PandoraPartyProject

シナリオ詳細

死の町で踊る

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎どれだけ願っても

 朝露に濡れる草葉を踏み鳴らして。
 その町はどこを歩いても草が生い茂っていた。運悪く悪天候に晒された行商のブルーブラッドの男は、自慢の尾を垂らして辟易する。
 町を覆う外壁。その壁に一箇所だけ在った古びた門を半ば無理矢理開けて入ってみたのだが、どうやら町には誰も住んでいないらしい。
 辺境地では稀にそんな物が見れるが、果たしてどうしたものか。
「せめて井戸でもありゃいいんだけどなぁ」
 積荷の雑貨は無事だが、飲み水は当初より持ち歩いていた小樽の中身が無くなればそれまでなのだ。
 まだ朝露で喉を潤す事が出来る間に水を見つけたい。
 たとえ手入れされていなくて干上がっていたとしても、井戸があるなら近くに水源があるかも知れない。
「しっかし変な町だ……建物がどれも壁と扉が一体化してるようだぜ、広大な迷路とか町の中に壁が巡らされてるみてぇだ」
 行商の男は狼特有の逞しい腕を組んで、どうしたものかと天を仰いだ。
 陽は昇ったばかりで気温も低い。だが空気の乾き具合からして、この後に快晴となり水が欲しくなる熱に包まれるのは間違いなかった。
 さてさてどうする。
 右手を壁伝いにして町をぐるっと回ってみたが外へ通じているのはやはり彼の通った門のみ。
 町のあちこちには可笑しな紋様が刻まれているだけ。
 人の気配は皆無。
「うーーん……おっと?」
 と、その時。行商の男が壁に寄りかかった際にいきなり壁に吸い込まれた。否、そこは丁度鍵が開いた民家の扉だったのだ。
 ストンと中に尻餅をついた彼は湿った臭いに気付いた。水気である。
「おお? ……おおお、ツイてるぜ俺。水瓶か!」
 民家の中は少し埃っぽかったが、清掃が行き届いていたのかそれとも偶然経年劣化が軽かったのか。奥の台所を覗いて見ると薄い皮で蓋をされた綺麗な水瓶を見つけたのだ。
 嬉々として中を覗き込んで手持ちの水筒へ水を汲もうとする。
 そこで、彼の背後から声が掛けられた。
「そこで何をしてる…………」
「へぁ!? あ、あぁっ! 人が住んでいたのか、丁度良かった。無礼を詫びるよご主人、俺は行商の……
「帰りたい……」
「は?」
 暗がりの奥で佇んでいる初老の男が、行商の男の前まで歩み寄って来た。
 その顔は蒼白に歪み。眼孔からは大量の赤い水が流れ落ちていた。
「ひ、ぎゃああああああ!!」

●死霊の町
 物凄い量の塩が盛られた卓を通りがかったイレギュラーズが二度見する。
 塩の後ろでニコニコしているのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)と『黒猫の』ショウ(p3n000005)の二人である。
「依頼なのです。依頼主はフィッツバルディ領の辺境を主に歩く行商人、エルメールさんからなのです。それで依頼内容なのですが……」
「そこで止まるんだね、じゃあここからは俺が。君達はお化けって平気かい? まあ、似た様な存在と戦ったことがある人もいるだろうから大丈夫かな。俺は平気だよ。
 うん。今回は君達に死霊を退治して貰いたい、場所は辺境地でも雨が少ない辺境の盆地にある『地図に無い町』だ」
 地図に無い町。
 それ自体は珍しい事ではなく、寧ろ辺境や山地に名も無い集落や村を作る事はどこの世界でも珍しくない。だが今回の場合は少し事情が異なって来る。
「この町は本来、数年前に色々あって潰れた土地だったんだ。町も当然、無い。
 なのに依頼人を始めとした冒険家や旅人が最近この町に辿り着いたり、目撃しているんだよね。怖いと言うより不気味だね。
 そこである程度の話から調べてみると困ったことに……以前のサーカスによる騒動、幻想蜂起前後に行方不明になったり死んでいる人間がその町にいる事が分かった」
 死人が、なぜかその町に集まっている。
 その言葉にユリーカが笑顔で背中から冷や汗を流している。
「この謎の正体は『デッドセット』とも呼ばれる現象だ。多くの死者の魂が強い欲求や願いを抱いて魔力か何かの力場に引き寄せられて形成される。
 こうして死者は一ヶ所に集まり、彼等の魔力が土地に吸われる事で疑似的に生者としての活動を可能とする『聖域』……彼等の場合は平穏な町、それを生み出していたわけだ。
 俺の話を聞く分には害が無いように思えるだろうけどね。ところがそうはいかない、性質を聞いても分かる通り、こうして生まれた死者の町には悪霊も誘われて来る」
 ショウは塩をひとつまみしてサラサラと、卓の上に流して見せた。
「沢山の無念を抱えた魂はいずれ純水に混ざる泥と同じで悪意にも染まる。既に行商の依頼人もその片鱗を目の当たりにしているわけだからね。
 町が死者を維持できる数も限りはあるだろうし、そのうちに溢れた死霊が人を襲うこともあるかもしれない」
「それを、皆さんに阻止して貰いたいのです。相手は何の罪もない人達だったかもしれません、だけどだからと言って見過ごせば悲劇にしかならないのです。
 お願いします、少し気持ちが暗くなる依頼ですが……皆さんにしか頼めないのですっ」

