈もうとしているのに。去ろうとしないひぐらしを退去させるための戦いが始まる。



「来るならいくらでもどうぞ」
「売れ残りは悲しいねえ。さっさとご退場頂こうじゃねーの? Bang!」
 ハルツフィーネが輝く盾を掲げ、ついでにがおー、とクマさんめいた威嚇のポーズを取り、ナイトが敵の心ごと撃ち抜いて敵たちを引き付ける。怒りに身悶えているのか、肉の塊のようなひぐらしがごろごろと転がって、ぶちぶちと何かがつぶれる音がして、石畳が血で汚れる。
「うわ。もしかしてあれ、指とか目とか潰れ……いや、考えるのやめとこ。デスカウント増えそう」
 アウラは映画館前に陣取り、最後方から戦場を見守りつつドン引きする。ひぐらしのしょりしょりという鳴き声がこちらまで響く。恐らく映画館の中にも聞こえているだろう。レンジを最長に構えたRaging-Firearmを構え、一発――Fire!
 弾丸がひぐらしたちを追尾して次々と貫いていく。どの腕を、とか、どの足を、とか、そういうのを狙わなくても良いのはある意味利点なのかしら? まあ、手で歩いてくるような輩だから、相手もそんなの関係ないんでしょうけど。
「私には――R.O.O.(このゲーム)に囚われてしまった大事な人がいるんです」
 厳つ霊が奔る。
 Steifeが振るう刀から、迸る。
「こんな気持ち悪い夜妖に手間取ってはいられないんです!」
「そうです、……其れに、このキネマにも指一本触れさせません!」
 ナイトに惹かれて歩み、或いは転がり来るひぐらし。ナイトを護るようにシュネーが立ち、一撃にて貫き、傷を負わせる。
「撃ち抜きます!」
「OH、シュネー。やる気満々(MAN-MAN)じゃねーの」
「其れは……ナイト様もでしょう?」
 いつも通りおどけてみせていても判る。きっと彼にも、助けたい人がいるのだと。
「さぁて(Fmm)、どうかな……ま、仕事(business)で手を抜く気はないぜ?」
 ナイトの上着にファッションめいて在った蒼い手が、ふんわりと浮き上がりアウラの元へと移動する。其れは手から徐々に顕現する。黒髪で長身、ホスト姿の男。ナイトの式神、名は「蓮」という。
「裏口を見て参ります」
「へ? う、うん」
「頼んだぜ蓮。電子の世界でも、お前は俺(ORE)の最ッ高の右腕じゃねーの!」

 ふわり、と月閃で纏った夜妖の残滓がハルツフィーネから抜けていく。至近で思う存分ひぐらしを切り刻み、再び上空のテディベアと視界を共有して。
「クマさんの目でも、今のところ……増援は見えてない、です」
 さっき蓮さんが行った裏口まではまだ確認出来ませんが、とハルツフィーネがひぐらしを受け止めながら言う。
 ごろごろと転がり、其の速度を利用して振り下ろされた爪が小さな淑女に傷を負わせる。一撃一撃は然程でもなさそうだ、と冷静に分析する。
「しかし予知が使えないのが痛手であります! 予知さえ使えれば敵の数を正確に把握できようものですが! 喰らえ! 電磁シュート!」
 ゼスティアンが放ったドロップキックが、肉塊のど真ん中を撃ち抜く。何とも言えない肉を踏みつぶす感触を与えつつ、ひぐらしは苦しむように転がり、やがて腕や足が空へ向けて伸ばされると、宙を抱くように折れ曲がった。――動く気配はない。
「……死に様は、蟲のようですね」
 シュネーが気持ち悪い、と言外に載せながら言う。まるで死んだ蝉のようだと。
「しょりしょりしょり」
「しょりしょり」
「ビートに、ノってない、鳴き声(Scream)だぜ! もっと夏(Summer)を感じてみな?」
 踊るナイト。一頻り踊って花を差し出すような決めポーズをすると、どかん、と衝撃が巻き起こってひぐらしたちが吹き飛ぶ。
「――!」
 ひぐらしたちの位置が変わったからか。
 其れとも、“そいつら”が進んできたからか。
 空を舞っていたハルツフィーネが共有する空からの視界に、ひぐらしが入ってきた。
「います! 直ぐ傍の路地、2体!!」
「あっしがやりやしょう」
 前線で戦っていたビャクダンが構えた。――いいですかい? 呪いってのを使うなら、呑み込まれねぇようこうやって使うモンでさ。

