シナリオ詳細
アイランドペインターズ!
オープニング
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其の島は灰色だった。
余りにも色のない其の島は、上陸隊がまず火山を捜したほどだ。
しかし其の島に火山はなく、のんびりとした穏やかな山麓があるだけ。しかし全て灰色だ。山も、森も、木の葉も、花も、花の間を飛ぶ蝶でさえ灰色なのである。
はて、なんとなく不吉な。上陸隊はそう首を傾げながら二晩を過ごしたが、特に何も起こらなかった。獣は草食のものばかりで、肉食の獣がいない楽園のような島であった。……灰色であることを除けば。
しかし、出発間際の事。
灰色の湖を見付けた上陸隊は、水を採取してみようと水筒を取り出した。
ぽつり。
そこから飲み損ねの一滴が落ちると、――なんという事だろう。湖に水色の波紋が広がったではないか。
これはなんだ、と上陸隊は驚愕した。そして次々に試してみて、どうやら「水を落とすと数秒色が広がる」事を発見したのである。
其れも自然の色ではない。上陸隊一人一人によって色が違う。同じ葉に水を落としても、赤や青、黄色と違う色に染まる。何が違うのだろう、と彼らはまたも首を傾げたが、こればかりは究明することが出来なかった。
そして最後にサンプルとして汲まれた水は、普通の水と同じように透明であったという。
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「……という島があるんだ」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は海洋上陸隊の報告書をあらかた読み上げ終えると、君たちへ視線を戻した。
「凄く興味を引かれるよね。僕は引かれる。数秒だけでも染まる灰色の島。雨とか降ったらどうなるんだろうって思わない? ちなみに雨が降っても灰色だったそうなんだけど。何が違うんだろうね。其処は判らない」
けど、きっと色々な色に染まった森は綺麗なんだろうね。
行ってみたらどうだろう。
水筒は2つ持って行くのが良いね。バケツだと途中の船で零れてしまいそうだし。
今回は制限とかはないみたいだから、君たちの好きなように染めて来ると良いよ。
グレモリーは頷くと、さあいこう、と立ち上がった。
行く気満々である。
- アイランドペインターズ!完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年10月18日 22時05分
- 参加人数9/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 9 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(9人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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縁はゆるり、灰色の島を巡る。
木には重たげに様々な果実が成っていて、其れを一つもぎとると口に運んで齧る。……この潤沢な水分と甘みは、梨だろうか。しかし。
「色がついてねぇと、やっぱりどうにも味気ないな」
梨から溢れた水分で果実が僅かに薄黄色に染まるけれども、其れも僅かな間の事。指を伝う果汁を舐め取りながら視線を上向けると、灰色のリスが灰色の枝を走っていくのが見えた。まるでモノクロの芝居のようだ。
――俺達からはこいつら全員が灰色に見えている訳だが。ひょっとしたら、案外向こうからも俺たちの方が灰色に見えているのかも知れん。
――ここのものを食ったら色を吸い取られちまうとか、そういうのはねぇよな?
不安になって手や足を確認してみるが、安心してくれ。肌色だ。
まさかな、と苦笑して。でも、2個目の果実を取る気にはなれなくて……梨らしき灰色の果実をもう一口、しゃくり、と齧るのだった。
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絵画のように長い間じっくり鑑賞できる芸術も味わい深いけれども、この島のように数秒しか見られない刹那の芸術も悪かない。
ベルナルドは花に水を垂らした。其れはまるで後悔と決意のような藍色に染まった。他の色に染めるには、どうしたらいいだろう。あれこれと観察しながら試してみたが、なかなか巧く行かない。
「なあ、グレモリー」
「なんだい」
いつしか傍にいた友人に、ベルナルドは問う。理想の色は出たか、と。
「ううん、出ない。僕のギフトは、僕が絵具を混ぜる時にしか出ないからね」
「俺もさっぱりだ。綺麗な青色になる方法がないか考えれば考える程、もやもやして濁った色になる」
「……思いだして見たら? 絵を描くときに。何を考えているか」
君が何を描きたくて。君が何を見せたいのか。
其れは空の青かい? 海の青かい? 其れとも両方? 砂浜とのあわい?
