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シナリオ詳細

<オンネリネン>Emblem of Lily

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●広い野原をてくてくとゆこう、大きな邪魔さえなければ
 野原を牛が歩いている。
 昼下がりの太陽の下を、大きな牧草の摘まれた脇をぬけどこへともなく。
 使い古したバスタブをそのまま利用したらしい水溜に首を突っ込んで水を飲むと、その縁で顔をあらっている黒猫を一瞥する。
 昨日も今日もこんなふうに過ごしていたはずだ。そしてきっと、来年のいまごろもそうだろう。
 そんなゆっくりとした時間は、突如。
 空に放物線を描いて飛来する炎球によって遮られた。
 地面に落ち、重いボールのごとく僅かにバウンドしたそれが、爆発を起こす。
 バスタブがひっくりかえり、猫が大急ぎで逃げていく。
 牛も悲鳴のような声をあげて散り散りに走る中、麦わら帽子を被った牧場主が飛び出してくる。
「オイオイオイオイ――もうこの手の襲撃はナシって話じゃなかったのかよ!」
 彼の出てきた小屋には、白百合を象った銀の紋章が掲げられている。
 レガド・イルシオン幻想王国の貴族にして代々栄えある騎士を輩出してきた名門、ヴァレンティーヌ家の紋章である。

●悪意と善意と、それを餌にする悪意
 この事件の背景を語るには、二つの出来事を説明せねばならない。
 ひとつはヴィーグリーズ丘で行われた王威をかけた大決戦。
 レガリアを手に王座転覆を目論んだミートルンド男爵家及びその協力派閥と、王及び三大貴族による連合軍が神や古代民族たちをも交え戦ったのだ。
 ローレット・イレギュラーズも参戦したことで王側の勝利に終わったこの戦いは、王フォルデルマンによる陣頭指揮の結果多くの敗残兵や敵側貴族たちが苛烈なる粛正を免れた。
 三大貴族に任せたなら一族郎党明日の朝日すら拝めなかっただろうが、寛大な処置がなされ殆どの貴族はその爵位や一部財産を失うだけで済んだ。
 しかし悪意の火とは踏みつけたことで消えるものの、小さくくすぶり残るもの。
 この戦いで没落し元貴族となったスカビオサ家は逆恨みによる貴族家襲撃を目論んだのだった。

 この自暴自棄ともとれるような再反逆についてくる兵はなく、協賛する貴族もまたなかった。当然ながら。
 闇の組織にまで力をしみこませている幻想貴族のこと、命を免れたとはいえマークされているスカビオサ家の反逆を支援する組織はない。
 そこでスカビオサ家は国外の戦力を、それも安く買える戦力を利用することを考えた。
 それが独立都市アドラステイアから派遣される傭兵部隊『オンネリネンの子供達』であった。
「お兄ちゃん。ほんとうに、あの牧場を襲わなくちゃいけないの?」
 魔法の微光をはなつ弓に矢をつがえ、構えるポニーテールの少女。
「理由なんて、考えるな。僕らにはこれしかない」
 剣を抜き、突撃の構えをとる長髪の少年。
 二人はアルストロメリア兄妹と呼ばれる、オンネリネンの少年兵だった。
 兄クロの指揮のもと、牧場地帯へと攻撃を始める子供達。
 傭兵はみな子供で、武器の訓練だけを受けた少年兵だけで構成されていた。
「このまま外貨を得ずに街へ帰っても、魔女裁判にかけられるだけだ。けれどここで手柄を多く上げられたなら、聖騎士への道だって見える。チャンスなんだよ、ヒメ」
 兄のクロと妹のヒメ。二人は視線を交わし、そして頷いた。
 生きるために、戦う必要がある。
 生きるために、殺す必要がある。
 未来のために。希望のために。そして、兄の妹のために。
 クロは剣をかざし、叫んだ。
「僕らは家族! 『オンネリネンの子供達』だ! 神の名の下に戦い抜くのだ!」

●そして運命の華は咲き
 フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)は栗毛の軍馬ユウキュウに跨がり、長い道を駆け抜けていく。
 知っている道。見たことのある風景。遠い山々。
 牧場から街へと牛乳やチーズを納入する様子を、遠目に眺めた思い出。牛に跨がって騎士ごっこをした幼い記憶。
 反発して飛び出した家なれど。
 それが悪意の業火に飲まれるとあらば、話は別だ。
「急いで、ユウキュウ! 誰一人だって……牛一頭だって犠牲にはしませんわ!」