「陰と陽よ、転じて廻れ――」

 めぎり、と音がする。
 まがまがしい紫の靄がたちこめて、翼の色が朱を帯びる。黒い角がめきめきと芽のように伸びて、夜妖を纏う。
 ビャクダンは流れる水のように敵の中へ飛び込み、すり抜けて路地へと駆けた。
「あっ……! あんまり離れたら……!」
 アマトが警告するように声を上げる。回復が届かなくなる。まさか路地で戦う事はないだろうが――
 蓮を呼び戻すべきか、とナイトが敵を衝撃で引き離しながら考えた其の一瞬後。

 異形が空を舞った。

 其れは路地から投げ飛ばされた冒涜。どすん、ぐちゃり、と敵群の中に放り込まれた異形は何が起こったのかと手足をうごうご蠢かせている。
 そうしてもう一つ、異形が空を舞った。追いかけるようにビャクダンが3対の翼で空を舞い――シュネーが咄嗟に構えた貫通の一撃と合わせるように、鋭い爪で夜妖を切り裂く。
 ぐちゃり、とそいつも地に墜ちたが、ただでは終わらない。ぶぢぶぢぶぢ、と千切れかけていた人間の足部分を腕で引き千切ると、イレギュラーズ目掛けて投げ放つ。
「任せるであります!」
 前に出たのはゼスティアン。
「魔哭天焦『月閃』! そして今! 必殺の!!」

 ――ゼタシウムゥゥゥ、光線!!

 十字に組んだ腕から放たれた光線が、血液ごと足を焼いた。
 他のひぐらしも真似るように、指や腕を引き千切る。中には目玉を抉りだすものもいる。
「しょりしょりしょり……しょりしょりしょり……」
 日が落ちたというのに、まだひぐらしが鳴いている。
「任せて」
「任せます!」
 アウラがスコープを覗きながら言う。シュネーが答える。
 愛銃Raging-Firearmが唸って、次々と敵の体の一部を撃ち落としていく。
 まき散った血はどうにもならず、ビャクダンやナイト、ハルツフィーネに降り注ぐが、アマトが直ぐ様に其れを治癒させてゆく。幸い、ビャクダンも可能範囲内に戻ってくれた。傷を心配する必要はほぼない。
「まとめて……! 痺れて、砕けなさい!」
 Steifeが雷纏う一閃をひぐらし達にぶつける。其れが致命となったのか、ハルツフィーネが引き付けていた方の幾つかは足と手を折り曲げて、動かなくなった。じじじ、と少し羽を震わせたものもいるが、やがてそいつも静かになった。



「――こちら、おわりました」
 ハルツフィーネの序盤の猛攻が効いたのか、彼女側の数体はハルツフィーネの一撃で命に別れを告げた。
「よし、じゃああとはこっち(ORE-GAWA)だけか」
「ちゃっちゃと片付けてしまいましょう!」

 ひぐらしが舞う。空をとべないひぐらしが。
 ぶぢぶぢと指の欠片を千切って投げる。シュネーに撃ち落とされ、アウラに超遠距離から胴体を撃ち抜かれる。
 そいつは比較的、人間に近い形をしていた。少なくとも胴体は、だが。男の胴体、其の下半身には幾つもの手が生えて、ぺたりぺたりと足のように“歩く”。顔はなく、手が一本不安定に頸から生えて揺れていた。