――聞きながら、ベルナルドは菫らしき花にぽつり、と水筒の水を落とす。するとどうだろう。空よりも海よりも鮮やかな蒼い色に、花は染まった。
「うおおおおおお!!! 俺が全部染めてやるよーーーーー!!!」
サンディは本気である。勿論他の人の邪魔はしない程度に染めるつもりである。流石アニキ。一瞬で消えるなら、其の一瞬を誰もの目に焼き付けてやるとばかりに、持てる限りのバケツを持って森の中を駆けまわる。零れた水が葉を緑色に染め、どばしゃ、と水に打たれた花が抗議するように赤く染まった。
サンディが走って行った後には魔法のように色彩が溢れ、けれど、数秒で消えていく。サンディは其れ等を見下ろせる場所、木の上に登るとばっしゃばっしゃと水を振りまいた。
葉の緑。幹の茶色。草の淡い緑に、様々な花の色。天真爛漫あるがままを写した色はまるで塗り絵のようで、サンディは頭の中の曇り空――考えなきゃいけないことや、心配の種が一瞬だけ吹っ飛んでくれた気がして、ははは、と声を上げて笑った。
灰色の島。ここならワタシも紛れられそう、とポシェティケトはおどけてみせる。
灰色は真ん中のお色。明るいにも暗いにも化けられる。さて、ワタシの色はどちらかしら? 色とりどりだと嬉しいけれど、どうかしら。
ポシェティケトは森の中をお散歩。ああ、こんにちはお花さん。ちょっと染めてみても良いかしら?
『ええ、どうぞ! でも素敵な色にしてね!』
まあ、勿論だわ。ポシェティケトがじょうろでそっと花を濡らすと、淡い灰桃色にぱっと染まった。
『まあ! 綺麗なドレス!』
「まあ、とても綺麗。でも……まだちょっと灰色なのねえ」
困ったわ、と砂妖精のクララと顔を見合わせるポシェティケト。けれど、良いのよ、と花は言う。
『鮮やかな桃色より、あたしはこっちの色の方が好きだわ』
『灰色の鹿さん、貴方だって、其の色の貴方を嫌いじゃないでしょう?』
草々の問いかけに、ポシェティケトは少しだけ考えて――そうね、とにっこり笑った。
――うん、これは普通の葡萄。
史之はもぐもぐ、ごっくん。灰色だった果実を呑み込んで、目当ての果物ではない事を知る。
欲しいのは葡萄は葡萄でも、マスカットの方だ。桃はもう時期じゃない。林檎にはまだ早い。梨は傷みやすい。だから、マスカット。さっぱりしていて史之が好きな味だ。
あれこれと食べて確かめなければならないのが面倒だけれど、これはこれで少し楽しい。あ、これは結構粒が大きいな。どっちだろう。敢えて染めずに一口食べてみる。
――ん! これはマスカットだ。しかも結構美味しい。あの子の口にも合うかもしれない。
お口が高級志向なあの子、でも「しーちゃんが作るなら何でもいい」っていうあの子を思い出しながら、房に水筒の水を垂らす。其れは深い深い赤に染まった。其れは史之の瞳の色。あの子の瞳の色。二人を繋ぐ糸の色。マスカットなのに赤なんて、少し変だけれど。其れくらいの方が、あの子は喜ぶかもしれない。
綿雪みたいな髪を跳ねさせて喜ぶあの子を思うと胸が暖かくなる。
あと二か月。……あと二か月すれば、俺達は本当にこれからずっと一緒。随分と遠回りしてしまったけど、必ず幸せにしてみせるんだ。
なんでだろ。
この灰色の島は不安になるっていうか、……ちょっと、やだ。フランはそう思う。雨で染まるなら、ずっと雨が降れば良いのにと。
一緒に出掛けたかった人はみんな練達から帰ってこない。ログアウト出来ないのだという。目を覚まさないのだという。
ご飯を食べていても静かだし、面白そうな島を見付けても、誘えなくて私一人。
――やだなあ、寂しい。
いつになったら帰ってこられるんだろう?