GMコメント

●依頼成功条件
 町の人(死霊)を過半数撃破する

●情報精度A
 この依頼で不測の事態は絶対に起きません

●死の町
 町の内部は雑草が生い茂っており、迷路のように建物が連なっています。
 また、この町では毎ターンAPが20回復します。
 リプレイ開始時は昼間に町へ入ります。町には多くの人々が歩いていますが、例外なく撃破して下さい。
 また。迷路のようになっているとはいえ完全に迷うほどではなく、道を記憶する様に努めなければ確実に逃げた死霊を見失ってしまう可能性がある程度です。
 死霊を町の過半数撃破すれば魔力の供給を失って消滅するでしょう。

●死霊×50
 普通の町人、普通の貴族、普通の家族……
 見た目に特殊な違いはありません。顔色すら健康的な、普通の人々が町の中で過ごしています。
 しかしそれはあくまで未だ穏やかな死者のみ。一般人として生活している者は容易く撃破、殺害できますが。ランダムで悪霊に侵された死霊が現れる事があります。
 悪霊は少し耐久力があり攻撃してきますので上手く対処してください。
 尚、注意してほしいのが『一度逃してしまうとシナリオ中その死霊は出て来なくなります』のでご注意下さい。
 
 以上、皆様にお渡しされた情報となります。

 サーカスを討ち果たした中、祝勝会ムードの裏での仕事となりますが皆様ならば受けて下さると信じております。
 それではご参加をお待ちしておりますイレギュラーズの皆様。

  • 死の町で踊る完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月18日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
不破・ふわり(p3p002664)
揺籃の雛
リジア(p3p002864)
祈り
ヨダカ=アドリ(p3p004604)
星目指し墜ちる鳥は
タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]

リプレイ

●真偽の町
 昼天を掻き分けて飛ぶ影が三つ。
 一つは町の外周に沿って飛行する『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)の姿。
「それほど大きな町ではない、か……だが狭いわけでも無い」
 光の翼を振動させ上昇したリジアは懐から取り出した手帳に町を外周から見た俯瞰図、或いは適当な人影の位置を描き込んで行く。
 そうする彼女の隣を飛び越して行く二つの影。それは二羽の『カラス』である。
 どちらも町の上空を飛び交う他のカラスや鳥とほぼ変わらぬ姿であり、町の上空を滑空する様に不審な点は何一つ見当たらない。
 それら二羽のカラスは互いに交差し、時として地上に降り立っては町の家屋や路地、町のあちこちに生えている雑草を掻き分けて。町を可能な限り縦横無尽に駆け回って行った。
 夜明けから数時間。町の内部にはそこそこの人の姿が見えて来る。
 その数が増すより先に、カラス達は再び上空へ躍り出ると町の一点を目指して飛んで行った。

