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シナリオ詳細

<オンネリネン>闇夜に白き花は咲いて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●子供達と子供達
 アドラステイア外部、その周辺地域。今は廃村となった村々の残滓だけが残る、傷ついた地。
 その一角を、6人の子供達が身をひそめるように進んでいた。その誰もが、着の身着のまま、と言った様子で、簡素な貫頭衣を着ている。子供たちを率いる、一人だけが、軽鎧と剣を佩いて、月明かりに目を凝らしながら辺りを見据え得ていた。
「この辺りまでくれば、追手は……」
 と、軽鎧の少年が呟くと、まるでそれに応じたみたいに、ぽつぽつと松明の明かりがいくつも灯った。それらはアドラステイアの方からやってきていて、その明かりの主がアドラステイア所縁のものであることを物語っていた。
「来るよね。知っているさ。オンネリネンってのはそう言う所だ――」
 少年は呟くと、子供たちを安心させるように微笑んだ。
「大丈夫。すぐには見つからない。この辺には、似たような廃墟が山ほどあるからね。まずはそこに隠れよう」
 怯えるような子供達=少年とさほど年の差のない、10歳前後の子供達。彼らは、アドラステイアが擁する傭兵部隊、オンネリネンに『補充』された子供たちだった。いずれも行く当てのない子供たちである。新たな家族に紹介するといわれて連れてこられたのが、彼の魔窟だった。
「オンネリネンの言っていることは綺麗だけど、実体にはひどいものだ」
 少年が言う――名を、カープロと言った。カープロは、オンネリネンに所属する、傭兵の一人だった。オンネリネンは、アドラステイアに補充された孤児などの子供たちを傭兵として運用し、他国に派遣。使い捨てにする。
 子供たちを結び付けるものは、家族やきょうだいと言った、絆と言う鎖だ。家族がいきるために、きょうだいの幸せのために、戦って、お金を稼いで、それで死んでも構わない、と教育される。その絆はとてもきれいで、強固だ。
「奇跡的に、死んだ子が返ってきたんだ。酷い傷だらけでね。皆、その子が死んだことにとても悲しんだ。
 ――でも、皆こう言うんだ。この子の命は、ぼく達の糧になった、と。この子が命懸けで稼いでくれたお金で、ぼく達は暮らせるって。
 それは事実なんだと思う。でも……その光景を見た時に、ぼくはすごく、ざわざわとした感じを覚えたんだ。それは、オンネリネンの家族になって、色々と大切な何かを忘れていたぼくに、本当の神様が最後に残してくれた心なんだと思う……」
 背後から、子供達の声がおってくる。同年代の子供達の声。オンネリネンの傭兵たちの声。立場を見れば、カープロはつまり脱走兵で、連れている子供たちは、オンネリネンの思想にまだ染まり切っていない、新入りの補充兵だという事だろう。カープロは、まだ引き返せる子供たちを連れて、脱走した……。
 カープロは、一人の少年の肩に手をやると、「ごめんね、リュリュ今から君に、とてもつらいお願いをするよ」と言った。
「君は、訓練でもとても体力があって、足が速かった……それに機転もきく。だから、このお願いにうってつけなんだ。
 ここから南にしばらく走ると、街道に出る。そうしたら、街を目指して。ローレットって言うギルドが、そこの街にもあるはずなんだ。そこで大人たちに……本当に信頼できる大人たちに、助けを求めて。僕たちは、廃屋に隠れてる」
 リュリュは頷いた。幼いながらも聡明な彼は、この場において全員を率いて逃げ出すことは困難な事、一人だけならまだ追手を撒くことが出来る事、この場においての最適解は、速やかに援軍を連れてくることであると、理解できたのだ。
 だからリュリュは、一人で暗闇を行くのは怖かったけれど、それを飲み込んで頷いた。
「ありがとう、リュリュ。行って。君のことを、皆信じてる」
 気休めのカープロの言葉を、リュリュは胸に刻み込んだ。荒れ果てた廃村の地面を踏みしめて、月明かりを頼りに、リュリュは南へと走り出した。