 ローレット・イレギュラーズへ寄せられた依頼内容は、こうだ。
 ヴァレンティーヌ領内の牧場にて、『オンネリネンの子供達』による襲撃が発生。
 住民及び家畜は避難したが、襲撃は進行中。
 急ぎ現地へ向かい、撃退されたし。

GMコメント

●オーダー
・成功条件:傭兵部隊の撃退
・オプションA:アルストロメリア兄妹どちらかの生存
・オプションB:アルストロメリア兄妹両方の死亡
・オプションC:傭兵部隊のうち5割以上を生存させる
・オプションC:傭兵部隊のうち5割以上を死亡させる
・オプションE:――不明――

 牧場地帯を襲撃したアルストロメリア部隊は、離れた居住区を目指して侵攻を開始しています。
 彼らは没落したスカビオサ元貴族家からの依頼・命令をうけており、詳しくはわかりませんが主に領地の破壊や財産の略奪を命令されているようです。
 その割に牧場から突入したのは、単に彼らに戦略的な発想がなく近いところから襲ったからにすぎないようです……。

 戦闘エリアは牧場から居住区までの街道。
 周辺は畑ですが今の時期は休ませており、単作対策に花が植えられています。

●エネミーデータ
 敵はアドラステイアの傭兵部隊『オンネリネンの子供達』です。
 全員が少年少女であり、アドラステイアが外貨を稼ぐために派遣されています。
 手ぶらで戻れば魔女裁判による実質的な口減らしやそのほか酷い末路が待っているのは間違いありません。
 そのため彼らは死ぬまで必死に戦い、そして命と運命という強い結束で結ばれています。

☆クロ・アルストロメリア
 兄のほう。剣術をある程度収めており、軽鎧と盾、そして剣による基本的な格闘を行います。
 ただし剣の腕はあまり高くなく、どっちかというと防御のほうがうまい様子。
 部隊の指揮官をつとめているが、死んだ場合妹に指揮権が移行される。

☆ヒメ・アルストロメリア
 妹のほう。魔法の弓を使い、範囲攻撃や狙撃を得意とする。
 格闘戦もそこそここなすらしい。

☆その他の傭兵達
 武装は多種多様。ただし皆あまり高級な装備はもたされておらず、『死んでもいい兵士』として扱われているのがわかる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

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●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
 活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。

  • <オンネリネン>Emblem of Lily完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
蜂八葉 黒丸(p3p009239)
けだもの
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士
アルトリウス・モルガン(p3p009981)
金眼黒獅子

リプレイ


 花咲く畑がどこまでも広がる街道。街道と言えば聞こえはよいが、長い年月をかけて人と馬車が行き交い続けた結果硬い土だけになった道である。左右には刈り取られ背が低くなったた雑草。
 吹き抜ける風に髪を抑える『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)は、腰に下げたレイピアにてをかけた。
 上等な服と剣の装飾はいかにも貴族といった様子だが、左手をごっそりと覆った籠手と背負った白百合の盾は貴族というより戦士のいでたちだ。
 その盾を見る者が見れば、騎士の名門ヴァレンティーヌ家の出自とわかるだろう。
「ヴァレンティーヌの領内を攻め入ったこと後悔させてあげますわ」
 いつでも来るがいいとばかりに道の真ん中に立ち、どっしりと構えるフィリーネ。
 後ろにとまった馬車からは、『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)と『守護の導き手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)がそれぞれ降りてきた。
「久しぶりじゃのうフィリーネ殿。今回はイレギュラーズの一人として、加勢しに来た!」
「フィリーネ殿、今回はよろしくね」
 片手斧を握って隣に立つオウェード。その一方で、レイリーは突き出した両手をガシャンと開いて武装を展開。
 ドラゴンの翼を思わせるような白い大盾と、ドラゴンの角を思わせるランスを握った。
「白騎士ヴァイスドラッヘ、只今見参! ――ってね。友達も、戦わせられてる『オンネリネンの子供達』も護ってあげる。ヒーローってものでしょ」