「……ふむ、霊だけが集まって出来た町、ですか」
「死霊の町ですか。不憫ですね、死した後は安らぎであるべきです。」
 カラス達が向かった先には。互いに情報を共有し合いながら、その町の特殊な様相に眉を潜めている術者(親)が二人。
 『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)は自身と五感を共有しているファミリアーからの情報を手元に記し、対する陰陽 の 朱鷺(p3p001808)と町の様子をまとめていた。
「デッドセット、かァ……」
 シェリー達の近くでは、町の門に背を預けて晴天を見上げる『星目指し墜ちる鳥は』ヨダカ=アドリ(p3p004604)が彼女達の話を聞きつつ、大まかな地図や特徴を頭に入れている。
 死の町。『デッドセット』、そこは多くの無念を抱いて死んだ者達の魂が渦巻いて出現する静寂の聖域。
 この町に住み歩く者達は一切の例外無く、魂が町の内部で具現化した死霊の存在なのだ。
 悪い事をする霊ばかりではない、だが現世は生きるヒトのもの。悪いとは思うが、ヨダカは早く死後の世界に向かって貰わねばと考えていた。
 それはヨダカ以外に集まったイレギュラーズも同じ思いだった。
「あのサーカスやそれらに連なる騒動で命を落とした人たちの霊……イレギュラーズの一員として微力ながらも関わった身として、犠牲になった人たちの事を思うと悲しくなっちゃうのです」
「そうだな。だからこそ安らかに眠れるよう、俺達で何とかしてやろうぜ」
 『玻璃の小鳥』不破・ふわり(p3p002664)と『TS [the Seeker]』タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)が情報を集め共有している最中の者達から離れて辺りを警戒している。
 しかし町の外は穏やかな物だった。それがまた……心優しい物からすれば、これから行う仕事に儚さを覚えるのかも知れない。
「……私のファミリアーは下がらせましょう。上空からの俯瞰も充分の筈」
「それなら私は『カァ子』の帰りを待ちましょうか、君のカラスが戻る様子を見れば共に戻って来るでしょうから大丈夫だとは思いますが」
 ある程度の共有、町の内部について把握して来た二人がふぅ、と息を吐く。
 彼等は他の仲間達を呼ぶと淡々と町の地図や書き起こした俯瞰図を手元に説明を始めた。