●救援
「ローレット、ローレットは、どこですか」
 と、天義、アドラステイアに近い街に滞在していた白夜 希(p3p009099)は、街路のど真ん中で、ボロボロの様子でそう叫ぶ少年を見つけて、これはただ事ではないと即座に察知した。
「どうしたの、大丈夫?」
 希が駆け寄り、その肩を抱いてやる。
「心配しないで。私はローレットの一員。落ち着いて。ゆっくり話して」
「実は……」
 リュリュ、と名乗った少年の言によれば、アドラステイアのオンネリネンから、自分たちを連れだしてくれた『お兄ちゃん』がいるのだという。だが、お兄ちゃんと残る仲間達は、オンネリネンの追手に追われ、今はアドラステイア近辺の廃村、その廃墟の中に隠れているのだというのだ。
「アドラステイア……オンネリネンか……」
 希は悔し気に眉をひそめた。オンネリネン。近頃活動が活発化している……その根本をたつ術を、ローレットは未だ模索している最中であった。
「お兄ちゃんは、僕に、助けを呼んできて、って言ったんだ。ローレットの人は、助けてくれる大人だって……。
 だから、お願い。お兄ちゃんを、皆を助けて……!」
 その言葉に、希は安心させるように頷いた。
「わかった。仲間を連れて、すぐに救援に向かう。
 貴方も疲れてるでしょ? ローレットの出張所に案内する。そこで待ってて」
 希はリュリュを抱き留めると、ひとまずローレットの出張所へと向かうのだった。

●月下
 ローレットの救出部隊が結成され、舞台が廃村へと到着したころ。
 その一方で、カープロは一人、廃墟と化した小屋を前に、剣を構えていた。
「トゥイヤか……君の隊が来るなんてね。しかも、聖獣を連れて」
 トゥイヤ、と呼ばれた黒髪の少女は、悲し気に目を伏せた。
「カープロ……あなたと私は一緒にオンネリネンにやってきて、一緒の隊で過ごしてきました。本当のきょうだいみたいに思っていたのに……」
「今もそう思ってる……ほんとは君も連れ出したかった」
「そう思うなら、どうして逃げたりしたんです!」
 トゥイヤが叫ぶ。カープロは頭を振った。
「ぼくじゃ、全部は助け出せない……ぼくじゃ、ダメなんだ。君も、きっと家族と言う鎖からは助け出せない」
「家族は、絆です……一緒に生きていくための!」
 それがまやかしなのだ、とカープロは言えなかった。言った所で、伝わらないのだ……絆と言う枷にはめられてしまった彼女には。言葉はきっと、届かない。
「マザーは、家族を害するものは殺してもいい、と言っています」
 トゥイヤが瞳に涙を湛えながら、言った。本当に、悲しんでいるのだろう。でも、殺さなければならないのだ。家族のために。
「逃亡者、カープロ。あなたをここで……やっつけます」
 殺す、と言えなかった。
「やさしいな、トゥイヤ……」
 カープロは呟くと、剣を持つ手に力を込めた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 オンネリネンの手から、逃げ出してきた子供たちを救出してください。

●成功条件
 『逃げ出した子供達』一名以上の救出
  オプション――カープロの生存

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 カープロと言う少年が、6名の子供たちを連れ、アドラステイア下層のオンネリネン支部施設より脱走しました。
 カープロは、子供たちを連れてオンネリネンの外、外縁部の廃村に逃げ込みます。
 しかし、そんな彼を追うのは、トゥイヤを始めとする、かつての仲間であるオンネリネンの子供達。加えて、貸与された聖獣です。
 カープロの基点によって、リュリュという一人の子供が街へと逃げのび、ローレットのイレギュラーズに接触。救出を依頼します。
 皆さんは、そんなリュリュの願いをうけたイレギュラーズとして、廃村へと向かい、残る5名の子供たちを救出してください。
 作戦決行タイミングは夜。
 周囲は暗く、廃墟の立ち並ぶ廃村になっています。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
 活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。

