シナリオ詳細
廃寺の襲撃者。或いは、彼女と妖の30日闘争…。
オープニング
●廃寺
豊穣。
カムイグラのとある山村。
外界との関りを断ったその村に、1人の女が足を運んだのは今からおよそ30日前。
女の名はサラシナ。
故郷を失い、武に縋り、長巻担いで武者修行に明け暮れる女武芸者である。
彼女の来訪を、村人たちは歓迎した。
そして、彼女が戦う力を持つ者だと分かると、もろ手を挙げて喜んだ。
曰く、村に滞在している間の飲食寝床は全て面倒を見る。
代わりに、村はずれの廃寺に住み着いた妖の群れを討伐してほしい……と、そういうことだ。
「妖怪たちは30日の長きに渡り、絶えず夜毎に貴女へ襲い掛かります。これまで多くのお侍や武芸者の方がお見えになりましたが、どなたも30日目……最後の夜を超えることはできませんでした」
短い者で数日、長い者でも29日で妖怪退治に失敗した。
なんでも、30日目の最後の夜に出てくる1体の妖が、かなりの強敵であるらしい。
その妖は見上げるほどの大男。
厳めしい面構えをした身なりの良い武者であるらしい。
「分かっているのは忌流という剣技を操るということだけ。幸い、これまでの方に死人は出ておりませんが、敗北を喫した方は皆、己の未熟を恥じ、村を後にしております」
村人たちが知る妖の情報は、これまでの滞在者が残した断片的なものでしかない。
例えば【流血】の止まらぬ傷を獲物に残すイタチの妖。
例えば【猛毒】を付与する毛の長い猿に似た妖。
例えば【窒息】を付与する布切れのような妖。
例えば【飛】と【ブレイク】の付いた貼り手をかます河童。
そして【必殺】【防無】の剣技を操る武士の妖。
そんな妖怪たちが毎夜、廃寺に泊まる者へ挑みかかって来るのだ。
「1日に1種類の妖が1~5体。しかし、最後の夜だけは総がかりで襲って来るとか。中には10名ほどで挑んだ方たちもいましたが……サラシナ殿はお1人で?」
「あぁ、うん。とりあえずは1人でいいさ。まぁ、途中で応援を呼ぶかもしれんが……その折は街へ手紙を届けてもらえるか?」
なんて、やり取りがあったのが、今からおよそひと月前のことである。
●百鬼夜行
「最初の夜は河童が1体。2日目にはカマイタチ、3日目には器物妖が2体、10日を超えれば2種の妖が合わせて4体……まるで試すみたいに襲撃して来る妖の数は日ごとに増えると手紙にはそう書いてあった」
そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、色褪せた和紙の手紙を広げて見せる。
墨で書かれた汚い文字を判読するのはきっと容易でなかっただろう。
「依頼の内容は要するに傭兵の真似事だな。30日目の最後の襲撃をサラシナと協力して乗り切ってくれ」
ちなみに、食料や酒の類は心配ないということだ。
何でも夜を超える度、村人たちが上機嫌で次々廃寺に運び込んでくれたらしい。
「妖が現れるのは決まって深夜0時過ぎ。数は日によって違ったらしいが、時間はいつも同じだったそうだ」
同時に数体纏めて現れることもあれば、まるで力士が土俵入りでもするみたいに、名乗りをあげて1体ずつ現れる日もあった。
どうやら、妖たちの方は廃寺への襲撃を遊戯か何かのように思っているようだ。
「廃寺の境内はそれなりに広い。サラシナは主に境内で戦っていたそうだが、廃寺へ至る階段も戦場として使えそうと記されていた」
およそ100段。
それなりに長い階段だ。
転倒し、転がり落ちれば幾らかのダメージを受ける高さと勾配である。
「カマイタチは2~3体纏まって行動することが多く、河童や猿は1対1の戦いを好む……布切れの器物妖は不意打ちが好みだそうだ」
これまで現れた妖は他にもいたが、脅威と感じたのは以上の4種類のみ。
そして、村人から得た情報によれば最終日に襲って来る妖は以上4種の精鋭たちとのことだという。
「残るは件の謎の武士……これまでのそいつに勝った者はいないという話だ。おそらくかなりの強敵だろう」
武士の名は不明。
目的も不明。
会話は可能だろうが、有益な情報を得られるかどうかも未知数。