 錆び付いた蝶番が悲鳴を上げて、古びた門が開かれる。
「いやー、死霊とか、夏らしい……ま、犠牲者なんてどうでもいいよね私には関係ないこと。んー! ひんやりしてて夏向けだ! やったー! すずしー!」
 『戦神』御幣島 戦神 奏(p3p000216)は門を開けた仲間の横を通り抜けて、雑草を踏み鳴らしながら通りに出て背筋を伸ばした。
 リジアや他の仲間達も町の中へ入ると、一同の背後で門が再び軋み閉ざされる。
 向き直った『アイのミカエラ』ナーガ(p3p000225)。器用に後ろ手に錠を掛け直した彼女は、丁度目の前を通ったお洒落をして嬉しそうにどこかへ行く少女を見て長い髪の奥で目を細めた。
「アイされちゃったヒトたち……かわいそうに、まだ『ここ』にとらわれているんだね」
 全員その姿は武装をなるべく隠し、普通の街中を歩く時同様に自然体である。それは、他にこの町を歩く人々……死霊達もまた普通に暮らしているからだった。
 事前に調査を行った彼等は各々可能な限り、町の構造を頭に入れて来ていた。
 時間の経過と共に内部の構造、様子が変わる事は無いことは既に再三確認済み。唯一変わる可能性があるのは人の動きだけだった。
「まぁ、分かりやすいのは助かったな」
「そうだねェー……ただ、あんまり直視したくないなァ」
「それでも目を逸らしては霊達を破壊する時、要らぬ情けをかける事になる。それでは返って苦しませる事になりかねない」
「ン、わかってるけどォ……やっぱり目を逸らしたくなる様な絵だよね」
 全員が十分程の道程を歩いて行った、角を曲がった時。ヨダカが小首を傾げて視線で示した。
 その先に佇んでいたのは一人の貴婦人。清楚な身なりの姿からは恐らく彼女が貴族のそれであると想像させた。
 しかし、イレギュラーズの気配を感じて振り返った貴婦人の表情は。とても常人の持つ色でも無ければ、生者を見やる瞳ではなかった。
【ア……アァァァ……帰りたい……帰りたいぃぃぃ】
 眼窩から流れ出る赤い水。
 単純な声音とは大きく異なる、その場に居る者達の頭の中に響き渡る呪詛の音色。
 よく見れば貴婦人の全身が映像がブレる様な、景色に滲んだ絵画の如く怪異を纏っていたのだ。
「周辺に他の霊は?」
「少なくともここでの戦闘を悟られないでしょう」
「なら、やるぞ」
 シェリーがファミリアーの視界を通じて周辺の状況を確認すると、それに応じたリジアを始めとした前衛達が前へ出た。
 数は一体。貴婦人の悪霊を相手に彼等はある程度の目算を立てるつもりだったのだ。
「動きを止めます」
 両手を合わせ、直後に編み込み伸ばした魔力の縄を朱鷺が悪霊へ飛ばした。
 しかし。蛇の如く宙を駆けたそれは真っ直ぐに貴婦人の悪霊を捉えようとした、瞬間。その場の景色から悪霊の姿が消失した。
「……!」
「うっそ! 消えるの!?」
「こっちなのです……っ」
 予想外の動きにロープが宙を空振り消滅した。その結果に目を僅かに見開いた朱鷺の横から、ふわりの声が意識を呼び戻す。
 見れば、奏が悲鳴を上げる横でふわりの眼前に悪霊の姿が在った。
 ふわりは上手く魔力の縄で捕縛する事に成功していたが、恐らく偶然割り込めた結果だったのだろう。他に仲間が複数いなかったなら霊の動きを予測する事は難しかった筈だ。
「ヒィ! オバケコワイ! ざんげちゃああああん!」
【帰……】
 姿を消した事に怯える様な声を挙げた奏。だが、その実本当に怖がっての物かは分からないだろう。
 何故なら。言いながらも一瞬で腰に差している二振りの刀を鞘から振り抜き、半ば刀を霊に向かって弾いた直後暴風のような剣戟の嵐で切り裂いたのだ。
 濁った赤がその場に噴き出し、その場を猟奇的な色に染める。
「うわお!? そんなになる斬り方したつもりは無かったんだけど!」
「……血ではありませんね、これは」
 朱鷺が近付いて地面に滴る赤を指で掬い、そっと手の中で拭う。するとそれだけで空気に溶け込む様に消えてしまった。
 見れば、斬られた悪霊も同じ様にして消滅していくのが分かる。
「今ので倒せるならば人数をそれほど集中させる必要は無いか」
「でもああやって消えるのはちょっと怖いですね、自分一人で対処ってなった時……」
「……それなら四人一組になって別れる事にしよう、それならば問題なく対処出来る。
 ……逃走を阻止できるマジックロープの魔術が使えるふわりと、私、タツミ、シェリーの四人で西側。残りは先に話した通り、町の東側へ向かってそれぞれ行動しよう」
 リジアがふわりと共に移動して、シェリーとタツミの傍へ向かう。対する朱鷺やナーガ、ヨダカと奏は自然と並ぶ形になった。
 逃走の阻止、逃走した際の追跡役。朱鷺の役割は多いかもしれないがその分純粋な前衛と治癒術の使える人員も多い、町の構造を考えるなら問題ないだろうと彼女は頷く。
 リジアの方も念の為にと先に作成したシェリーの地図を確認して動きを考えている様子。
 陽はそろそろ真上を過ぎる頃か。リジアも朱鷺も、それぞれ一度天を仰いでから路地の向こうへ歩き出した。

「では、進撃しましょうか――――偽りの安らぎを破壊しましょう」
「……そうだな。現に刻まれたその楔を破壊する――――それが、出来損ないに出来るせめての行いだ」

●全てを在るべき場所へ
 死の町の内部構造は、中を歩くだけなら迷路と遜色ないような造りとなっており。相応の努力を以てして記憶する事をしなければ出口まで戻る事も、思った通りの進行も難しかった。
 だが、彼等は事前に町の構造から上空からの俯瞰図、家屋の特徴や大体の特徴を全て調べ、考察していた。
「やっとこの街に辿り付いたんですが、少々疲れておりまして……」
「それは大変でしたなぁ、どうぞウチで良ければ水でも」
 旅人を装ったヨダカを招き入れようと扉を開けた、商人風の男。
 人の良さそうな彼は扉を開けた直後に目の前に影が差した瞬間、壮絶な乱打を腹部に受けて玄関先から内部にかけて赤い絨毯を広げて消滅した。
 物音は迷路の壁と化した建物の中ではそれほど響かない。
「ダイジョウブだよ。ナーちゃんがカイホウしてあげる。またアイしてあげるよ」
「……え?」
 ヨダカとナーガは家屋に足を踏み入れながら二階へと向かう。上では二人の若い青年が品物らしき陶器を磨いていたが、声を上げる前に式符に貫かれ、大円匙に頭部を粉砕されて消滅する。
「これで最初の悪霊と合わせて四、かなァ」
 町を俯瞰して、建物に式神を忍ばせて、見つけたのは三十人余り。この流れを当面行うことにヨダカは静かに憂いを籠めた視線を窓の外へ巡らせた。
(二度死ぬなんてホントはさせたくないんだけどねェ……)
 ナーガが外の朱鷺と奏に中の死霊を倒した事を報せた事を聞くと、ヨダカは再び外へ出て行く。