●大雑把なキャラクターの立ち位置
 シナリオ開始時点では、各キャラは大体このような位置関係にあります。
   
   北

オンネリネン部隊
 聖獣とトゥイヤ

  カープロ
子供達の隠れる小屋

オンネリネン部隊

 イレギュラーズ

    南

 イレギュラーズの開始位置ですが、プレイングによって変更しても構いません。
 ただし、北側に回るほど、移動に少々時間が必要になります。

●エネミーデータ
 トゥイヤ ×1
  オンネリネン部隊の隊長です。黒髪の優しい女の子。
  魔術師としては大人顔負け。『火炎系列』・『凍結系列』・『痺れ系列』を付与する三色の魔術を使い分けます。

 聖獣:タイプ・メハビアー ×1
  巨大な槍を持った、瘦身の人のような形状をした聖獣。
  近距離レンジの物理攻撃を主に使用してきます。『毒系列』のBSにご注意を。

 オンネリネン傭兵 ×15
  オンネリネンの少年兵たちです。性格や姿は様々。共通していることは、死ぬまで戦いを継続する事、ローレットを憎悪していること。
  北側に5名、南側に10名配置されています。全員が近~中距離レンジの攻撃を行ってきます。
  イレギュラーズ達よりは格下の相手で、特筆すべき能力はありませんが、その分数は多めです。

●救出対象
 子供達 ×5
  カープロが守る、小屋の中に隠れた子供たちです。全員が10歳前後の子供達で、オンネリネンに所属してから日が浅く、まだ洗脳され斬っていません。
  救出対象はこの子達です。一名でも救出すればシナリオは成功となります。とはいえ、小屋にまとまって隠れているため、よほどのことがない限りバラバラに逃げ出したりはしないでしょう。

●味方NPC
 カープロ ×1
  もとオンネリネンの少年兵です。茶色の髪の聡明な少年。剣を用いた大人顔負けの剣士。
  放っておけば、トゥイヤ、聖獣と戦闘を行います。戦闘能力は並程度、まともに戦えばトゥィヤは倒せますが、聖獣相手には厳しいでしょう。
  彼の生存は成功条件には含まれません。NPCですが、何らかの手段で指示を伝えれば、それに従います。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <オンネリネン>闇夜に白き花は咲いて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
アルシィ・コルティス(p3p009470)
リスタート勇者
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵

リプレイ

●届いた声、届かない声
 夜闇包む、廃村。そこにある一見の廃屋を背にして、カープロはきょうだいであった少女、トゥイヤと対峙していた。
 ゆっくりと、カープロは剣を構えた。せめて、少しでも時間を稼ぐことが出来れば。大人たちが……ローレットのイレギュラーズ達が、助けに来てくれるまでの、時間を稼げれば。
「どうしてわかってくれないんですか……!?」
「ごめんよ、トゥイヤ。きっとぼくたちは、信じてるものが違い過ぎたんだ……」
 カープロが、ゆっくりと息を吸いこんだ。敵意を、トゥイヤにぶつける。トゥイヤは息をのんだ。泣きそうな顔になりながら、杖を構える。
 一触即発――廃屋の向こう南側から、人がやってくる気配がしたのはそんな時だった。