「ぶぶぶ」

「じじじ」

「かむい」

 そいつが――何処からかは知らないが、“口を利いた”。
「え?」
 兎の聴力を持つアマトが微かな其れを拾い上げて、思わず瞬きをする。
「どうしました?」
「いえ、今……喋って……」

「かむい」

 今度は聞き取れる声色で、しかし男とも女とも、子どもとも老人とも付かぬ声で、そいつは言った。

「このふうじんのみでそれがかなうならばばばばばば」

「かかかかかかむい」

「わわわわわわわ」

「わわわ」

「わわわれらがみはは」

 ぶちぶちぶち。
 そいつが引き千切ったのは、頭にひょろりと生えていた手だった。
 ぶうん、と投げる。
「! 撃ち落とします!」
 嫌な予感がした。シュネーが其れに一撃を与える。……速度は衰えたが、こちらに向かって来る。
 其の手はもはや放物線を描いていなかった。真っ直ぐに誰でもいいと、空を飛んでいる。
「まあまあ」
 ざ、と前に出たのは――ナイトだった。
「こういうのを受け止めるのが、盾(Tank)の役目だろ?」
 ひぐらしの倒れる音がする。これはきっと、決死の一撃なのだろう。
 今デスカウントを増やすのが悪手と判っていても、……いや、判っているからこそ、ナイトは立ちはだかった。仲間のカウントを増やさないために。大切な人がいると言った人たちを、守る為に。

 ――“崎守ナイト Death”



「もう! 心配したんですよ」
「HAHAHA! ちょっとカウントが……いや、悪かった。悪かったから其の刀(KATANA)を仕舞ってくれ」
 Steifeがちきり、と鯉口を切ったのを見て、ナイトは慌てて訂正をした。
 そう、今は異常事態で、ログアウトしたくとも出来ない者もいるのだ。もう、と刀を収めたSteifeを見て、ナイトはふうと息を吐いた。まったく、さっき“死んだ”(Death)ときよりヒヤヒヤしたぜ。
 シュネーとゼスティアンが、ひぐらし達の遺骸に布を掛けている。
 ――ナイトがログアウトした後、ハルツフィーネが代わりに盾を引き受けたため、戦闘自体は事なきを得た。が、彼が再ログインするまでやきもきしたのは全員である。もしかしたら、このログアウトで異常事態に彼も巻き込まれてしまうかもしれないと思ったのだ。
 が、彼は幸い帰ってきた。今回は。次は判らない。戦闘後独特の空気とはまた違う、奇妙な緊張が場を満たしていた。
「……もうキネマも開いてるかな?」
「どうでやしょう。戦闘は此処に限った事じゃござんせん。……まァ、中に入って護衛をするという手もありやしょうが」
 アウラに、空を飛び周囲を再確認し終えたビャクダンが答える。
 うん、とハルツフィーネがテディベアを抱いて頷く。
「護衛、賛成。敵は明らかにこのキネマを狙って来てる」
「そうであります! 自分たちがいる限り、此処に近付く敵には死あるのみ!」
 遺骸に布をかけ終わったのだろう、ゼスティアンが言う。
「一番良いのは中を一度確認して、再度外で護衛を行うという事でしょうか!」
「ゼスティアン、良いね(I-NE)! 其れに俺(ORE)も賛成だ」
「アマトもですっ。皆さん、お怪我はないですか? 中の無事を確認し終えたら、お怪我がある人は治療しましょう!」
「……」
 わいわい、がやがや。
 そうして誰かがキネマの扉をノックする音が響く中、シュネーはふとひぐらしたちの方を振り返った。

 じ、じじ、じ。

 其れは蝉の鳴き声に似た、プログラムが瓦解する音。
 布を巻き込んでモザイクになったひぐらしたちは、静かに消え去った。
 其処にはもう何もなく、ただ、星明りが降り注ぐばかりである。

成否

成功

MVP

崎守ナイト(p3x008218)
(二代目)正義の社長

状態異常

崎守ナイト(p3x008218)[死亡]
(二代目)正義の社長

あとがき

 ――Mission Successed.
(ご参加ありがとうございました)

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