「かわいいー!」
「ね、ね! この子はなんていうお名前なのかしら?」
「その子たちは白猫のミュンちゃん、たれ耳兎のプルムちゃんなのですよ」
 人通り少ない街角。そこで幼い容姿のふわりを囲んでいるのは成人前の娘達である。彼女達はふわりと、その従者であるぬいぐるみ達の愛くるしさに近付いて話しかけて来たのだ。
 五人。ふわりは静かに辺りを見回して数える。
(この距離なら……)
「リジアさん、やります」
「うん? 誰の事?」
 知らない人物の名前をポツリと呼び、手を上げたふわりに少女達は一様に頭に疑問符を浮かべた。
 そして、ふわりの小さな手が白く輝いたと思った瞬間。彼女の前でぬいぐるみを抱えていた二人が閃光が走ったのと同時に宙を飛んだ。それこそ、ぬいぐるみのように。
「き――――――――
 一人。悲鳴を上げようと息を吸い込んだ少女が胸を貫かれる。
 旅人に扮して少女達の背後を取っていたタツミの一撃は音も無かった。そしてタツミの隣で訳も分からず逃げようとした三つ編みの少女が頭上から舞い降りた白い羽根に頭を割られ、その場に崩れ落ちて霞の様に消えて行った。
 だがまだ一人、死霊の少女が目の前の死と恐怖に耐えかねて金切り声を漏らしながら逃走する。
 ふわりがその手に魔力を編んだ縄を取り出す、が。
――――パリィィンッ!
 向かい側の建物の二階窓を割って飛び降りて来た少女、シェリーの刃が滑るような着地と同時に死霊の少女を切り刻んだのだ。
 地面に落ちる硝子の破片に混じって赤い水が散り、少女は数歩ふらついてから倒れ消えた。
「家屋の中と合わせ、これで七。最初の悪霊も含めて八体です」
「少し派手じゃないか?」
「近くに他の死霊はいなかったので問題ないかと」
 オーラソードを収めつつ、物陰から出て来たリジアの声に応じるシェリー。
 一時は血の海になった街角には既に元の静寂さが戻っている。
「無抵抗なヤツを相手にすんのは気が引けるな……向かってきてくれた方がやりやすいってな!」
「でもこれもお仕事。死んじゃった人たちがいつまでも現世に留まっていたりしちゃいけないと思いますし、
 悲しみは悲しみとして抱えながらも依頼はきちんと完遂するのがわたしの誇り。ちゃんとあの世に送ってあげるです」
 アイテテ、と転がっていたぬいぐるみの従者を抱き上げて言うふわりにタツミは「だな」と返して。一同は集まって地図に印を付けていく。
 次に向かう一画には兵士らしき霊がいた。それを踏まえて彼女達は作戦を立てて行く。

 大気が揺れる。
【アぁァぁぁああ、あ、あ、あ あ  ア  】
 姿がブレる度に位置すら変わり、消失と出現を繰り返す。黒い暗い残滓が尾を引いて老父の悪霊がミシリと音を立てて変形させた手を振り上げる。
 そこへ地響きすらさせる踏み込み。
「ずばーんと入ってやりましょうずばーんと! コワイけど!」
 口調こそ軽いが奏の斬撃は本物である。二刀の刃を縦横無尽に薙ぎ払い振り回した直後、悪霊は深紅の水飛沫と化して辺りに飛び散るに末路を辿る。
 一体だけではない、同時に襲いかかった老婆の悪霊も巻き込んでの一撃死であった。
――『奏の後ろを抜けて悪霊が逃走』
「分かりました。そちらは任せましょう」
 乾いた音、朱鷺の手から伸びる魔力の縄に拘束された少年が泣き叫ぼうと口を開いた所に式符によって生み出された黒鴉に穿たれ、即死する。
 霧散する直前に見せる死相を朱鷺は直視せず、直ぐに周囲を見渡す。
 何故か奏が死霊に襲いかかった際、突如老夫婦が悪霊になった事で不意を突かれ、それ以外の霊を逃がしてしまったのだ。
「確か他に三人居たよねェ……逃がしちゃったかな」
「いいえ、カァ子に彼女を誘導させました」
「それならこっちも追い付いてあげないとね、一人で通せんぼは大変だろうからなァ」
 軽い手傷を負った自身を治癒させながらヨダカと朱鷺が駆ける。奏が建物から出て来た初老の男に斬りかかっていたが、そちらに居るのは二体だけなので問題無いと判断した。
 そうして彼女達は逃走した霊の向かった先で。丁字路になっている路地を右折した瞬間、ナーガが悪霊と化した三体の霊を食い千切っている場面に遭遇するのだった。