「み、見つけたわ……!
 確かに、小さい子供達……あ、あんなことするの、間違いなくオンネリネンよ……!」
 『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)が、走りながら声をあげる。目薬の力を借りた奈々美の目に映るのは、廃屋を囲むように配置された10名のオンネリネンだ。
「こ、今回は、あのへんなアライグマはいないわね……よかった……!」
 鉄帝、ノーザン・キングスの地域で遭遇した将軍を思い浮かべながら、奈々美が安堵の声をあげる。流石に天義の方まで出張っては来ないだろうが、奈々美にとっては、オンネリネンとセットで因縁のある相手だ。
「オーライ、ならおれたちのやることは一つだ。
 まとめて救う。全部な。
 なにせ、頼れる大人だって言われたんだ。子供の信頼には応えてやらにゃ、大人の看板がすたるってもんだ」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が言う。助けを求めてきた少年……リュリュと名乗った子は、ローレットに助けを求めてやってきた。助けてくれる大人たちだ、と。ならその期待に応えてやらなければならない。
「ろ、ローレットのイレギュラーズ!?」
 子供達が浮足立ったように声をあげる。イレギュラーズ達の姿を見た、その反応は様々だったが、しかし共通するのは、こちらに対する一方的な憎しみと敵意。
「……っ! すごく、睨まれてる感じが分かるよ! 悪い噂を立てられてるみたいだね……!」
 『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)が言う。話によれば、オンネリネンの子供たちは、ローレットのイレギュラーズ達を憎むように教育されているのだという。例えば、外で死んだ子供たちは、ローレットに殺された……などと教え込まれているのだそうだ。
「家族やきょうだいが殺されたって教えられたら、そうなっちゃうよね……! 誤解を解きたいけど、今は戦うしかないんだったね?」
 少し悲し気にンクルスが言うのへ、
「ええ。彼らは洗脳されていますので。恐らく倒れるまで戦い続けるでしょう」
 『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)が、優雅に武器を構えながら言った。
「とは言え、今回依頼を持ってきた少年のように、統制から外れるものもいるのですね。
 或いは、洗脳が完全ではない頃から使わざるを得ないという意味で、オンネリネンも人材に余裕がないのかもしれませんけれど」
「ローレットも、結構オンネリネンの事件を解決してるからな。向こうの大人共に焦りが出てるなら、それは良い事だ」
 ヤツェクが笑う。
「ですが、目の前の子供たちは相応に教育されているご様子。
 ンクルス様、奈々美様? 覚悟のはよろしいですか?」
 アリシスの問いに、二人は頷いた。
「だ、大丈夫……! ま、ま、前も戦った事、あるし……!」
「本当の家族の温かさを教えてあげるんだ! みんなを助ける、その覚悟ならあるよ!」
「よし、じゃあ行こうか」
 ヤツェクが言った。
「おれたちの仕事は……まずは南の敵を引き付ける事だ。別チームを、カープロ少年援護のために北に向かわせる……。
 その後は、敵の合流を防ぐために南側の敵の足止め。OK?」
「問題ないですよ」
 アリシスが微笑む。合わせるように、二人も頷いた。
「よし、じゃあンクルス、子供達に名乗ってやれ」
 ヤツェクの言葉に、ンクルスは頷いて、こほん、と咳払い。
「では……。
 私はンクルス・クー。皆に創造神様の加護がありますように。
 そして悪い人には天罰を! このシスターの輝きを恐れぬなら掛かってこーい!」
 ばっ、と片手をあげて、戦闘用修道服のすそを少しだけ翻して。ンクルスはそう宣言した。それは、敵を引き付けるための名乗り口上。
 ンクルスの宣言に、子供たちは武器を構えて、にらみつける。その敵意にさらされながらも、ンクルスは堂々と立ちはだかった。
 やがてどちらともなく駆けだすと、夜闇の中、戦いの華が咲き乱れる事となる――。