「村人たちの様子も気になるな……なぜ、妖の頻出する土地に暮らし続けているのやら」
なんて。
依頼とは関係のない部分において、ショウは疑問を感じているようだ。
- 廃寺の襲撃者。或いは、彼女と妖の30日闘争…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月18日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●深夜0時
草木も眠る深夜0時。
賑々しくも、おどろおどろと廃寺へ向かう怪異の行列。
その数は都合30体。
先頭を進む武士らしき男に率いられ、河童に猿にイタチに布の妖が続く。
その様はまさに百鬼夜行。
妖怪たちの目的は、廃寺に泊まる旅の武芸者を相手とした30日の力比べ。
この夜こそはその30日目。
これまで挑んだ妖怪たちが、仕上げとばかりに大挙して廃寺へ押し寄せているのである。
一方、迎え撃つは29日をただ1人で勝ち抜いてきた女武芸者サラシナと、彼女の要請を受け現地へ集った8人のイレギュラーズ。
「29日間も一人で耐え抜くとは、大したものだな。尊敬する。この件が終われば試合ってみたいものだ」
「義によって助太刀致します。日に日に増える妖怪組手、しかしこちらが増えるのは想定してましたでしょうか?」
まずはひと当て。
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)とロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)の2人が数歩前へと進む。妖怪相手に爪の先ほどの恐れも抱かず、威風堂々とした佇まいにて睥睨するは廃寺へと至る石階段。
地を這うように駆け出して来たイタチが数匹。
さらに一陣の風に乗って寺門の上を布の器物怪が飛び越す。
2人がそれぞれ怪異を相手に戦う様子を横目に見ながら、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は境内の端へと移動した。
「たのもう! 『相撲』勝負に応じられる者は居るか!」
響く大声。
ざわり、と境内に到着した妖怪たちが騒めいた。
それから5匹の河童が列を離れてルーキスの元へと向かう。
「おう、オイラぁ相撲に目がなくてなぁ! ぜひ一番お相手願いてぇもんだ!」
ぱん、と腹を平手で打って巨躯の河童が腰を落とした。
金の髪を風に躍らせ『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)は名乗りを上げた。
「橋場・ステラがお相手します。名乗りを上げたりした妖も居たそうですが、誰ぞ私に挑む者はいませんか?」
妖といえど、その性格は千差万別。
3体で組を作るイタチのような者もいれば、河童や猿のように1対1での力比べを好む者もいる。
ステラの誘いにまんまと乗って、猿の妖はそちらへ向かった。
嬉々として雄たけびを上げているあたり、力比べが楽しみで仕方ないらしい。
妖怪たちにとって、戦う相手が急に8人増えたことなどいかにも些末な問題らしい。
驚いたような様子もなく、むしろ当然の流れとして各自がイレギュラーズの誘いに乗っていく。
基本的には正面からの力比べといった流れか。
そんな中、布の器物怪だけは感情らしき感情を発露せぬままに、風に乗ってひらりはらりと境内上級を浮遊している。
「怪談百物語みたく、30日の闘争を達成したら何かが起きたりするんッスかね……」
エーレンと共に布を相手取りながら『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は言った。
布の怪異は存在感がひどく希薄で、気を抜けばするりと意識から抜け落ちてしまいそうなほどだ。そういった自身の特性を理解しているのか、積極的に攻撃してくることはせず、虎視眈々と隙を伺っているのが分かる。
直接的な戦闘を得意とする鹿ノ子やエーレンにとって、布の怪異はやりづらい相手と言えるだろうか。
各所で戦闘を始めた妖怪たちを横目に、武士らしき男は一つ小さな吐息を零す。