 次第に、ただの死霊が悪霊へと変貌する事が増えて来た。
「何か……因果関係でもあるのか……?」
「……ふむ」
 順調に霊を倒し始めて一時間と少し。シェリーがファミリアーを通じて付近の人影の元へ向かった所、母子がそこに居た。
 子と言っても齢は十五程度だろうか、しかし仲の良さそうな後ろ姿にタツミが躊躇する。
 それを見たシェリーが一気に踏み込んで光剣を振り上げた所、突然母親が悪霊化したのである。直後にふわりが拘束、シェリーが切り刻んだが、危うく反撃を受ける所だった。
「人数を的確に分けたのは正解でしたね、少なくとも」
 リジアが逃走しようとする少年にトドメを刺した。霧散していく霊達に彼女は静かに目を閉じて祈りを捧げた。異なる世界の者とはいえ、天使として。
「……そろそろ過半数、か? APの回復が薄れて来た気がする」
「かもな。今俺達が倒したのが十一体目、かなり上手くやれたんじゃねえか? 向こうの班の事も考えれば、もう町がいつ崩壊してもおかしくないだろ」
 もうこりごりだ、と呟くタツミがふわりとハイタッチする。
 その様子を見ているリジアは未だ大きな変化が無い事に首を傾げた。そもそも、最初から目視できた霊は全体の六割である。
 つまりそれ以外は未だ町の建物の中のどこかに居るわけで……
【ア…………】
 例えば、悪霊の特殊な移動法のせいで調査時に見つからなかったのだとすれば……
【 ァ……あ、ハ ヒヒヒ、ひ。お待たせいたしマシタ 】
 どのタイミングで、彼等は姿を現すのか。その考えに至った時にはもう手遅れだろう。
「なるほど」
 シェリーが静かに言った。
「在るべき場所へ送られるべきは、貴方でしたか。『ピエロ』」

●死の町で踊る
 町の構造、即ち建物自体がそれぞれ連結し、壁のように一体化している。
 それが意味するのは、もし悪霊が壁から出て来れるなら。或いは全方位から敵が襲って来るという事である。

 町の西。
 タツミが振り下ろされた悪霊の一撃を受け止め、リジアの魔術が霊を粉砕。ふわりが横薙ぎに霊を押し退け、シェリーが背後から迫る悪霊の爪を間一髪避ける。
 町の東。
 朱鷺の式符を受けて膝を突いた霊を奏の一閃が首を飛ばし。ヨダカが蹴り払った霊にナーガが円匙を突き立てて潰し、続く悪霊達の猛攻を彼女が受け止めた。
 町の西。
 四方八方から繰り出される一撃をシェリーが全て捌き切った瞬間、ピエロの悪霊ごとタツミのオーラキャノンとふわりの白刃が一掃した。
 町の東。
 掴まれ、噛みつかれ、囲まれた奏が剣戟の嵐で霊を斬り飛ばした瞬間、開いた道をナーガが駆け抜けピエロの悪霊を円匙と二枚の式符が打ち砕いた。

――――死の町が、渦巻く『可能性』を中心にして崩壊していく。

 全ては霧散し、本来の場所へと帰って逝った。
 雑草生い茂る平原となった町の跡地をイレギュラーズ達は後にする。
 安らかに成仏出来る事を祈り、そして自分達にとっての安らかな地へと戻るために。

成否

成功

MVP

タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]

状態異常

なし

あとがき

 対策点においてはまさに完璧でした。誰一人逃げられず、速攻で町が崩壊するほどに。
 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 此度のシナリオにおきましてはもう少しピエロが粘るかと思いましたが、そもそも逃げられないので瞬殺されました。お見事です。
 次は少し趣向を変えて似た様な依頼を出したいと思いますので、もしまた機会に巡り合えましたらその時もまた是非ご参加ください。

 改めてお疲れ様でした。
 次の機会をお待ちしております。

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