●防衛、突破
「きっと、うらぎりものを助けに来たんだ!」
「ここでローレットをやっつけよう!」
 子供達が声をあげて、武器を振るう。放たれた炎の術式が、闇を照らしながらンクルスへと迫る。ンクルスが身を庇うように両手を構えると、その足元に着弾した炎が火炎を巻き上げてンクルスの身体に迫る。
「わっ、すごい魔法だね! 確かに、これは大人顔負けって奴だ。けどっ!」
 ンクルスは駆けだす。降りしきる炎の魔弾を回避しながら、前衛剣士の子供へ。子供たちもンクルス目がけてかける! 振り下ろされた剣を、ンクルスはその手で捌くように受け流すと、そのままくるり、と体勢を入れ替えて、子供の頸動脈を締めあげた。チョークスリーパーの形である。気道を防がぬように、しかし頸動脈を止めて失神に持ち込む技だ。
「ちょっとくらっとするけどごめんね!
 奈々美さん、魔法部隊の方、足止めお願い!」
 きゅっ、と剣士を一人締め落としてノックダウンさせると、ンクルスは次なる敵と対峙する。一方、奈々美は、
「わ、わかった、わ!
 ううぅ……こ、子供たち……。キッツいの撃つけど、死なないでよね……!」
 頷くと、その光るステッキを高らかに掲げた。途端、降り注ぐ鉄の星――召喚された鉄の流星が、子供達のど真ん中に向けて降り注ぐ。
「わ、わぁっ!!」
 子供達が悲鳴をあげて逃げ纏った。しかし、落着に伴う爆発と衝撃は、子供たちを捉えて逃がさない。痛みが子供達の体力を確実に削っていく。が、本来なら泣き出して逃げ出してもおかしくないはずの状況に、しかし子供たちは敵意と闘志をむき出しに立ち上がる。悪夢のような光景ではあったが。
「こ、こんなの……あっちゃいけない、わよ……!」
 少しだけ苦し気に、奈々美は叫ぶ。しかしここで、見るに耐えないと逃げ出すわけにはいかない。たとえ今は傷つけあったとしても、彼らを助け出せるのは自分たちだけなのだ。
「分かっております。止めはお任せを」
 アリシスが声をあげ、その手を掲げる。空から降り注ぐ清浄なる裁きの光が、鉄の隆盛と共に子供達に降り注ぐ。慈悲と裁きを兼ね備えた光は、子供達の悪しき闘争心のみを貫いて、ひと時の眠りに落とす。
「教え込まれたまま命を捨てれる純粋さは子供故でしょうが……それにしても、よくこれだけの人数を集めて教育できるものですね。
 それだけ、件の大人たちはご苦労なされているのでしょうが。しかし……アリの一穴と言う言葉もあります。
 カープロ様のような小さな反乱から、組織が瓦解する可能性も充分に。ふふ、それは必死にうらぎりものを潰そうというものでしょうね」
 くすくすとアリシスが笑った。その嘲笑は、子供を使って子どもを狩ろうとした、アドラステイアの大人たちへと向けて。
「さて、ヤツェク様。道は開かれました。そして――」
 アリシスの言葉に頷くは、残り四名のイレギュラーズ達。
「ありがとう。貴方達の作ってくれた道、無駄にはしません!」
 うち一人――『律の風』ゼファー(p3p007625)が言った。
「ええ、必ずみんな救ってみせるわ。頼れる大人ですからね。まぁ、わたしはまだ18ですけれど?」
 ゼファーはウィンク一つ、一気に駆けだした。仲間達の猛攻により開かれた道を全力で突破し、四名のイレギュラーズは北へ、廃屋を越えて、カープロが戦うエリアへと向かう。
「さて、後はこっちの足止めと」
 ヤツェクは笑いながら、廃屋を背にした。窓を拳で軽く叩き、
「おい、居るかい? リュリュからお願いを受けてきたんだ。ローレットのイレギュラーズだ」
 声をかける。しばらくしてから、おずおずと、探るような子供の声が聞こえた。
「助けに来てくれたの……?」
「その通り。でも、今は回りがちょっと騒がしい。静かになるまで、ここで大人しく待っててくれるか?」
 ヤツェクの言葉に、不安げな吐息が聞こえる。ヤツェクは子供たちを落ち着かせるように、穏やかな声音で言った。
「大丈夫だ。必ず、おれたちが助ける。大人を、信じてくれ」
 その言葉に、しばしの逡巡の後、
「うん……わかった」
 と、子供達から声が上がった。ヤツェクは「頼むぜ」と頷くと、仲間達へと視線をやる。
「後は、皆を落ち着かせるだけ、だね!」
 ンクルスの言葉、
「か、数は相手の方が多い、けど。負けられない、わ……!」
 そして奈々美の言葉に、皆は頷いた。
「さて……聞き分けのない子供には、少しだけお仕置きしないとな」
 ヤツェクはにやりとわらい、古びたアコースティックギターをならして見せた。