「仕方のない奴らめ」
そう言いながらも、彼の口元には隠せぬ喜色が浮かんでいた。
相対するサラシナは、得物の長巻を肩から卸して交戦の構え。
真正面から武士を迎え撃つ心算なのだ。
サラシナには、妖怪相手に勝負を続ける義務などない。
途中で逃げ出しても良かったはずだ。
29日に及ぶ激戦の果て、サラシナは体に幾つもの傷を負っている。
けれど、彼女は逃げなかった。
30もの大軍を打ち破るべく、己の持てる全てを持って挑んできたのだ。
全てとはつまり、自身の武力だけでなく、助っ人を呼べる人脈も含まれる。
妖怪たちをサラシナは強敵と認めた査証だ。
そして、武士にとってそれはこの上なくうれしいことであった。
「で、1対1がお望みか?」
サラシナは問うた。
武士は腰の刀を抜き、正眼に構えて笑う。
「多勢に無勢大いに結構! どこから、何人でも参られよ!」
「いいの? ほら、キングを取ればチェスは勝ちじゃん?」
『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の問いかけに、武士は……否、妖怪たちは腹を抱えて大笑した。
「儂はそう簡単に負けぬし、輩たちもあれでなかなかの強者揃いよ!」
武士は確かに妖怪たちの大将なのだろう。
その一言をきっかけとして、明らかに周囲の妖怪たちの士気が上がった。
ぞわ、と背筋が粟立つほどの闘志が渦巻く。
雰囲気に飲まれはすまいと『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は一つ大きく空気を吸い込み、額に滲んだ汗を拭った。
「確かに強そうですね。背丈も私とそう変わらないです」
武士を相手に切り結ぶ気か。
刀を抜いて構えて見せる。
「30日目のお祭り騒ぎだ。お互い楽しもうじゃないか。僕もこの手のモノは嫌いじゃないぜ?」
『閃電の勇者』ヨハン=レーム(p3p001117)のその一言が、開戦のきっかけとなった。
●草木は眠るが妖は踊る
辺りの空気を押しのけてヨハンの周囲で魔力が渦巻く。
「さぁ悔いのないよう全力でかかってきな!」
サラシナにイレギュラーズを加えて9人。
対する妖の軍勢は30。
質ではどうか分からないが、数の上ではサラシナ陣営の不利は変わらず。
そして、数とはすなわち力なのだ。
一騎当千という言葉こそあるものの、実際にそれを実現できるかと言えばそうではない。
巨躯の獅子が鼠の群れに喰らい尽くされることもある。
「ハハ! 良いぞ! そうだ数の有利があるうちに上手に被害を与えないとな! 皆で力を合わせればアリア君や隠岐奈君にも有効打が与えられるかもしれないぜ?」
3匹1組となって駆けるイタチの群れへヨハンは声を投げかけた。
聞く耳持たずとカマイタチたちは一斉にロウランへ襲い掛かった。
ロウランの周囲を回るように旋回し、隙を見てはその脚を狙い風の刃で斬り付ける。
両手の魔石に魔力を纏わせ迎え撃つロウランだが、いかんせん相手が速すぎる。決定打を与えられぬまま、数度の斬撃をその身に受けた。
直後、ロウランの姿勢が揺らぐ。
見れば、右膝の裏がぱっくりと割れているではないか。
しかし、不思議と傷の深さに反して出血は少ない。
ここぞとばかりに、カマイタチはロウランへと殺到し……。
(なんだ、ちゃんと聞いているじゃないか)
その様を見て、ヨハンは内心ほくそ笑む。
指揮するように腕を振るえば、淡い燐光がまるで風の流れのように戦場を抜け、ロウランへと吹き付ける。
燐光を浴びたロウランの傷は瞬く間に癒え、崩れかけた体勢を彼女は強引に立て直した。
「キィ!?」
「攻撃がちまちま痛いですけど」
眼前に迫るカマイタチの顔へ、ロウランは手の平を向ける。
魔力の光がロウランの手を中心に煌めく。
カマイタチが異変に気付いた時には手遅れ。3匹、列を成したカマイタチへ向けロウランは凝縮した魔力の渦を解き放つ。
「攻撃がちまちま痛いですけど、こちらの一撃も、重くて痛いでしょうね!」
ごう。
空気が震え、暗い境内がほんの一瞬、真昼のような白に染まって……。