草むらにしゃがみこんで泣きそうになってしまうけれど、きっともっと辛いのは、R.O.O.の中で戦い続けている皆だ。
どうせならわたしも、R.O.O.でみんなと一緒に――
そんな気持ちごと、水筒の水を周囲にぶちまけた。そんな事考えちゃ駄目だって、気持ちを切り替えるために。
――……灰橙色に染まった草むらは、フランをちいとも慰めてはくれない。
数秒だけの色。僅かな間の心模様。
「ドキドキ、します、ね」
ネーヴェは高鳴る胸を抑える。わたくしは何色になるのでしょう。
上陸した時に確認したけれど、海水が押し寄せる浜辺も灰色だった。心の色にしか染まらない島。良く判らないけれど、其処は専門家に任せるほかないだろう。
水は有限だ。水筒を片手に、どれを染めようかとうろうろするネーヴェ。どれに水をかけましょうか。草と花に水を掛けたら、違う色に染まるのでしょうか。
うーん、と迷った挙句、ネーヴェは樹になっていた果実を幾つかもぎ取ると、並べて水を掛けてみた。最初は興味の黄色。次は林檎に見えたからか赤色。次は食べづらそうな青色。消えて灰色になったら、もう一度。あれれ? 今度は最初の果実が葡萄色に染まってしまった。葡萄が食べたいのかしら?
ネーヴェの実験は、水筒の中身がなくなるまで続いた。ああ。勿論、ちゃんと美味しく頂きますよ?
「島が染まる、ねえ。なかなか不思議な現象があったもんだ」
ルーキスは灰色の山々と木々、そして動物たちを見て言う。そうだな、とルナールも僅かに警戒しながら周囲を見回す。危険のない島だとはいうが、其れでもこの灰色は、少し心がざわめく。
「無地のキャンバスみたいだね」
ルーキスはのんきに言いながら、葉を一枚千切り取る。其れは灰色をしている。葉っぱに水をかけてみると、穏やかなオレンジ色に染まった。まるで太陽の色だ。
「ルーキスはオレンジか」
「暖色ときたか。ルナールと一緒にいるし、きっと楽しいからかなー」
「じゃあ俺も」
ルナールも一枚葉っぱを取って、水筒の水を掛けてみる。すると、今度は。
「薄桃色?」
「……だな。うん。奥さんがいつも可愛いからだろう」
「もう、ルナールは隙あらば可愛いっていう」
「可愛いものはしょうがない」
「もー! あ、そうだ! どうせならこれ、河に流してみようよ。そしたらずっと染まるのが見れるかも」
そう言ってルナールを引っ張っていったルーキスだったが、直ぐ傍に流れていた灰色の川を覗き込もうとして、ずるりと土に足を取られた。
慌ててルナールが抱きとめたからいいものの、水筒の中身をそこら中にぶちまけてオレンジの世界にしてしまった。
「あー……」
「珍しいな、ルーキスのドジっ子要素を見た」
「たまにはあるよ。しかし、一足早い秋みたいな色だったね」
こんな観光も悪くない。灰色の世界で、二人、寄り添いあう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
楽しんでいる人、悩める人、様々な色が合ってとても楽しかったです。
この人はきっとこの色かな? と考えるのがとても楽しい時間でした。
MVPは愛おしい人の為に悩める貴方へ。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
いつしか壁に絵を描く話を書いた気がします。今度は島を染めましょう。
●目的
“灰色の島”を染めてみよう
●立地
海洋の静寂の海にある島です。
まったく全てが灰色です。枝を走るリスも、花の間を飛ぶ蝶も灰色をしています。
しかし水をかけてやると、彼らは様々な色に変化します。
自然の色だけではありません。赤、青、黄色。これは実は「貴方の心情」に合わせた色に染まっているのですが、其れはまだ誰も知らない事です。
秋ですから様々な果実が実っています。判りやすいものだと柿や葡萄でしょうか。
●出来ること
1.島を観光する
果実が豊富な島です。
灰色なので、林檎と梨の見分けがつかなかったりするかもしれません。
或いはただ灰色の島を見て回るのも良いでしょう。
此方は染めないで楽しみたい人向けです。
2.島を染める
水の用意は各自でお願いします。制限はありません。
水をかけると島の様々なものが様々な色に染まります。様々な色に染めてみましょう。例えば貴方が怒りをもって水をぶちまけたら、赤い森になったりするかも知れません。
染まった色は数秒で元に戻ってしまいます。一瞬の色を目に焼き付けましょう。
※ペンキ類の使用は禁止です!
●NPC
グレモリーが水筒を片手に色々なものに色を付けて回っています。
ものすごく真面目な顔をしています。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
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イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってイベントを楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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