 イレギュラーズ(厳密にはギルドローレットに所属するイレギュラーズ)はオーダーを受ける形で依頼に従事し、多くの場合戦いに参加する。
 ギルドボードから依頼書をむしりとった時点でこの戦いに参じることは決まっていたが、それとは別にフィリーネという一人の友のために彼らは武器をとっていた。
 友誼を果たしお金までもらえるのだから、これ以上ない話である。
 だが、それだけが動機になるかといえばそうではない。
「アドラステイアの情報は聞いている。
 前途ある若者が歪んだ思想の犠牲となるのは見過ごせないな」
 やや慣れた幻想王国の空気を吸い込んで、安堵したように深呼吸する『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。
 つい最近まで天義で食探求をしていた彼女だが、(ちょうど噂も伝わりやすかったこともあり)彼女の元までオーダーが流れてきたようだ。
「『オンネリネンの子供達』……アドラステイアから安価な傭兵部隊が各国に放たれているという話だったな。ものを知らぬ子供を外貨稼ぎの道具にして使い潰そうなどと……」
「子供たちが、何で、こんな事、してるの……?
 戦って、死ぬかも、しれない、のに……みんな、必死そうに、して……
 アドラス…なんだっけ?そこが、そうさせてる、なら……絶対、許せないの……!
 わたしは、あの子供たちを……どうしたら、いいの……?」
 モカが浮かべた黒い感情は、その隣に立つ『憎悪の澱』アクア・フィーリス(p3p006784)によるより深い黒さによってかき消された。
 ぶわりとあがる漆黒の炎が、アクアの感情を言葉以上に物語る。
「外貨を稼ぐ、ねぇ……つくづく、オンネリネンってのは胸糞悪ィな」
 大体オレも同じ考えだぜといった様子で、『新たな可能性』アルトリウス・モルガン(p3p009981)がライオンの尻尾をゆらりとやった。
「……子供たちが戦うところには何度か遭遇したけれど、この展開は初めてね……?
 まぁ、憎しみや怒りなどない方がいいのだけれど……それはそれとして、今の状態がいいわけでもないわよねぇ」
 馬車から降りた最後の二人。『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)と『けだもの』蜂八葉 黒丸(p3p009239)は周りの景色をいまいちど見回した。
「その子たちを笑顔にできればいいのだけれど、その前にまずは物理的に大人しくさせないといけないのかしら?」
「……」
 黒丸は小さな声で肯定の意志を伝えると、流れる空気を吸い込んだ。
 単作避けに植えられた花の香りと、健康な土の香り。
 人が優しく生きていることが伝わってくるような素朴な空気に、黒丸は肩の力を僅かに抜いた。
「ここ、良いとこ。壊させはしない」
 これが、イレギュラーズというものだ。
 一つの依頼書から集まり、別々の動機や思想を持ち、全く異なる出自や能力を持ちながら、しかし一つの目的のために力を合わせることになる。
 フィリーネが、レイピアを抜いた。
 遠くから馬にのってやってくる一団が見えたからだ。
 軍馬のユウキュウと紅葉の木が心配そうにフィリーネを見つめるが、勇ましく歩き出すことでフィリーネはそれに答えた。
「行きますわ、皆さん」
 相手の一団は……頭数だけならこちらの倍。
 中心には軽鎧の少年と、黒い素材でできた弓をさげた少女。
 少女は矢筒から抜いた矢を弓につがえ、少年は皮の鞘から剣を抜く。
 フィリーネに応じる形で歩き出したイレギュラーズが、それぞれ構え始めた。
 オウェードは斧を掲げムンと気合いをいれ――
 レイリーは全身に鎧を展開し顔をドラゴンヘルメットで覆い――
 アルトリウスは拳を握り手のひらにばしんと打ち当て――
 黒丸は白い尾を揺らし、走り出すべく獣の下半身をグッとかがめ――
 モカはあえて両手をズボンのポケットに入れると背を丸めるようにして歩く速度をあげ――
 アクアは燃え上がる漆黒の炎を強くし腕に集め――
 ヴァイスは指輪に口づけをすると足下に薔薇の花をさかせ――
 足を止めぬ少年達がついに走り出したと同時に、フィリーネたちは全員一斉に走り出した。
「ヴァレンティーヌ家はそう簡単に落とせませんわ!」