純粋かつ膨大な魔力の奔流が、3匹を纏めて貫いた。
河童の針てを顔面に受けて、ルーキスの鼻がぐちゃりと潰れた。
噴き出した血で口元を真っ赤に濡らしながらも、ルーキスは1歩も後退しない。
「っ……相手にとって不足無し!」
一撃が重い河童に対し、ルーキスは手数で渡り合う。
河童の出鼻をくじくように、その顔面や肩へ目掛けて張り手を見舞った。腰を低く落とし、上体を回転させるように放つ連撃に、溜まらず河童は踏鞴を踏んだ。
腰を低く落とそうともがくが、張り手のラッシュを前にしてはそれも叶わない。
「ぐ、ぉぉ!?」
河童が呻き、目を見開いた。
右と左、ルーキスの張り手はどちらも同じ威力、同じ速度……つまり、どちらもがトドメの一撃となり得るのだ。
事実、既に2匹の河童は土俵の外へと出されて、土俵の外で項垂れている。
そして……。
「3匹目っ!」
怯んだ隙に腕を取り、脚かけの要領で3匹目を土俵外へと投げ飛ばした。
最初の2匹は速度と火力で押し切った。
3匹目はフェイントを交えながら、手数で翻弄して御した。
4匹目の猿は、前3戦を見て学んだのか慎重だった。
黒き顎の一撃を回避し、速度に任せた攻撃は腰を低くし真正面から耐えきった。
人間に似た好戦的な笑みを浮かべ、お返しとばかりに猿がステラへと接近。まずは牽制とばかりに鋭いジャブを顎へと打ち込みステラの視界をぶれさせる。
次いで、叩き込まれたボディーブローがステラの内臓にダメージを負わせた。
よろり、と堪らずステラは膝を突き……。
「取った!」
以外にも流暢な発音でもって、猿は勝利を宣言した。
甘い。
地面へ視線を落としたままステラは思う。
「フィジカルはなかなかですが……策ではこちらが上でしょうか」
「っ!?」
「残念ながら、これもフェイントですよ」
一閃。
腕に纏わせた青光の刃が、猿の胸部を深く斬り裂き意識を奪う。
ばり、と空気の爆ぜる音がして、紫電が散った。黒焦げた猿は地面に倒れ、腹を抑えたステラはすっくと立ちあがる。
5人抜きまで、あと1匹……。
夜闇を切り裂く白き一条。
まるで流星のような軌跡を描き、振るわれたのは白い刃の太刀である。
鹿ノ子の放つ飛ぶ斬撃は、空を漂う白い布を半ばほどで断ち斬った。
「ひらひらふよふよしていても、僕から逃げることなんてできないッスよ!」
切断された布が、重力に引かれ落ちてくる。
落下地点へ急ぎかけよる鹿ノ子がトドメを刺すべく、担ぐように太刀を振り上げ……。
「布が狙ってる! 気をつけろ!」
エーレンが注意を喚起したが、遅すぎる。
瞬間、しゅるりと息を吹き返した白布が蛇のように身をうねらせて、鹿ノ子の顔に巻き付いた。
「む! むぐぅぅ!?」
「ちぃ……肉を切らせて何とやら、というやつか」
初めから、白布が狙っていたのは攻撃に転じる一瞬の隙であったのだろう。
斬られ、力を失ったように見せかけながら鹿ノ子へと迫った白布は、ほんの瞬きをする間に攻守を入れ替えて見せた。
「……しまったな」
鹿ノ子の窮地へはせ参じるべく、エーレンもまた隙を見せた。
見せてしまった。
視線を落とせば、彼の脚にはぐるりと白布が巻き付いている。木を這いあがる蛇のように、次第にそれはエーレンの上半身へと迫っていた。
白布を刀で斬ることは容易い。
ただし、代償として自分の脚も斬れるだろうが……。
「えぇい、ままよ」
幸い、力には自信がある。
脚に巻き付く布に手をかけ、力任せにそれを引きちぎるのだった。
リィン、と鈴に似た音が鳴った。
鹿ノ子へ向け、回復術を行使しながらヨハンは戦場を俯瞰する。
河童、猿、カマイタチは直に全滅するだろう。
布の怪異はまだ半数以上残っているが、積極的に襲って来る類の妖ではないため、注意していれば大した脅威になり得ない。
問題となるは、やはり件の武士か。
「まぁ、僕の読みが正しければ……」
サラシナと切り結んでいる武士を見ながら、そう呟いたヨハンの背後で白い布が蠢いていた。
サラシナの放つ大上段からの一撃を、武士は僅かに身を傾けて回避した。
同時にしかけたアリアの突きは、刀の唾で受け止める。
最小限の動作で2人の攻撃を捌き、匠な体操作により2人の体勢を崩して見せた。