 炎の魔術、氷の魔術、雷の魔術が飛び交う。その中を、カープロは剣を構えて跳びまわる。トゥイヤから放たれる魔術は、カープロを捉えることなく、辺りにその後を残していた。何処か、ぎりぎりのところで躊躇してしまっているのか。覚悟と言う点だけで見れば、カープロの方が、トゥイヤよりは出来ていたかもしれなかった。
「トゥイヤを守るんだ!」
 形勢不利を悟ったのか、オンネリネンの子供達、そして聖獣が一歩前に出る。一気にかかられては、カープロは間違いなく、敗北の憂き目にあうだろう――だが、闇を裂く閃光が、この時、オンネリネンの子供たちを一気に薙ぎ払った。それは、命を奪うことなく悪しきを穿つ、聖なる光であった。
「わ、わあっ!」
 直撃を受けた子供達が呻く。痛みに顔をしかめながら、それでも剣を取り落とさず、前方を見た。
「……加減をしてやったのは、勘違いしないで頂戴、こっちの方が都合が良いからよ」
 前方――光撃の人、『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)が言う。
「私にとっては、アンタ達、視野の狭い連中がどうなろうと知った事ではないわ。
 でも、ローレットでは依頼達成の為に協力し合うのよ。それくらい守るわ」
「ええ、ありがと。助かるわ」
 隣にいた人影、ゼファーが言う。ジュリエットが、ふん、と鼻を鳴らす。
「それこそ勘違いよ。でもいいわ、これも仕事だもの。
 それに、ええ、兄弟、家族、絆……口に出すのは簡単だけど、その繋がりを本質的に理解しているかは別物よ。
 カープロという少年は外の世界、見える視点が広がったから気付いたんでしょうけど。なら話は早いわ。
 ねぇ、カープロ。見ての通り、助けに来たわ。ローレットのイレギュラーズよ」
「ええ、ええ。
 私達は貴方に呼ばれた。
 だから此処に来た。
 居るのかも分からない神様なんかより、ずっと頼りになるわよ?」
 ウィンク一つ、ゼファー。一方でジュリエットは、再びふん、と鼻を鳴らした。
「でも――私、ただ黙って助けられるのを待ってるのとか、つまらないから嫌いなの。
 精々、思いっきりその子と喧嘩なさい。その間は、ええ、邪魔者くらいは足止めしてあげるわ」
 つかつか、とジュリエットがオンネリネンの子供達、そして聖獣へと立ちはだかる。
「ええ、っと」
 カープロが声をあげるのへ、
「つまり――家族やきょうだいとは、時にぶつかり、本音をぶつけ合うものです!」
 と、『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)が、カープロの横から、にゅっ、と顔を出しながら言った。
「カープロ少年! 助太刀に参りましたぞ! 共に"皆を"救いましょうぞ!」
 にこり、とウインクができていたならそうしたように、ヴェルミリオは笑う。
「ですが、トゥイヤ殿とはお話したいことがありましょうぞ。存分に話、ぶつかり――その手を差し伸べるのですぞ!」
「大丈夫……誰も死なせない。キミ達も、あの子達も!」
 『リスタート勇者』アルシィ・コルティス(p3p009470)が、真摯な視線を、カープロへと送った。
「聖獣はボク達に任せて。あの女の子のこと、お願いできるかな」
 カープロは頷いた。
「お願いします。あの子は、ぼくが」
「さぁ、行きましょうぞ、皆様!」
 ヴェルミリオの言葉に、アルシィが、仲間達が頷く。
「うん! みんな、助け出すんだ!」
 そして、最後の戦いの火ぶたは切って落とされた。