 激突と呼ぶに相応しい。
 傭兵指揮官クロ・アルストロメリアは丸形の盾をかざし、ショルダータックルの構えで突進。
 対するフィリーネは白百合の盾をかざした真正面からのチャージアタックを繰り出した。
 白銀の魔力を込めて打ち出したフィリーネがクロの筋力頼りによるタックルを僅かに打ち返したが、そこは流石に指揮官というべきか、両足でしっかりと踏ん張ってノックバックをこらえた。
 流された勢いが衝撃波となってフィリーネの髪をなびかせる。
 途端、後方から走りながらも弓を構えたヒメ・アルストロメリアによる射撃。
 狙い澄ました一矢を、間に割り込んだレイリーが盾で斜めにそらすようにして撃ち弾く。
「さぁ助けに来たよ、みんな!」
 その動きだけでこちらの力量を悟ったのか、ヒメは露骨に険しい表情をした。
「僕らは家族! 命を賭けて!」
 少年兵のうち数人がレイリーへと槍を握って突進する。
「ねぇ、そんなに戦いたいの? 理由は何なの?」
 命がけで突進してくる相手に、あえて問いかける。
 殺意のこもった視線が自分へ集まるのを感じた。そしてだからこそ……。
「生きるためだけに戦うなんてのは夢がないよ。
 全部、私にぶつけなさい。受け止めてあげるから」
 まるで津波のように押し寄せるプレッシャーを、盾とランスによる受け流しで対応するレイリー。
 彼女という壁を突破するのは困難だ。
 そこへ別の傭兵たちが集中――しない。壁を壊して進むより迂回するべきだという生物的大原則を守ったのだろう。
「こちらへ来るか。話し合い……のターンではなさそうだな」
 モカは後ろ回し蹴りのフォームで飛来する矢を打ち落とすと、ポケットから手を出しスライディングへシフト。
 盾持ちの少年兵の脚を崩し姿勢を揺らした。
 それだけか? 否、それだけでいいのだ。
 既に跳躍の姿勢を作っていた黒丸がその脚力で跳び距離を詰め、盾持ち少年兵の顔面へと拳を叩きつける。
 軸を揺らされ脳まで揺らされた盾持ち少年兵が膝から崩れ落ちたそのタイミングで、オウェードが敵陣深くへと斬り込み斧をぎゅっと握りしめた。
「よし今じゃ! 一気に叩き込んでやるワイ!」
 斧の刃部分には特殊な非殺傷性オーラがついている。全力で叩きつけたとしても相手を殺すことはないだろう。そしてだからこそ、全力で彼は斧を振り回した。
 あまりの勢いに少年兵たちがひっくり返り、中には吹き飛ばされ路肩の草むらへと転がる者もある。
 一方で、こちらの後ろへ回り込もうと展開する少年兵たちもあった。
「聞こえっか、ガキ共! お前らの生き場所はそこじゃねェ!」
 対抗したのは畑に踏み込んだアルトリウスだった。
 剣を振り込む相手のふと子に潜り込み、己の拳を腹へたたき込む。
「大人しく、してたら、殺さない、から……」
 アルトリウスのパンチによって僅かに下がった相手に、助走をつけたアクアが跳躍と共に拳を振りかざした。
 燃え上がる漆黒の炎が力となり、少年兵を殴り倒す。
 倒したところへ馬乗りになり、首を掴んで畑の土に相手の横顔を押しつけた。
「そのまま抑えておいて」
 ヴァイスがかざした手で振り、まるで配下の者たちをけしかけるかのように少年兵へ指を突きつける。すると舞い散るバラの花びらが暴風となって少年兵へと叩きつけられた。
「フィリーネさんは決してあなた達を悪いようにはしないわ。戦うのはやめて、まずはお話ししないかしら?」
 呼びかけるヴァイスに対して、吹き飛ばされた少年兵が畑の花の上を転がってから起き上がった。
「信じられない。国の大人はみんな、僕らを見捨てたじゃないか!」
「だからアドラステイアに? アドラステイアであなたは幸せになれた?」
 少年兵は、ヴァイスに対して何かを言い返そうとして、そしてグッと歯がみした。
 何よりその表情が物語っている。
 捨て駒として派遣され、兵力として『消費』されていく子供達。
「本当にそれで幸せになれると思うのかしら。幼さゆえの過ちかもしれないけれど、正義を神にゆだねるのとなんら変わらないわよ?
 投降なさい? もうこれ以上傷を増やしても良い事はないわよ!」
 呼びかけ続けるヴァイスに、少年兵の一人が剣を取り落とした。そんな少年兵に、隣に居た別の少年が怒鳴りつける。
「戦うのをやめるな! お前は魔女か!? 家族か!?」
 あらがえない二択。
 それは全ての少年兵たちの心を締め付けるものだった。アドラステイアの歪みが凝縮された二択問題だと行ってもいい。
「黙って、くれれば、何も、しないから……」
 何か言おうとした少年兵をそのまま組み伏せ、アクアは腕の炎を僅かに強める。
 言いたいことがあるなら今のうちに言うべきだと、アクアの目が黒丸へと向けられた。
 頷き、そして戦うこと自体に躊躇しはじめた少年兵に黒丸は向き直る。
「人の牧場、襲ってお金稼ぎ、良くないこと。それでも、やる?
 帰ったら、酷い仕打ち、受ける?家族なのに?
 家族なのに、お互い足引っ張りあって、蹴落としあって。本当の家族、そういうことしない。家族は、支え合うもの」