場慣れしている。
戦い慣れている。
それも、1対1の戦いではなく、複数人を相手に長く戦い続けることに特化した戦い方だ。
最小限の動きで攻撃をいなし、隙を生んでは一太刀で継戦能力を奪う。
武士の戦い方はそのようなものだった。
「さて、まずは1人」
攻撃直後の隙を晒したサラシナへ向け、武士は刀の切っ先を向け……。
「私を忘れてもらっては困りますよ!」
サラシナとアリアを弾き飛ばすようにして、朝顔が戦線に割り込んだ。
攻撃の間を外された武士は、狙いを即座に朝顔へ変更。
朝顔と武士が刀を振るうのは同時。
刃と刃が交差して、火花が散った。
膂力は同等。
しかし、拮抗は僅かな時間のうちに終わった。
「ふむ、なかなか度胸のある女子だな」
そう言って武士は脱力した。
ふわり、と。
朝顔の体がよろめいて……。
一閃。
その肩から背中にかけてを、武士の刃が斬り裂いた。
「やっぱり小細工が通用する相手じゃなさそうね」
「はっ、問題ないさ。元より不得手だ!」
朝顔の巨躯に隠れるように、接近していたアリアが跳んだ。
伸びきった武士の腕の下をくぐって、その懐に潜り込む。
さらに、武士の刀へ向けてサラシナが横薙ぎを叩き込んで軌道を逸らした。
「む!?」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってことで」
アリアは短剣を武士の胸へと突き立てて、大出量の魔力を至近で解き放つ。
●夜が明ける
長い髪を振り乱し、鹿ノ子は太刀を旋回させた。
「そのひらひら細切れにしてやるッスよ!」
飛ぶ斬撃により撃ち落とされた布の怪異は、地に落ちる前にエーレンによって斬り捨てられる。当初こそひらひらとした動きに翻弄されていた鹿ノ子だったが、敵の動きを見切ってからは、跳ぶように駆け、連撃を叩き込むことで反撃の隙を潰していた。
「およそ片が付いたか……」
最後に残った1体を、刀で地面に縫い付けたエーレンは一息入れて背後を見やる。
境内のそこかしこでは、妖対イレギュラーズの戦闘が終わりを迎え始めていた。
ルーキス、ステラは河童と猿妖を倒し終え、ロウランは最後に残ったイタチを追いかけているところだ。
しかし、勝ったとはいえルーキスとステラは消耗が激しい。
「ヨハンに治療を……いや、武士の相手で手一杯か」
仕方ない、と。
そう呟いたエーレンは、鹿ノ子を伴い2人の介助へ向かうのだった。
踏み込みと共に放つ斬撃。
受け止めたのは朝顔だった。
刀を弾かれ、大鎧を刃が打った。衝撃が内部まで突き抜けて、一瞬、朝顔の意識を飛ばす。
「例えこの身が倒れても……先輩方に繋げる為に!」
口の端から血を零し、朝顔は吠えた。
伸ばした腕が、武士の手首を掴んで絞める。ギシ、と骨の軋む音がして、武士は僅かに顔を顰めた。
それでも刀を手放さないのは大したものだ。
しかし、腕を掴まれたことで武士の動きは制限される。
圧倒的な窮地において、しかし武士は笑っていた。
その様子を見て、アリアはここに来て以来、感じていた疑念を確かなものと確信する。
「考え事なら後にしてくれ!」
一瞬、動きに迷いが生じたアリアへ向けてサラシナが怒鳴る。
はっ、と戦いに集中しなおしたアリアは先行して武士へと接近。さきほど技を撃ち込んだのと同じ位置へ、短剣を向け……。
「刀が無くとも!」
その胸に武士の前蹴りを喰らい、後方へと倒れ込む。
絶好の機会を潰された。
朝顔の拘束から抜けた武士が、再び刀を正眼に構える。
即座に放つ斬撃が、朝顔とサラシナの肩や胸部を斬り裂いた。
ここから武士の反撃が始まる。
その時、誰の目にもそう映っていただろう。
「まぁ、僕がいる限りは不可能だがね!」
ただ1人、ヨハンを除いては。
見れば、いつの間にかヨハンが前線へと上がって来ていた。
彼を中心とし、燐光が周囲を舞っている。
その光を浴びた朝顔とサラシナの傷は癒え……。
「ちょっとばかし卑怯かもだが」
なんて、言って。
サラシナと朝顔が同時に放つ斬撃を、無防備なまま武士はその身に受けたのだった。
「……まるで、力試しの為にここに来ている、そんな気がするけど?」