●すべてを救うために
 汚れた槍が、鋭く振り下ろされる。聖獣:タイプ・メハビアーの放った槍の一撃を、アルシィは手にした剣で捌き、受け流す。
「でやぁあっ!」
 雄たけびと共に、激しい斬撃を見舞うアルシィ。上段から振り下ろされた刃を、聖獣はまともに受けた。ヴヴ、と唸りをあげて、黒い煙のようなものが、血のように吹き出す。
「……っ! このにおい、毒で……!?」
 瞬時に察したアルシィが、口元を抑えて飛びずさる。聖獣は、己の身体から吹き出した毒の煙を槍へとまとわりつかせ、再び振るった。アルシィは剣で受け止めて跳躍。大げさに剣を振るって、毒の煙を吹き払ってみせる。
「アルシィ殿! 大丈夫ですかな!?」
「ボクは大丈夫! 他の子を先に大人しくさせて!」
 ヴェルミリオの言葉に、アルシィはそう答えた。
「承知!」
 ヴェルミリオが叫び、その手を力強く突き出した。放たれた聖なる光が一直線に飛んで、子供の一人の心を穿ち、意識を刈り取った。
「申し訳ありませんが……今は眠っておいてほしいですぞ!」
「さて、あれだけ大見えを切って助け出せない……とはいかないわね」
 再び聖なる裁きの光を降らせるジュリエット。夜の闇を裂く光が子供たちを穿つ。元より、こちらに配置された子供達の数は少ない。子供たち自身は、瞬く間に鎮圧されていった。
「これで、最後!」
 ゼファーの放つ鋭い槍の攻撃。次々と放たれる乱撃は、確実に人体急所を狙い、無力化を行いながらも命は奪わぬという、力量があるが故の繊細な攻撃を実践してのけた。剣士の少女が倒れるのを、ゼファーは優しく抱き留め、地面へと横たえる。
「このままあのデカブツを仕留めるわよ、皆!」
「承知ですぞ!」
 ぐわっ、と力強く振るわれる槍が、剣を構えたアルシィを吹き飛ばす。一対一による攻防、アルシィは相応のダメージを負ったが、ぎりぎりのところで立ち上がる。
「ごめん、ボク一人じゃ倒しきれなかった……!」
「なんの! そのための仲間でありますぞ!」
 ヴェルミリオが、自身の身体を使った強打を撃ち放つ。聖獣はヴヴ、と雄たけびを上げて、その体勢を崩した。
「そう言うのは趣味じゃないけれど、アンタが作った隙は利用させてもらうわ」
 ジュリエットが放つ、黒いキューブ。今度は加減してやる義理は無い。全力の術式が、不吉のキューブの中に聖獣を捉えた。聖獣が、その激痛におたけびをあげるのへ、ゼファーが駆ける!
「……ごめん。貴方は、助けられなかったけれど」
 ゼファーが呟く。振るわれた槍が、聖獣に貫き傷をつけた。その傷口から空へ向けて、まるで魂が昇天するかのように黒い煙を吹きだした。やがてその煙が立ち消える事には、カサカサと乾燥した肉体の中に、小さな子供のおもちゃのようなブレスレットが、転がっていた。

 一方で、カープロとトゥイヤの戦いも、終わりを迎えようとしていた。雷が地を走り、それを何とか避けて見せたカープロが、トゥイヤを突き飛ばして、そのまま剣を突きつける。
「カープロ」
 トゥイヤが、言った。
「……ごめんね。何か素敵な言葉を言おうと思ったけれど、なにも浮かばないの。ただ、もっとあなたと遊びたかったな、って」
「ごめん、トゥイヤ」
 カープロが、その剣を振り下ろす――刹那、その剣を弾き飛ばしたのは、アルシィだった。
「イレギュラーズさん?」
 カープロが、目を見開いて驚いた。アルシィは、おずおずと、言った。
「今からでも、きょうだいとして生きていくことは、できるんじゃない、かな……?」
「その歳で、それだけの魔術を扱えるのよ。殺すのは惜しい才だわ」
 ジュリエットがじろり、とトゥイヤへ視線を向ける。
「まぁ、つまり。仲良く終わりましょう、と言う事ですぞ」
 ヴェルミリオの言葉に、カープロは緊張が解けたように座り込んで、はぁ、と忘れていた呼吸を再開する容易に息を吐いた。
「本当に、良く頑張ったわね。
 強い子は本当に素敵よ」
 ぽん、とゼファーが、カープロの頭に手をやった。
 今は優しい月光が、一同を照らしていた。南の廃屋から、助けられた子供達と、仲間達が急いで駆け寄ってくる。
 その表情には、仲間の無事と、作戦を成し遂げた事への安どの色があった。
 カープロは、そんな大人たちの表情を見届けた後、なんだかいろんな感情が胸に押し寄せてきて、わんわんと泣いた。

成否

成功

MVP

ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、子供たちは、皆救われました。
 いつか彼らは、本当に、幸せな家族になれるのかもしれません。

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