 説得の効果は、確かにあるように見えた。
 黒丸の言い分に納得せざるを得なかった少年兵が、武器の構えを解き始めている。
「おかしいと思うなら、こんなことは、もう止める。
 大丈夫、お前達、強い。あの国でなくても、殺し合いとかしなくても、生きていける。
 お前達の未来、あの国にしか無い、わけじゃない」
「そうだ。普通の大人はな、少年少女に危険な事はさせないものだ。
 そちらでは皆が皆の足の引っ張り合いをしてるんだって? まるで地獄みたいだな」
 モカが乗じる形で、そしてどこか皮肉っぽく肩をすくめてみせる。
「私も昔……この世界に来る前は、組織の工作員として色々な事を命令され実行していた。現在のあなたたちと同じ境遇だ」
 モカの呼びかけに対して、少年達の目に暗いものが宿る。
 命令され実行するという響きを、彼らはあまり使わなかったのだろう。
 世界を平和にするために、我が身を護るために、必死になって動いていた間に、盲目的になってしまっていたのだろう。
「武装や戦力から見て結果は明らかじゃな! ここは潔く降伏しても恥ではない! 後の事は我々が保障する!」
 ドンと己の胸を叩いてみせるオウェード。
 じゃろう? と横に居たアルトリウスに顔を向けると、アルトリウスは同意の意思を頷きで示した。
「それでもやりてえなら、納得するまで付き合ってやる」
「そう、付き合うわ。大人に甘えるのが子供ってものよ。そして、子供を護るものが大人ってものよ」
 レイリーも同じく身構え、少年兵たちの殺気を受け止める。
 が、最初に突きつけられていた殺気に比べれば、これはひどく小さなものだった。
 子供が理屈がわからず親に駄々をこねる時のような、やりきれない感情だけが向けられているように思えた。
「家族を護るっていう意思は偉いわ。それは、誇っていい。けど……」
 向けた視線はフィリーネへ。
 フィリーネは仲間達からうけた視線と意志に応えるべく、今なおこちらをにらみ付けているクロへ向け……盾を下ろした。
「戦争ごっことは少しやんちゃが過ぎますわ。
 暴力はダメって教わらなかったのでしょうか。全く全員でこぴんですわね!
 こんな危険な遊びはもうやってはダメですわ。この子達を育てた方の顔がみたいですわ、文句の1つでも言わないといけませんわね」
 子供のイタズラに接するような態度を見せるフィリーネに、クロたちは……特にヒメは困惑の色を見せた。
「親なんて……もういない。天義の教会に連れて行かれて、それで……」
 フィリーネは『そんなところでしょう』と肩を下ろした。
「このまま帰っても、ろくな未来は待っていないのでしょう。
 だったら、うちで引き取りますわ」
 フィリーネの言葉に、少年兵たちが更に困惑の色を見せた。
 確かに彼らは厳しい境遇に身を置いているが、それとて『前よりはマシ』だ。事実そうであるかはともかく、少なくともそう考え、そう教えられていた。
 その状態を手放すことも、そして今まさに殺してしまおうと考えていた相手に人生ごと委ねるリスクは、彼らにとってあまりにも重い。
「私にも貴族から委譲された領地がある。そこで面倒をみてもいい」
 モカがそう提案すると、フィリーネはありがとうという意志を視線に込めてモカをみた。
 それから少年達をもう一度見回し、剣を収める。
「ヴァレンティーヌ家は騎士の家系、頑張れば幻想王国にて正式に名誉ある騎士になれることを保証いたしますわ」
 平民どころか身よりすらない子供達が王国に仕える騎士になる。夢のような話だ。
「お兄ちゃん……」
 ヒメが不安げにクロの顔を見る。
 アドラステイアに身を寄せた時にみた夢も、また大きなものだ。
 『大人に裏切られた』という経験を二度もした彼らが、また大人を信じるのは難しい。
 けれど、ここまで打ち明けた相手に背を向けて魔女裁判を受けに戻ることは、自殺に等しかった。
「わかった」
 クロは剣と盾を投げ捨て、両手をあげる。
「投降する。この先のことは……自分で考える。あんたが信用できないと思ったら、ヒメと一緒に逃げるだけだ」
「今は、それでいいですわ」
 フィリーネはそう言ってから、ふと空を見上げた。
 飛び出した実家に戻り身寄りの無い子供達を引き取るよう嘆願する仕事が待っている。
 もちろん任せて放置もできないので定期的に見に来ることになるだろうし……とそこまで考えて、少し笑ってしまった。
 自分のために飛び出した家へ、誰かのために戻るのか……と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 ――少年兵全員が生存しました
 ――少年兵全員をアドラステイアに返さず、引き取ることにしました

 ――これにより、幻想国内のみならず、天義に対してイレギュラーズたちの名声が高まりました

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