倒れた武士に手を貸しながらアリアは問うた。
起き上がった武士は、刀を鞘へと納めると呵々といかにも愉しそうに笑ってみせる。
それから軽く手を振ると、それを合図に倒れていた妖たちが起き上がった。
第二ラウンド……と言うわけでも無いようで、妖たちはざわざわと愉しそうにしながら境内を去っていくでは無いか。
「いやはや、負けた負けた。良い戦であったな!」
なんて。
そんな風に笑う武士へとヨハンは告げる。
「暇潰しかな? それとも、何かの賭け事か? とにもかくにも、少し趣味が悪くないかな……えー、村長とでもお呼びして宜しいか?」
ピタリ、と。
武士は笑うのをやめ、ヨハンへと視線を向ける。
「村長?」
困惑したのはサラシナだ。
村の住人の頼みで妖退治に来たのに、まさかのマッチポンプであると聞かされて、内心穏やかでいられないのだ。
「村長なんて柄では無いな。無頼の輩のまとめ役と言うだけよ」
なんて。
それだけ言って、武士もまた境内を出て行った。
翌朝。
廃寺の前に大金の詰まった木箱が届けられた。
昨夜の戦いを制した報酬なのだろう。
それから。
つい昨日まで、そこにあった小さな村はまるで霞か何かのように姿を消していたのである。
きっと彼らは、次の場所へと移動したのだ。
次の遊び相手を探して。
今日もどこかの武芸者が妖怪退治を依頼されていることだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
30日の妖怪退治は無事に最終夜を超えました。
村と妖怪たちはいずこかへ消え去りましたが、依頼は成功です。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
妖たち(×30)の撃退
●ターゲット
・武士の姿をした妖×1
裃を身に付け、刀と脇差を携えた武士。
40がらみの厳めしい面構えをした男。
30日目の夜にだけ現れる、妖たちの大将格のようだ。
忌流・魔王の太刀:物近単に特大ダメージ、必殺、防無
・カマイタチ×12
3体1組での連携攻撃を得意とするイタチの妖。
「速いぞ、気を付けろ」とサラシナはコメントを残している。
斬撃に【流血】の状態異常が付与されている。
・布の器物妖×7
不意打ちを得意とする布の器物妖。
狭い場所でも入り込めるし、風に乗って空を漂うこともある。
「ひらひらと鬱陶しい!」とサラシナはコメントを残している。
顔に巻き付かれると【窒息】する。
・毛の長い猿の妖×5
1対1での力比べを好む猿に似た妖怪。
力が強く、動きが速い。
「猿ってのは随分とすばしっこいんだな」とサラシナはコメントを残している。
攻撃には【猛毒】が付与されている。
・体格の良い河童×5
1対1での力比べを好む河童。
「地面に倒れたり膝を突いたりすると、すごく落ち込んで帰っていく」とサラシナはコメントを残している。
【飛】【ブレイク】の効果がある強力な張り手を武器とする。
●依頼人
・サラシナ(鬼人種)×1
黒の総髪を後ろでくくった女武芸者。
180近い長身と鍛え上げられた肉体を持つフィジカルに優れた女性である。
武者修行の途中、立ち寄った山奥の村で妖怪退治の依頼を受けることになる。
30日間、次々と襲い来る妖怪に連戦連勝。
しかし、いい加減に人手不足を感じたようで30日目を前にイレギュラーズへ応援を頼んだ。
静心一閃:物至範に中ダメージ、乱れ
自身を中心として放つ長巻による一閃。技を放つその瞬間、彼女の心は無の境地へと至る。
●フィールド
カムイグラ。
山奥にある地図に載っていない村。
村はずれにある丘の上。
廃寺およびその周辺が戦場となる。
廃寺へと至る長い階段は急で、転がり落ちれば幾らかのダメージを受ける。
夜ではあるが、満月のため視界に問題はない。
※廃寺には食料や酒が備蓄されている。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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